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おっ母が帰ってこんと
いつからじゃ?
男ができて逃げたんじゃろうか
こんな娘 置いて そんなことできるもんか
波にさらわれたと違うか?
いや 逃げたんよ
めくらの娘 抱えて 暮らしのつらさが こたえたのさ
・(斉藤の足音)
何だ 薬売りの斉藤さんでねえか
村さ誰もいねえでな どうしたかと思ってな
いや この前さ通ったら 人声が聞こえるもんでな
斉藤さん いいとこへ来てくれなしたな
おまえさんのように 世慣れた人の知恵が
欲しかったところじゃ
おめえさんの名前は?
年は?
(おりん)おりん 6つ
おー いとしげな声じゃのう
おりんちゃんっていうのかい うん そうか
ほれ 食べな ほれ
仏谷じゃと聞いてますが
おどの顔も おがの顔も 見たことありません>
景色の美しい所だと聞きましたが
海や波の音ばかす はぁ 見たことねえす>
斉藤というおどに連れられて
越後 高田の サトミの瞽女屋敷の 弟子さ なったんであんす>
・~
・~
・~
・~
・~
・~
・~
・~
あれから ちょうど ことしで 20年たちましてごぜえます
21んとき おら ふしだらおなごじゃち言われて
サトミの瞽女屋敷から 出されましたんであんす
それから ずーっと独りで
(平太郎)じゃあ おめえは 仲間から は… 外されたんか?
はい 瞽女は おらたちみてえな めくらおなごが仲間んなって
三味線かたげて 歌ば歌うて
村の瞽女宿さ泊まるのが 決まりでごぜえます
仲間から落とされて はなれ瞽女になれば
おらみえてえに1人で門付けして 誰もいねえ炭焼き小屋だの
雨漏りする み堂さ 寝泊まりして歩くんであんす
サクジ! 迎えさ行ったいすけ まだか?
あー 漫才だけじゃどうもなんねえ
あげなサンノウさんの漫才 色気もなんもねえす!
ああ おせえな 瞽女さん
必ず来るからってよ 朝から約束してあったんによ
坊ちゃまの出征だのにのし 三味がねえでは歌も弾まんがや
・(男性たちの歌声)
・~
公太郎さん おめでとうごぜえます
忙しいところ どうもありがとう
役場の兵事係の話だと ムラマチ連隊は雪に慣れとるで
シベリアさ回されるかもしれない 言うてただ
・~
おめえら 首つり あった話 知ってるだがや?
あー 聞いた 聞いた
まき小屋の きこり場そらさ ぶら下がった物あったで
よく見たら男の死体じゃったと (男性)ああ…
お… おら やっぱ 脱走兵だと思う
軍の秘密だで おっきい声では言われねども
取っ捕まれば銃殺だすっけのし
来た来た 来た来た! べっぴんさんの瞽女 来たぞ!
(一同)ハハハハ!
旦那さま お姉さま ただ今 呼んでまいりましてござります
ああ… 瞽女さん また シラミが
フッ! あっ ああ…
そうかのう すまんのう
芸は奥伝 器量は良し
さあ これから 座敷歌 いっぺえ歌うてくれますでのし
皆さま お呼びくださりまして ありがとうごぜえます
どうぞ よろしくおねげえします
・(三味線の調弦)
瞽女さん 陰気なものより ぱーっとしたもの やってくれよ
はい
・(三味線の演奏)
・~
・(歌声)
・~
ちっとは見えるんでねえか? (伊助)何も見えねえ
そら 口は重宝だわさ
見えていても見えねと言えば 見えねことになるのだのし
見えねでも あれはできるな (伊助)何の話だ?
見えねども へそ合わせはできるど (一同)ハハハハハ!
あほ! おめえら 夜ばい こいたら 承知しねえぞ!
だって あの瞽女は はなれだろうが
はなれ瞽女でも あの娘は ふしだら者じゃねえ!
・(歌声)
・~
ただ 闇の世の中 歩いてきたのでござります>
「高田さ行けば おみゃあのような めくらの娘らが
いっぱい仲間をつくっておる」>
立派な瞽女さんになれる」>
1人で生きていこうと思えば
あんまか女郎しかねえが
瞽女なら優しいおっ母がいて 育ててくださる」>
楽しゅう暮らせる」と 言いましたんや>
・~
・~
カネ子! 手 休めるんでねえ
おみゃあの耳には 誰でも ヤスケさの足に聞こえるだか
富山の斉藤さんじゃ
薬売りの? (カネ子)あれ そうだ
あれ? 去年は
雪が消えんのを待って 来なさったに
連れがあるようじゃ ・(扉の開く音)
・(扉の閉まる音)
ごめんください 富山の斉藤でございます
ことしも ごあいさつに上がりました
皆さんにも お変わりないようで
おいでなして
おっ! ミツ子ちゃん
去年より ぐーっと大きくなんなすったな
ああ ああ… 雪の道 ご苦労さんにござります
サトミの親方さん お元気で何よりでございます
また お願い事ができまして…
はぁ… まあ お上がりなして
はぁ
線香と髪油の匂いのする所ですた>
おらが よろしく頼みますって お辞儀しますと
寄ってきて 髪をなでてくださり
姉さんたちを呼んで おらさ会わせて
ヤス子さんが 餅 焼いてくだせえました>
うれしかったこと
昨日のように覚えております>
・~
・~
・~
・~
じゃあ おめえは
今は手引きもなしで
ほんとに1人で歩いてんのか?
はい うん…
ほんで?
おみゃあは どっち場でやってたんだ?
3月まで 善光寺さ おりました
4月初めに新井から こっちへ回ってきましたです
おう 水だ おみゃあも飲みゃあ
ありがとうごぜえます ん…
ハァ…
おみゃあさん ほんとに宿なしで?
ああ ほんとだ
こっちの石切り飯場さ 働きに来よったが
けさ方 仕事が終わったで 里へ帰る途中なんじゃ
ウフフフ…
こんげな山奥さ来て 宿なしだ何ぞと
ウフッ! うそ言うてがのう ここの人でござんしょうに
いや うそじゃねえ ウフフ…
里まで行くには日が暮れるし
今晩 ここで寝ようって 腹 決めたんじゃ
あー… 疲れた
フフフフ…
ハァ… ありがとうごぜえました
(寝息)
おみゃあさん ほんとに眠ったがや?
(寝息)
(一同)末代無智の 在家止住の男女たらんともがらは
こころをひとつにして
阿弥陀仏と ふかく たのみまゐらせて
さらに余のかたへ こころをふらず
一心一向に仏たすけ…
人さし指で (三味線の音)
・「女郎… 女郎」 (三味線の音)
・「しゅ…」 2本目 はい は… (三味線の音)
(三味線の音)
上 上がって ・「吉…」 (三味線の音)
よ… 真ん中… (三味線の音)
(柱時計の鐘の鳴る音)
ツギ姉さ 何で おらのこと そげに憎いがや?
えっ? なして? カネちゃん
おらの足さ くけ台を わざと倒して…
あれ フッ… そんげんこと せんがのう
おら くけ縫いし直そうちゅう思うて
ちょっと外したすけやろに
うそ!
何や 姉さぶっち
おらのことばっか責めて
おらやて よう知っとるが
おみゃあ 職人まじのマゴジさ そっと おうてるちこともな
しみるな おりんちゃん はい
洗濯 いっとう つらいのう はい
アハハハハ…
おりん はい
おみゃあ 勘がええけに覚えもはええ
したがのう 瞽女が忘れてならんこつは
瞽女の礼儀作法じゃ
ええか?
瞽女は 耳も鼻も口も手足も
みんな 阿弥陀さまに お預けしとるんじゃけに
ほうじゃけに 毎朝 毎日 お経 上げて
その大事な作法の道を 踏み外さぬように
お願いしてるんじゃ
踏み外せば地獄…
おっとろしい地獄に 落ちるんじゃけにのう
おりん はい
出世名をもらう名変え>
お姉さんと呼ばれるんじゃ>
ようやく年季明けじゃ>
一人前の姉さんになれるのじゃ>
・(三味線の演奏)
(瞽女たち) ・「幾夜 通うても逢われぬ時は」
・「御門扉に」
・「ソリヤ文を書く」
・「御門扉に」
・「ソリヤ文を書く」
・~
(瞽女たち) ・「御門扉に 文 書く時は」
・「すずり水やら」
・「ソリヤ涙やら」
・「すずり水やら」
・「ソリヤ涙やら」
・~
(瞽女たち)・「ござりや語りましよ 小松の蔭で」
・「松葉よりも…」
・(三味線の演奏)
(瞽女たち) ・「佐渡の二郎が見るよりも」
おい 宮崎
こんなことなが くみ通ることではない
俺も どうやら うちなきになった
なるほど 二郎どんの言わるるとおり
こんなことなが くみ通ることではない
でも どうやら涙が出てならん
(瞽女たち)・「もう いいかげんにして引き分けようと」
アハハハハ! (人々の話し声)
あー もう ねえじゃねえか (男性)ほら 姉さん 全部 下げて
今 そっち行きます (男性)あー こっちだよ
(人々の話し声)
いとおしげな娘さんだのう
おまんさ よう高声で歌うてたが 歌の意味 分かるんか?
おまん 幾つになったね?
6つのときから2年目ですけに ことしで8つでごぜえます
(泣き声)
うちを出るとき 足袋はかせたのが悪かったかのう
おららのように 初手っから 素足で わらじ履いとりゃ
いて道も ぬくもるがのう
(泣き声)
・(三味線の演奏)
・~
いとうございましたに
1時間もしたら 足袋はいてるより 歩きようなりすた>
足袋はいたことねえんであんす>
おみゃあさん 何で いつまでも おらの後 つけてきなさるんじゃ?
はよう うちさ戻らねば 待っていなさる方も
ありなさるじゃろうに おら…
独りぼっちなんじゃ
おみゃあと同じじゃ
おども おっ母も ありゃせん 待っとる人もおらんじゃ
おみゃあさんも?
うそじゃ 何でえ!
待っとる人がおるような者がよ
こがな山奥の石切り飯場さ こもるんかいな
瞽女さ!
十日町の春祭りさ あしたあたりかもしれんで
行ってみねえか? おら おめえに付いてってやるから
ひとつ 町さ下りてよ 一遍 うめえ物でも食ってみねえか?
もってえねえ そげなこと
瞽女さ
どうじゃ? ちょっくら 俺に負われてみねえか?
おりゃ ひとつ おめえ背負って走ってみるからよ
はい? おどけなすって 遠慮しねえで負われてみろ
やめなっせ おめえさん いいから!
いやー よいしょ! アハハハハ!
いやー ハァ… ハハハハハハ!
こんげなとこ人に見られたら 笑われますに
誰も見ちゃいねえや! 誰も見ちゃいねえわ!
やめなせえ ハハハハハ! ほいほい ほいほい ほいほいほい
ハァハァ ハァハァハァ…
ハァハァ…
あっ 行き過ぎた えっ?
元の道から右手さ入って 雑木の小道 しばらく行くと
コブシの花 いっぱい咲いてる 春の小道さ出るんであんす
瞽女さ おめは手引きもなしで よう こげなとこ覚えてなさるな
はい 8つのときに 脚 痛めて ヤス子さんさ しょわれて
春の この道 歩きますた
うっ! (テルヨ)くっ… くっ!
毎晩 毎晩 男が迎えに来て 出掛けていきよって!
うっ! うっ! くっ!
おめさ こがなことして 俺らに 分からんと思っていたんか?
あっ… (テルヨ)何で… 何で 今日まで
おらが おまんこと 見てきたと思うとるんや!?
この… ふしだら女!
おらの胸の内も分からんで…
今日という今日は落としてみせる
さあ どこさでも行って 野垂れ死にして…
うっ! この… この!
(テルヨの泣き声)
あんた… あー!
(テルヨの泣き声)
(瞽女たち)・「ほら 新潟街道で」
・「イナゴがつるんで 3石6斗の あぜ豆 倒して」
・「はぁ イナゴで幸せ」
・「人間ごとなら騒動のもとだよ」
・「へへへんてば なっちょなこんだよ」
・~
瞽女さんや 去年の不作でよ 種俵だけになってしもうてのし
こがな芋がらみてえな物しか 差し上げられねえがや
さあせん そがなところに悪うござりました
おらが めくらですけに どうぞ お許しなされてくださりませ
ヤス子! (ヤス子)はい
何していなさい 出のし
ほれ ご迷惑掛けねで ほら
いや 瞽女さん そがなこと言わねえでくだせえ
おらのおどは長患いしてるで
もう一度 おまんさんらの歌 聴いてから死にてえ言うて
春先から心待ちしてたんだで どうか おどの気持ちじゃ
こがな物で 気に済まねえかもしれねども
取っといてくだせえや
ありがとうござります
おがさま おらら めくら道 歩いてきたかいがござりました
ありがとうござります
・(三味線の演奏)
(瞽女たち)・「新保さえ」
・「広大寺は ありゃ どっから出たやれ」
・「和尚だな」
・「ああ いいとも まだ来い」
うぅっ… うっ あっ…
うっ ああ… (瞽女)頑張れ
ああっ! うっ ハァ…
あっ…
ハァ…
つわりじゃろうが (ツギ子)ああっ…
おりん はい
おまえには見えるか?
ここは薬師峠ちゅう所じゃ
山ちゅう山が みんな 若芽の 生える匂いがしとるようじゃ
青葉 若葉が 涙 流して おららの まなこ あろうてくださるようじゃ
人は 皆 親さまのおかげで この世に生まれてくるんじゃが
めくらには地獄が見えねえように
阿弥陀さまが まなこ つぶしてくださったんじゃ
ツギ子 おまんも人の子じゃ
人並みの幸せ ねごうた気持ちは 分かるがのし
何で 大事 大事のお情けが 見えんかったんじゃ?
・~
・~
・~
おりん!
おりん!
はい
・~
(人々の話し声)
(人々の話し声)
おりんちゃん 月役になったんかいな
えっ? アハハハハ… (男性)あー うんね
おりんちゃん 一丁前になったがね
今夜 お祝いに 赤まま炊いてあげよう
(人々の笑い声)
おりん この月役の下り物は 赤子が産める体になった証しじゃ
女と生まれた者なれば
誰でもが迎えねばならぬ 宿望なのじゃ
したがのう 瞽女は男と寝てはならんのじゃ
男と寝れば赤子を身ごもる
おまんが8つのとき ツギ子が
マゴジさの赤子 はらんで 逃げ出したときのこと
よーく思い出してみや
(汽笛)
(兵士たち) ・「遼陽城頭 夜は闌けて」
・「遼陽城頭 夜は闌けて」
・「有明月の影すごく…」
・「有明月の影すごく」
・「霧立ちこむる高梁の」
・「霧立ちこむる高梁の」
・「中なる塹壕 声 絶えて」
・「中なる塹壕 声 絶えて」
(瞽女たち)・「あいや いや それ」
・「枕がいらぬよ」
・「はっ 来た ほい 来た ほいと」
・「互い違いの そりゃ お手枕」
・「嵐畑のさや豆は」
・「1さや走れば 皆 走る」
・「わたしゃ あなたに付いて走る ありゃりゃ よいよいと…」
おりんちゃん おめえ 色気もついたし 一丁前なったでね
ハハハハハ!
・「竹と名が付きゃ」
・「寒竹 唐竹 紫竹の」
・「篠竹 野竹 山竹 畑の苦労の」
・「日笹なんぞの小竹まで かわいいよ」
あー まあまあ ほら 早く飲んでくれ
ありがとうごぜえます
・~
おまん 待ち伏せしとるんじゃ>
くすねようとしてるだで>
(瞽女たち) ・「ずっといて ずっとけえりゃ」
・「何のことない」
・「い続けうずから 丸裸」
・「ありゃ よいよいと」
おもしれえ瞽女だ ハハッ!
おらら あした 出発するとき にぎやかにやるべ
えっ どこさ行く? 伏見だ
伏見って どこだす? 京都の伏見だ 酒 造り行くで
へぇー! おい もう一杯やれ
ん? あー ありがとうございます 飲め 飲め
ハハハハ… あんさま
その子は まだ子どもだすけ あんまり酒 飲まさねえでくだせえ
ん? (助太郎)親方さん
難しいこと言わねえでよ ほら 飲みゃあ 飲みゃあ
飲め! (男性)フフフ!
ほんじゃ おら 磯節さ やる!
(男性たちの笑い声)
今しも あー 飛行機は 新夫婦を乗せまして
プロペラの音高く めでたき光景に新婚旅行
ねえ あなた あの向こうに 小さく見えるのは あれはどこ?
あれは日本三景の安芸の宮島
して あの向こうに 帯のように 細く見えるのは あれはどこ?
あれは馬関の海峡じゃ
して ここはどこ? ここは雲の中
雲の中なら 誰も見ちゃおらないでしょ?
誰も見ちゃおらないよ
誰も見ちゃおらないなら…
男 寄せれば 屋敷から 出ていかねばなんねえがや>
覚えているじゃろうが>
瞽女は 神様の嫁御にしてもろうたんじゃ>
男と寝れば落とされるのじゃ>
ハンドルなんて どうでもええじゃないの
・(瞽女たちの歌声)
おりんちゃん おりんちゃん ほれ こっち早く来て
もう1杯 飲めや! (助太郎)酒 飲め 酒 飲め 酒 飲め
アハハハ! (男性)もう1杯 飲め!
あっ ほら ぐーっと… ぐーっと ぐーっと ほら!
(男性たちの笑い声) アハハハハ うめえ うめえ うめえ
ぐーっと いけ さあ ほら サキちゃん もういっちょ
輪島節さ やるべ! おー! おー おー おー!
どうしようもなかったんであんす>
おら 自分で自分の体の火照りを 抑えることもできねえ>
おかんさまのことを
かえって寂しい人じゃち 思うのでございますた>
何こしらえてるじゃ? (女性)ん?
瞽女さんたちが 仏様に導かれて長旅なさるで
道さ迷わぬように ご回向するがや
ハァハァ ハァハァ ハァハァ…
ハッ… ハァハァ…
あっ… うっ…
ハァ…
うっ… おら ここの親戚の者じゃけ
今晩 泊まっから 何も心配いらねえから なっ?
何だ? おめえ 初めてか? ん? ハァハァ…
初めて… ん… そう… ん…
なっ? いい…
瞽女さん ゆっくり漬こうてくださりませ
はい ありがとうござります
前から 男に抱かれてみたいち
夢見ていましたけに
男と寝るちことを こんげに ぬくいものかと思いました>
罰当たりなことしましたす>
ゆんべは イサキヤで うれしゅうごぜえました
おまんさが おらのそばに 付きっきりで見ていなすったで
久しぶりに 気持ち良う たっぷり歌えますた
おらも おみゃあのおかげで うれしい気持ちだった
あれ! また おどけなすって… エヘヘ!
ゆんべのお客さんたちさ おらの手引きじゃ言うたで
今更 足手まといになって 困っていなさるんじゃろうが
ううん そうじゃねえ
おら おみゃあの歌 聴いてると ほれぼれして…
それに おみゃあ べっぴんだし
おみゃあさん 何で おらの体 抱きなさらんのじゃ?
イツコダイラでおうたときも
ゆんべ イサキヤでも
一緒に寝ていて…
何でや?
何ぞ訳がありなさるのかや?
おら サトミの屋敷 追い出されてから
素性も何も分からぬ男に 手引きしてもろて
10日も20日も 旅したことありますた
みんな おらの体に未練あってのことじゃ
拒んだとて めくらの女ですけに
男衆の大ちい力に組み伏せられて
言いなりになるより 仕方ござりませなんだ
おら 逆らわずに 体 任せて なんぼかでも銭もらいますた
・~
おら 冗談など 言い掛けてくる男があれば
助太郎さんと寝た夜さりの ぬくもりが忘れられなくて
どこそこのお地蔵堂さ 泊まってるけに
おとのうてくださりまんせと 拝んだこともござります
寒い冬の日 1人で寝た夜なんど
朝までに体が凍って 死んでるやもしれんちゅう思うと
おっとろしゅうごぜえました
《あんさま けえれねえでくださりませ》
《あんさま!》 《おら 年寄りだで》
《年寄りでもかまわねえす》
《どうか もう少し おらの体 ぬくめてくだせえ》
《おねげえでございます》
《おねげえでございます!》
おら さみしゅうなれば
どなたさまなりと 足止めもうして拝みもうした
《おい! 付け火じゃど!》 《どこだ?》
(人々の騒ぎ声)
・~
サトミのお母さまは
阿弥陀さまが 地獄を見えねえようにと
おららのまなこ つぶしてくださったんじゃち
教えてくださったが
地蔵堂さ 米 持ってきてくだされた ばあさまは
おららは 昔 全国 旅なされて
人の罪 とがを救うて歩かれた 坊さんみてえに
仏の変わり身になって
旅しておらるるんじゃち 言われました
おみゃあ そんな旅 なげえこと やって
子は できなかったのけ?
1人 産んだども 死なせました
どこで産んだ? 能登です
珠洲で産みましたです
まあ 寒い冬ですた
おらには子を養う力ねえし 男は逃げてしもうたで
凍えて死にさしてしもうたです
罪なことしましたです
銭さ たまったら 道具 買うんや おら げたの歯直しやって
おめえに あったけえ飯 食わしてやっから
おらのおっ母は 昔 げた屋に奉公して
歯直しや鼻緒すげが うまかったんで
おら 子どもの時分から てつどうとりゃあ
はぁ… おみゃあさんの おっかさんは
えれえ人じゃったのう
・(三味線の演奏)
・~
・「江藤新平が1人の娘」
・「雨は3年 日照りが2年」
・~
・「両方 合わせて5年の不作」
・「娘 売ろうか 田地を売ろか」
・~
おまんは あの瞽女さまの何や?
・~
おらは あの女の手引き男じゃ
・~
旅の途中で拾われたんじゃ
拾われたと? ハハッ… 拾うたとちゃうか?
(人々の笑い声)
・「35両で5年の年季」
・「売られ込んだる この身でござる」
・(男性の歌声)
・~
・~
《人さまの物に 手 出したら あかん!》
《何度 言うたら 分かるんじゃ?》
《なんぼ腹すいたかて…》
《なんぼ腹すいたかて…》 (母親の泣き声)
・(男性の歌声)
・~
・~
おみゃあさん 何で おらに 名前 知らせんとじゃ?
なあ? 名前 教えてくんな
教えて…
おらは鶴川
鶴川?
鶴の川と書くだ
川に下りた鶴だ
鶴川センゾウ
鶴は田んぼさ下りると聞いたすけ
川にも下りるんですかいの?
おまん 何する?
おらを抱いてくんなせえ! おら 寂しゅうち
おりんちゃん それだけは やめてけれ
そげなことしたら おらは おめえと あしたっから
こうして歩けねえ 何でや?
何で おらを抱くと 一緒に歩けなくなるとじゃ?
もう少し おめえと2人で旅がしたいんじゃ
おらの体 こんげに冷えとるに 何で ぬくめてくれんとじゃ?
なあ 何もせんで… せめて 力強う抱いてくんなせえ!
なあ! うぅっ… おりんちゃん…
おりんちゃん!
おめえは いい子だ
こげないい子が
めくらに生まれたばっかりに こげな暮らしをせにゃならん
俺は つくづく 世の中っちゅうもんが
地獄に見える
おらは おまえを抱くことできねえ
抱いてしもうたら
今までに おめえが抱かれてきた男のように
すぐに別れが来てしまうだ
おら 当分 おめえと2人で旅がしてえ
もう少し おらを手引き男にしてくれや
おまん そのまま じっとしてりゃあ!
夕焼けで染まって仏様のようじゃ
鶴川さん そげなとこいねえで こっち寄ってけんさまえ
おまんは仏さんじゃ
・(三味線の演奏)
・~
・「またも涙の顔 上げて」
・~
・「これのいかに兄弟を」
・「そなたら いずこへ行けばとも」
・「鳥の鳴く音が同じこと」
・~
・「人に出過ぎを申すなよ」
まるで卵の肌のように すべすべしとる
おりんちゃんよ おらの商売が うまくいったら
おみゃあも そんなに働かなくっていいんだぞ
おらのそばにいて トクサで げたさ磨いとればよい
瞽女をやめる? そうじゃ
おみゃあは もう瞽女じゃねえ あしたから
げた屋の鶴川のあんさまの妹だ
妹? 分からねえか?
おみゃあは おらの妹だ おらは あんさまだ
おみゃあ あしたから おらのことを
あんさまと呼んだらよい
おみゃあは あんさまじゃねえ
あんさまじゃねえ!
おらが… おらが この世で一番好きな人じゃ
・(小杉の歌声)
・~
・~
さあさあ さあさあ とくと ごろうじろ!
この上等の絹のシャツが
市価の3分の1で お払いできるのは…
天柱 富山の廣貫堂の 新発売による この實母散!
これを 一服 飲んだら 腰から下は ほかほかと温かくなる
血の道には一番だよ!
次にね 皆さん 一番お困りなのは胃の病だ
恐れ多くも 大聖 釈迦の代は 何と言われた?
森羅万象 これ 皆 薬なりぞ
いいですか このダイコンの種をね 真っ黒に焦がして これをすって…
おら 夢みてえだ
おみゃあさんのおかげで 普通の人間なれた
何もせんで飯さ食えて 楽な身になった
シーッ! 人に聞かれっだろう
だども おら うれしゅうて フッ…
ばかなこと言うもんじゃねえ
おみゃあは 当たりめえな顔さ してればいい
はいはい
さあさあさあ お客さん 寄ってらっしゃい 見てらっしゃい
触ってらっしゃい (小杉)・「買ったお客さまの…」
お嬢さん ちょっと さあ… さあ お嬢さん! さあ!
・「国をはなれて」
・「蝦夷地が島へ」
・「ヤンサノェー」
・「いくよねざめの」
・「波まくら」
右手が海で こっちが米山さんだ
おら めくらになって 初めて 幸せ つかんだ
夢みてえだ
夢じゃねえど
だども おら あんさまが一晩だけでも
おらを抱いて寝てけれたら 死んでもええと思ってる
抱かねえから長続きするだ
おらは おみゃあを美しい 仏様のようにしておきてえだ
おらは仏様なんかじゃねえ!
妹でもねえ!
・「米山さんから雲が出た」
・「今に夕立が来るやら」
・「ピッカラ チャッカラ」
・「ドンガラリンと音がする」
・「アー 音がする」 (地鳴り)
(地鳴り)
おりんちゃん
前から 聞こう 聞こう 思うてたんやが
おまん ほんまに鶴川さんの妹かいな?
ほんまや なして そげなこと尋ねなさるのかや?
その三味線じゃわな
おら 昔 瞽女ば しとったからだ
子どものとき あんさまと別れて 越後で 瞽女ば しとった
訳が ぎょうさんあってな
あんさまと また巡りおうて こうして旅してますんや
あー…
はい… はいはい はいはい
よいしょ ああ…
・(男性の歌声)
・~
・~
あんまり あの男に親しげな口ば利くな
なして? 別所さん 随分と おらに優しくしてくれるだ
そげなことは分からん 男っちゅう者は…
あ… あんまり近づくでねえ
近づくな言うても あの人 おらの隣に 店 出してなさる
おみゃあさんこそ もっと愛想良うした方が
よいと思いまする
おら おりんのように あんげすて 物 言うのが嫌いじゃ
ウフッ… 気の回し過ぎでやんす ウフフ!
あれ? 別所さん おらの方 見て 笑っておいでや
あーあ…
ハァ… (男性)薬屋は いいんだわさ
風邪ひいた こう薬も ぬくめりゃ すぐに新品になるんだで
ばかこけ! おめえみてえに 人絹を絹と いつおうたり
ウサギ仕入れて 肉は売り
皮はシベリア行きの兵隊向けで
もうけるようなわけには いかねえよ
なあ おらも ウサギ こうてやろうか?
あー やめとけ (小杉)ん?
戦争 終われば 値下げする
貧乏人は 何やっても 損するようにできてるんだ
はい
・(おはやし)
・~
・(太鼓の演奏)
・~
ほらほら どいた どいた どいた! ほらほら!
ほら どいた どいた どいた! ほらほらほら!
いいですか? お客さん (人々の話し声)
おい! どけ! (小杉)いてえよ! この!
おう 誰に断ってやっとるんじゃ? ちょっと 顔 貸してんか
おい (男性)ほらほら ほらほら!
ほらほら!
あんさま?
あんさま!
どこ行きなさるんじゃ? あんさま!
・(太鼓の演奏)
・~
おりんちゃん 兄さまは
鑑札のことで 地回りの事務所さ行っただ
話さえ つきゃあ すぐ戻ってくるわ なっ?
うん…
・(太鼓の演奏)
・(おはやし)
・~
そこ どいて どいて! どけて!
(人々の話し声)
おりんちゃん 早く しまわねば ぬれるで
俺ら いくら待っても やみそうもねえから
たわらやへ引き揚げるかいの
兄さんも こげな雨じゃけ 宿の方さ帰ってくるじゃろう
よいしょ…
よっ! ご両人 (別所)おうおうおう!
さっきな 札売りの山下が 聞き出してきたんや
何や? (小杉)鶴川のやつ
柏崎の警察に しょっ引かれてしもうたとよ
そりゃ また どういう訳や?
あの後な 土地の者に 薬師堂の裏さ連れていかれて
何やら訳の分からんこと 言い合ってるうちに
大げんかになってしもうて 鶴川のやつ
あのとおり ごつい体しとるからね
相手に 大けが負わしてしもうたとさ
それで 警察に しょっ引かれたんか?
そういう訳にきよまろう
みんなに口止めしといてや
おりんちゃんに いらん心配させん方がええ なっ?
ハハッ! いやー ひどい目におうたのう
ああ… ハァ…
あっ… あっ いいから いいから
ありがとうごぜえます
何ぞ あんさまの消息でも ありましたんか?
ああ そのうち帰ってくるわ
だども 小杉さん 警察ば言うとりましたが
ハハハ! 瞽女さんの耳は ほんまに さといのう
ハハッ! おまんの兄さん 札のことぐれえで
警察が そげん何時間も 引くくるはずあんめえ
そうだといいけど…
あの男は心から おまんを妹と思ってるかどうか
分かったもんじゃねえや
なして そげなことば言う?
札売りの山下が見たっちゅうから 教えるがな
あの男は この町に着いた その足で 郵便局さ行って
書留で どっかに銭っこさ送ってた
どっかに あれのおっ母か 身内の者がいるにちげえねえだい
あんさま 独りぼっちだ
おっ父も おっ母も死んだ 言うてなすったから
言うてなさった? ハハハハハ! ああっ!
おりんちゃん! おめえと鶴川は…
おまんら いつ 夫婦になっただ?
おら 鶴川さんに 抱かれたことねえです!
地回りと けんかしたぐれえで
何日も留置場から 出てこれねえわけはねえだ
何か余罪が発覚しただな
あんさまのこと そんげに悪く言わねえでくだせえ
ばかだな おみゃあは
あげな者と くっついたとて
捨てられたときには おまんかて年も取っていようし
なあ? 心 決めるなら 今のうちじゃ
年 取ってからじゃ 働く言うても もう無理だ
破れ堂で野垂れ死にすること 考えりゃ
今のうちに おらと一緒に富山さ行って
別の商売 考えた方がいいだわ なあ?
おら み堂の板の間さ寝て 暮らしてきたです
おら めくらじゃ 奇麗な着物も かんざしも いらね
別所さん おら 富山さ行けねえ
あんさま ここで待ってる
おりんちゃん おみゃあ それでもいいのか? ん?
辛抱できるのかや?
おみゃあも女なら 抱いてほしい夜去りもあるべしに
おら あんさまと きょうだいでええ
幸せです おら もう はなれ瞽女でねえです
いつ戻ってくるか 分からねえ男を…
だども おら ふしだらおなごじゃねえ
二十歳の妙音講に サトミのおかんさまに
落とされたども おら あんさまのおかげで
並の人間なれただ
そうか じゃあ 俺は もう何も言わねえ
おら 1人で糸魚川さ行くぞ
うっ… ハァ…
別所さん なげえこと ありがとう
親切にしてもろて ありがとう
あっ! うっ…
あっ ああっ! くっ…
別所さん そ… そげなことしねえで なあ?
おみゃあのこと親切な人だと 思うてきた おらの気持ち
くぼたれてしもうた なあ こ… こげなことしねえで
誰も見てやしねえ 鶴川は おみゃあ 警察だ 分かりゃしねえ
なあ? 一遍ぐれえ… こげなこと 一度ぐらい さしてくれたって
おめえ… えっ? 誰も見てやしねえや
ハッ… ハァ…
待ってけれ 別所さん
自分で 帯さ解くだから
待ってけれ…
・~
・~
あっ ハァ…
ああ ハァ… うっ…
・~
・~
おら 行くぞ
こんげんなことしたと あんさまに言うてくれるな
死んでも言うてくれるな
もし あんさまに分かったら おら 死なねばなんねえだ
あの男が おみゃあの兄さなら
おらに ほれ込んだ おまえを 叱るもんか
でも おみゃあが 言うてくれるな言うんなら
おら 言わねえ
おら 言わねえぞ!
あんさま…
おみゃあ 見てたのか? 見てたのか!?
薬屋か? 別所か?
あんさま 怒らねえで
あの人は悪くねえ おらが悪かっただ
あんさま!
あんさま 許してけれ!
あんさま 許してけれ…
あんさま 許してけれ うぅっ…
(泣き声)
《帰れ!》
《もし 作法を背く者 これ あらば
髪を切り 竹づえを預けて
そのとがの押し名により所を追い
あるいは10里 20里 外へ…》
《お… おりんぜ…》
《何ちゅう軽はずみなこと してくれたんじゃ!?》
《あんな おどさんとしたに 男と寝よって!》
《みんな… 座元さんにも知られたで
落とされるに決まっとらさ》
《今日は大事な妙音講じゃ》
《おみゃあがいちゃ おらはサトミの恥じゃ》
《さあ はよう帰れ!》
《帰れ!》
ハァハァ…
おい 乗りゃあ
おら 1人になりてえ 乗らねえ
1人で行くが?
おらと ここで おうたこと 誰にも言うんでねえぞ
言わねえ
俺は 今 別所を ぶん殴ってきた
この土地の地回りも ぶん殴った
警察 出てきたら 仕返ししよう ってやつも いっぱい いるだ
だから おみゃあに 迷惑掛かっても何だから
しばらく別々に暮らそうや
なあ
ほとぼりが冷めたら
おら おみゃあ 捜して 必ず また一緒になるから なあ?
ああ… あんさま どっちの方 行くだ?
南だ
若狭の方に行くだ
はよう戻ってきて
おら 待ってるでな
おみゃあも南に行くだど
北は すぐ冬だで
別所さんや
薬売りの別所さんに間違いねえ
ハァ…
誰だ?
おみゃあ 誰だ?
おみゃあも瞽女かや? そういう おみゃあも
おみゃあ 目は ちっとも見えねえのか?
うん だども 天気さ良ければ ぼんやり見えるだ
屋敷は どこだった? おらは長岡瞽女だ
で いつ落とされた? 3年前
おみゃあも おんなじ はなれ瞽女かや?
んだ ああ ほんなら おら
ここさ来る途中で 村の者に芸を所望されてんじゃ
ちょっくら行ってまいりますんで 荷物 頼まれてくれや
はいはい ねっ
鶴川りんさんかいね? はい
おらは長岡警察の者で 今西っていう者だ
ちょっと おみゃあに聞きてえことがあって
追っ掛けてきたんだ はい
おみゃあのあんさま 鶴川センゾウっつう名前だったな
はい
そのセンゾウさんが 柏崎の警察に入ってた日に
おみゃあ 荒磯の浜で 誰と おうてたが?
別所さんです
別所彦三郎 漢方薬売りだな そうです
おみゃあは 別所と 松林 歩いて 一服して
別所と別れてから その後 どうしたが?
たわらやさ戻りました
そこで あんさまに おうたろうが 会わねえす
そんなはずはねえだろうが
その日に あんさまは留置場を出とるぞ
たわらやさ戻ったら ご主人が
あんさま 今し方 おみゃあを捜しに出た
車さ引いて 荷物 みーんな持って出たと
おら また荒磯へ戻ったですが 会わねえでしまったです
あんさま どうして おらを捜さなかったか
あんさま どこにいるか教えてくだせえ
おらにも分からねえ
あんさま こんな日暮れ時 どこで過ごしているのか
おまん 目 見えるのと違うか?
日が暮れるときには 空気のにおいが変わります
・「あー 分からない 分からない」
・「今の浮世が分からない」
・「文明開化と言うけれど」
・「うわべばかりじゃ分からない」
・「ガスや電気は立派でも」 (男性)・「あっ そりゃ」
・「蒸気の力は便利でも」 (男性)・「あっ とっしょ」
・「メッキ細工か天ぷらか」 (男性)・「あっ そりゃ」
・「見掛け倒しの夏卵」
・「人は 不景気 不景気と」
・「泣き言ばかりを繰り返し」
(男性たち)・「年がら年中 火の車 回っているのが分からない」
・「あー 分からない 分からない」 (男性)・「あっ そりゃ」
・「義理も人情も分からない」
・「私欲に まなこがくらんだか」
・「あっ どいつもこいつも分からない」
・ 今西君!
ああ
紹介いたします 今 お話していた 今西警部補です
福井県 サワイ憲兵分隊所属 陸軍憲兵中尉 袴田虎三です
立ち話してる 右から2番目の男です
陸軍一等卒 岩淵平太郎です
この写真では ほとんど特徴がつかめませんな
だから 念のため 部隊の連中から 集めた印象を基にして…
人相書きも こしらえています
脱走は いつでしたか? (袴田)6年の4月
ほう… じゃあ もう2年近くも?
陸軍の恥さらすようですが
このところ 脱走兵や兵役拒否で 頭 痛めております
これも 米騒動やら シベリア出兵の影響でしょう
別所殺しの容疑者の鶴川が この岩淵平太郎一等兵と
酷似してるというのは どげなところでありますか?
岩淵の逃走経路は この新潟県下で 失ってしまいました
間違いなく この県下に潜入しています
そこへ 薬屋殺しの情報が入ってきました
鶴川センゾウなる者の体つきが 5尺7~8寸
軽度のどもり 色が浅黒くて 職人風ということで
飛んできたんです
あの殺しの すぐ後に 行商人仲間を洗ってみました
やつは 当日 糸魚川へ行くと言って
たわらやを出ておりますが
糸魚川の山王さんの祭りには 店を出しておりません
恐らく 捜査の手が伸びたのを知って
消息を絶ったものと考えます
すると 鶴川センゾウの容疑は ほぼ確定的ですな
あとは この人相書きを たわらやの おかみさんに見せて
確認を取ることだけですな
たわらやへの確認をはじめ
岩淵平太郎に関する捜査は全て
鶴川センゾウの殺人容疑で 押し通していただきたい
脱走兵の捜査は 絶対に 世間に知れてはいけないのです
これは 帝国陸軍の名誉に関することです
ああ…
何だ? 誰か いるでねえか
はい おらの友達だで (男性)おう? 約束が違うだで
こげな友達さ待たせて おらとの約束さ
ふいにすんじゃねえか ちくしょう (たま)いや これは…
いや ありゃ… あっ… 構やしねえ ここさ使え
おら ちょっくら外さ出るだから
すまねえな おりんちゃん
いやー のっぴきならねえ お客さんだで 許してけれや
見えねえのか? (たま)あっ 見えねえ
何も見えねえ (男性)そうけ…
あっ アハハハ… そんな… そげなこと急ぎするもんでねえ
アハハハハ! フフッ おらの友達が
親切に 宿さ貸してくれたべ ほら 心付けさ置いていけね
アハハハハ! はいはい はい ハハハハハ…
あー! ウフフフフ…
(おりん・たま) ・「米山さんから雲が出た」
空けろ空けろ ほら (おりん・たま)・「今に」
・「夕立が来るやら」
・「ピッカラ チャッカラ」
・「ドンガラリンと音がする」
・(戸をたたく音)
・ 瞽女さん 寝たかのう?
誰じゃね? 宿の人ですかのう?
(扉の開く音)
何ぞ 俺らに用でも?
瞽女さまに おねげえしてえこと あって 参りやした
どんげな用でごぜえますかのう?
ここに連れてまいりやしたのは おららの孫でござりますが
生まれっと間なしに めくらになりもうしてのう
父親が黒竜江で病死して 母親まで病気になって
この春 死んでしまいましてな
孫が みなしごになって おらが 引き取らねばなんねえだども
生い先 長くねえ おらのことだで
今日のよな ご時世では
人さまに頼んで 育ててもらうわけにもいかねえ
思案に暮れてるところへ 瞽女さまが越前屋においでで
三味線 弾いていなさると 聞きましたでな
死んだじさまが 残しておいてくれた銭だども
瞽女さま… (たま)いや…
この子を あんたみてえな瞽女に してやってくだせえ
いや こげな… こげな銭 もらうわけには
いかねえしや ばあさま (女性)どうぞ
この子を育ててやってくだせえ
いえ そげなこと言われても…
おらたちは ご覧のように はなれ瞽女でござります
親方さまが やしのうてくださるかどうか…
添い掛けぐれえは 掛けますけども…
そがなこと言わねえで どんぞお願いいたしますだ
そんなこと言われても…
ヨシ (ヨシ)はい
ええか? 手 合わせたか? (ヨシ)はい
おらと2人して おかんのとこさ行くで
南無阿弥陀仏 唱えろや
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏…
・~
・~
何だろうね? 何があったですろ?
あんたら 瞽女さんか?
はい おらら 瞽女でござります
今 そこで どざえもんさ上がっただ
子どもは めくら娘で5つか6つ
おばあは 62~63の 白髪さ たっぷりある
背丈たけえ人での
尼瞽女の浜から 舞い降りたらしいだ
なして あんたが あれだけ世話する言うたに
あの ばあさま あれから死んだべか?
何も たまさんは 長岡さ 世話しねえ言うたわけでねえ
なして死んだべか?
おらが確かに世話するって 約束しなかったからだ
弱気過ぎます あのばあさま
落とされてしまった おらができるのは
添え掛けぐらいなことだもんな
(たま・おりんの泣き声)
(たま・おりんの泣き声)
・~
・~
・(たま・おりんの歌声)
・「なるはいやなり思うなならん」
・「とかくかなわぬ 浮きやよたまえ…」
・「とかくかなわぬ 浮きやよたまえ」
・(男性の歌声)
・~
・(男性たちの歌声)
・~
・~
どなたじゃ?
・(扉の開閉音)
警察の者じゃが 聞きてえことがあって来た
おみゃあは ここの親方の? (テルヨ)んだ テルヨです
もう1人のお方は どなたでござりますか?
こちらは… うん… 福井の警察の方じゃ
さようでござりますか 福井からでござりますか
そりゃあ 難儀なことで
早速だが この屋敷におった
おりんという瞽女さんの消息を 知りてえんだ
おりん?
おりんが どうかしたですか?
いや おりんは 何もしておらんのじゃが
おりんが この屋敷を出てから 知りおうた男のことで
調べに上がらんことが 出てきてな…
もう9年になりますた
一度も ここには 戻ってこなかったんですか?
はぁ…
一度も現れねえ
おらも おりんさ おうて 話 せねばなんねえだ
今 どこさ おりますだ?
わしらも 見うしのうてしまいました
富山県までは 分かっていたんですが
連絡の手違いもあって 去年の暮れから
どこへ流れていったのか 全く見当がつかんのです
親方さん おりんの在所は どこだ?
在所と言えるかどうか…
あの子が ここへ来る前は
若狭の小浜におったはずじゃ
小浜…
・ おりん! おりん!
誰だえ?
何だい? げた屋でねえだか?
おりんちゃん おめえ こげな人… あんさま?
おりんだ やっぱり おめえ おりんだ!
あんさま! おりん ここだ!
ここだ! あっ!
ああ… あんさま!
お… おめえ やっぱり 善光寺さんさ来ただか
俺は おめえが来ると思ったで
ずーっと 店 開いて 待ってただ おりん…
会いたかった あんさま! 会いたかった あんさま…
おりんちゃん 幸せになってけれや
あんさま…
警察に追われでねえのか?
ああ…
おら 会いたかったんじゃ
おみゃあに会いたかった
阿弥陀さまが 引き合わせてくだすったじゃ
おりん!
もう あんさまでねえ!
(泣き声)
うぅっ…
うぅっ うっ うっ…
(泣き声)
ああ…
うっ! ああ…
(泣き声) ああっ うぅっ…
(兵士の号令)
前! ほらほら! (兵士)進め! 進め!
早くしろ! 走れ!
おい 止まるな!
(兵士たちの号令)
進め!
行くぞ!
(兵士たちの号令)
(サイレン)
(サイレン)
おら この町の浜の家にいたと言うだが
人の話は信用できねえや んだ
だども おらにゃ 波の音が 耳の奥の方に残っているだ
波の音なんてのは どこでも同じじゃねえのか?
んにゃあ 違う違う
おらの覚えてる波の音は 1つしかねえ
ああ… だども
30年もたてば 波の音だって変わるべや
それに ほれ サイレンも鳴るし 汽車の音も聞こえるし
波の音 聞き分けるのも 難儀なこっちゃな
ああ みんな 寝てしもうたら 聞くことができまする
(汽車の汽笛)
そうなんですよ! 手配の人相書きとも
ぴったりの男しなんですがな
はぁ あっ いえ まちげえなく瞽女さんです
つえを突いて… つえを突いて…
あっ! 今 うちの前を通っていきますだ
この海か おまんが覚えてるっていうのは
どうした?
今 そこでサーベルの音がした
サーベル? サーベルが どうしたんだ?
今のはサーベルにちげえねえ おめえさん 逃げろ!
(警察官の話し声)
あんさま! おりん!
あんさまー!
あんさま!
あー!
いいかげんに白状しちまえ 薬屋 ばらしたの おめえだろ?
早いとこ 泥吐いて 楽になったらどうだ?
あー! あー! ぴーぴー泣くな!
脱走するような度胸 持ってやがって
うぅっ!
入れ!
ああっ! あっ! あっ…
おりんの口述書だ
おりんは まだ強情を張ってる
岩淵 おまえが白状せん限り
おりんは脱走兵ほう助の疑いで どこまでも追及する
それでもいいか?
《そのとき 別所は 富山へ来ねえかと言ったそうだが
おまえは行かなかった》
《兄さまこと 岩淵平太郎が
その日 柏崎の警察に入っていたからだ》
《その身柄が心配だったし
黙って糸魚川に行くのは 悪いと思ったので行かなかった》
《それに間違いないな?》 《はい まちげえごぜえません》
《しかし その後
別所が駅へ行くというので 別れたときも
おまえは 平太郎に その海岸で おうとるはずだ》
《どうだ? うそをついたら承知せん》
《おら 会っていません おら めくらでごぜえます》
《ばか者!》
《おまえは わしに うそをついてる》
《おまえは あの男を兄だと言うが うそだ》
《あの男は兄ではないぞ おりん》
《あの男は非国民の脱走兵だ》
《非国民? 何のことでごぜえましょう?》
《国民の義務を怠った 重罪人のことだ!》
《はぁ… そげなこと言われても おら めくらでごぜえます》
《何も分かんねえです》
《人さまの顔も手も脚も 見たことねえし
松林 松林 言われても
どこが松林で どこが浜なのか おらには境目が分かりません》
《世の中 どんげな境目があるのか
ただ 手のひらで触ったり におうたりしながら
阿弥陀さまに導かれて 歩いているだけでごぜえます》
《そげな難しいこと 分かんねえであんす》
《くそっ… へ理屈こねやがって このあま》
《だども 見ねえもんは 見たと 言うわけにいきませんので》
《おまえと あの男が 松林に いたのを見た者がいるんだ》
《白状せえ!》
《おら あんさま 見ませなんだ》
《おらが見たもんは あんさまの心でごぜえます》
《ほんとの あんさまのような 心優しい…》
《温けえ あんさまの心でごぜえました…》
(泣き声)
おらがやった
あいつは おりんを なぶり者にしたから…
おらが あいつをやった
おら…
おらは 大聖寺町の金物工業の社長
テラダイチベエの長男 サクイチの 代役で歩哨した
おら 金のために徴兵されただ
国民皆兵というのは うそだで!
金のあるやつは徴兵を逃れられた
しかし おららのような貧乏人は
銭のために 体を売るしかなかっただ
戦争は貧乏人を犠牲にしている! 黙らせろ
おら 命を懸けても シベリア出兵には反対するぞ!
ああっ…
もう言うことはないか?
おまえは殺人者で脱走兵だ
それ以上 言い訳するのは 見苦しいだけだ
んだ…
俺は刑に服するのに不満はねえよ
だけど それまでに
一度でよいから おりんに会わせてくれ
こいつ つけ上がりやがって!
待て
うぅっ…
最後の面会だ 許してやれ
うぅっ…
あっ…
おりん… おらだ
おら おみゃあに 謝らねばなんねえことがあるだ
うそついてきた
ほれ… おら この世に身内は誰もいねえ
独りぼっちだと言ったども
実は うそだ
おらには おっ母がいる
大聖寺の町に おらの生まれたうちがあって
そこで おっ母一人 げた屋してるだ
それを おめえに言えなかった
許してけれ
許してけれ…
何 言うだ
あんさまに親さまがいなすって 不思議でねえ
おらにもいなさるだ
おらにも…
・「米山さんから」
・「雲から出た」
・「今に夕立が来るやら」
おかんさま!
おかんさまー!
おかんさま!
誰じゃ?
おかんさま!
そげえ たたいたら 壊れるで
あっ… お… おみゃあ
おりんさんじゃねえかの? おかんさまは?
サトミのかや? はい
サトミのおかんさまは
先月の末 亡くなられたじゃ
亡くなられたて?
そがなことねえ!
おかんさまは ここにいるんじゃ!
おかんさま!
開けてくだせえ!
おかんさま…
どこにいなさるんじゃ?
おりんでごぜえます
おかんさま?
どこにいなさるんじゃ?
おりんでごぜえます…
(猫の鳴き声)
(猫の鳴き声)
福井の遠敷郡 小浜村
字 仏谷ちゅう所さ
まだ おるやもしれんちゅう 言うとった>
(泣き声)
・「幾夜 通うても逢われぬ時は」
・「御門扉に」
・「ソリヤ文を書く」
・「御門扉に」
・「ソリヤ文を書く」
・「御門扉に 文 書く時は」
・「すずり水やら」
・「ソリヤ涙やら」
・「すずり水やら」
・「ソリヤ涙やら」
・~
・~
おい! 飯にしようや (男性たち)おう
おら 前から 不思議でなんねえんだけどもさ
おら あの岬の出ばなさよ
あけえ物が見えるんだけども ありゃ何だべかなと思うてさ
どれ? どこさ?
ほら あの岬のはなの右っ側さ
(カラスの鳴き声)
(カラスの鳴き声)
(カラスの鳴き声)
・~
・~
・~
・~
・~
・~
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