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(冷蔵庫の開閉音)

(桑野信介くわの しんすけ)ハア

(携帯電話の着信音)

ハア 何?

パーティー? 何 それ

(村上英治むらかみ えいじ) “何 それ”じゃないでしょ

坂本さんのレストランの 3周年パーティーですよ

ああ 忘れてた

いいや 俺は

(英治)いや—

桑野さんが招待されたパーティーに 俺だけ来て 変でしょ

(信介)古代ローマ人の パーティーってのはな

寝そべって 手づかみで 食ってたらしいな 知ってるか?

そんなウンチクは いいから

近々 家 建てたいって人が いるんです

たまには営業してくださいよ

しかも手がベトベトになったら 自分の服で拭いてたらしいぞ

うーん

(英治)あっ 法隆寺ほうりゅうじの五重塔って 何階建てか知ってますか?

(紀子)えっ 5階建てじゃないんですか?

(英治) ぶーっ 実は1階建てなんです

(紀子)えっ どうして?

五重の塔の中って 1階の床だけしかなくて—

あとはズドーンって 吹き抜けになってんですよ

(英治)だから1階建てなんです (紀子)へえ

(信介)俺の受け売りだろ それ (英治)先生

(信介)“先生”は やめろ (英治)はい

あっ さっき話してた桑野さん

ああ あっ こんばんは

すごい優秀な建築家さんだって お聞きしてました

あっ いえ

(英治)ああ 電話で言ってた人は こっちです

なら もう話は終わった

キッチンの重要性を理解してない 議論にならん

営業してくださいって言ったのに 議論してどうするんすか

キッチンから バスルームにかけての便利さを—

理解できないらしいんだよ 彼は

(紀子)桑野さんは どうして 建築家になられたんですか

神のお告げがありまして

(英治)今のギャグです (紀子)あっ 面白い方ですね

高校の時に 「ブレードランナー」を見ましてね

映画の ど頭にピラミッドみたいな 壮大な建物が出てくるでしょ

タイレイ社のビル

あっ 見てないです その映画

ああ そう

私 メジャーな映画しか見なくて

(信介)十分メジャーだけど (英治)オタク映画

そのうち見ます

フフッ そのうちなんつって 見たやつは ほとんどいませんよ

すいません あっ あの 何か召し上がります?

このスパゲティ おいしいですよ

ちょっと冷えてるな

スパゲティっていうのは—

直径 約1.9ミリの物をいうんですよ

うーん これは ちょっと細いから 厳密にはスパゲティーニ

つまり あなたは本当は

“スパゲティーニ おいしいよ”と 僕に言うべきなんです

そうですか

あっ 話を元に戻しましょう

「ブレードランナー」を見る前に 押さえておく映画としては—

「未来世紀ブラジル」でしょ えー 「時計仕掛けのオレンジ」

あと「ローマの休日」 「ローマの休日」は ちょっと…

(紀子)すいません 失礼します (信介)えっ

(英治)ほら 嫌われた (信介)かまわん

(早坂夏美はやさか なつみ)えっ あの…

(佐川)僕は いずれ 教授になりますから

実際 教授の奥さんは お医者さんが多いでしょう

みんな ご主人の研究を 支えてたんですね

その投資の甲斐かいあって 今じゃ 左うちわですよ

えっとですね…

あっ いっそ 開業されたら どうですか?

そのほうが実入りがいいでしょう

(夏美)あの…

開業資金は うちの父が 貸してくれるでしょう

(佐川)場所は そうだな… (夏美)ちょちょ

はい?

何か 私たち 結婚する前提で 話が進んでません?

(佐川)そうですよ (夏美)えっ?

えっ?

(女性たちの笑い声)

(紀子)おやすみなさい (英治)おやすみなさい

(ため息)

ちょっとは キャラ考え直さないと 孤独になりますよ

(信介)孤独? かまわんね (英治)フフッ ご自由に

(吉川沙織さおり)英治君

(英治) おっ 沙織ちゃん お待たせ

それじゃ 失礼します

中途半端な時間だな うん

(男性)アクションもいいけど 恋愛もので いいのがあるんだって

(女性)アクションのほうが 絶対いいよ これ

(店員)いらっしゃいませ

これ 映画本編じゃなくて メーキングですけど—

(店員)よろしいですか? (信介)分かってます

おっと

はいはい 来た 来た

(作業員) 急いで 2階 持ってってね

(沢崎摩耶さわざき まや) こちらが 桑野が設計した—

一番新しい住宅になります

(吉田)ふーん いやあ いいですねえ

あっ 私もぜひ お願いします 桑野先生に

この間も言いましたが “先生”と呼ぶのはやめてください

あっ すいません つい ハハハハッ

すいません 気を遣わせてしまいまして

クリエーターっていうのは もう

偏屈なぐらいじゃないと いい物もできないでしょう ねえ?

偏屈じゃ いい物なんか できませんよ

発想の柔軟さなしに こういう物ができると思いますか?

あっ そっ そうですよね ハハハッ すいません

あっ まあ ちょっと とっつきにくい人ですけれども

腕は確かですから

それに私ども ジャパン住宅プロデュースが—

完成まで責任を持って—

マネジメントさせて いただきますので

ご安心くださいませ

はい いや もう 建築家さんに頼むとね

なんか あの すごい奇抜な家に なっちゃうんじゃないかなって

心配だったんですけども

でも この家を見て安心しました

何て言うか この 適度にユニークっていう感じで

ユニークと奇抜の定義の違いを 教えていただけますか?

(前田)えっ? (信介)抽象論より—

具体的に言ってもらったほうが ありがたいんですが

あっ えーっとですね 例えば あの—

リビングは広めがいいとか サンルーフが欲しいとか

あっ 具体的にね

あっ そう そう そう えーっとね

あっ これ これなんか いいと思うんですよ

(吉田)イメージとピッタリだ (信介)それ 誰の設計ですか?

えっ ああ これはね 前田則之まえだ のりゆきさんですね

前田さんの事務所は新宿です 場所を教えてあげて

(信介)カバン お持ちして (英治)はい

えっ えっ?

ハアッ たく あれが偏屈じゃなくて何なんだ

(摩耶)油断した 前もって注意しとけばよかった

(英治)はい (摩耶)ありがとう

これじゃ事務所 やってけないっすよ

私だって 一介の社員なんだし 売り上げ目標ノルマがあんのよ

じゃ あのお客さん 他の建築事務所に回すわよ

ご自由に

(英治)あーあ 俺の安月給も 永遠に解消されないわけか

建築事務所のスタッフっていうのは 昔から安月給って決まってるんだよ

(英治)誰が決めたんですか? (信介)俺だ

あっ キッチン オープン型にしたんだ

はい 採光もいいし 動線もスムーズになったでしょ

この模型見て クライアントも納得ですよ

日本の住宅っていうのはさ 部屋数を多く取るために—

キッチンは 大抵の場合 隅のほうに追いやられてる

ところが こうやってキッチンを 中心に発想していけば

部屋数は減っても 結果的には 住む人の快適な生活を—

夢を形づくることができるんだよ

なんか幸せな家庭が 見えてくる気がする

私も結婚したくなってくるなあ

とはいっても 現実には その家に住んで喜ぶのは—

暇な時間を持て余してる 奥さんだけだけどな

旦那は妻と 子供と家のローンという—

人生の3大不良債権を 背負うハメになる

俺たちは そのうちのひとつを—

こうやって真面目に セコセコ作ってるわけだ

自分で作っといて よく そんなことが言えるわね

(英治)沢崎さん つきあってあげたら どうですか?

彼女がいたほうが 少しはマシになると思いますよ

パス 私にだって理想はあんのよ

あーあ 誰か いねえかなあ

もう しょっちゅう “買い物行け”だの—

“クリーニング取ってこい”だの もうイヤなんですよ

ここに来て2年 ずっとですよ

私なんか 一緒に仕事して8年よ

8年? よく我慢してますね

仕事だからよ あなた どうなのよ?

あの人の技術 盗むまでの我慢ですよ

我慢しなくても 建築家は いくらでもいるぞ

うわっ 聞いてるよ

あれ?

やっぱり気になるな ここ

ちょっと それでクライアント OK取ったんじゃないの?

ああっ ちょっと 壁だけは 絶対 壊さないでくださいよ

壁だけは 壁 かっ ああっ また作り直しだよ

(信介)頼むね これ (摩耶)頼むね

いやいや “頼む”って…

やっぱり キッチンを もっと広くするか うん

よし おお

♪〜

〜♪

(田村たむらみちる) だから偶然会って お茶しただけだって

だって あなた 私の話—

全然 親身に聞いて くれないじゃない

違うの 私が聞きたいのは 理屈じゃないの

ただ“ひどい上司だね”って 味方になってほしかったの うん

(みちる)あっ ショウガ焼き2つ (店員)はい

(みちる)人を束縛するわりには 理解しようとしないんだから

(西村千鶴ちづる) 男って そういうもんじゃないの

ケンちゃんにまで やきもち やいて

ハンサムだもんね ケンちゃん

(みちる)フフフフッ ホント

ねえ 彼氏できても 犬への愛情は変わらないんだね

そりゃ 飼い始めたのは 失恋したからだけど—

今は もう家族だから ねえ

男よりケンちゃんのほうが 素直でかわいいもんね

なんで“ケン”なの?

犬だから

ケンちゃん ただいま

お利口さんにしてましたか? よしよし

今 ごはん あげますからね ねっ ケンちゃん

食べよっか ねっ

よいしょ よしよし よーし

ごはんだよ はい ちょっと待ってね

ねっさあ はいはい

はーい はい どうぞ おいしい? ゆっくり食べるんだよ うん

(信介)うん

♪(“マーラー 交響曲第5番 第5楽章”)

(みちる) フフフッ ダメ ケンちゃん

もう やめて フフッ

イヤ フフッ そんなとこ なめないで

くすぐったい フフフフッ

もう ダメだったら そこは やめてって

分かった ケンちゃん

(信介)またケンちゃんか

(みちる)もう ダメだって もう わがままなんだから コラ

〜♪

(笑い声)

コラ コラ ケンちゃん フフフッ ちょっと ああ そうかそうか

分かった 分かった 分かった フフフッ

♪(“ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 第4楽章”)

また?

あっ 痛っ なんか最近 調子悪いな

ああっ もう

(水の流れる音)

ああっ あれ? うっ 痛い

あいたたたっ

変なやつだったら どうしよう

〜♪

あっ 今日は許しといてやるか

(信介)ああっ いっ イテテテテッ イテッ あっ

あの もしもし どうかしました?

(ドアノブを回す音)

(みちる)あっ あっ (信介)うっ

(信介)イテテッ

具合でも悪いんですか?

いいように見えますか? ううっ

(救急車のサイレン)

(隊員)ジョウナンダイ病院まで あと どれぐらいかかる?

(隊員)15分ぐらいですかね (隊員)ああ

(信介)うっ (みちる)えっ 何ですか?

中川なかがわ病院に行ってほしいみたいです

(隊員) あっ 掛かりつけの病院ですか?

(みちる)さあ…

(隊員)奥さんでしょ? (みちる)えっ 違います

痛いてえ

(救急車のサイレン)

(隊員) 血圧が122の62で安定してます

(夏美)どう?

(江森和美かずみ) 腹痛がひどかったそうですけど 少し楽になったみたいです

(小沢真理まり) バイタルにも問題はないようです

(夏美)処置室へ 動かしますよ (隊員)よろしくお願いします

えっ 何ですか?

ねえ パルスオキシメーター 見つかった?

(真理)あっ まだです

(夏美)机 整理したの あなたでしょ?

(真理)すいません

あの 中川先生に 診てほしいそうです

どっちの中川ですか? 院長と副院長といますが

ドラ息子のほうだそうです

副院長は 医師会の会合で出かけました

(みちる)あの 私は もう…

(携帯電話の着信音)

(みちる)もしもし ああ 今ね… (和美)病院ですので携帯は…

すいません かけ直すね

パルスオキシメーター捜しといてね

はーい

いつから痛みますか?

(信介)うっ つい30分ほど前から (夏美)うん

あと なんか血が

ああ 下血があったんですね 何色でした?

見てません これって痔ですか?

うーん まだ分かりません ちょっと目を診ますね

あの 痛いの おなかなんですけど…

貧血の具合 診てるんですよ

だいぶ 下血があったようですね 量は どれぐらいでした?

ハア あの 言ったでしょ

だから“見てない”って 言ったじゃないですか

血圧測定 あと肛門鏡と キシロカインゼリー 用意して

(真理)はい (夏美)じゃ 横になってください

ハア

おなか診ますね 膝 立てますよ

あっ

(みちる)ううん 私じゃなくて隣の人 男

男だから何よ? なんで そんなに 私のことが信じらんないの?

じゃあ 言わせてもらうけど—

そっちだって マナミちゃんと 飲みに行ったの知ってんのよ

違う 私は飲みに 来てないって 病院

(夏美)えーっとですね

たぶん 腸のこの辺に ポリープか痔ができてると思います

… で うんちが出にくくなって—

(夏美)ここに つっかえる (信介)うんちって

… で 無理に出そうとすると おなかが痛くなって

(夏美)出血するわけですね (信介)ご丁寧にどうも

(夏美)じゃあ ズボンと下着 取ってください

えっ?

肛門の検査します

肛門

どうぞ

あれ? なんか もう痛くない

そんな急に 治るわけないでしょ

(信介)いや なんか もう平気です

私は医者です 恥ずかしがることないんですよ

いや そういう意味じゃなくて 何 言ってんだよ

とにかく もう治りましたから

痛くて来たんでしょ? 血も出たんでしょ?

ここで帰ったら もっとひどくなりますよ

あのね 本人がいいって 言ったらいいんです

(夏美)どこ行くんですか?

(信介のうめき声)

(夏美)笑顔担当 ちょっとお願い (真理)はい?

(真理)フフッ ちょっと診るだけですから ねっ?

ご心配なく 痛くしませんから

なんで電話 出てくれないの? もう1度 ゆっくり話そうよ

最近 会う時間なくて そのせいで あの…

(留守電のアナウンス) メッセージをお預かりしました

ハア 預かるなよ 途中なのに

あの あの人 今夜 何 食べました?

あっ 知りません あの ただの隣人なんで

そうなんですか

あっ いえ 奥さんか恋人なら 大変だなって

えっ 何か大変な病気とか?

(夏美)ううん 病気じゃなくて… (みちる)性格?

(みちる)なんかね (夏美)フフフフフッ

(真理)ちょっと待ってください ねっ? ちょっ

ダメでした 帰るって言い張ってます

じゃあ 採血して検査に回す

止血剤入りの点滴も始めて ひと晩 入院して様子を見る

あとのことは その結果を見て考える

それで手を打ちませんか?

なら

病室にご案内して 乳酸リンゲル500を6時間で

はい どうぞ

(みちる)じゃあ 私は これで (夏美)ご苦労さまでした

お大事に

あっ どうも すいませんでした

(信介)ケンさんによろしく (みちる)えっ?

(信介)あっ

(みちる)じゃあ… (夏美)あっ どうも

(夏美)あっ 真理ちゃん ごめん

パルスオキシメーターあった

ウソつきだな あの女医 ひと晩 寝たら全快だよ

(中川良雄) 油断すると また痛むぞ

お前のせいだぞ

副院長ともなると忙しいんだよ 夜のクラブ活動が

(信介)浮気じゃねえか まったく (中川)ちょい悪オヤジでキメたら

ホステスにモテちゃってさ ハハハッ

くだらんね せめて“いい”か “悪い”かどっちかにしろよ

それができないから “ちょい悪”なんでしょ

(信介の舌打ち)

(中川ゆみ)パパ (中川)おう ゆみ よっ

(中川圭子けいこ) どうなの? お兄ちゃん 痔で入院なんて珍しいわね

痔じゃない ポリープだ

(ゆみ)伯父ちゃん 痔なの? (圭子)痔なの

(桑野育代いくよ)あっ ここだ

先へ行っちゃったら 分からなくなっちゃうじゃないの

(圭子)ああ ごめんなさい (中川)お義母かあさん しばらくです

こんにちは

どうなの? この人

ええ ゆうべは かなり腹痛があったらしくて

ひと晩 入院して様子を見てます

大げさなんだよ あの女の医者

まあ とにかく 命に別状がなくて よかったわ

いえね あなたは どうでもいいんだけど

あなたに死なれたら 孫の顔が見られなくなるでしょ

もう 1人いるだろ

だって ゆみは 中川家の子だもの ねえ?

ええ 大きくなったら この病院の跡取りを狙う男たちが

より取り見取りだぞ

(ゆみ)うん (圭子)ちょっと もう

(信介)それまで病院があるかな? (中川)グサッ

(育代)ほらね こういう ひねくれた ものの言い方—

絶対 お父さんに似たのよね 私じゃないわよ

お父さんが死んで お母さんだって寂しいんだから—

親孝行だと思って結婚したら?

あら 私 ちっとも寂しくなんか ありませんよ それにね

私 信介には 結婚してくれなんて言ってないの

ただ 孫が欲しいって言ってるの

その違いが 俺には よく分からないけど

(みちる)隣の男のせいで あわや破局寸前よ

(千鶴) よかったね 踏みとどまって

明日の夜 仲直りデート

ケンカのあとのデートは 盛り上がっちゃうわけだ フフッ

私たち 結婚したほうが いいんじゃないかと思って

ええっ

結婚したら一緒にいる時間 長くなるし—

隙間ができることもないと思うんだ

この部屋だって 叔父さん夫婦が ロスから帰ってきたら—

出なきゃいけないしさ

都合で結婚するのって どうかと思うけど

大丈夫 私 ポジティブシンキングだから

ならいいけど あーあ 私も 誰か いい人探そう

ねえ 隣の人って どんな人? 独身?

ちょっと変 関わらないほうがいいよ

(千鶴)そう? (みちる)うん ホント変だから

(インターホンの音) (みちる)えっ?

誰?

何? なんかいい男じゃない? ちょっと

はい

よし

よし

あっ どうも 休みの日にすいません

あっ いえ

隣の桑野の事務所の者です

すいません ゆうべは 桑野が ご面倒をおかけして

ああ これ つまらない物ですけど どうぞ

ああっ お気遣いなく お隣同士ですから

ハア 彼氏いるくせに—

いい男の前では 猫かぶるんだからねえ ハア

(みちる)… で お加減は? (英治)ああ 大丈夫みたいですよ

いつも人に 指図ばっかりしてるから—

たまには 医者に 指図されたほうがいいんですよ

(みちる)指図って社長さんとか? (英治)いえいえ 個人事務所です

あっ 名刺を

建築やってんですよ

(みちる)ええっ? 設計とかされるんですか?

まあ

へえ すごい どんな建物を 建ててらっしゃるんですか?

(夏美)ごめんね せっかく紹介してもらったのに

ううん 大学病院の医者がイヤとか そういう問題じゃなくて うん

うん でも 転勤が多いのは サラリーマンの人も同じだし

子供? 相手もいないのに そんなこと考えてないよ

考えないとダメ?

結婚ね まあ したいよ えっ? そういう姿勢じゃダメ?

(信介)あの… (夏美)えっ

結婚でお悩みのとこ失礼

別に悩んでません 何ですか?

帰ります お世話になりました

なっ 何 言ってんですか? ごめん また電話する

ダメですよ 採血の結果を 見てからって約束でしょ?

(夏美)それに大腸カメラも… (信介)もう全然 平気ですし

それは点滴が 効いてるからでしょ

また ぶり返しますよ

そうなったら その時 考えますよ 仕事もありますしね

(夏美)もう若くないんですよ (信介)はあ? フッ

最近 年を感じることでも 何かあったんですか?

私の話じゃないでしょ あとで苦しむのは自分なんですよ

あの看板 趣味悪いって 中川に言っといてください

私は あなたのポリープに まだ用があるんです

僕のポリープは 用がないって言ってます

そうですか とても残念です

まったくです 失礼します

あとで泣きついてきても 知りませんよ

(ため息)

あっ あの 隣の人に 持ってった あの菓子折

あれ 立て替えときましたから そこ レシート

2000円? お前 1000円で十分だろ

2000円でも安いぐらいですよ 病院までお供させて

あっ あのお隣さん 結構 かわいいっすね

おっ ちくしょう 金田かねだが更新してる

どれどれ インチキ建築家は 何つってますか?

“田園調布の K様の—”

“別荘の設計を 承りました”

あっ

ほらな

承ってばっかりで 全然 完成しやしない

(信介)全部デタラメだ (英治)女 引っ掛けるためですよ

でも俺は 女 ナンパするために ホームページまで—

作っちゃうようなオヤジ ちょっと尊敬しますね

(信介)くだらんね (英治)フフッ あっ

俺 ちょっとお隣さん 誘ってみようかと思うんすけど—

いいっすか?

お前な いちいち 許可 取らなくていいよ 俺に

はい

あっ そうだ お前—

たしかー

カオリだか シオリだかという 女とつきあってたよな?

沙織? ああ あいつも好きですけどね

ちょっと なんか最近 マンネリなんすよ

貧乏なくせに 女に不自由しない男だね

あっ そうだ フフッ 隣 男いるぞ

ケンさんとかいう ごっついのがな

それ聞くと かえって 燃えるタイプなんですよね

あっ そう

(英治) おい ケン おい 来いよ

(男性) 何だっけな 超背がちっちゃくて 色白で 超かわいいの

(男性)どれどれ? (男性)これか

(男性)あっ この子 この子 超かわいくね?

(男性)いいだろ? (男性)ああ いいねえ

(店員)はい お待ち (夏美)はい どうも

(店員)スプーン要りますか? (信介)要りません

(店員)ポイントカードは お持ちでしょうか?

ありません

フフフッ いいよ

えっ?

(携帯電話の着信音)

はい 何すか? えっ 金田?

実物も 思いっきりスカしてやがる

うわっ 見たいかも

おっ 女が来た 美人だ 脚も長い モデルかな?

(信介)おおっ すごい車 (英治)車種は?

(信介) 知るか そんなの でも高そうだ

(英治)その美人の写真 撮っといてくださいよ

ヤダよ 恥ずかしいな お前

お願いしますよ 残業してる部下のために

(金田裕之ひろゆき)連れてってないよ ホントに仕事だったんだって

(女性)メールだってしたのに… (金田)あれ? 髪形 変えた?

“ちょっとできる女”風でしょ?

そうしてくれたんだ

だから早く見つけてほしかった

(女性)ちょっと (金田)うん?

(信介)あっ おかしい あれ? (金田)何か?

えっ?

いや くっ 車

(金田)車? (信介)はい

(金田)フッ 撮りたきゃどうぞ (信介)あっ はい

(シャッター音)

あら?

(みちる)ああっ こんばんは (夏美)どうも

(夏美)そういうの読むんですか? (みちる)ああ いえ 彼のです

ああ デート

(みちる)お1人ですか? (夏美)うん

あっ なんか最近の若い人って—

デートなのに黙ったまま 並んで 漫画読むのね

映画 見ても 同じじゃないですか

ああ まあ

(みちる)じゃあ 私 こっちなんで (夏美)ああ それじゃ また

(いびき)

(みちる)そう お医者さん

頭いいんだろうけどさ

1人で漫画喫茶って なんか寂しくない? ハハッ

何か飲む? ハッ

あっ

(英治)うわっ これ 2000GTじゃないっすか

(英治)… で 女は? (信介)あれ? またか これ

(信介)ちょっと ここ ねえ (棟梁とうりょう)えっ?

ここさ 尺間しゃくまでやることに なってたよね?

(棟梁) えっ 尺五しゃくごじゃなかったの?

(英治)えっと 仕様書では 尺間になってます

ほら

(棟梁)尺も尺五も変わんないって

フッ “変わんない”ってさあ

設計どおりやるのが おたくの責任だろ

こっちだって30年の経験があんだよ ちっとは信用してもらいてえな

なるほどね 30年の手抜きの経験か

(棟梁)何だと この野郎 (信介)この野郎

(棟梁)頭 固いんだよ (信介)何だよ クソジジイ

ハア またかよ

これで4回目じゃねえかよ ああっ 滑った

(摩耶)棟梁には 私から謝っておいたから

(英治)ありがとうございます

謝る必要なんかないんだよ 向こうが悪いんだから

ハア こういう大人な人が いるおかげで—

桑野さんが好き勝手できるんですよ

よく言ってくれた フフッ

(沙織)あっ チーフ キクチ邸の 見積もり コピーしておきました

(摩耶)ありがとう

(沙織)今夜7時ね (英治)OK

今日 残業しませんから

(信介)今夜は この子とデートか (沙織)はあ?

ちょっと デートの相手 他にもいるの?

冗談だよ ややこしいこと 言わないでくださいよ

(摩耶)フフフッ

そうやって 人をからかうってことは—

全くの人嫌いって わけでもないのよね

(信介)勝手に人を分析するなよ (摩耶)したくもなるわよ

果たして どんな子供時代だったのか

どういう人生を経て—

こういうキャラクターが 出来上がったのか

何かトラウマでもあるのか

老けたな

いい家を作るくせに どうして 他人に興味を持とうとしないのか

ミカン箱を作るのにミカンを 好きになる必要なんかないだろ

ちょっと意地悪だったかなあ

(英治)いいんじゃないっすか (摩耶)ねえ

ああいう人って Sに見えて 実はMだったりするから

またあ

あっ そうだ

あの先生 今日 そういえば 誕生日なんですよ 40歳の

そうだっけ? 本人 忘れてんのかな?

さあ

あっ 実は 誰か言ってくれるの 待ってんじゃないですか?

ああ お2人で 何かしてあげたら どうですか?

何かって? サプライズパーティーとか?

あいつが喜ぶ?

“ガキみたいに何やってんだ くだらん”

(摩耶)やめとく? (英治)やめときましょうか

(電話の着信音) (英治)あっ 電話ですよ

(信介)よく まあ あの妹と 10年もってるよな

紹介しといて よくそういうこと 言うな “お兄ちゃん”

フフッ 俺はヤダね ああいう気の強いタイプはな

ホレちゃったんだよ 悪いか?

あっ そうだ 俺 今日 誕生日だ

何 急に思い出してんの?

いや ゆっくり思い出すほうが おかしいでしょ

思い出す時は急だよ 普通は

はい はい はい 屁理屈へりくつ 言い続けて40年

40か

(バーテンダー) 誕生日のカクテルでも お作りしましょうか?

余計なお世話だ 人の話 聞かないでくれるか

失礼しました

ハア しかし 40といえば 人生の半分 来ちゃったんだな

ああ そうだ もう1軒行こうか ウーロン茶で我慢してやるからさ

(メールの着信音) (中川)あっ

毎晩この時間になると 送ってくんだよ

万が一 浮気しようとしてたら 萎えさせる作戦なんだ

昔から やり方が ちっとも変わってねえな あいつは

俺 一生 浮気はできないかなあ フフッ 明日 早いし帰るわ

えっ?

どうせ女と約束してんだろ なっ あんまり待たせんなよ

(信介)いや… (中川)ごちそうさん

(ドアの閉まる音)

(ため息)

(店員)スプーン要りますか? (信介)要りません

(店員)ポイントカードは お持ちですか?

ありません

(留守電のアナウンス)1件です

(育代)信介 お誕生日おめでとう

あら もう 40になっちゃったのね

しょうがないわね

母さんは今 友達と箱根に来てまーす

悔しかったら あんたも 一緒に来る相手を見つけることね

それじゃ

(信号音)

(信介の鼻歌)

(インターホンの音)

(千鶴)あの 私 隣の田村みちるの友人です

何か?

さっき あの子から なんか変な電話あって

(信介)変な電話? (千鶴)はい

(千鶴)気になって来たんですけど 全然 返事ないんです

留守でしょ

(千鶴) いやいや さっき電話して—

着メロ鳴ってたんで いるはずなんです 中に

で?

なんで 俺が こんなことしなきゃ

よし

なんで俺が ハア

よいしょ

よっ あっ ううっ

ハア ああっ ハア ハア

ああっ ハア フウ

ハア

何だ 簡単に侵入できるな

いるな

あの

あの…

(ケンのほえる声) (信介)犬?

シーッ シーッ シーッ

(みちる)うーん… (信介)あれ? ちょっと あっ

あの ねえ 大丈夫?

えっ 何?

(信介)何って… (みちる)痛っ

君の友達がさ 心配して チッ うちに来たもんだから

あっ ちょっと お酒を

あーあ チッ 飲みすぎだよ

ハア まったく

ううっ うっ

(せきこみ) (信介)はい

(ドアの開く音)

(千鶴)また彼とケンカ? (みちる)うん ちょっとヤケ酒

“犬も食わない”ってやつだよねえ ケンちゃん

ケンちゃんって犬か

(信介)じゃあ 俺は (みちる)ありがとうございました

ああっ しまった 玄関 閉めちゃったんだよ

また あそこ越えるのか ハア

(笛付きおもちゃの鳴る音)

お手数かけました

ハア まあ ケンカするたびに 仲良くなれば いいんじゃないの?

うん ごめんね ありがとう もう大丈夫だからさ

(千鶴)それじゃ 行くね (みちる)うん

(千鶴)じゃあね (みちる)うん

ハア ここ 犬 飼っていいんだっけ?

ハア あっ ああ

まったく

(倒れる音)

ハア チッ またか

ううっ よいしょ あれ? あれ?

ああっ

(隊員)急性アルコール中毒の 患者 搬送中

(隊員)中川病院に向かいます (信介)中川病院?

(隊員) だいぶ飲まれたんですか? ご主人

結婚なんかしてませんよ

あっ いや それより どこか他の病院ないですかね?

(隊員)何か問題でも? (みちる)ああ ううっ

あっ やっぱり どこでもいいです 早く行ってあげてください

(夏美)漫画喫茶で 彼とラブラブだったじゃない

どうして ヤケ酒なんか…

うちの犬 ケンっていうんですけど 前の彼氏の名前なんです

その人と別れたあと—

寂しさ紛らわそうと思って その子飼って—

今夜 彼に うっかり そのこと しゃべっちゃって

“もう関係ない”って 言ったんだけど—

“関係ないなら 名前 変えろ”とか言われて

私 できなくて

フフッ 犬の名前が原因で 男と別れたなんて バカみたい

あとで笑えていいんじゃない

笑えることばっかりっていうのも 悲しいですよ

前の彼と別れたのだって…

何?

あっ また今度 話します

あっ そう

私 なんか免許 持ってないのに—

路上に出てきちゃったような 気がします

あっちこっちで ぶつかってばっかり

人生や恋愛の運転免許なんて ないんだし

先生は安全運転しそうな感じですね

フフッ 私は ハア 長いこと 車庫に入ったままかも

(みちる)えっ? (夏美)あっ また今度 話す

はい

(みちる) そういえば お隣さんは?

帰られましたよ

私 お礼言ってなかった

この間 保険証 持ってなかったからって 今日

(夏美)はい 桑野信介 39歳 (みちる)初めてフルネーム知った

ああ あの人 今日 誕生日なんだ

(みちる)えっ? (夏美)今日で40歳か

(みちる)誕生日 あと30分で終わりだけど

(沙織)桑野さんさ 誰かに祝ってもらってるかな?

ないない 自業自得

ちょっとは変わらないとダメなの あの人は

(摩耶)“いい仕事をしよう”

うーん

違うな

(携帯電話の着信音)

(信介)はい (夏美)中川総合病院の早坂です

どうして この番号を?

(夏美)クラブ活動中の副院長に 電話して 聞きました

よっ 余計なことを

(信介)ああ あの子 どうですか? (夏美)今 代わりますね

ご心配おかけしました もう大丈夫です

ああ いえ いえ いえ この間と おあいこっていうか

あの 今日 お誕生日なんでしょ?

えっ?

ああ ああ そうでした

お誕生会しません? 患者さんから もらった ケーキがあるんです

今 みんなで食べようかって 言ってたとこなんです

なるほど ついでに 呼んでみるかって感じですか

まあ そうです

フッ 結構です

(夏美) 人が親切に誘ってあげてるのに

親切? ハハッ

どうして そんな いつも トゲトゲしてるんですか

(信介)あなたもね

もう少し かわいい性格に なったら結婚できますよ

あなたには言われたくありません

私はね 結婚できないんじゃなくて しないんです

ああ そうですか なんか むなしい会話

(信介)そうですね (夏美)それじゃ

それじゃ

(信介)あれ? (夏美)えっ?

(信介)あたたっ 痛いてえ ああ 痛い (夏美)どうしました?

うわーっ いや また腹が…

ほら ちゃんと治さないから そんなに痛みます?

いやいや 大丈夫です 痛っ

ああ いや 大丈夫です

イテテテッ

やっぱり ダメだ

(うめき声)

あれ? あなた さっき…

(耳打ち)

あっ 中川病院ですね

目を診ますね

はい

失恋しても腹は減る

うーん

中川 呼んでもらえますか?

(夏美)いません

何度 言ったら分かるんですか?

なら なら この間の点滴だけ

おい 無視するのか

医者の言うことを無視するから そういうことになるんです

“泣きついてきても 知りませんよ”って言いましたよね

別に泣きついてなんかない

あっ イテテテッ

泣きついてるでしょ? どう見ても

(信介)ああっ (夏美)はい 横になってください

ちくしょう

ああっ あっ

(夏美)検査しますから (信介)あっ あっ うっ

(信介)ちょっと待てよ… (夏美)いいかげんにしなさい

カッコばっかりつけずに 意地ばっかり張らずに—

少しは素直になっても損はしません

お誕生日おめでとうございます

ううっ くっ

(すすり泣き)

(夏美)力 抜いてください

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