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(虫の鳴き声)
♬~
(物音)
(滝の音)
♬~
(物音)
♬~
(織田信長)うあ~!
う…。
くっ…!
ああっ! ハアハア…!
♬~
ハア ハア ハア…。
♬~
ついに宿敵 武田を滅し➡
織田信長公を 富士遊覧でもてなした我らが神の君。
お主は まだ 安土には来たことがなかったな。
(徳川家康)はっ。 すぐに来い。 今度は 俺がもてなす。
その返礼に 安土城での祝いの宴に招かれる➡
栄誉にあずかったのでございます。
が…。
信長を殺す。
わしは➡
天下を取る。
♬~
(本多忠勝)どう おやりなさる。
(榊原康政) 安土で さようなことはできますまい。
安土では やらん。
信長は 京に移るはずじゃ。
(井伊直政)京?
今や 都は 信長の庭。
すっかり穏やかになり 敵への備えは 極めて手薄。
何やの? これ。 カエルや。
わあ~! 嫌やわ~!
もう いけず。
既に 半蔵たちを忍ばせてある。
服部党と 伊賀から逃れてきた 伊賀者たちを集めておる。
ねえちゃん いくらや?
ヘヘヘヘッ。
うっ…。 (悲鳴)
うあっ! (悲鳴)
近頃の信長の宿は 本能寺という寺だそうじゃ。
♬~
茶屋四郎次郎の屋敷は すぐそば。
さまざまな支度を ぬかりなく進めさせておる。
信長を…。
本能寺で討つ。
(大久保忠世)確かに 信長さえ討ち取れば 織田は混乱に陥るでしょうが…。
(鳥居元忠)配下の将たちがおりましょう。
(石川数正)いや… おらん。
秀吉は毛利攻め。 柴田は北国。
力のある連中は 皆 各地に打って出ておる。
すぐには駆けつけられぬ。
(平岩親吉)まさに 千載一遇の好機っちゅうわけか…。
唯一やっかいなのが 供応役の明智…。
♬~
やつを遠ざける策も考えてある。
♬~
異存 反論 一切許さぬ。
従えぬ者は…。
この場で斬る。
わしは もう誰の指図も受けん。
誰にも➡
わしの大切なものを➡
奪わせはせぬ。
♬~
このまま殿を 安土に行かせてよいものか…。
殿は なみなみならぬ決意だ。
やり遂げるだろう。
私も そう思います。
殿と共に 天下を取りましょうぞ!
(康政)そう たやすい話だろうか。
臆したか 小平太。
今 信長を討てば 乱世に逆戻りだ。
我らが しかと鎮めればよい。
それが たやすくないと言うておる。
わしゃ… 安土に行ったら➡
殿が 信長に殺されちまうんじゃねえか って方が心配だ。
そうじゃ 罠かもしれん。
毒を盛られるかも。
殿をお止めしてくる。
左衛門尉。
どけ。
(酒井忠次)お方様と若殿様を失って…➡
殿は お心が壊れた。
(於愛の方)さあ 長丸 福松。 父上にご挨拶なさい。
(福松 長丸)行ってらっしゃいませ 父上。
留守を任せたぞ。 (長丸 福松)はい!
(忠次)「信長を討つ」➡
この3年の間 ただ その一事のみを支えに➡
辛うじて お心を保ってこられたのじゃろう。
それを止めることは 殿から生きる意味を奪うのと同じじゃ。➡
わしには できん。
(忠次)殿に委ねよう。
そして 最後は➡
我らが殿を守ろう。
兎は狼より強いと思うか?
そんなことを言っていた者がおってな。
狼が強いに決まってます。
そうじゃな。 フ…。
でも考えてみたら 私は狼というものを➡
この目で見たことがございませんので 分かりません。
兎は 子供の頃 かわいがっておりましたが。
兎は そこら中におる。
じゃあ 兎が強いんじゃありません?
狼は数が減っていて 兎は たくさんいる。
ならば 勝ち残っているのは 兎でございます。
案外 兎の方が たくましいのかもしれませぬなあ。
♬~
天正10年5月。
かくして 我らが神の君は 武田を滅ぼした祝いの宴に招かれ➡
安土城へと向かったのであります。
♬~
(明智光秀)間もなく 徳川殿御一行 お着きになります。
料理は万端 ぬかりございません。
(信長)ああ。
♬~
かようなものの用意も。
♬~
(明智)ひそかに 徳川殿の料理に入れることも。
お望みとあらば。
♬~
(直政)ほう~。
(直政)なんという城だ。
(穴山梅雪)これが… 安土城…。
参るぞ。
〽 まず青陽の朝には
〽 垣根木伝う うぐいすの
〽 野辺になまめく忍び音や
〽 野径の霞現れて
うまいか?
はっ。 (穴山)身に余りまする。
(信長)遠慮なく食されよ。 作法など気にするな。
〽 九夏三伏の夏の天にもなりぬれば
〽 藤波いとうか ほととぎす
〽 夜々の蚊遣り火下燃えて
次なる膳は 淀の鯉にございます。
(穴山)これは見事な。
♬~
(穴山)どうかなさいましたか?
いえ。
♬~
臭みは一切ございませぬ。
天下一の淀の鯉といわれる ゆえんでございます。
そうでしょうな。
いや ぜいたくなものを 食べ慣れておりませんもので。
頂きます。
♬~
におうなら やめておけ。
あたったら一大事じゃ。
におうはずは ございませぬ。
徳川殿は 高貴な料理に なじみがござらぬのでございましょう。
♬~
申し開きはあるか?
私は 万全の支度…。
♬~
上様 お待ちを…!
♬~
私は… 何の細工も…!➡
上様のお申しつけどおり 私は何も…!
(信長)出ていけ!
膳を下げよ! はっ!
♬~
三河のくそ田舎者が!
♬~
明智殿 任を解かれ➡
羽柴秀吉殿の毛利攻めを 手伝いに行かされるようでございます。
よし。
(忠次)もくろみどおり 明智を遠ざけましたな。 殿も役者じゃ。
(康政)淀の鯉は もったいのうございましたが。
(忠勝) 本当に毒が入っていたかもしれんぞ。
明智殿が謝りたいと。
お通しせよ。 はっ。
我が不手際により➡
大変な ご無礼を。
お詫びのしようもござりませぬ。
しかるべき始末をした上で➡
腹を召す所存。
いやいや この陽気で悪くなっていたんでしょう。
お気になさいますな。
お気になさいますな?
上様は しくじりを 決してお許しにならぬお方。
よくご存じのはず。
私は もう終わりました。
上様が 徳川様とお二人だけで 語り合いたいとのことでございます。
♬~
(忠次)殿。➡
何かありましたら すぐに駆けつけます。
来んでよい。
(信長)おい。
はっ。 (信長)おい!
はっ。 本当に におったのか?
明智殿のご処分は ほどほどに。
(信長)しくじりは許さぬ。
上様は厳しすぎます。 お前が甘すぎるんじゃ。
使えんやつは切り捨てる。
うちには 使えんのが ようおります。
でも なかなか そうは…。
それがいかん。 お前のところの家臣は お前のことを…➡
そう 友垣のように扱うではないか。
友垣…。
確かに そうかもしれませぬ。 甘く見られれば 足元をすくわれる。
それなら それで しょうがない。
しょうがない?
かつて 古い家臣に言われました。
信じなければ 信じてもらえんと。
それで裏切られるなら それまでの器だったのだと。
上様。 あなたは 何でも一人で おできになる。
常人ではござらん。
まさに 乱世を鎮めるために 天が遣わしたお人かもしれません。
♬~
しかし 私は違います。
一人では何もできぬ。
これまで生き延びてこられたのは➡
周りの助けがあったゆえ。
上様。
ん?
京へ入られるのでございましょう?
一足先に行って お待ちしております。
上様と 穏やかになった京を 堪能しとうございます。
今後のことは その時に。
では こよいは この辺で。
♬~
京で待ち伏せして 俺を討つつもりか?
図星か。
やめておけ。 お前には無理だ。
白兎。
♬~
腹の内を見せなくなったな。
♬~
謝ってほしいか?
♬~
謝ってほしいか? あん?
妻と子供を殺して すまなかったと➡
謝ってほしいか?
♬~
ハハハハハ…!
謝らんぞ。
くだらん。
♬~
くだらん…?
♬~
我が妻と息子の死を…➡
くだらんと申すのか! ああ くだらんな。
ふざけるな! 俺は そのような感情 とうに捨てたわ!
わしは お主とは違う。 捨てられはせん!
だから お前に 俺の代わりは無理なんじゃ!
人をあやめるということは➡
その痛み 苦しみ 恨みを全て この身に受け止めるということじゃ!
10人殺せば 10の痛み…➡
100人殺せば 100の痛み。 万殺せば 万の痛みじゃ!
♬~
俺は…➡
どれだけ殺した?
どれだけ…➡
殺した?
この報いは➡
必ず受けるであろう。
俺は誰かに殺される。
誰よりも無残にな。
うああ~!
だが 俺は覚悟ができてる。
お前は どうじゃ?
お前には できて せいぜい俺を支えることぐらいじゃ。
これからなんじゃ… 大変なのは これからなんじゃ。
戦なき世の政は➡
乱世を鎮めるより はるかに困難じゃろう。
この国のありすがたのためには➡
やらねばならぬことが多すぎる。
恨め。
憎んでもいい。
だから…➡
俺のそばで 俺を支えろ。
♬~
私には…➡
あなたのまねは できん。
したいとも思わん。
わしは…➡
わしのやり方で 世を治める。
♬~
確かに わしは弱い。
だが➡
弱ければこそ できることがあると わしは信じる。
♬~
行き詰まっておるのは お主ではないのか?
♬~
弱き兎が…。
狼を食らうんじゃ。
♬~
なら やればいい。
俺は僅かな手勢を率いて 京に向かう。
本当に お前が 俺の代わりをやる覚悟があるなら➡
俺を討て。
待っててやるさ。
やってみろ。
はあ~。
♬~
回想 「魯の穆公 衆公子をして➡
或いは晋に宦し 或いは荊に宦せしむ。➡
犂鉏曰く 人を越より仮りて溺子を救わんとすれば➡
越人 善く游ぐといえども 子は必ず生きず」。
♬~
やり直し。
やり直し。
やり直し。
♬~
(物音)
♬~
誰よりも強く 賢くなれ。
お主の周りは全て敵ぞ。➡
誰もが この首を狙っておる。
(信秀)身内も家臣も 誰も信じるな。
信じられるのは➡
己一人!➡
それが お主の道じゃ!
(服部半蔵)お待ちしておりました。 首尾は?
(半蔵)本能寺周りのあちこちに 伊賀者を ちりぢりに潜めております。
その数 500。➡
特に こやつら 伊賀から逃れてきた連中は 信長への恨みでいきりたっております。➡
茶屋殿のお力添えで 弓や鉄砲も万全。
(直政)こりゃ ひと合戦できますよ。
(半蔵)これが 本能寺。
見取り図をこしらえたのか。
(半蔵)茶屋殿の店の者が 出入りしておりますので。➡
上様の寝所は ここでございましょう。
あとは 信長が来るかどうか。
そして どれほどの軍勢を引き連れてくるか。
♬~
(信長)京に向かう。
(森 乱)手勢は いかほど。
♬~
(歌声)
(羽柴秀吉)おう。 お~! ハハハッ…。
あっ いてて…。 ほか おらんのきゃ? ハハハッ…。
違うの おらんのきゃ? うん? うん。
ほか… ほか おらんのきゃ? ハッハッハ~…。
(秀長)この戦 これ以上てこずると 上様に何とされるか…。
分かっとるわ…。
あ~➡
そろそろ おらんくなってくれんかしゃん。 ブッ!
えっ!
安心しや~ わしゃ やらんわ。
やったやつは バカを見る。
♬~
徳川殿なら…?
どうかしゃん…。
まあ 引き返す用意だけはしときや~。
(雨の音)
(半蔵)殿。
どうした?
(大鼠)織田信長 安土を出立し こちらへ向かっております。
(康政)軍勢は? (半蔵)供の者 100ほど。
(忠勝)100? 僅か それだけか?
(半蔵)やれます。
♬~
できる…。
♬~
わしは やってみせる。
♬~
信長を討つ。
♬~
わしが…。
♬~
わしが 天下を取る。
♬~
やられはった! 織田様が討たれはった!
徳川様が やりおったんや!➡
織田様の首持って 逃げとるいう うわさや!
家康の首を取ったもんに 褒美が出るいう話や!
♬~
信長~!
信長の首を取れ~!
今ぞ その時じゃ。
あなた様は 兄のたった一人の友ですもの。
家康…。
上様 信長様には… お討ち死にあそばされました。
さらば 狼。
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