All language subtitles for 照柿 03 燃える雨.日文

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Original subtitles

「女は死んでいました」。以上。

「以上」って 何だよ? 一晩かかって それだけか?

午前3時 土井は 「女は死んでいました」の1行を

書き終えた後 喉から出血。 中央病院に 再収容されたそうだ。

土井の移監は 無理ってことですか?

堀田の起訴まで 今日 明日しかありませんよ!

吾妻警部補。はい。 肥後巡査部長。はい。

大阪 行って 土井を絞ってこい。 待ってください!

お前は 東京で静養しろ。体も頭もだ。 だったら 森を行かせてください。

私と一緒に ずっと 土井 追ってきたのは 森ですから!

ペコさんが行っちまったら 誰が 堀田の調べをやるのかねえ。

大阪行きは 森巡査部長 肥後巡査部長。

残り七係は 堀田の取り調べ。 所轄各組は 昨日に引き続き ウラ固め!

はい!

そろそろ 悪魔の話はやめて 人間の話をしてみるってのは どうだ?

おい 寝るなよ。 寝てもらっちゃ困るんだよ。

悪魔が出てくる限りはな。

どうだ? 堀田。痛いだろ? お前 人間だからな。

何だ? やらせてくれ。やめとけ。

お客さん 好みが うるさいんだ。 俺に やらせてくれ。

殴ったって言いませんよ。 俺 刑事さんの顔 見ると

何もかも忘れてしまうんだから。 そうなのか…。

合田。 頼む。やらせてくれ。

どうしたんだ?

聞いてなかったのか?

すいません。 今 ちょっと 煙が目にしみて…。

いいかい? 野田君。 本社の上とも検討した結果

岡村君の件は 労災で申請を出すしかない という結論になった。

本来ならば いつ どこで どういう経路で 感染したのか 徹底的に闘うところだが

家族に 妙な訴えなどを起こされて もめるよりは

潔く こちらの非を認めた方が得策だ ということになったんだ。

異論はないね?

はあ。 「はあ」はないだろ。

これ 君んとこで起こった事故なんだぞ。

分かってます。

ホントに分かってるのかね。 労災が認定されたとなると

岡村君の勤務を直接管理していた君の 責任問題が取り沙汰されるんだぞ。

そのこと どう思ってるんだよ?

話にならんな 全く…。

戻りたまえ。 くれぐれも この件に関しては

軽はずみなことは言わんように。いいな? はい。

どうしたんだ?

何か ついてますか?

いや。

でも… こう 徹夜が続くと 人間 顔 変わりますよね。

頬が こけて… 何か 若返ったみたい…。

どのくらい 寝てないんだ?

え~ もう 4日間 まともに寝てないんです。

4日間!?

昨日は 岡村源太の騒ぎで

おとといは 工場で温度確認作業。

その前は 女と遊んで

その前は… あ~ ほら あ~

あ… 親父の通夜です。 そうか。ご苦労さん。

もう帰って すぐ寝るように。

ハハ…。大丈夫ですよ。 寝てないわりに ちっとも眠くないんです。

「誰もいない海 二人の愛を確かめたくて」

「あ…」

私ら 昭島署の者ですがね 佐野美保子さん ご存じですね?

はい。

同じ羽村団地に お住まいだそうですが いつごろから お知り合いで?

一体 何なんです? 彼女が どうかしたんですか?

拝島の 転落事故の件なんですがね…。

拝島の? ご存じですよね。

団地の方は みんな 知ってますよ。

新聞では 読みましたが…。

いやね… 佐野美保子さん

職場以外に ほとんど お知り合いがいないんですよ。

いや たまたま ある所で

野田さんと お知り合いだった っていうことを聞き込んだもんで

私ら 藁をもすがる思いで やって来たって

こういうわけなんですがね。

誰が言ったんです? そんなこと。

いや~ それは まあ ちょっとね…。

私は 何も知りません。

いいかげんにしてくれよ! 何 いつまでも 黙って見てんだよ!

代われよ。こいつ 連れてってくれよ!

座れ。

座れよ 堀田。

そんな作戦で 俺が怖がって 吐くとでも思ってんのか?

作戦なんか使ってない。 俺は 作戦なんか使ったことはない。

いつだって 殴って 吐かせてきた。 この手で殴ったり 言葉で殴ったり

警察という権力で殴ったり いろんなもんで殴ってな…。

けど お前は殴らん。

ヘッ。

お前は殴れても お前の悪魔を殴ることは できんからな。

へえ~ あんた 俺の悪魔を 信じてくれちゃうわけですか?

ああ。 何だよ? 急に。

俺も 悪魔の声を聞いたんだ。

詳しくは言わんが 結果 こうなった。

お前… 悪魔の声を聞いて 女の首を絞めたと言ったよな?

あれ 罪を逃れるために 精神錯乱を 装ってるんだとばっかり思ってた。

でも そうじゃないんだよな。

十何年 刑事やってきてな

「何で殺したか分からない」っていうセリフ 何十回も聞いたよ。

俺は それを ずっと

罪を逃れるために 言ってるんだとばっかり思ってた。

自分で自分がやったことが 分からないなんて

ありえないと思ってた。

自分が 悪魔の声を聞くまではな…。

お前… 何で 女の首を 自分で絞めたのか分からなかった。

それは まるで 悪魔の声に従って やっているようなもんだった。

そうなんだよな?

俺… ホントに 殺すつもりなんてなかったんだよ。

ただ… 首に手をかけてたら

自分でも分からないうちに どんどん 力が入って…

女が 泡 吹いて 「やめて やめて」って騒ぎだしたら

余計 やめちゃいけないような気がして…。

女の首を絞めた理由は? つまらないことですよ。

酒 飲んで 話してて 「バカ」って言われただけなんです。

「バカ」か…。

あの日… あの夜だけは 人に「バカ」って 言われたくない気分だったんだよ!

そういう時 あるでしょう? 誰だって あるでしょう?

ああ。

こいつなら 「バカ」って言わないだろうなと思って

一緒に飲んでたのに…。 あいつ 言ったんです。

日本語で 「バカ」って言ったんです。

一番 言っちゃいけないこと言ったんです。 だから… 俺… 俺…。

野田君! 何やってんだ?

通夜 終わったんだからさ 早く帰って 休みたまえ。

ええ。でも 9時には 4番炉の3回目が上がりますんで。

ちょっと! 疲れてんだろ? 寝不足なんだろ?

そんな状態でさ 工場へ入って 事故なんか起こされると 困るんだよ。

一体 どうしたんだよ? 君。 いつから こんな業務熱心になったんだ?

温度が下がってるぞ! えっ!?

930度だぞ!

だから 何度も計器が壊れてるって 言ってるじゃないか!

ちょっと この色 見てみろよ! ちょっと 色が濃いような…。

この色 何度だと思う? 表示は 930。

830が いいとこだ。 この色なんだよ。

8月2日に見たのも この色だ。

おい 手動で切り替えて バーナーを燃やせ。

しかし 温度が! この色が見えんのか 君には!

分かった! 炉の色を見ればいいんだろ? 分かった! あとは 我々がやるから。

安心して 君 うちに帰ってくれよ。 なっ 頼むから 帰ってくれよ。

そうですか。 じゃあ 帰って 少し休みます。

明日の朝 早めに出てきますんで。

何してんのや? 真っ暗なとこで…。

どうして分かったの? ずっと ここに おったんか?

彫ってたの。

警察 行く言うてたんと違うのか?

飯は どうしたんや?

俺が来んかったら どうするつもりやったんや?

1日や2日 食べなくたって 死なないわ。

何でや?

えっ? 何で?

達夫さん?

ごめんなさい。

いや… 何でもないんや。

何が「何でや」なんか 自分でも分からん。

今夜だけ いさせて。

今日 俺のところにまで 警察 来たんや。

団地かて ひっかき回されとるみたいやぞ。

そう…。

いつまで こんなんしてるつもりや?

ちっぽけなことでも

逃げたら 大ごとになってしまうぞ…。

だから 今夜だけ…。

美保子…。

怖いのよ…。

どうして こんなふうに なってしまったのか分からないから

考えたいのよ 少しだけ…。

考えて どうかなるんか?

なあ 美保子。考えても どうかなることなんかないぞ!

何を どうしたらいいんや…。言うてくれ。

俺にできることがあったら 言うてくれ。

警察へ ついてってやったら ええんか?

それとも… 考えるんやったら こんな むさ苦しいとこやなくて

もっと きれいなホテルでも 連れてってやろか?

シャワーが ジャ~ッと出て フカフカの広いベッドで…。

ほんなら いっそ いかがわしいホテルは どうや?

最近は カラオケまであるいうやないか。 そんなとこで パ~ッと…。

何も… しないで。

何も してほしくないの。

私の人生だもの。

達夫さん… 背中 熱い。

ああ。熱があるみたいや。

ちょっとだけ 寝不足なんや…。

私も よく眠れなかったことあったわ。

敏明が 私を避け始めて… 女ができて…

暴れたら眠れるのかと思って 包丁 振り回したりして…。

ああ…。

一度だけ 間違って ホントに切ってしまったら

あの人 必死になって謝ったの。

それから あの顔が見たくて 包丁 出すように…。

変よね…。お見合いして 結婚して

初めから 愛情なんか なかったはずなのに

そんなことして 自分を 敏明に つなぎ止めようとして…。

火をつけることで 父を自分のものにした 母そっくり…。

火事の話 やっぱり 美保子のことやったんか…。

世間はね… 借金があったから 母が火をつけたって

うわさしてたけど 違うの。

ホントはね 母は 愛人から 父を取り戻したくて 殺したの。

お母さんが そう言うたんか?

ううん。

そうか…。

今日な… 工場で 人が死んだ。

そう…。

何や知らんけど 俺にも 責任あるらしい…。

疲れたわ…。

無理して 似合わん仕事して 結婚して 子供つくって…

ええ子になろうとしてきたけど 何のためやったんやろ…。

達夫さん…。

遠いな…。

ごめん…。美保子の方が大変やのに…。

すまん…。 美保子に甘えたら 気持ちよかった。

俺 あのユリ 買うてくる。

えっ?

「何もするな」言われたけど あのユリ 買うてやるくらい ええやろ?

でも こんな時間に?

銀座やから 遅うまで やっとるはずや。 なっ 行ってくる。

それまで… 一人で よう考えたらええ。

俺が帰ってくるまで どこへも行かんとってくれよ。

警察 一緒に行ったるからな…。

大阪からの供述調書 まだかよ? おい 何時だ?

何だ おい! 12時になっちまうよ! 焦るな。起訴まで あと36時間ある。

もっと うまいラーメン屋なかったの? あそこしか やってないだろうが。

おい おい! あっ あっ!

何やってんだ? お前は! すいません。

どこなんや…。

あの… この辺に 花屋があったと思うんですが。

花屋? もう一つ 向こうの筋でしょう。

どっちや…。

どこ行ったら ええんや…。

ちょっと 君!

泥棒なら よそで やってくれたまえよ。

おやおや… こりゃ 失礼。

その… 浮浪者と思ったもんだから。 ハハッ。

何か 御用?

酔ってるから 難しい話は

勘弁していただきたいんだけど…。

父の絵を。 ああ なるほど なるほど。

眠られぬ熱帯夜に 今は亡き親父さんをしのぶと

絵が見たさに 居ても立ってもいられなくなったと…

そういうわけか?

うん。いいでしょう。

そういうセンチメンタリズムも悪くない。

野田君をしのんで 一杯 やりましょう。

どうぞ 遠慮なく。

あの… 絵は? ああ 今 倉庫の方へ案内するから。

でも ちょっと 一息つかせてくれたまえよ。

あなた お仕事は何なの?

製造業です。

製造業って あの… 何か つくる?

自動車用のシャフトやコーンを つくってます。

へえ~。ハハハハハ!

いやいや 失礼。あの野田君が反面教師に なったのかと思うと おかしくってさ…。

そういや さっきから 何だか汗くさいと 思ってたんだが

あなたの尊い汗だったってわけね。 ハハハハハ!

親父の絵 青でしたか?

えっ? いや 詳しくは覚えてないけど…

うん 青でしょう。青に決まってますよ。

彼は あの青に こだわり続けたんだから。 フフ…。日本のピカソってとこかな。

ハハハハ…。

バカが…。 約束が違うって ご機嫌斜めなんだ。

ハハハハ…。しかし 傑作ではあったね。

野田君の青の話をしている時に いきなり 青い下着の男が現れるなんてさ。

ハハハハ…。

こういうのって フランス映画か何かで ありそうじゃないの。ハハハハ…!

いや 少し しゃべりすぎたね。 飲むと つい 口が回ってね。

どうしたの?

あっ ロンドンからだ…。

あっ… あ…。

うわ~!

警視庁… 桜田門の警視庁 番号 お願いします…。

合田雄一郎という人と 連絡を取りたいんですが…。

そちらのお名前は? 野田達夫。

ご用件は? 本人と 話がしたいんですが。

合田の氏名を もう一度 お願いします。

合田雄一郎。

はい 一課。 合田雄一郎と 連絡を取りたいんですが。

お宅の名前は? 野田達夫。

八王子署へ出向してますんで そっちへ かけてくれませんか。

急いでるんですが。自宅は?

八王子署へ かけてください。 番号は 04…。

「私は 女の首を絞めました。

6月2日午前2時半ごろ

私は 離婚した妻 王際宇 30歳に 金を借りようと マンションを訪ね

ソファーで あおむけになっていた 妻の首を そばの電話コードを使って

約5分間 絞めました」。 やった~!

やったじゃないか! あとは 動機だ!

合田!

もしもし? 警察ですね?

あの… 笹井という人を殺しました。

八王子署の合田雄一郎に 伝えてください。

野田達夫? そうだ 野田達夫。知ってるか?

知ってる。 笹井というのは?

どこの笹井だ? 分からないから 聞いてるんだ。

野田というのは 住所 どこだ?

確か… 福生だったと思う。

その野田だが 午前2時58分に 一課へ 電話かけてきて

「合田雄一郎と連絡を取りたい」と 言ってきた。

そっちの番号を教えようと思ったら 切れたそうだ。

それで? つい10分ほど前に 110番が入って

男の声で 「笹井という人を殺しました。 八王子署の合田雄一郎に伝えてください」。

その男は 野田と名乗ったのか? いや…。

しかし こんな時間に 二度も あんたの名前が出るのは

ひょっとしたら その野田じゃないか? どういう 知り合いだ?

おい! どういう知り合いなんだ?

「至急来られたし。 7時 大阪駅中央改札。タツ」。

今朝一番の 森からの電話によると

土井は 女が完全に死んでるのを 分かった上で 首を絞めたらしい。

どういうことですか? 土井はな 王際宇

つまり 別れた女房の 死に顔を見た時 「ああ これこそが

自分の やりたかったことだ。 これが やりたくって

俺は 何度も ここへ来ていたのだ」と 思ったそうだ。

で 首 絞めたっていうの? 遺体の。 やつは こう思ったんだと。

「骨になってしまえば もう殺せない。 今 殺さなくては」…。

まっ 夫婦ってことで追い続けた 合田に ポイントだな。

おい あいつ どこ行ったんだ?

何やってんだ? コソコソするなと言ったはずだ。

いや… これは…。 合田主任!

笹井って言いましたよね? 今 笹井って名前 入ってます。

え~ 変死体 男性…。 場所は?

中央区銀座3-5-20。 ササイ画廊本社3階。

はい。私です。

はい。分かった すぐ行く。

銀座の画廊で 殺しがありました。 私の知人が関わってる可能性があります。

現場 行かせてください。 知人の名前は?

野田達夫。

野田達夫…?

行くんなら 刑事 辞める覚悟で行け。

ちょっと お宅は? 何だ? 何で 七係が来るんだ?

ホシのこと 聞かしてくれ。 指紋 出たのか?

さし名で 一発だった。野田達夫だ。 見せてくれ。

野田の自宅は 留守。会社も出てない。 あんた 行きそうな場所に心当たりは?

ない…。

やつは 精神異常か?

いや…。 だとすると 相当の怨恨だな。

被害者と野田との関係は? 知らん。

知らんで済まんぞ あんた! 尋問するな!

癖になりそうだ…。

一課の人間なら 一度や二度は あんたを とっちめたいと思った覚えがあるさ。

出ました!

野田泰三っていうのは? 父親だ。

8月2日に 大阪の実家で亡くなってる。

お兄ちゃん… どうしたんよ? 急に。

すいません。ちょっと お願い。 はい。

何よ?あんな 大阪 来たら 急に 腹の具合 悪なってな。

はあ? 何? 病気? ちょっと 便所 貸してくれ。

俺 外の便所 あかんのや。

お兄ちゃん?

何か 変やわ…。

なあ 親父のボケ… うそやろ?

何よ? 急に。

親父のやつな 銀座の画廊へ 1人で 絵を預けに行ったらしいぞ。

それだけやない。「売れへんかったら 俺のとこへ送るように」て

手紙まで書いとったんやと…。 ふ~ん。

「ふ~ん」って 何や? 気にならへんのか?

あれは お父ちゃんの復讐よ。

復讐? そうよ。お父ちゃんはね

お母ちゃんが アトリエに 火つけたことに 仕返しして ボケたふりしたの。

本人が そう言うてたわけやないわよ。

でも そんなん 一緒にいてたら分かるもん。

ちょっと待てよ。確か お母ちゃんも ボケて 火つけた 言うたな?

そうよ。

もう やめてよ。そこまで疑いだしたら きりがないでしょう。

いくら何でも 親が そこまで 憎しみ合うてたとは思いたないわよ。

ああ…。

お母ちゃん ボケて 何年になる? 10年。

もう ええやないの。 殺し合いしたわけやないんやから。

お母ちゃん…。

あんた 暑いやろ? は?

休憩がてら アイスキャンデーでも 買うてきてくれへんか?

え? よろしいんですか? その間 俺 見とくから。

ほな 行ってきますわ。

あ~ 俺の分は ええで。 腹の具合 悪いから。はい。

お母ちゃん…。

何ぞ 欲しいもん ないか?

そうか…。

何 聞いても 分からへんのやったな…。

よかったな…。

これ 電報ですね。

「至急 来られたし。 7時 大阪駅中央改札。タツ」。

「タツ」っていうのは 達夫の「タツ」でしょうか?

打電時刻は?

「8月8日」 今朝です。 今朝の「4時35分」。

現在 2時5分。すぐに配備! 急げ! はい。

「合田雄一郎に伝えてくれ」と 110番通報があったのは 4時40分だ。

あんたより 5分先に知らせたい誰かが ここに いたってことだな。

誰だ?

恐らく 女だ。

佐野美保子って女…。

佐野美保子…? どこの女だ?

昭島署に聞けば分かる。 昭島署?

銃刀法違反で 今 昭島署が追ってる。

あんた 面識は あるのか?

ある。

この女か?

そんな絵じゃ 分からん…。

なかなかの絵じゃないか。 親父は 画家だったんだろう?

やつは 図工の成績は ずっと 1だった。

後で 改めて 事情を聞くことになると思う。

それまで 八王子で待機しててくれ。 いいな?

知ってることは話す。 それがいい。

あんたにとっても 野田達夫にとっても

その佐野美保子って女にとってもな。

「笹井京介さん 64歳の死因は 花瓶で 強く頭を殴られたためとしています。

警察では この事件は 会社員 野田達夫容疑者 36歳の犯行と見て

指名手配をして 行方を追っています。 野田容疑者は 昨夜遅く

笹井さんを訪ねたところを 画廊に 勤めている男に目撃されています。

では 次のニュースです」。

美保子…。

美保子!

私… 中央改札 行くところだったのよ。 ああ…。

初めて 大阪…。

でも これが 私 最後…。 達夫さんもでしょう?

喫茶店で ニュース 見た。

達夫さん…。

俺 中央改札 行かんつもりやった…。

美保子 来られるわけない思た…。

来たわ…。

よく分からないけど 達夫さんが殺したかったの

ホントは 私じゃなかったかと思って…。

どうして そんなこと言うんや?

美保子… 好きや。

もう一晩 一緒にいてくれ。

一緒に どこへ行くの?

何で こんな短うにしたんや?

亭主のとこ 帰るいうことか?

先に… 行くわ。

どこへ行くんや?

待ってくれ! やっと 会えたんやないか!

何でや!

佐野美保子の容体は? 大腿骨折 顔面複雑骨折 頭部挫傷。

命は助かるんだな? ああ。

しかし 頭の打ちどころによっては 後遺症が残るという話だ。

野田達夫が突き落としたというのは? 目撃者の証言が とれてる。

野田は 美保子を突き落としたあと やって来た環状線に飛び乗ったそうだ。

佐野美保子の財布に入っていたそうだ。

コピーだから黒く見えるが この太い線は 赤い口紅か何からしい。

まさか あんたが書いたんじゃないな?

口紅以外は 俺が書いた…。

いつ? どこで? なぜ書いた?

拝島駅の事故の時 跨線橋で 男を追って逃げた女を見つけた。

男の女房だと名乗った。

女は 「すぐに警察に行く。 どこにも逃げないから」と

俺の手帳に 住所と名前を書いた。

代わりに 俺は 自分の連絡先を書いて渡した。

手帳。

合田さんよ。あんたは ふだんなら 絶対に やらないようなことをやったんだ。

ホームから逃げた女を その場で バンかけといて

任意同行を求めなかった。 分かってる。

何でだ? 理由はない。

あんたは 怠慢をやるような男じゃない。

俺が混乱する。 理由を きちんと述べてくれ。

理由はない。

強いて言えば…

あの日は 暑かった。

頭のネジが 1つか 2つ… 溶けてたのかもしれん。

何だ? これは。 裏。

多摩荘に 美術全集があったろう。

あのピカソの画集の中に挟んであった。

何か 覚えは?

いや…。

それ あんたが 昔 書いたんじゃないのか?

記憶にない。

そうか…。

野田が不良少年やってた頃の 逮捕記録 観察記録を読むとな

「僕は 人殺しになるんや」って言葉が よく出てくる。

俺は知らん。

いや… たかだか 10歳の子供が書いた走り書きを

どうこう言うつもりはない。

だが… とにかく 野田が 30年近く 持ち続けていたものだからな…。

終わりだ。これ以上 聞くことはない。

俺が書いた…。

俺が 「未来の人殺し」って書いたんや。

やつは 「人殺し」と 言われるようなことを やったのか?

くだらんことだ。 くだらんことの方が いいさ。

俺のカラスを殺した。

俺が飼ってた子供のカラスに 青い絵の具を塗ったくった。

学校から帰ったら 青いカラスが死んでた。

それだけだ。

一つ 聞いていいか?

東京駅で 野田と佐野美保子が 一緒にいるのを見た時

お前 どんな気持ちだった?

気持ち? ああ。どんな気持ちだった?

あの野郎! こん畜生!

お前 嫉妬だと思ったか?

嫉妬以外の何だ?

それは 相手が 野田だったからか?

野田の女だから 惹かれたのか?

どういう意味だ?

俺は 人と争うことでしか 女を好きになれないって意味か?

お前と佐野美保子は 事故の日 拝島駅で会ったのが 1回目。

翌日 東京駅で会ったのが 2回目。 合計しても 数十分の関係だ。

どう考えたって 嫉妬するような 段階じゃないだろう。

拝島駅2分 東京駅1分。合計3分だ。

その3分の ほかには ないのか?

6日の午前11時ごろ

八王子の事件の地どりに向かう途中 偶然 見かけた。

どこで? 拝島駅。

見かけて どうした?

夢中で追いかけて 声をかけた。ハッ。

「お茶でも飲みませんか?」って言った。 ハッハ。

「お茶でも飲みませんか?」って ナンパしたんだよ!

相手の返事は?

なし。

ひと言もなしか?

電車に乗って 行ってしまった。

その間 1分。

合計4分が 俺と佐野美保子の全てだ。

4分間か…。

野田は 14年になると言ってた。

昔 電車が走ってた道 行ってくれへんか?

昔の電車道いうたら これですけど…。

ああ。子供の頃な あの電車 どこまで行くんやろ思てたんや…。

とうとう 降ってきましたわ。

ああ…。

俺が言うのも おかしいけどな…。

言えよ。

俺なら 事件関係者と分かってまで 電話をするほど ほれた女なら

藁一本の可能性でも ひょっとしたらと思う。

今か今かと 連絡を待ち続ける。 とにかく ひたすら待つ。

お前は 待たなかったのか?

ああ。

そうか…。

そうだ。

俺は 待たなかった…。

今度は 開けたつもりだったんだ…。

ドアのない家だよ。

貴代子が言った…。

「あなたは 窓を開けて 何か言い また 1人で閉めるだけ。

相手を招き入れるドアのない家」だって…。

今度は… 今度だけは 開けたつもりだったんだ。

だから メモを渡し 呼び止め 電話まで かけた。

だけど お前の言うとおり 俺は 本当は 美保子を待ってなかった。

俺は 自分だけ 浮かされたような 気持ちになって

相手を ひっかき回しただけだ。

俺は 本当には 美保子を求めてなんかいなかった。

そうや…。美保子だけやない。

親父や おふくろのことも…

貴代子も… それから あんたのことも 一度も求めたことなんかない。

与えるどころの騒ぎやないわ!

怖いよ…。

雄一郎…。

俺は怖い…。

自分が怖い…。

恐れたらいいさ。

何にも見えない森の中にいるみたいだ…。

なあ 雄一郎…。

俺も もう とっくの昔に 森の中に入ってるがな…。

こっちは まだ… 呼び止めるべき人の姿も見えないぞ。

合田さん! 野田だ!

野田から あんたに 電話が入ってる! 出てくれ!

もしもし?

雄一郎か? ああ 俺や…。

俺 フラれてもうた…。

美保子に フラれてもうた。

俺… 人… 殺してもうた…。

美保子は生きてる。心配せんでええ。

達夫… 今 どこに おるんや?

達夫… 達夫…。

なあ 達夫 青いカラス 覚えてるか?

俺の好きなんは… 青なんや…。

ああ そうや。そやったな。 俺 アホやな。

お前が 青が好きなん 忘れとった。

達夫… それ 雨の音か?

大阪は… 雨なんや。

聞こえる。すごい音や。

俺の目… おかしいんや…。

えんじの雨が降っとる…。

雨も… 道路も… 空も…

全部 えんじや…。

雄一郎…。

照柿の雨や…。

ああ… 照柿か…。

そうや。照柿や…。

俺が お前に教えてやった色や…。

覚えてる…。覚えてるで 達夫…。

天下茶屋のうちで お前が 庭の柿2つ 手に載せて

柿色でも いろいろあるんやて 教えてくれた。

そうやった…。達夫。

何か言うてくれ 達夫。

俺… ものすごう苦しい…。

もう 息できへん…。

達夫…! 達夫!

深呼吸や! 息 吸え!

心配せんでええ。 空気ならな なんぼでも あるんやぞ!

達夫! 俺の声 聞こえるか? 達夫!

達夫! 達夫 好きや。

俺は お前が好きやぞ!

雄一郎…。

俺…

今 おかんに会いたい…。

「加納祐介殿。 前略 長い間 決心がつかなかったが

兄貴の勧めに従って 先週 大阪へ行ってきた。

病院で 佐野美保子に面会し 驚き 戸惑い 恐怖を感じ

ひと言も言えずに 花だけ置いて 逃げ帰ってきた。

顔を失い 植物状態で眠る 一人の女の姿は

それを見る人間の鏡だった。

あの顔は つい2か月前に 一目ぼれしながら

顔一つ失っただけで 逃げ出した 俺自身の顔でもあった。

美保子の姿は この先も 俺の脳裏に生き続けるだろう。

悔やみ 恐怖に襲われ また悔やむ日々が この先 ずっと続くだろう。

そういえば 野田達夫は まだ 面会に応じてくれない。つらい。

あの日… あの逮捕の夜

俺は 確実に 深く暗い森を 抜け出した気がしたんだが…

それは また 新しい森へ 迷い込むことだったのか…。

今は 何も答えが出ない。

一生 答えなど出ないのかもしれない。

今は とにかく 新任地での業務に 慣れることを考えようと思う。

末筆になったが げた箱の奥に 貴代子の靴が1足 残っていた。

6年前 貴代子が出ていく前の日に

『靴ぐらい磨いて』と差し出した 赤い靴だ。

なぜ それだけが残っていたのか 今となっては分からんが

考えた末 勝手に処分させてもらった。

明日の朝 6時に発つ予定。 天気予報は 晴れだそうだ。

10月10日 雄一郎拝」。

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