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1
00:00:31,858 --> 00:00:39,566
♬~
2
00:00:39,566 --> 00:00:45,238
(鵜蔵)皆様 またのお運び
恐悦至極に存じます。
3
00:00:45,238 --> 00:00:49,743
私 芝居町のそば屋に
間借りをしております かわら版屋で➡
4
00:00:49,743 --> 00:00:53,046
鵜蔵と申す ケチな男。
5
00:00:53,046 --> 00:01:01,254
ただいま ご覧いただいておりますのは
日本橋堺町にある中村座。
6
00:01:01,254 --> 00:01:07,127
この お江戸随一の芝居小屋を舞台に
繰り広げられる➡
7
00:01:07,127 --> 00:01:15,602
伝説的な天才役者の立身出世物語
「中村仲蔵 出世階段」。
8
00:01:15,602 --> 00:01:21,274
前回は 落ちるとこまで落ちた中蔵。
9
00:01:21,274 --> 00:01:25,945
いまだ 名前に人偏のついていない
大部屋役者ですが➡
10
00:01:25,945 --> 00:01:30,784
あとは 出世街道を ばく進するのみ!
11
00:01:30,784 --> 00:01:34,554
…と いきたいところですが➡
12
00:01:34,554 --> 00:01:40,026
そうは問屋が卸さない。
13
00:01:40,026 --> 00:01:43,897
みなしごだった自分を養い
育ててくれた親を助けるため➡
14
00:01:43,897 --> 00:01:46,399
一度は 役者稼業から足を洗った中蔵。
15
00:01:46,399 --> 00:01:49,436
(中蔵)俺は… 芝居が好きだ。
16
00:01:49,436 --> 00:01:54,741
しかし 芝居への思い 断ち切りがたく
女房のお岸にも背中を押されて➡
17
00:01:54,741 --> 00:01:57,243
歌舞伎の世界に戻ってまいります。
18
00:01:57,243 --> 00:01:59,913
(お岸)よっ! 出戻り!
よせやい。
19
00:01:59,913 --> 00:02:04,584
出戻りの中蔵は 一番 位が低い大部屋役者
稲荷町から再出発しますが➡
20
00:02:04,584 --> 00:02:08,421
楽屋なぶりの洗礼を受けることに。
21
00:02:08,421 --> 00:02:11,057
「人殺し~!」。
下手くそ!
22
00:02:11,057 --> 00:02:14,260
(助五郎)俺の見せ場 ぶっ壊しやがって!
23
00:02:14,260 --> 00:02:17,931
つまり 先輩役者たちによる
集団いじめですな。
24
00:02:17,931 --> 00:02:20,266
しかし これが尋常ないじめじゃない。
25
00:02:20,266 --> 00:02:22,936
身も心も ズタズタにされた中蔵は➡
26
00:02:22,936 --> 00:02:26,439
なんと 橋の上から
川に身を投げてしまいます。
27
00:02:26,439 --> 00:02:29,342
しかし 捨てる神あれば拾う神あり。
28
00:02:29,342 --> 00:02:33,246
釣りをしていた謎の侍に
偶然 助けられます。
29
00:02:33,246 --> 00:02:37,383
何で助けたんですか~!
無駄な人助けしちまった。
30
00:02:37,383 --> 00:02:40,286
主人公が命拾いして セーフ!
31
00:02:40,286 --> 00:02:44,023
というところで
いよいよ 怒とうの後編へ!
32
00:02:44,023 --> 00:03:01,241
♬~
33
00:03:01,241 --> 00:03:06,045
(團十郎)三代目が亡くなってから 早12年。
34
00:03:06,045 --> 00:03:11,918
私の師匠である二代目も
御年66になられ➡
35
00:03:11,918 --> 00:03:17,790
これ以上 市川團十郎の名跡を
空けておくこと相ならぬ➡
36
00:03:17,790 --> 00:03:21,261
との お叱りを受けました。
37
00:03:21,261 --> 00:03:25,131
この上は 改めて 二代目の養子となり➡
38
00:03:25,131 --> 00:03:29,002
四代目を継ぐ所存にございますれば➡
39
00:03:29,002 --> 00:03:32,372
皆々様のお力添えをもって➡
40
00:03:32,372 --> 00:03:36,209
襲名披露の芝居を しとげられますよう➡
41
00:03:36,209 --> 00:03:38,878
お願い申し上げます。
42
00:03:38,878 --> 00:03:42,382
(一同)おめでとうございます。
43
00:03:42,382 --> 00:03:46,719
(團十郎)これからは 芝居の出来に
とことん こだわるため➡
44
00:03:46,719 --> 00:03:50,390
私が座頭を務める芝居の全てを➡
45
00:03:50,390 --> 00:03:57,263
立作者 金井三笑先生と一緒に
作り上げていきたい。
46
00:03:57,263 --> 00:03:59,963
先生。
47
00:04:05,572 --> 00:04:13,746
(三笑)皆々様 私が團十郎一座の立作者を
あい務めることになりました➡
48
00:04:13,746 --> 00:04:18,418
金井三笑と申します。
49
00:04:18,418 --> 00:04:24,757
以後 お見知りおきを。
50
00:04:24,757 --> 00:04:27,060
(成兵衛)金井… 三笑?
51
00:04:27,060 --> 00:04:29,596
好きが高じて狂言作者になったのが
3年前。
52
00:04:29,596 --> 00:04:33,566
それまでは
中村座で帳元やってたって男だ。
53
00:04:33,566 --> 00:04:37,003
(お駒)帳元って 芝居小屋の金庫番の?
54
00:04:37,003 --> 00:04:41,374
(お松)大福帳つけてた人間に
狂言なんか書けるのかね?
55
00:04:41,374 --> 00:04:44,877
それが なかなかの才の持ち主。
56
00:04:44,877 --> 00:04:48,715
おまけに 人気役者の弱みなんかも
よ~く知ってるもんだから➡
57
00:04:48,715 --> 00:04:51,017
厳しい駄目出しも 代わりにやってくれる。
58
00:04:51,017 --> 00:04:53,920
まあ 團十郎が頼りにするのも無理がねえ。
59
00:04:53,920 --> 00:04:55,888
(音吉)役者の天敵だね。
60
00:04:55,888 --> 00:05:01,027
で 付いたあだ名が 鬼ナマコ。
その心は?
61
00:05:01,027 --> 00:05:05,227
煮ても焼いても 食えません。
62
00:05:08,735 --> 00:05:12,038
お~い 片づけるぞ! 急げ 急げ!
63
00:05:12,038 --> 00:05:16,738
せ~の!
気を付けろ 気を付けろ!
64
00:05:23,583 --> 00:05:27,420
今度の演目は 私の書き下ろした曽我物だ。
65
00:05:27,420 --> 00:05:32,859
めでてえ襲名披露の芝居を壊さぬよう
気合いを入れて務めるように。
66
00:05:32,859 --> 00:05:36,863
(一同)へい!
おう。
へい。➡
67
00:05:36,863 --> 00:05:47,874
侍10人 勢子15人 馬の足2人
猪の足2人 門番2人➡
68
00:05:47,874 --> 00:05:53,012
足軽4人 百姓5人➡
69
00:05:53,012 --> 00:05:55,715
杣人…。
おいおい…。
70
00:05:55,715 --> 00:06:00,887
おめえ 若太夫んとこの中蔵か?
へい。
71
00:06:00,887 --> 00:06:05,391
おいおい ちょっと こっち来な。
すいません すいません。
72
00:06:05,391 --> 00:06:09,228
私を覚えてるかい?
帳元のことは よく覚えております。
73
00:06:09,228 --> 00:06:12,565
帳元はよせ。 もう やめて随分たつ。➡
74
00:06:12,565 --> 00:06:15,234
役者をやめたって聞いてたが➡
75
00:06:15,234 --> 00:06:18,137
出戻って稲荷町か。
へい。
76
00:06:18,137 --> 00:06:24,911
は~あ。
おめえほどの踊り手が惜しいことだ。
77
00:06:24,911 --> 00:06:31,211
うん? その面じゃ 馬か猪の足だな。
78
00:06:33,186 --> 00:06:36,856
お下の役者であろうが けんかのあざを➡
79
00:06:36,856 --> 00:06:40,526
商売道具につけてるようじゃ
覚悟が足りねえ。
80
00:06:40,526 --> 00:06:43,429
おい おめえ。
(助佐)あっしですかい?
81
00:06:43,429 --> 00:06:48,701
おめえが猪の後ろ足 中蔵が前足。 いいな。
82
00:06:48,701 --> 00:06:52,371
(2人)へい…。
83
00:06:52,371 --> 00:07:00,012
それでは 中村座初春興行
「江戸紫根元曽我」の本読みを始めます。
84
00:07:00,012 --> 00:07:04,550
よろしいか?
(一同)よろしくお願いいたします。
85
00:07:04,550 --> 00:07:09,722
一番目 三立目。
86
00:07:09,722 --> 00:07:15,528
本舞台三間の間 中足の二重屋体。
正面ふすまの開け閉て。
87
00:07:15,528 --> 00:07:17,897
演目と配役が決まると➡
88
00:07:17,897 --> 00:07:25,772
稽古の前に 立作者が役者たちに
台本を読み聞かせる本読みがございます。
89
00:07:25,772 --> 00:07:31,177
台帳と呼ばれる通し台本は
立作者一人だけが持っていて➡
90
00:07:31,177 --> 00:07:37,517
役者たちは 自分の出番のみが抜粋された
書抜というものを渡されるだけ。
91
00:07:37,517 --> 00:07:45,258
つまり 全体像は立作者だけが知っている
という妙な仕組み。
92
00:07:45,258 --> 00:07:48,227
特に この三笑という立作者は➡
93
00:07:48,227 --> 00:07:52,865
大本の台帳を
座頭の團十郎にさえ見せないという➡
94
00:07:52,865 --> 00:07:57,203
徹底した秘密主義。
95
00:07:57,203 --> 00:08:02,542
そうやって 大物役者たちの手綱を取り
好き勝手をさせないという➡
96
00:08:02,542 --> 00:08:06,879
なかなかの業師。
97
00:08:06,879 --> 00:08:12,685
一方 こちらは
中蔵のおります稲荷町の大部屋役者たち。
98
00:08:12,685 --> 00:08:17,390
セリフのない その他大勢や
馬の足なんぞをやる連中ですから➡
99
00:08:17,390 --> 00:08:19,725
本読みもクソもございません。
100
00:08:19,725 --> 00:08:25,231
あ~あ。
せめて顔が見える役がやりてえよ。
101
00:08:25,231 --> 00:08:27,733
なあ 助さん。
あ?
102
00:08:27,733 --> 00:08:34,841
稽古が始まる前によ
八王子辺りの山に 猪 見に行かねえか?
103
00:08:34,841 --> 00:08:41,341
いや~ 猪ってのは どうやって走るか
きっちり見ときてえ。
104
00:08:43,983 --> 00:08:47,687
本気で言ってる?
お前 どうやって走るんだ?
105
00:08:47,687 --> 00:08:52,558
一同 絵面の見得にて よろしく 幕。
106
00:08:52,558 --> 00:08:58,698
以上 一番目は これまで。
107
00:08:58,698 --> 00:09:02,001
方々 異存ございますまいな。
108
00:09:02,001 --> 00:09:06,873
異存とまでは申しませぬが
少々 分かりにくいところが。
109
00:09:06,873 --> 00:09:11,544
え~ 三立目 最初の私のセリフですが…。
110
00:09:11,544 --> 00:09:14,013
(足を踏み鳴らす音)
111
00:09:14,013 --> 00:09:17,216
分かりにくいとは聞き捨てならねえ。
112
00:09:17,216 --> 00:09:24,390
この台帳は 我ら狂言方が
精魂注いで書き上げた苦心の作。
113
00:09:24,390 --> 00:09:30,963
一朝幕が開き
見物衆の不興を買うことあらば この…➡
114
00:09:30,963 --> 00:09:37,837
この脇差しで 腹を切る覚悟を固めて
この場に臨んでいる。
115
00:09:37,837 --> 00:09:43,542
異を唱える以上
そちらにも その覚悟がおありか!
116
00:09:43,542 --> 00:09:45,544
えっ…。
異存は…➡
117
00:09:45,544 --> 00:09:48,381
ございません。
ええっ?
118
00:09:48,381 --> 00:09:54,186
ご一同 さあ よろしいか。
119
00:09:54,186 --> 00:09:56,122
それとも否か!
120
00:09:56,122 --> 00:10:00,622
よろしゅう…。
(一同)ございます。
121
00:10:10,202 --> 00:10:12,138
(小声で)どういうことですか?
122
00:10:12,138 --> 00:10:15,374
軽々しく かみつかねえ方がいい。
123
00:10:15,374 --> 00:10:21,574
いや 私は ただ…。
金井三笑を敵に回すと しめえだ。
124
00:10:24,383 --> 00:10:26,419
晴れて名跡継ぎますれば…。
125
00:10:26,419 --> 00:10:31,023
四代目 市川團十郎!
市川團十郎と…!
126
00:10:31,023 --> 00:10:34,223
(かしわ手)
127
00:10:35,861 --> 00:10:39,231
猪が お稲荷さん拝むってのも
妙な感じだね。
128
00:10:39,231 --> 00:10:43,531
足の裏 豆だらけになるまで稽古したんだ。
うまくいくさ。 行くぜ!
129
00:10:45,104 --> 00:10:47,404
はい。
はい。
130
00:10:54,714 --> 00:10:57,049
おいおい おいおいおい!
131
00:10:57,049 --> 00:10:59,418
危ねえなあ!
132
00:10:59,418 --> 00:11:07,118
「巻狩りの総奉行たる この祐経」。
133
00:11:08,761 --> 00:11:13,265
「かの兄弟を恐れるがあまり➡
134
00:11:13,265 --> 00:11:23,609
幔幕のうちに隠れたりと思わるるは
この身の恥辱」。
135
00:11:23,609 --> 00:11:27,279
(家来)「あいや しばらく
おとどまりくださりませ」。
136
00:11:27,279 --> 00:11:30,182
「ええい のけ!➡
137
00:11:30,182 --> 00:11:34,553
いざ 馬 引け!➡
138
00:11:34,553 --> 00:11:38,724
馬 引け~!」。
139
00:11:38,724 --> 00:11:42,595
成田屋!
成田屋!
140
00:11:42,595 --> 00:11:47,595
〽
141
00:11:49,368 --> 00:11:52,738
どうだい 三笑さん 見物衆の評判は?
142
00:11:52,738 --> 00:11:56,409
上々です。 初日から満員御礼。
143
00:11:56,409 --> 00:11:59,445
みんなに 祝いの酒肴を
振る舞えてえんだが。
144
00:11:59,445 --> 00:12:04,283
アッハハ そいつは気が早え。
最後の幕まで気を抜くのは禁物。
145
00:12:04,283 --> 00:12:07,420
≪(観客)お~!
146
00:12:07,420 --> 00:12:15,294
〽
(笑い声)
147
00:12:15,294 --> 00:12:17,794
何だい? あの笑いは。
148
00:12:20,966 --> 00:12:24,837
〽
(観客)お~!
149
00:12:24,837 --> 00:12:28,808
えらく生きのいい猪だな。
本物みてえだ。
150
00:12:28,808 --> 00:12:40,719
〽
151
00:12:40,719 --> 00:12:52,898
〽
(笑い声)
152
00:12:52,898 --> 00:12:56,902
うめえもんだ。 踊ってるみてえだ。
153
00:12:56,902 --> 00:13:00,239
志賀山流ですな。
154
00:13:00,239 --> 00:13:06,912
〽
155
00:13:06,912 --> 00:13:11,584
いよっ 猪!
よくやった!
今日は牡丹鍋!
156
00:13:11,584 --> 00:13:16,055
〽
157
00:13:16,055 --> 00:13:18,855
成田屋!
成田屋!
成田屋!
158
00:13:21,760 --> 00:13:25,264
(團十郎)待て そこな猪!
159
00:13:25,264 --> 00:13:27,564
正体を見せろ。
160
00:13:29,602 --> 00:13:32,204
ざ… 座頭!
161
00:13:32,204 --> 00:13:38,544
ん? おめえ 前に どっかで 一度…。
162
00:13:38,544 --> 00:13:41,380
へい。 若太夫の下におりました。
163
00:13:41,380 --> 00:13:45,217
ああ あの踊りのうめえ。
あ いや…➡
164
00:13:45,217 --> 00:13:47,553
中蔵でございます。
165
00:13:47,553 --> 00:13:51,390
あっ… やり過ぎましたか?
166
00:13:51,390 --> 00:13:53,893
明日から もっとやれ。
え?
167
00:13:53,893 --> 00:13:59,593
もっと 侍どもを翻弄してから
討たれろ。 見物衆が喜ぶ。
168
00:14:01,233 --> 00:14:04,570
構わねえだろ? 三笑さん。
169
00:14:04,570 --> 00:14:09,241
まあ 座頭が そうおっしゃるなら。
170
00:14:09,241 --> 00:14:13,579
だが あと二手か三手だ。
171
00:14:13,579 --> 00:14:15,915
それ以上は 間延びするから駄目だ!
172
00:14:15,915 --> 00:14:18,915
へい! ありがとうございます!
173
00:14:22,788 --> 00:14:27,259
次の興行の演目は 「倭仮名在原系図」。
174
00:14:27,259 --> 00:14:33,365
3年前に上方で当たりを取った芝居だが
四段目の「蘭平物狂」を➡
175
00:14:33,365 --> 00:14:39,705
誰も見たことがねえ大立ち回りにしてえ
という座頭のお言葉だ。
176
00:14:39,705 --> 00:14:42,541
團十郎親方がやる蘭平と闘うのは➡
177
00:14:42,541 --> 00:14:46,879
長え立ち回りを一連でこなせる
手だれで固めたい。
178
00:14:46,879 --> 00:14:49,381
人数は 二八の十六人。
179
00:14:49,381 --> 00:14:53,552
相中と中通りから
腕の立つやつを選んだが➡
180
00:14:53,552 --> 00:14:57,723
頭数が足りねえ。
181
00:14:57,723 --> 00:15:01,894
おめえらん中から 4人選ぶ。
182
00:15:01,894 --> 00:15:07,566
よ~し! じゃあ 太鼓の音に合わせて
型をやってみろ。
183
00:15:07,566 --> 00:15:09,501
(一同)へい!
184
00:15:09,501 --> 00:15:11,904
ひと~つ!
(太鼓の音)
185
00:15:11,904 --> 00:15:15,241
(一同)はあ~➡
186
00:15:15,241 --> 00:15:18,911
はっ! はっ!
187
00:15:18,911 --> 00:15:21,413
ふた~つ!
(太鼓の音)
188
00:15:21,413 --> 00:15:27,586
(一同)はあ~ はっ!
189
00:15:27,586 --> 00:15:29,922
おめえ。
190
00:15:29,922 --> 00:15:32,191
み~っつ!
(太鼓の音)
191
00:15:32,191 --> 00:15:37,062
(一同)はあ~っ!➡
192
00:15:37,062 --> 00:15:40,699
やあっ!
もう一度!
193
00:15:40,699 --> 00:15:42,735
おめえだ。
へい!
194
00:15:42,735 --> 00:15:47,373
(太鼓の音)
(一同)はあ~➡
195
00:15:47,373 --> 00:15:51,010
はっ! はっ!
196
00:15:51,010 --> 00:15:53,379
ふた~つ!
(太鼓の音)
197
00:15:53,379 --> 00:15:55,579
(一同)はあ~…。
やめ!
198
00:16:04,723 --> 00:16:09,895
あの猪の前足を入れておけという
座頭のお申しつけなんでな。
199
00:16:09,895 --> 00:16:12,398
せいぜい気張りな!
200
00:16:12,398 --> 00:16:15,901
へい!
201
00:16:15,901 --> 00:16:18,737
後ろ足もだ。
202
00:16:18,737 --> 00:16:20,737
へい!
203
00:16:24,410 --> 00:16:26,445
始め!
204
00:16:26,445 --> 00:16:31,984
♬~
205
00:16:31,984 --> 00:16:34,887
「いやぁ~っ!➡
206
00:16:34,887 --> 00:16:36,887
いやぁ!」。
207
00:16:38,691 --> 00:16:40,726
「いやぁ~➡
208
00:16:40,726 --> 00:16:43,426
よっ よっ よっ」。
209
00:16:45,464 --> 00:16:54,173
♬~
210
00:16:54,173 --> 00:16:57,009
「よっ!」。
211
00:16:57,009 --> 00:16:58,944
「はっ!」。
212
00:16:58,944 --> 00:17:14,727
♬~
213
00:17:14,727 --> 00:17:17,229
ちょっと待った!
お~ 止めろ!
214
00:17:17,229 --> 00:17:21,100
梯子に登るのはいいんだが
見得をするためだけに登るってのは➡
215
00:17:21,100 --> 00:17:24,737
どうも うそくせえ気がする。
なるほど。
216
00:17:24,737 --> 00:17:27,437
工夫してみましょう。
217
00:17:31,976 --> 00:17:35,513
火消し?
うん。 つては ねえもんか。
218
00:17:35,513 --> 00:17:39,851
確か うちの姉さんの旦那に
弟さんがいて➡
219
00:17:39,851 --> 00:17:42,353
その人の おかみさんの実家が➡
220
00:17:42,353 --> 00:17:44,856
め組だか ま組だか…。
え ちょ ちょっ➡
221
00:17:44,856 --> 00:17:47,759
すまねえ もういっぺん 言ってくれ。
222
00:17:47,759 --> 00:17:52,363
姉さんの旦那の弟の おかみさんの父親が
火消しの頭。
223
00:17:52,363 --> 00:17:56,534
姉さんの旦那の弟の… って
随分 遠いな。
224
00:17:56,534 --> 00:18:00,705
役者やめて火消しになるの?
あ~ ならねえまでも➡
225
00:18:00,705 --> 00:18:03,374
梯子には登ってみてえ。
226
00:18:03,374 --> 00:18:08,713
中さん どっかに頭ぶつけたりした?
227
00:18:08,713 --> 00:18:11,750
はっ!
228
00:18:11,750 --> 00:18:15,450
はっ はぁ~っ!
229
00:18:18,022 --> 00:18:19,958
はっ!
230
00:18:19,958 --> 00:18:23,394
おめえか? 俺の娘の旦那の兄貴の嫁の➡
231
00:18:23,394 --> 00:18:26,030
そのまた妹の亭主ってのは?
232
00:18:26,030 --> 00:18:28,933
へい。
役者なんだってな。
233
00:18:28,933 --> 00:18:32,670
物好きな男だぜ。
234
00:18:32,670 --> 00:18:34,706
はっ! ほっ!
235
00:18:34,706 --> 00:18:38,906
ああ… はあ~。
236
00:18:40,545 --> 00:18:42,981
はっ!
237
00:18:42,981 --> 00:18:45,884
話に聞くより た… 高いんですね。
238
00:18:45,884 --> 00:18:49,687
慣れりゃ どうってこたぁねえ。
はっ!
239
00:18:49,687 --> 00:18:51,623
ああっ!
240
00:18:51,623 --> 00:18:53,823
ハハハハハ。
ええっ?
241
00:19:00,331 --> 00:19:28,893
〽
242
00:19:28,893 --> 00:19:31,162
(観客のどよめき)
243
00:19:31,162 --> 00:19:36,034
〽
244
00:19:36,034 --> 00:19:38,670
(観客のどよめき)
245
00:19:38,670 --> 00:19:41,706
〽
246
00:19:41,706 --> 00:19:46,344
や~ったぁ…!
247
00:19:46,344 --> 00:19:49,247
〽
248
00:19:49,247 --> 00:19:52,150
中通りに…。
(團十郎)そうだ。
249
00:19:52,150 --> 00:19:56,354
おめえの梯子乗りが 大層な評判でな。
250
00:19:56,354 --> 00:19:59,390
親方の華が
少しでも立つようにと考えたもんで。
251
00:19:59,390 --> 00:20:05,063
ありがとよ。
柏屋さんも いい弟子をお持ちだ。
252
00:20:05,063 --> 00:20:09,701
何なら 差し上げても構いませぬが。
253
00:20:09,701 --> 00:20:13,204
ハハッ これは きついしゃれだ。
254
00:20:13,204 --> 00:20:17,876
うちの門弟は 数ばっかり多くって
これというやつがいねえ。
255
00:20:17,876 --> 00:20:22,380
中蔵のように
才と骨のある若手を弟子に持つたぁ➡
256
00:20:22,380 --> 00:20:26,217
羨ましい限り。
なんの。
257
00:20:26,217 --> 00:20:32,023
親方の人柄を慕って いい役者が
吸い寄せられるように集まってくる。
258
00:20:32,023 --> 00:20:35,894
市川武十郎なんざ その最たる者。
259
00:20:35,894 --> 00:20:41,399
ハハッ。 あれは
「窮鳥懐に飛び込む」ってやつだ。
260
00:20:41,399 --> 00:20:46,037
そのほかにも おりますでしょう?
261
00:20:46,037 --> 00:20:49,574
はて 誰のことかな?
262
00:20:49,574 --> 00:20:55,914
♬~
263
00:20:55,914 --> 00:21:01,786
まあ 次の興行からは 楽屋は本二階
給金は 年30両。
264
00:21:01,786 --> 00:21:05,256
ありがとうございます。
265
00:21:05,256 --> 00:21:08,593
よろしゅうございますな? 若太夫。
おめえの役者としての性根を➡
266
00:21:08,593 --> 00:21:11,930
見定めたわけじゃねえが
團十郎親方からの頼みとありゃ➡
267
00:21:11,930 --> 00:21:14,265
聞かねえわけにもいくめえ。
若太夫 私は…。
268
00:21:14,265 --> 00:21:18,465
ま せいぜい精進するんだな。 では。
269
00:21:23,608 --> 00:21:28,079
どいつもこいつも
團十郎に尻尾振りやがって…。
270
00:21:28,079 --> 00:21:30,615
(傳蔵)若太夫。➡
271
00:21:30,615 --> 00:21:34,385
この前の話 考えていただけましたか?
272
00:21:34,385 --> 00:21:38,256
うんうん うんうん うんうん…。
273
00:21:38,256 --> 00:21:40,892
八百蔵に 妹がいたたぁ➡
274
00:21:40,892 --> 00:21:43,728
おめえから聞くまで知らなかったぜ。
275
00:21:43,728 --> 00:21:47,398
いいところに 目をつけたな。
私も そろそろ身を固め➡
276
00:21:47,398 --> 00:21:50,301
より 役者道に専念しようと
思っております。
277
00:21:50,301 --> 00:21:53,571
是非 お師匠様に媒酌の労をお取り…。
278
00:21:53,571 --> 00:21:57,408
断る。
279
00:21:57,408 --> 00:22:02,280
市川八百蔵は 二代目 團十郎の門下。
280
00:22:02,280 --> 00:22:06,918
いわば 今の四代目とは相弟子の仲だ。
281
00:22:06,918 --> 00:22:11,255
その妹との祝言の媒酌を頼むんなら➡
282
00:22:11,255 --> 00:22:15,426
天下の四代目 團十郎に頼みゃあいい。
283
00:22:15,426 --> 00:22:17,929
それでは お師匠様への義理が…。
284
00:22:17,929 --> 00:22:21,766
長年 おめえの面倒を見てきた俺が
認めたって体で➡
285
00:22:21,766 --> 00:22:25,436
しゃあしゃあと 團十郎一門に
鞍替えしようって腹か? お!
286
00:22:25,436 --> 00:22:28,636
そういうわけでは…。
おめえも中蔵もよ!
287
00:22:30,875 --> 00:22:34,379
あんまり 俺なめてっと➡
288
00:22:34,379 --> 00:22:36,679
辛い目に遭うぜ。
289
00:22:41,152 --> 00:22:46,090
〽 かっぽれかっぽれ 甘茶でかっぽれ
290
00:22:46,090 --> 00:22:50,228
〽 ヨイトナ ヨイヨイ
291
00:22:50,228 --> 00:23:10,415
〽
292
00:23:10,415 --> 00:23:15,286
〽 かっぽれかっぽれ
あ あ… お岸 お岸。
293
00:23:15,286 --> 00:23:18,056
てれくせえから もういい。
294
00:23:18,056 --> 00:23:20,591
だって せっかく出世したんだから。
295
00:23:20,591 --> 00:23:22,527
ただの中通りだ。
296
00:23:22,527 --> 00:23:25,263
中通りって 真ん中ってことでしょ?
297
00:23:25,263 --> 00:23:28,766
いや~… 中の下?
298
00:23:28,766 --> 00:23:31,736
そうなの? セリフがある役者なのに?
299
00:23:31,736 --> 00:23:36,007
セリフったって
短えのが ひと言ふた言あるくれえで。
300
00:23:36,007 --> 00:23:39,710
ふ~ん。 でもまあ➡
301
00:23:39,710 --> 00:23:45,016
給金が年7両から30両に上がるのは
うれしいなあ。
302
00:23:45,016 --> 00:23:49,854
着物も 随分 質草に入れたし
一枚くらい新しいの作っちゃおうかな。
303
00:23:49,854 --> 00:23:52,354
フフフ。
ああ…。
304
00:23:55,660 --> 00:24:00,398
着物の話が出たついでに言うと。
はい。
305
00:24:00,398 --> 00:24:05,236
稲荷町は 衣装蔵のお仕着せを着てりゃあ
よかったんだが➡
306
00:24:05,236 --> 00:24:12,009
中通りより上の役者になると
衣装は全部 自前になる。
307
00:24:12,009 --> 00:24:16,247
自前?
もらった役の衣装は
自前で作らなきゃなんねえ。
308
00:24:16,247 --> 00:24:20,751
下手すると 年に10枚➡
309
00:24:20,751 --> 00:24:24,255
何役か やらせられると…➡
310
00:24:24,255 --> 00:24:26,924
20枚。
20枚!?
311
00:24:26,924 --> 00:24:31,863
そいじゃ 衣装代なしで年7両の方が
全然いいじゃない。
312
00:24:31,863 --> 00:24:33,998
あ~ すまねえ!
313
00:24:33,998 --> 00:24:38,202
おめえに新しい着物を買ってやるためにも
俺は このままじゃ終わらねえ。 うん。
314
00:24:38,202 --> 00:24:40,872
精進して 相中に上がってみせる!
315
00:24:40,872 --> 00:24:43,708
それまで… 辛抱してくれ!
316
00:24:43,708 --> 00:24:46,210
どれくらい?
317
00:24:46,210 --> 00:24:48,210
え?
318
00:24:50,081 --> 00:24:53,951
頑張って… 5年?
319
00:24:53,951 --> 00:24:57,221
ん ん ん? 何ですって?
いやいや あの…➡
320
00:24:57,221 --> 00:25:01,893
3年。
ケチケチするな!
2年! …半。
321
00:25:01,893 --> 00:25:03,828
はっ。
322
00:25:03,828 --> 00:25:51,709
〽
323
00:25:51,709 --> 00:25:54,011
2年半かあ。
324
00:25:54,011 --> 00:26:01,385
(大道寺)「ここ数年
足軽など 禄薄き者どもの暮らしは➡
325
00:26:01,385 --> 00:26:05,256
目を覆わんばかりのありさまじゃ」。
326
00:26:05,256 --> 00:26:12,997
(奥方)「我が家の禄 千六百石は
殿様より拝領いたせしもの。➡
327
00:26:12,997 --> 00:26:20,571
それを分け与えるは
かえって 殿様のご不興を買いましょう」。
328
00:26:20,571 --> 00:26:27,345
(大道寺)「さもあろうが 今は
それよりほかに 手だてを思いつかぬ」。
329
00:26:27,345 --> 00:26:29,914
「はっ 申し上げます」。
(狂言方)しっ!
330
00:26:29,914 --> 00:26:33,351
≪(奥方)「して 殿様には…」。
331
00:26:33,351 --> 00:26:36,187
「はっ 申し上げます」。
「うむ」。
332
00:26:36,187 --> 00:26:40,358
「ただいま お城より
お側用人の高瀬様が参られました」。
333
00:26:40,358 --> 00:26:43,261
「これから登城というに 何用か?」。
334
00:26:43,261 --> 00:26:48,099
「ご内密のお話があると」。
「是非もない。 お通ししろ」。
335
00:26:48,099 --> 00:26:50,868
「はは」。
336
00:26:50,868 --> 00:26:54,205
(ためいき)
大丈夫。 何の問題もねえ。
337
00:26:54,205 --> 00:26:57,108
(狂言方)中蔵さん そろそろ行くよ。
338
00:26:57,108 --> 00:26:59,108
へい。
339
00:27:01,946 --> 00:27:03,946
ふう…。
340
00:27:15,226 --> 00:27:18,526
「はっ 申し上げます!」。
「うむ」。
341
00:27:28,572 --> 00:27:32,343
野郎 セリフが飛びやがったな。
342
00:27:32,343 --> 00:27:34,543
「いかがした?」。
343
00:27:36,180 --> 00:27:38,516
「はっ…」。
344
00:27:38,516 --> 00:27:42,216
「遠慮はいらぬ。 申せ」。
345
00:27:45,189 --> 00:27:47,189
「ははっ」。
346
00:27:50,695 --> 00:27:53,195
≪(男)舞台へ行け。
347
00:27:58,002 --> 00:28:00,802
≪(男)耳打ちするんだよ。
348
00:28:02,840 --> 00:28:06,744
「申せと言うに!」。
349
00:28:06,744 --> 00:28:09,044
「御免!」。
350
00:28:11,882 --> 00:28:14,218
「ご無礼つかまつる」。
351
00:28:14,218 --> 00:28:18,418
(小声で)あいすいません
セリフが飛びました。
352
00:28:20,558 --> 00:28:22,758
「あい分かった」。
353
00:28:24,395 --> 00:28:29,567
「人目につかぬよう
こちらへ お通し申せ」。
354
00:28:29,567 --> 00:28:31,767
「はあ」。
355
00:28:44,849 --> 00:28:49,520
「お待たせいたしました 高瀬様」。
356
00:28:49,520 --> 00:28:56,861
〽
357
00:28:56,861 --> 00:29:00,865
「ご案内つかまつる」。
「うむ」。
358
00:29:00,865 --> 00:29:11,008
〽
359
00:29:11,008 --> 00:29:15,880
「にわかな参上 非礼 お許しくだされ」。
360
00:29:15,880 --> 00:29:20,217
「高瀬殿 さ こちらへ」。
361
00:29:20,217 --> 00:29:31,017
〽
362
00:29:32,663 --> 00:29:35,966
はあ… はあ はあ はあ
ああ 死ぬかと思った…。
363
00:29:35,966 --> 00:29:41,172
そりゃ こっちのセリフだよ。
しっかし よく切り抜けたねえ。
364
00:29:41,172 --> 00:29:44,975
ああ いや あれは…。
365
00:29:44,975 --> 00:29:52,183
♬~
366
00:29:52,183 --> 00:29:54,118
(笑い声)
367
00:29:54,118 --> 00:29:58,956
(團十郎)いやいやいや 腹が痛え。
今 思い出しても… ハハハ!
368
00:29:58,956 --> 00:30:01,192
申し訳ございません。
369
00:30:01,192 --> 00:30:03,861
俺が出のきっかけなくして
オロオロしてるところに➡
370
00:30:03,861 --> 00:30:06,864
涼しい顔して戻ってきて➡
371
00:30:06,864 --> 00:30:10,367
「ご案内つかまつる」と ぬかしやがった。
ハハハハ!
372
00:30:10,367 --> 00:30:14,705
面目ねえこって。
いや いい機転だったぜ。
373
00:30:14,705 --> 00:30:21,479
所作も水際立ってて え! 見物衆も
まさか セリフが飛んでるなんて。
374
00:30:21,479 --> 00:30:23,714
ハハハハハハ!
花道の下で➡
375
00:30:23,714 --> 00:30:26,016
狂言方が手助けしてくだすったので。
376
00:30:26,016 --> 00:30:30,855
花道の下?
へい。
そんなとこに狂言方は置いてねえよ。
377
00:30:30,855 --> 00:30:35,759
大体 あれっぽっちのセリフを
忘れるなんざ 誰も考えねえ。
378
00:30:35,759 --> 00:30:41,398
ま セリフが飛んじまうなんてことは
役者やってりゃ 一度や二度はある。
379
00:30:41,398 --> 00:30:46,036
要は どう乗り切るかが 役者の腕だ。
380
00:30:46,036 --> 00:30:48,739
明日っから きちんと やります。
381
00:30:48,739 --> 00:30:51,642
いや。
382
00:30:51,642 --> 00:30:54,411
今日のままでいい。
え?
383
00:30:54,411 --> 00:30:59,750
あの芝居で 見物衆は
大事な内密の話だと➡
384
00:30:59,750 --> 00:31:02,653
狂言の筋に引き込まれた。
385
00:31:02,653 --> 00:31:06,524
怪我の功名とはいえ 悪くねえ。
386
00:31:06,524 --> 00:31:08,459
へ… へい!
387
00:31:08,459 --> 00:31:12,062
だが しくじりは しくじりだ。
388
00:31:12,062 --> 00:31:20,437
「給金から銀一分を差し引くものなり」と。
はい。
389
00:31:20,437 --> 00:31:22,637
行ってよし。
390
00:31:32,883 --> 00:31:34,818
武十郎。
はい。
391
00:31:34,818 --> 00:31:39,023
おめえ 中蔵と仲がいいんだってな。
392
00:31:39,023 --> 00:31:42,893
中さんが そう思ってるかは
分かりませぬが➡
393
00:31:42,893 --> 00:31:47,398
私は あの人を
役者として尊敬しています。
394
00:31:47,398 --> 00:31:52,236
あいつの才は 底が知れねえ。
395
00:31:52,236 --> 00:31:55,139
(武十郎)
自分では気が付いていないようですが。
396
00:31:55,139 --> 00:31:58,042
(團十郎)ま いずれ気付くさ。➡
397
00:31:58,042 --> 00:32:01,842
箱の蓋が開くみてえにな。
398
00:32:07,051 --> 00:32:12,256
役者には
同じ時代を生きる好敵手が必要だ。
399
00:32:12,256 --> 00:32:16,060
しのぎを削り合いながら うまくなる。
400
00:32:16,060 --> 00:32:18,762
せがれの幸四郎の時代に➡
401
00:32:18,762 --> 00:32:25,636
この音羽屋さんや おめえや
中蔵がいるのは 楽しみなことだ。
402
00:32:25,636 --> 00:32:29,773
フフフ… ハハハハハハ。
403
00:32:29,773 --> 00:32:33,010
お言葉ですが 親方。
404
00:32:33,010 --> 00:32:35,879
名題役者の菊五郎さんは別にして➡
405
00:32:35,879 --> 00:32:38,382
女形上がりの相中や➡
406
00:32:38,382 --> 00:32:41,719
昨日今日 中通りになった男と
一緒にするのは➡
407
00:32:41,719 --> 00:32:44,919
御曹司が おかわいそうですな。
408
00:32:48,225 --> 00:32:54,398
いい芝居ってのは 誰か一人の力で
作れるようなもんじゃねえ。
409
00:32:54,398 --> 00:33:00,738
役者 音曲 裏方 300人近え人間の力を
一つにまとめなきゃできねえ。
410
00:33:00,738 --> 00:33:04,938
それには 規律が必要だ。
411
00:33:07,511 --> 00:33:11,448
不思議なもんで
筋目の家に生まれた役者は➡
412
00:33:11,448 --> 00:33:14,918
それが肌で分かってる。
413
00:33:14,918 --> 00:33:18,255
しかし どういうわけだか➡
414
00:33:18,255 --> 00:33:22,926
野育ちのやつらには
それが分からねえらしい。
415
00:33:22,926 --> 00:33:25,626
そういう役者は…。
416
00:33:27,264 --> 00:33:29,933
この俺が潰す!
417
00:33:29,933 --> 00:33:33,871
芝居のためにな。
418
00:33:33,871 --> 00:33:45,382
♬~
419
00:33:45,382 --> 00:33:48,886
うっ… うう~…。
420
00:33:48,886 --> 00:33:55,559
♬~
421
00:33:55,559 --> 00:34:00,731
う~ん… 気のせいかね。
422
00:34:00,731 --> 00:34:02,666
よっ。
423
00:34:02,666 --> 00:34:10,908
♬~
424
00:34:10,908 --> 00:34:12,908
あ…。
425
00:34:19,917 --> 00:34:25,055
奈落にも お稲荷さんがあったんだ。
426
00:34:25,055 --> 00:34:27,255
(かしわ手)
427
00:34:29,927 --> 00:34:33,927
(コン太夫)知らなかったか?
428
00:34:35,699 --> 00:34:41,572
はっ! ど… どちら様で?
429
00:34:41,572 --> 00:34:46,877
こんな所 入ってきちゃったら
危ないですよ。 ね?
430
00:34:46,877 --> 00:34:49,546
あっ!
431
00:34:49,546 --> 00:34:52,583
ああっ それ!
432
00:34:52,583 --> 00:34:55,719
お稲荷さんのお供えですから。
433
00:34:55,719 --> 00:34:58,388
罰当たりますよ!
434
00:34:58,388 --> 00:35:02,888
助けてもらった恩人に対する
態度じゃないな。
435
00:35:05,162 --> 00:35:10,567
あ~ そっか。
436
00:35:10,567 --> 00:35:17,341
とっつぁん 迷っちゃったんだね?
うち どこだい? 何町か分かれば…。
437
00:35:17,341 --> 00:35:19,541
「申し上げます!」。
ひい~っ!
438
00:35:21,578 --> 00:35:27,451
セリフがぶっ飛んで
脂汗かいてるやつがいたから➡
439
00:35:27,451 --> 00:35:33,991
切り抜け方を指南してやったのに
この恩知らずめ。
440
00:35:33,991 --> 00:35:37,291
あ… あなたは一体…。
441
00:35:39,797 --> 00:35:47,204
お前が7つで傳九郎の弟子になる前から
ここにおる。
442
00:35:47,204 --> 00:35:51,375
道具方の元締めか何かで?
443
00:35:51,375 --> 00:35:53,410
ま そんなもんだ。
444
00:35:53,410 --> 00:35:57,014
こりゃ 知らぬこととはいえ
失礼いたしました。
445
00:35:57,014 --> 00:36:00,714
あの お名前を…。
446
00:36:06,023 --> 00:36:08,892
中蔵と申します。 以後 お見知りおきを。
447
00:36:08,892 --> 00:36:13,730
お前のことは 結構 気にかけて見てるよ。
448
00:36:13,730 --> 00:36:17,401
あ… ありがとうございやす。
449
00:36:17,401 --> 00:36:19,901
ああ…。
えっ ええっ?
450
00:36:22,039 --> 00:36:25,909
新しい座元になってから➡
451
00:36:25,909 --> 00:36:33,350
神棚の供え物が
5日に1回と ケチくさい。
452
00:36:33,350 --> 00:36:36,186
まあ 座れ!
はい。
453
00:36:36,186 --> 00:36:43,360
先代の頃は 毎日 新しいお神酒が
あがったもんだ。
454
00:36:43,360 --> 00:36:46,864
そんなことだから客も減る。
455
00:36:46,864 --> 00:36:52,536
團十郎が出ない時は
閑古鳥が鳴いてるじゃないか。
456
00:36:52,536 --> 00:36:54,872
はあ…。
457
00:36:54,872 --> 00:36:58,208
どうだ 中蔵。
458
00:36:58,208 --> 00:37:01,111
ひとつ お前に
いい目を見せてやろう。
459
00:37:01,111 --> 00:37:03,080
…と申しますと?
460
00:37:03,080 --> 00:37:06,917
願いをかなえてやると言ってるんだよ。
461
00:37:06,917 --> 00:37:09,720
言葉遊びだと思って 言ってみな。
462
00:37:09,720 --> 00:37:14,224
え? いや…。
ほら 言ってみな。
463
00:37:14,224 --> 00:37:17,261
ほら 言いなさい。
464
00:37:17,261 --> 00:37:19,563
いやいや…。
言いなさい!
465
00:37:19,563 --> 00:37:21,498
はい。
466
00:37:21,498 --> 00:37:23,798
そ… それじゃ。
467
00:37:25,435 --> 00:37:31,174
2年半のうちに
相中に上がりとうございます。
468
00:37:31,174 --> 00:37:34,077
相中?
無理でしょうか。
469
00:37:34,077 --> 00:37:38,515
小さいな お前は。
え~…。
470
00:37:38,515 --> 00:37:44,855
ひとつ 予言をしてやろう。
471
00:37:44,855 --> 00:37:48,358
お前は➡
472
00:37:48,358 --> 00:37:51,862
名題役者になる。
473
00:37:51,862 --> 00:37:54,364
名題?
そうだ!
474
00:37:54,364 --> 00:37:58,001
5年のうちにな。
475
00:37:58,001 --> 00:38:00,871
グッ… クッ…➡
476
00:38:00,871 --> 00:38:04,541
ハハハハハハハ…!
477
00:38:04,541 --> 00:38:08,378
アハハハハハハ アハハ…。
478
00:38:08,378 --> 00:38:10,414
ウフハハハハハ…。
479
00:38:10,414 --> 00:38:12,883
この野郎!
480
00:38:12,883 --> 00:38:16,183
ぐぁあ~! クソじじい…!
481
00:38:18,221 --> 00:38:23,221
あっ… こ… 近太夫さん?
482
00:38:26,096 --> 00:38:29,566
近太夫さん?
≪(しゃっくり)
483
00:38:29,566 --> 00:38:36,974
≪(コン太夫)お前は
5年のうちに 名題役者になる。➡
484
00:38:36,974 --> 00:38:45,349
ただし 毎日 神棚に
お神酒と稲荷ずしを供えよ。➡
485
00:38:45,349 --> 00:38:49,686
毎日だぞ? よいな。
486
00:38:49,686 --> 00:38:56,686
え ええっ ええ え… ええ~!
487
00:39:00,864 --> 00:39:07,371
さあさあ 今日のお題は
ただいま 破竹の勢いで売り出し中の➡
488
00:39:07,371 --> 00:39:11,875
中村座 相中 三人男のお話。
489
00:39:11,875 --> 00:39:13,810
(歓声)
490
00:39:13,810 --> 00:39:18,382
まずは 相中に昇進したての新鋭。
491
00:39:18,382 --> 00:39:24,187
先頃 惜しくも亡くなった市川八百蔵の
妹婿で…。
492
00:39:24,187 --> 00:39:30,560
(歓声)
その名跡を継いだ色男。
493
00:39:30,560 --> 00:39:34,360
江戸の町娘を キャーキャー言わせる…
494
00:39:36,166 --> 00:39:39,069
前の師匠 中村傳九郎譲りの和事➡
495
00:39:39,069 --> 00:39:42,506
新しい師匠 四代目 團十郎譲りの荒事➡
496
00:39:42,506 --> 00:39:46,376
この両方をこなす逸材だ。
497
00:39:46,376 --> 00:39:51,848
お次は 先年 市川武十郎から
改名したばかりの実力者。
498
00:39:51,848 --> 00:39:56,186
時代物 世話物 何でもござれ。
女形から男伊達まで➡
499
00:39:56,186 --> 00:39:59,222
幅広く演じ分ける市川染五郎。
500
00:39:59,222 --> 00:40:04,861
師匠の四代目 團十郎の覚えもめでてえ
芝居巧者だ。
501
00:40:04,861 --> 00:40:08,698
さ~て どん尻に控えしは➡
502
00:40:08,698 --> 00:40:12,002
稲荷町から僅か1年半で中通り➡
503
00:40:12,002 --> 00:40:16,873
更に 2年で相中と
異例の速さで のし上がって3年目➡
504
00:40:16,873 --> 00:40:26,583
今をときめく出頭第一の男 中村中蔵~!
505
00:40:26,583 --> 00:40:32,022
今 江戸の町は この3人の
出世争いの話で持ちきりだ。
506
00:40:32,022 --> 00:40:36,860
(歓声)
最初に名題の看板を上げるのは➡
507
00:40:36,860 --> 00:40:39,896
中蔵か!
(歓声)
508
00:40:39,896 --> 00:40:42,399
染五郎か!
(歓声)
509
00:40:42,399 --> 00:40:46,736
はたまた 八百蔵か?
(歓声)
510
00:40:46,736 --> 00:40:49,773
誰がなっても前代未聞。
511
00:40:49,773 --> 00:40:57,247
血筋を重んじる歌舞伎界を揺るがす
下克上だ~!
512
00:40:57,247 --> 00:40:59,583
おっ。
513
00:40:59,583 --> 00:41:02,052
お~っと!
514
00:41:02,052 --> 00:41:05,255
たった今 入った話によりますと➡
515
00:41:05,255 --> 00:41:12,996
中村中蔵 名題昇進が決まったようだ!
516
00:41:12,996 --> 00:41:16,796
中村中蔵 名題昇進!
(歓声)
517
00:41:18,802 --> 00:41:26,543
え~ 屋号は栄屋。 名題に推したのは
座頭の四代目 市川團十郎。
518
00:41:26,543 --> 00:41:29,779
何だよ 何だよ
うるせえな いいところで。
519
00:41:29,779 --> 00:41:32,749
やっ ちょっ…
もとい もとい もとい もとい!
520
00:41:32,749 --> 00:41:37,521
もとい! え~ ただいま
この中蔵の名題昇進に待ったがかかり➡
521
00:41:37,521 --> 00:41:41,725
話し合いが紛糾しているもよう~!
522
00:41:41,725 --> 00:41:44,561
(ざわつき)
523
00:41:44,561 --> 00:41:49,232
どこから ネタ仕入れてんだか…。
524
00:41:49,232 --> 00:41:56,106
たった2年で 中蔵を相中に上げると
親方がおっしゃった時から➡
525
00:41:56,106 --> 00:42:00,243
私は 危ういと感じておりました。
526
00:42:00,243 --> 00:42:02,913
中蔵の芸が危ういと?
527
00:42:02,913 --> 00:42:05,749
周りの嫉妬です。
528
00:42:05,749 --> 00:42:10,253
相中という位は
名題役者の一族縁者から➡
529
00:42:10,253 --> 00:42:16,760
いい役者を育てる受け皿という
役割があることを忘れちゃいけません。➡
530
00:42:16,760 --> 00:42:23,066
染五郎や八百蔵のように
門人を取り立てなさるのならまだしも➡
531
00:42:23,066 --> 00:42:27,604
一門でもねえ中蔵を
また お取り立てになれば➡
532
00:42:27,604 --> 00:42:31,474
古株の相中役者たちが黙っちゃいねえ。➡
533
00:42:31,474 --> 00:42:34,711
筋目の家に生まれた役者の中には➡
534
00:42:34,711 --> 00:42:39,883
それを心中恨みに思ってる者も
少なくねえ。
535
00:42:39,883 --> 00:42:46,556
しかも 僅か3年で名題に引き上げる
と聞けば 嫉妬の嵐。
536
00:42:46,556 --> 00:42:53,256
いくら 團十郎親方といえど
一座をまとめるのは難しい。
537
00:42:55,232 --> 00:43:00,570
前にも申しましたが
いっそのこと 中蔵も➡
538
00:43:00,570 --> 00:43:05,408
傳蔵みてえに門弟の端にお加えになったら
どうですか?
539
00:43:05,408 --> 00:43:12,749
だが 中蔵は お前さんの一番弟子だ。
傳蔵とは違う。
540
00:43:12,749 --> 00:43:17,921
フッ 中蔵の才を見抜いて
どんどん引き上げたのは➡
541
00:43:17,921 --> 00:43:20,423
俺じゃなくて 親方だ。
542
00:43:20,423 --> 00:43:25,595
あいつも 心の内じゃ
市川の門弟になりてえと…。
543
00:43:25,595 --> 00:43:27,895
それは あんまりだぜ 傳九郎!
544
00:43:29,766 --> 00:43:35,872
その言いぐさは
あんまりに中蔵が可哀想だ。
545
00:43:35,872 --> 00:43:43,546
♬~
546
00:43:43,546 --> 00:43:47,717
おや こんな刻限に お一人で?
547
00:43:47,717 --> 00:43:53,390
ちょっとだけ 飲ませてくれねえか。
冷やでいい。
548
00:43:53,390 --> 00:43:55,590
そうですか。
549
00:43:57,560 --> 00:44:02,032
あ… そんなとこじゃ何ですから
どうぞ… どうぞ こちらへ。
550
00:44:02,032 --> 00:44:12,575
♬~
551
00:44:12,575 --> 00:44:15,045
あとは てめえでやるよ。
552
00:44:15,045 --> 00:44:17,580
はい。 どうぞ ごゆっくり。
553
00:44:17,580 --> 00:44:26,289
♬~
554
00:44:26,289 --> 00:44:30,489
吉と出るか 凶と出るか…。
555
00:44:35,865 --> 00:44:38,702
≪また 名前を変えるのかい?➡
556
00:44:38,702 --> 00:44:43,873
あ… いやいやいや 染五郎になって
まだ1年もたたねえじゃねえか。
557
00:44:43,873 --> 00:44:46,209
≪(染五郎)團十郎の親方から➡
558
00:44:46,209 --> 00:44:49,713
高麗蔵の名跡を継ぐ気はねえかって
言われて…。
559
00:44:49,713 --> 00:44:55,518
≪高麗蔵… いや 高麗蔵っていや
れっきとした高麗屋の名題役者の名跡だ。
560
00:44:55,518 --> 00:45:00,357
そうさ。 中さんに追いついて
名題に上がるためにも➡
561
00:45:00,357 --> 00:45:04,027
あたしゃね この話 受けようと思う。
562
00:45:04,027 --> 00:45:07,897
ハハハ 俺が名題なんて 百年早えや。
563
00:45:07,897 --> 00:45:11,568
あんたは今や
江戸中の評判を取る人気の若手。
564
00:45:11,568 --> 00:45:14,604
名題への道が 目の前に開けてる。
565
00:45:14,604 --> 00:45:17,374
染さん。
え?
そりゃ おだてが過ぎるぜ。
566
00:45:17,374 --> 00:45:20,744
うん…。
567
00:45:20,744 --> 00:45:27,917
あたしゃね 名題はおろか
座頭をやる役者になりてえって思ってる。
568
00:45:27,917 --> 00:45:33,189
あんたと あたしの時代を
作ってみたいのさ。
569
00:45:33,189 --> 00:45:37,889
そのためなら
何度 名前が変わっても構やしねえ。
570
00:45:39,529 --> 00:45:42,866
中さんも 名題に上がるのを潮に➡
571
00:45:42,866 --> 00:45:45,869
若太夫に
いい名跡もらったら どうだい?
572
00:45:45,869 --> 00:45:50,369
それとも 團十郎門下になるか。
573
00:45:58,014 --> 00:46:01,214
染さん。
ん?
574
00:46:03,553 --> 00:46:07,553
俺は 中蔵って名前が気に入ってるんだ。
575
00:46:09,225 --> 00:46:12,525
中蔵の中は 中村座の中。
576
00:46:14,898 --> 00:46:22,639
俺が小せえ頃から 遊び場にして育った
大好きな芝居小屋の名前だ。
577
00:46:22,639 --> 00:46:30,046
7つで弟子入りした時
若太夫が付けてくだすった。
578
00:46:30,046 --> 00:46:32,515
♬~
579
00:46:32,515 --> 00:46:40,190
おめえは 芝居小屋を遊び場として育った
芝居の申し子だ。
580
00:46:40,190 --> 00:46:44,694
中村座の「中」を取って…➡
581
00:46:44,694 --> 00:46:46,894
中蔵と名乗れ。
582
00:46:50,366 --> 00:46:56,873
俺は 一生 中蔵のままでいい。
583
00:46:56,873 --> 00:47:14,873
♬~
584
00:47:20,897 --> 00:47:25,401
何だって!?
團十郎親方の せっかくのご配慮だ。
585
00:47:25,401 --> 00:47:28,738
中村中蔵の名題昇進➡
586
00:47:28,738 --> 00:47:33,538
師匠として ありがたくお受けいたします。
587
00:47:35,178 --> 00:47:38,214
どういう風の吹き回しか…。
588
00:47:38,214 --> 00:47:40,683
三笑先生。
589
00:47:40,683 --> 00:47:45,355
確かに 中蔵や染五郎の出世は
妬み そねみのもと。
590
00:47:45,355 --> 00:47:49,526
一座の和を欠くやもしれねえが
そんなこたぁ 大事の前の小事。
591
00:47:49,526 --> 00:47:53,997
それに 今じゃ
やつら目当ての見物衆も多い。
592
00:47:53,997 --> 00:47:56,366
つまり 金になる。
593
00:47:56,366 --> 00:48:02,872
これは 中村座若太夫としての
考えでございます。
594
00:48:02,872 --> 00:48:05,542
決まりだな? 先生。
595
00:48:05,542 --> 00:48:08,242
承知いたしました。
596
00:48:10,213 --> 00:48:13,116
せいぜい 頑張ってもらいましょう。
597
00:48:13,116 --> 00:48:44,514
♬~
598
00:48:44,514 --> 00:48:48,685
こうして 異例の速さで
名題役者にまで上り詰めた中蔵。
599
00:48:48,685 --> 00:48:53,485
早速 あの大作の上演が決まります。
600
00:48:56,993 --> 00:48:59,862
もう 聞いてる者もいるだろうが➡
601
00:48:59,862 --> 00:49:07,203
次の演目は「仮名手本忠臣蔵」と決まった。
全十一段 久々の通し狂言だ。
602
00:49:07,203 --> 00:49:12,008
とにかく 「忠臣蔵」は登場人物が多い。
603
00:49:12,008 --> 00:49:16,546
上の役者衆には
一人何役か やってもらうことになる。
604
00:49:16,546 --> 00:49:20,216
準備おさおさ 怠りなきよう。
605
00:49:20,216 --> 00:49:22,885
(一同)へい。
606
00:49:22,885 --> 00:49:28,758
では 配役を申し渡す。
607
00:49:28,758 --> 00:49:33,963
高武蔵守師直 ならびに 天川屋義平➡
608
00:49:33,963 --> 00:49:36,499
市川團十郎。
609
00:49:36,499 --> 00:49:38,835
承る。
610
00:49:38,835 --> 00:49:45,341
(三笑)大星由良之助義兼 中村傳九郎。
611
00:49:45,341 --> 00:49:48,244
承る。
612
00:49:48,244 --> 00:49:54,517
(三笑)顔世御前
ならびに 天川屋義平 内儀 お園➡
613
00:49:54,517 --> 00:49:56,853
瀬川菊之丞。
614
00:49:56,853 --> 00:50:00,356
承りまする。
615
00:50:00,356 --> 00:50:04,861
(三笑)塩冶判官高定 ならびに早野勘平…。
616
00:50:04,861 --> 00:50:17,440
♬~
617
00:50:17,440 --> 00:50:19,409
お帰り。
618
00:50:19,409 --> 00:50:21,711
うん。
619
00:50:21,711 --> 00:50:24,547
何だい? この衣装の山。
620
00:50:24,547 --> 00:50:28,217
次は「忠臣蔵」なんでしょ?
名題役者になったんだから➡
621
00:50:28,217 --> 00:50:31,020
それなりの役を 何役かやると思って。
622
00:50:31,020 --> 00:50:35,558
これが 塩冶判官が
三段目の喧嘩場で着る裃でしょ?
623
00:50:35,558 --> 00:50:38,895
で これが切腹の時の白装束。
624
00:50:38,895 --> 00:50:43,766
それから これが 早野勘平が
おかると駆け落ちする道行きで着る➡
625
00:50:43,766 --> 00:50:46,636
旅装束。
二枚目だから 少し派手めに…。
626
00:50:46,636 --> 00:50:51,407
お岸。
ん?
判官も勘平も…➡
627
00:50:51,407 --> 00:50:55,578
高麗蔵さんが やることになった。
628
00:50:55,578 --> 00:51:03,252
あっ 女形か…。
もしやと思って 反物も買っといた。
629
00:51:03,252 --> 00:51:09,926
顔世御前は 立女形の菊之丞さんが
やるとして… おかる?
630
00:51:09,926 --> 00:51:13,596
おかるは 八百蔵。
631
00:51:13,596 --> 00:51:16,933
えっ まさか…➡
632
00:51:16,933 --> 00:51:20,603
大星由良之助?
んなわけねえだろう。
633
00:51:20,603 --> 00:51:26,476
大星は 若太夫だ。
俺は…➡
634
00:51:26,476 --> 00:51:30,613
斧 定九郎だってよ。
635
00:51:30,613 --> 00:51:34,383
ん? …と 何?
636
00:51:34,383 --> 00:51:37,220
定九郎 一役。
637
00:51:37,220 --> 00:51:40,123
(カラスの鳴き声)
638
00:51:40,123 --> 00:51:45,895
う~んと… 確か 定九郎って➡
639
00:51:45,895 --> 00:51:50,233
五段目にしか出てこない
あの定九郎よね?
640
00:51:50,233 --> 00:51:52,568
ああ。
641
00:51:52,568 --> 00:51:57,440
山賊で やぼった~い格好した。
642
00:51:57,440 --> 00:51:59,442
うん。
643
00:51:59,442 --> 00:52:04,914
おじいさん殺して 財布 盗んで
中身のお金 数えてたら➡
644
00:52:04,914 --> 00:52:10,419
二枚目の勘平に
ズド~ンって 鉄砲で撃ち殺されちまう。
645
00:52:10,419 --> 00:52:12,719
そう。
646
00:52:17,593 --> 00:52:23,766
どうすんのよ これ! この衣装の山!
647
00:52:23,766 --> 00:52:28,437
(鐘の音)
648
00:52:28,437 --> 00:52:32,708
きれいだね…。
649
00:52:32,708 --> 00:52:34,744
うん…。
650
00:52:34,744 --> 00:52:37,547
中さんが約束どおり➡
651
00:52:37,547 --> 00:52:40,883
2年半で 中通りから
相中になってくれたおかげで…。
652
00:52:40,883 --> 00:52:45,221
お岸… 2年だ。
653
00:52:45,221 --> 00:52:49,392
2年で 中通りから
相中になってくれたおかげで➡
654
00:52:49,392 --> 00:52:55,898
家財道具も買い戻すことができて
暮らしも 随分楽になった。
655
00:52:55,898 --> 00:53:01,771
その上
たった3年で名題に昇進するなんて➡
656
00:53:01,771 --> 00:53:07,410
よく考えたら 夢のような話ね。
657
00:53:07,410 --> 00:53:09,912
おめえに背中を押されて➡
658
00:53:09,912 --> 00:53:16,052
出戻ってから こっち
夢中になって走ってきたが…➡
659
00:53:16,052 --> 00:53:18,921
少し休めってことか。
660
00:53:18,921 --> 00:53:23,259
駄目よ。 休んじゃ駄目!
痛い… え?
661
00:53:23,259 --> 00:53:26,162
中さん 悔しくないの?
662
00:53:26,162 --> 00:53:29,131
五段目って 弁当幕って
呼ばれてるんでしょ?
663
00:53:29,131 --> 00:53:32,535
そ… そのとおりだ。
664
00:53:32,535 --> 00:53:36,005
みんなが お弁当 食べたり
ご不浄 行ったりしてるような➡
665
00:53:36,005 --> 00:53:39,208
だ~れも見てない場面に
山賊姿で出てきてさ➡
666
00:53:39,208 --> 00:53:43,546
しかも 猪に間違えられて
鉄砲で撃ち殺されて終わりなんでしょ?
667
00:53:43,546 --> 00:53:47,416
そ… そのとおりだ。
金井三笑とかいう親父の➡
668
00:53:47,416 --> 00:53:50,419
明らかな嫌がらせじゃない!
お岸…。
669
00:53:50,419 --> 00:53:53,222
そんなクソじじいの思うつぼに
はまってなるものか!
670
00:53:53,222 --> 00:53:56,893
口が悪いよ。
「仮名手本忠臣蔵」は 歌舞伎の華。
671
00:53:56,893 --> 00:54:01,731
名題になった めでたい門出の芝居として
これ以上の舞台がありますか?
672
00:54:01,731 --> 00:54:04,567
そのとおりだ。
こうなったら➡
673
00:54:04,567 --> 00:54:07,403
後の世まで語り継がれるような芝居
見せなきゃ。
674
00:54:07,403 --> 00:54:11,574
そのとおりだ!
斧 定九郎 一役でね。
675
00:54:11,574 --> 00:54:15,745
そ… ええ~?
676
00:54:15,745 --> 00:54:19,248
「鮒だ 鮒だ。➡
677
00:54:19,248 --> 00:54:25,922
鮒侍だ。 ハッハッハッハッハッ…」。
678
00:54:25,922 --> 00:54:31,861
ここで 歌舞伎史上 さん然と輝く名作
「仮名手本忠臣蔵」についての➡
679
00:54:31,861 --> 00:54:34,363
おさらいとまいりましょう。
680
00:54:34,363 --> 00:54:37,400
元禄年間に 江戸城 松の廊下で起こった➡
681
00:54:37,400 --> 00:54:40,703
赤穂藩主 浅野内匠頭による➡
682
00:54:40,703 --> 00:54:44,540
高家筆頭 吉良上野介への刃傷事件と➡
683
00:54:44,540 --> 00:54:48,377
これに端を発する
赤穂浪士 四十七名による➡
684
00:54:48,377 --> 00:54:52,014
上野介襲撃殺害事件を舞台化したもの。
685
00:54:52,014 --> 00:54:56,886
何しろ 徒党を組んで
幕府高官を殺害した赤穂浪士を➡
686
00:54:56,886 --> 00:55:00,756
称賛する内容ですから
そのまま芝居にすることは➡
687
00:55:00,756 --> 00:55:04,393
お上への痛烈な批判になってしまいます。
688
00:55:04,393 --> 00:55:11,193
そこで 物語の設定を室町時代に変える
という妙案を思いついた。
689
00:55:13,569 --> 00:55:18,040
「師直 待て!」。
「袴が破れる」。
690
00:55:18,040 --> 00:55:21,410
例えば 敵役の吉良上野介は➡
691
00:55:21,410 --> 00:55:26,749
実在した室町幕府の権力者 高 師直に。
692
00:55:26,749 --> 00:55:31,187
いじめ抜かれ ついに殿中で
吉良に斬りかかる浅野内匠頭は➡
693
00:55:31,187 --> 00:55:35,487
室町時代の大名 塩冶判官に。
694
00:55:38,060 --> 00:55:43,199
とまあ 実在の人物を
巧妙に昔の人物に置き換えて➡
695
00:55:43,199 --> 00:55:46,535
芝居に仕立て上げた。
696
00:55:46,535 --> 00:55:50,706
その他の主要な登場人物も
本物を連想させる➡
697
00:55:50,706 --> 00:55:53,743
巧みな改名を施しております。
698
00:55:53,743 --> 00:56:00,416
赤穂浪士のリーダー 大石内蔵助は
大星由良之助。
699
00:56:00,416 --> 00:56:03,719
物語中 一番の二枚目である早野勘平は➡
700
00:56:03,719 --> 00:56:10,026
討ち入り前に切腹自殺した
萱野三平を模した役。
701
00:56:10,026 --> 00:56:16,232
大石ら強硬派と たもとを分かち
赤穂藩を脱走した家老 大野九郎兵衛は➡
702
00:56:16,232 --> 00:56:19,135
斧 九太夫。
703
00:56:19,135 --> 00:56:25,741
中蔵が演じますは 九太夫の息子
斧 定九郎という架空の人物。
704
00:56:25,741 --> 00:56:30,046
父親と共に 臆病風に吹かれて
トンズラしたのはいいが➡
705
00:56:30,046 --> 00:56:36,685
素行不良で勘当され
今は 山賊に身を落としている男。
706
00:56:36,685 --> 00:56:42,558
京の都の郊外 夜の山崎街道というのが
五段目の舞台。
707
00:56:42,558 --> 00:56:45,995
ここで
旅人を襲って 食いつないでいるのが➡
708
00:56:45,995 --> 00:56:49,365
落ちぶれた家老の息子 斧 定九郎。
709
00:56:49,365 --> 00:56:54,703
通りかかった与市兵衛という老人から
金を奪おうとします。
710
00:56:54,703 --> 00:57:03,012
「お~い 親父殿 待ってくだされ。➡
711
00:57:03,012 --> 00:57:06,215
ええい さっきびから呼ぶ声が➡
712
00:57:06,215 --> 00:57:11,020
貴様の耳には入らぬかあ!
この物騒な…」。
713
00:57:11,020 --> 00:57:15,558
は~い ちょっ… ちょっと…
ちょっと待った 待った。 はいはい。
714
00:57:15,558 --> 00:57:19,428
そのセリフ 全部 なくしちまおう。
715
00:57:19,428 --> 00:57:25,034
え… ぜ… 全部?
716
00:57:25,034 --> 00:57:29,405
これから 人を殺そうとする男が
あれこれ しゃべると すごみがなくなる。
717
00:57:29,405 --> 00:57:33,605
なにも 浄瑠璃のセリフどおりに
やることはねえ。
718
00:57:35,177 --> 00:57:39,048
あの… では どのように。
719
00:57:39,048 --> 00:57:45,821
そうさなあ 定九郎が先に花道から出て
街道脇の稲かけわらの中に身を隠し➡
720
00:57:45,821 --> 00:57:50,192
後から来た与市兵衛が
稲かけに もたれて休んでいるところを➡
721
00:57:50,192 --> 00:57:52,228
後ろから グサリ。
722
00:57:52,228 --> 00:57:55,998
死骸を稲かけに引き込んで
懐から財布を盗み➡
723
00:57:55,998 --> 00:57:59,201
手探りで数えて 50両。
724
00:57:59,201 --> 00:58:03,005
セリフは… そのひと言だけで?
725
00:58:03,005 --> 00:58:05,805
そういうことになるな。
726
00:58:13,649 --> 00:58:16,018
分かりました。
727
00:58:16,018 --> 00:58:18,721
はい 与市兵衛 死んだ。
728
00:58:18,721 --> 00:58:26,896
定九郎が 財布を懐に入れたきっかけで
猪が入ってくる。
729
00:58:26,896 --> 00:58:32,701
♬~
730
00:58:32,701 --> 00:58:36,901
慌てて 稲かけわらの中に身を隠す定九郎。
731
00:58:38,841 --> 00:58:42,711
そこで鉄砲の音が ズドン!
(太鼓の音)
732
00:58:42,711 --> 00:58:46,182
定九郎 苦しげに出てきて 死ぬ。
733
00:58:46,182 --> 00:58:51,053
「あっ あ~っ!
あっ あっ あ~っ!➡
734
00:58:51,053 --> 00:58:58,527
プ~ッ! あっ あっ あ~っ!」。
(ツケ打ちの音)
735
00:58:58,527 --> 00:59:01,430
余計なもん 打つんじゃねえ!
す… すいません!
736
00:59:01,430 --> 00:59:06,402
ツケ打ちも 見得もなしだ。
定九郎ごときが ここで見得をすると➡
737
00:59:06,402 --> 00:59:12,402
すぐ後に出てくる勘平の
出ばなが弱くなる。 いいな?
738
00:59:14,076 --> 00:59:16,912
声も出さねえ方がいいんですかね?
739
00:59:16,912 --> 00:59:19,712
そういうことだ。
740
00:59:22,218 --> 00:59:24,553
分かりました。
741
00:59:24,553 --> 00:59:27,753
いい分別だ。
742
00:59:32,361 --> 00:59:36,198
次。 そこへ勘平が鉄砲を持って…。
743
00:59:36,198 --> 00:59:38,898
お待ちください。
何だ。
744
00:59:59,855 --> 01:00:05,995
先ほどより 先生がおっしゃった段取りを
全て守れば➡
745
01:00:05,995 --> 01:00:09,695
あとは
私の芝居に任せていただけますか?
746
01:00:12,201 --> 01:00:17,706
ああ… 構わねえよ。
747
01:00:17,706 --> 01:00:20,406
ありがとうございます。
748
01:00:30,886 --> 01:00:36,186
この段取りに
芝居のしどころなどあるかよ…。
749
01:00:44,400 --> 01:00:51,100
(雷鳴)
750
01:00:54,043 --> 01:00:59,848
何か見物衆を
あっと言わせる手だてはねえか…。
751
01:00:59,848 --> 01:01:04,048
(雷鳴)
752
01:01:10,926 --> 01:01:14,930
ああ~ しでえ降りになっちまったな!
あ~ あ~…。
753
01:01:14,930 --> 01:01:17,066
おや 中蔵さん。
754
01:01:17,066 --> 01:01:20,936
ああ 女将さん すまねえが
ちょいと雨宿りさせてくだせえ。
755
01:01:20,936 --> 01:01:23,939
ええ どうぞ ご遠慮なく。
あっ 1本つけるかい?
756
01:01:23,939 --> 01:01:27,710
冷やで ようがす。
あいよ。
757
01:01:27,710 --> 01:01:30,010
あ~あ。
758
01:01:32,381 --> 01:01:38,181
(雷鳴)
759
01:01:40,255 --> 01:01:45,561
五段目 二つ玉の場。
760
01:01:45,561 --> 01:01:51,033
夜の山崎街道に雨が降っている。
761
01:01:51,033 --> 01:02:17,593
♬~
762
01:02:17,593 --> 01:02:19,628
ああっ!
763
01:02:19,628 --> 01:02:32,007
♬~
764
01:02:32,007 --> 01:02:34,910
しぶきが飛んだか。 すまぬ。
765
01:02:34,910 --> 01:02:38,781
いえ…。
はい お待ち遠さま。
766
01:02:38,781 --> 01:02:41,750
悪いが 雨足が収まるまで
軒先を借りるぞ。
767
01:02:41,750 --> 01:02:45,750
ええ ご遠慮なく。
ただでとは言わぬ。 酒をもらおう。
768
01:02:47,489 --> 01:02:50,225
杯ではなく 茶わんにしてくれ。
冷やでいい。
769
01:02:50,225 --> 01:02:52,225
はい ただいま。
770
01:02:58,901 --> 01:03:00,836
あ…。
771
01:03:00,836 --> 01:03:02,771
自分を殴るやつから目を背けるな。
772
01:03:02,771 --> 01:03:07,576
相手の目を
いちいち グッと にらみつけてやる。
773
01:03:07,576 --> 01:03:11,447
グッとですか?
そうだ。
774
01:03:11,447 --> 01:03:18,647
「お前の顔は決して忘れぬぞ」ってな。
775
01:03:20,289 --> 01:03:23,058
あなた様は あの時の!
776
01:03:23,058 --> 01:03:25,594
何だ?
777
01:03:25,594 --> 01:03:28,630
お前の顔に見覚えはないぞ。
778
01:03:28,630 --> 01:03:31,700
随分昔 大川で
あなた様に助けられました。
779
01:03:31,700 --> 01:03:34,700
昔のことを いちいち覚えておらぬ。
780
01:03:39,441 --> 01:03:43,712
「お前の顔は決して忘れぬぞ」。
781
01:03:43,712 --> 01:03:45,712
無礼者!
782
01:03:48,884 --> 01:03:54,384
クソ! お前が妙なこと言うから
抜いちまっただろ。
783
01:03:57,593 --> 01:04:01,093
武士に恥かかせるもんじゃねえ。
784
01:04:25,420 --> 01:04:28,924
ああ~…。➡
785
01:04:28,924 --> 01:04:32,361
はあ…。
786
01:04:32,361 --> 01:04:41,003
ははあ… おめえ 役者だな?
787
01:04:41,003 --> 01:04:43,203
へい!
788
01:04:45,541 --> 01:04:48,841
中村中蔵と申します。
789
01:04:50,412 --> 01:04:56,018
俺はな 役者が大っ嫌えなんだよ。
790
01:04:56,018 --> 01:04:59,721
へい よく存じ上げております!
791
01:04:59,721 --> 01:05:12,901
♬~
792
01:05:12,901 --> 01:05:17,901
ふう~…。
793
01:05:21,410 --> 01:05:23,610
行くとするか。
794
01:05:25,914 --> 01:05:28,750
ああっ 今度こそ お名前を!
795
01:05:28,750 --> 01:05:31,050
うるせえ。
796
01:05:39,861 --> 01:05:42,061
あばよ。
797
01:05:51,473 --> 01:05:55,877
変なお侍だね~。
798
01:05:55,877 --> 01:05:59,381
あれだ…。
799
01:05:59,381 --> 01:06:02,017
あれだ…!
800
01:06:02,017 --> 01:06:07,889
あれだ~! あれだ あれだ~!
ああ~ ハハハハッ! あれだ! あれだ!
801
01:06:07,889 --> 01:06:12,027
≪お岸! お岸! お岸 お岸 お岸…!
はいはい お帰りなさい。
802
01:06:12,027 --> 01:06:15,230
…って まあ ずぶぬれじゃないの。
803
01:06:15,230 --> 01:06:20,035
見つけたぜ! 金井三笑を見返す方策を!
あらま。
804
01:06:20,035 --> 01:06:24,035
すぐ衣装を縫ってくれ
初日まで3日しかねえ!
805
01:06:27,242 --> 01:06:29,911
大星由良之助義兼 演ずるは…。
806
01:06:29,911 --> 01:06:32,681
実事究め 所作ごと まこと秀麗なる…。
807
01:06:32,681 --> 01:06:34,983
二代目 中村傳九郎…。
808
01:06:34,983 --> 01:06:38,854
あ~あ 中蔵も
せっかく名題になったってえのに➡
809
01:06:38,854 --> 01:06:40,789
看板が上がらねえとはな。
810
01:06:40,789 --> 01:06:44,660
山賊の 斧 定九郎 一役じゃあ
絵姿にもできないしね。
811
01:06:44,660 --> 01:06:47,863
「出る杭は打たれる」ってやつでさあ。
812
01:06:47,863 --> 01:06:50,365
あ~あ…。
813
01:06:50,365 --> 01:07:10,565
〽
814
01:07:14,890 --> 01:07:35,177
♬~
815
01:07:35,177 --> 01:07:37,679
中蔵の兄さんも すっかり諦めて➡
816
01:07:37,679 --> 01:07:42,184
三笑に年貢を納めたみたいですね。
817
01:07:42,184 --> 01:07:44,986
(高麗蔵)八百蔵さん。
何です?
818
01:07:44,986 --> 01:07:49,691
あんた 長い間 兄弟弟子だった割に➡
819
01:07:49,691 --> 01:07:53,391
中さんのこと 何にも知らないんだね。
820
01:07:56,865 --> 01:08:03,638
静まり返っている時の あの人は…
怖いよ~。
821
01:08:03,638 --> 01:08:14,282
♬~
822
01:08:14,282 --> 01:08:19,082
知ってますよ そんなことは。
823
01:08:22,991 --> 01:08:24,926
中さん そろそろ三段目が…。
824
01:08:24,926 --> 01:08:28,730
助さん。
825
01:08:28,730 --> 01:08:30,665
悪いが手伝ってくれ。
826
01:08:30,665 --> 01:08:38,665
「何とぞ お指図のほどを 師直公」。
827
01:08:42,277 --> 01:08:44,513
成田屋!
成田屋!
828
01:08:44,513 --> 01:08:50,813
「師直公 師直公!」。
829
01:08:53,855 --> 01:08:57,692
「何だ その手は」。
「こ… この手は」。
830
01:08:57,692 --> 01:09:01,196
「その手は」。
「この手は」。
831
01:09:01,196 --> 01:09:05,896
「その手は何だ!」。
832
01:09:07,702 --> 01:09:10,502
(助佐)よし。
833
01:09:19,214 --> 01:09:21,149
すげえな。
834
01:09:21,149 --> 01:09:26,555
〽 と諸手をかけ
835
01:09:26,555 --> 01:09:32,327
〽 グッと引き回し
836
01:09:32,327 --> 01:09:38,667
〽 苦しき息をホッとつき
837
01:09:38,667 --> 01:09:43,338
「由良之助… 近う… 近う近う」。
838
01:09:43,338 --> 01:09:46,138
「ハハッ」。
839
01:09:53,348 --> 01:09:56,384
「由良之助。➡
840
01:09:56,384 --> 01:10:03,692
この九寸五分は➡
841
01:10:03,692 --> 01:10:11,867
汝へ形見➡
842
01:10:11,867 --> 01:10:22,867
形見じゃよ」。
843
01:10:35,090 --> 01:10:38,894
「ハハァ」。
844
01:10:38,894 --> 01:10:43,094
中さん 四段目も 城明渡しの場だ。
そろそろ…。
845
01:10:47,402 --> 01:10:49,337
派手だね~。
846
01:10:49,337 --> 01:10:55,577
大体 山賊姿ってえのが おかしいのさ。
847
01:10:55,577 --> 01:10:58,613
落ちぶれ果てても➡
848
01:10:58,613 --> 01:11:03,813
赤穂藩次席家老の ドラ息子でえ。
849
01:11:06,755 --> 01:11:08,690
おい 何をする気だい?
850
01:11:08,690 --> 01:11:11,059
下がってな。
851
01:11:11,059 --> 01:11:13,259
ぬれるぜ~。
852
01:11:18,767 --> 01:11:21,436
(助佐)あ~ ああ~…!
853
01:11:21,436 --> 01:11:26,308
中さん 頼まれた傘だ。
ありがとよ。
854
01:11:26,308 --> 01:11:28,777
いい具合だ。
855
01:11:28,777 --> 01:11:32,380
揚幕の中に 水おけも用意した。
すまねえな。
856
01:11:32,380 --> 01:11:34,883
ああ それと これ。➡
857
01:11:34,883 --> 01:11:39,583
口に含んで 奥歯で かみ割ると
血のりが出る。
858
01:11:42,223 --> 01:11:44,559
恩に着るぜ。
859
01:11:44,559 --> 01:12:04,412
〽
860
01:12:04,412 --> 01:12:08,917
柏屋!
日本一!
日本一!
861
01:12:08,917 --> 01:12:10,919
柏屋!
柏屋!
862
01:12:10,919 --> 01:12:14,255
柏屋!
柏屋!
863
01:12:14,255 --> 01:12:16,455
日本一!
864
01:12:19,928 --> 01:12:21,930
おおっ!
865
01:12:21,930 --> 01:12:27,230
いつもながら 見事な引っ込み。
感服いたしました。
866
01:12:29,938 --> 01:12:35,938
ハハ… ハハハハハハ…。
867
01:12:40,582 --> 01:12:43,585
高麗蔵の塩冶判官 なかなかだったな。
868
01:12:43,585 --> 01:12:47,422
八百蔵も頑張ってましたよ。
桃井と おかるの2役。
869
01:12:47,422 --> 01:12:52,560
いや~ 團十郎の実悪も
文句のつけようがねえ。
全くだ。
870
01:12:52,560 --> 01:12:56,231
じゃあ 私は 弁当幕の間に
ちょいと ご不浄へ。➡
871
01:12:56,231 --> 01:13:01,903
ごめんよ~ ごめんよ~…。
お~っととと… 気を付けてよ。
872
01:13:01,903 --> 01:13:05,403
えっ 幕の内かい。
873
01:13:17,052 --> 01:13:20,255
(柝の音)
874
01:13:20,255 --> 01:13:24,125
中さん そろそろ行きますよ。
(柝の音)
875
01:13:24,125 --> 01:13:43,478
(柝の音)
876
01:13:43,478 --> 01:13:45,478
あっ!
うわっ!
877
01:13:55,090 --> 01:13:59,590
(鐘の音)
878
01:14:08,770 --> 01:14:16,770
(太鼓の音)
879
01:14:22,584 --> 01:14:33,528
(太鼓の音)
880
01:14:33,528 --> 01:14:37,398
(鐘の音)
881
01:14:37,398 --> 01:14:40,869
〽 又も降り来る雨の足
882
01:14:40,869 --> 01:14:44,706
〽 人の足音とぼとぼと
883
01:14:44,706 --> 01:14:53,882
〽 直ぐなる心 堅親仁
884
01:14:53,882 --> 01:14:59,020
「ああっ あっ!
えらいことをしてのけた➡
885
01:14:59,020 --> 01:15:03,558
大事の火を けやしてしもうた。➡
886
01:15:03,558 --> 01:15:10,331
ママよ ここから在所までは あと少し。
うん うん。➡
887
01:15:10,331 --> 01:15:13,034
どれ 勝手知ったる道じゃ。➡
888
01:15:13,034 --> 01:15:18,740
その辺りで 一休みしていきましょう」。
889
01:15:18,740 --> 01:15:27,448
〽
890
01:15:27,448 --> 01:15:29,948
何!?
891
01:15:32,187 --> 01:15:35,857
(与市兵衛)「もし 一文字屋様➡
892
01:15:35,857 --> 01:15:40,528
ここから お礼を申します。➡
893
01:15:40,528 --> 01:15:45,700
ありがとうございました。➡
894
01:15:45,700 --> 01:15:50,572
ありがとうございました…。➡
895
01:15:50,572 --> 01:15:53,875
ああっ これ な… 何をするのじゃ!➡
896
01:15:53,875 --> 01:15:59,214
これ これ 何をするのじゃ! ああっ!➡
897
01:15:59,214 --> 01:16:08,556
ぐっ… うう… ああっ!」。
898
01:16:08,556 --> 01:16:11,392
うん。
899
01:16:11,392 --> 01:16:35,516
〽
900
01:16:35,516 --> 01:16:38,419
あの野郎…。
901
01:16:38,419 --> 01:17:08,383
〽
902
01:17:08,383 --> 01:17:12,553
すげえ…。
903
01:17:12,553 --> 01:17:42,517
〽
904
01:17:42,517 --> 01:17:50,017
「50両…」。
905
01:17:57,999 --> 01:18:15,717
〽
906
01:18:15,717 --> 01:18:20,221
駄目だ… 全くウケねえ…。
907
01:18:20,221 --> 01:18:40,975
〽
908
01:18:40,975 --> 01:18:44,345
〽 あわやと見やる定九郎が
909
01:18:44,345 --> 01:18:47,382
〽 背骨をかけて ドッサリと
910
01:18:47,382 --> 01:18:52,086
〽 あばらへ貫く
911
01:18:52,086 --> 01:18:58,359
〽 二つ玉
912
01:18:58,359 --> 01:19:16,544
〽
913
01:19:16,544 --> 01:19:20,415
[ 心の声 ]
終わった…。➡
914
01:19:20,415 --> 01:19:26,020
もう しめえだ…。
915
01:19:26,020 --> 01:19:33,761
〽 死してんけり
916
01:19:33,761 --> 01:19:42,561
〽 猪うちとめしと勘平が
917
01:20:07,995 --> 01:20:10,295
ああ…。
918
01:20:13,201 --> 01:20:15,536
ああ~!
919
01:20:15,536 --> 01:20:17,836
ああ…。
920
01:20:22,210 --> 01:20:24,210
ああ…。
921
01:20:26,013 --> 01:20:28,513
ああ~!
922
01:20:35,556 --> 01:20:39,227
どこにもいません。
もう一度 捜してくれ。
923
01:20:39,227 --> 01:20:41,162
どうだ 見つからねえのか?
924
01:20:41,162 --> 01:20:47,362
それが どこにも見当たらねえんで…
もう一度 捜してみます。
925
01:20:49,904 --> 01:20:52,406
表 見てまいります。
926
01:20:52,406 --> 01:21:05,953
♬~
927
01:21:05,953 --> 01:21:12,059
≪おい いたか?
≪いや いないです!
928
01:21:12,059 --> 01:21:29,759
♬~
929
01:21:32,013 --> 01:21:35,383
聞かねえんだな?
ん?
930
01:21:35,383 --> 01:21:41,188
いや 「どうだったの?」とかさ。
931
01:21:41,188 --> 01:21:43,388
どうだったの?
932
01:21:45,560 --> 01:21:48,260
言いたくないんでしょ?
933
01:21:50,031 --> 01:22:06,414
♬~
934
01:22:06,414 --> 01:22:12,753
前から聞きたかったんだけどな。
はい。
935
01:22:12,753 --> 01:22:19,927
お前 俺の出てる芝居
見に来たことねえよな。
936
01:22:19,927 --> 01:22:22,830
だって 体に悪いんだもん。
937
01:22:22,830 --> 01:22:26,434
しくじるんじゃないかと
ハラハラしながら 芝居見たら➡
938
01:22:26,434 --> 01:22:28,769
疲れちゃう。
939
01:22:28,769 --> 01:22:31,769
明日は 必ず来てくれねえかな。
940
01:22:37,211 --> 01:22:41,211
もう 役者をやめようと思う。
941
01:23:27,428 --> 01:23:37,228
≪(足音)
942
01:23:44,378 --> 01:23:48,549
中蔵 しでかしたな!
943
01:23:48,549 --> 01:23:53,020
へい! しでかしてしまいました!
皆様には…。
944
01:23:53,020 --> 01:23:57,391
よくぞやった!
えっ?
945
01:23:57,391 --> 01:24:03,591
三笑先生が おめえに話があるってよ。
先生。
946
01:24:05,733 --> 01:24:09,933
先生 おっしゃりてえことは 重々…!
947
01:24:14,408 --> 01:24:20,047
中蔵さん こりゃ~ 何だろうね?
948
01:24:20,047 --> 01:24:23,751
め… 目ですかい?
違う!
949
01:24:23,751 --> 01:24:26,053
え~っと…。
950
01:24:26,053 --> 01:24:28,589
こいつは 目なんかじゃねえ。
951
01:24:28,589 --> 01:24:32,889
人を見る目のねえ ただの節穴だ。
952
01:24:36,397 --> 01:24:39,867
悔しいねえ…。
953
01:24:39,867 --> 01:24:43,704
お前さんに まんまと してやられたよ!
954
01:24:43,704 --> 01:24:46,207
先生…。
955
01:24:46,207 --> 01:24:52,980
あんな すげえ 斧 定九郎…
見たことがねえ!
956
01:24:52,980 --> 01:24:56,884
よくやった!
中さん!
957
01:24:56,884 --> 01:24:59,754
栄屋!
中さん!
958
01:24:59,754 --> 01:25:08,896
(歓声)
959
01:25:08,896 --> 01:25:14,401
♬~
960
01:25:14,401 --> 01:25:16,904
鵜蔵さん 一体 何の騒ぎです?
961
01:25:16,904 --> 01:25:20,574
中村座に 中蔵の名題看板が上がるそうだ。
962
01:25:20,574 --> 01:25:23,911
ええっ 斧 定九郎
たった一役だっていうのに?
ああ。
963
01:25:23,911 --> 01:25:27,748
全く 大した男だねえ。
964
01:25:27,748 --> 01:25:29,784
上がれ 上がれ~!
965
01:25:29,784 --> 01:25:31,719
今や 名題の看板➡
966
01:25:31,719 --> 01:25:37,358
中村仲蔵 前代未聞の大出世。
大出世。
967
01:25:37,358 --> 01:25:40,394
≪かねてより 所作ごと優美に秀でたる。
968
01:25:40,394 --> 01:25:44,999
実悪にても 日の出の勢い。
969
01:25:44,999 --> 01:25:48,202
(傳九郎)えれえ騒ぎだな。
970
01:25:48,202 --> 01:25:51,105
あ…。
971
01:25:51,105 --> 01:25:56,544
ありゃ ほとんど
おめえ見に来た客だぜ。
972
01:25:56,544 --> 01:26:00,214
よしてくだせえ…。
973
01:26:00,214 --> 01:26:03,250
しかし 若太夫。
何だい?
974
01:26:03,250 --> 01:26:06,987
あの看板 間違ってますぜ。
975
01:26:06,987 --> 01:26:10,891
中蔵の中に 人偏がついてる。
976
01:26:10,891 --> 01:26:12,893
(傳九郎)あれな。
977
01:26:12,893 --> 01:26:18,399
ありゃあ 俺が人偏 書き加えた。
978
01:26:18,399 --> 01:26:21,235
ひとかどの男になったって意味さ。
979
01:26:21,235 --> 01:26:27,408
中 おめえも 天下の名題役者だ。
改名ぐれえしねえとな。
980
01:26:27,408 --> 01:26:29,443
俺は 若太夫に頂いた 今の名前のまま…。
981
01:26:29,443 --> 01:26:31,679
なかぞうは なかぞうでえ。
982
01:26:31,679 --> 01:26:37,985
つべこべ言わねえで 人偏つけとけ
この すっとこどっこい。
983
01:26:37,985 --> 01:26:40,354
へい。
若太夫。
984
01:26:40,354 --> 01:26:44,054
そろそろ 四段目が始まります。
おう。
985
01:26:54,535 --> 01:26:58,005
中さんも 支度を始めてくれ。
986
01:26:58,005 --> 01:27:01,375
はいよ。
987
01:27:01,375 --> 01:27:03,875
(柝の音)
988
01:27:18,893 --> 01:27:25,599
(ツケ打ちの音と どよめき)
989
01:27:25,599 --> 01:27:28,235
待ってました!
990
01:27:28,235 --> 01:27:32,206
「待っていたとは ありがてえ」。
991
01:27:32,206 --> 01:27:35,006
(どよめき)
992
01:27:38,512 --> 01:27:41,348
栄屋!
栄屋!
栄屋!
993
01:27:41,348 --> 01:27:43,684
栄屋!
栄屋!
994
01:27:43,684 --> 01:27:49,189
(歓声)
995
01:27:49,189 --> 01:27:54,489
いよっ 日本一!
996
01:28:00,534 --> 01:28:14,081
(ツケ打ちの音)
997
01:28:14,081 --> 01:28:39,173
♬~
998
01:28:39,173 --> 01:29:11,538
♬~
999
01:29:11,538 --> 01:29:19,880
♬~
1000
01:29:19,880 --> 01:29:25,180
♬~
1001
01:30:33,720 --> 01:30:37,391
ああ あそこが駅か。
1002
01:30:37,391 --> 01:30:41,261
急いでください!
もう列車の時間ですよ。
1003
01:30:41,261 --> 01:30:44,561
ここがホーム?
1004
01:30:46,567 --> 01:30:53,240
う~ん 真っ白で
どこがホームで どこが線路か分からない。
1005
01:30:53,240 --> 01:30:57,044
列車がやって来ました。
84157