All language subtitles for Kurara -Hokusai no musume 眩~北斎の娘 The dazzling life of Hokusais daughter (2017) V.O.S.Japonés
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1
00:00:34,455 --> 00:00:49,904
♬~
2
00:00:49,904 --> 00:00:53,808
(北斎)
この世は 円と線で出来ている。
3
00:00:53,808 --> 00:01:00,548
ほれ
こうして 円が重なってるだろう。
4
00:01:00,548 --> 00:01:06,888
尾っぽも丸~く
尻に巻きついている。
5
00:01:06,888 --> 00:01:10,224
これも 円だ。
6
00:01:10,224 --> 00:01:20,868
でもって
頭に三角を2つ載っけると…。
7
00:01:20,868 --> 00:01:33,247
♬~
8
00:01:33,247 --> 00:01:39,120
おっ? おお? お前 まさか…。
9
00:01:39,120 --> 00:01:42,120
ええ?
10
00:01:45,827 --> 00:01:48,262
(お栄)<私は ただ➡
11
00:01:48,262 --> 00:01:51,599
己の手のひらの中に
初めて置かれた筆が➡
12
00:01:51,599 --> 00:01:54,299
うれしくて たまらなかった>
13
00:01:56,938 --> 00:01:59,638
14
00:02:12,887 --> 00:02:14,822
(小兎)そ~れ 見た事か。
15
00:02:14,822 --> 00:02:18,760
3年もたたずに夫婦別れなんて。
ええ?
16
00:02:18,760 --> 00:02:22,230
私はね ず~っと思ってたんだよ。
いつか 亭主に➡
17
00:02:22,230 --> 00:02:25,530
愛想尽かされるんじゃ
ないかってねえ…。
18
00:02:27,101 --> 00:02:31,401
勝手気ままをするからだよ。
19
00:02:33,241 --> 00:02:37,578
不器量なくせに
化粧もしない 髪はボウボウ➡
20
00:02:37,578 --> 00:02:40,481
もう 身を構いもしないでさあ。
21
00:02:40,481 --> 00:02:42,917
大体 世間にゃ➡
22
00:02:42,917 --> 00:02:45,820
そりの合わない組み合わせなんか
ごまんとあるんだよ。
23
00:02:45,820 --> 00:02:50,792
不仲じゃない。 不熟なんだよ
近頃の夫婦は。 ええ?
24
00:02:50,792 --> 00:02:53,561
(弥助)また始やりやしたね。
25
00:02:53,561 --> 00:02:57,465
おい。
へえ。
こんな足首で歩けるかい?
26
00:02:57,465 --> 00:03:02,203
あっ… へえ 確かに。
27
00:03:02,203 --> 00:03:04,872
ま~た ざる耳だよ。
28
00:03:04,872 --> 00:03:07,775
そんなとこだきゃ
お父っつぁんに似ちまって。➡
29
00:03:07,775 --> 00:03:11,212
それじゃなくても
女だてらに絵筆しか持たない➡
30
00:03:11,212 --> 00:03:14,549
変わり者だとか
平気で枕絵を描いてるだとか➡
31
00:03:14,549 --> 00:03:19,220
知れ渡っちまったもんだから
いずれ様もが尻込みしちまってさ。
32
00:03:19,220 --> 00:03:22,557
ようやく決まった縁だってえのに。
33
00:03:22,557 --> 00:03:26,894
言い返さなくていいんですかい?
言い返して どうする?
34
00:03:26,894 --> 00:03:30,231
口答えなんかしようもんなら
かえって 長引かあ。
35
00:03:30,231 --> 00:03:37,231
大体 絵なんか描いて
何になろうってんだい? ええ?
36
00:03:40,241 --> 00:03:44,112
(ため息)
なあ! お前さんも悪いんだよ!
37
00:03:44,112 --> 00:03:46,581
小さい頃から 甘い顔して。
38
00:03:46,581 --> 00:03:49,484
「お栄は
自分から絵筆を持ちやがった。➡
39
00:03:49,484 --> 00:03:54,922
こいつは 見どころがある」なんて
目尻下げるもんだからさあ もう。
40
00:03:54,922 --> 00:03:57,258
おっ 何しやがんでい いきなり。
41
00:03:57,258 --> 00:04:01,529
見てごらんよ。
すっかり本意気になっちまって。
42
00:04:01,529 --> 00:04:06,400
この子はね 弟子じゃないんだよ。
娘なんだよ。
43
00:04:06,400 --> 00:04:08,402
こと 絵についちゃ➡
44
00:04:08,402 --> 00:04:11,873
どんなに偉いお殿様の言う事も
聞かねえ北斎先生でも➡
45
00:04:11,873 --> 00:04:13,808
女房には
何にも言えねえってんですから。
46
00:04:13,808 --> 00:04:16,544
(笑い声)
47
00:04:16,544 --> 00:04:20,882
男は所詮 女の出がらしだぁな。
逆らうまいってね。
48
00:04:20,882 --> 00:04:22,817
お~い お栄!
49
00:04:22,817 --> 00:04:25,219
口を動かしてる暇あったら
とっとと手ぇ動かせ。
50
00:04:25,219 --> 00:04:28,890
はい。
弟子じゃないって
言ってる先から…。
51
00:04:28,890 --> 00:04:32,560
…ったく 子が子なら 親も親だよ。
ええ?
52
00:04:32,560 --> 00:04:35,463
何だい こりゃ。
よせよ。
53
00:04:35,463 --> 00:04:38,432
何でもかんでも
勝手に触るんじゃねえ!
54
00:04:38,432 --> 00:04:42,904
何だよ。 何だい…。
55
00:04:42,904 --> 00:04:48,776
<さて ここは 江戸の浮世絵師
葛飾北斎の仕事場だ。➡
56
00:04:48,776 --> 00:04:51,913
なかなかの散らかりようだろう?
しかたぁねえ。➡
57
00:04:51,913 --> 00:04:56,584
おやじ殿 つまり ここの主が
掃除するのを嫌がるんだ。➡
58
00:04:56,584 --> 00:05:01,189
ちなみに そこのクモの巣も
おやじ殿のお気に入りだ。➡
59
00:05:01,189 --> 00:05:04,859
役者絵 枕絵 読み本の挿絵…。➡
60
00:05:04,859 --> 00:05:07,528
何でもやるのが
おやじ殿の流儀だ。➡
61
00:05:07,528 --> 00:05:12,867
おやじ殿が顔姿を描き
細かいところは 弟子の仕事。➡
62
00:05:12,867 --> 00:05:18,206
そうやって 師匠の画風や筆遣いを
目に刻み込む。➡
63
00:05:18,206 --> 00:05:20,875
おやじ殿が
どんなに名が売れようと➡
64
00:05:20,875 --> 00:05:22,810
決して
鍛錬を怠らないもんだから➡
65
00:05:22,810 --> 00:05:25,746
私らは 足を引っ張らないよう
ついていくだけで➡
66
00:05:25,746 --> 00:05:28,046
てんてこまいだ>
67
00:05:32,486 --> 00:05:36,891
(鐘の音)
68
00:05:36,891 --> 00:05:40,561
半鐘だ。
69
00:05:40,561 --> 00:05:42,861
ああ 火事ですね!
70
00:05:45,233 --> 00:05:48,233
私が いっち速えよ!
71
00:05:55,877 --> 00:05:58,246
瀬戸物町じゃねえか?
72
00:05:58,246 --> 00:06:02,246
いや そこまで南じゃあないね。
73
00:06:07,054 --> 00:06:10,825
代わっとくれ。
ああ? 何だ。
74
00:06:10,825 --> 00:06:21,469
♬~
75
00:06:21,469 --> 00:06:27,469
いや~… なんてえ色だ。
76
00:06:30,544 --> 00:06:34,415
(善次郎)ハハハ 世話ねえな。
77
00:06:34,415 --> 00:06:36,884
善さん。
78
00:06:36,884 --> 00:06:39,787
どうせ どうやったら あんな色
出せんのか 考えてたんだろう。
79
00:06:39,787 --> 00:06:42,223
何してんだい こんなとこで。
80
00:06:42,223 --> 00:06:48,095
そりゃ お前と同じ 酔狂さ。
酔狂? バカ言え。
81
00:06:48,095 --> 00:06:50,564
みんな
大変な思いしてるってのに。
82
00:06:50,564 --> 00:06:53,564
ああ。 こりゃひでえ。
83
00:06:56,904 --> 00:07:00,508
風の噂で聞いたぜ。
誰かさんが➡
84
00:07:00,508 --> 00:07:03,844
旦那が描いた絵を 鼻で笑って
出戻ったって。
85
00:07:03,844 --> 00:07:10,518
はあ~
そんな噂が出回ってんのか。
86
00:07:10,518 --> 00:07:15,389
まあ 違えねえけど。
ハハハ! 違えねえのかい!
87
00:07:15,389 --> 00:07:18,859
ハハハ お栄らしいや。
88
00:07:18,859 --> 00:07:20,795
(笑い声)
89
00:07:20,795 --> 00:07:22,730
<この善次郎も➡
90
00:07:22,730 --> 00:07:25,733
前に うちに出入りしていた
浮世絵師の一人だ。➡
91
00:07:25,733 --> 00:07:29,503
画号は 溪斎英泉>
92
00:07:29,503 --> 00:07:32,406
そっちは近頃 景気いいらしいね。
93
00:07:32,406 --> 00:07:35,876
あの馬琴先生に気に入られたって。
94
00:07:35,876 --> 00:07:39,747
昔は 私とおんなじ
からっ下手だったくせに。
95
00:07:39,747 --> 00:07:42,750
ああ? からっ下手?
96
00:07:42,750 --> 00:07:46,050
お前の色気のねえ枕絵と
一緒にするなよ。
97
00:07:50,891 --> 00:07:53,561
なあ 善さん。
98
00:07:53,561 --> 00:07:56,897
お前は 何で絵なんか描いてる?
99
00:07:56,897 --> 00:07:59,233
何でえ? いきなり。
100
00:07:59,233 --> 00:08:02,533
名か? それとも 銭か?
101
00:08:08,042 --> 00:08:10,511
いい女 抱くためだ。
102
00:08:10,511 --> 00:08:14,181
ハハハ ほかに何がある?
103
00:08:14,181 --> 00:08:17,518
何だい
人が真面目に話してんのに。
104
00:08:17,518 --> 00:08:21,818
ハハハハ! ハハハハハ。
105
00:08:29,864 --> 00:08:33,534
オランダ国から 絵の注文?
(弥助)へえ。
106
00:08:33,534 --> 00:08:38,205
それが そのシーボルトって先生は
北斎先生の絵が好きで➡
107
00:08:38,205 --> 00:08:41,876
世界一の絵師だって
言ってるってんで。
ふ~ん。
108
00:08:41,876 --> 00:08:45,546
…で 江戸の絵なら
何でもいいってか?
109
00:08:45,546 --> 00:08:50,418
それが 一つ お望みがあるそうで。
110
00:08:50,418 --> 00:08:54,221
蘭画です。
蘭画。
へえ。
111
00:08:54,221 --> 00:08:58,092
蘭画ってえと?
西洋の絵だよ。
えっ?
112
00:08:58,092 --> 00:09:01,495
北斎に 西洋の画法に
挑んでほしいんだとよ。
113
00:09:01,495 --> 00:09:04,165
何でえ。
114
00:09:04,165 --> 00:09:07,835
俺の腕を試そうって寸法か。
115
00:09:07,835 --> 00:09:10,738
面白えじゃねえか。
116
00:09:10,738 --> 00:09:12,706
<おやじ殿は➡
117
00:09:12,706 --> 00:09:16,177
そのオランダからの注文を
15枚の絵とし➡
118
00:09:16,177 --> 00:09:19,080
そのうち 12枚の下絵を
あっという間に仕上げ➡
119
00:09:19,080 --> 00:09:23,851
残りは 一番弟子の弥助さんと私が
描く事になった。➡
120
00:09:23,851 --> 00:09:26,754
私の画題は 「遊女」だ>
121
00:09:26,754 --> 00:09:32,193
蘭画ってえのは 見えたものを
そのまま描き写してやがる。
122
00:09:32,193 --> 00:09:39,493
あと この色。
ひとところでも 色が濃く薄く…。
123
00:09:43,537 --> 00:09:49,410
(カナリアの鳴き声)
124
00:09:49,410 --> 00:09:53,547
いいねえ あんたは。
125
00:09:53,547 --> 00:09:57,218
いつ見ても いい色だ。
126
00:09:57,218 --> 00:10:02,890
へえ~
こいつが 噂のカナリア鳥か。
127
00:10:02,890 --> 00:10:06,760
おお~ 善さん!
久しぶりじゃねえか!
128
00:10:06,760 --> 00:10:11,232
おうよ。 みんな
壁がパンパン膨れ上がりそうなほど➡
129
00:10:11,232 --> 00:10:13,901
熱入れて取っ組んでるんで
入っていいか迷ったぜ。
130
00:10:13,901 --> 00:10:17,571
ヘヘヘヘヘ。 驚いたろう それ。
131
00:10:17,571 --> 00:10:20,474
馬琴先生が おやじ殿にってな。
132
00:10:20,474 --> 00:10:25,246
ああ。 何せ
馬琴先生と北斎おやじといやあ…。
133
00:10:25,246 --> 00:10:28,916
[ 回想 ]
こいつに
草履をくわえさせろだと?
134
00:10:28,916 --> 00:10:34,616
(馬琴)そうだ!
絵師は 黙って言う事を聞け!
135
00:10:36,257 --> 00:10:39,957
誰が そんな汚え図 見て
喜ぶってんだい!
136
00:10:43,931 --> 00:10:49,603
そうも言うんなら
てめえが 口にくわえてみやがれ!
137
00:10:49,603 --> 00:10:53,941
それ以来 けんか別れで
20年 一度も組んでねえ。
138
00:10:53,941 --> 00:10:56,844
今でも 顔合わす度に
ほえ合う仲だって聞いたのによ。
139
00:10:56,844 --> 00:11:08,455
♬~
140
00:11:08,455 --> 00:11:13,894
おやじ殿の絵を見りゃ
なるほどと思わぁ。
141
00:11:13,894 --> 00:11:18,566
けど いざ 蘭画と考えた途端に
手出しができなくなるんだ。
142
00:11:18,566 --> 00:11:23,237
ざまあねえよ。 遊女なんぞ
描き慣れてるはずなのに。
143
00:11:23,237 --> 00:11:26,140
そうか?
144
00:11:26,140 --> 00:11:30,110
俺には お前も
パンパン膨れて見えるぜ。
145
00:11:30,110 --> 00:11:34,848
それ また
自分で色作ってんだろ。
146
00:11:34,848 --> 00:11:39,787
ああ。 私の作る色は
おやじ殿のお気に入りなのさ。
147
00:11:39,787 --> 00:11:42,256
料理は とんと できなくても➡
148
00:11:42,256 --> 00:11:44,191
石や根っこを
干したり煮たりするのは➡
149
00:11:44,191 --> 00:11:46,594
苦にならないからね。
150
00:11:46,594 --> 00:11:49,930
本当か?
151
00:11:49,930 --> 00:11:52,833
本当は 己で思うがまま
色を差配してみたいって➡
152
00:11:52,833 --> 00:11:55,533
思ってんじゃねえのか?
153
00:11:57,271 --> 00:12:00,541
お前は 昔っから色に目がねえ。
154
00:12:00,541 --> 00:12:02,476
どうやったら 蘭画みてえな
見た事もねえ色みが➡
155
00:12:02,476 --> 00:12:07,476
自分に出せんのか 試したくて
描きたくて しかたがねえんだ。
156
00:12:09,883 --> 00:12:15,883
違うよ。 私は ただ
おやじ殿の役に立とうと…。
157
00:12:17,758 --> 00:12:22,463
俺相手に しらは切れねえぜ。
158
00:12:22,463 --> 00:12:25,899
お前は 前から 描きたい絵を
ず~っと胸の中で温めてる。
159
00:12:25,899 --> 00:12:30,237
その ちっこい胸によ。
「ちっこい」は余計だ。
160
00:12:30,237 --> 00:12:35,109
フフッ やけるねえ…。
161
00:12:35,109 --> 00:12:38,409
お前は
目指すべきものを持ってる。
162
00:12:41,582 --> 00:12:44,485
何 訳の分かんねえ事
言ってんだい。
163
00:12:44,485 --> 00:12:47,254
ちょっと売れたからって
上から もの言いやがって。
164
00:12:47,254 --> 00:12:51,925
ハハハハ。 俺が 今 何て いわれてるか
知ってるか?
165
00:12:51,925 --> 00:12:55,796
「溪斎英泉は 北斎の再来か」だぜ。
166
00:12:55,796 --> 00:12:58,265
豪儀じゃねえか。
167
00:12:58,265 --> 00:13:02,870
ああ おやじ殿も
よく言い暮らしてたな。
168
00:13:02,870 --> 00:13:06,740
「技を磨きてえなら まねて まねて
体の中にたたき込め。➡
169
00:13:06,740 --> 00:13:09,743
技もねえのに 画風がどうのと
よそ見をすりゃあ➡
170
00:13:09,743 --> 00:13:12,880
先は行き止まりだ」ってね。
171
00:13:12,880 --> 00:13:20,754
けどよ… フフフ 再来じゃあな。
172
00:13:20,754 --> 00:13:24,224
私は まだ そんなとこ
行き着いてもいない。
173
00:13:24,224 --> 00:13:28,095
どうしたら もっと おやじ殿が
思うように描けるのか➡
174
00:13:28,095 --> 00:13:31,795
おやじ殿の絵の役に立てんのか…。
175
00:13:34,568 --> 00:13:38,238
よし。
176
00:13:38,238 --> 00:13:40,574
いいとこ 連れてってやる。
177
00:13:40,574 --> 00:13:43,243
まだ 仕事だ。
ああ?
178
00:13:43,243 --> 00:13:46,146
たまには 仕事なんか
うっちゃるもんだ。
179
00:13:46,146 --> 00:13:48,446
ほら。
えっ ちょ…。
180
00:13:52,920 --> 00:13:56,620
(弥助)どうした?
ちょっと そこまで。
181
00:13:58,258 --> 00:14:08,535
♬「とんび からすに
ならるるならば」
182
00:14:08,535 --> 00:14:19,179
♬「はあ 飛んで行きたや 主の側」
183
00:14:19,179 --> 00:14:26,086
ハハハ。 ♬「つるつるつん」
♬「はあ つるつるつん」
184
00:14:26,086 --> 00:14:29,823
♬「はあ」
♬「ちりちりちん」
185
00:14:29,823 --> 00:14:39,900
♬~
186
00:14:39,900 --> 00:14:41,835
♬「ちりちりちん」
♬「はっ」
187
00:14:41,835 --> 00:14:44,238
♬「つるつるつん」
♬「よっ」
188
00:14:44,238 --> 00:14:51,578
♬「とんび からすに
ならるるならば」
189
00:14:51,578 --> 00:14:55,249
♬「飛んで行きたや」
190
00:14:55,249 --> 00:14:58,152
よっ 善さん。
よう。 調子は どうでえ?
191
00:14:58,152 --> 00:15:00,852
見てのとおりですよ。
192
00:15:10,731 --> 00:15:14,735
<善さんは かつては
二本差しのお侍だったと➡
193
00:15:14,735 --> 00:15:16,870
誰かに聞いた事がある。➡
194
00:15:16,870 --> 00:15:20,207
それ以上は 何も知らない>
195
00:15:20,207 --> 00:15:31,218
♬~
196
00:15:31,218 --> 00:15:34,888
(お滝)吉原一の合奏です。
197
00:15:34,888 --> 00:15:38,559
すげえ…。
198
00:15:38,559 --> 00:15:45,232
♬~
199
00:15:45,232 --> 00:15:52,105
俺の妹だよ。 3人とも。
200
00:15:52,105 --> 00:15:56,243
俺が養いきれずに
芸者の置き屋に預けた。
201
00:15:56,243 --> 00:16:01,515
それを恨みもせず
こうして 芸を身につけてくれた。
202
00:16:01,515 --> 00:16:15,529
♬~
203
00:16:15,529 --> 00:16:17,865
はっ。
204
00:16:17,865 --> 00:16:41,889
♬~
205
00:16:41,889 --> 00:16:43,824
はっ。
206
00:16:43,824 --> 00:16:47,761
♬~
207
00:16:47,761 --> 00:16:52,533
おい お栄も来い。
どうぞ どうぞ。
208
00:16:52,533 --> 00:16:54,468
ああ… いいよ 私は。
209
00:16:54,468 --> 00:16:56,904
ほらほらほら!
210
00:16:56,904 --> 00:17:11,418
♬~
211
00:17:11,418 --> 00:17:13,854
<目を凝らせば➡
212
00:17:13,854 --> 00:17:19,526
この世の どこもかしこもが
色の濃い淡いで出来ている>
213
00:17:19,526 --> 00:17:45,218
♬~
214
00:17:45,218 --> 00:17:49,556
<人の顔も体も
光の当たり方で色が違う。➡
215
00:17:49,556 --> 00:17:51,892
一色じゃない。➡
216
00:17:51,892 --> 00:17:55,228
光が強く当たっているところは
色が薄く➡
217
00:17:55,228 --> 00:17:59,900
暗い場では 色は沈む>
218
00:17:59,900 --> 00:18:05,900
そうか。 光だ…。
219
00:18:07,708 --> 00:18:10,510
光が…➡
220
00:18:10,510 --> 00:18:16,383
光と影が 色や形を作ってるんだ。
221
00:18:16,383 --> 00:18:35,083
♬~
222
00:18:45,412 --> 00:18:55,088
辛うじて 遠い近いはある。
影もついてる。
223
00:18:55,088 --> 00:19:01,795
けれど まるで コクがねえや。
224
00:19:01,795 --> 00:19:06,166
あの~…
描き直させてやもらえやせんか。
225
00:19:06,166 --> 00:19:09,503
このままじゃ
おやじ殿の名折れになりやす。
226
00:19:09,503 --> 00:19:12,172
明日 納めるぞ。
227
00:19:12,172 --> 00:19:16,843
ちょっと待っとくれよ。
こんな代物 納められねえよ。
228
00:19:16,843 --> 00:19:19,179
なら お前ら いつ 満足する!?
229
00:19:19,179 --> 00:19:24,851
あと3日か? それとも 30日か?
230
00:19:24,851 --> 00:19:28,551
3年かければ きっと できると
言い切れんのかい!
231
00:19:31,191 --> 00:19:38,532
三流の玄人でも
一流の素人に勝る。
232
00:19:38,532 --> 00:19:43,403
なぜだか分かるか?
233
00:19:43,403 --> 00:19:48,208
こうして 恥を忍ぶからだ!
234
00:19:48,208 --> 00:19:50,877
己が満足できねえもんでも➡
235
00:19:50,877 --> 00:19:55,749
歯ぁ食いしばって
世間の目にさらす!
236
00:19:55,749 --> 00:20:02,222
悔いてる暇あったら
とっとと次の仕事にかかれ。
237
00:20:02,222 --> 00:20:05,125
お栄。
238
00:20:05,125 --> 00:20:09,425
お前が持ってけ。
239
00:20:17,237 --> 00:20:19,906
へえ。
240
00:20:19,906 --> 00:20:31,251
♬~
241
00:20:31,251 --> 00:20:33,587
お待ちしておりました。
242
00:20:33,587 --> 00:20:37,287
さあ こちらでございます。
どうぞ。
243
00:20:41,928 --> 00:20:47,601
いやあ よか絵ば
ありがとうございました。
244
00:20:47,601 --> 00:20:50,937
どうぞ。
245
00:20:50,937 --> 00:20:55,809
残りの金は 明日お届けすると
言うとらしたです。
246
00:20:55,809 --> 00:20:59,613
へえ…。
247
00:20:59,613 --> 00:21:03,483
あっ… 本当にいいんですか?
あの絵で。
248
00:21:03,483 --> 00:21:08,221
ああ もちろんですたい。
さすがは北斎先生だって➡
249
00:21:08,221 --> 00:21:11,892
シーボルト先生も
死ぬほど喜んでおられました。
250
00:21:11,892 --> 00:21:15,562
そうですか…。
251
00:21:15,562 --> 00:21:18,899
あなた様は
ご覧になったんですか?
252
00:21:18,899 --> 00:21:24,571
ええ 拝見しましたばい。
いかがでした?
253
00:21:24,571 --> 00:21:32,913
う~ん…
あっ 遊女の絵は気になったです。
254
00:21:32,913 --> 00:21:36,583
気になった?
255
00:21:36,583 --> 00:21:40,253
あいは きっと
北斎先生の筆じゃなかと。
256
00:21:40,253 --> 00:21:44,591
息ばしとらん
へったくそな絵です。
257
00:21:44,591 --> 00:21:47,260
何か描こうとして➡
258
00:21:47,260 --> 00:21:52,132
思いに 手のついてっとらんと
でしょうな。 うん。
259
00:21:52,132 --> 00:21:56,269
へったくそだと…?
260
00:21:56,269 --> 00:21:59,940
思いに
手がついてっていないなんてな!
261
00:21:59,940 --> 00:22:03,543
そんな事は
己で一番分かってんだよ!
262
00:22:03,543 --> 00:22:06,843
こんちくしょう…。
263
00:22:14,187 --> 00:22:18,091
お~い 何してんだ? お栄。
264
00:22:18,091 --> 00:22:22,091
己の腕に腹が立つのさ。
265
00:22:24,831 --> 00:22:29,569
わ~っ!
266
00:22:29,569 --> 00:22:31,869
はあ…。
267
00:22:34,241 --> 00:22:39,913
何で 私は 絵なんてもんに
魅入られちまったんだろうね。
268
00:22:39,913 --> 00:22:42,613
苦しいばっかりだ。
269
00:22:44,251 --> 00:23:00,533
♬~
270
00:23:00,533 --> 00:23:08,233
俺だって お前
満足なんざしてねえよ。
271
00:23:12,545 --> 00:23:19,886
ああ もっとうまく
もっと もっとって➡
272
00:23:19,886 --> 00:23:24,557
いつも願うのに➡
273
00:23:24,557 --> 00:23:31,557
思う先から
描きてえもんが逃げていきやがる。
274
00:23:33,566 --> 00:23:36,236
おやじ殿でもか?
275
00:23:36,236 --> 00:23:38,936
あったぼうよ。
276
00:23:42,909 --> 00:23:47,209
お前なんかに満足されて
たまるかい。
277
00:23:49,582 --> 00:23:52,485
よ~し。
278
00:23:52,485 --> 00:23:56,456
この橋を渡ったら 忘れるぞ。
279
00:23:56,456 --> 00:24:03,863
忘れて 俺たちは また
性根入れて あがいて あがいて➡
280
00:24:03,863 --> 00:24:08,163
ヘヘ あがきまくるんだ!
あっ!
281
00:24:14,207 --> 00:24:17,110
<あがいて あがいて➡
282
00:24:17,110 --> 00:24:21,548
あがいて あがいて…>
283
00:24:21,548 --> 00:24:38,898
♬~
284
00:24:38,898 --> 00:24:41,568
あっ。
285
00:24:41,568 --> 00:24:45,438
ああ。 食わねえかい。
286
00:24:45,438 --> 00:24:49,909
≪(小兎)なあ 善さん
来てくれないかね うちに。
287
00:24:49,909 --> 00:24:54,581
ああ?
お栄の婿に
入ってもらうって事だよ。➡
288
00:24:54,581 --> 00:24:58,451
そしたら お前さんだって
安心して隠居できるし…。
289
00:24:58,451 --> 00:25:03,857
はっ 俺は隠居なんかしねえよ。
婿養子なんか要るかい。
290
00:25:03,857 --> 00:25:07,727
ちょいと おっ母さん。
何 勝手に話してんだい。
291
00:25:07,727 --> 00:25:10,196
だってさあ お前…。➡
292
00:25:10,196 --> 00:25:15,535
あら? 善さん。
今の聞かれちまったかね?
293
00:25:15,535 --> 00:25:18,835
ハハハハ。
いつもいつも余計な事を…。
294
00:25:20,407 --> 00:25:23,877
おやじ殿?
295
00:25:23,877 --> 00:25:27,547
大丈夫か?
おおお… お前さん!
296
00:25:27,547 --> 00:25:30,450
おやじ殿? おやじ殿!?
297
00:25:30,450 --> 00:25:33,219
(弥助)おやじ殿!? おやじ殿!
298
00:25:33,219 --> 00:25:36,122
弥助。 医者だ。 医者だよ 医者。
299
00:25:36,122 --> 00:25:42,562
おやじ殿… しっかりしとくれよ!
後生だからさ!
300
00:25:42,562 --> 00:26:11,724
♬~
301
00:26:11,724 --> 00:26:16,863
あのしるしは 中気でござろう。
302
00:26:16,863 --> 00:26:23,563
一たび寝ついてしまえば
いずれ ここも呆ける。
303
00:26:31,211 --> 00:26:34,547
<おやじ殿が倒れたという噂は➡
304
00:26:34,547 --> 00:26:40,887
すぐに 江戸だけではなく
諸国の版元や絵師に知れ渡った>
305
00:26:40,887 --> 00:26:43,556
どうも ありがとうございました。
306
00:26:43,556 --> 00:26:46,556
五助。
へえ。
307
00:26:48,228 --> 00:26:51,898
ああ… は~い。
308
00:26:51,898 --> 00:26:56,198
は~い 気持ちいいね。
309
00:27:01,708 --> 00:27:06,412
お栄さん。 ここは あっしらが
なんとか しのぎやすから➡
310
00:27:06,412 --> 00:27:09,849
おやじ殿の介抱に専念して下さい。
311
00:27:09,849 --> 00:27:14,149
うん… ありがとう。
312
00:27:15,722 --> 00:27:17,724
おい ちょうさん。
へえ。
313
00:27:17,724 --> 00:27:22,428
こっち 頼まあ。
はいよ。 何でもやりますぜ。
314
00:27:22,428 --> 00:27:28,535
(小兎)ああ~ うまくのめたねえ。
315
00:27:28,535 --> 00:27:32,872
お栄が作ってくれたのさ。 ねえ。
316
00:27:32,872 --> 00:27:35,208
ああ ちょうどよかった。
317
00:27:35,208 --> 00:27:38,545
下帯をきれいに洗っといとくれ。
もう替えがないんだ。
318
00:27:38,545 --> 00:27:42,545
なあ おっ母さん…。
(小兎)ん? 何だい?
319
00:27:44,217 --> 00:27:46,886
もう10日だ。
320
00:27:46,886 --> 00:27:52,886
おやじ殿 そろそろ
筆を持つ修練 始めてみても…。
321
00:27:55,895 --> 00:27:58,565
何だって?
322
00:27:58,565 --> 00:28:02,835
養生してる最中の親に向かって
よくも そんな…。
323
00:28:02,835 --> 00:28:06,172
でも… これじゃ まるで赤ん坊だ。
324
00:28:06,172 --> 00:28:08,841
なあ おっ母さん。
325
00:28:08,841 --> 00:28:13,713
おやじ殿は… おやじ殿にとって
絵を描くって事は…。
326
00:28:13,713 --> 00:28:15,715
ご覧よ!
327
00:28:15,715 --> 00:28:18,715
これ以上 どこに
かじる すねがあるってんだい!
328
00:28:20,453 --> 00:28:24,153
ひどいよ お前は ひどいよ…。
329
00:28:46,212 --> 00:29:30,723
♬~
330
00:29:30,723 --> 00:29:35,194
<絵師としての おやじ殿を
失いたくない。➡
331
00:29:35,194 --> 00:29:41,067
これは 私の欲なんだろうか>
332
00:29:41,067 --> 00:29:55,515
♬~
333
00:29:55,515 --> 00:29:58,217
≪御免!
334
00:29:58,217 --> 00:30:00,917
何だい…。
335
00:30:04,557 --> 00:30:07,226
ああ 滝沢と申す。
336
00:30:07,226 --> 00:30:11,898
付近をたまたま…
たまたま 通りすがった故に➡
337
00:30:11,898 --> 00:30:14,233
北斎翁にお取り次ぎを願いたい。
338
00:30:14,233 --> 00:30:16,169
滝沢様?
339
00:30:16,169 --> 00:30:20,573
鳥を逃がしてしもうたそうな。
340
00:30:20,573 --> 00:30:24,444
あれほどのカナリアは
おらんというのに もう➡
341
00:30:24,444 --> 00:30:28,915
粗忽 軽率 愚の骨頂
極まりないわ。
342
00:30:28,915 --> 00:30:32,915
滝沢馬琴先生…。
343
00:30:47,934 --> 00:30:51,270
無様よのう!
344
00:30:51,270 --> 00:31:00,570
葛飾北斎が…
こんな掃きだめで恍惚としおって。
345
00:31:05,218 --> 00:31:10,890
絵師風情が このまま
枯れ木のごとく枯れ果てようと➡
346
00:31:10,890 --> 00:31:13,793
わしには 何の痛痒もござらん。
347
00:31:13,793 --> 00:31:19,899
人並みの往生を望もうとも
わしの知ったこっちゃない。
348
00:31:19,899 --> 00:31:23,599
だが…。
349
00:31:28,241 --> 00:31:37,541
わしは かような往生は望まぬな!
350
00:31:39,252 --> 00:31:45,925
たとえ右腕が動かずとも
この目が見えぬ仕儀に至りても➡
351
00:31:45,925 --> 00:31:50,263
わしは 必ずや戯作を続ける。
352
00:31:50,263 --> 00:31:52,198
まだ何も書いておらぬ。
353
00:31:52,198 --> 00:31:57,603
己の思うように書けた事などは
ただの一度もござらぬ。
354
00:31:57,603 --> 00:32:04,603
その方も…
さようではなかったのか?
355
00:32:11,551 --> 00:32:18,424
葛飾北斎!
いつまで養生しておるつもりぞ!
356
00:32:18,424 --> 00:32:22,562
ここで もう満ち足りたのか!
357
00:32:22,562 --> 00:32:29,862
描きたき事 挑みたき事は まだ
山とあるのではなかったのか!
358
00:32:34,173 --> 00:32:36,873
あの野郎…。
359
00:32:44,250 --> 00:32:47,587
そなたが お栄さんか。
360
00:32:47,587 --> 00:32:50,923
拙宅で取れた柚子だ。
361
00:32:50,923 --> 00:32:55,595
これを細かく刻んで酒を加え
焦がさぬように煮詰めろ。
362
00:32:55,595 --> 00:32:58,264
水あめのごとき様子にならば
火から下ろし➡
363
00:32:58,264 --> 00:33:01,167
白湯で割って 口に含ませてやれ。
364
00:33:01,167 --> 00:33:03,870
柚子と酒?
さよう。
365
00:33:03,870 --> 00:33:08,541
酒の毒は 煮詰めれば とぶ。
366
00:33:08,541 --> 00:33:14,241
柚子を刻むは 竹べら。
煮るは 土鍋に限る。
367
00:33:17,884 --> 00:33:20,786
≪おおお…。
368
00:33:20,786 --> 00:33:23,786
おやじ殿…。
369
00:33:25,758 --> 00:33:29,228
ああ…。
ああ… どうした どうした!
370
00:33:29,228 --> 00:33:33,099
どっか痛むのかい?
おお… お栄 お栄。
371
00:33:33,099 --> 00:33:35,902
無茶しないどくれよ!
骨でも折れたら…。
372
00:33:35,902 --> 00:33:38,902
お栄…。
ああ… うわっ!
373
00:33:41,774 --> 00:33:44,074
お栄…。
374
00:33:46,245 --> 00:33:55,545
養生は… もう… 飽いた。
375
00:34:01,727 --> 00:34:04,530
はっ…。
376
00:34:04,530 --> 00:34:07,867
よし。
377
00:34:07,867 --> 00:34:39,799
♬~
378
00:34:39,799 --> 00:34:44,236
<私は 柚子を刻み続けた。➡
379
00:34:44,236 --> 00:34:47,573
これさえ飲んだら
必ず 元に戻れる。➡
380
00:34:47,573 --> 00:34:52,573
おやじ殿は
そう信じているようだった>
381
00:35:18,204 --> 00:35:21,204
お栄 帰ったよ。
382
00:35:29,215 --> 00:35:34,553
また 作ってるのかえ。
ああ。 もう無くなると思うと➡
383
00:35:34,553 --> 00:35:37,223
見計らったみたいに
届けてくれんだよ。
384
00:35:37,223 --> 00:35:39,923
ありがたいよ。
385
00:35:52,238 --> 00:35:55,141
お栄。
あっ?
386
00:35:55,141 --> 00:35:57,841
(小兎)お父っつぁんを頼んだよ。
387
00:36:20,399 --> 00:36:24,170
<季節が変わった頃➡
388
00:36:24,170 --> 00:36:28,074
おやじ殿は
絵こそ まだ描けないものの➡
389
00:36:28,074 --> 00:36:33,074
筆を持っても
落とさないところまでは回復した>
390
00:36:41,887 --> 00:36:46,887
<亡くなったのは
おっ母さんだった>
391
00:36:59,238 --> 00:37:01,507
どうも お待たせしました。
392
00:37:01,507 --> 00:37:04,207
ありがとうございました。
393
00:37:14,520 --> 00:37:17,189
よう。
394
00:37:17,189 --> 00:37:21,060
どうした? こんな所で。
乙粋じゃねえか。
395
00:37:21,060 --> 00:37:25,531
西村屋に品を納めた帰りだよ。
396
00:37:25,531 --> 00:37:29,201
おやじ殿の安茶と大福餅さ。
397
00:37:29,201 --> 00:37:33,072
もう描いてるらしいじゃねえか。
398
00:37:33,072 --> 00:37:36,542
ああ お医者も目ぇ丸くしてる。
399
00:37:36,542 --> 00:37:42,842
もう二度と描く事を
手放すまいって思ってんだろうな。
400
00:37:45,885 --> 00:37:48,788
お前は?
401
00:37:48,788 --> 00:37:51,488
お前も描いてんだろ?
402
00:37:53,225 --> 00:37:56,225
私か…。
403
00:37:57,897 --> 00:38:01,897
私 何なんだろうな…。
404
00:38:04,703 --> 00:38:09,842
おやじ殿の事ばっかり考えて…➡
405
00:38:09,842 --> 00:38:14,542
私 ちっともおっ母さんの事なんか
思いもつかなかった。
406
00:38:18,184 --> 00:38:21,854
そうさ…。
407
00:38:21,854 --> 00:38:30,196
私は おやじ殿を… おやじ殿の
絵を失うのが怖かったんだよ。
408
00:38:30,196 --> 00:38:37,196
親よりも絵が大事なんて
私ってやつは…。
409
00:38:39,205 --> 00:38:42,107
大丈夫だよ。
410
00:38:42,107 --> 00:38:45,107
おっ母さん
きっと 全部分かってる。
411
00:38:47,880 --> 00:38:53,580
分かってるさ。 大丈夫。
412
00:39:00,226 --> 00:39:04,496
善さんにも
いろいろ世話になったな。
413
00:39:04,496 --> 00:39:08,167
おっ母さんの野辺送りには
妹さんたちや…➡
414
00:39:08,167 --> 00:39:13,038
あの お滝さんだっけ。
あの人も来てくれて。
415
00:39:13,038 --> 00:39:17,176
本当 ありがたかったよ。
416
00:39:17,176 --> 00:39:22,176
そうか お滝も行ったのか。
417
00:39:23,849 --> 00:39:26,185
あいつ
毎日 顔突き合わせてんのに➡
418
00:39:26,185 --> 00:39:29,485
そんな事
ひと言も言いやがらねえから。
419
00:39:31,523 --> 00:39:35,194
毎日?
420
00:39:35,194 --> 00:39:40,494
ああ 今 一緒に住んでる。
421
00:39:49,208 --> 00:39:53,078
おっ そうだった。
422
00:39:53,078 --> 00:39:57,378
これ これ。 これ どうだ?
423
00:40:06,558 --> 00:40:10,896
何? この青。
ヘヘッ。 ベロよ。
424
00:40:10,896 --> 00:40:14,566
浮世絵で このベロ使ったの
俺が初めてなんだぜ。
425
00:40:14,566 --> 00:40:18,237
おやじ殿に見てもらいてえと
思ってよ。
426
00:40:18,237 --> 00:40:21,573
うん… 深い青だ。
427
00:40:21,573 --> 00:40:24,243
普通の藍じゃないね これ。
428
00:40:24,243 --> 00:40:27,943
おうよ。 さすが お栄だ。
429
00:40:29,581 --> 00:40:34,453
あ~ お前に
先に見せるんじゃなかったな。
430
00:40:34,453 --> 00:40:36,455
親子ともども➡
431
00:40:36,455 --> 00:40:40,592
あっと のけぞらせてやるつもり
だったのによ。
432
00:40:40,592 --> 00:40:42,592
ああ?
433
00:40:44,463 --> 00:40:47,463
どうした?
434
00:40:50,602 --> 00:40:53,939
具合でも悪いのか?
435
00:40:53,939 --> 00:41:49,928
♬~
436
00:41:49,928 --> 00:41:53,799
<善さんの優しさは 毒だ。➡
437
00:41:53,799 --> 00:41:59,099
私は とうとう 毒を食らう>
438
00:42:00,873 --> 00:42:03,542
439
00:42:03,542 --> 00:42:21,093
♬~
440
00:42:21,093 --> 00:42:24,563
<一度限りと思ってたのに…➡
441
00:42:24,563 --> 00:42:29,435
こんな事になっちまって
お滝さんに気が差さないのかい?>
442
00:42:29,435 --> 00:42:33,906
差すよ。
あっし あの人 嫌いじゃない。
443
00:42:33,906 --> 00:42:36,575
<本当かね?➡
444
00:42:36,575 --> 00:42:38,911
いっそ奪っちまいたいって
思ってるんだろう>
445
00:42:38,911 --> 00:42:40,846
うるさい うるさい。
446
00:42:40,846 --> 00:42:43,782
私は きっと
相手は 誰だってよかったんだよ。
447
00:42:43,782 --> 00:42:47,920
たまさか 気の合う男が
そばにいただけの事。
448
00:42:47,920 --> 00:42:50,589
これから先 どうなるかなんて
思案に暮れるのは➡
449
00:42:50,589 --> 00:42:53,289
真っ平ごめんだよ。
450
00:42:57,463 --> 00:43:00,265
はあ いいじゃないか。
451
00:43:00,265 --> 00:43:04,870
朝になれば
家に帰っていくんだから。
452
00:43:04,870 --> 00:43:08,540
(小声で)
あれ 誰としゃべってんですかい?
453
00:43:08,540 --> 00:43:11,443
知るかい。
454
00:43:11,443 --> 00:43:16,143
じゃあ あっしは これで。
455
00:43:18,217 --> 00:43:22,087
ほら 行こう。
気ぃ付けて。
456
00:43:22,087 --> 00:43:24,556
こいつは また。
おう。
457
00:43:24,556 --> 00:43:27,856
<弥助さんは
独り立ちする事になった>
458
00:43:31,897 --> 00:43:36,897
459
00:43:59,591 --> 00:44:03,195
おやじ殿! 火事ですぜ!
佐久間町の辺りだって!➡
460
00:44:03,195 --> 00:44:05,531
もう 京橋辺りまで
火が来てるって。
461
00:44:05,531 --> 00:44:09,401
そりゃあ 芝まで火にのまれるぞ。
462
00:44:09,401 --> 00:44:12,204
じゃ 善さんの住む惣十郎町も…。
463
00:44:12,204 --> 00:44:32,524
♬~
464
00:44:32,524 --> 00:44:37,229
<昼夜を問わず
江戸は よく燃える>
465
00:44:37,229 --> 00:44:41,567
善さん…。
466
00:44:41,567 --> 00:44:43,502
<天を焦がし➡
467
00:44:43,502 --> 00:44:47,906
朝焼けでも夕焼けでもない色を
見せる。➡
468
00:44:47,906 --> 00:44:52,578
善さんの家は 焼け落ち
それから3年➡
469
00:44:52,578 --> 00:44:58,578
生きていると噂は聞くものの
姿を見せる事はなかった>
470
00:45:22,207 --> 00:45:24,876
(与八)あの己丑の大火で➡
471
00:45:24,876 --> 00:45:31,550
手前ども西村屋は
大事な版木の全てを失いました。
472
00:45:31,550 --> 00:45:33,885
うちだけじゃない。
473
00:45:33,885 --> 00:45:39,224
江戸の版元のほとんどが
同様のありさまです。
474
00:45:39,224 --> 00:45:48,567
でも うちは だからこそ
やってやりたいんです。
475
00:45:48,567 --> 00:45:52,267
こいつは 大博打になるな。
476
00:45:53,905 --> 00:45:58,905
ねえ おやじ殿は 何を描く?
477
00:46:01,513 --> 00:46:04,513
そりゃあもう決まってる。
478
00:46:11,857 --> 00:46:14,557
お待たせ致しやした。
479
00:46:20,198 --> 00:46:22,534
これは…。
480
00:46:22,534 --> 00:46:26,204
<おやじ殿は
どんどん富士を描き➡
481
00:46:26,204 --> 00:46:29,541
西村屋は
「富嶽三十六景」と名付け➡
482
00:46:29,541 --> 00:46:31,877
鳴り物入りで売り出した。➡
483
00:46:31,877 --> 00:46:35,177
ほかの仕事は
一切 私が引き受けた>
484
00:46:39,551 --> 00:46:42,888
<「富嶽三十六景」は
売れに売れまくって➡
485
00:46:42,888 --> 00:46:45,557
新しい名所絵の流行りを
作り出し➡
486
00:46:45,557 --> 00:46:49,227
日本諸国
北は松前 南は薩州まで➡
487
00:46:49,227 --> 00:46:53,565
あらゆる所で おやじ殿の富士が
拝まれるようになった。➡
488
00:46:53,565 --> 00:46:58,236
北斎の名を知らぬ者は
いなくなった>
489
00:46:58,236 --> 00:47:02,107
途中で落とすんじゃねえぞ。
はい。 ねえさん 頂いていきます!
490
00:47:02,107 --> 00:47:04,509
ご苦労さん。
491
00:47:04,509 --> 00:47:06,845
じゃあ ねえさん
あっしらは これで。
ああ。
492
00:47:06,845 --> 00:47:09,845
これ。
へえ。
493
00:47:14,186 --> 00:47:17,186
ありがとよ。
494
00:47:22,060 --> 00:47:26,060
あっしも これで。
失礼しやす。
ご苦労さん。
495
00:47:41,413 --> 00:47:44,413
よう。
496
00:47:47,886 --> 00:47:50,586
変わりはねえか?
497
00:47:53,225 --> 00:47:55,925
変わりねえみてえだな。
498
00:47:57,896 --> 00:48:03,502
何だよ その面。
びっくりし過ぎだろう。
499
00:48:03,502 --> 00:48:09,841
変わりねえ訳ねえだろ。
何年たってると思ってんだい。
500
00:48:09,841 --> 00:48:15,514
ご挨拶だな。
桜餅買ってきたのによ。
501
00:48:15,514 --> 00:48:18,183
おやじ殿は?
502
00:48:18,183 --> 00:48:22,854
絵 描きに出かけちまったよ。
そっちは?
503
00:48:22,854 --> 00:48:24,790
ん?
504
00:48:24,790 --> 00:48:31,863
根津で女楼屋してるなんてえ
聞いたけど うそだろ?
505
00:48:31,863 --> 00:48:34,766
ああ 本当さ。
506
00:48:34,766 --> 00:48:38,537
所帯持って女楼屋始めた。
507
00:48:38,537 --> 00:48:41,873
そうか。
508
00:48:41,873 --> 00:48:47,212
ハハッ! しっかし…➡
509
00:48:47,212 --> 00:48:50,549
ますます売れっ子だってえのに
本当に変わりねえな。
510
00:48:50,549 --> 00:48:53,218
もうちっと いい暮らし
できそうなもんだ。
511
00:48:53,218 --> 00:48:56,555
食って寝られりゃ上等だよ。
512
00:48:56,555 --> 00:49:02,255
おかげさまで 酒も煙草も
好きな時に好きなだけ味わえる。
513
00:49:06,364 --> 00:49:10,664
私は 描いてさえいれば幸せさ。
514
00:49:14,039 --> 00:49:19,177
この間の「菊に虻」
あれ お前の筆だろ。
515
00:49:19,177 --> 00:49:24,049
虻は おやじ殿。 でも 菊はお前だ。
516
00:49:24,049 --> 00:49:27,519
それから 「牡丹に蝶」。
517
00:49:27,519 --> 00:49:31,857
あっちは 花が おやじ殿で
蝶がお前。
518
00:49:31,857 --> 00:49:34,192
当たりか?
519
00:49:34,192 --> 00:49:40,065
分かっちまうのかい。
そりゃ よくねえな。
520
00:49:40,065 --> 00:49:44,365
お前の絵には 色気がねえからな。
ほっとけ。
521
00:49:47,739 --> 00:49:51,543
お前も もう てめえの名前で
注文が来てるらしいじゃねえか。
522
00:49:51,543 --> 00:49:54,543
これからは もっと
己の名前で描きゃあいい。
523
00:49:57,883 --> 00:50:03,883
おやじ殿は 私にとっちゃ光だよ。
524
00:50:05,557 --> 00:50:09,427
眩すぎて 到底届かない。
525
00:50:09,427 --> 00:50:16,127
それに おやじ殿の名で描いた方が
よっぽど高く売れるってのにさ。
526
00:50:19,905 --> 00:50:22,574
これ 桜か?
527
00:50:22,574 --> 00:50:28,274
ああ。
向島の料理屋から受けた注文でね。
528
00:50:30,448 --> 00:50:37,589
灯籠と こっちも灯籠って事は
これ 夜桜か?
529
00:50:37,589 --> 00:50:42,260
座敷に飾って
お客の目に触れるのは夜の宴だろ。
530
00:50:42,260 --> 00:50:46,131
ぼんぼりをともした
薄闇の床の間には➡
531
00:50:46,131 --> 00:50:49,935
こういうのもいいかと思ってさ。
532
00:50:49,935 --> 00:50:53,605
夜に夜の景色 見せんのか。
533
00:50:53,605 --> 00:51:00,305
夜の闇の中にも
いくらだって 光と影があるだろ。
534
00:51:01,880 --> 00:51:06,880
闇のおかげで
光も いろんな色を見せる。
535
00:51:08,753 --> 00:51:15,226
この子は今 灯籠の明かりを頼りに
歌を詠もうとしてるんだ。
536
00:51:15,226 --> 00:51:21,526
夜には きっと
昼には書けない歌が詠める。
537
00:51:27,806 --> 00:51:31,106
本当 お前ってやつは…。
538
00:51:32,777 --> 00:51:36,247
お前は 本当
己の腕を分かっちゃいねえんだよ。
539
00:51:36,247 --> 00:51:38,947
あきれるほど。
540
00:51:41,920 --> 00:51:46,620
どういう意味だ?
意味が分からねえ。
541
00:51:48,259 --> 00:51:51,930
俺にとっちゃ お前も光って事よ。
542
00:51:51,930 --> 00:51:57,230
くらくらする 眩しい光だ。
543
00:51:59,804 --> 00:52:02,540
ハハッ…。
544
00:52:02,540 --> 00:52:07,412
俺は もう 絵は描かねえ。
545
00:52:07,412 --> 00:52:10,882
お前は描き続けろ。
546
00:52:10,882 --> 00:53:15,182
♬~
547
00:53:27,225 --> 00:53:31,525
(笑い声)
548
00:53:37,235 --> 00:53:40,905
家移りは
これっきりにしてもらうからね。
549
00:53:40,905 --> 00:53:44,576
もう ごめんだよ…。
550
00:53:44,576 --> 00:53:47,276
奥だぞ。
551
00:53:50,248 --> 00:53:53,548
じゃあ あっしは これで。
ああ。
552
00:53:56,121 --> 00:53:59,257
<おやじ殿は 80を過ぎた頃から➡
553
00:53:59,257 --> 00:54:03,957
徐々に一点物の絵に
力を注ぐようになった>
554
00:54:15,740 --> 00:54:18,543
帰ったよ。
555
00:54:18,543 --> 00:54:25,543
おや 珍しい。 起きてたのかえ。
お栄…。
556
00:54:45,770 --> 00:54:48,907
西村屋さんに スイカもらったけど➡
557
00:54:48,907 --> 00:54:52,243
長屋の女将さんに
あげちゃっていいよね。
558
00:54:52,243 --> 00:54:54,913
私 こんなの切るの面倒くさくて。
559
00:54:54,913 --> 00:54:58,583
お栄。
えっ?
560
00:54:58,583 --> 00:55:01,883
善次郎が死んだ。
561
00:55:06,858 --> 00:55:12,730
寝ぼけてんのかえ?
縁起でもない夢…。
562
00:55:12,730 --> 00:55:17,030
さっき 女房から使えが来た。
563
00:55:19,204 --> 00:55:23,204
今夜 野辺送りだそうだ。
564
00:55:30,548 --> 00:55:33,248
あっ そう。
565
00:55:34,886 --> 00:55:38,556
嘉永元年 夏➡
566
00:55:38,556 --> 00:55:43,856
溪斎英泉こと 池田善次郎
死んじまうってね…。
567
00:55:46,231 --> 00:55:53,231
あんな ずうずうしいのが
風邪なんぞで逝っちまうとは…。
568
00:56:02,180 --> 00:56:12,180
ちゃんと見送らねえと
いつまでも尾を引くぞ。
569
00:56:15,526 --> 00:56:19,526
今からなら
まだ間に合うかもしれねえ。
570
00:57:09,514 --> 00:57:58,563
♬~
571
00:57:58,563 --> 00:58:02,863
あばえ… 善さん。
572
00:58:08,373 --> 00:58:11,142
<真ん中は 若い遊女だ。➡
573
00:58:11,142 --> 00:58:14,512
きっと まだ
閨の事は好きじゃない。➡
574
00:58:14,512 --> 00:58:17,181
いつか 自分も
花魁のようになれるかどうか➡
575
00:58:17,181 --> 00:58:19,117
不安でたまらない。➡
576
00:58:19,117 --> 00:58:24,856
でも わちきも琴は好きだ。
お客が喜んでくれる。➡
577
00:58:24,856 --> 00:58:30,528
右手には 婀娜な女芸者。
年は 25か26か。➡
578
00:58:30,528 --> 00:58:33,865
心底ほれた男が
これまでに1人いる。➡
579
00:58:33,865 --> 00:58:36,200
けれど
その恋は かなわなかった。➡
580
00:58:36,200 --> 00:58:40,538
今は 親子ほど年の離れた
旦那がいる。➡
581
00:58:40,538 --> 00:58:45,410
もの足りなくもあるけれど
私には 三味線の腕がある。➡
582
00:58:45,410 --> 00:58:49,213
左で胡弓を弾く娘は 町娘だ。➡
583
00:58:49,213 --> 00:58:51,149
商家の一人娘で➡
584
00:58:51,149 --> 00:58:56,087
いずれ 遠縁から婿を迎える事が
幼い頃から決まっている。➡
585
00:58:56,087 --> 00:58:59,557
許嫁は 洒落者を気取って
「芝居を見よう。➡
586
00:58:59,557 --> 00:59:03,161
菊細工見物は どうだ」と
誘ってきて煩わしい。➡
587
00:59:03,161 --> 00:59:06,497
本当は
若い手代の一人が気になる。➡
588
00:59:06,497 --> 00:59:11,797
ふとした拍子に目が合えば
胸がどきついて…>
589
00:59:37,195 --> 01:00:58,943
♬~
590
01:00:58,943 --> 01:01:01,943
酔女?
591
01:01:04,549 --> 01:01:09,220
世を捨てたような画号だな。
592
01:01:09,220 --> 01:01:12,890
お栄の栄と 酔うっていう字は➡
593
01:01:12,890 --> 01:01:15,560
おんなじ音だからな。
594
01:01:15,560 --> 01:01:29,106
♬~
595
01:01:29,106 --> 01:01:32,406
私らしいだろ?
596
01:01:44,255 --> 01:01:46,924
ああ こいつは軽い。
597
01:01:46,924 --> 01:01:53,598
藍群青に子持ち縞たあ 乙粋だ。
598
01:01:53,598 --> 01:01:58,469
卒寿の祝いだから 紫群青が
いいって言ったんですけどね➡
599
01:01:58,469 --> 01:02:03,207
うちのかかあが こっちの方が
顔写りがいいからっつって➡
600
01:02:03,207 --> 01:02:05,507
聞かねえんでさ。
601
01:02:12,550 --> 01:02:17,421
この墨絵 お栄さんですかい?
ああ。
602
01:02:17,421 --> 01:02:22,893
おやじ殿が 正月に富士の絵を
やりたいって言いだしてね。
603
01:02:22,893 --> 01:02:28,766
う~ん… このままじゃ
絵組みがさみしい気もするけど…。
604
01:02:28,766 --> 01:02:32,066
う~ん…。
605
01:02:33,904 --> 01:02:37,775
お栄。
ん?
606
01:02:37,775 --> 01:02:42,580
富士を仕上げるぞ。
607
01:02:42,580 --> 01:03:10,741
♬~
608
01:03:10,741 --> 01:03:13,878
刷毛 筆。
609
01:03:13,878 --> 01:04:12,069
♬~
610
01:04:12,069 --> 01:04:14,538
水。
611
01:04:14,538 --> 01:05:08,838
♬~
612
01:05:10,528 --> 01:05:14,828
(弥助)はあ~…。
613
01:05:28,546 --> 01:05:32,546
はあ~… すげえ。
614
01:05:37,555 --> 01:05:41,225
すげえ。
615
01:05:41,225 --> 01:05:48,925
ああ… うまくなりてえ…。
616
01:05:57,575 --> 01:06:10,521
天が あと10年… いや 5年
命をくれるなら➡
617
01:06:10,521 --> 01:06:17,521
俺は
本当の絵描きになってみせる。
618
01:06:19,864 --> 01:06:26,737
きっと なってみせる。
619
01:06:26,737 --> 01:06:48,225
♬~
620
01:06:48,225 --> 01:06:51,525
621
01:06:53,898 --> 01:06:59,198
622
01:07:03,507 --> 01:07:06,207
(猫の鳴き声)
623
01:07:14,151 --> 01:07:17,054
(鳴き声)
624
01:07:17,054 --> 01:07:39,354
♬~
625
01:07:54,224 --> 01:08:07,771
(泣き声)
626
01:08:07,771 --> 01:08:12,176
私も うまくなりてえなあ…。
627
01:08:12,176 --> 01:08:24,755
(泣き声)
628
01:08:24,755 --> 01:08:27,725
なりてえなあ…。
629
01:08:27,725 --> 01:08:56,553
♬~
630
01:08:56,553 --> 01:09:01,853
631
01:09:04,828 --> 01:09:09,500
<黒船が来て 地揺れが起きて…➡
632
01:09:09,500 --> 01:09:14,200
弟の家に やっかいになった>
633
01:09:21,111 --> 01:09:25,849
(弥生)義姉上
また黙ってお出かけになって。
634
01:09:25,849 --> 01:09:29,520
新吉原へ行ってたんだよ。
(崎十郎)そうですか。
635
01:09:29,520 --> 01:09:32,189
大変な
にぎわいだったでしょうね。
636
01:09:32,189 --> 01:09:37,861
供も連れずに。 私たちが
いかほど案じていた事か。
637
01:09:37,861 --> 01:09:42,199
それは 心配をかけて
申し訳のない事だったね。
638
01:09:42,199 --> 01:09:46,070
また そうやって
口先だけで わびられる。
639
01:09:46,070 --> 01:09:48,872
武家にとって
あらぬ噂を立てられる事が➡
640
01:09:48,872 --> 01:09:50,808
いかほど不面目か。
641
01:09:50,808 --> 01:09:53,744
笑われるのは
あなた様の弟君と私です。
642
01:09:53,744 --> 01:09:56,547
そう お盆の頃だって…。
もう分かったから➡
643
01:09:56,547 --> 01:10:00,217
くどくど言うんじゃないよ。
644
01:10:00,217 --> 01:10:15,566
♬~
645
01:10:15,566 --> 01:10:19,236
(弥生)ほんに 義姉上ほど
気随気ままな方はいません。
646
01:10:19,236 --> 01:10:22,573
まあまあ。
石や草 木の実まで
家の中に持ち込んで…。
647
01:10:22,573 --> 01:10:29,246
それが 父上や姉上の生業だ。
目くじらを立てるな。
648
01:10:29,246 --> 01:10:32,246
はあ…。
649
01:10:34,918 --> 01:10:37,588
ほ~れ。
650
01:10:37,588 --> 01:10:42,588
こうして ここに
深~い黒を落とすだろう。
651
01:10:45,929 --> 01:10:56,229
そうすると こっちの明かりが
余計強く宿って…。
652
01:11:03,213 --> 01:11:06,213
そう…。
653
01:11:07,885 --> 01:11:13,223
これが光さ。
654
01:11:13,223 --> 01:11:18,223
655
01:11:19,897 --> 01:11:27,597
<影が万事を形づけ
光が それを浮かび上がらせる>
656
01:11:29,573 --> 01:11:40,217
♬「とんび からすに
ならるるならば」
657
01:11:40,217 --> 01:11:42,517
(笑い声)
658
01:11:44,121 --> 01:11:58,421
♬「飛んで行きたや 主の側」
659
01:12:00,871 --> 01:12:05,542
♬「はっ ちりちりちん」
660
01:12:05,542 --> 01:12:08,879
♬「つるつるつん」
661
01:12:08,879 --> 01:12:57,579
♬~
54876