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(ルナ) 私 ウソついた 涼子の友達になりたい。
(涼子) とっくに友達のつもりだけど。
⟨大阪での旅を通して絆を深め 真のバディとなったルナと涼子⟩
⟨だが そんな2人に 新たな事件の影が…⟩
(涼子) もう友達ではないかな。
⟨涼子は かつての親友と…⟩
(ルナ) 自分の存在を否定されて どこにも居場所がなかった。
⟨そしてルナは 確執を抱えた 父親と相対することに⟩
⟨「月夜行路」第2幕 東京編 開演です⟩
(ルナ) う~ん…。 (バブリー) まだ悩んでるの?
(バブリー) 私はステキだと思うけど。
(ルナ) もう少し落ち着いたトーンが いいんだよね~。
(ドアが開く音)
(涼子) こんにちは! (ルナ) 涼子 いらっしゃい。
(涼子) え~ 何?
(ルナ) お店のリフォームの図面 今 壁の色で意見割れてる。
(涼子) あ~ 全体のバランスもあるもんね。
はい お待たせ! マーキームーン特製 賄い飯。
(涼子) あっ 田村さん! (田村) あっ どうも。
(涼子) そっか! 4月から東京だったね もう慣れた?
(田村) まぁ 何とか。
警察に派遣研修あるとか 知らなかったよね。
がっつり食べて パワーつけてね! (田村) いただきます。
よっしゃ!
(涼子) うちも今夜はシチュー 4時間 煮込んだ。
うわ~ 負けた こっちは3時間18分。
📱(振動音)
(涼子) 篤史 どうした?
(篤史) トイレの電球 切れた。
📱 キッチンの棚に (涼子) ストックあるでしょ。
(篤史) ない。
(涼子) じゃあ 買ってきといてよ。
📱 何ワットか分かんない。 (涼子) ん~。
あっ お父さん帰ってきた。
(菊雄) ん?
📱(通話が切れた音)
(涼子) ハァ~ もうトイレの電球くらいで 電話してこないで。
(田村) 何か ほほ笑ましいっすね 平和でいいな。
(涼子) まぁね。
⟨大阪の旅を経て→
当たり前の毎日を いとおしく思うようになった⟩
⟨ママのおかげだ⟩
ありがとう ママ。
いや~ 分かんないなぁ…。
(芳香) ただいま~。 (菊雄) おかえり!
芳香 トイレの電球 何ワットか分かる?
電球に書いてあるの 見ればいいじゃん。
フゥ~。
バイトで疲れてんだから くだらないこと聞かないで。
なるほどね。
お腹すいた~。
(匂いを嗅ぐ音) ハァ~。
(メグル) いらっしゃいませ!
(涼子) えっ!? 小湊さん! (小湊) お久しぶり。
(ルナ) いつ東京に? (涼子) 出張ですか?
いや 大阪引き払って こっち出てきちゃいました。
(涼子) えっ! (ルナ) えっ!
「人材派遣会社」。
知り合いと2人で 立ち上げましてね。
ええ。
(涼子) 刑事 辞めたんだ 思い切りましたね。
人 疑って生きんのが 嫌んなっちゃってね。
人生やり直すなら 今しかねえかなって。
(田村) 転職するとは聞いてたけど 起業は想定外でしたね。
(涼子) 「COO」って何だっけ?
(ルナ) チーフ オペレーティング オフィサー 最高執行責任者。
何か よく分かんないけど すご~い!
いやいや… まだ2人しかいないけど→
一応 海外展開も 視野に入れてるんで。
(涼子) カッコいい! (ルナ) ステキです。
(バブリー) シチュー 召し上がります?
あっ いや あのね これからミーティングなんです。
今日は挨拶に寄っただけなんで またゆっくり。
じゃ。 📱(通知音)
(ルナ) 夜桜クルージング…。
やだ デートのお誘い?
北大路さん? ジェームズ? あっ リュウ君?
最近ママと いい感じの人たち。
みんなイケメンで いい男でね。
私のオススメは リュウ君なんだけどね。
(田村) へぇ~。 (涼子) ママの方はどうなの?
(ルナ) う~ん 皆さん ステキだからな~。
全員 あり寄りのあり。
(涼子) えっ! つまり ありってこと?
あ いやいや… あり寄りとありは違うでしょ。
(涼子) ん? (田村) ん? あり? あり? あり寄り…。
(メグル) いらっしゃいませ。 (正義) よっ!
(ルナ) まーくん!
(涼子) え? あり寄りの人?
(ルナ) あっ 稲垣正義さん 母方のいとこ。
(正義) はじめまして。
(ルナ) お友達の沢辻涼子さんと田村氏 小湊さん→
マーキームーンの仲間たちです。
どうも ルナさんとは親しくさせて いただいてます 小湊です!
どうも。 (小湊) どうも はい。
では 仕事があるので 皆さま ごきげんよう!
あぁ…!
どうも。
(ルナ) お店に来るなんて珍しい。
届け物があってさ→
おばさんから お前に 渡してほしいって頼まれた。
(涼子) おばさんって? (ルナ) 私の母。
これ パスワードが分かんなく なったから解いてくれって。
ついでに中身も 確認してほしいってさ。
(ルナ) どういうこと? そんなの私に頼まなくったって…。
(涼子) この表紙って 「吾輩は猫である」だよね?
(ルナ) これ あの人のパソコンでしょ?
(涼子) あの人?
おじさんは処分してほしいって 言ったらしいんだけどさ。
俺に言われてもさ。
おばさん 言ってたよ どうしても お前に開いてほしい→
お前じゃなきゃダメなんだ っつって。
(田村) いとことは連絡取ってんだなぁ。
(涼子) あのパソコンって ママの…。
(田村) 多分 親父さんのだと思います。
(涼子) ママの家って 何か複雑な感じなの?
(田村) あ~…。
(涼子) あっ ごめん いい。
本人いないとこで 踏み込む話じゃないよね。
⟨…とは言ったものの→
ママのあんな顔を見たら やっぱり気になる⟩
え?
(飲む音) (菊雄) あぁ~。
重原先生は 元々 大きな病院の跡継ぎでね。
でも 小説家になりたくて 医大を勝手に中退して→
お父さんの怒りを買って 家を飛び出した。
実家には それっきり 戻ってないんじゃないかな。
(涼子) 10年以上 会ってないってこと?
じゃあ ママが戸籍を変えてることは?
お母さんには打ち明けてるけど お父さんには言ってないはず。
ただでさえ確執があるからね。
お母さんにも口止めしてるって。
(涼子) そっか…。
重原先生 元気にしてる?
担当替えで連絡取る機会も なくなっちゃったから。
(涼子) うん 元気だよ。
ならいいけど。
いろいろ抱えてる人だからなぁ。
特にお父さんの件は→
彼女にとっては 人生の宿題っていうかさ。
(涼子) 宿題…。
♪~
(英介) 〔正解だ〕
♪~
(篤史) あっ スマホ! あったあった いってきます!
(涼子) はい いってらっしゃい!
(菊雄) いってきます。 (涼子) うん いってらっしゃい。
(ドアが閉まる音)
(涼子) あれ? 芳香 まだ着替えてないの?
今日は2限から もう少し寝る。
あっ 夜 バイトだから。 (涼子) うん。
(ドアが閉まる音) 📱(受信音)
(ルナの声) 「今晩 お暇ですか?」。
♪~
(涼子) あっ! (ルナ) お待たせ~。
(涼子) お誘い ありがとう 夜桜見物なんて久しぶり。
(ルナ) あっ。
(涼子) えっ 田村さんも? (田村) どうも。
(ルナ) 休みだっていうから ついでに誘った。
暇そうだったし。 (田村) いや 暇じゃねえから。
研修 始まったばっかで まだ現場には出てないってだけ…。
(ルナ) はいはい さぁ 行きましょ。 (涼子) アハ…。
(田村) ってか何で下北沢?
(ルナ) 寄りたい所があるの。
パソコンのパスワード 解析してみようと思って。
(涼子) えっ?
(ルナ) 母の頼みだし 彼女には いろいろと恩もあるから。
(涼子) そっか。
(ルナ) パソコンの持ち主の 性格から察するに→
恐らくパスワードは 「吾輩は猫である」に関係してる。
(ルナの声) あの背景画像は 初版本のものだから→
まずは初版の復刻版を 手に入れようと思って→
下北の古書店に 取り置きしてもらったの。
(涼子) へぇ~ 分かるといいね パスワード。
(ルナ) 古書店のご主人にも 協力してもらえるかも。
倉田さんっていうんだけど→
昔 謎解きサークルで ご一緒したことがあってね。
(田村) 謎解きサークル?
〔タイムア~ップ!〕
〔正解は…〕
〔またしても野宮さんです!〕 〔拍手〕
(倉田) 〔お見事! 文学の知識で謎を解決とは〕
〔いや~ 素晴らしい!〕 (ルナ) 〔恐れ入ります〕
(涼子) へぇ~ 共通の趣味があるっていいね。
(ルナ) お会いするのは6年ぶり。
(電話のボタンを押す音)
(ドアが開く音)
(物音)
(田村) お~ すげぇな。
(涼子) 太陽の下の桜と違って 夜桜は迫力あるね。
ちょっとゾッとするっていうか。
(田村) 桜の木の下には 死体が埋まってますからね。
(涼子) えっ!? (田村) そういう小説あったなと思って。
(涼子) ハァ… 刑事さんが言うと 妙にリアルで怖いんだけど。
(田村) あれ? 坂口安吾だっけ?
(ルナ) そう思ってる人が多いんだけど→
実は梶井基次郎先生。
(田村) あ~ 「檸檬」の人か。
(ルナ) そう 「桜の樹の下には」。
美し過ぎるものに抱く 畏怖の感情を→
大胆に表現した短編小説。
(涼子) へぇ~。
(ルナ) 坂口安吾先生が書いたのは 「桜の森の満開の下」。
(涼子) どっちも木の下なんだ。
それは どういうお話なの? (ルナ) よくぞ聞いてくれました。
これも同じように 桜を恐ろしいと 思っている山賊のお話。
山賊が妻にした美しい女は→
人間の生首を並べて遊ぶ 趣味があった。
山賊は彼女に命じられるまま 人々の首を狩り続けたが→
やがて その残酷な所業を 続けることに嫌気が差し→
女をおぶって 昔 住んでいた山に戻る。
それは ちょうど桜が満開の時期。
山賊は恐ろしさを感じつつ 桜の木の下を通る。
振り返ると 美しい妻は醜い鬼になっていて→
山賊の首を絞めてくる。
慌てて山賊が 鬼の首を絞め返すと→
鬼は いつの間にか 女の姿に戻り 息絶えていた。
散り続ける桜の下で 山賊が女に触れようとすると→
女は桜の花びらとなって→
かき消えてしまうのだった。
(涼子) 最後は桜の花びらになって 消えるなんて→
怖いけどキレイだね。
(ルナ) そう 怖いけど美しい。
桜そのものみたいなお話。
坂口先生はオールマイティーな作家で 純文学はもちろん→
「織田信長」みたいな 歴史小説も評価が高い。
フランス文学の翻訳も 手がけているし→
「堕落論」のような評論も有名。
控えめに言って天才。
(田村) へぇ~ 勉強になるわ。 (涼子) ねっ!
私も最近 ママのおかげで 文学に目覚めかけちゃってる。
まぁ 難しいことは 分かんないんだけど。
(ルナ) あっ あそこだ 桜書房。
ごめんください。
ハッ 倉田さん!
(涼子) あっ! (田村) えっ!?
(ルナ) 倉田さん! 聞こえますか?
田村氏。 (田村) ああ。
(ルナ:田村) せ~の。 (ルナ) 腕を。
(操作音) 📱 (呼び出し音)
📱 119番 消防です 火事ですか? 救急ですか?
(ルナ) 救急です! 高齢の男性が 頭から血を流して倒れています。
意識がありません。
(田村) 事故ではないな 警察には こっちから連絡する。
(救急隊員たち) イチ ニ サン。
(救急隊員) 搬送 急ぐよ。
(救急隊員) どなたか同乗お願いできますか? (田村) 俺が行きます。
これから代沢署の刑事が来るから 2人は発見した時の状況を話して。
(ルナ) 分かった。
(カメラのシャッター音)
(矢野) 指紋採取に ご協力いただけますか?
お二人の指紋を 除外しないといけないので。
あと かばんも 拝見させていただきます。
(涼子) 私たち 疑われてる?
(ルナ) 第1発見者を疑うのは仕方がない。
大阪の時は 田村氏が 身元を保証してくれたから…。
あっ そうか。
代わります! (救急隊員) 倉田文彦さん 77歳。
頭から血を流して 倒れているところを発見。
こちらでお待ちください。
(矢野) 失礼します。
田村刑事にお話は伺いました。
大阪で いくつかの事件に ご協力いただいたそうで。
(涼子) そうなんです。
文学が どうのこうのってのは よく分かりませんでしたが。
(涼子) 文学で事件を解決した話ですか?
そのようなことを 言っていましたけど→
捜査は お遊びとは違うんで。
もう帰っていただいて結構です。
この後 店内の検証があるんで。
(ルナ) 野田書房の芥川龍之介 「地獄變」。
江川版の川端康成 「伊豆の踊子」。
竹村書房 坂口安吾の「黒谷村」。
はい? (ルナ) 盗まれた本です。
何で分かるんです?
(ルナ) 高額な本は 鍵付きのショーケースに 入れる店舗もありますが→
この店では万引きしにくい→
本棚の一番上に そろえていたようですね。
本は著者ごとに並んでいますが→
あ行 か行 さ行に それぞれ不自然な隙間があります。
(涼子) あっ ホントだ。
(ルナ) 先ほど挙げた「地獄變」 「伊豆の踊子」 「黒谷村」は→
マニアの中では 特に高額な古書 として知られています。
恐らく数百万にはなるかと。
宮下君。 (宮下) はい。
近隣の古書店や ネットのフリーマーケットに→
出品がないか確認してくれ。
現金は盗まれていますか?
(宮下) 現金 全て抜かれてます。
強盗で間違いないな。
(ルナ) う~ん それはどうでしょう? (涼子) えっ 違うの?
(ルナ) その3冊を盗んでいったとしたら 恐らく古書マニアです。
ですがマニアは こんなふうに→
本をまき散らさない気がします。
(ルナ) 10円? どうしてトレーに1枚だけ?
(涼子) 誰かが お釣りを忘れてったとか?
フッ 小銭なんて いちいち強盗が取らないでしょう。
あ~! 触らないでくださいよ! まだ鑑識が調べてるので。
♪~
(ざわめき)
(鈴本) すいません すいません あの 倉田さんに何かあったんですか?
(矢野の声) スマート運輸の鈴本さん。
倉田さんとは お知り合いですか?
はい 配達の時に世間話 するぐらいですけど。
いつも飲み物を 差し入れてくれたり→
良くしてもらってます。
倉田さん 無事なんですか?
一命は取り留めましたが 今 緊急手術中です。
さっき 配達したばっかだったんです。
今日は さくらさんが来てくれた って喜んでたのに。
あっ お孫さんです。
(鈴本の声) 僕が配達に来た時 ちょうど帰ってくとこで。
〔こんにちは スマート運輸です〕 (倉田) 〔ご苦労さん〕
(鈴本) 〔すいません〕 (矢野の声) お孫さんの特徴は?
年齢 身長 どんなことでも。
二十歳ぐらいですかね。
小柄で華奢で 薄いピンク色の ワンピースを着てました。
あっ そうそう。
すいません。
この赤ちゃんが さくらさんです。
よく娘さん一家の話 してくれたんですよ。
倉田さんが桜が好きだから→
お孫さんの名前も 「さくら」にしたって。
(涼子) へぇ~ かわいい。
今 うちの娘と同じぐらいかな。
触らないで!
(涼子) すみません…。
(矢野) 孫のさくらさんを見たのは 何時ごろですか?
30分ぐらい前です。
(鈴本の声) 本を持って帰るとこで 擦れ違いました。
ただ 不思議なことがあったんです。
ハンコをもらってから→
僕 自転車で次の配達先に 向かったんですけど→
ちょうど さくらさんを 追いかける形になったんですね。
で 彼女は角を曲がったんです。
僕も その後 すぐに角を曲がったら→
彼女の姿が どこにも見当たらなくて。
忽然と消えちゃってたんです。
(ルナ) 消えた? (鈴本) はい。
それに風もないのに 曲がって すぐのとこだけ→
桜がフワフワ舞ってて→
桜と一緒に消えたみたいな。
何か キツネにつままれた気分に なっちゃって。
(涼子) 桜と共にかき消える… 坂口安吾の世界みたい。
孫のさくらさんも ご両親も→
18年前に交通事故で 亡くなっているそうです。
いえ そんなはずないです!
だって倉田さん 僕にハッキリ 孫のさくらさんだって言いました。
それに 娘さん一家が 亡くなってるなんて 一言も…。
(涼子) 幽霊…。
そんなわけないでしょう。
あなたの目撃証言から 考えられる可能性は2つです。
1つは 誰かが さくらさんのふりをした。
ただ この場合 倉田さんが 信じるはずないので成立しない。
もう1つは→
目撃証言そのものが虚偽だった。 (涼子) えっ?
じゃ 彼がウソをついてる ってことですか?
いやいや…! そんなウソつく意味あります?
(矢野) 捜査を混乱させるため とも考えられます。
自分が犯した強盗の罪を→
実在しない架空の人物に なすり付けようとしている。
はい?
(ルナ) さくらさんが消えたなどという 目撃談を話せば→
余計に疑われるし→
そもそも ここに戻ってこないでしょう。
そうです そうですよ! (涼子) 確かに。
だとしたら その女は 一体 誰なんです?
お話し中 すみません こんなものが本棚の下から。
(矢野) 指紋は? (宮下) 採りました。
(矢野) 野宮さんが電話で 注文したと言っていた本ですね。
(ルナ) 私が注文したのは 「吾輩は猫である」だけです。
(矢野) ん?
鑑識に回そう。 (宮下) はい。
♪~
📱(カメラのシャッター音)
📱(振動音)
(田村) 何だ? これ。
(ルナの声) 「田村氏 調べてほしいことがある」。
触らないでくださいよ!
ん?
なるほど そういうことか。
被害者の倉田さんは 認知機能が低下してたようですね。
(涼子) え?
真新しい浄水器があるのに→
ウオーターサーバーを 契約している。
私の祖父も 認知症だったんですが→
同じものを いくつも買う癖がありました。
恐らく 複数の業者に つけ込まれたんでしょう。
(ルナ) 店内のリフォームにも 別々の業者が関わっていますね。
えっ!?
(ルナ) 壁とドアの色が合っていない。
必要のない場所に いくつも照明が設置されている。
倉田さんは複数の会社から 言われるまま契約をしていた。
(涼子) 判断力が落ちてしまった お年寄りに→
悪徳業者が いろんなものを 売りつけるってやつ?
待ってください。
僕 しょっちゅう倉田さんと 立ち話 してましたけど→
そんな様子 全然なかったっすよ。
スマホのアプリや 最新のタブレットまで→
使いこなしてましたし。
一見 しっかりして見える人も 多いんですよ。
認知機能が低下してたなら 全て説明がつく。
注文してない本を 準備してたのも→
さくらさんが亡くなったのを 忘れて→
他人を孫だと思い込んだのも それが理由でしょう。
じゃあ 誰だったんだろう? あの女の子。
(涼子) お客さんをお孫さんだと 思い込んじゃったのかな。
特殊詐欺。
(涼子) 特殊詐欺って オレオレ詐欺のことですよね?
最近この辺りで 多発してるんですよ。
そもそも→
若い女性が数百万もする本を 買いに来るのは不自然です。
ヤツらは判断力が衰えた高齢者に 身内を装って接触してきます。
ただし 実際に 金銭を受け取りに来るのは→
別の人間であることが多い。
そうです。
顔を見れば本人じゃないと バレてしまいますからね。
しかし今回は 事前にかけた電話の様子から→
倉田さんの認知機能が 低下してると分かり→
孫本人として行った方が 効果的だと踏んだ。
(ルナ) 特殊詐欺だとしたら 女性が消えた謎も解けますね。
えっ? どういうことですか?
(ルナ) 特殊詐欺はグループで行います。
受け子の他にも 電話をかける かけ子→
見張り役 そして場合によっては→
受け子の送迎役もいると 聞きます。
そうか。
角を曲がった所に 送迎車が待機してたのか。
(ルナ) 彼女が乗り込んですぐ 送迎車は猛スピードで走り去った。
(涼子) だとしたら 倉田さんにケガを負わせたのは?
受け子の女性と 彼がお店を出た後に→
誰かに殴られたってことだよね?
同じ日の ほぼ同じ時間帯に→
オレオレ詐欺と襲撃事件が→
立て続けに 起こることなんてある?
📱(振動音)
(ルナ) もしもし 田村氏。
(田村) 営業の担当者たちと連絡取れた。
(ルナ) ありがとう。
新しい事実が分かりました 倉田さんの認知機能の件です。
田村刑事が調べてくれました。
はい?
(ルナ) ウオーターサーバーの 担当者によると→
飛び込み営業に入ったところ 既に浄水器はあったそうですが→
倉田さんは気前よく 契約してくれたとのことでした。
この地域担当の営業マンの間では 桜書房は断らずに買ってくれる→
…ということで 知られているそうです。
(ルナの声) 遺産を残す家族はいないからと→
売り上げノルマで 困っている人から買うことを→
人助けだと言っていたと。
リフォーム業者も同様でした。
(涼子) 認知機能が 衰えてたわけじゃなくて→
優しい人だったってこと?
やっぱ そうっすよね! 倉田さん ホントにいい人なんすよ。
(涼子) だとすると倉田さんは→
孫がトラブルに巻き込まれたって 電話を受けた時点で→
当然 詐欺だと 分かってたはずだよね?
☏(女) 〔もしもし おじいちゃん 私〕
(涼子の声) なのに どうして すぐに通報しなかったんだろう?
しかも倉田さん その女性に 本を渡してるんでしょ?
変じゃない?
(ルナ) 事件をひもとくヒントは あの3冊に隠されているはずです。
(ルナ) 袋にも本にも 血がついているということは→
倉田さんは襲撃されてから→
新たに この3冊を袋に入れた ということになります。
しかも この全集には→
折り目がつけられている。
(涼子) 「小さな山羊の記録」。
(ルナ) 恐らく この3つの作品を使って→
倉田さんは 私に何かを伝えようとした。
(涼子) だから 「アンゴウ」?
いやいや 暗号なんて→
普通の人間が とっさに思い付きますか?
しかも大ケガを負わされてるのに。
(ルナ) 倉田さんは 謎解きサークルにも 所属しているミステリーマニアです。
そんなまどろっこしいこと しないで→
メモ 残せばいいじゃないですか。
(ルナ) メモだと犯人に見つかって 隠蔽されてしまいます。
なるほど!
仮に その説が正しいとして→
一体 誰が倉田さんを 襲ったっていうんです?
(ルナ) 犯人は 特殊詐欺グループの見張り役。
(涼子) さくらさんのふりをしてた 女性の仲間ってこと?
(ルナ) そう。
もし私が この事件をもとに 小説を書くとしたら→
こういう展開にします。
店の外で 倉田さんを見張っていて→
受け子と鈴本さんが店を出た後→
詐欺に気付いていた倉田さんが→
通報しようとしていたところを 襲撃した。
あっ! そういえば 僕が帰る時→
倉田さん どっかに 電話をかけようとしてました。
(ルナの声) 見張り役に 襲撃された倉田さんは→
反動で本棚にぶつかり床に倒れた。
見張り役はレジから現金を強奪。
倉田さんは朦朧としながらも→
犯人に気付かれないよう→
目の前に散らばった本で 手掛かりを残そうとした。
(涼子) 犯人につながる暗号か…。
なるほどね 簡単じゃないですか。
犯人の名前ですよ。
3冊の本の作者は 全て坂口安吾。
つまり 坂口という人間に やられたんです。
(涼子:鈴本) あ~。
(ルナ) 残念ながら その推理は 外れていると思います。
はぁ?
(ルナ) もし犯人に この3冊が 見つかってしまった場合→
自分の名前を伝える暗号だと すぐにバレてしまいます。
それに 「小さな山羊の記録」に→
折り目をつけたことの 説明もつきません。
(涼子:鈴本) 確かに。
じゃあ 何だっていうんです?
(ルナ) それを今から解読するところです。
タイトルにヒントがあるとか?
(涼子) 「夜」 「姫」 「耳」 「男」→
「山羊」。
(鈴本) 犯人は…。
山羊。
んなわけねえだろ。
(涼子) 耳に特徴がある? 耳が大きいとか。
フッ そんな単純な ハハハ…。
♪~
何してるんです? (ルナ:涼子) シッ!
♪~
(ルナ) 《耳…》
(涼子) 〔耳が大きいとか〕
(ルナ) 《手渡した本…》
(矢野) 〔若い女性が数百万もする 本を買いに来るのは→
不自然です〕
(ルナ) 《暗号…》
〔文学の知識で謎を解決とは〕
(ルナ) 《アプリ…》
(鈴本) 〔最新のタブレットまで 使いこなしてましたし〕
(ルナ) 《桜と共に消えた車…》
(鈴本) 〔娘さん一家が 亡くなってるなんて 一言も…〕
(ルナ) つながりました。
(田村) 分かった。
(田村) あった。
(田村) ビンゴだ。
(ルナ) 田村刑事です。
はい 代沢署の矢野です。
えっ?
分かりました すぐ向かいます。
野宮さん ご協力に感謝します。
行くぞ。 はい。
(涼子) えっ 何? どういうこと?
(ルナ) 涼子の言った通り ヒントは耳。
ただし この暗号は犯人ではなく→
倉田さん自身のことだった。
坂口安吾先生には 耳が聞こえにくい時期があって→
そのことを 「小さな山羊の記録」で書いてる。
倉田さんは 先生の本を使って→
自分の耳が悪いことを 私に伝えようとした。
倉田さんが使っていたのは→
スマートフォンと 連携できる補聴器で→
紛失しても捜せるようになってる。
警察に通報する前に 受け子が来てしまったので。
〔よく来たね〕
(ルナ) 倉田さんは 受け子に本を手渡して→
その袋の中に補聴器を仕込んだ。
追跡すれば特殊詐欺犯の拠点を あぶり出せるから。
受け子が帰った後 今度こそ通報して→
補聴器を 追跡してもらうつもりが→
予想外の襲撃に遭った。
誰かに補聴器を仕込んだことを 伝えなければと思い→
私への暗号として 3冊の本を紙袋に入れた。
(田村) 警察だ!
(騒ぎ声)
\離せ!/
♪~
(涼子) 受け子の女の子は→
どうして詐欺に 手を染めたんだろう?
うちにも同じ年頃の子がいるし 人ごとじゃないよ。
(ルナ) 坂口安吾先生は 「堕落論」で こう言ってる。
「人は生き 人は堕ちる」。
(涼子) できることなら食い止めたい。
家族や大事な人が堕ちるのは嫌だ。
(ルナ) 涼子らしい。
(涼子) 「桜の森の満開の下」の山賊夫婦も 堕落した人たちだよね?
でも山賊は 人をあやめるのをやめて→
山に戻ろうとした。
それって 首を欲しがる妻のことも→
堕落から救おうとしたのかなって。
(ルナ) 堕落から救う…。
♪~
(ルナ) ハッ 分かった 10円玉の謎。
(ルナ) よかった 意識が戻られてホッとしました。
野宮さん。
あなたの推理力に かけてみてよかった。
さすがです。
(ルナ) 退院したら また謎解きサークル ご一緒しましょうね。
いいですな ぜひ! ハハハ…。
あの お店に来た女の子は 見つかったんですか?
はい 特殊詐欺の拠点に 免許の写しがあって→
すぐに見つかりました。
ただ 罪に問えるかは 微妙なところでして。
そうですか。
(ルナ) 10円のおかげですね。
ほほう それも見抜いてましたか。
(ルナ) ヒントをくれたのは彼女です。
沢辻涼子さん いつも助けてくれる友達です。
(倉田) なるほど。
沢辻さんは ワトソンなんですね。
(涼子) いや そんな。
あの受け子の女性 確保した時に→
10円の領収書を 差し出してきましたよ。
(倉田の声) あの子は まだ幼くて→
こんなアルバイトに 手を出すなんて→
よほどの事情があるんだろうと 気の毒になってね。
彼女が現金を受け取ると 詐欺罪が成立してしまう。
それで 「地獄變」と「黒谷村」を渡そうと→
思い立ちました。
(倉田) 〔現金は用意して もらえなかったからと言って→
仲間には この本を渡しなさい〕
〔これも 売れば 100万以上にはなるから→
納得してもらえるはずだ〕
〔あなたには これ〕
〔これも売れば いい値段になる〕
(倉田) 〔小銭を持ってるかい? いくらでもいいんだ〕
♪~
〔いいかい?〕
〔この3冊の本は あなたが買ったんだ〕
あの子 年はいくつです?
二十歳です。
やっぱり さくらと一緒だ。
似たような年頃の 若い人を見ると→
娘や婿や孫と重ねてしまってね。
さくらの母親は→
オーケストラで バイオリンを弾いてて→
まだ小さいさくらを婿に任せて→
各地を飛び回ってました。
私は それを見て→
子供を置いてくぐらいなら 音楽などやめろと→
娘の人生を否定してしまった。
それ以来 絶縁状態になりました。
(倉田) その気になれば いつでも 会えるだろうと思ってました。
あの子たちが亡くなってから 18年。
やらなかった後悔っていうのは ずっと残るもんですね。
そんなこともあって 罪滅ぼしをしたくなるんですよ。
若い人たちを助けたくなる。
(倉田) 〔万が一 警察に 捕まるようなことがあったら→
堂々と その領収書を見せなさい〕
〔だから 二度と こんなことをしてはいけない〕
〔分かるね〕
お気持ちは分かりますが 残念ながら世の中→
改心しない あくどい人間が ほとんどです。
あの受け子の女性も 今頃は本を売った金を手にして→
高笑いしてるかもしれません。
♪~
(涼子) わぁ~ ここからも桜が見えるんですね!
私が桜の木を好きな理由 分かるかい?
(涼子) う~ん キレイだからですか?
冬を乗り越えないと 咲かないからだ。
(ルナ) 休眠打破。 (倉田) そう。
植物が休眠状態から目覚めて 成長することだ。
厳しい寒さを乗り越えないと 桜は成長しない。
だから人間も そうなんじゃないかってね。
つらい状況にある人だからこそ いつか花開くんじゃないかって。
つい そう思ってしまってね。
でも 結局→
私の自己満足 だったのかもしれないね。
(ルナ) それは ご本人に直接 聞いてみてはいかがですか?
♪~
君は…。
♪~
よく来たね。
♪~
(涼子) パスワードの当たりは付いた?
(ルナ) まずは初版の発行日で 試してみようと思う。
♪~
(モニタ)(エラー音)
(涼子) あっ ダメか…。
えっ あと4回?
(涼子) ママ?
(ルナ) やっぱり このパソコンは母に返す。
(涼子) えっ? 何で?
(ルナ) 時間も取られるし ここにあると落ち着かない。
今月は ずっと忙しいし。
(涼子) でも 開いてほしいって 頼まれたんじゃないの?
(ルナ) 引き受けるとは言ってない 一方的に押し付けられただけ。
(涼子) 何か意味があって→
お母さんは それをママに 託したんじゃないのかな。
私 カズトの留守電を スルーして後悔した。
20年以上も。
倉田さんも言ってたよね。
やらなかった後悔は一生残るって。
(パソコンを置く音)
(立ち去る音)
(涼子) ハァ…。
(涼子) 何してるの?
(ルナ) 倉田さんに紹介してもらった 漱石先生の研究者に→
アポ取ってみる。
(涼子) うわぁ やる気になった?
(ルナ) 解けない謎を そのままにしておくのが→
気持ち悪いってだけ。
(涼子) じゃあ その謎が解けるまで 付き合う。
ママを1人にしたら また 気が変わるかもしれないから。
(ルナ) 何で そこまで?
(涼子) う~ん… 暇だから? フフっ。
(涼子) 私も1回…。
⟨このパソコンを 開くことができたら→
ママの人生の宿題が 解けるかもしれない⟩
⟨おせっかいでもいい 力になりたい⟩
⟨大阪で ママが私の心を 救ってくれたように⟩
ただいま~。
何考えてんだ!/
(芳香) \大きい声 出さないでよ!/
(菊雄) 許されるわけないだろう!
(涼子) どうしたの?
芳香が 大学やめたいって。
(涼子) えっ!?
とにかく そういうことなんで!
(菊雄) おい 芳香!
♪~
(ルナ) 大丈夫ですか?
♪~
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