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「私の中には 悪魔が住んでいます…。
突然 頭の奥から 『女の首を絞めろ』 という声が聞こえてきたのです。
被害者 王際宇さんに 個人的な恨みはありません。
私は 悪魔の声に従っただけなのです」。
何だ そりゃ! どこの誰だ? そんな ふざけた調書 取りやがったの!
昭島署の防犯課。 防犯課?
何を聞いてるんだ! シャブでパクられたガキだと言ったろ!
当たらないでくださいよ。 ヨソに ぬかれたからって…。
まだ ぬかれたと 決まったわけではない!
でも 吐いたんでしょう? この堀田ってガキが…。
俺がやったって言ったんでしょう? ガイシャとの関係は?
「ガイシャのいた店で この3月まで アルバイト。
事件当夜は タクシー乗り場で 偶然 会って
ガイシャに 酒を飲みに来ないかと誘われ 部屋に行った」とあります。
金は どうなってるんです? とられた 80万。
詳しいことは分からん。 今は その調書だけだ!
しかし こんなガキにやれる ヤマじゃねえぞ。
首絞めて 部屋 物色して 最後は ご丁寧に
とっくに息のないホトケに とどめまで刺して 帰ったやつなんだぜ。
防犯課の婦人警官にでも どなられて
でかいこと 言いたくなったっていうとこじゃないの。
くだらんこと 言うな! くだらんことも言いたくなりますよ!
こっちは 2か月もかけて チマチマ
ガイシャの元亭主ってセンを 固めてきたんだ。
それを いきなり ヨソが ホンボシ挙げた。 「お前らのは外れだ」って
そう言われたんだぜ! やめろ 又三郎!
いずれにしても 今夜 堀田は こっちへ移監されてくる。
来るのはいいんすけどね…。 何だ? はっきり言え!
どうすりゃいいんです? 容疑 固めればいいの?
それとも 我らが ホンボシ 土井幸吉のために 潰せばいい…。
上は 「堀田で固めろ」と言っている。
上じゃなくて 係長自身の判断は どうなんです?
悪魔の声を聞いて殺したってガキと バクチで借金作って
行方くらましてる元亭主。 どっちが ホンボシだと お考えですか?
明日で 事件発生から2か月。 捜査本部解散は 時間の問題だ。
それまでに 土井の行方が割れる可能性は 俺の判断では 極めて薄い。
はあ? だから? 事件に ホシは必要だ。
ヒヒヒヒヒ…。 変な声 出すな!
合田主任 何か言うことないのかよ?
ないな。
何で? あんたの恋い焦がれる 土井幸吉のセンが
あえなく 崩されようとしてるんですよ。
ハハハ…。
笑ってる場合かよ。 土井一人に絞った責任者として
上への言い訳 考えといた方が いいんじゃないの。
おい おい! お前さんだって 土井のセンで納得したんだろう?
俺は 「物証もないのに 一本に絞るのは 危険だ」って言ったはずだ。
私はね 「6年も音沙汰なかった 元亭主なんて薄い」って言いましたよ。
戦犯探しは やめろ! つまらん!
けどよ これで マジに 堀田が ホンボシだとしたら
つまらんなんて 言ってられないんじゃないの?
何のために わざわざ 本庁が 八王子まで出向いて
捜査本部を張ったのかって 100万回 言われるぜ! 100万回!
全く このクソ暑いのに よく ベラベラ しゃべるよな!
やめろ やめろ! とにかく 今夜 堀田が来るまで 始まらん。
今後のことは それからだ。 いいですか? 結構です。
それまで 解散。 ご苦労さん!
どこ行くんだ?
土井の賭博仲間が出入りしてる雀荘。
まだ 土井の足取り 追うっての? 上は 「堀田で いけ」って言ってますよ。
警部補殿も外したわけね。
何だよ? 随分 うれしそうじゃないか?
人の失敗 喜ぶの 人間の常でしょう。 フフフフ…。
しかし 大丈夫かね。
あいつの寝首かきたいって人間 山ほど いるからな。
しかし ついてませんね こんな日に 冷房車じゃないなんて。
帰ってもいいぞ。 はあ?
無駄足かもしれん。
まだ 堀田が ホンボシと 決まったわけじゃありませんよ。
四面楚歌の上司に 同情したか…。 私は 誰にも同情なんかしませんよ。
自分の手で ホシ 挙げたい。 それだけです。
お前 数字を上げたいか?
何です? それ。 主任の言葉とは思えないな。
この写真…。 ガイシャのデスマスクだ。
何で こんな写真…。
殺されたやつの顔でも拝んでないとな…
何もかも どうでもよくなっちまいそうでな…。
意外だな。 主任は 迷いなんてものと 無関係な人だと思ってましたよ。
そら お前だろう。
お互い 他人のことは 分かってないってことですかね。
はっ。
でも デスマスク 見たくらいで 迷いって消えるもんですかね?
少しはな。 へえ~。
しかし 気が狂いそうだな この暑さ…。
「拝島 拝島です」。
追いますか? その辺まで行ってみろ。
所轄が来たら 任せたらいい。
警視庁の者です。 ドア 開けてください!
主任 こっちです!
「ただいま 人身事故が発生したもようです。
調べますので 少々 お待ちください。 なお 捜査が終わるまで
電車を移動できませんので ご乗車は しばらくの間 お待ちください。
ただいま 人身事故が発生したもようです。 調べますので 少々 お待ちください。
なお 捜査が終わるまで 電車を移動できませんので
ご乗車は しばらくの間 お待ちください」。
おい! あんた 何してる!?
本庁の合田だ。 失礼しました。
本庁が 何の用です?
落ちた女と もみ合ってた男が逃げた。 うちの者が追ってる。
ヨソの現場で 余計なことしないでくれ。
その男なら こっちも 何人も 目撃者 つかんでんだよ。
悪いな。 俺は しょうもない縄張り根性が嫌いでな。
危ないですから 下がってください。 危ないですから 下がってください。
押さないでください。
危ないですから 下がってください。
はい 危ないです! 下がってください。
危ないですから 下がってください。
失礼ですが…。
何ですか?
先ほど ホームに おられましたよね。
女性が 線路に落ちた時です。
あの人 死んだんですか?
即死でした。
そう…。
じゃあ バラバラになったのね…。
あの女性 ご存じなんですね?
知りません。
しかし あなたは ホームで 女性と もみ合ってた男が逃げるのを見て…。
あれ… 主人です。
どうしました?
寒いんです。
寒い…?
はあ… 寒いんです。
警察で 話を聞かせてもらえませんか。 時間は とらせませんから。
何か 書くもの ありませんか?
逃げたりしません。 後で行きます。
待って。
担当はできませんが 何か 力になれることが あるかもしれません。
温度が下がってるぞ! 手動で燃やせ!
本当ですか? ああ。 どれぐらい下がってるか確認しろ!
職長! どうした?
温度は 正確です! そんなはずないだろう。
狂ってるぞ この温度計。 まさか…。
目で確かめてみろ! 炎の色が違うんだ!
どうだ?
すいません。 私には いつもどおりに見えますが…。
何年 ここにいるんだ! いつもは こんな深い だいだい色じゃない!
もっと黄色がかってるだろう! 何の騒ぎだ?
割れが出たんだ!
「熱処理の野田達夫さん お電話が入っています。 繰り返します。
熱処理の野田達夫さん 野田達夫さん お電話が入っています」。
え?
そうか…。 分かった。
そら 行くわ。
今日は遅いから 明日な。
あ~ あ~。 ごめん!
いいんだよ。 脳みそ拾うより まだ マシだからね。
脳みそ?
いえね ここ来る前に 駅で 飛び込み事件があってさ
駅員がね 脳みそ拾ってるとこ 見ちゃったんだよ。
あの仕事だけは ごめんだよ。
飛び込みか…。 若い女で 不倫だって!
ねえ 別れ話の末に ホームで コレやって 落っこちたっていうんだから。
福生にさ フロンティア製薬の研究所が あったろう。
大学出の研究員らしいよ。 相手は 上司だって。
分かんないよね~。 信用金庫に勤めてる 美人の奥さんがいるってんだよ。
そんな 浮気なんかすること ないじゃないのよ…。
達夫さん…。
食堂から 外 見てたら 美保子が見えたから…。
どうして? え?
何で 急に追いかける気になんか なったの?
いいやないか 追っかけたって…。 ここは 団地の中やないんやし…。
聞いたのね 亭主のこと。
ああ…。
警察に連れていかれたわ。
そうか…。
飲んじゃっていい? ああ 飲めや。
こんなの飲んで 元気 出そう っていうんじゃないのよ。
週刊誌の人とか うちの周り うろうろして
近所の人に いろいろ聞き回ってるみたい。
それで 帰れんのか?
まあ ええやないか。
よくないわ。 何で?
人が死んだのよ。 人が死ぬん 悪いことやないで。
あんなあ… 親父が死んだ。 え?
今日の夕方や。 うそ…。
そんなこと うそ言うて どないすんのや。
ついさっき 大阪の妹から 電話があったとこや。
やっと 死によったで。 やっとやで。
やっとや!
土井が保護された? 本当か? ええ。
大阪の曽根崎署から 電話が入ってます。
大阪に いやがったか。
場外馬券場裏の食堂で 無銭飲食。 大阪は それだけで
今夜 署にとどめておくのは難しいと 言ってますが…。何!?
そっちです。
合田です。 聞きました。
明日の朝イチで行きますので 保護期限の延長 お願いします。
いや そこを なんとか…。 余罪は 引き出せないんですか?
何 監査やと? 何 言うとるんや あんた! 殺しの容疑者なんやぞ!
何かあったら こっちで 責任 取ったる!
さあ どうぞ! さあ 受けてください! はい!
さあ どうぞ! さあ どんどん受けてください!
失礼します。
分かった。
お久しぶりです 合田さん。
この間は うちの若い者が お世話になりました。
タバコを差し入れただけです。
留置場でのタバコは ムショのタバコより 高いって言われてますからね。
で 今日は何か?
土井幸吉って男 知ってますね?
こちらの賭場に 顔を出してたって 情報は つかんでます。
それで?
やつの 今年前半の金の出入りが知りたい。
ハハハハハハハハ…!
まさかと思うが 帳面の写しを見せろ ということじゃないでしょうね?
お断りします。 私にとって 帳面の写しを見せるということは
あなたで言えば その黒い手帳を 貸すのと同じことですよ。
もちろん その手帳と交換ってことなら 話は別ですがね。
どうです? ちょっと 上で遊んでいきませんか?
結局 あなたは 甘い汁を吸う度胸がない人だ。
そういうのは 度胸とは言わない。
一つだけ 教えといてあげましょうか。
私ら相手にして 情報 とろうっていうんだ。
寝首かかれるか 刑事 クビになるかの 覚悟くらいしてから 来た方がいい。
まっ あまり深く考えないで。
何だかんだ言って 私は あなたが とても気に入ってる。
手を汚したくなったら いつでも ここに 遊びにいらっしゃい。
あなたなら オマケは いっぱい つけてあげましょう。
寂しくないの? 何が寂しいんや?
暗いわ。 暗いの 嫌いか?
ホンマの100ワットってわけに いかんけどな。
うちな 子供の目が悪なったらいかん 言うて
女房が 家じゅう こうこうと 電気つけとるんや。
理科の教師のくせに たまには 明かり消して
星 見ようやなんて気 全然 あらへん。
座れよ。
ホントにいいの? 泊めてもらって…。
いいのって言われるほどの部屋やない。 家具なんか 全部 拾ってきたやつやしな。
でも 達夫さんの 秘密の部屋でしょう?
団地の周り… 週刊誌いるんやろ?
じゃあ 1晩だけ…。
気分が落ち着いたら 自分で勝手に帰るから。
こんな部屋でも 借りとってよかった。
彫刻教室の先生が 家主でな。
潰したら 金かかるから ほったらかしにしとる言うから
アトリエにさせてくれ言うて 頼んだんや。
冷蔵庫ないから ぬるいけど…。
懐かしい… 達夫さんの大阪弁。
俺もや。
美保子と別れてから ほとんど しゃべったことなかった。
13年ぶりや…。
ちょっと… 顔 見せてくれ。
私…。
もう… 我慢がならないのよ…。
私の人生…。
ああ…。
こんな人生…。
ブドウみたいや…。
美保子の目…。
なあ 一緒に 大阪 行けへんか? 俺 案内したるわ。
お葬式に帰ろうっていう人が 何 言ってるの?
女房のことやったら 心配ないぞ。 学校の補習があるはずや。
大阪なんか行ってる暇ないはずや。
団地におっても 周りが うるさいだけやろ。
ちょうどええやないか。
なっ ええやろ? 明日の朝 迎えに来るから。
じゃあ… どこかで 待ち合わせしましょう。
待ち合わせ? 何でや?
どうして 私が お葬式に行っちゃいけないの?
「いけない」なんて言ってないよ。 「行く必要ない」って言ったんだ。
お前 補習があんだろ。 そう言えば 喜ぶと思ったんだよ。
不幸の話なのよ。 補習なんて ほかの先生に代わってもらいます。
そこまでして 行く必要ないよ。 逃げないでよ!
ちょっと! おっと!
私 あなたの正式な妻でしょう?
どうして いまだに 家族にも紹介してもらえないのよ?
それは… 俺が家を出た人間だか…。
何よ? 髪形 変えたのか?
いや~ね 今頃 気が付いたの?
美容室に勧められたんだけど… 似合わない?
いや… すごい似合ってる。
私ね 家を出た人間だからこそ 家族を連れて戻るべきだと思うの。
立派なところを見せてやらなくちゃ。 見せて喜ぶような相手じゃないよ。
新幹線代が無駄になるだけだ。
私じゃ 不足なのね。 そうなんでしょう?
いや びっくりしただけだ。 何で 話が そこへ行くのか…。
違うの? 違うに決まってるだろ!
高卒の俺に 教師なんて 過ぎた女房だと思ってる。
誇りに思ってるよ。
お帰りなさい。 何だ? 塾じゃないのか?
今日は 火曜日じゃないか。 いるんだったら すぐ「お帰り」ぐらい言え。
父さん いちいち お前の塾の日なんて 覚えてないんだ。
へ~い。
もしもし? 俺だ。 合田だ。 今日 来たのか?
ああ。 マスコミが うろついてない所で
公判資料 ゆっくり読みたくてな。
永田町がらみか?
今は言えない。
尾行されなかったろうな。
分からん。 おい おい。
花 持って いそいそと 合鍵 出してるのを見られたら
愛人の家だと思われたろうな。
男が一人で住んでるなんて分かったら 余計に ヤバい。
「特捜部の検事に ホモの愛人」なんて 書かれるぞ。 ハハハ…。
実は 妹の貴代子が帰ってきてる。
一人だ。 あの男は ボストンだ。
籍を入れるらしい。 親父の七回忌と お前に報告するために 帰ってきたらしい。
俺には 関係ない。 夫婦なんて 別れたら くっつく前よりも 他人だ。
そうか…。
まあ とにかく 今は 捜査で忙しい。 また 連絡する。
達夫か…。
こんなとこで 何してんだ? 待ち合わせや。
17~18年ぶりか。
東京へは? 俺な 高校 出てから ずっと こっちや。
ホントか? どこにいるんだ?
羽村。 太洋精工って知らんか? あそこに勤めとる。
知ってるよ 大手じゃないか。 しかし びっくりしたな。
俺な 今 仕事で 八王子にいるんだ。
何の仕事や?
マッポ。
うそや! ホントだ。
何で? デカにだけはならん 言うてたやないか。
何でやろ…。
まあ ええわ。 おふくろさん 元気か?
とっくに 死んだわ。 そうか…。
うちの親父な 昨日 死によったで。
ほんなら…。 そうや。 葬式に帰るんや。
そやったんか。 俺も 大阪や。
捜査いうやつか? まあな。
で お通夜は 何時からや? 6時からや。
6時か…。 ちょっと無理やな。
無理するな 気色悪い。 これじゃ まるで 大親友の再会の図や。
おい。
お前 寝不足やろ?
俺も寝不足やから 分かるんや。 ゆうべなんか 一睡もしてへん。
親父さんのこと 考えとったんか? まさか。 俺が何か考えたりするか?
女は 別やけどな。 相変わらずやな…。
お前は 仕事か?
いや 何か知らん…。 むかむかして 寝られへんかった。
何がや? 分からへん。
人生の全部やろ どうせ。 ふ~ん。
あっ 連れが来た。
ほな ここでな。 おう。 お母はんに よろしゅうな!
美保子!
主任。
行くぞ。
亭主は分かるけど 何で 美保子まで出頭せなあかんのや。
何や? それ。 アパートのポストに入ってたの。
急ぐもんだといけないと思って…。
へえ~。 ポストなんか 見たことなかった。
あんなボロアパートに 郵便なんか 来るんやな。
ちょっと待ってください。 土井が 病院に収容されました。
えっ!? 今朝 留置場で 吐血したそうです。
吐血? 何で? いや… 大阪は 「来るな」と言ってますよ。
こっちが 無理やり 勾留延長させたせいだって騒いでます。
言わしとけ。
血を吐いたついでに 殺しも吐いてもらおうじゃないか。
それ 有名な絵?
怖い絵ね。
今から行くんか? 警察。
俺な… 警察 嫌いや。
デカなんか 大嫌いや…。
いつ 大阪に来た?
何しに 大阪へ来た?
おい 血を吐いたとは聞いたけど 何も しゃべれないとは聞いてないぞ!
秦野組から逃げるためか?
あんた あそこの賭場で 500万近く すったらしいな。
心配するな。 証拠がないから 逮捕はせん。
ただな その あんたが 僅か2日後の6月3日の夜
雀荘で 派手に打ってんのを 見たやつがいるんだよ。
そん時の あんたの負けは 57万。
別れた女房にでも 借りたか?
中国人の美人の女房だ。
殺されたのは 知ってるらしいな。
あんたが殺したとは言ってない。
ただな あんたの元女房は 殺される日 すなわち 6月2日の日に
80万の定期預金を解約してるんだ。
その金が 部屋から 消えて なくなってる。
うるせえな! 別れた女房なんて 赤の他人じゃないか。
誰が 会いに行くか! 帰ってくれよ。 帰れよ!
帰れよ…。
また 見舞いに来てやるから おとなしく療養してろ。
ただし 退院する時は 気を付けろよ。
あんたが思ってる以上に
秦野のやつら あんたを 必死になって捜してるらしいぞ!
もしもし? 熱処理の野田だが 工場へ つないでくれ。
もしもし。 職長の野田だ。
昨日 4番炉の温度が下がってた。 保全課に言って 点検してもらってくれ。
はあ。 聞いてるのか? 4番炉の温度が…。
分かったよ。 おい! あんた 誰だ!?
ホンマに おきれいですわ。
最近は きついお薬で お痩せになる方が多いんですよ。
こんな きれいな仏さん 珍しいです。
よっぽど 生前の行いが よろしかったんでしょうな。
はあ…。
ほら これで生きてはるみたい。 参列者の方々も びっくりなさいますわ。
どうせやったら 口紅 引いてやってや。
お兄ちゃん…。 一番赤いやつがええな。 真っ赤なやつ。
親父な 真っ赤な口紅が 好きやったんですわ。
へえ… ホンマに死によったんか。
お義兄さん! お母ちゃんは?
食堂。 介護の人が ごはん 食べさせてくれてる。
へえ~。 親父が死んだ喜びで ボケも治るかと思たけど 無理やったか。
と… とにかく 着替えなさいよ。 服は 持ってきたんでしょ?
あんた… まだ 口に入っとるで!
そうですか? けど 全部 飲み込むまで待ってたら
1時間以上も かかりますよって。
まだ ネクタイ 締めてんの? ああ。
お前の亭主と違て ふだん ネクタイなんか 締めへんからな。
何や ゆがんでしまうんや。 ゆがんでんのは 何かしらね。
とにかく はよして。 もう 近所の人ら 来てるわよ。
何よ~? 何なのよ?
もっと マシな看護婦 おらんのか? どういう意味?
あの おばはん 心 こもってへんやん。 何 言うてんのよ。
あの人 一日1万円もするんよ。 1万円か…。
ケチらんと 倍ぐらい出したれや。
ほったらかしで 会いにも来ん人に 指図されたないわ。
お前かて あの おばはんに 任せるだけやないか。
自分で 面倒 見てるわけやないやろ。 お金 払ってるのは 私よ。
もともとは お母ちゃんが もうけた金やろ!
へえ~! 何や?
お金の話が したいん? ないわよ。
お父ちゃんが ホームへ入る時の権利金で 全部 はたいてしもたんやから。
もらお思てへんわ!
ホンマかしらねえ。 まあ ええわ。 どっちにしても 遺産なんかないんやから。
あ そうや。 あったわ。 お兄ちゃんには 遺産があったわ。
親父の絵やないか。 老人ホームでも 描いてたらしいわ。
いらんわ こんなもん! どうしてよ?
画家 野田泰三の 最後の絵よ。 アホか。 金 もろても いらんわい。
ほかさんでも ええやない。
達夫。
雄一郎…。
仕事が はよ 終わったから。 へえ~。
俺な ホンマ言うと… お前 来るような気してた。
そうか…。
どうするんや? それ。 捨てる。
どこへ? どこにしよう。
赤いな。 何が?
大阪の夕焼け。 東京より 赤い気せえへんか?ああ…。
俺 昨日も 夕焼け見た。 へえ~。 デカも 結構 暇なんやな。
この色 何ていうんやった?
ガキん時 お前に教えてもろた覚えが あるんや。
確か 特別な名前が付いとった。
俺やない。 俺は 夕焼けの色なんて教えてへんぞ。
達夫…。 俺は 知らん。
ホントなら 奥さんが作ったものは 大目に見るんだけど…。
分かるでしょう? 不倫の果てに 愛人 死なせた亭主に
愛妻弁当 届けるわけにはいかないの。
何だ!? こりゃ! この野郎!
うるせえな! コラ! 静かにさせんかい! コラ!
はい すいません!
どんな味付けしてるか 分からないからね。
もっとも 奥さんが 何でも しゃべってくれるっていや
話は 別だけどね。
昼間も聞いたけどさ あの手の傷 何なの?
佐野は 「覚えてない」って言うし…。
奥さんは 奥さんで 「気付かなかった」って言うけどさ…。
あれ どう見ても 刃物の傷なんだよね。
本人が覚えてないわけないんだよ。
私 見てました。 あの人 あの女の人を殺してません。
フフッ。 麗しいねえ。 ご主人を かばおうっていうの。
だったら 教えてくださいよ。
旦那 体の あちこちに 傷があるよね。
この へその下なんて
古いけど 20センチあったよ。 あれ どうしたの?
この際だから言うけどね 旦那 奥さんの話 したら
脂汗 流して ブルブル 震えてるんだよ。
どうしてかな?
焦げてるぞ。 ああ。
食い過ぎると 頭が鈍るから 食わんようにしてたら
いつの間にか 食えんようになってしもた。 へえ~。
お前こそ 食えよ。 俺 肉 あかんのや。
女の人 皆 よう食うてたな。 親父の女か?
よく連れてきてもろた。 俺と お前と…。
親父 べっぴんより…。 いろんな女の人…。
よう肥えて よう食う女 好きやった。
俺も ガリガリで ヒステリーの おかんより
尻の でっかい お前の おかん 好きやった。
しゃあないやろ。酒! はいよ!
お前の おふくろさん 親父さんの代わりに
会社 切り盛りしてたんやから。 そういや 死んだ女も よう 食うてた。
踏切で死んだ女や。 赤い爪の…。
はい お待ち! お前の親父も 現場検証に立ち会うてた。
今でも 思い出すことある。 踏切で死んだ時のことやないぞ。
あの女が お前と俺に ジャンケンせえ言うた時のことや。
あのジャンケンな…。
親父さん 脳溢血やいうたな。
あんなに 女が ようさん おったのに
最後は ボケて 一人 老人ホームで ポックリや。
俺の おふくろも 親父が死んでから ちょっと 神経 やられてな…。
結局… 死ぬまで 病院通いしてた。
へえ~。 お前んとこ そんな夫婦仲よかったか?
おふくろの悲しみ方は 尋常やなかった。
あんな 酒飲むだけが楽しみの平巡査… どこが よかったんか知らんけど
俺の飯も作らんようになったぐらいだ。 うちとは 大違いや。
酒!は~い! 俺 警察 入って
さっさと 親父より偉くなってな おふくろに言うてやろ 思てた。
「あんたの旦那は いつまでも悲しむほど 大した男やなかった」ってな。
お待ち遠さん。
お前 ガキん時から 人に負けたん 忘れられへんやつやったからな。
で 言うたんか?
言う前に死んだ…。
懐かしいな この色。 親父さんの絵 いっつも こんな きれいな青やった。
何が きれいや。 一生 絵の具 こねくり回して
結局 探してる色は 見つからんかったんや。
そうか…。 何や?
俺 昨日 銀座で見たぞ 親父さんの絵。 銀座で?
3丁目の画廊に飾ってあった。
そや 間違いない。 何や 懐かしい絵や思たけど
親父さんの…。 いいかげんなこと 言うな!
親父の絵が 銀座の一流画廊に 飾ってあるわけないやろ。
ええか? 親父はな 画商もない 客もない
裸の女 はべらせて 見てるだけの スケベエ画家やったんや。
けど 若い時は 嘱望されとったんやろ? 酒! 首 くくったる。
はあ?親父の絵が 銀座にかかってた いうんやったら 首 くくったる。
ほな くくれ。 何やと?
俺かて 子供の頃から 親父さんの絵 毎日のように見てたんや。
何かの間違いや。 間違いやない!
お前 絡みたいんか?
俺に絡みとうて わざわざ 通夜に来たんとちゃうんか?
なんぼ 子供の時 隣同士で育ったっていうたってな
お前が 東京 行ってからは 何の つきあいも なかったんや。
東京駅で 会うたからて 通夜に来るような仲やない!
何で来たんや?
何で わざわざ 仕事 ほっぽって 俺に 会いに来たんや?
はっきり言え!
イライラさせんな! やめとけ。
あの女とは 長いんか?
今朝 東京駅におった女や。
お前に 関係ないやろ。
関係はない。 ただ 知りたいだけや。
そんなに知りたかったら 調べたらええやろ。
お前 デカやろが! 教えてくれ。 いつからの仲や?
14年や。 それが どうした?
お前こそ 何や? 美保子 知っとるんか?
いや… そういうわけやない。
「そういうわけやない」って…。 ほんなら 一目ぼれでもした言うんか?
「一目ぼれ」?
そうかもしれん。
バカにすんなよ!
人に ジャラジャラ聞いといて 一目ぼれで済む思とんか!
美保子と寝たんか?
フフ フフフフ…。
フフフ…。
言え。 どうなんや?
美保子と寝たんか?
その顔や。 ガキん時と一緒や!
何 言われても 平気な顔して 座ってる。
その賢そうな顔で 偉そうに 犯人 捕まえとるんか!
デカは 似合いやで!
何か言え!
何か言うてくれ!
お前が 黙って座ってたら ムシャクシャするやないか!
顔は 生まれつきや。
ほら これでもして。 そんな顔してたら まるで 遺産争いで
ケンカでもしたみたいやないの。 お母ちゃん まだ食べてんの?
そろそろ 用意してよ。 あ~!
あ~あ もう! 落とすんやったら 汁気のないものにしてほしいわ。
なあ 尚子。 親父の絵 どないなってるんや?
絵? 親父が今まで描いた絵や。
捨てたわ。 捨てた?
お母ちゃんが 全部 捨てたんよね。
もう ず~っと前の話。
全部? そうよ 全部よ。 筆一本 残さずよ。
そやから 残ってんのは ホームで描いてた絵だけ。
昨日 あげたやないの。 何で お母ちゃん そんなことしたんや?
なあ 何でや?
知らんわよ。 どうせ 復讐でしょ。
お前 黙って見てたんか?
おい! 黙って見てたんか!?
お母ちゃんはね アトリエに 火 つけたんよ。
それで 全部 燃えてしもたの。
それが ショックで お父ちゃん おかしなったんよ。
何で 俺に黙ってたんや?
何年も連絡してけえへんかった人が 何 言うてんの?
こっちが どんな大変やったか…。
一体 何があったんや? 何で 火なんか…。
知らんわよ。 お母ちゃんかて ボケが来ててんやから。
ず~っと我慢してきたもんが ボケて 一気に噴き出したんとちゃうの。
ただいま 戻りました。
お帰んなさ~い。
戻りました。 ああ。
土井幸吉は 大阪中央病院に入院中です。
病名は 声門上がんで 手術以外に治る見込みは ありません。
しばらくは 入院…。
面会したそうだな? はい。
成果は? ありません。
「ありません」じゃ分からんな。 詳しく報告しろ。 どんな聴取をした?
今から 報告書を作成します。
今すぐ聞きたいんだ。 土井に何を聞いて 土井は何と答えた?
ついさっき 曽根崎署から 連絡が入った。
土井が カミソリをのみ込んで 自殺を図ったそうだ。
え? それで?
命に別状はない。 ただし 声帯の損傷が激しいため
早急に 喉頭摘出の手術をするらしい。
つまり 土井は 声を失うというわけだ。
一体 何を言ったんだ!? ヤクザまがいの脅し方でもしたのか?
何しに行ったんだ? お前たちは! 合田。
はい。 土井のセンは 終わりだ。
「天は 神の栄光を物語り 大空は 御手の業を示す。
昼は 昼に語り伝え 夜は 夜に知識を送る。
話すことも 語ることもなく 声は聞こえなくても
その響きは 全地に その言葉は 世界の果てに向かう」。
残された私たちも 今は ここにいない者も
終わりの日に 共に 復活の恵みに あずかり
先に召された父 宗一郎と共に
永遠の喜びを 受けることができますように。
主 キリストによって。 アーメン。 アーメン。
八王子のヤマ 大変らしいな。 知ってるのか?
わざわざ 耳に入れてくれるやつがいるんだよ。
「あんたの義理の弟が 失策したらしいぞ」って うれしそうにな。
「とっくに他人だ」って言ってやれ。
目が赤いぞ。 この2か月 休みなしだから。
組の賭場にも 出入りしてるらしいな。 そんなことまで知ってるのか。
外の者が いろいろ言うことじゃないが 物事には 引き際っていうのもあるぞ。
俺は あんたら検事とは違う。
刑事の仕事はな 一つ引く度に 己の立つ場所を失っていくんだ。
失礼します。
お久しぶりです。
ああ…。
元気そうじゃないか。
あなたは?
何も言わなくてもいい。 祐介から 全部 聞いたよ。
全部?
籍 入れたんだってな。 よかったじゃないか。
遅すぎたぐらいだよ。
俺のことなんか 気にするな。 幸せになれ。
貴代子…。
「はい」 …って言うしかないわね。
「何も言わなくていい。 幸せになれ」。
はい そうします。
フフフ…。 ドアのない家ね。
あなたのことよ。 昔から ずっと そう。
窓を開けて 何か言い また 窓を閉めるだけ。
自分から出てくることもなければ 人を招き入れることもないの。
どこにも ドアがないんだもの。
失礼します。
誰もいない海 二人の愛を 確かめたくて
あなたの腕を すりぬけてみたの
走る海辺のまぶしさ 息も出来ないくらい
早く 強く 抱き…
美保子…。 やっぱり 美保子やったんか…。
ええんか? うちの方。
敏明 逮捕されたの。
そうか…。
私も 逮捕されるかもしれないわ。
何を言うとるんや? 何で 美保子が逮捕されるんや?
私が追いかけたから 敏明と あの女の人 駅へ逃げたんだもの。
それだけで逮捕されるわけないやろ。 アホやな。
じゃあ 逮捕して…。 達夫さん。
ハハハハ…。
なあ 美保子の絵が描きたい。
ねえ 達夫さん 覚えてる?
私のオッパイ…
右と左と 随分 大きさが違うの。
ああ…。
同じ大きさに描いてね。
ジャンケンしよか?
ガキの頃な… 親父の女が
俺と幼なじみのやつに 「ジャンケンしてみ」言うたんや。
ジャンケンしてみ。 そや。
「勝った方に おねえちゃんの胸 見せたる」言うてな。
それで?
俺が勝った。 夏やった。
ムームー めくって 胸 見せてもろた。
何や 青~い胸でな… 気持ち悪かった。
雄一郎とは いつ 知り合うたんや?
隠さんでもええ。 雄一郎や。
刑事の合田雄一郎や。
刑事?
寝たんか?
寝たんか? あいつと…。
寝たわ。
無理と突出と偏向のおかげで ここまで のし上がってきたんだよ。
もう 行ってください。 このままでは別れられない。
ああ~っ!
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