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Original subtitles

(女性)痴漢!

(大谷)何だよ!

お前みたいなブス 100万もらったって触らないよ!

ふざけないで! 触ったじゃない この手で

離せよ ちょっと おい 訴えるぞ この野郎!

(山田)しらばっくれんじゃねえ

女が言ってんだ お前に触られたってな

やってないものは やってない

(山田) いいかげんにしろよ この変態

顔見りゃ 分かんだよ

(徹平)何でなんですか 僕 何もやってないんですよ

(警官) 詳しいことは署で聞くから

(徹平) だって これから面接なんですよ

(警官)すぐ終わるから

(山田)女のパンツと 同じ繊維がついてたらどうする

いいか 痴漢に証拠がないと思ったら―

大間違いなんだよ

左手 (刑事)はい

すいませんでした

あの… 会社や妻にバレたら 私の人生 メチャメチャです

すいませんでした

(山田)よし 認めんだな (大谷)すいませんでした

(ノック) (刑事)はい

(香川)失礼します あっ 山田さん ちょっと

(山田)またかよ チッ 直明けだぞ お前

(大谷)すいませんでした

うん 何やったの? (大谷)いや ちょっと

また お前かよ (男性)すいません

(長谷川)もう大丈夫よ 怖がらなくていいからね

偉かったね

(山田)一体 何が面白い! いつもこんなことやってんのか!

えっ?

(山田)女が言ってんだよ お前にやられましたってな

おい 調子こいて 否認なんてしてんじゃねえぞ

カバンの中の物 全部出せ

早くしろよ!

これで通勤かよ お前 いいかげんにしろよ

ポケットの中の物 全部出せ ズボンのポケットもだ

(ノック)

お前 被害者に 手つかまれたんだってな

あっ… 手じゃないです 袖です

そうか 正直に言えばいいんだよ なあ

私は混雑する通勤電車内で―

女子中学生のお尻を触り 袖をつかまれました

はあ? 何言ってるんですか

(山田) ほんの出来心だったとはいえ―

大変申し訳ないことを したと思っております

これから 正直にお話し申し上げます

ちょっと待ってください

誰もそんなこと 言ってないじゃないですか

帰らしてもらいます (山田)ちょっと待った

お前 逮捕されてんだよ

私人による現行犯逮捕だ 分かるか?

私人ってのはな 警察官じゃない 一般の市民って意味だ

お前は被害者に 現行犯逮捕されたんだよ

“私は今日 出勤途中の電車内で―”

“女子中学生のスカートを まくり上げ―”

“パンツの上から 女子中学生のお尻を触った―”

“などということは 絶対にありません”

ほら 署名しろ ここだ

もう一度 言っておくけどな

正直に認めれば すぐ出られるんだ

交通違反と一緒だよ

略式で罰金払えば釈放だ

(松下)指印 左手 人さし指

(西村)ズボンも脱げ

(留置係)お守りだな

はい

下着もですか? (西村)下着はいいよ

これは何だ?

あっ ipod…

ハハッ…

どうも

(三井)初めて?

何したの?

(徹平) あっ… 何も 何か誤解されて

そうなの

あの… どうしたら… (三井)何が?

あっ… いや どこに こういたら…

もう 適当に

今はね ここにいる人たち 検察庁 行ってるから

検察庁って分かる? 調べて起訴するところ

警察はさ 捕まえるだけ

バカな刑事は ほっとくとムチャすっから―

司法試験を通った賢い検事さんが 冷静にチェックすんのよ

建て前だけど で 弁護士は?

はい? あっ… 弁護する人

いや そうじゃなくてさ

何もしてないんでしょ? (徹平)はい

だったら 弁護士 呼ばなきゃって話

刑事から聞かなかった? (徹平)何を…

当番弁護士制度ってのが あるからさ

とりあえず 1回目はただ

担当さん

(徹平)あっ… えっ…

弁護士 呼んでほしいんだって

誰か知ってんのか

(徹平)えっ? あっ… いや

当番弁護士

当番弁護士

もう遅いな あしたになるかもしれねえな

まあ 連絡しといてやるよ 無理だとは思うけどな

(三井) チェッ もったいつけやがって

まだ昼過ぎじゃないの

すぐ来てくれるって 安心しな 家には連絡した?

あっ… いや… 分かんないことがあればさ 何でも俺に聞いて

冤罪にも詳しいからさ

冤罪… (三井)あんた そうなんだろ?

無実の罪なんだろ?

時々いるよ そういうの

釈放だよ 何やったか分かる?

朝に来て 午後には出ていくサラリーマン

ハハハッ… これだな

(徹平)ちょ… (三井)痴漢だよ 痴漢 フッ

(徹平)ああ…

(男性)いただきます (三井たち)いただきます

(男性たち)いただきます

(男性たち)いただきます

(徹平)駅で痴漢だって言われて そのまま連れてこられて

(浜田) 取り調べでも否認してるんですね

(徹平)えっ?

つまりやってないと 痴漢じゃないと

はい

容疑は迷惑防止条例違反ですか?

えっ?

あの… 痴漢にもいろいろあってね

簡単に言えば パンツの上から 触れば迷惑防止条例違反

パンツの中に手が入ると 強制わいせつ

ああ… パンツの上から―

触っただろって言われたけど 刑事には

電車に乗ってからのこと 話してくれますか

はい

えっと… すみれが丘から急行に乗って

何線かな

あっ… 城北急行です

えっと それで岸川まで 行くつもりだったんですけど―

武蔵台で降りて

あの… どうして途中下車を?

あっ… 履歴書を持ってきたか どうか気になって

大事な面接があったんです

それで確かめようとして―

電車の中じゃ混んでて 探せなかったから それで降りて

学生?

いや フリーターです 26だけど

履歴書はあった?

ありませんでした

でも取りに戻ったら遅刻するし それで諦めて

そしたら発車ベルが鳴ってて

(発車ベル)

(徹平)慌てて急行に飛び乗って

(駅員) ドア閉まります はい

(駅員) ドア閉まります はい ていうか駅員に背中 押されて 超満員だったから

ていうか駅員に背中 押されて 超満員だったから

やっとドアが閉まって 何とか居場所を確保して

だけど 体が何か後ろから 引っ張られるような感じがして―

変だなと思ったら 上着の裾が ドアに挟まってたんです

ちょっと焦って 右手で上着を引っ張ったり―

体をひねってみたりしたんだけど びくともしなくて

そしたら 僕の手か何かが当たったのか―

右側にいた女性が 首をひねって僕を見るんです

目が合ったんで すいませんって 声に出すか出さない感じで謝って

目が合ったんで すいませんって 声に出すか出さない感じで謝って すいません

目が合ったんで すいませんって 声に出すか出さない感じで謝って

それからは 少し周りに気をつけて―

ジワジワ引っ張ったり 体 動かしたりしてたんだけど―

左にいた男が 何だか 知らないけど押してくるし―

それで上着が引っ張られて 破けちゃったらどうしようって―

焦ったんだけど―

もうすぐ岸川に着くってころに ようやく抜けて―

もうすぐ岸川に着くってころに ようやく抜けて― (俊子) やめてください

(俊子) やめてください

そしたら やめてくださいって声がして

振り返ったら 泣き声が聞こえて

振り返るって?

あっ… いや ずっと 挟まってたとこ見て―

引っ張ってたから 前に向き直ったんです

それで 電車が岸川に着いて降りたら―

いきなり袖を引っ張られて

(俊子)痴漢したでしょ

(徹平) 女の子に痴漢だって言われて

(徹平) 女の子に痴漢だって言われて 痴漢?

痴漢?

そしたら変な男が出てきて

やましくないなら 事務室に行って話せばいいとか

ちょっとした騒ぎになっちゃって

ちょっとした騒ぎになっちゃって (平山)どうしました?

(平山)どうしました?

(平山)どうしました? 駅員も来て 事情は駅事務室で 聞きますっていうから―

駅員も来て 事情は駅事務室で 聞きますっていうから―

それで事務室まで行って 中に入ったら―

女の人が来てくれて

ドアに挟まった上着を 引っ張ってただけで―

痴漢じゃないって言ってくれて

さっき電車の中で目が合って 謝った人だったんです

その女性は 君じゃないって言ったんだね

はい

その人は 警察でも話してくれたの?

いや 彼女はどっか行っちゃった

(徹平)駅員が話も聞かないで ドア閉めちゃったから慌てちゃって

(徹平)駅員が話も聞かないで ドア閉めちゃったから慌てちゃって ちょっと 待ってくださいよ

(徹平)駅員が話も聞かないで ドア閉めちゃったから慌てちゃって

(徹平)駅員が話も聞かないで ドア閉めちゃったから慌てちゃって 今の人 僕じゃないって

今の人 僕じゃないって

今の人 僕じゃないって 大事な証人なんだから 中に入れろよって言ったのに

大事な証人なんだから 中に入れろよって言ったのに

大事な証人なんだから 中に入れろよって言ったのに 駅員さん 何で帰しちゃうんですか

駅員さん 何で帰しちゃうんですか

(平山)君!

(平山)君! それで慌てて外に出て 彼女を呼んだんだけど―

それで慌てて外に出て 彼女を呼んだんだけど―

もうどっか行っちゃってて

じゃあ 彼女の話を駅員がメモしたり―

連絡先も聞かなかったの?

(徹平)そうです

事情を聞くって言ったのに 何も聞いてくれなかった

刑事もそうだけど

刑事がお前じゃなきゃ 誰がやったって言うから―

そういえば 隣にいた太った男が―

グイグイ体を 押しつけてきたのが変だったって

そしたら“そんなヤツが 乗ってたなんて誰も言ってない”

“うそをつくな”

“このまま裁判になっても 勝ち目はないぞ”

“認めて罰金払ったら すぐ出してやる”

そればっかりだ

だけど本当にやってないんだ

裁判は大変だよ

はっきり言うけど この種の軽微な事件でも―

否認してれば留置場暮らしだ

裁判にでもなれば 被害者証言が終わるまで―

下手をすれば 3か月ぐらい出てこられない

僕は 半年勾留されてた人を知ってる

当時 認めりゃ 罰金5万円の事件だった

その上 裁判に勝てる保証は何もない

有罪率は99.9パーセント 1000件に1件しか無罪はない

示談で済むような痴漢事件で 正直 裁判を闘っても―

いいことなんか何もない

もちろん弁護士として―

やってはいない罪を認めろと 勧めることはできない

でも これが日本の現状だ

認めて示談にすれば 誰にも知られず―

あしたか あさってには ここを出られる

いいかい

このまま否認してれば 3週間はここで取り調べを受ける

それで起訴されれば裁判だ

無罪を争えば まず1年はかかる

その上 本当に無実でも 無罪になる保証はない

今 認めて示談にすれば それでおしまいだ

示談するなら すぐにお金がいる

誰か身内で お金を 用意してくれる人はいるかな

やってないんだ

そうだね

悪かった

だけど 裁判は大変だ

多分 君には想像できないくらいに

とにかく 今晩一晩 考えて この名刺に連絡をくれればいい

(警官)起床

(一同)おはようございます

(男性)おはよう

(男性)おはよう

(三井)はい 布団部屋

(徹平)あっ… はい (三井)早く早く

(徹平)はい

(三井)こっちこっち はい はい

早く早く そこそこ

(三井)正面下 正面下

(警官)急げ

(警官)ほら急げ! ほら

(ベニート)便所 拭きます

(三井)コードさばいて (徹平)はい

(三井)掃除機かけます

(警官)早くしろ

(警官)さっさとやれ

(警官)よし 1人 次 2人

(警官) 9番 遅いぞ 金子 お前だよ

さっさとしろ おい

早くしろ

(警官)え~ このバスは あと残り3つの警察署に寄り―

諸君同様の押送者を乗せ 検察庁に向かいます

なおバスの中はもちろん 地検の中を移動中も―

取り調べを待つ同行室内も 一切の私語は禁止です

警察署に帰るまで 取り調べで話す以外は―

ひと言も口を利いてはいけません

(男性1)何だよ

お前 文句あんのか この野郎 (警官)おい そこ 私語禁止だ

お前 文句あんのか この野郎 (警官)おい そこ 私語禁止だ (男性) うぜえんだよ

足が邪魔なんだよ くそじじい

(男性1)おらっ

バカ野郎! 俺が言ってることが 分かんねえのか

(男性2)いてて… (男性1)殺すぞ てめえ

(警官)1 2 3 4

5 6 7…

(警官)ちゃんと上げてないと やけどするぞ

(男性)あちっ!

(警官) 自分の取り調べまで ここで待つ

取り調べが終わっても 全員が終わるまでは帰れない

ほぼ1日かかる

その間 一切の私語は禁止だ

ケンカや規則違反に対しては 法的処置をとる

薬は―

体のどこが痛かろうと セイロガンしかねえ

(扉の閉まる音)

(警官)便紙頼んだの誰だ

(男性)臭えんだよ

(トイレの水洗音)

(警官)岸川9番

よし 行こうか

こっち向いて

座って (宮本)フーッ…

黙秘権があるから―

しゃべりたくないことは しゃべらなくていい

じゃ 当日の朝のこと 話して

(青木)誰?

(足音) (青木)こっちこっち

(豊子)あっ…

あの… この部屋の金子の母ですけど

(青木)ああ そう ゆうべから帰ってないみたいよ

どうしたんだろ

(青木)知らないよ んなこと

私 管理人だけど

いつもお世話になっております

ああ… あの… 部屋でお待ちになりますか?

鍵 持ってきますから ねっ

あっ… どうも ありがとうございます

(徹平)ものすごく混んでたから 上着が挟まっちゃって

上着 引っ張ってただけなんです 証人だって…

バカ! そんなことは聞いてない

いや… (宮本)うるさい!

今日の取り調べは終わりだ

(警官)さあ 立ちなさい

ちょっと待ってください

いつまでも否認して ただで済むと思うなよ

お前のずる賢い本性が見える

絶対に落としてやるからな

あしたはさ 勾留質問っていってさ

勾留って分かる? 留置場暮らしってこと

とにかく裁判所 行って 裁判官とお話しして―

このまんま捕まえとくかどうか 決めるの

まあ 無実を訴えたら 絶対に出られないけど

(徹平) 絶対に痴漢なんてしていません

(高橋) 否認するということですね

そうです やってないんですから

あなたを10日間 勾留します

あ… あの 誰かに連絡取って もらえるんですか?

はい お取りしますよ

じゃ お願いします (高橋)はい

(携帯電話の着信音)

(達雄)はい

えっ? ちょっと聞こえないんだけど

勾留? 何? それ

あれ? 何だ お前いるじゃん

何か変な電話かかってきたぞ

誰?

(達雄) いや… あの… 徹平の…―

たつ… 達雄ですけど

オレオレ詐欺だろうか

はい

月曜は検察庁で取り調べがあって 面会できない

はい

火曜日ですね

差し入れは月曜でもできると

何した?

(宮本)あなたは―

古川さんの右お尻を触っていた 右手の手首を―

古川さんにつかまれなかったか

つかまれていません

古川さんにつかまれた右手を すぐに引っ込めなかったか

だから触ってもないし つかまれてもないんです

ハァ…

もう そろそろ 本当のこと言ったらどうだ

最初から本当のこと言ってます

被害者は お前の右手首をつかんで 顔を見たと言ってるんだ

本当のことを言って反省すれば 悪いようにはしない

反省って 何もしてないんですよ

お前は何か家に いかがわしい物を持ってないのか

いかがわしい物って何ですか

アダルトビデオとか その類いだ

持ってたら痴漢なんですか?

(宮本)持ってんのか

(豊子) 会社もあるのに ありがとね

(達雄)あっ いえ 俺 あの 会社行ってないし

ニットなの? (達雄)はい?

(受付係)金子さーん

(豊子)はい

あっ… ニート

(西村)タオルなんて どうすんの 首つっちゃうよ

長い物はダメ ベルトなんて言語道断

何にも知らねえんだから やんなっちゃうな

おいおい ひげそりもかよ 殺したいのかねえ

そんな… 何を差し入れていいか 分からないから―

旅行に必要なものを 持ってきただけです

せっけん 歯ブラシは 中で本人が買うからね

それから これもダメ 食べ物は入らないの

困るんだよ こういうことをされちゃ

タツオってあんたか つまんないことすんじゃないよ

すいません

ウッ…

何だよ 大丈夫だよ

たかが前科1犯なんて そんなの いっぱいいるんだから

黙ってりゃ 誰にも分からないって まだ若いんだしよ

うちの息子は何もしてません

(西村)親ってありがたいな

(青木)いやね 前から 何かちょっと―

変だなと思ってたんですよ 私も

(松下)どういうこと?

あっ いや ただ何となく

(松下)ただ何となくって?

あっ いや… 会社も行ってないみたいで

(扉が開く音)

(扉が閉まる音) (足音)

何の連絡もしないで 心配ばかりかけて

やっと面接 受けるからって 様子 見に来たら―

私があんたに面接してどうするの

一体 何したの

何もしてないって

ホントね

息子が信じられなくて どうすんだよ

あんただから 信じられないんでしょう

やめろよ そういうこと言うの

(小倉)マジかよ 面接の日か えっ 俺のせい?

いえ そんなこと フラフラしているあの子に―

会社を 紹介してくだすったんですから

(小倉)ああ ごめんなさい 深い意味ないですから

あの… 先輩 誰か弁護士 知りませんかね

(小倉)うちの会社の 顧問弁護士に聞いてみるか

お願いします うちの子に限って こんなことするわけないんです

(田村)弁護士にはそれぞれ―

得意分野っていうものが ありましてね

うちは民事専門で―

刑事事件の弁護は ほとんど やってないんですよ

まあ 簡単に言えば 人と人とが争うのが民事事件です

例えば離婚とか損害賠償 遺産相続とか

刑事事件は国が犯罪を犯した人に 罪を問うものですね

ですから警察が介入します

弁護士は刑事裁判で 被告人を弁護する

テレビではね 弁護士はみんな―

殺人犯の 弁護をしてるみたいですが

殺人事件は おろか そもそも刑事事件の弁護を―

したことがない人が たくさんいるんですよ

では あの…

息子の弁護をお願いするのは 無理なんでしょうか

うーん 残念ながら そういうことになりますね

どなたか弁護士さんを 紹介してもらえないでしょうか

もう どうしていいか 分からないんです

(秘書)先生

(田村)ああ… 大変申し訳ない ちょっと時間が

(達雄)大丈夫かな

(豊子)だって 元裁判官で―

殺人事件の弁護も やってるんでしょ?

でも 痴漢だし

(荒川)うん うん

私はこっちの方が落ち着く

(荒川) うん 今 話は聞きました

誰か接見に行かせますから

うん はいはい

で どう? そっちは

うん うん… ハハハッ…

この間 見たよ 新聞

超豪華事務所の自室に寝袋 徹夜の毎日 フッ…

いやいやいや すごいよ うん

えっ? こっちは相変わらず

親父の残した仕事をやりながら 細々とね 貧乏暇なしですよ

こんな生活が いつまでできるかねえ

覚えてるかな 刑弁教官に言われただろ

弁護士というからには 刑事をやりなさい

民事は弁護人じゃなくて 代理人だって

最近 よく思い出すんだ なぜかね

俺も弁護士に戻るかな

(警官)入れ

弁護士の須藤です

お母様から依頼されて 弁護することになりました

主任弁護人は 荒川という者ですが―

今日は私が お話を伺いに上がりました

取り調べで何度も 話されてるとは思いますが―

事実経過を 詳しく教えていただけますか?

あの… その前に―

何で こんなとこに いなきゃならないんですか?

僕の言うことなんか 何も聞いちゃくれない

“認めたら すぐ出してやる” そればっかりだ

何でやってもないことを 認めなくちゃいけないんですか?

ホントにやってないの?

刑事と一緒かよ

あなたの言い分は きちんと聞きます

当日のことを話してください

(荒川)どうでした?

正直に申し上げますけど 痴漢は嫌いです

フフッ… そりゃそうだ

好きなのは犯人だけだ

で その青年は 痴漢をしてるんですか?

分かりません 本人は否認してます

だけど 私にはできません

何が?

弁護です

国選で 自白事件を少しやっただけです

否認事件の経験もありません

それに今は 犯罪被害者の救済が 私の仕事だと思ってます

否認事件なんて めったにないんだから―

やればいいじゃないですか

でも痴漢犯人の弁護なんて

本人はやってないって 言ってるんでしょ

そうですけど

証拠がないんだから いくらでも言い逃れはできます

先生は男だから 分からないかもしれないけど―

痴漢されると 大体 分かるんです こいつが怪しいって

弁護士が そんなこと言ってどうするの

怪しいからって犯人にされたんじゃ たまったもんじゃない

疑わしきは被告人の利益に

刑事裁判の鉄則だ

女性がどのくらいの勇気を持って 犯人を捕まえてると思いますか

怖くて恥ずかしくて 裁判になれば―

法廷で証言しなければ ならないんですよ

大体 痴漢で無罪が たくさん出たら また逆戻りです

やっと裁判官が被害者の言い分を 聞いてくれるようになったのに

いいかい

痴漢冤罪事件にはね

日本の刑事裁判の問題点が はっきりと表れてるんだ

まだ冤罪かどうか分かりません

依頼人が犯人だと あなたが確信したら―

いつでも辞めていい

だから やりなさい

(山田)上着が挟まってたなんて 誰も言ってねえんだ

つまんねえ言い逃れ してんじゃねえ

最初から その女子中学生 狙ってたんだろ

(徹平)違います 乗ったら たまたま前がその女の子だったの

ほら 最初から 女だって分かってた

分かってません さっきから言ってるでしょ

分かったのは岸川駅で降りて 言いがかりをつけられたときです

バカなこと言うな

すぐ前にいたんだ 分からないはずがない

本当はホームで目をつけて 乗り込むときから―

女の後ろにくっついて 体を押しつけた

だから駅員に背中を押されて 乗ったんだって

前が女なんだ ちょっと体をずらせばいいだろ

どこにそんな余裕があるんだよ

(和田)まあまあ 山田君

そうねえ 余裕がなかったかもしれないねえ

でも 山田刑事だってね

君が憎くて どなってるんじゃないんだよ

ほら“罪を憎んで人を憎まず” って あるだろ?

誰だって 魔が差すってことはあるさ

魔が差すも何も やってないんです

うん… まあまあ

ひとつ冷静になって 考えてみないか

どうだろう 偶然 右手が お尻に当たったってことはないかな

ほら 電車は揺れてるし満員だ

偶然 当たっただけなら それは痴漢じゃない どうかな

(徹平)いえ 偶然 当たったのは右にいた女性で―

それも上着を引っ張ってたからです 前の人には当たってません

ハハハッ… いや 私らもね

君みたいな 前途ある若者の人生が―

メチャクチャになるのを 見るのはつらいんだよ

今はね 痴漢でも 懲役だってあるんだよ

偶然 触っただけなら―

副検事さんにも言いようが あるわけだよ ハハッ…

偶然も何も 右手は上着を引っ張ってたから

(和田) じゃあ 左手はどうだろう

リュックを持ってたって 言ってるじゃないですか

(和田) 思い出してくんないかなあ

ハァ…

(和田) 悩まないで フフフッ…

“その後 私は発車寸前の 急行電車に乗ろうとしている―”

“女子中学生の後ろから 駅員に背中を押され―”

“女子中学生の背中に密着して 電車に乗り込みました”

調書に自分の言ってることが 正しく書かれていなかったら―

絶対に署名をしないでください

(徹平) えっ? もうしちゃいました

うん してしまったものはしょうがない

次の取り調べのときに 訂正してもらってください

これからは いいかげんに署名しないように

裁判で不利な証拠になりますから

調書は取調官の作文です

聞かれたことに答えてるのに 出来上がった調書は―

“正直にお話し申し上げます” とかなんとか―

一人称になってるでしょ

文体だけじゃない

ニュアンスも変えて 有罪の証拠となるように―

調書を作ってしまう 例えば―

“手が偶然 お尻に当たることも あるだろう”なんて言われて―

“そうですね”と答えたら―

“私は偶然 手でお尻を 触ってしまいました”なんて―

自白したように書いてしまう

根気よく訂正を求めてください

それと日々の取り調べ状況を 必ず記録すること

で これに 事件のあった日のことも―

思い出せるかぎり 何でもいいから メモしといてください

例えば事件発生時の車内の 乗客の位置を図に描いておいたり

どうですか 頑張れそうですか

あの… 偶然 当たったことは ないのかって聞かれたけど―

それは否定しました

否認してると いつまでも勾留して自白を迫る

こういうのを “人質司法”っていうんです

そんな卑劣なやり方に 屈したらダメだ

もう少し頑張れば 不起訴の可能性もある

万が一 裁判になっても 無罪を取れば―

勾留日数分 1日1万円以上もらえる

アルバイトでもしてると 思えばいい

有罪になる確率は 99.9パーセントって本当ですか?

ああ それは認めている事件も 含めての数字です

否認事件だけに限れば 無罪率は高くなる

どれくらいですか?

3パーセントくらいかな

100件に3件は無罪だ

OLふうの若い女性が―

目撃したことを 話しに来ませんでした?

全ては警察に お話ししてありますから

どうお話しになったんですか?

(平山)警察の方から―

事件については他言しないように 注意を受けてますから

すいません 勤務中なんで

非常に真面目な青年です

母親も上京してますし―

釈放して在宅で取り調べても 何の問題もないと思いますが

被害者と被疑者の供述が 真っ向から対立してます

慎重に取り調べませんと

だったら本人が再三 訴えております目撃者についても

徹底的に捜査をしていただきたい

本来なら捜査機関が きちんとやるべきことなんですよ

被害者の供述だけで 起訴するおつもりですか?

(香川) 不起訴ですかね 例の痴漢

(山田)俺たちが決めることじゃねえ 副検事が決めることだ

でも ホントにやってるんですかね

白かもしれねえと思ったら 落ちねえぞ

(徹平)昨日 10日ぶりに 副検事の取り調べがありました

(須藤)何を聞かれたの?

(徹平)一緒です 混雑状況とか 車内の立ち位置とか

(須藤)最後の確認かな

物証も自白もないのに―

被害者の供述だけで 起訴できるわけないんだから

ひとつ聞いていい?

はい?

(須藤)どうしてそんなに一生懸命 上着を引っ張る必要があったの?

どうせ岸川駅で開くドアでしょ

あっ…

お前と話すのも今日が最後だ

お前は絶対に 痴漢なんかしてない そうだな?

(徹平)はい

だったら被害者がうそをついてる そういうことだな?

あっ…

それは分かりません

お前はドアに挟まった上着を 引っ張っていた そうだな?

はい (宮本)何で上着を引っ張った?

どうせ岸川駅で開くのに

あっ…

辡訴

起訴だよ 起訴

15歳の中学生が勇気を振り絞って お前を捕まえたんだ

彼女はな お前に触られてから 怖くて電車に乗れなくなったんだ

お前の弁護士もやる気 満々だ

証拠もないのに 起訴するのかって言われたよ

だけどな 被害者の言い分と お前の言い分が食い違ってるんだ

後は裁判所に 判断してもらうしかないだろ

裁判は長くかかるぞ

認めるんだったら いつでも受け付けてやるから

裁判したって無罪はないぞ

まあ よく考えることだね

当番弁護士の言うこと聞いてりゃ こんなことに ならなかったんだ

頭が変になりそうだよ

俺はホントに何もやってない

(留置係)金子! 中止にするぞ

もう3週間も閉じ込められて 裁判やっても有罪確実って変だよ

中止 (留置係)はい

いいかげんにしてくれよ (西村)金子

ホントにやったヤツは さっさと認めて―

普通に生活してるんだ (留置係)お前 出ろ

(徹平)離せよ!

離せったら離せよ! 俺は何もやってないんだよ

(扉の閉まる音)

(佐田)私は電車の中で 痴漢に間違えられ―

5か月間 警察に勾留され 裁判にかけられました

幸い 一審で無罪を 勝ち取ることができましたが―

検察側の控訴により―

現在も 高等裁判所で争っております

(佐田) 目撃者は すぐ探した方がいい

被害者の証言だけで 有罪になるのが痴漢事件です

こっちに求められるのは やってないことの証明だ

やったことを証明するより はるかに難しい

第三者の目撃証言は ものすごく大きいですよ

実際 目撃者を探し出して 無罪になった例もある

(豊子)でも どうやって

(佐田)手伝います 早速 あしたからやりましょう

できたら 弁護士にも つきあってもらえればいいんだけど

駅員とトラブルになるかも しれないから

弁護士さんにお願いしても いいものでしょうか?

あっ… 遠慮しちゃダメですよ

こっちから言わないと 弁護士なんて動いてくれません

彼らだって 何十件も事案を抱えてるんだ

当事者が必死にならなかったら 誰が必死になってくれますか

(佐田)これ お願いします

(佐田)え~ 5月10日 午前8時ごろ 岸川駅事務室に―

この人は 痴漢ではありませんと―

伝えに来てくれた女性を 探しております

(須藤)おはよう (達雄)おはようございます

私は ここにいますから 何かあったら声をかけてください

(佐田)あっ お母さん お母さん 構内に入らないでください

(佐田)お願いします (達雄)お願いします

(佐田) お願いします お願いします

(佐田)え~ 5月10日 午前8時ごろ 岸川駅事務室に―

この人は 痴漢ではありませんと―

伝えに来てくれた女性を 探しております

(豊子)探してます

心当たりのある方 よろしくお願いします…

(佐田)5月10日 午前8時ごろ 岸川駅事務室に―

この人は痴漢ではないと―

伝えに来てくれた女性を 探しております

(浜田)申し訳ないんですけど もう痴漢事件の弁護は…

(荒川) なんとか助けてもらえないかな

私も須藤君も手いっぱいだし―

この種の事件は あなたの方が経験がある

助けるなんて 確かに数はやりましたけど (荒川)こないだのやつ 判決 読ませてもらったよ

ひどい事実認定だ 最低だね

あれが影響してるのかな

いや…

それもちょっとはありますけど 刑事弁護は しばらく…

(荒川)そうか

そんなんじゃダメだな

僕たちが相手にしてるのは 国家権力なんですよ

そんなんで いちいち落ち込んでたら―

刑事弁護なんてできやしない

裁判官が無罪に臆病なのは 今に始まったことじゃないんだ

今回の件はね 当番弁護士の責任も大きいんだ

否認してるにもかかわらず 示談を勧めた

それで被疑者も困惑してね

全てが後手に回った

(須藤)これ あなたの?

(徹平)あっ…

どういうこと?

どういうことって…

これが痴漢の証拠なんですか

裁判官の心証は悪くなる

あなたの心証も

だけど だったら男はみんな犯人だ

そのとおりよ

すべての男には動機があるの そして―

被害者のすぐそばに 乗っていたんだからアリバイもない

それをなんとかするのが 弁護士だろ

(男性)裁判所は悪魔の巣窟です

人権意識のかけらもありません

“疑わしきは被告人の利益に”

(係員) 手荷物 お預かりいたします

携帯とかありましたら お出しください

はい こちらの番号札 お持ちください

はい どうぞ すみません

はい あちら 携帯とかございますか?

お母さん 真ん中にどうぞ

(新崎)おはようございます (男性)おはようございます

(近藤)あっ… 帽子

帽子 取ってね

(警官)座っていいよ

(廷吏)起立

(大森)それでは開廷します 被告人は前へ

はい

名前は?

(徹平)金子徹平です

(係員)はい 恐れ入ります

こちらの番号札をお持ちください

(板谷)あっ…

じゃ こちらの番号札を お持ちください

“公共の乗り物において 人を著しく羞恥させ かつ―”

“人に不安を覚えさせるような 行為をしたものである”

“罪名および罰条”

“公衆に 著しく迷惑をかける―”

“暴力的不良行為等の 防止に関する条例違反―”

“同条例 第8条 第1項 第2号 第5条 第1項”

被告人には黙秘権があります

答えたくない質問には 答える必要はありません

ここで述べられたことは 全て証拠になりますので―

気をつけてください

公訴事実に つまり検察官が 今 読み上げた起訴状に―

事実と違うことがありますか?

(徹平)あります

私は痴漢などしておりません

あっ 口を近づけなくても 大丈夫ですよ

あっ はい

この被害に遭ったと言っている 女子中学生と―

同じ電車に乗っていたことは 間違いありませんか?

間違いありません でも触る行為はしていません

弁護人のご意見は?

被告人と同意見です

被告人は 痴漢行為をしておりません

ただし被害を申告している 女子中学生と―

同じ電車に乗っていたことは 認めます

被告人はお戻りください

(徹平)はい

それでは証拠調べに入ります

検察官は冒頭陳述をどうぞ

(近藤)こちらです

(新崎)“1 被告人は 平成17年5月10日―”

(新崎)“1 被告人は 平成17年5月10日―” (駅員)ドア閉まります 押しますよ

(駅員)ドア閉まります 押しますよ

(駅員)ドア閉まります 押しますよ “午前7時30分ごろ―”

“午前7時30分ごろ―”

“城北急行電鉄 武蔵台駅で 発車間際の電車に乗ろうとし―”

“その背を駅員に押され ようやく乗り込んだ”

“2 電車が発車し しばらくすると―”

“目の前に立つ当時15歳の 被害者の臀部に―”

“自らの股間を押しつけ 野袋駅を過ぎた辺りで―”

“今度は右手で 被害者の スカートをめくり上げ―”

“更に右手を被害者の スカートの中に差し入れて―”

“被害者の右臀部辺りを なで回すなどし―”

“公訴事実記載の犯行に及んだ”

“被害者は 通学中の車両内で―”

“過去数回 痴漢被害に遭っており―”

“一度 鉄道警察に対して 被害を訴えたこともあるが―”

“犯行中の犯人の手を捕まえる などして確実な証拠を得ないと―”

“犯人を捕まえることは できないと言われたため―”

“今回は何としても 犯行中の手を 捕まえようと考え―”

“勇気を持って犯人の右手を つかむと同時に―”

“右後方に顔を向け―”

“その上着の袖口を 確認したが―”

“被告人の手は その瞬間 真後ろに引かれ―”

“その手を離してしまった”

“しかし その際 被害者は 同女の真後ろに立っていた―”

“被告人が着ていた 上着の袖口を確認し―”

“まさしく被告人の 手であったことを確認した”

“3 被害者は 電車が岸川駅に到着した際―”

“先に降りた被告人を 追いかけ―”

“被告人の上着の 右袖辺りをつかんだ”

“被告人の上着の 右袖辺りをつかんだ” (俊子) 痴漢したでしょ

(俊子) 痴漢したでしょ

(俊子) 痴漢したでしょ “被告人は抵抗するそぶりを見せたが 他の乗客の協力を得て―”

“被告人は抵抗するそぶりを見せたが 他の乗客の協力を得て―”

“被告人は抵抗するそぶりを見せたが 他の乗客の協力を得て―” (徹平)えっ?

“被告人は抵抗するそぶりを見せたが 他の乗客の協力を得て―”

“被告人を 現行犯として逮捕した”

“被告人を 現行犯として逮捕した” (徹平)俺?

“被告人を 現行犯として逮捕した”

“被告人を 現行犯として逮捕した” (月田) 今 痴漢されたよね?

(月田) 今 痴漢されたよね?

してないですよ

してないですよ (月田) いや したしたしたよ

(月田) いや したしたしたよ

(大森)それでは整理しますと

甲1号証から甲6号証は不同意

犯行日時 場所の 特定ということで 甲7号証―

犯行時刻における 電車の 乗車率として 甲8号証に同意

甲10号証から甲16号証は 一部不同意で―

甲17号証は全部不同意

その他は留保ということですね

(荒川)はい

(大森) 次回は警察官 山田好二の―

証人尋問ということで よろしいですね

(荒川)しかるべく

日程ですが 8月1日の午後はどうですか?

差し支えです

4日の午前 午後 どちらでもいいんですが

差し支えです 午前も午後も 別件が入っております

8日の午前はいかがですか?

はい 大丈夫です

(新崎)はい

何で友達や知り合いを 連れてこないんですか

こんなガラガラじゃ負けちゃうよ

傍聴席を 支援者でいっぱいにして―

裁判官を 本気にさせなきゃダメだ ねっ

どうも

あっ こんにちは

今日は何ですか?

ちょっとね 杉村先生と

ああ 例の医療過誤ですか

うん そっちはどう?

裁判官 大森さんだよね

ええ

評判いいよね

そうなんですか?

マスコミには最悪ですけど

無罪病か

まるで 無罪を出すのが悪いみたいだ

病気なら他の裁判官にも 伝染してほしいよ

それで?

ええ 事件直後の被告人の弁解が 全く調書に取られてないんです

被害者の調書にも 女性目撃者が 駅事務室に来たことや―

被告人が上着を 引っ張っていただけだって―

弁解していた話が出てこない

当然あるはずの調書が 出てないってことない?

都合の悪い証拠は隠すからね

そんな

そんなじゃない

起訴したからには 絶対 有罪を取る

それが検察官の仕事だ

(佐田) じゃ お母様

(佐田)あっ それから 携帯切っといてください

(近藤) あの… 立ち見できないから―

立ってる人は退出してね

あの… 裁判官の方に―

これだけ注目されてるということを 見ていただけませんか

裁判官がお見えになったら すぐ出てきますから

(近藤)ああ… まあ いいか

(廷吏)起立

甲第17号証 再現写真撮影報告書を 証人に示します

この再現写真撮影報告書は―

証人が見分した経過 結果を ありのまま正確に記載しましたか?

はい

(新崎)その見分に際して 被告人を誘導したり―

あるいは 被告人の主張と違う状況を―

無理やり再現させたということは ありますか?

ありません

(新崎) この報告書を作るに当たって―

被告人に無理やり強制して やらせたということは―

ないわけですね

ありません

以上です

はい それでは弁護人 反対尋問をどうぞ

弁護人の須藤からお尋ねします

(近藤)ああ マイク マイク マイク使ってね

録音できないでしょ

先ほどの再現写真撮影報告書の マネキンですが―

身長は何センチでしたか?

確か 165センチだったと思います

被害者の女性の身長は 何センチだったかご存じですか?

忘れました

その写真を撮影したときには 被害者の身長をご存じでしたか?

多分

多分 何ですか?

(山田)多分 知っていました

被害者の身長は155センチです

マネキンとは 10センチも違います

本件犯行が被告人に可能で あったかどうかを調べる上で―

被告人と被害者の身長の差は―

とても重要な事実では ありませんか?

その写真は 立ち位置を再現するために―

撮影したものですから

身長差までは 考えておりませんでした

(須藤)被告人は当初から 左手にリュックを持ち―

右手は上着の裾の方を 持っていたと言っていましたが―

どうして再現撮影のときに―

リュックを 持たせなかったのですか?

先ほども述べましたように 立ち位置の確認ですので―

カバンは関係ないと思いました 被告人の右手に関しては―

本人が上着をつかまず 両手を前で組んだので―

私が指示して そうさせたのではありません

弁護人の荒川からお尋ねします

あなたは事件当日 被告人を取り調べましたね

はい (荒川)あなたは被告人に―

“痴漢を認めれば すぐに出してやる”

“交通違反と一緒だ”

“略式で罰金払えば釈放だ”と 言いませんでしたか?

言いません

あなたは 被告人を取り調べる前に―

被害者から 被害内容を聞いてましたか?

はい 大体の話は 聞いておりました

被害者はどんな被害に遭ったと 言ってましたか?

後ろから スカートの中に手を入れられ―

右臀部をパンツの上から 触られたと言ってました

被害の客観的裏付けを 取ろうとは考えませんでしたか?

例えば 被告人の 手の付着物を採取して―

被害者の下着の繊維と 同一のものか調べるとか

いろいろと忙しく うっかりしてました

うっかりとは どういうことですか!

被告人の人生が 懸かってるんですよ

いつもは取るんですが―

どうして取らなかったのか よく覚えておりません―

似たような事件が多いんで

(荒川) あなたは容疑の裏付けを―

取らなければならない 立場にありながら― 具体的な証拠を 調べようともしなかった

そんなことはありません

あなたは被告人の弁解を 真摯に聞くこともしなかった

どうして―

被告人の供述をきちんと調書に 書かなかったんですか?

いえ 正確に録取しました

(荒川)ドアに挟まっていた上着を 引っ張っていただけという―

被告人の言い分を―

あなたは なぜ 録取しなかったんですか?

(山田)そのような言い分は 聞いておりません

最後にひとつだけ

パンツを触っていれば―

必ず繊維鑑定で 分かるものなのですか?

いえ 必ずとはいえません

今まで繊維鑑定をして―

犯行の裏付けに 成功したことはありますか?

ありません

(新崎)以上です

今日のテーマは警察がいかに―

ずさんな捜査をしているかを 明らかにすることでした

あと検察側には―

明らかに提出していない 証拠があるので―

当たり障りのない証拠には 同意して―

被害者 男性目撃者 駅員―

全ての供述調書を 出してきたら―

他の証拠にも同意するという 作戦をとりました

もちろん信用性は争いますけど

えっ ちょっと待ってください 証拠って全部見れないんですか

全部見て 有罪か無罪か決めるんじゃないの

(荒川)どの証拠を出すかは それぞれの作戦でね

とはいえ捜査段階の証拠は 検察にあるわけです

こちらには何もない

証拠を開示するよう つまり―

証拠を出しなさいという 請求はできるんだけども―

具体的に こういう証拠が あるはずだから出せと―

指摘しないといけない

えっ どんな証拠を持ってるか 分かるんですか?

(荒川)分かりません 推測するしかない―

おかしな話です

誰が頼んだよ

何なんだよ あいつら

佐田さんが集めてくれたんだよ

どうして

変だろ 俺のことなんて 何も知らないのに

お前のことは知らなくても 裁判のことは知ってる

だから 何だよ

何で俺は痴漢ですって みんなに 宣伝しなきゃならないんだよ

それに 何で陽子まで

陽子は 小倉先輩が連れてきたんだよ

何で

仲間だろ 傍聴は 一人でも多い方がいいんだよ

仲間って… 別れたの知ってるだろ

みんな心配してんだよ お前のこと

あの… いつも あそこにいる人たちは?

ああ 司法修習生ですよ

司法試験に通って 研修してるんです

研修生

いや 修習生です

あっ そのままで結構ですよ

おはようございます

(一同)おはようございます

それでは開廷します

お待ちください

傍聴を希望でしたら 少し 詰めてお座りになってください

よろしいですね

何が始まるんです?

遮蔽です 被害者のプライバシーに配慮して

被告人と傍聴席からは 見えないようにするんです

こうやって

この板で? (佐田)はい

被告人は長椅子にお座りください

(徹平)はい

(北尾) また遮蔽かよ 公開が原則なのに

(板谷)最近の被害者保護の流れを 考えれば しかたありませんね

(廷吏)どうぞ こちらへ

(大森) 怖がらなくてもいいですからね

カードに書かれている氏名等に 間違いはありませんね

(俊子)はい

それでは その宣誓書を 声に出して読んでください

(俊子) 良心に従って真実を述べ―

何事も隠さず 偽りを述べないことを誓います

(大森)じゃ お座りください

あなたが体験したことを そのまま述べてください

うその証言をすると偽証罪として 処罰されることがありますから―

注意してください

それでは検察官 主尋問をどうぞ

(新崎) 証人は… あなたのことですが…

(俊子のすすり泣き)

(大森) 一度 深呼吸をしてみましょうか

(俊子)はい

すみません 大丈夫です

武蔵台駅を発車して しばらくすると―

後ろでゴソゴソ動く気配が したのですね

(俊子)はい

それで どう思ったの?

(俊子) 何か 嫌だなというか―

よく痴漢に遭うので 今日もそうかなって思いました

ゴソゴソというのは具体的に―

自分の体に何かが 触れているということですか?

(俊子)何となく後ろの人が―

電車の揺れとは 違う感じで 動いてるのが分かって―

時々 硬い物がお尻の下に当たって―

押しつけられるような 感じがして―

もしかしたら痴漢かなって

(新崎)それで その後 どうなったのですか?

(俊子)すごく怖くて―

そしたら今度は スカートが めくられる感じがして―

お尻の右側に触ってこられて

(新崎)あなたのお尻を 触っているのが―

他人の手であることは―

目で見て確認できましたか?

(俊子) いえ でも上下に動いたり―

左右に動いたり それで もむような感じもして―

手に間違いないと思いました

あなたは どうやって犯人を 捕まえようと思ったのですか?

(俊子) 犯人の手をつかもうと思いました

なぜ犯人の手を つかもうと思ったのですか?

(俊子)前 痴漢に遭ったときに 警察の人に言ったら―

手をつかむとか 何か証拠がないと ダメだと言われたので

(新崎)手をつかむとき 何か注意したことはありますか?

(俊子)痴漢している最中の手を 捕まえようとしました

(新崎)犯人の手は どの辺にありましたか?

(俊子)右のお尻です

だけど 前の方に来る感じがして

(新崎)前の方に来る途中で つかんだのですか?

(俊子)はい そのまま前の方に 回ってきたら嫌だと思って―

右手でつかみました

(新崎)犯人の手の どの辺りをつかんだのですか?

(俊子)手首の 少し上ぐらいだったと思います

(新崎)そのとき あなたは どこ見ていましたか?

(俊子)犯人の手を… 自分がつかんだ手を見ていました

(新崎) 犯人の指先まで見えましたか?

(俊子)見えませんでした

スカートがめくれ上がっていて 腕しか見えませんでした

(新崎)手をつかんだとき 犯人の服も―

一緒につかんだのですか?

(俊子)はい

(新崎)犯人の服の色は 分かりましたか?

(俊子)黒っぽかったと思います

(新崎)つかんだ手は どうなりましたか?

(俊子)手を後ろに 引っ込められてしまいました

(新崎) 手を離してしまったのですか?

(俊子)はい

(新崎)あなたは犯人の手を 見失ったのですか?

(俊子)いいえ 引っ込められた その手を 目で追っていました

(新崎)その手は どちらの 方向に引っ込みましたか?

(俊子)後ろです

例えば あなたの背中を通って―

右から左に横に抜けていったような 感触はありましたか?

(俊子)ありませんでした

あなたの右の方に 抜けていったり―

下の方に 抜けていったというような―

感触はありましたか?

(俊子)ありませんでした

(新崎) あなたは目で―

犯人の手が抜けていった方向を 追ったわけですね

(俊子)はい (新崎)それが後ろだったんですね

(俊子)はい

(新崎)あなたは その後 どうしましたか?

(俊子)目で抜けていった犯人の 手を追ったら―

後ろの人だったので―

そのつかんだ服の色が 似たような色だったので―

やめてくださいと言いました

甲17号証 再現写真撮影報告書添付の―

写真1ないし3を示します

この写真の人は 5月10日―

あなたが痴漢の被害に遭ったとき あなたが捕まえた人ですか?

はい

(新崎)以上です

あなたが痴漢の犯人だと思って 捕まえた男性以外に―

車内にいた人で 覚えている人はいますか?

例えば あなたの前にいた人や―

右斜め後ろ 左斜め後ろに どんな人がいたか

覚えていません

裁判官の方を向いて お答えください

取り調べのときには―

目の前には中年の女性がいたと 答えていますよね

だったら いたんだと思います

他には覚えていませんか?

例えば 左斜め後ろに 太った男性がいたとか

覚えていません

岸川駅に 降りてからのことを伺います

駅事務室に行くとき 被告人は 何か弁解をしていましたか?

ドアに上着が挟まっちゃったから 引っ張ってただけだって

(須藤)駅事務室に OLふうの 女性が来ませんでしたか?

はい 来ました

(須藤) その女性は何か言いましたか?

男の人の上着が ドアに挟まっていたけど―

それにしては 動きが変だったって言ってました

(須藤)事件当日の 警察での取り調べでは―

あなたは事務室に来た女性は―

男性の上着は ドアに 挟まっていたと言っていた―

としか話してませんね

そうですか

でも 動きが変だったって

その後 その女性はどうしましたか?

いつの間にか いなくなってました

あなたが捕まえた男性は―

その女性を帰しちゃダメだと 言っていませんでしたか?

分かりません

事務室に入ってすぐ 奥の方に行かされましたから

弁護人の荒川です

私の方から 少しだけ確認をさせてください

話は戻りますが あなたは 犯行中の犯人の手をつかんで―

そのつかんだ 犯人の手を見たんですね?

はい

その後 犯人は手を引っ込めた

はい

目で追っていって その手はどこにいきましたか?

後ろにいきました

その後ろにいった手も 見ていましたか?

はい

手を見て 抜けた手を目で追って―

その抜けた方を目で追ったら―

同じような色の服を着た人がいて

(荒川)今“同じような色の 服を着た”と言いましたが―

ずっと目で犯人の抜けていく手を 追っていけば―

まさに その手だということに なりませんか?

だったら 同じような色というよりも―

まさに その色だということに なりませんか?

同じような色という 言い方だと―

一瞬 視界から 手が消えたのではありませんか?

抜けて だけど ずっと見ていて―

それで その方向を 見たっていうことなんですけど

(大森)犯人の手を見ましたよね つかんだときに

そして抜かれました

抜かれた瞬間は―

あなたの視界から犯人の手は 一瞬 消えたのですか?

よく覚えていません

今 ここに私の右手がありますね

ここから左へ動かしても―

あなたの視界からは 消えないですよね

(俊子)はい

だけど この右手が一瞬 この袖に隠れれば―

手は見えなくなる

(俊子)はい

そういうふうに 一瞬 消えたことが―

あったのかどうかと いうことなんですけれど―

よく思い出してみてください

覚えてない

はい

弁護人 続けてください

あなたは手をつかんだ その手を見ていた それを抜かれた

ここから先を よく聞いていてください

抜かれた先を追っかけたけど―

一瞬 手を見失った だけど 同じような色の服があったから―

それで分かったというのか

抜かれたんだけど あなたは その手を見失うことなく―

そのまま追っかけることが できたというのか

(新崎)異議あり

質問が重複してます

大事なところですから

証人は もう一度 思い出してみてください

一瞬 消えたので 抜けた方向を見たら―

同じような色の服を 着た人がいました

それで同じ人だと分かった ということですか?

右手が抜けた方向とか―

色とか手の向きで この人だと

一瞬 見失ったけど 分かったっていうことですね

(俊子)はい

え~ あなた先ほど 検事さんの質問に―

犯人の手が抜かれたとき―

あなたの背中を通って 右から左に 抜けていったような感触は―

なかったと答えましたね (俊子)はい そうすると あなたの 左斜め後ろにいた人が―

触ったという可能性は ないということですか?

はい

背中の感触だけで そう断言できますか?

刑事さんにも―

左斜め後ろの人には 触れないから―

真後ろの人に間違いないと 言われました

刑事さんが 左斜め後ろの人には 触れないと言ったんですか?

(俊子)はい

どうして触れないのか 理由は話してましたか?

そういう実験をしたって 言ってました

ちょっと待ってください 刑事さんは―

あなたの左斜め後ろにいた人には 触れないということを―

実験で確かめたと 言ったんですか?

そうです

(荒川)どの刑事さんが言ったか 覚えてますか?

いいえ

女性でしたか? 男性でしたか?

よく覚えてませんけど 本当に そう言ったんです

それでは裁判所の方から 少しだけ質問させていただきます

もう少しだけですので 頑張ってください

はい

(大森) 駅事務室に来てくれた女性は―

その男の人は ドアに 上着が挟まっていたけれども―

それにしては動きが変だったと 話したんですか?

はい

なぜ その女性は わざわざ事務室まで来て―

そう話したんだと思いますか?

“痴漢です”と 私が言ったからだと思います

その女性は あなたが 捕まえた男性のことを―

“この人は 犯人じゃありません―”

というふうには 言ってなかったのですか?

はい そうは言ってなかったです

裁判官 先ほどの 被害者証言でありました―

警察の再現実験に関する 報告書の開示を請求いたします

(大森) 検察官 よろしいですね

そういうものが存在するのか 調べてみませんことには

存在する場合には 開示してください

(新崎)検討します

(達雄) 事務室に来てくれた女の人さ―

上着を引っ張ってたから 痴漢はしてないって言ったんだよ

動きが変だなんて 言ってたらさ―

徹平が 何で帰したんだって 怒るわけがない

(陽子)被害者感情なのかな

自分が痴漢に遭って―

それでわざわざ女の人が 来てくれたわけだから―

当然 自分の味方だと思った

それで自分の都合のいいように 聞いたのかもしれない

(佐田) あるいは自分が捕まえた男が―

犯人に間違いないと 思い込んでるから―

そう聞こえたのか

(西村)よく頑張ったな

これからも負けずに 最後まで諦めないで

ここだけの話なんだけどね

担当刑事がね―

まさか起訴するとは 思ってなかったって言ってたよ

(達雄)おう

ありがと

こんなとこにいたのかよ

知らなかった

(達雄)何か好きなもん頼めよ (徹平)うん

おにぎり

いきなりかよ

分かる 私も留学してたとき―

おいしく炊いた御飯 食べたかったもん

4か月だもんな

人質司法っていうんだって

何度か保釈申請はしたんだけど

何でダメだったんですか?

1 被疑者が住居不定のとき

2 被疑者が証拠を隠滅すると 疑うに足りる相当な理由があるとき

3 被疑者が逃亡し または逃亡すると疑うに足りる―

相当な理由があるとき

大体が2の証拠隠滅を 理由にするらしい

お前 すげえな でも証拠なんて何もないじゃん

いや だから つまり被害者を 脅して うその証言をさせるとか

だから被害者の証言が終われば 保釈が許される

とはいえ 保釈条件で―

事件のあった 区間の電車には乗れない

何だよ それ いくら? 保釈金

200万

裁判なんてね―

今まで悪い人が 裁かれるところだと思ってた

だから お金で釈放なんて…

そうなんだよ 裁判は有罪か 無罪か 判断するとこなんだよ

あっ… まあ 当たり前だけど

裁判官はね 常時200件以上の 事件を受け持ってる

そのほとんどが罪を認めている事件で 明らかな有罪ばかりだ

それを考えれば 確かに 悪いヤツを裁く場所かもしれない

ただ その中で被告人の声を 真摯に聞くことは容易じゃない

こうやって短期間に 多くの事件を裁かないと―

勤務評定に関わる ハハッ…

まあ 忙しすぎるんだな

裁判官の能力は 処理件数で測られるから―

早く終わらせることばかり考える

すいません

あの… 裁判の段階としては どんなところなんですか?

検察側立証が終わって これからは弁護側の反証の番です

理屈の上では検察側立証の弱点を 指摘するだけでいいんだけど―

現実の裁判は そう甘くない

こちらから積極的に 無罪を立証できないと負ける

それくらいの覚悟が必要です

そこで提案なんですけど

再現ビデオを撮影したいんです

被害者の言うとおりの状況を作り 金子さんの言い分と合わせて―

当日の状況を再現するんです

うまく証拠になるかどうかは 分からないけど―

書面だけでは 事件を正確に把握するのは難しい

当日の状況を 具体的に把握して―

被害者証言に矛盾はないか 検証したいんです

お金もかかるし 大変なんですけど

佐田さんも作ったって 言ってたから 相談してみます

(荒川) あなたは車内で―

痴漢行為そのものを 目撃しましたか?

いえ ただドアの辺りで―

モゾモゾ動いている男が 気になったので―

時々 見ていました 挙動不審というか

(荒川)モゾモゾ動いている 男っていうのは?

被告の方です

電車に乗り込むときから―

危なっかしいなと思って 見ていました

裁判官の方を見てお答えください

危なっかしいってのは どういうことですか?

女子学生の背中に―

自分の前側をぴったりつけて 押し込んでいたので―

痴漢に間違えられるというか 自分だったら―

背中から乗り込むのになと 思って見ていました

あなたはどこから 見ていたんですか?

ひとつ隣のドアの前で 座ってる人の頭越しに見ていました

(荒川)岸川駅で 降りてからのことをお伺いします

あなたが被告人を 駅事務室まで引率したんですか?

いえ ホームでもめていたら 駅員の人が来て―

そしたら諦めたのか―

駅員とその被告の方が 先に立って歩き―

その後を被害者と私が 並んでついていきました

駅事務室にはもう一人 OLふうの女性が来ましたね

はい

彼女は何を言いに来たんですか?

(月田)ええと…―

この人は痴漢かどうかは 分からないけど怪しい―

というようなことを 言ってたと思います

(荒川) というようなことというのは?

(月田)あまり よく覚えてないんですが―

すぐ行っちゃったし

被告人はその女性が出ていった後 何か言いませんでしたか?

何で帰すんだよみたいなことを 言ってたと思います

駅事務室に来た目撃女性は―

被告人は痴漢をしていなかったとは ひと言も言ってないんですね

(月田)はい そういうふうには 聞こえませんでした

以上です

(大森)かまいませんよ

何でも聞いてください

(修習生) 無罪を言い渡した事件で―

本当はやってるかもしれないって 悩んだことはありますか?

ありません

事実認定はあくまで―

検察官が合理的な疑いを 入れない程度の―

証明をしたかどうかを 判定する作業です

(ドアが開く音)

(大森)証拠はないけど 本当は被告人が―

真犯人かもしれないなんて 悩む必要はないんです

そんなことで裁判官が悩むと―

証拠もないのに 勝手に 検察官の言い分を補って―

時には無罪の人を 有罪にしかねません

検察官の証明を吟味して―

有罪の確信が持てなかったら 無罪なんです

刑事裁判の最大の使命は 何だと思いますか?

(修習生)真実を見極めること

(大森)うん

(修習生)公平であること

(大森)うん

(修習生)公平らしさ?

(大森)フフッ…

最大の使命は―

無実の人を 罰してはならないということです

例の 被害者の 左斜め後ろにいた男には―

痴漢はできないという 警察の 再現実験報告書ですけど―

出てきません 不見当だそうです

不見当?

(荒川)見当たらないということ

ないと言って―

もし後で出てきたら うそをついたことになる

だから不見当

じゃあ あるんですか?

いや それは分からない

あるのに見せたくないから 不見当かもしれないし―

本当に 見当たらないのかもしれない

本当にないんだったら 刑事が被害者にうそをついて―

金子さんが犯人に間違いないと 思い込ませたことになる

あるのに 見せたくなかったとしたら?

うーん

例えば マネキンを使った写真と 一緒で―

あまりにもいいかげんな 報告書だった

それで裁判官の心証を 悪くすると判断した

どうしたものかな

それはそれとして ひとつ報告があります

裁判官が代わった

えっ?

そんなことあるんですか?

(荒川)うん そう珍しいことじゃないんです

えっ? それじゃ 今までの 審議はどうなるんですか?

(荒川)うん… どうにもなりませんけどね

ただ新しい裁判官は 今までの法廷でのやり取りを―

書面だけで判断することになる

(廷吏)起立

(室山)裁判官が代わりました

公判手続きを更新しますが 従前どおりでよろしいですね

(荒川)はい (新崎)はい

(室山)定員は20名です

後から着席した人は 退出していただけますか?

えっ? 前の裁判官は 詰めて座っていいって

(室山)ここは私の法廷です

(傍聴者1)何言ってんだ (傍聴者2)そうだ

審理を静粛に 執り行いたいので―

定員どおりの傍聴ということで お願いします

眼鏡の方

(傍聴者)何だよ

事務室まで来た女性は 何と言っていましたか?

よく覚えていないというか ちょっと聞き取れなくて

ドアに挟まったとかなんとか そんなことを言っていて

(須藤) あなたはその女性から―

詳しく事情を聞こうとは なさらなかったのですか?

いや で…

ですから 詳しく聞くも何も―

すぐに 行ってしまいましたんで―

そんなことしたくても できませんでした

(須藤)あなたは被告人から 事情を聞きましたか?

いいえ

(須藤)全く事情を 聞かなかったのですか?

はい

あなたは被告人に―

駅事務室で話を聞くからと 言ったのではないのですか?

だから被告人は―

当事者同士で話し合えば 分かってもらえると思って―

積極的にやってきてるんですよ

そう言われましても―

そういうことは 私どもの業務ではありませんから

こういう場合 駅員として やるべきことは何なんですか?

当事者の身柄を確保して 警察に連絡をすることです

あなたは 駅事務室まで来た女性が―

この事件の重要な目撃者であると 認識されていたのですか?

いえ そもそもどういう人なのか さっぱり分かりませんでした

その事務室に来られた女性は―

被告人が犯人ではないと 言ったわけではないんですね

(平山)はい そういうふうには 言ってなかったと思います

はい

弁護人から 証拠開示請求が出されていた―

警察官作成の 再現実験報告書ですが

不見当です

(荒川)ということですので―

捜査主任の山田刑事の 再尋問を請求いたします

(室山)検察官 どうですか?

必要性がないと思料します

裁判所としても その必要はないと考えますが

しかし 被害者が被告人が犯人だと 強く思い込んだのは―

取調官の示唆があったからだと 考えられます

仮にそうだとしても―

被害者は誰にそう言われたのか 特定できないのですから―

山田刑事を呼んでも しかたないでしょ

取り調べの違法性については 弁論で主張なさってください

山田刑事の証人申請は 却下いたします

(北尾)何で裁判官 代わっちゃったんすかね (板谷) 裁判官に転勤は付き物ですが―

飛ばされたのかもしれません

(北尾)何で?

(板谷)痴漢事件の前に出した 2つの無罪が―

どっちも高裁で ひっくり返されたんですよ

(北尾)ホントですか えっ… それで 左遷?

(板谷)どうですかね

無罪を出して喜ぶのは誰ですか?

被告人とその関係者でしょ

(板谷)警察と検察は?

(北尾)そりゃ腹立つでしょ メンツ丸潰れだ

無罪を出すというのは 検察と警察を否定することです

つまり国家に盾つくことですよ

そしたら出世はできません

所詮 裁判所も 官僚組織ですから―

組織の中で評価されたいというのが 人情でしょう

被告人を喜ばしたって 何の得にもなりゃしない

有罪ばかり書いてりゃ―

出世するってわけでも ないらしいけど

とにかく無罪判決を書くには―

大変な勇気と能力がいるんです

そんなもんですか 知らなかったなあ

(豊子)お兄ちゃんはいくつ?

(男の子)6歳

そう お利口さんねえ

旦那さんには何から何まで お世話になって―

本当にありがとうございます

(清子)いいえ

裁判は本当に大変だから

私たちに何かできることがあったら 何でも言ってください

私たちも頑張らないと まだ終わったわけじゃないから

よし

野本先生 すいません

じゃ その脚立の上から 撮っていただけますか

(野本)上から? (佐田)はい

小倉さんは すいません 横から

小倉さんは すいません 横から (小倉)はい

(佐田)すいません

(支援者)配線 大丈夫ですか? (佐田)はい (弁護士)こんな感じだった?

はい

どうですか? (佐田)はい 結構です

じゃ まず被害者役の陽子さん

さっき決めた場所に 入ってみてください

(陽子)はい

え~ 斉藤さんと須藤先生も よろしくお願いします

(須藤)はい

これですね 大丈夫ですね

最後に乗客の皆さんも 入ってみましょうか

(支援者たち)はい (佐田)お願いします

え~ 実際には250パーセントの 混雑率ということで―

駅員に押されないと乗れなかった ぐらい混んでいたので―

なるべく密着してください

(支援者たち)はい

(佐田)では 金子さん (徹平)はい

どういうふうに上着を 引っ張っていたのかやってください

はい

すいません

斉藤さん ちょっと金子さんを 押してみてください

斉藤さん ちょっと金子さんを 押してみてください (達雄)はい

斉藤さん ちょっと金子さんを 押してみてください

(達雄)はい

陽子 (陽子)うん?

お尻に何か当たってない?

(陽子)当たってる

徹平のリュックだよ

これで股間を押しつけられたと 勘違いしたんだよ きっと

え~ 今度は被害者が やめてくださいと言って―

犯人の手をつかんで 振り返ったというところを

えー 被害者供述どおり いってみましょう

ええと まず金子さんが やったと仮定して―

最初 被害者の お尻辺りに手を置いて

(徹平)はい

触るふりだけにするから

ホントに触って そうしないと分からないから

大丈夫 スパッツはいてきたし

(佐田)はい 触って

はい その手をつかんだ

(腕が当たる音)

(徹平)抜けません

やってみるものですね

ドアのすぐ前に立ってるんだもん 真後ろになんか抜けるわけがない

そんな簡単なこと どうして気づかなかったんだろ

だから現場検証は大切なんだね やんなきゃダメだ

今度 俺 触ってみようか

ああ うん

(荒川)手が引かれた方向が―

背中の方なのか 真後ろなのか分かったかな

よく分からなかった

手が どっちの方向から出てきて お尻を触ってるのかも―

分かりませんでした

徹平はどうだった? 達雄が触ったの分かった?

(徹平)いや 全く

だけど これって 進行方向どっちだっけ?

あなたが背にしていたドアが 進行方向に向かって左側

左側…

(室山)それでは被告人 証言台へ

はい

(室山)座ってください

(徹平)はい

あなたはドアに挟まっていた 上着を引っ張っていた

上着はすぐに抜けましたか?

いえ それで焦って 体をひねってみたり―

右手でなるだけ挟まってる近くを 持って引っ張りました

車内は相当な 混雑だったと思いますが―

あなたの動きは周りの人に 迷惑かけませんでしたか?

あっ… 気をつけたつもりですけど―

右にいた女性が私の方を見て けげんな顔をしたので―

すいませんと謝って 挟まってる上着を目で示しました

上着を引っ張っている あなたの手や体が―

その女性に当たったんですか?

そうだと思います

あなたは警察での取り調べで―

自分の左隣にいた太った男が―

痴漢をしていたのかもしれないと 言いましたね

はい

なぜその男が 怪しいと思ったんですか?

私が 上着を引っ張ってるときに―

その男に押されて―

体が右隣の女性を 押すような形になったんです

電車の揺れの せいかもしれませんが―

ちょっと不自然な気もしたし―

痴漢被害のことを聞いて―

もしかしたら被害者の女性の お尻を触ろうとして―

私を押すことになったのかと

ところで あなたが降りる岸川駅では―

上着が挟まった方のドアが 開くわけですよね

どうして無理して上着を―

引き抜かないと いけなかったんですか?

はい

それは私の勘違いでした

私が乗車する すみれが丘駅では―

岸川駅と反対側のドアが開きます

ですから混んでいるときは 岸川で降りるのに―

車内を横断することになります

ところがあの日は リュックの 中身を確かめようとして―

武蔵台駅で降りました

武蔵台駅は岸川駅と同じ側が 開きますので―

そのとき私は 車内を横断して降りたわけです

その日は寝坊したり―

履歴書を忘れてしまったりして とても慌てていました

それで再び電車に乗って 上着が ドアに挟まれたんですが―

そのとき私は そのドアが―

いつもの習慣で 岸川駅とは反対側のドアだと―

思い込んでしまって いたようなのです

ようなのですとは どういうことですか?

はい

以前に 弁護士さんや副検事さんに―

どうして上着を引っ張る必要が あったのかと聞かれたとき―

自分でも よく分からなかったんです

でも再現ビデオの撮影のときに 思い出したんです

あの日 上着を引っ張ってる最中に―

あれ? この電車どっちに向かって 走っていたんだっけと思って―

そしたら いきなり上着が抜けて―

その直後に やめてください という声を聞いたんです

つまり あなたは 武蔵台駅から乗ったのに―

非常に慌てていたので―

いつものように すみれが丘駅から 乗ったと勘違いしていた

だから どっちのドアが開くかも 勘違いしていたということですか

はい… はい そういうことです

えー それでは最後に―

駅事務室に来た 目撃者の発言ですが―

彼女は何と言ったんですか?

はい

この人はドアに挟まっていた 上着を引っ張っていただけで―

痴漢はしていませんでした と言いました

確かですね 痴漢はしていませんと 言ったんですね

はい

被害者がやめてくださいと 言ったとき―

あなたは どうしていたのですか?

挟まった上着の方を見ながら 引っ張っていましたけど―

ようやく抜けて だけど まだ上着はつかんでいました

それで被害者の声を聞いて どうしました?

振り返りました

被害者の顔を見ましたか?

いえ 声は聞こえましたが―

誰が誰に言ってるのか 分かりませんでした

被害者と あなたの体の密着度は どの程度でしたか?

そのときは被害者かどうか 分かりませんが―

前の小柄な女性とは―

自分の体の上半身の左半分が ぴったりくっついていたと思います

左手でカバンを 持っていたんですよね

はい

ですから リュックが 女性に 当たっていたかもしれません

あなたが真犯人だと主張する―

左隣の太った男との 密着度合いはどうでしたか?

私の体の左側が かなり強く圧迫されていました

その男はどんな姿勢でしたか?

私は 上着を引っ張っていたので―

右後ろを向いていて―

どんな姿勢をしていたのか 分かりません

どういう姿勢を していたかも分からずに―

その男が犯人だというのですか?

(徹平)犯人だと 断定しているわけではありません

私の体に感じた圧迫感から 怪しいのではないかと

(新崎)その男が被害者を 触っていたと仮定すると―

当然 男の右腕は―

あなたと被害者の間に 割って入ってきてるはずですね

はい そういうことだと思います

それだけ混んだ電車で―

密着してる人間の間を 強引に手が入ってくれば―

普通 気がつくと思うのですが 気づきませんでしたか?

はい 気づきませんでした

ただ この間の再現ビデオ撮影では…

(新崎)質問されたことだけに お答えください

はい

気づきませんでした

(新崎) これはあなたの部屋に―

コレクションされていた DVDと本ですね

コレクションて そんな 大げさなものじゃありません

では 何ですか?

(徹平)捨てられなくて 放っておいたものです

(新崎)そうですか

タイトルを 読んでいただけますか?

異議あり 必要性がありません

ご自分で読めば いいのではないですか?

そういう問題じゃないでしょう

「痴漢地獄」

ふだんから痴漢に 興味があったのではないですか?

異議 関連性がありません

いいです 答えます

友達からもらった中の たまたま1本が―

痴漢ものだっただけです

こちらの雑誌には セーラー服の 写真が写ってますが―

女子学生にも興味があるのですね

それはたまたまあった ヌード雑誌の一部で―

特に女子学生に興味が あったというわけではありません

あなたは途中下車した武蔵台駅で 何をしていたのですか?

(徹平)履歴書を持ってきたか どうか確かめようとして―

リュックの中を探して だけどなくて―

取りに戻れば 遅刻するので諦めました

あなたが再び 電車に乗るときですけど―

そのドアから乗った理由は ありますか?

いちばん近いというか―

とにかく目に入ったドアに 飛び込みました

(室山)あなたが ドアに駆け込んだとき―

その乗ろうとしている 乗客の最後尾に―

誰がいたか はっきり分かりましたか?

分かりませんでした

(室山)乗り込んでる まさにそのときは―

目の前に誰がいるか 分かりましたよね

はい 被害者の女性が いたと思います

(室山)乗り込むときに目の前に 若い女性がいたわけですよね

はい

あっ でも 降りてから 岸川で分かったのかな

そうです そのときは 分かっていませんでした

女性だというのは 分かったんでしょ

よく覚えていません

(室山) あなたは警察での取り調べで―

“私は発車寸前の急行電車に 乗ろうとしている―”

“女子中学生の後ろから―”

“駅員に背中を押され 女子中学生の背中に密着して―”

“電車に乗り込みました”と 答えてはいませんか?

“乗り込む時には 前に誰がいたか 分からなかった”と答えました

そうですか

でも そう書かれた調書に あなたの署名があるんですけどね

それは勝手に刑事さんが そう書いたのを―

何度も訂正してもらおうと しましたが―

直してくれなかったんです

あなたは通常 満員電車に乗るとき 体の向きはどうされていますか?

ふだんはそんなに 混んでる 電車には乗ってませんけど―

普通に前から乗ります

例えば たまたま満員電車に 乗らなければならないときに―

目の前に女性がいたら―

体の前が女性と密着するのは 嫌だということで―

背中側から乗るとかしませんか?

そうしたことはあります

本件では しなかったと?

この電車を逃したら 遅刻しちゃうんで―

とにかく乗るのに 必死だったんです

前に若い女の子がいるんだけれど そんなことは知ったことではない

とにかく乗ることだけを 考えていたとそういうことですか?

とにかく乗るのに必死で―

前に女の人が…―

女の子がいようが おばさんがいようが― そんなのは関係なかった

とにかく慌ててて 乗るのに必死だったんです

(室山)でも 前にいるのは 若い女性であることは―

分かっていたんですよね

だから たとえそうだとしても―

後ろから押してくる 駅員さんもいるんですよ

とにかく そのときは 前にいる 人の状況よりも何よりも―

乗ることがいちばんだったんです

最後にお尋ねしますが―

あなたは車内で 被害者に やめてくださいと言われたとき―

自分のことだとは思わなかったと 供述されてますね

はい

それはおかしくないですか

痴漢行為ではなくとも―

あなたは混雑した車内で 上着を引っ張り―

少なくとも右隣の女性に 迷惑をかけ謝っている

そういうことがあって今度は やめてくださいと聞こえたら―

それは自分のことだと 思いませんか?

そんなに強く 引っ張ってたわけじゃないから

しかし あなたの行為を目撃して―

わざわざ事務室まで来てくれた 女性がいたのですから―

かなり目立った 行為だったんですよね

だから言ってるだろ その女性は 俺じゃないって言ったんだよ

何だよ 俺はやってない!

尋ねられたことだけに お答えください

ホントはやった?

何だよ お前

おい ちょっと待てよ

お前いつも 何見に来てんだよ!

俺は見せ物じゃねえんだぞ! (須藤)落ち着いて!

落ち着いて!

ここは法廷だぞ

ただの傍聴オタクよ

興味本位に性犯罪ばかり狙って 傍聴してるの

最低な人たちよ

行こう

(荒川) 裁判官はね 被告人にだけは だまされまいと思ってる

恥だからね

頭の良さに 自信のある人間ほど―

目の前にいる人の言葉が―

万が一 うそだったらどうしよう―

それに乗せられたら恥だという 心理が働くもんなんだ

無罪を出すには 無罪の確信が欲しい

だから疑問に思ったら ストレートにぶつける

それで納得のいく返答が 返ってくるか

痴漢事件はね 何の証拠もないから―

最後は被害者と被告人と―

どっちが 本当のことを言ってるのか―

それも 核心部分だけではなくて―

周辺部分でも うそをついていないか―

そういうことが 判断の決め手になってしまう

徹平がうそをついたって 言うんですか?

いえ

徹平君は正直に 精いっぱい答えたと思います

あんな偏見を持った 聞き方されて怒らない方が―

私は変だと思います

本当のこと言ってるのに 揚げ足ばかり取って

まるで検事みたい

(佐田)無実の罪で それも初めての裁判で―

たった一度の被告人質問です

いくら弁護士さんと 打ち合わせをしていても

答え方しだいで 有罪になってしまう

やり直しなしの一発勝負です

あったことを―

ありのまま答えればいいっていう 弁護士もいますけど―

極度の緊張状態で 予想外の質問が来たらもう―

頭は真っ白です

ありのままが何だったのかすら 分からなくなってしまう

裁判官に悪意があるとは思わない

毎日毎日うそつきに会い―

人の物を盗んではいけません 人を傷つけてはいけません―

時には人気歌手の歌を引用して 説教もする

その繰り返しだ

怖いのは 99.9パーセントの 有罪率が―

裁判の結果ではなく 前提になってしまうことなんです

あの…―

最初に接見した弁護士を 証人申請するのはどうでしょう

(荒川) 今更 どうしようっていうの

やれることは やっておきたいんです 何を証言させるの?

当番弁護士は―

認めて示談にした方がいいって 言ったんですよね

でも徹平君はそれを拒否した なぜなら無実だからです

当番弁護士が誰だったか 知ってるの?

いえ すぐに調べます

調べる必要はないよ

どういうことですか

どうして示談を 勧めたりしたんですか

あの日の接見は―

できたら誰かに 代わってもらいたかったんだ

午後にね 判決があってね

懲役一年三月の実刑だった

ひどい裁判だよ

何しろ通勤電車内の わいせつ容疑なのに―

保釈金が500万円

もちろん前科はないし―

妻も子供もいる 本当に真面目なサラリーマンだ

被害者尋問が終わって 裁判官に会いに行ったら―

何て言われたと思う?

“500万円 出せるなら―”

“今すぐ被害者のところに行って 示談してこい”

“そしたら執行猶予にしてやる”

信じられるか?

こっちは 真摯に無罪を争ってるんだ

それが裁判の最中に そんなことを言う

無罪推定どころか有罪推定だ

すぐその場で 罵倒してやりたかったよ

だけど一瞬 裁判官の機嫌を損ねたら―

もっと不利になると思ったんだ

それからは必死だった

何しろ裁判官の心証を 知っちゃったんだからね

でも ダメだった

俺はね

示談を勧めるつもりは なかったんだよ

ただね―

無実であるなら 裁判で明らかになる―

裁判官は分かってくれる―

そんなふうに考えてたら とんでもないことになるって…

それは違う (浜田)分かってるさ そんなこと

だけどな―

裁判の現実を伝えないで―

無責任に 闘えなんて言えないんだよ

でも―

証言はしてくれますね

無実の人を―

有罪にするわけには いかないんです

(腕が当たる音)

(室山)では 次回 証拠関係を整理して―

次々回 論告ということで よろしいですか?

(新崎)はい (須藤)裁判官 最初に被告人と接見しました―

当番弁護士を 証人として申請いたします

立証趣旨は?

逮捕直後の被告人の供述を 明らかにして―

当番弁護士が 示談を勧めたにもかかわらず―

否認を貫いた被告人の 身の潔白を証明します

検察官 ご意見は?

不必要だと考えますが

裁判所としても 不必要だと思います

それでは 当番弁護士の接見報告書と―

接見メモを 書証として請求いたします

いずれも不同意です

323条2号の業務文書あるいは 同条3号の―

特信文書として請求いたします

検察官 ご意見は?

要件を満たさないと考えます

裁判所としても業務文書等に 当たらないと考えますので―

却下します

(荒川)ただいまの証拠決定に 異議を申し立てますので―

書記官 記録にとどめておいてください

(豊子)痴漢事件の目撃者を 探しています

平成17年5月10日 午前8時ごろ―

岸川駅事務所に この人は痴漢ではないと―

伝えに来てくれた女性を 探しています

ありがとうございます

痴漢事件の目撃者を探しています

(広安) 被告人は前へ

主文 原判決を破棄する

被告人を懲役三月に処する

(板谷)不当判決だ! (傍聴人たち)そうだ! そうだ!

(佐田の妻の泣き声)

静かにしてください

次に発言があれば退廷させますよ

あんたはいつもこうだ

私のことを覚えているか えっ?

覚えてるか!

退廷を命じます

(佐田の妻と子供の泣き声)

会社の金 使い込んだって はめられて―

あの裁判官に 一審で有罪 食らって

最高裁まで争ったけどダメだった (携帯電話の着信音)

すいません

それにしてもね―

99.9パーセントの 有罪率ってのは―

弁護士さんにとっても 便利なんですよ

有罪で当たり前だから 誰からも非難されないし―

無罪 取ったら英雄だ

いや 失礼

見つかったって

(徹平)えっ?

彼に間違いありませんか?

(市村)多分…

徹平君は?

えっ? あっ… ええ 多分

あの… ありがとうございます

お忙しいところを 時間を取っていただきまして―

ありがとうございました

重要な目撃証人が 見つかったということでしたが

はい 事件直後から 探しておりました目撃者が―

名乗り出てくださいました

それはよかった

今は その裏付けを 取っているところなんですが―

確かに この事件の目撃者で あるという確証が得られましたら―

是非 証人尋問の期日を 取っていただきたいと

検察官には? (荒川)はい

確証が得られたところで こちらから

(須藤)あなたは 武蔵台駅から―

被告人の隣に 乗車していたのですね

はい

(須藤)武蔵台駅を出発してから 何があったのですか?

出発してしばらくすると―

自分の背中や腰に 何かが当たるので気になって―

上半身をひねって 後ろを見たんです

そしたら 後ろの人が―

ドアに挟まっている上着を 引っ張っているのが分かって

それで目が合ったら―

軽く会釈して すいませんて言われました

後ろの人というのは ここにいる被告人ですか?

(市村)そうです

そうです

(須藤) それから どうなされましたか?

(市村)はい 向き直りましたけれど それからは―

背中に 何かが当たるというよりは―

ゴソゴソ動いているような感じが ずっとしていました

いつまでゴソゴソ動いてる 感じがしましたか?

やめてくださいという 女性の声が聞こえて―

それからは なかったと思います

やめてくださいというのは―

何をやめてくださいということだと 思いましたか?

もしかしたら私と同じように

何かが当たっていて それで そう言ってるのかなと想像しました

(須藤)岸川駅に 着いてからのことをお伺いします

あなたは駅員と歩いていく 被告人を見て―

駅事務室に行きましたね

(市村)はい

そして あなたは 駅員に何と言ったのですか?

(市村)はい“その男性は―”

“ドアに挟まっていた上着を 引っ張っていただけです”

“痴漢はしていないと思います” そう言いました

あなたはビラを見て 弁護士さんに 連絡したということでしたけど―

どうして事件から7か月もたって 連絡されたのですか?

事件の日は 私が会社を辞めた日で とてもよく覚えています

あの後 男の人はどうなったのか 一日中 気になっていました

だけど事件の翌日から―

私は姉の住むニューヨークへ 留学に行って―

3か月前に帰国しました

ビラを見たのは ある会社の面接を 受けに行く途中でした

あなたがドアに挟まっている上着を 確認したのは 一度だけですか?

はい

(室山) あなたが上着を確認してから―

やめてくださいという 声を聞くまでは―

どれくらいの時間が ありましたか?

時間ですか?

時間は よく覚えてませんけど―

振り返ったのは武蔵台を出て しばらくしてからでしたから―

野袋駅を通過する前から―

岸川駅の手前くらいまでの 時間だったと思います

そうすると―

10分程度ですかね

そうですね そんなものかもしれません

その間 あなたは―

背後でゴソゴソ動く気配を 感じていたのですね?

はい

絶えず感じていましたか?

いえ 絶えずというよりは 気がつけばという感じです

最後に確認しますが―

あなたが被告人を 痴漢ではないと思った理由は―

被告人がドアに挟まった上着を 引っ張っていたから―

ということですね

はい それと―

私と目が合って謝った人が―

すぐそばの人に 痴漢を しているってのはちょっと…

普通 痴漢は―

誰にも気がつかれないように するものですよね

はい 分かりました

弁護人 よろしいですね

はい

〝被害者が 弱冠15歳という―〞

〝多感な時期にある少女で あることを考慮すると―〞

〝被害者に与えた影響は 甚大である〞

“それゆえ被害者 および 同人の母親は被告人に対し―”

“厳しい処罰感情を抱いている”

“被告人は種々の弁解を弄し 本件犯行を頑強に否認しており―”

“反省の情は全く認められず 再犯可能性も否定できない”

“同種事案を防止するという 一般予防の見地からも―”

“被告人に対しては 厳しい態度で臨むべきである”

“以上 諸般の事情を考慮して 相当法条適用の上―”

“被告人を懲役四月に処するのが 相当であると思料する”

〝捜査機関は―〞

〝被害者の供述のみを うのみにし―〞

〝被告人の弁解を 録取せず―〞

“かつ 公判段階になっても―”

“被告人の逮捕当初からの 一貫した弁解を示唆する―”

“被害者の員面調書や その他の証拠を…”

“実体的真実主義の原則にも 反していると言わざるを得ない”

“被害者の供述や証言が―”

“本件での有罪立証の決定的な 唯一の証拠であるにもかかわらず―”

“ここまで述べてきたように その信用性はなく―”

“多くの合理的な疑いが 存在するのである”

“このような杜撰な証拠で 刑事裁判において―”

“痴漢行為の犯人であると 認定されるのであれば―”

“今後も多くの痴漢冤罪者が 生まれるであろう”

“裁判所には慎重 冷静に 本件の分析をされたい”

“この点は被告人と弁護人からも 切に望むものである”

被告人は無罪である

(室山)被告人は前へ

はい

この事件の審理は これで終わります

被告人の方から 最後に 言いたいことがあればどうぞ

はい

“私は無実です”

“絶対に痴漢のような 卑劣な行為は行っていません”

“この事件に巻き込まれ―”

“今日まで苦しい毎日を 過ごしてきました”

“多分 被害者ご本人も―”

“そのご家族もまた苦しい―”

“日々を過ごして いらっしゃると思います”

“しかし―”

“この憎むべき犯罪行為を 犯したのは 私ではありません”

“そのことを逮捕された その日から今日まで―”

“一貫して述べてまいりました”

“どうか 裁判所におかれましては―”

“公正かつ慎重な ご判断を頂きたく―”

“心よりお願い申し上げます”

では 次回判決は5月10日水曜日

当法廷で午前11時からです

(豊子) 大丈夫だよ やってないんだから

無罪に決まってる

(廷吏)起立

それでは判決を言い渡します 被告人は前へ

はい

(室山)“主文 被告人を懲役三月に処する”

“この裁判の確定の日から 3年間…”

うそだ!

傍聴席は静かに

不規則発言に対しては―

退廷を命じることもありますから 注意してください こんな裁判 見たくもねえよ!

(泣き声)

(室山)“この裁判の 確定の日から3年間 ―”

“その刑の執行を猶予する”

“訴訟費用は 被告人の負担とする”

これから理由を述べますが―

少し長くなりますので 被告人は座ってください

被告人 座ってください

立ったまま聞きます

“被告人は平成17年5月10日 午前7時34分ごろから―”

“同日 午前7時44分ごろ までの間に―”

“東京都 杉並区 武蔵台4丁目 10番1号所在の―”

“城北急行電鉄 武蔵台駅から―”

“同都新宿区西高田 1丁目25番1号所在の―”

“同線岸川駅に至る間を進行中の 電車内において―”

“古川俊子 当時15歳に対し―”

“そのスカート内に 手を入れ―”

“下着の上から 手で臀部を触るなどして―”

“もって公共の乗り物において 人を著しく羞恥させ…”

これから事実認定について 補足的に説明します

“被害者は 弱冠15歳にもかかわらず―”

“勇気を持って 犯人を逮捕し―”

“公判廷においても 真摯な供述態度で―”

“涙をこらえながら 被害体験を語り―”

“その内容はいずれも 具体的で詳細であり―”

“体験した者のみが 語ることのできると思われる―”

“臨場感にあふれたものである”

“また弁護人側の 反対尋問にもよく耐え―”

“その供述は ほぼ一貫しているし―”

“分からないことは 分からないと正直に述べている”

“また被害者は 通学中の女子学生で―”

“本件被害まで 被告人と面識はなく―”

“何らの利害関係も 有していない者であって―”

“被告人を罪に陥れるべき 特段の事情はなく―”

“あえて虚偽の供述をする 可能性は乏しい”

“被告人が 公判廷で供述するように―”

“被告人の左隣にいた 太った男が犯人であれば―”

“その犯人の右腕は少なくとも 被告人の体の前を通って―”

“被害者の右臀部に 触れているはずであるから―”

“被告人自身が 気づいたはずである”

“にもかかわらず被告人は―”

“左隣にいた 太った男の犯行には―”

“気づかなかったと いうのであるから―”

“本件犯行がこの男に よるものである可能性が―”

“非常に低いことは―”

“被告人自身の公判供述から 明らかといわなければならない”

“また被告人は ドアを背に立っていたから―”

“被害者につかまれた手を真後ろに 引くことはできないと弁解するが―”

“被害者は背中越しに―”

“感触や気配で手を引き抜く 方向を判断したにすぎず―”

“例えば 上方に引き抜かれたのを―”

“後方に引き抜かれたと 勘違いした可能性も―”

“十分考えられる”

“従って 手を引き抜いた方向が 真後ろであることを―”

“前提とする被告人の弁解は そもそも前提を欠いており―”

“いずれにせよ この点が―”

“被告人が犯人であることを認定する 妨げになるものではない”

“ところで本件においては―”

“犯行車両に同乗した証人 市村の証言により―”

“市村が犯行があった直後に 駅事務室に来て―”

“被告人が痴漢犯人ではないと思う 旨の発言をした事実が―”

“明らかになった”

“そこで この市村の 証言について検討する”

“証言によれば市村は―”

“武蔵台駅を出て しばらくした後―”

“背中や腰に 何かが当たるので―”

“上半身をひねって 後ろを振り返り―”

“被告人が上着を引っ張っている 行為を目撃した”

“そして被告人と目が合うと 軽く会釈され―”

“すいませんと謝られた”

“しかるに 前に向き直った後は―”

“野袋駅を通過して 岸川駅到着寸前に―”

“被害者の やめてくださいとの声を 聞くまでのおよそ10分間―”

“相変わらず背後に 被告人の 動く気配を感じながらも―”

“乗車中の被告人の行動を 見ることはなかったのである”

“そうすると 市村の証言に よって認定できるのは―”

“被害者が やめてくださいと 言った10分前に被告人が―”

“ドアに挟まった上着を 引っ張っていた事実にすぎない”

“この事実は 被告人の弁解を―”

“一部裏付ける事実では あるものの―”

“犯行があった その時点において―”

“被告人がどのような行動を 取っていたかということと―”

“直接 関連する事実ではない”

“被告人がその時点で 痴漢行為をした事実とも―”

“論理的に 両立するものであるから―”

“このような事実が 認められるからといって―”

“被告人が犯人であることを 否定する根拠にはならない”

“他の関係各証拠を 検討しても―”

“被告人の供述には 信用できない点が多々あり―”

“その供述は 全体として信用性が低く―”

“弁護人の主張は採用できない”

“被告人は 種々の弁解を弄し―”

“本件犯行を 頑強に否認しており―”

“反省の情は 全く認められず―”

“再犯の可能性も否定できない”

“加えて電車内での 卑わいな行為に対する―”

“社会的非難が高まり―”

“その撲滅が 強く叫ばれている折―”

“あえてこのような犯行に及んだ 被告人に対して―”

“厳しく 対処することにより―”

“この種事犯の防止を 図るという点も―”

“看過することはできない”

“以上によれば 被告人の刑事責任を―”

“軽く見ることはできない しかしながら…”

(徹平)僕は心のどこかで―

裁判官なら分かってくれると 信じていた

どれだけ裁判が厳しいものだと 自分に言い聞かせても―

本当にやってないのだから 有罪になるはずがない―

そう思っていた

“真実は神のみぞ知る”と 言った裁判官がいるそうだが―

それは違う

少なくとも僕は―

自分が犯人ではないという 真実を知っている ならば この裁判で 本当に 裁くことができる人間は―

僕しかいない

少なくとも僕は 裁判官を裁くことができる

あなたは間違いを犯した

僕は絶対に無実なのだから

僕は初めて理解した

裁判は真実を明らかにする 場所ではない

裁判は被告人が有罪であるか 無罪であるかを―

集められた証拠で とりあえず 判断する場所にすぎないのだ

そして ボクは とりあえず有罪になった

それが裁判所の判断だ

それでも―

それでもボクはやってない

被告人は この判決に不服があるとき―

14日以内に 控訴することができます

(徹平)控訴します

♪~

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