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(桑野信介くわの しんすけ)ダメだ
よし
あれ…
ちょっと…
えっ
あれ? チッ
しょうがないなあ
もう1セット買うか
(村上英治むらかみ えいじ)はい どうぞ
(沢崎摩耶さわざき まや)ありがとう
あっ これなんか どう すごくオープンな感じでしょう
外から帰ってきて
家族がいるのが 少し遠くから見える
ホッとする
これだとさ 留守のとき 人がいませんって—
泥棒に教えてやってる ようなもんだろう
(英治) でも こういうテイストが—
今度の お客さんの 希望なんですよ
分からんね
俺はさ 自分が留守の時
他人が家にいることが 想像できないからな
フッ だってさ 部屋ん中 勝手に いじられたらイヤだろ
ハア
夜 帰って 暗い部屋に 電気をつける時 わびしくない?
別に だってさ
家で待ってんのは 人だけとは限らないんだぞ
何ですか
この間ね 作ったんだよ ほら
タイタニックの400分の1の スケールだ
普通はさ その船体の部分がさ 黒なんだけど
これはさ 黒95% 茶色3% 青2%を混ぜて作った
オリジナルブレンドカラーに してやったんだよ
海外から取り寄せたんだぞ
(田村たむらみちる) あっちの店のほうが安いなあ
あっ こんばんは
犬のエサか
エサじゃありません ごはんです
人間の子供は成長すりゃ
親に 小遣いぐらいは くれるようになるけど—
犬は死ぬまで ムダ飯 食らい続けるわけだな
家で私だけを待っててくれる 存在のありがたみが—
桑野さんには 分からないんですよ
せっせとエサを運んでくれる 相手を待つのは当然だろう
それ 何ですか?
おお これか?
これはな 君の犬よりも ずっといいもんだ
まずエサは食わないし もの静かだし
何といっても 君の犬との最大の違いは—
美しいということだ
ケンちゃん ただいま〜
フフッ お利口さんにしてた
はい 今ごはん あげますからね はいはい
(早坂夏美はやさか なつみ)痛みは今朝から?
はい
何とか会社 行ったんですけど—
もう我慢できないぐらい 痛くなって
たぶん急性虫垂炎ね
虫垂炎?
(夏美)とりあえず 痛み止めを打っとくけど—
放っとくと腹膜炎で もっと痛くなるから
早いうちに 外科の先生に頼んで 手術しましょうね
手術ですか?
(西村千鶴ちづる)ええっ 入院? 分かった 課長に言っとくよ
お願い でさ 問題は ケンのことなんだけど—
入院となると 誰かに預かってもらわないと
ああ ごめん
うちのアパート ペット ダメなのよ
やっぱり? うん それじゃあね
千鶴のとこ やっぱりダメでした
そっか
私のマンションも ペット禁止なの
他に誰かいないかなあ
あっ
お願いね
分かった
(みちる) 私 これから すぐ入院して 4日後には退院できるから
あれ?
(英治)あっ おかえりなさい
何か みちるさん 入院するらしくて
入院? どうした? 暑さでやられたか
虫垂炎です
(みちる)じゃ お願いね (英治)うん
お前 犬 預かるのか?
(みちる) 犬って言わないでくださいよ
ちゃんと“ケン”って 名前があるんですから
これが ごはん4日分 それから これ
最近 買ったやつ 外からパソコンで—
うちにいるケンちゃんの 様子がチェックできるの
へえ〜
(みちる) 散歩は朝と夜30分ずつ
一応 注意事項を書いた紙も 入れとくから よろしく
おう
じゃあね ケンちゃん
そんな悲しそうな目で見ないで
じゃ お願いね
うん
ケンちゃん いい子にしてるのよ
(英治)よし じゃ 行こっか おい
(信介)おいおい ちょっと待て (英治)えっ?
それ 中に連れていく気か
(英治)そうですよ (信介)ダメだ
えっ じゃ どうしたら?
仕事は いいからさ 今日は お前 それ連れて帰れ
そこまで毛嫌いしなくても
フンとかされたら困るだろう
それに… この犬 妙に鼻息が荒いし
(ケンの鼻息)
かわいらしいと思いますけど
こんな妙な生き物
事務所に 入れるわけにいかんだろう
♪〜
〜♪
(店員)975円になります
はい
(店員)いらっしゃいませ
あっ
あっ こんばんは
どうも
あっ 実はね みちるちゃんが 入院したんですよ
知ってます 英治が犬を預かって
ああ 大家さんさえOKなら 私が預かりたかったんですけど
フッ そんなに 1人が寂しいんですか?
そうじゃなくて
犬も人間も受け入れない人とは 議論しても しょうがないです
それ 借りるんですか?
借りません かわいい犬の映画でも探そう
あっ 犬に襲われる映画だったら ここにありますよ
(英治)はい ケン テーク テーク テーク テーク テーク
よし グッドボーイ
何か怒ってる?
(吉川沙織さおり)みちるさんに そんなに親切にする必要あんの?
いや でも 沙織 最近 彼女とフレンドリーだったじゃん
別に みちるさんのことは 嫌いじゃないよ
だけど ちょっと神経 疑っちゃうな
つきあってもない男に そんな なま物 預けるなんて
なま物って言われちゃったよ
“おねえちゃん 怒ると 美貌が台なしだよ”
もう いい 2人で勝手に 仲よくしてれば フン
うわっ マズった ちょっと待って ケンちゃん
ケンちゃん ケンちゃん ケンちゃん こっち
(信介の鼻歌)
(ドアチャイム)
どうした? こんな時間に
あっ すいません あの ちょっと お話が…
どうも
なんで連れてきてんだ?
それが… 沙織に—
私と犬と どっち選ぶのとか 言われちゃって
女に弱いやつだね
っで?
あの…
桑野さん 預かってもらえません?
(信介)ありえない (英治)お願いします
(信介)お前な (英治)お願いしますよ
いいじゃないですか ちょっと預かるぐらい
あれ?
(夏美)うちの大家さんに 頼んでみたんですけど—
やっぱりダメで
ペットホテルも この時間じゃ もう遅くて
保健所に引き取ってもらえば…
たったの4日間です
ふだん しない経験するのも いいもんですよ
(ケンの鼻息)
やっぱりダメだ
そうですか 分かりました
その代わり 二度と私の所に 診察に来ないでくださいね
フッ 卑怯ひきょうじゃないか
だって 他に病院は いくらでもあるでしょう
でも この子は 他に行く所がないんです
理屈になってないな
とにかく そういうことなんで 行きましょう
医者としては ああいうこと 言っちゃいけないわね
う〜ん どうします? この子
(信介)んんっ ああ…
(信介の口笛) あっ
(信介)ハア…
4日間だけですよ
いいんですか?
しょうがない
(英治) じゃ お願いします ケンです
フウ…
かわいがってあげてください
犬に お愛想はしません
エサやって 散歩させるだけですから
じゃ
大丈夫ですかね 部屋に 他人を入れるのもイヤな人が
(ドアが開く音)
(信介)うわっ
ん…?
ん?
ほら… ほら
ほらほら
やれやれ
ん?
ほら キュウリだぞ
ほらほら ほらほら
ほら ほらほら ほらほら ほら
犬だな
やっと使えたな フフッ
よし
エサだ
つながれてんのが そんなに不満か
あいにくな この部屋には—
お前に触られたくない物が いろいろあるんだ
う〜ん
あ〜
別に食べてもらわなくても 結構だぞ
(“マーラー 交響曲 第5番 第五楽章”)
(信介)フウ…
思ったとおりだ お前の鼻息のせいで寝不足だ
あれ?
か… 金田かねだ
お泊まりか
ん… ん?
何だ どうした
あれか
弱虫だな 来い
フッ ほら 大丈夫だろう
(犬のほえる声) (信介)おいおい ちょ ちょ
何か ドキドキしてきた
大丈夫よ
(江森和美かずみ)血圧108の50です
(みちる)そうだ 手術する前に ちょっと電話してもいいですか?
(小沢真理まり)いいですよ (夏美)誰にするの?
英治君に ケンの様子 ちょっと聞いときたいんで
あっ
何ですか?
あのね… 実はね
(みちる)ええっ
どうして 教えてくれなかったんですか
大丈夫よ 手術前に—
不安にさせないほうが いいと思っただけ
それって大丈夫じゃないって ことですよね
ハハッ ポジティブシンキング
(みちる)ケン
映りますか?
ちょ ちょ ま… 待て
(ノック)
お客さまが お見えになりました
(摩耶)ああ そう
あの これ 何やってるんですか
ワンちゃんの遠隔チェック
(信介)おお 映った映った
ハハッ おとなしくしてんな
フッ ムダな抵抗だ
あっ あっ ちょっと
おい おい ちょっと 模型に近づくな
ハア…
おい… 戻れ 戻れ おい
ああ あっ
クソッ
(ノックとドアが開く音)
おいおい おいおい
(信介)ちょ ちょ ちょ… (摩耶)桑野さん
え?
西田にしだ様です
(西田)この度は よろしくお願いいたします
どうも
こちらこそ よろしくお願いします
(摩耶)どうぞ
では まず ご予算のことから
今日は 西田さまの ご希望の最終確認と—
おおまかな予算の話を 詰めさせていただくということで
(摩耶)よろしいでしょうか (信介)ダメだ
あっ いや すいません こっちの話です
あっ…
ハハ…
(夏美) オペも うまくいったみたいだし 予定どおり退院できそうよ
ありがとうございます
ケンちゃんのことなら 心配しなくても—
連絡がないってことは 無事だってことだしね
ただの気休めに聞こえます
じゃあ 私が とにかく ケンちゃんを引き取ってくる
うちのナースで 誰か 預かれる子がいるかもしれないし
ホントですか?
(携帯電話の着信音)
はい
ケンちゃんのことなんですけど やっぱり 私が預かります
もう結構ですよ
えっ?
沢崎が預かってくれるって 言ってますんで
沢崎です
こんにちは いいんですか 預かってもらって
ええ 桑野が ワンちゃんのことで—
仕事に身が入らないみたいで
すみません
いいえ
仕事のパートナーとしては—
ここは ひと肌脱ぐしかないと 思いまして
うちのマンション ペット自由なんで ご心配なく
そうですか じゃあ よろしくお願いします
はい 失礼します
何だ…
じゃ… 頼むな
(ケンのほえる声) うわっ
はあ? 何やってんだよ
あっ 来ないで
やっぱりダメだ
えっ
実は私 昔っから 犬恐怖症だったの
だったら… なんで 預かるなんて言ったんだよ
もう治ったかと思ったんだもん
あなたに仕事に 集中してほしかったの
ほら
(摩耶)うわっ ホント ごご ごめん
ホント ごめん
速い…
いいか 今度いたずらしたら 保健所行きだぞ
容赦しないからな
よし
ここなら安心だ
まったく
(笛付きおもちゃの音)
ほら 映った
(中川なかがわゆみ)わあ かわいい
かわいいだろう この犬 預かってみないか?
えっ いいの?
(中川良雄)ああ ダメダメ
なんで
ゆみ アレルギーなんだよ 犬は家に入れられないの
(中川圭子けいこ)そうよ ぬいぐるみで我慢しなさい
はーい
(信介の舌打ち)
(桑野育代いくよ)私で よかったら 預かってあげるわよ
(信介)えっ (育代)その代わり
温泉旅行に招待してもらえれば
そのほうが大変そうだから いいや
(ゆみ)あっ
あれ
(ゆみ)すごい
あっ ちょちょ ちょちょ
あら 便利ね これ
私も ボケてきたら このカメラつけてもらおうかしら
(信介) そっち行くな おい あっ
(中川) 手間は かかるけど 犬に 癒やされる人も 多いんだろうな
うん 独身の人が ペット飼うと—
ますます 結婚が遠のくっていうもんね
そういえば 信介
あんた子供の頃 犬 大好きだったのにね
そんなわけないだろ
(育代)あっ そうそう 私ね
いずれ 老人ホームへ 入ろうかと思ってんのよ
えっ
(育代) ここに入れば あなたたちに 迷惑をかけることもないし
よさそうだな 高そうだけど
だから 今の家は売って
お父さんが残してくれた 退職金なんか全部
入居する お金に使うんだから
あなたちには 一銭の遺産も 残してあげられないけど—
あしからず
フッ
24時間ジャグジーに—
5.1サラウンド オーディオルーム完備か ハハッ
すごいな これ 俺も入ろうかね
親子で入るなんて みっともない 別のとこにしてよね
(信介)ハッハ
ハア…
さては 何かやったな
あれ?
フッ 保健所行きが そんなにイヤか
フッ よく分からんやつだ
(携帯電話の着信音)
はい
沢崎さんから電話で聞きました
やっぱり お宅にいるそうですね ケンちゃん
(信介)ええ 今も不敵な笑みを こっちに向けてますよ
やっぱり私が預かります
大家さんに頼み込んで—
2・3日くらいなら いいって言ってくれたんで
まあ 結構ですよ
どうしてですか?
いえ もうちょっとね
こいつを 研究してみたくなりまして
研究って みちるちゃんの 大切なペットなんですよ
フンッ
まあ 生きて返しますよ
それじゃ
(不通音)
ほら 柵があるから大丈夫だぞ
よし 行こう
ほら ビビることないんだ 分かったか んっ
よし いくぞ
フフッ
あっ
(信介の口笛)
(信介)ほっ
(信介の鼻歌)
よしよし よしよし う〜ん
フフッ
(“モーツァルト 交響曲 41番ジュピター 第一楽章”)
(物音)
ああっ お前…
お前な これ触るなって 言っただろう
(ケンの鳴き声)
開き直るつもりか
あ〜あ… まったく
預かってやった恩を 忘れやがって
(ケンの鳴き声)
ふてぶてしいやつだな 本当に
(ケンの鳴き声)
こんばんは
(信介)じゃ お願いします
何かあったんですか 急に預かれだなんて
もう うんざりなんですよ
(ケンの鳴き声)
反省の色がないな
犬でも人でも 必ず欠点はあるんです
ちょっとは寛容さを持たないと
また説教っすか
それじゃ 行こう
行こう
うちに来れば もう大丈夫よ はい ちょっと そっち行って
はい どうぞ
あれ? どうしたの?
(携帯電話の着信音)
はい
エサ 食べてますか?
いいえ 全然
うちに来たときも そうでしたよ 放っとくと 食べますからね
ああ そうですか
あれ? どこ行くの?
ああ あと いろんなとこを あさる癖がありますからね
ゴミ箱とか すぐに ひっくり返すし
ああ ああああ…
我慢してください 犬も人間も 欠点はありますから
あっ 金田 更新してますよ
え?
(英治)ん?
“ちょっとパーティーに 行ってきました”
(信介)フッ こいつも家に誰も いなくても 平気そうなタイプだな
いや 家にいなくても お持ち帰りするからいいんでしょう
(ウエートレス)失礼します
子牛のクリーム煮 スイス風でございます
言われなくても分かってます
ごゆっくり どうぞ
(物音)
ええっ
(信介の舌打ち)
ハア…
(バーテンダー) 何になさいますか?
えっ
え… じゃ ソルティードッグ
かしこまりました
(金田裕之ひろゆき)あっ どうも
フッ どうも
(女性)ねえねえ (金田)うん?
見て
サリーちゃん かわいいでしょう
かわいいなあ
あっ そうだ
はい サリーちゃんに どうかなあと思って
(女性)ホントに? (金田)うん
うれしい ありがとう
いいえ フフッ
(バーテンダー) ソルティードッグです
(夏美)はいはい はいはい
やだやだやだ 無理 無理無理
イヤッ 痛い 痛い ぶつかった 痛いよ
待て 待って 待って ウソウソ ウソウソ
速い ちょちょちょ
あっ 喉渇いた 何か飲みたい
あっ こっち こっち こっち
ちょっと待っててね
(携帯電話の着信音)
はい 桑野さん? どうしたんですか
あっ あの アドバイスの追加です
散歩の時 犬の行くほうに ついていかなくても—
人の都合で引けば
勝手に ついてくるみたいですから
そうなんですか 早く言ってほしかったです
ああ… それと 音楽はワーグナーよりも—
モーツァルトのほうが 好きみたいですから
じゃ 聴かせてみます
えっ
なんで
どうかしましたか?
ケンちゃんがいないんです
はっ? 今… どこですか?
マンション近くの公園です あれ どこだろう
あっ あの…
捜しますんで ちょっと切りますね
あっ (通話が切れる音)
(夏美)ケンちゃん
ケンちゃん
ケン…
(信介)ケン
ケン
ケン
ケン
ケン!
ケン!
ケン
ハアハア ハアハア
ケン
ケン
ケン
ケン?
ケン… ケン! ケン
あっ
(信介)ケン
ケン!
ハア…
桑野さん
ああ ケンは?
あっ
ああ ケンちゃん よかった もう
ケンです
言われなくても分かってますよ
帰ります
あなたと桑野さん 目が似てる
(タイピング音)
ああっ ケンちゃん 元気そう
よかった 何事もなくて ねっ
ホントに ありがとうございました
(夏美)いいえ お大事に
ありがとうございました
(真理・和美)お大事に
よかったね ねっ
ペットを愛せる人は人も愛せる
桑野さんは—
ペットも愛せないから 人も愛せないんですよね
うん
でも お礼は言っときます 桑野さんに
うん
(犬の鳴き声)
あっ
あっ ご面倒をおかけして すいませんでした
いえ
さあ 我が家だよ〜
(みちる)何してるの? 早く入って
はい
(ドアが閉まる音)
フウ…
忘れよう
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