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♬~
♬~
≪(西郷良介)お母さん?
どごだ? お母さん!
(西郷麻子)こごだ。
なんだや。 なんで返事せねの? してらよ。
もう11時だ。 その格好で行く気か?
(麻子)お父さん。 なんだ?
向こう行って すぐ 愛想よくばっかりしねえでよ。
愛想よくして 何が悪い?
今や 娘が 嫁に行ぐがもしれねえ日だ。
でも 今日のテーマは そうでないでしょう。
今日のテーマ? ドア閉めて。
ドア? 閉めて。
なんだや それ?
自分が閉まって どうするの?
ちゃ… ちゃんと言わねえがらだ。
ハァ…。
向こうだってね→
うちとの話を このまま進めていいかどうか→
心配してらど思うの。 してるもんか。
大学卒業して 市役所に勤めてる娘が→
漁師の嫁になると言ってんだ。 土下座して喜んでら。
少なくとも こっちは→
このまま結婚していいのかどうか 心配でしょう。
そりゃあ 心配だけど…。
本人が決めたって言い出したら どうにもならねえべや。
そりゃあ 潰すわけにはいかないけど→
こっちには 私らと おばあちゃん→
向こうには おじいちゃん おばあちゃんに→
両親に弟もいて…。
弟はともかく 両方の大人たちが なんの考えも口にしねえで→
本人の自由にするしかない っていうのも→
かわいそうでしょう。 かわいそうって…。
まだ子供でしょう。 24と26だ。
なんもわがらねえで 大人のつもりなんだよ。
(西郷千晶)どう? これなら。
(西郷奈美) だいぶ おとなしぐなった。
(千晶)しっかり者に見えた方が いいんじゃないかなぁ…。
(浜口修一)お母ちゃん! お母ちゃん どご? どごだ?
(浜口正代)台所だ。 大忙しだ。
どごさいると思ってらんだ。
(修一)シャツ シャツ シャツ。
(正代)シャツが何や? (修一)これにする。
すればいいべや。 (修一)アイロンがかかってねえ。
(正代)んだから クリーニング出せ って言ってらべや。
今からじゃ 間に合わねえ。
(正代)んだば 他のにしろ。
(浜口吉也)どうだ? この色。 ん?
うわぁ~ きれい!
お父ちゃん きれい 見て見て!
(浜口克己)俺が5時に起きで 獲ってきたんだ。
それでも見てよ。 ほら いい色よ。
ああ~ 旬の鱒だ。 真鱒。
今日は 俺が主役だべ。
気に入ったシャツ一枚 着られねえのかよ。
ばあちゃんさ 頼んでみろ。 やってくれるよ。
くれないよ。 この縁談は反対だって→
手伝わねえって。
とっくに 1人でいい格好して 座ってらよ。
(浜口光彦) じゃあ もう一回行ぐよ。
(浜口いく)うん。 (光彦)今度は笑おうか。
自分の葬式に笑えるか。
いいおばあちゃんだったって 言われるよ。
真顔がええ。 (光彦)厳粛なのは→
もう4枚も撮ったんだから。 (いく)今時 4枚がなんだ。
ハァ…。
はい じゃあ いぐよ。
はい。 (シャッター音)
(いく)みんなは 何をしてら?
支度だよ 向こうが来るから。
全員がいい格好して揃うなんて めったにないがら。
家族一同の写真撮ろうって 言ってらのに。
忙しいんだよ みんな。
おめえは何してる?
俺は だから おばあちゃんを 一人にしとけないから→
相手をしてろって お母ちゃんが。
(いく)このうちは お母ちゃんが何でもやるがら→
男どもは たるむんだ。
お母ちゃん このシャツ どうしよう?
ジャージでいい。 ジャージで出ればいい。
何 怒ってらの? 朝からずっと。
うるせえ!
うるせえ…。
♬~
ん? ほら 聞いてない。
聞いてなかったでしょう。
この坂は厄介なんだ。
何? 止まっちゃうの? (千晶)止まらなくていい。
そうでないよ。 何?
まだ ちょっと行ぐの早えがなと 思って。
16分前。 5分もあれば着くけど…。
早過ぎるって事はないでしょう。 (奈美)ちょうどいいべや。
そんだな。 ちょうどいいよな…。
(麻子)どうしたの?
(光彦)よし…。 じゃあ みんな いっちばん いい顔して。
いくよ!
(シャッター音)
(吉也)ありゃ ありゃりゃ…。
あの酒 おい 正代! って 私が言うとね…。
(正代)フフフ… 飲んじまったよ おじいちゃん。
しかし こっちに隠した四合瓶 まだ半分はあったはず。
頂きました。
これだよ…。
パターッと うちから 酒が1滴もなぐなった。
酒やめなきゃ死ぬって 言われたんだから→
おじいちゃんは。
しかし 今日は こちらさ ビールぐれえは…。
車でーす。
いいのか? なんも出さんで。 いいでーす。
私一人で言ってんでねえよ。
後ろにドーンと おばあちゃんが控えでらし。
これは おっかない。
おっかねえって。
おばあちゃん 怖すぎ。
いえいえ 一家にはね→
そういう人がいなきゃいけない きっと 多分…。
私はな…。
(正代)どうした? おばあちゃん。
(修一)何? おばあちゃん。
何か?
(いく)いえ 私はな→
この娘さんと 長男の修一が 結ばれる事を 心から喜んどる。
そうは見えねえな。
おばあちゃん 何か言いたい事があるんでしょう。
おばあちゃんの言う事は 大抵 正しいから→
言ってみて どんどん。
はい 言ってください なんでも。
銀行に勤める お父さん。 信用金庫だ。
(正代)同じだ。 立派な支店長さんだよ。
いやぁ 立派なんて事は 全くありませんが。
立派でいいんだ 立派で。
大学を出て市役所に勤めでら 娘さんが…。
(正代)一人娘さんだよ。
漁師の嫁さ なってもいいと 言ってくれだ… と。
はい。 けんど…。
一点 条件があるんだべ。
はい そのように 本人が言ってます。
はい。 (いく)ちゃーんと言ってみで。
(吉也)そんな話は 徐々に 徐々に…。
(いく)ごまかせばいいのが? (吉也)言ってねえべさ そんな事。
(いく)たった一つの条件なら 冗談言う前に→
取り上げるべきだべ。
組合か? ここは。
私は 結婚前の腰掛けで→
市役所に勤めてるんじゃ ないです。
(正代)政経学部だもんね。 (千晶)はい。
まだまだ市役所も 女の役割は少なくて。
(修一)力をためて 行ぐ行ぐは 市会議員から 県会 国会まで→
行げたら行ぎたいって 言ってらんだ。
話聞いてれば 男より よっぽど 色々考えてらんだ。
はっきり言って 俺はビックリしてら。
ちょっと尊敬してるところもある。
そんな…。 そんなじゃねえ。
だがら 俺は この条件は 当然だと思ってる。
きれいだし 当たりが柔らかいから→
それだけの娘だと思ってる者も 多いけど→
これは ただ者でねえ。
大物になるがもしれねえと 思ってる。
(吉也)それが惚れだって事さ。
(いく)だったら うちさ来る事はねえ。
おばあちゃん。
漁師の嫁は 亭主を海へ送り出し→
うちを守って 船が帰ってくるころには→
赤ん坊をおぶって 浜迎えに出て→
今日は よがった。
今日は獲れながったねえと 2人で一喜一憂するのが→
漁師ってもんだ。
(正代)おばあちゃん それは違うよ。
何が違う?
おばあちゃんは そうしてきた。 私も そうしてきた。
だけど この人の条件聞いて→
あっ そういう事 言う女が 出てきたか。
面白え。 やってもらおうでねえかって。
このうちから みんなで支えて 県会でも 国会でも行くような嫁→
つくり上げようでねえがと 思ったよ。
本当に? (正代)うん。
驚いたな…。 いや 言い出した方が 驚いちゃいけない…。
ありがとうございます。
(正代)ううん。 おばあちゃんの気持ちもわかる。
おじいちゃんの気持ちもわかるよ。
若え者は 夢みてえな事 考えるもんだ。
んだけど 所帯持ったら そうはいがねえ事がわかってくる。
だから 片方の耳で フンフン… って聞いておいて→
一緒にしちゃえばいいんだって。 そうだろ? おじいちゃん。
身も蓋もねえ事を…。
私は とってもいいと思ったよ。
面白え嫁が来るぞって わくわくした。
もう 絶対応援して 本物にしてやるぞって→
心がら思ったの。
嬉しい。 とっても嬉しいです。
(光彦)じゃあ あとは 食べながらって事に。
克己。 何?
なんで黙ってら?
女房が勝手に盛り上がっとるのに なんで一言も言わん?
いい…。 いいわけあるか!
長男の修一の縁談だ。
本来なら おめえが仕切る立場だろが。
(正代)この人 そういう事 苦手だすけえ。
それだけでない。
何か言い分があるはずだ。
えっ 言い分って 何?
(いく)あるなら言ってしまえ。
(正代) ああ だったら 言った方がいい。
(麻子) はい。 なんでも言ってください。
ねえ。
ん? なんでも言ってもらった方が→
いいでしょ?
うん…。
何? 何か?
多分… いや きっと…→
浜口さんも 言いそびれてたんじゃないかな。
(麻子)何を?
浜崎中学の同級生なんです。
(正代)えっ そうなの!?
私は 親父が電力にいて 2年の時に ここに来たから→
同級だったのは 1年半ぐらいですけど…。
娘から お宅の話聞いても→
この辺りは 浜口さん多いから…。
(正代)多い 本当に。
あの浜口さんか… とわかるまでに 時間がかかって→
今さら言い出すのも なんか 隠してだったみたいで…。
うっかりしてだったって 言えばいい事でしょう。
お父ちゃん そうなの?
そういう事は あるよ。
まあ そりゃあ 40年近く経ってらあな。
うん。
お父ちゃんも ゆっくり 思い出した?
フフフ… そういう事だ。
バカらし。
何を人見知りしてらと思ったら…。
(いく)バカらし。 (吉也)子供だ まだまだ。
あいすいません。
(光彦)じゃあ そろそろ 食べ始めねば… ね。
(正代)食う事ばっか言うな。 (光彦)誰かが言わねば→
せっかくの刺し身がパサパサだ。
(吉也)あっ 本当だ。
(正代)じゃあ 皆さん お箸 取ってください。
朝5時に海に出て うちの亭主が取ってきた鱒です。
そりゃもう 川 上ってくる鮭とは 比べもんになんねえ。
3月の海の鱒です。
(正代)おばあちゃん ごめんね。
この結婚は うんといいものになるよ。
みんなで いいもんにしようね。
さあ どうぞ どうぞ どうぞ。
じゃあ いただきます。 いただきまーす。
(吉也)いく。
どうぞ どうぞ 上がってけで。
いただきます。 いただきます。
いただきます。 どうぞ。
(麻子)〈2011年 平成23年 3月6日の日曜日でした〉
〈静かな 穏やかな海でした〉
〈そして 5日あとの 3月11日の金曜日→
午後2時46分 あの地震〉
〈そして 続く あの大津波がやって来ました〉
(地鳴り)
♬~
♬~
(ラジオ)「停電の状況です」
「東北の広い地域 ほぼ全域で 停電が発生しております」
「停電の影響で 幹線道路の信号が 止まっている状況です」
「車も 大変混雑しております」
「車の運転には 十分 気をつけてください」
「復旧の見通しが立っていません」
「また 地震の影響で…」
ハァ… ハァ… ハァ…。
入れ。
(光彦)はい…。
すいません…。
さみいな。
はい…。 あっ すいません。
どごの人? 浜です ずっと下の。
やられたが?
はい 全部持ってかれて…。
なんも… なんもないです。
人間は? 兄ちゃんが…。
(男性)やられたが?
はい。
他の家族もわがらねえで…。
ああ 俺だぢも 随分 捜した…。
捜したよ…。
光彦さんだよね…?
こんばんは。
暗いのに よぐ来れたねえ。
さあ 入って。
(麻子)すいません…。
(麻子)ごめんね…。
♬~
入って。 はい。
座って。
この部屋以外は 逃げてきた人は 誰でも入ってもらったの。
おばあちゃん さっきまで 色々してくれてた。
(奈美)坊やね。
起ごした?
眠れねえのよ。
行くとこ ねぐなって…。
もっと早ぐ来てくれると思ってた。
おうち 流されたようだね。
全部。 全部?
港は 何もかもやられたって 聞くばっかりで→
停電でテレビは点がないし→
さっきまで ラジオは聞いでだったけど…。
ここらの事は 少しばっかりで…。
お兄さんがやられたって さっき ちょっと聞いたけど…。
はい… はい…。
あの… その… 会ったっていうか…。
会ったって?
怪我だけ?
いえ いえ…。
もう死んでて…。
缶詰工場の倉庫に 運んでくれた仲間がいて…。
千晶は知ってるがなあ?
こんな事があるなんて…。
お嫁に行くばっかりだったのに…。
千晶さんは?
市役所。 泊まり込みだって 言づてがあった。
お義父さん?
信用金庫は上の町だったから 大丈夫で→
あとはもう救援だって言って…。
お宅には 真っ先に行くって言ってね。
まだ 帰ってこね。 何時?
1時17分。
携帯は通じんっていうし…。
聞くの怖いけど→
あなた どうして1人で こんな時間 ここに来たの?
(奈美)おうちの人は どこに?
どごにも… どごにもいねえで…。
どごにもって…。
わがらねえべさ 今日の今日じゃあ…。
明日も そりゃあ捜すけど…。
まだ どこで何があったかも わがらね。
きっと どこかにいるはずさ きっと…。
(地鳴り) 余震だ。
(麻子)まただ。
あ… あ…。
≫(物が割れる音) ≫(女性)もう やだー!
(笛)
どごさ行くの? 市役所。
市役所は もう満杯だっけよ。
曲がり松崎から来た。
(消防団員)車 通れだ? (運転手)ああ 歩って来だ。
車は恩田からだ。
おお… 良ちゃん。 大丈夫だった?
ありがとう。 千晶ちゃん この奥だ。
ああ ありがとう。
(赤ん坊の泣き声)
どごか 話せないか?
遅ぐなってしまった。
もうじき3時…。
来られねくてな。 いいのに…。
横にもなれねえのが?
床 毛布ないと寒いんだよ。
毛布ないのか? 職員のも配ってしまった。
これ…。
1個だが 握り飯も持ってきた。
これだけでいい。
腹減ってらべ。
私だけ食べてるの 格好悪い。
ああ…。
朝でも よかったんだけどな…。
うん。
やっぱり 知らせたくてな。
うん。
聞いてらが? 何が?
修一君がな…。 うん。
すぐに発見されて 北斗罐詰の倉庫に運ばれて→
そこで 安置されとるという事だ。
うん。
他の人の安否はわがらね。
うん。
修一君は消防団員だったから→
身一つで 素早く逃げ出すというわけには→
いがねかったのかもしれない。
わがった。
いいが。 修一君は→
命を落としてしまった という事だぞ。
わがってらよ。
あっ おにぎりももらっとく。 トイレで食べる。
(缶を蹴る音)
♬~
(係員)「牛乳パックが まだ半分しか届いていませんが→
時間が来ましたので 届いている分だけ お渡しします」
「人数分は 十分に届く予定ですので→
家族単位で 家族の人数分→
お間違えのないように お受け取りください」
「不足分の牛乳パックも 間もなく届きます」
「安心して お並びください」
「人数分は 十分に届く予定です」
≫(加島)おい 光彦。
こんちは。
やろうと思ってたんだ 単三だ。
えっ 電池? ほれ。
いいんですか? いいって お互い様よ。
(光彦)どうもです。
あの人 急に やたらいい人になって…。
津波のあと?
家と 母親と ばあちゃんが やられて…。
同じじゃない。
うちは兄貴もだけど。
本当に いつ 誰に 何が起こるか わからないねえ。
(光彦)車 入れねえから 手間かかった。
毎回 ありがとう。 いえ 今日は うち中で来たけど。
(麻子)おじいちゃんに 会えなくてもいいんです。
わがまま言って…。
ご遺体は お二人とも一緒に?
女房と ばあちゃんと→
仲悪いの 手をつないで 泥の中から…。
泥の中まで言う事ねえだろ。
ううん…。
空からね 天女のように きれいきれいに舞い降りてきた→
とでも言えばいいってか! ああっ!
そんな…。
すいません。
ごめんな。 ごめん ごめん。
(奈美)お疲れね。 (麻子)本当…。
いえ…。
せめてっていうか お線香とか…。
そういうの始めると 色々と来るから。
うちだけの事だけにして へたり込んでるし。
≪竜太! 竜太!
何? ばあちゃん。
7人じゃねえ 8人だ。
パンと牛乳は嫌いだって ずーっと言ってだったべ。
他になぎゃ食うよ。
食うなら言うな。 嫌いだって言うな!
竜太! 竜太!
竜太!
じいちゃん…。
おお~。
こんにちは。 こんにちは。
あんたには 会わねばなんねと 思ってだったが…。
いえ…。
気の毒でな…。
そちらこそ 3人も…。
(吉也)おい 行くぞ。
どこさ?
(光彦)えっ これ どうすんの? みんな持ってる…。
あの体育館の辺りは 下手すると海が見える。
はい。
海は ええが その手前は見だぐねえ。
はい。
うちの辺りは 頭ん中だけ 元のまんまで置いでるんだわ。
はい。
…で 何?
あんた… どうしてる?
はい…。 いや 本来なら→
修一君を亡くしたショックで 動けないところですが。
市役所なもんで…。
大忙しで。
寝に帰るのが やっとで…。
津波から16日も経ってるのに→
まだ孤立してる地区もあるし→
行方が わがらねえ人も いくらでもいるし…。
休めと言われても 休まないでいたようで…。
する事があるほうが助かるんです。
ああ。 そうやって 早くあいつの事は忘れてくれや。
忘れません。
じいちゃん…。 何が悪い?
簡単には いかないでしょうけど…。
忘れません。
(吉也)まあ そりゃ 急がなくてもええが…。
おたくたちに頼みがある。
はい。 なんでしょう?
なんでも。
避難所に入った日 旦那とは一度会った。
はい。
あとは俺 奥さんとも お母さんとも→
千晶さんにも会わねがった。
わかります。 お疲れだし。
こいつか孫が…。 (光彦)うん?
くださるものは ありがたくもらった。
日用品ばかりです。
すまねえが この付き合いは 今日までにしてもらいてえ。
何言うの? それは また…。
お互い あの日 1回会っただけだ。
それは そうですけど…。
ただの知り合いじゃありません。 はい。
親戚になる寸前だったんです。
しかし ならながった。
当人が死んでしまった。
そうなりゃ あんたらに残るのは義理だけだ。
一度会った俺たちに 情が湧くわけがねえ。
もう… 義理で いろいろしてくれるのは→
やめにしてもらいてえんだ。
それは違います。 浜口さん それは違う。
(吉也)はい そうですか。
はい そうですかと言うしかない。
こっちには何もない。
ありがとう ありがとうと 言うしかない。
体育館よ ありがとう。 三度の飯よ ありがとう。
パンツもタオルもありがとう。
ダンボールもありがとう。
何しろ こっちは なんにもない。
ありがとうと言うしかない。
網もロープも船もサッパも→
旗も法被も背広も仏壇も→
畳も玄関も車も風呂場も…。
女房に嫁に孫までいねえ。
それ 俺のせいか? 息子のせいか?
せいではありません。
津波のせいだ。 文句も言えねえ。
こっちも同じです。
そちらは3人も一時に亡くされた。
家も跡形もない。
俺んとこ どうです?
俺んところは 母も女房も娘も私も 怪我ひとつしねえ。
家も高台で 会社までは波も来ねえで→
娘は無事で なんも ひどい目に遭ってません。
修一さんが亡ぐなったのよ。
そうだけど…。
こいつは ありがたい事に生きてます。
何を言い出すの? 不公平だべ。
だから 何か役に立ちたいんだ。
気持ちの始末がつかねえんだ。
やってらよ あの夜だって。 いや…。
あの家に何人泊めたか わからねえし→
そのままいる人もいるって…。
ううん 終わったの。 皆さん 避難所にもう…。
おばあさんも大変だったし→
市役所も もっと大変かもしれねえ。
でもでも それは誰だって やらずには いられねえ事です。
そのぐらいでは 奥さんも嫁さんも→
ご長男も亡くされた 浜口さんに比べて→
なんだか 自分の無事が 後ろめたいんです。
今日で終わりにしたいなんて 言わないでください。
お役に立ちたいんです。
それは私も。 私もです。
私もですよ。
親父は… 人の世話になるのが嫌なんだ。
いや それはわかるけど…。
礼とか言わなくていいんです。
やれと言ってくれればいいんです。 威張っててくれればいいんです。
(吉也)せっかくだがらな。
はい。 (麻子)はい!
(吉也)今夜ひと晩 泊めてもらおうか。
そんな事 言う事はねえ。
いや いいですよ!
大歓迎です! (麻子)はい 喜んで!
よそに泊まるの嫌だべ じいちゃん。
体育館も よそでねえの。 そんだ!
ハハハハ! (光彦)どこも よそばっかだな。
(良介と麻子の笑い声)
♬~
じいちゃん 浜見えた? 見えたべ?
見ても 見えん! ケーッ!
♬~
すいません 夕方になってしまって。
♬~
西郷さん。 はい。
勝手言うようだが…。
ああ… どうぞ 勝手言ってください。
何? 今さら。 なんでも言ってください。
俺は… あんたらに囲まれて 夕飯を食いだくねえ。
はい わかりました。
足ば 伸ばしてえ。 勝手にしてえ。
ハハッ わかりました。
どうぞ。 うん。
(千晶・奈美・麻子) いらっしゃいませ。
≪(吉也)ううぅー!
≪あぁぁーっ!
≪(吉也)ううぅー! ≪ああーっ!
≪ああーーっ!
なんだろう? どうしよう…。
いいんだ。 ほっといてくれって言ってらんだ。
ナメロウが当たったかね?
あぁーっ!!
おめえも唸らんか!
俺は そういうのは…。
何が 俺はだ!
母ちゃん 死んだんだぞ。
あの母ちゃんが もう二度といねえんだぞ!
ばあちゃんも死んだ!
んだんだ ばあちゃんも死んだ。 修一も死んだ。
ボロボロって死んだ。
わかってらよ!
大声で わめいた事があるか?
あ? 泣いて騒いだ事があるか?
ねえよ!
いっつも人がいて 涙も見せられねえ…。
思いっきり泣け。 いや 泣かなくてもいい。
大声で わめけ!
あーーっ! 正代!
(吉也)あーっ! (光彦)わあぁーっ!
正代ーーっ!
≪(光彦)母ちゃーん!
ああ… 悲しんでる…。
母ちゃーん! わあぁーっ!
ああーっ!
ちくしょう…!
克己!
うわあぁーっ! (光彦)母ちゃん!!
ああーーっ!!
何するんですか!?
(吉也)何するんだと?
なんですか これ!
あっ ちょっと! 克己 言ってやれ!
津波に比べりゃ これぐれえ なんだ!
そりゃ そうだけど!
無事がつれえと言った。 津波に遭わんがつれえと言った。
こっちの身にもなれって言った!
それは違う! 何かを させてほしいと言ったんです。
じゃなきゃ 気持ちがすまないって…。
気持ちがなんだ。 そっちの気持ちがなんだ!
そんだ! ああ ちょっと!
浜のもんはな… 浜のもんは気が荒えんだ!
あーっ! 母ちゃん!
ちょっと待って!
ちょっと! なあ ちょっと!
ここまでだ! 待って…!
わあーっ! あーっ!
わあーっ!
待って!
いいか! これぐらいで驚くな! いい顔をするな!
今 車出します! 今…!
バカか おめえは! だ… 大丈夫!?
バカか おめえは! ちょっと待って!
二度と 俺だぢに 近づくんでねえ!
ねえ 待って! (吉也)修一!
ばあちゃん! 正代ーっ!
(吉也)修一! (光彦)ばあちゃん!
正代ーっ!
(吉也)修一! 母ちゃーん!
♬~
(蝉の鳴き声)
あっ…。 こんにちは。
あっ… はい。
1人?
あっ いえ あの… 父親はいます。 じいちゃんは歯医者だけど。
あっ ちょ… ちょっと待って。
(光彦)父ちゃん! 父ちゃん 起きろ!
おい 西郷さんちの千晶さんだ。
おお… どうも。
(光彦)あっ… どうぞ どうぞ。
天井が低くて→
つい一日中 冷房をつけてるんです。
つけないでください。
いやあ つけねば いらんねえ。 (光彦)ああ いられん いられん。
あ 座布団も いらねえかもしれねえけど。
あっ いりません。
あれ以来だね。
はい。 二度と近づくなって言われて…。
そうだね。
怖がったし すいません。
こちらこそ それっきりで…。
仮説が こちらなのは すぐ知ったんですけど…。
来れねえよなあ。
父も母も祖母も→
どうしたもんかと言いながら あのままになってしまって…。
ああ 当然だ。
勤務も自衛隊のほうだったんで。
おお 自衛隊との連絡? 使い走りです。
ああ…。 はい どうぞ。
水かよ。 なんもねえもん。
水がいいです。
私 あれ… どういう事かって ずっと考えていました。
あれって?
皆さんが ドシーン ガチャーン ドドーンって…。
ああ… いずれ弁償しなきゃなって…。
いえ そんな事 誰も考えていません。
(光彦)発散したかったんや。 よく眠れねがったし。
それだけで 大の大人が そっだな事しねえ。
(光彦)普通でなかったから…。
じっちゃんは はっきり言ってだった。
あんたらは いい人たちで→
ずーっと 俺たちの心配してくれそうで…。
俺たちは そう簡単に 立ち直れそうもねえがら→
つい甘えて→
ずーっと お礼ば言ってしまうかもしれねえ。
そんなのは嫌だって…。
あの時で 打ち切りだって言っても→
あんたのお父さんたちは 本気にしねがった…。
親切にする気にならん事を してしまえと…。
偏屈だ。
親父の偏屈だが 気持ちがわかった。
そんで 俺も無茶した。
ふーん そうか…。
私は 急に気がつきました。 (光彦)何を?
おじいさんの気持ちをです。
≪(戸の開く音)
おお…。
ふーん… ここが うちか。
俺のうちか…。
浜口さん。
おう…。
おじいさんは 私のために 我が家との縁を→
早く切ろうとして くれたんですよね。
ん?
修一さんは死んだのだから→
もう来るなって 言ってくれたんですよね。
父や母が そうはいがねえとか 言うもんだから→
大暴れして 我が家との縁を 切ってくれたんですよね。
そうなの? この人のためにが?
修一は もういねえのだ。 どご捜してもいねえのだ。
はい。
嫁に来ようと思ってくれた。
はい。
ところが急に 相手がいねえ。
いねえ。 いねえ。
はい…。
なら 早ぐ忘れるのが一番。
(光彦)あっ どこさ行くの?
狭くて 客呼べるか。
私は 初め 皆さんが うちで暴れてくれたおかげで→
このまま修一さんから 遠くなるのかな→
という気がしていました。
何より津波で市役所は大忙しで。
災害の大きさにも圧倒されて。
テレビも初めは駄目で 携帯も駄目で。
どこで どのくらいの人が どうなのかも わからなくて。
そこで 私が何をしていたかというと→
本当 あとから あとからの 使い走りが精いっぱいで→
市役所の改革どころじゃなくて…。
自分が眠らなかったら どうなるかがわかったり→
なんて 人の気持ちが わからなかったのかとか。
こんなところに こんなひどい人もいて→
こんなに偉い人もいるんだとか。
何年もの経験を させてもらいました。
そうかあ…。
そうかあ…。
でも どっかで私は この地震に向き合っていない。
津波に ちゃんと向き合っていない→
という気持ちがありました。
そりゃあ 手に余る大事だすけえ…。
いえ… 修一さんの事を→
忘れよう 忘れようとばかり していたからでした。
私個人としては 一番大きな出来事なのに→
向き合おうとしていませんでした。
だがら それは…。
もう息子は戻らねえのだすけえ。
死んだから終わり…。
死んだから終わりとばかり 思おうとしていました。
死んだから終わりだ。
いえ 忘れたくないんです。
思い出したいんです。
それが一番したい事だって 気がついたんです。
忘れろと言ってくださった 浜口さんには すいませんけど…。
いや…。
皆さんに会いたくなったんです。
修一さんの思い出は→
私なんかより ずーっとたくさん持ってる→
皆さんに会いたくなったんです。
そりゃまあ 思い出だけはな…。
聞かせてください。 聞きたいんです。
あの兄貴が こんなきれいな人に そんな事言われるなんて。
兄貴じゃねえみてえだな。 まだ子供でな。
シャツ シャツ お母ちゃ アイロンかがってねえってな。
(光彦)ばあちゃんにも 自分でかげれ! って言われて。
(吉也)その ばあちゃんも いねえ。 いねえなあ。
だらしねえ男ばっかし残って…。
ううん。
あの日 あんたらが来る直前まで あれはアイロンをかげでだった。
(光彦) 見えるとこだけでいいよな?
上着 着るからいいよな? 母ちゃんって。
駄目だ! って言ったっけ。 (光彦)フフフフ!
駄目だってなあ…。
今日は おめえが主役だろうが!
その主役が シャツのシワを 上着でごまかすような事して→
なんとする。
(いく)んだ。 お母ちゃんの言うとおりだ。
とごどん 自分でやり遂げねば どうすんだ。
よし…。
うちの女2人は→
反発し合いながら 妙に気が合ってなあ!
じいちゃんは 同じ話を何度も…。
いいの。 思い出って そういうもんでしょ。
何飲んだ? じいちゃん。
なんも なんも。
飲んだべ それ。
えっ? 洗剤だ。 柔軟剤だ。
こんなもん 誰が飲むか。
なんで柔軟剤 うちさ あるの?
どこにでもあるわ!
貸してみ。 見せでみい。
客が来てる時に恥かかすな! 貸してみ。
だから よく洗って→
もう一回洗って それから 干して使ってんだから大丈夫だ。
焼酎か? ウイスキーか? (吉也)だから なんだ?
飲んだら命取りだって 言われてるべさ。
ハッ! 命がなんだ。 命なんざ→
船があってこそだ。 家があってこそだ。
みんながみんな いてこそだ!
俺は いるぞ。 孫もいるぞ。
女がいねえ。 なんだ それ…。
ここんとこ なんべんも 千晶ちゃん来てけでるべさ。
弁当買ってきてくれるんだべ。
だからだ! だから なんだ!
嬉しいんだ! 飲みたいんだ!
そんなもんさ入れで。
年寄りが やげ起こしたら この世は終わりだぞ!
仮設は隠すとこがねえ!
光彦だって困ってらあ!
いや 俺は別に。
あっ!
≪支店長!
(男性)なして黙ってんだ!?
黙ってたら わかんないだろうが!
(福永)支店長 なして黙ってんだ?
本当は おわかりでないですか?
おわかり? なんだ? 何が おわかりだ?
この支店は… この信用金庫は 何より誰より→
皆さんのお役に立つしか 生きてる道はないんです。
だったら そうせえ! きれい事 言わねえで!
皆さんの… 皆さんの中柴 宮堀地区は→
市の再建方針が まとまらなくて 県も及び腰で→
国も 遠くから眺めてるばかりです。
そんな事は百も承知だ!
当事者が踏み出すという事だ。
うちらで町を作って 事実を積み上げるっちゅう事だ!
お気持ちは… お気持ちは よくわかりますが→
信用金庫が すぐさま お力にはなれません!
(青木)やっぱり弱腰だ。 なれるわけないじゃないですか!
ほれ! これで なんもしねえんだ。
どこが土地っ子だ! 臆病もんだ!
津波に遭わねえもんには わからんよ。
(男性)んだ。 わからねえんだ。 (男性)口だけだ。
(女性)話にならねえ! (男性)支店長!
どうした?
3月のまんまなんだな…。
うん…。
運び出した荷物置いたり たき火したり…。
あの時のまんまなんだな。
今頃 言ってる…。
草生えとったから ろくに見もしなかったが…。
不思議だべ。
不思議って?
種をまいだり 球根埋めだり→
そういう気持ちが 湧いてこねえのよ。
地震で潰れたわけでもねえし 津波さ遭ったわけでもねえし…。
あなたも ひと夏→
このまんまの花壇に 気がつかねえなんて→
どうかしてらよ。
男は そんなもんだ。
お母さんが…。
うん…。
喪に服しとるんだねって。
そうか。
そんな結構なもんでないの。
ただ気力が湧かんの。
いつ全てが終わるか いつ何もかも崩れてしまうか…。
そんな気分 甘やかして 秋まで引きずるんでねえよ。
じゃあ あなた 種まいて。 球根植えて。
俺は 俺の仕事で種まいでる。 球根植えでる。
決まり文句言わねえで。 現実的になろうでねえが!
どっちが現実よ! こっちも現実よ!!
くっ…!
♬~
(千晶の声)これは 誰にも言いたくない思い出。
2人だけの思い出にしようと 思っていた→
大切な思い出。
話していいの?
無理しなくていいよ。
話してえから 切り出したんだろうが。
はい。
(千晶の声)港には 不思議なくらい誰もいなくて→
神様か何かが 2人のために→
人払いをしてくれたような 気がしました。
(千晶の声) この土地で生まれたのに→
船から故郷を見たのは いぐら数えでも4回でした。
家族と幼稚園の時 1回。
あとは学校から 小学校2年と6年の時→
中学3年の秋。
全部観光船で みんなと しゃべったり ふざけたりして→
見でも なんも見でいなかった。
(千晶)すっごーい!
サッパ船って言うんですよね。
そう サッパ。
断崖のワカメやウニを獲ったり アワビを獲ったり。
細いところも 危ないところも。
ああ ギリギリの岩場をな。
知らねえ奴は すぐ座礁だ。
(千晶の声)こんなの ありなの?
私の故郷 こんなにすごいの?
こんなにきれいで こんなに どこまでも続くスケールがあって。
♬~
こんなところが あるんだ。
(千晶の声)海からしか上がれない 浜でした。
兄貴 それが狙いだったか!
決まってんべや。
えっ… じゃあ あの…。 えっ ちょ…。
じゃあ あの…。 何 あのや。
あの 恋の浜で あの…。 光彦。
兄貴と千晶さんは…。
聞いて なんとする。
いいんです。
自分だけの思い出にしようと 思っていたけど…。
(光彦)は… はい!
(千晶の声)でも 死んだ人の いい思い出は→
ご家族に お話しすべきような気がして。
♬~
そうです。
兄貴も ちゃんと いい思い出があって よかった。
♬~
(光彦)俺… 俺…。
あっ いや これは…→
これは 言うべき事じゃ ないかもしれねえけど…。
なら 言うな。 (吉也)光彦!
ありがとうって…。
千晶さんに ありがとうって 言ったっていかべさ。
なんべんも言ってもらってる。 でも…!
その… その兄貴は もう生き返れねえのだから→
もう忘れて… 忘れて…。
そうだ。 (吉也)忘れなきゃいかん。
俺との結婚を 考えてくれねえですか!
おい!
来年の春には高校出るんだし それまで待って…!
イタッ! それまで待って! バカタレ!
ずーっと ずーっと思ってた! 兄貴がおるうちから→
ずーっと思ってだんだ! ちょっと来いって!
千晶さん… 千晶さん!
どの口 喋ってるだか! これか! 千晶さん!
(光彦)結婚したいんだよ! 黙れ!
それじゃあ もう 立派な大工さんでねえの。
なんの。 言われるまんまさ。
言われて出来るのが すごいわ。 ああ 俺なら…。
絶対 指を潰してる。 ハハハ…。
船もねえ 網もねえ 道具もねえ。
景気がいいのは 建設だもんね。 稼がねば 仮設 出られねえしな。
寒いから 鍋頼んだ。
その前に ちょっと これで飲んでてくれって。
さあ どうぞ。 ああ ここ どうぞ。
ああ。
こういう店で 鍋なんかいいの? いや いいんだ。
うちの理事長が 個人で前からやってだ店だ。
職員は割引だ。
そういう特典があるんだ。 たまたまだ。
職場は零細だ。 ハハッ…。 どこが零細よ。
こごも ついこないだまでは→
被災した人を何人も 受げ入れていだんですって。
そういう言い訳も減ったなぁ。
フフッ…。 はい。 ああ… 今日はありがとう。
ハァ…。
おじいさん抜きで あなたに…。
というか 中学校の同級生だから→
君と呼んだ方が いいかもしれないが…。
おめえでいいよ。 ハハッ…。
君だけに会ってもらったのは→
うちの千晶と お宅の光彦君の事だ。
うん。 よく会ってるらしい。
ああ…。
知ってだった? チラチラっとな。
もちろん 会う事は 別に悪い事じゃないが…。
何人からか聞いて 娘に それとなくあたりました。
そんなの勝手でしょと 言われました。
強い言い方に びっくりしました。
親になんか言われたくないって まるで たたかうような口振りで→
これは ただ事じゃないなと 思いました。
うん。
うちのは24歳 光彦君は18歳。 そんなの おかしいだろう?
おかしいかな?
6歳も離れていて 光彦君は まだ高校も出ていないんですよ?
仕事を持った事もないんですよ? うーん でも まあ…。
でも まあ そういう事もあるだろうが…。
でも… でも 娘に本気を感じたんです。
これは本気だって。
いけないかなぁ? いけないよ。
娘は まだ どうかしてるんだ。
津波から半年。 いや むしろ あの頃より→
修一君が亡くなった事が こたえてきてるのかもしれない。
あいた穴が埋められなくて 苦しんで→
弟さんに すがってるのかもしれない。
本人が本気なら…。
だから それは 本当の本気じゃなくて→
今 普通じゃないから 本気だと思っている→
偽の本気だって思うの。
それは俺も思った。 ああ そう。
こういう時 本人の自由だなんて言って→
放っておくより 立ち入った方がいいですよ。
つけは 親にも回ってくるんですから。
うん…。 きっと…。
いや 多分2人は… いや 2人とも→
津波のあとで 途方に暮れてる子供なんだ。
今の大変な市役所で いろんな思いしてる。
教えられでる。 ああ…。
でも 男と女の事は 人に言われたくない。
教わりたくない。 それって変でしょう?
変かなぁ? 変ですよ。
なんにもわかってないんですもん。 うーん…。
恋愛が いかにはかないものか 結婚がどんなものか。
生活力も大切だという事も。
それはそうだ。
少しは長く生きてる親が→
今 赤ちゃんが出来たら 一生が決まるぞって→
心配するの当然でしょう。
赤ん坊か…。
誤解のないように言うけど…。 何?
いや 2人を引き離して→
これで お宅とは縁を切りたいとか 言ってるんでない。
そんな事 わざわざ言うような事?
いや そう取られるかも しれねえがら。
今 持ち出すような事じゃ ないでしょ。
そったな誤解はしねえ。
光彦に嫁は まだ早え。
見当はついてる。
なんの?
あいつは 仮設にいると 時々 たまらねえって→
友達5人だかと金出し合って 息抜きのアパート借りだんだと。
(2人)それだ。
(麻子)残業 残業って言って…。
いきなり 現場だな。 いっちょ前が…。
逃げて どこさ行ぐ?
追いかけたりはしねえよ。 力ずくなんて事もしねえ。
噂を聞いて 寄ってみたんだ。
急ぎすぎだ。
少し気が早いんでねえのが? ああ。 まだまだ人生長いんだ。
わがらねえべ。 人生 明日をも知れねえべさ。
そんな事 思ってねえべ。
思ってねえよな?
もう…。
すまん。
これが俺だちの限界だ。 ほっとけねえんだわ。
いくよ。
はい!
バス 案外 正確だったね! (奈美)はい。
今日は まだ 作業の車が少なくて。
(吉也)これ 大みそかに入りました。
何がです?
いや ベッドさね ベッド。
はあ…。
(吉也)男3人の時は→
ベッド入れると ひと部屋 潰れてしまうがら→
無理だと言われたんだけども。
見てください!
まあ! へぇ~。 (吉也)ヘヘヘッ。
まあ こんな事で 喜ぶのは悲しいが。
いいえ。
まあ 喜ばにゃあ 負げだもんね。 (奈美)はい。
ああ よぐ来てくれました。
行き来しねえようにしようと。
はい。
でも お孫さんが 青森に行かれたと聞いて。
魚の加工をやっとる友人がね 俺んとごへ寄越せと言ってくれで。
お顔が広いがら。 ああ いやいや。
赤字抱えた 小さな おらのとこなど→
相手にもされんのだけど。
(吉也の声)津波だったからね 手を差し伸べてくれて…。
学校は?
ああ 去年が もう それどころじゃなぐなったから→
改めて1年 青森で単位取って 卒業したらって言われでる。
そうですか。
お孫さんの方は…? あ はい…。
(奈美の声)案外 泣いたり 逆らったりしねえで→
市役所で忙しゅうしてるようです。
♬~
2人とも 親に言われで→
やってる事に 気がついたって事かねぇ。
黙ってるがら…。
津波から1年も経ってねえのに。
人もあろうに 弟さんと…。
津波のせいかもしれんね。 (奈美)津波の?
根こそぎ さらわれて 誰彼構わず死んでしまって→
何かに すがりつきたぐなって…。
(咳払い)
目先の色事を 求めてしまったのかもしれんね。
はい…。
若いがらねぇ。
はい。
♬~
お待たせしました。
ゆっくりでいいですよ。
(吉也)ちょっと早ぐ来すぎだがね。
(奈美)いえ 時間です。
(吉也)2時間に1本だがらね。 (奈美)はい。
(吉也)もう行ってしまったって わげではないだろうね。
(奈美)どうか もう…。 寒いですから。
誰もいねえ。 はい。
バスは どごを うろうろしとるんだが?
(奈美)浜口さん。 はい?
息子が 仕事柄 かえって 聞きにぐいと言ってるんですが…。
何をです?
漁を再開するにあたって 出来る事があるんじゃないかと。
ああ ああ…。
いや 決して それで 商売するっていう→
気持ちでなくて…。
金庫がのう…。 はい?
流されたまんまなんだわ。 ええ?
うちは かかあと嫁 女2人が金の管理してだった。
あらぁ…。
主に かかあの方が 銀行の金利が あまりに安いんで→
預けるの バカバカしいって言って…→
現金を金庫に入れでだった。
あらぁ…。
いくらあるが わがらね。
ただ まあ 長年の事だがら それは きっと→
まとまった金額だと思ってる。 はい。 それは きっと。
まあ 密かに→
それが出てきたら… と決めとるんだわ。
了解です。 誰にも言いません。
息子にだけは そっと。
金庫の事はのう…。 はい。
この際 どうでもいいんだ。 どうでもって…。
さっきから思ってだった。 何をです?
バスは来ねえし 誰もいねえし…。
一回 ハグしちゃ駄目かな?
ハグ?
外国人みてえに こう… ハグだ。
あ… バスかな…?
まあ き… 恐縮なお願いだけど→
また一人だと思うと 寂しいんだわ。
(吉也)底抜けに寂しいんだ。
いいですけど でも バスがもう…。
ああ…!
ああ…。
ああ 浜口さん!
年明けで… ハハッ 初めてだ。
私も。 おめでとうと言い合う 状況じゃないんだけど…。
いや 本当に。
集会所の換気の件だけど…。 んだんだ。
(男性)西と南はいいんだ。 北だな うん。
(アナウンス)「金山経由 市役所前行き 発車致します」
浜口さんのご尽力で なんとか…。
♬~
フフフッ フフッ…。
お母さん。 うん?
そんな話 面白い?
何言ってるの?
ハグなんて言われて 気持ち悪くないの?
ハグくらい いいでしょ。
キスとか言われたんでねえから。 (麻子)そうよ。 何言い出だすの。
2人を引き離して やっと あのうちとは縁が切れたんだ。
どうして勝手に会いに行ったの?
お正月だし あの孫は 青森へ行っちゃったんだし。
仮設で男2人だから。
おばあちゃんが行ってくださるの ありがたいと思ったわ。
俺だぢが行き来すれば 千晶も きっぱりとはいがなぐなる。
だから おばあちゃんが行くの ちょうどいいんでない。
俺は反対だね。
向こうは 3人も亡くなって おうちも流されて…。
そんな事はわがってる!
縁を切って知らん顔がいいの?
あの高校生を すぐ 青森にやってくれたんだし。
そうよ。
千晶の方が年上なんだから こっちのせいもあるって→
言われたって しょうがないところもあるのに。
きっぱりと縁を切って 忘れだ方がいいんだ。
わかるわよ。 その気持ちも わかるけど…。
普通の時でないがら。 そんだよ。
思ってもいない事で 長男も奥さんも お嫁さんも…。
何遍も言うな! だったら ハグされてもいいのか?
そうよ。 そうだよ。
私だってハグぐらいさせるわよ。 俺は嫌だ。
そんな事 聞いでない。
津波で なんでもなかったのは 俺のせいじゃない。
もちろんよ。
津波に遭ったと聞けば 誰にでも 優しぐしなきゃなんないのか?
当だり前でしょう?
今でも つらい思いしてるんだよ?
そうそう人の身になれるか。
なんて事 言うの? あなた今 なんて言った?
(麻子) そうそう人の身になれるか?
疲れだよ。 疲れでもなんでも→
あなた そんな事 外へ出ていったら 一生終わりよ?
信用金庫の支店長が そんな事を言ったら 終わりよ。
誰にでもと言ったんだ! 誰にでもいい顔は出来ないって。
当だり前でしょう。 大体 誰だって 人の身になんかなれないわよ。
そんな事は みんな 百も承知でしょう?
その上で なんとか 出来る事を しようとしてるんでしょう?
いいよ もう。 よぐない。 おがしいわよ。
「そうそう人の身になれるか」 なんて→
あなた そんな事 言えるほど 人の身になってるの?
信用金庫は人の身になってるの!?
せいぜいバカにすればいいが…。 バカになんかしてない。
切れだような事 言うから 驚いてるの。
信用金庫は いつだって本気で→
なんとか地域の役に立つ事を 第一に考えでるよ。
それならいいの。
おじいさんね? (麻子)えっ?
浜口のおじいさんが 気に入らないのね?
そうじゃない。 そうじゃないの?
ハグさせないわ。
そうじゃないんだ!
はい おでん お待ち。
ああ どうも。 すいません。
移動図書館? うん。
本のせて回ってる? うん。
言うばっかりで なんにもしねえ人だと→
思ってだった。 フフッ そういうタイプだけど→
なんにもしねえでは いられねえ気持ちで→
やらせてもらってるの。 本 どうしてるの?
だから あくまで 市の図書館の一環で→
車も本も 市のもんよ。 私は運転して回るだけ。
深く聞かねえで。
(麻子)やり始めたら 面白いんだ。 性に合ってるんだ。
ボランティアは それが何よりだ。
今日は そういう話でねえの。
言ったでしょ? うちの夫と あなたには→
何かあるのが という事…。
うん。
私のボランティアなんて 恥ずかしくて人には言えねえよ。
少し見直したわ。
バカにしてだった?
美しいがら 許してだった。
そんな事 言う人なんだ! なんでも言うよ 俺は。 ハハッ。
なら 逃げないで言ってください。 中学生の頃 なんかありました?
大人になってから 付き合ってながったですもんね。
娘が修一さんと結婚したいと 言ってきて→
好き合ってる話を 潰すような親でないと→
私も夫も言って→
それから 両家の父親が 中学の同級生だったと気がついた。
そうですよね?
ハァー…。
奥さんよ。 はい。
中学の頃 仮に 何があったとしても→
中学なんて 13~14の子供でねえの。
はい。 その頃の話 持ち出して→
息子の結婚に水差すような 親でねえよ 俺は。
多分 夫もそうね。
子供の頃を持ち出すのは いくらなんでも大人げないと…。
まあ そういう事だ。
(ため息)
ずーっと感じてたの。
2人の結婚を喜んでるような 断りたいような。
それって 普通の父親の 気持ちかなぁと思ってたけど…。
うん そうかもしれん。 ううん。
津波で それどころじゃなくなって それからも→
親切にしようと努めたり 急に ひんやりしたり…。
そういうもんだべ。 本当?
思い当たる事ない?
気になるの? なる!
「えっ この人 そんな事 言う人?」って→
正直 ショックだった。
何言ったの?
それは 言えないけど…。
言いたくない。
(ため息)
(ため息)
旦那は…。
うん。
波切町の高校のワル 3人雇って 俺を袋叩きにした。
…どうして?
どうしてかは わがんねえ。
あとになって 金で雇われたって その時のワルの一人に聞いだ。
中学生が高校生のワルを雇える?
そこが あいつの偉いところだ。 ちゃんと今も支店長だ。
理由があるはず。 ただ そんな事をするはずがない。
わからんよ。 (麻子)ワルに頼めば→
ただ お金払って終わりで 済むわげがない。
あとだって きっと大変だったはず。
なんも知らねえ。
人に殴らせるなんて 汚いじゃない。
うちの亭主 汚いじゃない!
子供だったから。
子供のやる事じゃない。
千晶さんが娘だって聞いて 驚いたよ。
うちのも驚いたでしょう?
いい娘さんだったがら 昔の事は忘れようって思った。
忘れてないんでしょ? いいんだ。
釈然としない。
忘れだよ。 ううん。 そんな事 聞き流せない!
キャプテン これ。
あいよ! 焼酎 梅割り もう一丁! いいねぇ!
うちのが そんな事する奴だなんて 思ってもいなかった。
昔々だよ。 ううん。
2人とも 引きずってるんじゃない。
えっ もう今? すぐ行きます。
はい それは すぐ。 はい。
じいちゃん。
もう みんな集会所にいるって。 早えべさ。
来てるって言ってた。 誰が?
何遍も言ってるべや! 夫婦と ばあさんだ。
なんの話だ? だから 俺が殴られた話だ。
そんな おめえ 昔の事を…。
だから 相手のかかあが 強引なんだ。 変わってるんだ。
どうだ? 鼻毛出てるか? 出てねえ 出てねえ。
チッ ちゃんと見れ ちゃんと!
鼻毛は大丈夫。
ああ よがった。 ハハハ…!
話の途中で余計な事を…。
ううん 気になるわよねぇ。 いやいや。
あ… どうぞ どうぞ。
いえ あの… ですから この人に そういう事が→
本当にあったのかどうか 聞きました。
あったと言いました。
それだけの事ではないとも。
恥ずかしい事だとも 思い出したくない事だとも。
1回だけ思い出そう。
そちらもいらっしゃるところで 公平にと。
ああ。
仮設で ご苦労なさってる方に→
昔の どうでもいい事を 持ち出すのは→
本当 こっちの勝手で…。
ああ こっちは暇だよ お母さん。
はい。
こいつも1軒終わって 雨だし ちょうどよがった。
2人で一日いるよりな。 ああ。
ありがとう。
夫が 人に頼んで そちらを 袋叩きにしたっていうの…。
急に この人が 別の人に思えて…。
人間は なんでもするよ 奥さん。
でも 言い訳があると…。 言い訳じゃない。
その前に 何があったかだ。
何があった?
何があった? それはないだろう。
俺は 波切の奴らの事は なんも知らん。
波切の奴の事じゃない。
俺だぢに何があったかだ。
仲よがったべや。
仲よがった? 俺だぢが仲よがった?
おめえは 2年の時に転校してきて…。
秋からだ。
松浦と和馬と清とつるんで よぐ遊んだべや。
何をしたが 忘れた振りしねえでくれ。
30年近くも前の事だし…。
清のとこのヤギ… ヤギ!
ウサギも いっぱい飼ってだった。
ヤギの乳を じかに ヤギの乳首くわえて飲めと。
みんなやってだった。 みんな?
ああ みんなやってだった。 俺が手本を見せたんだべさ。
俺は震えが止まらねえぐらい 嫌だった。
嘘だ! はしゃいでだった。 振りしてたんだ。
わがらねえべさ そんなの。 双子島まで よく泳いで。
うまぐなったべや。 やっと遅れて着くと→
さあ 帰るぞと みんなで戻ってく。 一緒に遊んだべや。
並んで フルチンになって 小便どこまで飛ぶかって。
誰でもやる事だ。 嫌だった! 俺は嫌だった。
言わねば わがんね。 言ったら どうなる?
ガマ 取って来いって言われた。
ガマガエル捕まえて来いと。 おう。
田んぼ入って 3~4日かがって やっと1匹捕まえだ。
3~4日もかがらねえべ。 かがった!
5~6日かもしれねえ。
ガマ一匹 捕まえられんようじゃ とか言われで。
みんな捕まえだ。 嘘だ!
みんなが出来ねえがら 俺に言ったんだ。
いじめだ。 明らかに いじめだった。
多少な… まあ 言われてみれば そういう事だば しれねえけど…。
捕まえだら そのガマ 食えと言われるかもしれねえと→
とったガマ捨てた事もあった。
そんなに 大変な事とは思わねがった。
ガマは 焼いて食えばうめえんだ。 フランスだって 食ってるべ。
その時は そんな事は知らねえ!
そのガマどうしたか 覚えてるべ? 覚えでねえ。
爆竹 縛り付けて 火 つけろって言われたんだ。
盛り上がったべや。 俺は 嫌だった。
もう こんな関係 耐えられねえと思った。
今だったら 笑い話かもしれねぇ。 でも そのころは 心底 嫌だった。
学校さ行くのが 恐ろしかった。
誰にも言えねがった。
オドオドしている自分を 知られるのが 恥ずかしかった。
死にたがった。
♬~
う~ん…。 そこまでは…。
本当だ。
何回か 本気で死のうと思った。
そして あの日 行き場のない気持ちで→
昔の開拓村の方へ登ってった。
今もあるわ。
そこで あのワル3人が…→
豚小屋に 火つけるの見たんだ。
なんでだ?
いたずらだ。 多分 いたずらだ。
すぐに3人は 俺に気づいた。
逃げた。
追いかけてきた。 捕まって 森の中へ連れ込まれた。
人に言ったら 殺すと言われた。
でも 俺は 半分死ぬ気だったがら…→
妙に平気だった。
誰にも言わねえ。
その代わり 一つ頼みがあると。
そうかよ。
その足で あんた呼び出して 神社さ向かった。
ああ。
もう俺とは 付き合わねえでくれと 言うつもりだった。
でも 言えねがった。
奴らも黙って あんたを殴った。
俺は 見ていた。
俺は 訳わがんねがった。 そんな事はない。
あんたも 俺がいじめに苦しんでるのを→
薄々 感じていたはずだ。
だから それきり 俺とは目を合わせなかった。
俺も それきりだった。
奴らに 金など払わんよ。
そんな金あるわげねえ。
(ため息)
そりゃあ…→
その娘と息子が 一緒になるっていったら複雑だ。
子供のころの事だし…。
言い出すのも 大人げなくて…。
よがった! これで 誤解解消だ 奥さん。
はい。
毎日が大変なのに こんな昔の事で…。
いやあ 昔も今も どちらにも人生あるよ。
忘れたふりしてるより ずっといいよ。
ただ…。 (吉也)うん?
どっちがいいとも 悪いとも…。
言えねえなあ…。
(奈美)そちらは いじめとは思ってなくて。
旦那は 死ぬほどのいじめだと。
すっきりしねえな。
いいですけど…。
どうだ 2人。
お互い 1発ずつ殴り合ったら?
はあ?
何言うの。
口で言い合って すっきりしない時は→
けんか両成敗だ。
1発ずつ 殴って終わり。
やりましょう。 ああ?
よして。 いや… 1発だ。
かなわんよ。 (吉也)勝負でない。
(吉也)勝ち負けでない。
あれを いじめだと 思っていなかったはずはない。
死ぬほどつらい事だけでも ねえはずだ。
懐かしい事もあったはずだ。
(吉也)本気出すな。 儀式だ。 1発だけだ。
(吉也)逃げるな。
1発だけだ。 ガードするな。
(咳払い)
いや… ちょっ ちょっと待ってな。
眼鏡 外すから…。
♬~
(吉也)よしっ 終わりだ!
あ… イッテ。
今のおめえの 強ぐねえか?
なんで そうやって小突くんだ そうやって いつも。
(麻子)ちょっとやめて。 やめやめ。
平手でしてやった…。 (麻子)やめて!
(吉也)1発だと 言ったでしょうが! 駄目っ!
イテテテッ! なんで つねるんだ!
(吉也)やめろ! 俺だって…!
うう~っ! (吉也)少年か おめえら!
アッハハハハッ…。
痛え! アハハハハハッ!
(良介と克己の笑い声)
痛え… 痛え。
腹も痛えし ほっぺも痛え!
(良介と克己の笑い声)
あ はい?
え? …はい。 あ それはない。
うん。 それはありません。
うん はい。 はい ありがとうございます。
はい。
あっ 岡林さん。 私 しばらく いないよ。
はい。
働いてるね~。 いえいえ。
え~…。
今日は いろいろとありまして…。 うん。
いろいろって?
あっ どうぞ お茶。 どうぞ。
1人じゃ… 手に負えねえがら。
借金なんかせんぞ 俺は。 あっ そういう事ではなくて→
同級生同士です。
親父とサシで話しにぐくて 頼んだんだ。
息子が 何言ってる。
じいちゃん。 うん。
実は 6日前…→
金庫が見つかった。 どごで?
ハザマの国有林で 県の職員が。
ハザマって 山ん中でねえか。
ガスバーナーで開げられでだ。
運んで 開げだっつうわげか…。
はい。
警察は 金目のものは なんもねえけど→
お宅のもんらしいって。
そりゃ 泥棒だ。 なんも残さねえべ。
へその緒があったんです。 へその緒?
俺と 息子2人のな。
金庫に入れでだが。
プラスチックのケースに 住所と名前があったそうで。
これ 修一のだけどな。
お前 なんで 今まで黙ってだ。 がっかりするがら…。
だがらって! お父さん。
うん?
金庫はなくても 保険金や補助金で船は買えます。
あっ サッパ船も買えます。
(吉也)だから それだけじゃ 漁は出来ん…。
網も 油も 法被も 大漁旗も→
足りんところは うちの店が応援します。
そんな事は…。 人情ではありません。
仕事です。 特別扱いではありません。
なら こいつの判断だ。 中心は こいつだから。
そこだ じっちゃん。 どこだ?
言いにくいのは… この先なんだ。
なんの事だ?
俺 もう漁に戻らねえ。 なんでだ!
大体 性に合わねがった。
まあ 跡取りだからって 意気張ってやってきたけども→
津波で 向いてねえ事が よぐわがった。
何を臆病な…。 工務店 目指してえんだ。
今さら おめえ…! 楽しいんだ。
家 建てるの嬉しいんだ。 苦にならねえんだ。
やりてえ事 いっぺえ浮かんでくるんだ。
子供でねえど。
子供でないです。 じっくり 話聞きました。
しっかりした 大した大人です。
なんもな… 今すぐ 金借りてやるってんでねえんだ。
2年余り 大工やってきて ひでえ工務店もあるんだ。
立派な工務店も いくつか知ってます。
修業したうえでの話だ。
遅ぐはない。 見所あると思ってます。
お前は 何か。
船 買って 俺1人でやれってが。
すいません。
青森から呼んだんだ。
青森からって…。
じいちゃん。
なんだ おめえ。
俺 海が好きだ。 漁が好きだ。
組合長にしごかれてる。 そんでも苦にならねえ。
もう 去年の俺でないよ じいちゃん。
座って。
これも すぐにとは言いません。
でも 漁が好ぎだと聞いて→
それなら もう 立派な跡継ぎになると思いました。
船を買う夢は 消えないど思いました。
好ぎだの 夢だの 何言ってんだ。
お前ら 3人とも話にならねえ。
仕事のつらさ知らねえ。 世間の怖さ知らねえ。
何 甘えた事 言ってんだ。
甘い事考えなきゃ 世の中 動きませんよ。
甘い事 考えて 懲りたら懲りたで やってくしかないでしょ。
あんたも まだ子供だ。
人生のつらさ知らない。 こっちは 津波で→
なんもかんも 持ってかれたんだぞ。
なんもかんもでねえべ。 んだ。
なんもかんもでねえべ。
♬~
どこさ行ぐ? 昼飯食うんでねえのが?
♬~
俺は こごを見だぐねえと 言ったはずだ!
こごへは 入らねえって言ったはずだ!
何遍も 言ってるべや!
♬~
♬~
じいちゃんが 見でも見なぐても 元には戻らねえべ。
こご 玄関だよな?
こんなもんだったかぁ。
来てくれてるよ。
≪(吉也)ああ! おそろいで。
こんにちは。 (奈美・千晶)こんにちは。
(奈美)浜口さん。 (吉也)はい。
金庫 残念でしたね。 なんのなんの。 ヘヘッ。
これ…。
(千晶)お宅へ行ぎにくくて…。
おお このプリントあったのが。
がれきから出てきて…。 そうが…。
1人で持ってました。
そりゃあ… 2人ともが写ってるもんな。
どうだ そのあと…。
会ってねえよ。
間 置いてみようって…。
(吉也)そうが。 それがいい。
ゆっくりも大事だ。
じき 3年経つのに…。
まだ こんななんだなぁ…。
はい。
ああ 花飾って 線香あげてもらって…→
拝ましてもらうわ。 はい。
♬~
ずっと 見だぐなかったんだ。
意気地がなくて 来られながった…。
呆れてる人もいたが 来られながった。
許してくれ 修一…。
(吉也)女房…→
嫁さん。
元気でなぁ…。
♬~
ありがとう。
しかし あんた…→
女房の前で なんて事するんだ…。
(吉也の泣き声)
♬~
(麻子)子供。
そんなに お母さんのハグ見たくない?
馬鹿言うなよ。
何?
大泣きしそうになった…。
大泣き?
おかしいだろ?
なんでもなかった俺が 大泣きしたら→
おかしいだろ?
♬~
見てらよ!
(麻子)なんでも…→
なんでもなーい。
♬~
♬~
(麻子)わかるよ。
この海 見て ここらに立てば 誰だって大泣きしたいよ。
♬~
ハグしたい。
うん。 しよう。
みんな差し置いて… そんな事出来るか。
そうだね。
ここまでだ。
うん。
♬~
(船の汽笛)
♬~
♬~
♬~
♬~
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