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♬~
<失ってしまうには あまりにも惜しい➡
歴史が積み重ねた その味と 味わい。
これは 平日にくたびれたサラリーマンが➡
そんな絶メシに出会う 週末 1泊2日の物語。
それでは 案内を開始します>
須田さん。 ん?
プレゼンの資料 確認してもらっていいですか?
うん。
これ…。 先方が求めてたのは➡
このコストに関する詳細だから➡
もうちょっと わかりやすいほうがいいかなぁ。
えっ? うん。 あっ はい。
ん? それって 具体的に言うと?
あっ…。 例えば ここなんか➡
前回から 大幅に変わってるところだから➡
比較対象を もっと入れるとか。
ああ マジっすか。 えっ 何?
あっ いや それ 直してたら…。
っていうか もう定時なんで。 えっ?
飲み会あるんですよね 今日。
金曜だし 俺。
いや みんな 金曜だから。 マジっすか~。
はい。 断りづれえなぁ。
うん… いや でも ほら…。 う~ん…。
飲み会だしな…。 あ~ うん…。
ああ ああ…。 いいよ。
俺のほうで いったん 修正案考えてみるよ。
あっ マジっすか? 助かります。
よろしくね。
お疲れさまです。
お疲れさまでした。
失礼します。 お疲れさまです。
(ため息)
送信。
できましたよっと。
ふう…。
「名古屋 遠征 行ってきます。
帰りは 明日の夕方くらいかな」。
目的地まで 132km。
1時間52分くらいかかります。
《週末 私は ちょっとした旅に出る。
1人だけの時間を満喫できる➡
私の小さな大冒険。
ルールは3つ。
その1 期間は 金曜の帰宅後から➡
翌日 妻たちが家に帰る 土曜日の夕方まで。
その2 誰も誘わない。
誰も巻き込まない》
目的地に着きました。 案内を終了します。
運転おつかれさまでした。
《その3。
高速代 ガソリン代 食費➡
いろいろ含め 小遣いの範囲内に収める。
そのために 必要不可欠なのは…》
シャキーン シャキーン。
《車中泊》
《もともと ファミリーカーとして 購入した このミニバン。
フラット構造がついているのに 気づいたのは➡
この小さな冒険を するようになってからだ》
《結構 流行ってるらしい》
シュッ! よし オッケー。
いいなぁ。
快適。
はぁ…。
はぁ…。
《あれ? 日の出 見えないんだ ここ。
待って。 富士山は?
隠れてる》
まあ いっか。
うん。
♬~
♬~
♬~
晴れて 富士山が見えますように。
どうぞ。
♬~
《吉田うどんか》
《ここ 評価高い》
目的地に着きました 案内を終了します。
運転おつかれさまでした。
えっ?
あれ?
《ここでは… ないよね?》
すみません。 今 お店 探してまして。
うどん屋さんなんですけど。
ここなんですけど…。
《あっ ここも うどん屋さん。
でも ここは ちょっと違うかなぁ》
あっ はい わかりました。 ありがとうございます。
ありがとうございました。
あら お客さん? ああ…。
1名様ですね。 どうぞ どうぞ。
あっ いや あの…。 大丈夫ですよ。
席 空いてるので。 いや あの すみません…。
《これは…。
不可避だな》
どうぞ。 そこで 靴 脱いでもらって。
あっ はい。
《懐かしい感じだ》
お客さん? あ… はい。
物好きだね~。
吉田うどんだったら もっとあるでしょ。
有名なところ。
《ホントは そっちに 行きたかったんだけどな…》
席 こっち空いてるよ。
あ… はい。
《だいぶ ディープな席だ》
こっち こっち。 ほら。 あ… はい。
注文はね それに書くの。 あっ… はい。
《1杯400円? 安い。
じゃあ ここは 天ぷらうどん》
書いてあげるよ。
ここはね 肉うどんの一択だから。 あっ…。
ん? 大盛にするかい? あ… いや 普通で大丈夫です。
あ… いや 普通で 大丈夫です。
大丈夫? はい。
礼ちゃん 肉うどんね。 はいはい 今。
《待って。 そもそも この人は店員さんなのか?
それとも 客?》
はい お水。
《やはり 店員さん?
いや さすがに客…。
いや ここまで自由だと➡
逆に 店主のパターンもあるな》
東京の人? あ… はい。
水野さん 知ってる? 水野さん?
品川の方のさ。 相続のときに 俺が間 入ってやったんだ。
やっちゃん。
有名な人なんですか? ああ 全然 全然。
有名なわけないでしょう やっちゃんが。
《なら 知ってるわけない》
礼ちゃん。 はい。 ごちそうさん。
はい。 ありがとう。 またね。
もう来なくていいよ。 またまた~。
《自由な客だったか~》
おいしいから。 ありがとうね。
うい。
《ただ 常連さんが いなくなったらいなくなったで➡
何か… 静けさが際立つ》
あの人形? あ… はい?
あれ お母さん。 ほら 店の前にいる。
あっ そうなんですね。
ここ 長そうですね。 いえ 全然。
たいしたことないわよ。
平成5年からだから もう 25年くらい?
気づいたら こんな感じで。
じゃあ お母さんの後を継がれて?
後継ぐとか そんな たいした話じゃなくて➡
もう 流れ? 流れ。 流れ?
15年前くらいかな。
お母さんが お店やってるときに 肺炎にかかっちゃって➡
入院することになって。
うどん打ってたのも 味付けも 全部 お母さんがやってたから➡
お店 お休みにしてたの。
当時は 今ほど うどんのお店も多くなくて➡
お母さんの味が好きで➡
通ってくれるお客さんも たくさんいて。
♬~
(礼子)入院している お母さんのところまで行って➡
味見してもらったりもして。
それで なんとかオッケーもらって➡
お店 任せてもらえるようになったの。
手取り足取り 教えてもらわなくても➡
追い込まれたら なんとかなるものね。
あら ごめんなさい。 そろそろ 茹で上がるから。
《意外と そういうもんだよなぁ》
はい。 肉うどん お待たせしました。
《おお。
これが そのうどん。
いかにも 味が染みこんでそうな馬肉に➡
かるく茹でた キャベツ。
基本的な吉田うどんの感じか》
いただきます。
《あっ。 シンプルにうまい》
《つゆは 醤油ベースかと思いきや➡
出汁のきいた 味噌ベースなんだ》
《肉の甘みと合うなぁ。
うどん自体も やわらかいんだけど➡
太いぶん ちゃんと 奥のほうにコシもあって➡
歯ごたえもいい》
《すりだねだ》
あの… おかみさん。
この味 ずっと守り続けてくださいね。
いや… それはムリ ムリ。
そんなつもりもないし。 えっ?
誰も継いじゃくれないでしょ。
こんな大変な思いしてる割には 稼ぎは少ないし。
私の代で終わりじゃないの?
うどん屋さん増えて お客さん減ってるし。
私だって いつまで続けられるか。
《このうどん➡
ずっと 食べられるわけじゃないんだ》
《おかみさんが辞めてしまったら 絶えてしまう。
うどんに こんなにも はかなさを感じたのは初めてだ。
このまま 絶やしてしまうのが惜しい。
それゆえに… うまい》
ごちそうさまでした!
また 来ますね。
次 来るときは なくなってたりして。
そんなこと言わないでくださいよ。
冗談よ 冗談。
それじゃあ ありがとうございました。
お気をつけて。
ごちそうさまでした。
《レシピもない。 後継ぎもいない。
たかちゃんうどん。
もう二度と 食べられないかもしれない。
絶滅してしまうかもしれない 絶品メシ。
これは 絶メシだ》
(受信音)
スタンプかよ。 フッ…。
自宅までのルートを 検索いたします。
やっぱ 富士山 見えないか。
まあ いっか。
<今週も お疲れさまでした>
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