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（受話器を置く音）

（塔子(とうこ)）ハァー

（園児たちの声）

（先生と園児たちの歌声）

（園児）みどちゃんママ
こんにちは

（塔子）こんにちは

翠(みどり)

（翠）あっ ママ おかえりー！

（翠）先生 バイバーイ
（先生）バイバーイ

（塔子）じゃあ 失礼します
（翠）ゆいちゃん バイバイ

ゆいちゃん バイバイ

（塔子）ああ こんにちは
（たかしの父親）こんにちは

（父親）みどちゃん バイバイ
（翠）バイバイ

（塔子）失礼します
（父親）失礼します

（父親）こんにちは
（先生）こんにちは

すいません 嫁が残業続きで

（たかし）ママ 頑張ってるもん
（父親）おう

（先生）たかし君 偉いねえ

今日ね ゆいちゃんとね
イカイカイッカー踊ったんだよ

（塔子）踊ったの？
（翠）うん

（塔子）ゆいちゃんと？
（翠）うん

（塔子）うまく踊れた？
（翠）踊れた

今日の夕飯は ハンバーグです

やったあ

（翠）ただいま！

（翠の歌声）

（麻子）翠
（翠）はい

（麻子）とってもお上手ね
（翠）うん

（麻子）今度
バレエ習いに行こっか？

（翠）うん
（麻子）ウッフッフ…

塔子さん

はい

（麻子）そろそろ
お台所 空きそうかしら？

あっ はい すぐ

（麻子）急ぐことないわよ
終わったら教えてね

はい

（ドアチャイム）

（ドアが開く音）

（塔子）おかえりなさい

（真(しん)）うん

アーッ 酔っ払った

フフッ お疲れさま

真君 ごはんは？

（真）ん？
（塔子）ハンバーグだよ

（真）あー おなかいっぱいかな

そう

（スピーカーから流れる音楽）

（真）ただいま
（麻子）おかえり

（麻子）真 煮つけあるわよ

あっ ホント？
ちょっと食べようかな

（麻子）うん

じゃあ 私 温めます

（麻子）悪いわねえ

（真）はい
（塔子）あっ ありがとう

（麻子）ねえ 真
（真）ん？

（麻子）お父さん
来月には帰ってくるって 福岡から

（真）ああ そうなんだ

俺 来月 出張で北京(ペキン)

（麻子）あら
商社マンはお忙しいこと

まあね

（真）あっ そうだ 塔子
（塔子）はい

週末 モール開発の懇親会だから

（塔子）ああ…
（真）土曜だっけかなあ

あっ こないだの あのレースの
ワンピースがいいと思うよ

ハッ… あれ でも
ちょっとかわいすぎない？

ん？　いいんだよ あれが

（麻子）お疲れさま

あらー 丁寧にショウガまで
刻んでいただいて

（真）うん おいしそう

（塔子）はい

（真）頂きます
（麻子）どうぞ

（麻子）どう？
（真）うん おいしい

（麻子）ウフフッ

真は 小さいころから
お魚が大好きだもんねえ

（真）そうだっけ？
（麻子）うん

下田(しもだ)から送ってもらったキンメ
ずーっと食べてた

（真）ずーっとって…
（麻子）ずーっと フフッ

覚えてないの？

（荒い息遣い）

あっ…

（塔子）んっ ん…

（真）ハァー

気持ちよかったよ 塔子

ありがとう

（塔子）うん

（真）ハァー

たまには 塔子と２人で
旅行でもしたいなあ

翠が小学校 上がったらかな

いいよね そういうのも

（塔子）そうだね
（真）うん

（ウインカーの音）

（サイドブレーキを引く音）

（エンジンの停止音）

（車のドアの開閉音）

（ラジオ）…側を中心とした
記録的な大雪の影響で―

新潟県内の鉄道 航空各社
高速道路などで混乱が生じています

はじめに鉄道です
北陸新幹線は 積雪…

（ラジオの音楽）

（ラジオ）
新潟県内の北陸道 関越道は―

大雪の影響で
上下線ともに通行止めです

県内の一般道 国道17号線では―

上下線ともに
通行規制が かかっており―

現在 復旧のめどは立っていません

おしまいに鉄道と空の便です

鉄道 航空各社ともに
本日の全便が…

（ラジオ：♪「Hallelujah(ハレルヤ)」）

（車のドアが開く音）

（車のドアが閉まる音）

（エンジンの始動音）

（塔子）怖い

（鞍田(くらた)）怖い？

（塔子）このままずっと
外に出られない気がする

ハァッ…

止めないで

（真）市川(いちかわ)さんの本
早速 拝読させていただきました

いやあ 僕は この本に出会えて
とても幸運に思います

（市川）いやいや お恥ずかしい

なんというか…

これからの仕事の指針を
頂けたというか

まあ それは僕だけじゃなくて…

主婦にも役立つことが書かれていて
大変 参考になりました

（市川）うれしいです ありがとう

え… 塔子さんでしたっけ？

はい

少しだけ旦那様をお借りします

（塔子）あっ はい

（市川）申し訳ない
（塔子）失礼します

すばらしい奥様ですね

いえいえ 言葉足らずですみません

（塔子の深呼吸）

（塔子）あっ はい 頂きます

ありがとうございます

（ボーイ）村主(むらぬし)様
（塔子）はい

ご主人様からです

（塔子）ああ…

ありがとうございます

（女性）さあさあ お座りになって

ああ… でも
主人に呼ばれてますので

（女性）いいじゃない 少しぐらい
（塔子）失礼します

（塔子）すいません 失礼します
（女性）行っちゃうの？

（塔子）んっ…

（２人の荒い息遣い）

鞍田さん…

（鞍田）フッ…

久しぶり

（鞍田）建築関係の仕事なんて
大概 どこともつながってるから

驚いた？

設計事務所 畳んだんだ

経営も大変だし

今は 友達の会社で
設計やらせてもらってる

車 変わったんですね

あれから10年も経つからね

（塔子）10年…

もっと遠い過去かと思った

ねえ あのデザイン画 覚えてる？

え？　私が大学のときの？

そうそう

あの 部屋のデザイン画

フフッ なんですか
そんなおかしそうに

いや ごめんごめん

笑ってしまうほど下手な線だったな

フッ…

どんな絵だったか覚えてる？

フッ ん…

でも… あの日のことは覚えてます

あなたを初めて見た日のことだから

もう描いたりしないの？

うん もう描かないです

子供もできたから

（鞍田）娘さんは？　いくつ？

（塔子）６歳になりました

（鞍田）かわいいんだろうな

（塔子）フッ… ええ

（鞍田）旦那さんは？

（塔子）優しい人です

娘ともホントに仲がよくて

仕事は続けたかったけど

恵まれてますよ

今がとっても幸せ

君は 変わってないな

（ドアが開く音）
（麻子）いやー 暑かった 暑かった

はいはい
涼しいお部屋に入りましょ

（麻子）ああ… ただいまー
（塔子）おかえりなさい

（翠）ただいま
（塔子）おかえり

（翠）ママ 喉 渇いた
（塔子）喉 渇いた？

（麻子）いやー 汗だく

毎年 猛暑でもう日本も南国ね

（塔子）そうですね
（翠）ママ りんごジュース

（塔子）そうですね
（翠）ママ りんごジュース

（麻子）
これからは お散歩―

（ジュースを注ぐ音）
（塔子）はい 翠

夕方だけに
しなくちゃダメね

はい これ郵便

（塔子）私にですか？

珍しいわね

（塔子）ありがとうございます

（麻子）着替えてくるわね
（塔子）はーい

（真の寝息）

（塔子）ハァー

（北島）村主塔子さん 32歳

空間デザイナー…

職歴 見ると…

はい

だいぶブランクありますね…

結婚するまでは働いていたんですが
出産したので…

（北島）ああー ああ ですよね
分かります

（男性）鞍田さん
ちょっといいですか？

（男性）鞍田さん
ちょっといいですか？

まあ よくありますよね
そういうことは…

まあ よくありますよね
そういうことは…

まあ よくありますよね
そういうことは…

すいません

まあ よくありますよね
そういうことは…

ああ カフェのデザイン…

うん お店関係得意ってこと…

だったら… うん

（真）あっ 塔子 豆腐食べて

うん

うーん やっぱここのお肉 最高だな

接待で来てさ 塔子にも
食べさせたいなって思って

（塔子）ありがとう

こんなおいしいもの
食べさせてくれて

結婚記念日だしね

あっ あとパーティーのお礼も

（塔子）ああ…

やっぱり評判よかったんだよ
あのワンピース

うん…

（真）あっ 春菊もいいや

うん

（塔子）真君
（真）ん？

あのね 翠も来年 小学校だし

また仕事しようかなって

えっ なんで？

なんでって…

ってか 働く必要ないよね？

必要？

うん

真君 覚えてないの？

（真）ん？　何を？

私が 結婚しても
仕事は続けたいって言ったら

もちろん そうしてほしいって
言ったこと

あー うん…

でも それはさ

うまいこと保育園に
入れなかったんだから

しかたないんじゃない？

（真）フゥー

うん… 分かった

やってみたら？　仕事

ホント？

（真）うん やってみたら

ハァ… ありがとう

おふくろにも相談しとく
こういうのは 家族の問題だから

うん…

（真）明日 朝早いから
ホテル泊まるよ

ごめんね こんな日に

（塔子）うん

（携帯電話のバイブ音）

はい

（鞍田）おめでとう

え？

（鞍田）君の採用が決まったよ

よかったね

鞍田さん ズルいです

あなたが ひどい人だってこと
忘れそうになる

（鞍田）待ってるよ

きっと みんなも
君のこと気に入ると思う

（不通音）

（棚橋）天井の仕上げ材は
チーク材にしたいところ

（安藤）Exactly！
だってもともと そうだったじゃない

（安藤）Exactly！
だってもともと そうだったじゃない

（塔子）チーク材 はい
（棚橋）はい

だってもう
それがいいからっていう話…

だってもう
それがいいからっていう話…

（小鷹(こだか)）それだと
予算ハマんないですねえ

（安藤）フフッ
（棚橋）なんですかー 小鷹さん

（安藤）Here he comes.

（棚橋）来た来た…
（安藤）Every time, always...

（小鷹）ハマんないですね

ハマんないでしょ？

小鷹さん 冷たいですよ
だって できないことは…

小鷹さん 冷たいですよ
だって できないことは…

（棚橋）
ハマらないことも
ないこと…

（棚橋）
ハマらないことも
ないこと…

そう やれば たぶんね
こっちのとことか

詰めることは
できなくはないと思うんですよね

そのまま見せちゃえば
いいんじゃないでしょうか？

（棚橋）え？

ああ… “現し”か

（塔子）はい
（一同）ああー

それだと 木のぬくもりを感じたい
っていう要望にも応えられるし

照明も 間接照明にしちゃえば
いいんじゃないでしょうか

（武藤）なるほどね
（安藤）That's good. それだ！

（村上）いいですね

（武藤）
じゃあ それで予算出してみて

（安藤）Yes, sir.
（村上）間接照明のプラン…

おっ… 新しく入った子？

いや…
子って言われるような年では…

へえー

けど かわいいっすね

どうですか？　今度 メシでも

（棚橋）ダメダメ 小鷹さん
村主さん 結婚してるから

ああ…

へえ…

（山科）あっ 小鷹さん
打ち合わせ行かないと

（小鷹）あー ごめんごめん

じゃあ 村主さん また

あっ 小鷹 ね？

（塔子）はあ…
よろしくお願いします

はいはい

（山科）早くしてくださいよ
（小鷹）はい すいません

（棚橋）おー 出た出たー

ハッ… 小鷹さん
いっつも あんな調子なんで

気をつけてくださいね

（塔子）ああ はい…

それじゃあ ここの構造材を
変えといてもらってもいいですか？

（塔子）はい 分かりました
（棚橋）はい お願いします

やあ

（塔子）あっ 鞍田さん

（小鷹）あれ？

２人とも知り合いっすか？

あっ そうだ
今度 飲み行きません？

あっ 俺 塔子ちゃんに
言ったんだけど

ほら コミュニケーション
取りやすくしとくの大事ですからね

鞍田さんも行きます？

いや

（小鷹）そうですか

（戸の開閉音）

（同僚たちの話し声）

（船のエンジンの始動音）

塔子ちゃん

（塔子）はい

えっ？

あ…

え？

（警笛）

（警笛）

（警笛）

（小鷹の笑い声）

（小鷹の笑い声）

（塔子）あれ？　え…

（小鷹）驚いた？

いや お… 驚きましたけど

（小鷹）その顔
（塔子）え？

ちょっと待って
大丈夫なんですか？

（小鷹）それは大丈夫
さて どこ行くかねえ

（塔子）ちょっと…
（小鷹）ほら 景色 楽しまないと

（塔子）いや…
（小鷹）ほら 月 キレイだし

飲んだあと
たまーに来ちゃうんですよねえ

私 初めて来ました

あれ？

（塔子）当たった！
（小鷹）おっ

やるねえ

（ボールの発射音）
（キャッチネットに当たる音）

（塔子）あれ？

（小鷹）塔子ちゃんさあ
（塔子）はい

親 離婚してるでしょ？

（塔子）え？

しかも 母子家庭

フッ… なんで分かるんですか？

（小鷹）俺 つきあう子の８割
母子家庭なの

苦労したんじゃない？

いや… まあ

（小鷹）鞍田さんも同じかなあ

だって似てんじゃん ２人とも

（ボールの発射音）
（キャッチネットに当たる音）

あの人 何にも
愛着ない感じすんじゃん

自分にも愛着ない感じ…

いつから知り合いなんだっけ？

（ボールの発射音）
（キャッチネットに当たる音）

10年前です

（小鷹）ああ…

鞍田さんが結婚してたときだ

（塔子）はい

大学生のころ 鞍田さんの事務所で
アシスタントしてました

（小鷹）あのさ…

持ち手が逆

で もうちょっと上 短く持って

で ボールをよーく見て… 打つ

ね？

よーく見て打つ

セックスしたんだ

してません

（小鷹）ウソだあ
（塔子）違います

ホントに？

ホントに違います

（小鷹）んー…

じゃあ いいか

（バットを置く音）

するなら ちゃんとやって

お前 意外とエロいな

え？

フハハハ…

ちょっと なんだよー

アハハハ…

ちょっと待って
ちょっと待って どこ行くの

ちょっと待って
ちょっと待って どこ行くの

（ドアが開く音）

（ドアが開く音）

（ドアが開く音）

おい！　マジか

おい！　マジか

（笑い声）

（小鷹）うあっ…

よし イェーイ！

（塔子）キャー！

（小鷹）うわっ 危ない
（塔子の笑い声）

（小鷹）ああっ

うー！

（小鷹･塔子）ああー！

（小鷹）おはよう
（塔子）あっ おはようございます

（小鷹）村主さん
筋肉痛じゃない？

（塔子）大丈夫です

（小鷹）俺 頭 少し筋肉痛

（塔子）フッ…
それ 二日酔いですよ

（小鷹）そっか

おはようございます

おはよう

昨日 ２人で飲み行っちゃいました

まあ 自転車 乗っただけですけどね
２人で

へえ

（小鷹）面倒な人ですねえ

（棚橋）え？
いや いいじゃん 黒 ねえ

（武藤）いや まあ
その黒自体はいいんだけど

（村上）
あっ だったら この色にしちゃえば
随分なじみますよね？

（安藤）奥にあったよね？
誰か持ってくる？

（押井）ねえねえ

新潟の酒造さんのリノベ

鞍田さんから
サポートのリクエストが出てます

（武藤）あー
デザイナーのアシが欲しいって？

（押井）はい

（安藤）I can't go.
俺は行けないですよ

（武藤）あー まいったな
（村上）誰か出せましたっけ？

（棚橋）無理

あの… 私でよければ

えっ？　いやいや… 村主さん

だって今も結構
いろいろ抱えてるでしょ？　ねえ

（村上）そうですよねえ
（棚橋）あの ご家庭もあるし

（安藤）鞍田さんは
人の使い方？　荒いですよ

大丈夫です

（北島）はい 決まりね

今日 建材の
発注しなきゃいけないから―

鞍田さんと行ってきて

はい

あっ じゃあ
サンプル持ってきますね

（棚橋）ありがとうございます
（村上）お願いします

（武藤）サンキュー
（安藤）無理はしないでね

どこ行こうか

（塔子）え？

（遠雷）

（鞍田）んっ
（塔子）ああ…

聞かせてよ

（塔子）え？

君の声

（あえぎ声）

鞍田さん…

（鞍田）もっと

鞍田さん

（鞍田）もっと

鞍田さん…

（鞍田）もっと

鞍田さん…

（鞍田）もっと

鞍田さん… 鞍田さん…

（鞍田）もっと！

鞍田さん

（鞍田）ハァ… ハァ…

（鞍田の荒い息遣い）

（塔子）こんなんだったんですね

（鞍田）何が？

（塔子）鞍田さんの部屋

どんなとこに
住んでるんだろうって…

ずっと思ってました

こんな風景を見てたんですね

（塔子）ハァー
こんなソファーに座って―

こんな冷たい石の上を歩いて

あ… 「Hallelujah」

懐かしい

いつ奥さんと別れたんですか？

４年前

あっ…

これ よく読んでましたよね

ああ…

建築の勉強を始めたときに
買ったんだ

ボロボロだけど
なんか 捨てられなくて

必要なものだけしか置いてないんだ

４年前 体 壊してさ

全部 整理した

体 壊した？

悪性リンパ腫

血液のがん

え？

（鞍田）ハァー

今は大丈夫だよ

もう治ったの？

送るよ

（睦夫）あんたら

こげん雪ん中
どごへ行ぎなさるの？

（鞍田）東京まで…

やめてた方がええ

今夜は 脇道でねえといがんねすけ

（ふみよ）はい

お待ちどおさま
のっぺそば２つの

（塔子）ありがとうございます

ハァー あったかい

こんげ日は
あったけえのが ごちそうらすけ

（ふみよ）父ちゃん
（睦夫）ん？

（塔子）頂きます
（ふみよ）こっち

里芋の煮っ転がしとか
ひと皿ペロッと食ってたな

（塔子）フフッ…

若かったんですね

フフッ…

鞍田さん
いつも自分の分 くれてた

僕も好きなんだけどね 里芋

（塔子）アハッ
（鞍田）フフッ

（鞍田）そうだ

夏になったら
また京都に鱧(はも)を食べに行こう

気が早いですね

（鞍田）うん そうだ

きっと 行こう

はい

鱧はあげないよ

（２人の笑い声）

（物音）

ああ おはよ 早いね

新しいプロジェクトですか？

趣味

（塔子）え？

人のオーダーに
応えてばっかりいると

忘れそうになるから

もともと家 造るとしたら

どんな家がいいと
思ってんのかなって 自分は

そしたら なんか
作ってみたくなったんだ

（塔子）はい
（鞍田）はい

はい

（お湯を注ぐ音）

何 見てるの？

（塔子）この窓から どんなふうに
見えるのかなあと思って

小さすぎます

もっと見たいです

この窓 もう少し
大っきくしてみましょう

（塔子･鞍田）フッ…

（塔子）ねえ
（鞍田）ん？

鞍田さんには この窓から
何が見えるんですか？

なんだと思う？

（塔子）お疲れさまでした
お疲れさまでした

（塔子）お疲れさまです
（社員たち）お疲れさまです

あっ お疲れさまです

あっ カフェの件
やっときましたんで

（安藤）ありがとう
（塔子）じゃあ お先に失礼します

（一同）お疲れさまです

（塔子）ああ…

正社員 おめでとう

フフッ ありがとうございます

新潟の方もよろしく

（塔子）はい

（先生）みどちゃん
お風邪ひいちゃうよ 下りておいで

お母さん もうすぐ来るよ

（ゆい）黒(くろ)ちゃん先生！
（先生）ん？

（ゆい）一緒に けんけんぱしよう

けんけんぱ？　いいよ
みどちゃんも一緒にやる？

（ゆい）黒ちゃん先生！
（先生）ん？

（先生）あっ じゃあ 並べよっか
（ゆい）うん

（先生）はい　けん けん ぱ
（ゆい）…けん ぱ

（先生）はい

（先生）ゆいちゃんから

（ゆい）いくよ
（先生）いいよ

（ゆい）けんけんぱ！
（先生）おお 上手！

（先生）もう一回やってみる？
（ゆい）うん

（先生）はい

（落下音）

ごめんなさい…

今日は おふくろ
迎えに行けないって言ったよね

うん…

もちろん 幼稚園の管理問題って
あると思うけどさ

こんなことになったのって 結局
翠が遅くまで残ってたからでしょう

塔子が もっと早く
迎えに行ってれば

はっきり言って
こんなことになってないからね

（麻子）真 そんな声 出したら
翠が起きちゃうじゃない

幸い 傷も
大したことなかったんだし

ハァー 分かってるよ
ただ俺は 原因だけでも…

（麻子）今やらなくてもいいでしょ

いや こんなこと
二度と起こってほしくないから…

やめなさい

（塔子）明日のパン…
買ってくるの忘れた

え？

翠 朝 パン食べたがるから
行ってくる

すいません 行ってきます

（鞍田の荒い息遣い）

（鞍田の荒い息遣い）

（ノック）

はい

お茶でも飲むかね？

（塔子）
あ… ありがとうございます

（ふみよ）よいしょ

（睦夫）お連れの方 大丈夫らか？

よけんなこと言うなね

勘弁の　さあ どうぞ

（塔子）ありがとうございます

（ふみよ）父ちゃん
（睦夫）ん？

お茶

はい

ああ…

この人ね 目が見えねえがての

もう14年も こんげな感じ

まあ 生きててくいたすけ
そいでいいがろも

なあ 父ちゃん

あっ いいって いいって

（塔子）ごちそうさまでした

女っこらね

（塔子）え…

（ふみよ）フッ…

吸うかい？

（塔子）フフッ…
（ふみよ）んっ

じゃあ…

ハッ… 久しぶりに吸いました

女ってや 大変らいね

ハァー

（ふみよ･塔子）フッ…

（ピアノの演奏）

ちょっといい？

うん

何？

うん

お… 俺もね 冷静になって
いろいろ考えたんだけど

塔子 仕事 辞めた方がよくない？

いや…

翠のケガもそうだけど

最近 全然 家のことに
身が入っていないっていうか

塔子らしくないっていうか

らしくない？

それにさ

親父と おふくろが

もう１人ぐらい子供がいても
いいんじゃないかって言っててさ

うん 俺も男の子 欲しいし…

俺 一人っ子だったから
つまんなくてさ

翠が お姉ちゃんになって―

下が男の子なんて 絶対かわいいよ

（真）うわあ 大っきいね

（塔子）はい お待たせ

（翠）うわあー！
（拍手）

（麻子）じゃあ 乾杯しましょうか

（麻子）ね？　はい
（真）よし

（真）はい 翠も
（麻子）はい

（一同）メリークリスマス！

（翠と真の歌声）

（真）ヘイ！　ヘイヘイ！
（翠の笑い声）

これ

何？

プレゼント 開けてみて

（塔子）これ…

持ってて

持っててよ 君が

なんで…

遠くに行ってしまうみたいに
言うんですか

ごめんなさい…

これは 受け取れない

私 やっぱり…

無理だ

無理だろう

（塔子）ハァ…

なんで 今 言うの？

（塔子）もう 会わないから

10年前に聞きたかった

（宏）１人 これを飲めば
一家 苦しみなく―

一家これを飲めば 一里 病なし

明けましておめでとうございます

（一同）
明けましておめでとうございます

（宏）まあ
ショッピングモールなんてのは

基本的には いかに消費させるかの
動線と並びを考えとけばいいんだよ

（真）んー
まあ それはそうなんだけどねえ

悩ましいのは 駐車場への動線を

どう作っておくべきか
ってとこなんだよね

（宏）ああ
無人運転になったときに―

駐車場までの動線が
必要かどうかの選択ってのは―

まあ これから
どんどん迫られていくだろうな

お正月からいいんじゃない？
そんな話

陽子(ようこ)さんは どう思います？

（陽子）は？　はあ 私なんて…

（宏）いやいや 一般の
いわゆる生活者の代表として―

まあ 例えば―

駅が ショッピングモールとして
開発されていってるのは―

どう思います？

（陽子）私は…

まあ 全部 駅が同じようになるのは
気持ち悪いですけど

（宏）ハハ…

（翠）ママ ばあば できた！

（麻子）まあ よく描けたねえ

翠 今日はよかったねえ
立川(たちかわ)のおばあちゃんにも会えて

うん 今日は
みどちゃんのばあば ２倍！

（一同の笑い声）

（陽子）ばあば 美人だね えー？

（宏）陽子さん

別れた旦那さんに

翠を会わせてあげたら
喜ぶんじゃないですか？

父からは 年に一度
連絡があるかどうかなので…

そりゃ 海外で
大変なお仕事なさってるんだから

まあ ご多忙でしょうけど

でも孫には会いたいって

思ってらっしゃるんじゃ
ないですかねえ？

まあ 次 帰ってきたら
聞いてみたら？

すいません ちょっと気分が悪くて

（麻子）あら 大変 大丈夫ですか？

申し訳ございませんが
お先に失礼します

みどちゃん またね バイバイ

（塔子）ちょっと お母さん

やっぱり来なきゃよかった

大体 お父さんのこと
いつまでウソつくつもり？

ハァー しかたないでしょ
真君の希望なんだから

海外でお仕事？

別の女と出てったっきり
連絡もしてこないクズだよ

笑っちゃうよ フッ…

あーあ もう… 情けない

情けない？

ウソついて幸せなの？

幸せなの
あちらさんだけじゃないの？

お母さんの言うことなんて
16のときから聞く気ないから

あんた 心底
男に惚(ほ)れたことないでしょう

まあ 好きにしなさい
塔子の人生なんだから

でもさ 人間さ

どれだけ惚れて
死んでいけるかじゃないの？

ハァー

（社員たちの話し声）

明けましておめでとうございます

（社員たち）おめでとうございます

今年もよろしくお願いします

（社員）よろしくお願いします

（押井）
鞍田さんのメモとか
残ってないかなあ

（押井）
鞍田さんのメモとか
残ってないかなあ

（押井）
鞍田さんのメモとか
残ってないかなあ

（棚橋）いや メモとかあっても
結局 鞍田さんいないと―

（棚橋）いや メモとかあっても
結局 鞍田さんいないと―

決めらんないから

（武藤）
じゃあ どうするかなのよね

（塔子）おはようございます
（小鷹）おはよう

（塔子）おはようございます
（一同）おはようございます

どうしました？

んー 君(きみ)の井(い)酒造の
リノベの案件なんだけど

（棚橋）そう 蔵開きまで
あと10日しかないのに

鞍田さん 年明けから
体調 崩したみたいで

（塔子）え？
（村上）そうなんですよ

（棚橋）小鷹さんと一緒に
新潟 行ってもらうんですけど

（小鷹）まあ 塔子ちゃんに
現場 仕切ってもらうしかないか

（塔子）じゃあ 行ってくるね

塔子 夜 ホテル着いたら連絡して

心配だから

うん 連絡する

気をつけて

うん

あ…

（塔子）翠 起きちゃった？
（翠）ママ

どこ行くの？

ママ 今日 お仕事だからね

明日になったら会えるから ね？

ぎゅーってしよう

（はなをすする音）

（塔子）パパと ばあばの言うこと
よく聞くんだよ

ママ 本当に帰ってくる？

フッ… 帰ってくるよ ん？

じゃあ 行ってくるね

じゃあ 行ってきます

（小鷹）おっ…
すんげえ滑るから気ぃつけてね

（塔子）はい

（小鷹）あっ 荷物持つよ
（塔子）いえ 大丈夫です

（小鷹）いいよ
（塔子）いやいや…

（小鷹）大丈夫 大丈夫
（塔子）すいません

（小鷹）おっ すごいキレイ

（小鷹）ハハッ
（塔子）ああ…

（小鷹）鞍田さん
よくこんなとこ通ってたなあ

（大場）寒いでしょう

（小鷹）ハハッ
いや 鼻 凍りそうでした

（大場）ハハハ…

（小鷹）あっ 鞍田
今日 来れなくてすみません

（大場）いやいや…

（小鷹）その代わり
優秀な助っ人 連れてきましたんで

（大場）ああ…

（塔子）村主です
よろしくお願いします

（大場）村主さん

あー…

奥 もう少し上げてみましょうか

（職人たち）はい
（塔子）お願いします

（小鷹）気合い入ってんねえ

（大場）
いやあ もう使わねなったここ

（大場）
いやあ もう使わねなったここ

（塔子）そうですね
もう少し奥で

どうしようかと思ってましたから

で もう少し右で

はい
そこでお願いします

はい
そこでお願いします

ほんに助かります
鞍田さんのおかげです

ほんに助かります
鞍田さんのおかげです

ほんに助かります
鞍田さんのおかげです

上げてください

（小鷹）
いい酒 造ってるんですから―

（小鷹）
いい酒 造ってるんですから―

もう少しですね
もう少し上げてください

もう少しですね
もう少し上げてください

もう少しですね
もう少し上げてください

海外からも たくさん人が来ますよ

海外からも たくさん人が来ますよ

（塔子）はい そこでお願いします

はい お願いします

（塔子）寒いですね

（小鷹）あったかい あったかい
（塔子）ああ あったかい

あっ 小鷹さん 私いれます

あっ いい いい
座ってて 座ってて

あっ すいません
ありがとうございます

ハァー

（小鷹）塔子ちゃん
（塔子）なんですか？

（小鷹）鞍田さんと別れた？

別れました

（小鷹）やっぱりね… はい

（塔子）ありがとうございます
（小鷹）うん

もう この話はいいでしょう

まあ いいんだけどさ

なんか ２人
個人的に気になるから

（塔子）個人的に？

（小鷹）ん？

あー いや

けど

それにしても鞍田さん 心配ですね

年末から入院してたらしいから

もう離婚して

鞍田さんと一緒になっちゃったら
いいんじゃないですか？

（塔子）できないです
（小鷹）なんで？

まあ 普通に考えて そっか

あの人…

一緒にいても
１人で生きてる感じがする

（小鷹）ハハハ… つまんないねえ

そんなの最初っから
分かってたことじゃない

あと

それ 塔子ちゃんも一緒だからね

（塔子）え？

家族いるのに
１人で生きてる感じするよ

あーあ やんなっちゃうなあ

なんか…

雪 降ってて…

うん

（小鷹）いやー 終わったなあ
（塔子）フフフ…

（テレビの音声）

ちょっと間に合わないかと思ったね

ホントですね

（大場）徹夜までしてもらって
お疲れさまでした

（塔子･小鷹）お疲れさまでした

蔵開き 間に合いそうで
よかったっすね

（大場）ありがとうございます
（小鷹）ああ いや

鞍田も来れたらよかったんすけど

（大場）ああ…

鞍田さんに これ
うちの山廃仕込み

（小鷹）え？
（大場）お好きでいなしたから

ああ… すいません

ああ… すいません

（アナウンサー）では
改めて新潟県内の―

（アナウンサー）では
改めて新潟県内の―

鉄道と空の便の状況です

鉄道と空の便の状況です

（大場）でも 今日は
泊まるしかなさそうらろうも

（大場）でも 今日は
泊まるしかなさそうらろうも

（大場）でも 今日は
泊まるしかなさそうらろうも

新潟県内のＪＲ
私鉄各線は―

新潟県内のＪＲ
私鉄各線は―

大丈夫ですか？

現在 運転を
見合わせています

現在 運転を
見合わせています

新幹線も電車も止まってるみてえら

新幹線も電車も止まってるみてえら

上越新幹線は
新潟 越後湯沢(えちごゆざわ)間で―

上越新幹線は
新潟 越後湯沢(えちごゆざわ)間で―

上越新幹線は
新潟 越後湯沢(えちごゆざわ)間で―

（小鷹）うわあ…

全面 運転見合わせと
なっています

運転再開のめどは
立っていません

運転再開のめどは
立っていません

もう１泊して 朝の新幹線
待つしかなさそうっすね

もう１泊して 朝の新幹線
待つしかなさそうっすね

（塔子）あっ 会社に電話します

（小鷹）いや それ僕やっとく

あー それより塔子ちゃん
家に電話しておいで

（塔子）ありがとう
（小鷹）うん

（大場）いやあ よう降るのう

（小鷹）ホント よく降りますねえ

（塔子）もしもし 真君？

大雪で 新幹線も止まってて
今日中に戻れそうもなくて…

このままだと
もう１泊することになりそう

ごめんね

（真）帰ってきてよ

え？

（真）タクシーでもいいから
帰ってこられないの？

いや…

（真）おふくろは 今晩いないし
俺だって無理だよ

ホントに帰れないの
真君 仕事 切り上げられない？

（真）いや 無理なんだよ
そんな急に抜けられないって

とにかく塔子は すぐに帰ってきて
母親だろう

母親って…

あなただって父親でしょう？

（真）
えっ 俺 ちゃんと仕事してるよね

なんか不自由させてる？

分かった
じゃあ 誰かシッターさんに頼む

それでいい？

（真）ハァー ダメだよ

えっ 塔子の一番大切な仕事って
“母親”だろう？

ハァー

翠の親は

あなたと私の２人でしょう？

（真）じゃあさ…

クリスマスの夜
どこ行ってたか答えてよ

え…

（真）夜中に どこ行ってたんだよ

何してたの？

なあ 答えろよ！

分かった…

じゃあ 帰ればいいんでしょ！

（小鷹）なんかあった？
（塔子）帰ります

えっ？　マジで言ってんの？

（塔子）帰らなきゃいけないんです
（小鷹）いや ちょっと

おい！　ちょっと待てよ
ちょっ… ちょっと来い

なあ 落ち着け 無理だから

（塔子）すぐ帰ってこいって

娘の世話は
母親じゃなきゃダメなんだって

だから帰らなきゃいけないんです

なんだ それ
100年前じゃねえんだから

だって…

男の人は 千年 経っても
男じゃないですか！

いや お前さあ

ホントに なんで結婚したの？

小鷹さんには分かりません

分かった

悪かった

ありがとう

大丈夫？

なんで？

心配したよ

帰ろう

ひと晩あれば 向こうに着くから

（息を吹きかける音）

（真）ねえ 塔子

どうやって帰ってきてるの？

（塔子）明日の朝までには帰るから

（真）俺 心配してるんだよ

そんな大雪の中
どうしてるんだろうって

無事なのかって

あったかい所にいられてるのかって
ずっと心配してるんだよ

俺 塔子がもう
帰ってこなかったらどうしようって

ずっと そればっかり
考えちゃってるんだよ

塔子

何かあるなら言ってほしかったよ

ねえ 真君…

知ってる？

私 あなたの電話
無視したこと一度もないの

いつだって 家族が
うまくいくことを考えてたよ

何も言えないよ

その方がうまくいくから

（真）俺のせい？

ハァ…

ごめん…

違う

全部 自分だ

私が我慢して頑張れば

全部うまくいくと思ってた…

なんでだろう…

ねえ

（真）ん？

真君にとって

結婚って何？

生涯で

ただ１人 好きになった女性と
一緒になったこと

（塔子のすすり泣き）

（はなをすする音）

♪～

（鞍田の息遣い）

（鞍田の荒い息遣い）

～♪

（鞍田）
ねえ ホントに覚えてない？

（塔子）え？

（鞍田）ほら 君のデザイン画

初めて会ったときの

（エンジンの停止音）

フッ…

あんなひどい線 初めて見た

パースもメチャクチャで

窓が死ぬほど大きくって

どうやって
この家 建ってるんだよって

（塔子）鞍田さん…

ハァ… 大きさも 形も…

バラバラの窓

もうやめてください

窓の枠が

額縁みたいに見えて

その窓から見えるのが…

水平線だった

それが…

好きだった

いや

全部…

好きだった

探してたんだ

ずっと

ハァー

（塔子）鞍田さん

私 鞍田さんと生きたい

君の顔が よく見える

最後に…

抱いてほしい

（鞍田）塔子…

（塔子）鞍田さん…

（鞍田）塔子…

（鞍田）どうして…

どうして そんな悲しい顔するの？

（鞍田）いつか 見てみたいな

君が造った理想の家

（翠）ママ！

（走る足音）

（翠）ママ！

ママ！

ママ！

ママ 一緒に帰ろう

一緒に帰ろう

一緒に帰ろう…

（泣き声）

（翠）ママ！

（塔子）ハァ…

鞍田さん

行きましょう

（波の音）

♪～

～♪