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（女性）
私のほうが ちょっと

若いんですけどね

（看護師）あっ 大丈夫？
（母親）すいません

（赤ちゃんの笑い声）

（笑い声）

（泣き声）

（母親）あらあら どうしたの？
どうしたの？

（泣き声）

（母親）どうしたの？

（看護師）桑野くわのさん 桑野信介しんすけさん

（信介）はい
（看護師）３番へ どうぞ

（泣き声）

（ため息）

（早坂夏美はやさか なつみ）どうぞ

（信介のせきばらい）

いかがですか？　調子は

まあ 見てのとおりです

（夏美）その後 下血や
おなかの痛みは ありますか？

いえ 全く

術後の経過は いいようですね

ええ それじゃ…

（夏美）ところで この間の
検査の結果なんですけど

フフッ

覚悟はできてますから どうぞ

ポリープの病理結果は良性でした

でも 総コレステロールが296
LDLコレステロールが188

それに 中性脂肪が320
高脂血症と言っていいでしょうね

高脂血症？

血液が脂っこいってことです

それに 血圧も高めだし
これに糖尿病が加わると—

“死の三重奏”と
いわれる状態ですよ

死の三重奏って
“死の四重奏”言いづらいな これ

四重奏は
肥満がプラスされた状態です

（信介）じゃあ 五重奏は？
（夏美）知りません

話を元に戻しますと
高脂血症と高血圧が続くと—

動脈硬化や
心筋梗塞につながるんです

食生活を考え直す必要が
あると思いますよ

肉の代わりに魚を食べて
あと酒は控えめ

野菜を多くとれって
言うんでしょ？

（夏美）分かってるじゃないですか
（信介）ええ それじゃ…

問題は それを
実行に移すかどうかですね

見るからに
お肉好きそうですもんね

前から疑問に
思ってたんですが—

医者は病人がいるほうが儲もうかるのに
なんで人の健康を願うんですか？

どうせ医者の言うことを聞かずに
病気になる人がたくさんいますから

“持ちつ持たれつ”ってことか

違う気がします

食べたい時に食べたい物を食べる

それで早死にするんだったら
本望ですよ

そんなことになったら
悲しむ人 あっ

ああ いないんですか？

さっき外 雨降りそうだったから
気をつけなきゃな

ひとつ
お聞きしたいんですけど—

生まれつき
そういう方だったんですか？

母親によりますと 小さい時は
素直で何でもよく聞く—

（信介）子供だったそうです
（夏美）フフッ

その証拠に—

“背が高くなりたかったら
牛乳飲め”って言われて

（信介）このとおり…
（夏美）じゃあ お大事に

大事にします

じゃ

（ドアの開閉音）

一体 何を
大事にする気なんだろ？

（沢崎摩耶さわざき まや）
こちらの壁を取り払って—

キッチンを前面に出したいと
いうのが桑野の意見です

（男性）ハア
台所が こんなど真ん中に？

（村上英治むらかみ えいじ）
キッチンを中心に発想するのが
桑野が作る家の特徴なんです

解放感あるし
使い勝手もいいですよ

（女性）ホント
私 こっちがいいわ

どうかなあ

（摩耶）あっ この２案のうち
どちらかをお決めいただいた上で

本格的な設計に
入らせていただきたいと思います

（女性）ねえ あなた
（男性）うーん

やっぱり 200万プラスって
いうのは厳しいよ

ああ うーん

あの 少し考えさせて
もらっていいでしょうか？

はい

ご連絡お待ちしております

まあ 急に予算を200万増やせって
言われたら 迷うの当然よね

（信介）結果的には
奥さんが勝つと見るな

（英治）俺も この２番目の
案のほうがいいと思いますよ

（吉川沙織さおり）でも200万でしょう？
英治君の年収じゃん

ええ まあ

そんなちょっとしか
あげてないの？

そう だから かわいそうだから—

私が おごってあげることも
あるんですよ

（信介）あー 今日 病院行ってきた
（英治）話をそらす

… で お医者さん 何か言ってた？

全然

そう よかったじゃない

（英治）
担当 女医さんらしいですよ

へえ 女医さん

（信介）何だよ？
（英治）きれいな人なんですか？

フッ 病気でもないくせに
顔が白くて—

しかも 全体的に
妙に作りが小さいんだよ

いい年して顔は子供みたいに丸いし
そのわりに声は…

きれいな人なんだあ

（英治）美人の女医さんに
診てもらったのかあ いいっすね

それはそうとして 全快祝いやる？

お２人に会社として接待
なかなかできないし

パーッと ごちそうするわよ
何でも好きな物

やったー ハハッ
何にしますか？

肉だな

♪〜

〜♪

中川なかがわか 何だ？

（中川良雄）今夜 家うちに
晩飯 食いに来いよ

なんで？

（中川）お前の血液検査の結果
早坂先生に見せられてさ

いや ひどいねえ

見るな
勝手に人のプライバシーを

（中川）
この数値を改善するためにも

家で 栄養バランスのいい食事を
食わせてやるよ

（信介）それ １日で効果あんのか
（中川）ない

いいだろう たまには
家族の団らんを体験しろよ

ねえ 焼肉 今夜でいいよね？

ああ フフッ

（信介）ああ 俺 今夜 焼肉なんだ
（中川）えっ？

いい具合に
霜降りが入ったやつを—

強火でガーッと焼いて
焦げないうちにレアで食うんだよ

うまい肉汁と一緒に—

脂肪やコレステロールも
たっぷりと摂取するってわけだ

それじゃ

（不通音）

ああ 先生 桑野さんに
話していただけましたか？

あのまま お肉食べてると
病気になりますよ

ビシッと言っときました
昔から世話のかかるやつでね

どうも

そうだ 俺 今夜ダメなんだ
予定 入ってました

（沙織）えっ？

お前さ

人が焼肉モード入ったあとに
そういうこと言うなよ

せっかく みんなで仲良く
焼肉食べようって話になってんだ

しかも久しぶりに だから お前…

じゃあ ２人で
行けばいいじゃないですか

えっ？

だって男女で
焼肉食べに行くのは—

恋人同士に
なったあとでしょ 普通

（英治）そっか
（沙織）うん

でも なんで そういうことに
なってんだろ？

フン 俺は そんなの関係ないよ
２人で行ってもいいぞ

（摩耶）私はパス
（信介）えっ

あっ そう それじゃ

あっ それじゃ 失礼します

（沙織）ああっ
ちょっと待って 英治

（英治）えっ？

今晩の予定って 何？

ああ あの おふくろが
田舎から出てきててさ

あの 相手してやんなきゃ
いけねえんだ

ふーん よく田舎から
出てくる お母さんね

うん まあね それじゃ

（ドアの開閉音）

（田村たむらみちる）
じゃあ 私より２コ下なんだ

うん 年上か
じゃ タメ口利いちゃマズいっすね

ああ いいの いいの 気にしないで

でも びっくりした 電話くれて

私 前から建築のお仕事って
興味あって

なんか お話ししてみたいなあ
なんて

そうなんだ

でも ケンさんは大丈夫なの？

えっ？

暮らしてんでしょ？　一緒に

ああ フフッ 写真 見る？

桑野の野郎

桑野さん
私が男の人と暮らしてるって？

いや そうは言わないけど
そう誤解するようなことを わざと

そんな人いませんよ
そっちは？　いるんでしょ？

いや そっ そんな人いません

へえ あっ
桑野さん お加減は？

あっ もうピンピンしてる
もう少し 苦しめばよかったのに

あっ 桑野さんの話は置いといて

あっ だよね

お互いのこと
まだ何も話してないし

（英治）おなか すかない？
（みちる）ああ ちょっと

（英治）イタリアン好き？
（みちる）イタリアン？　好き好き

（話し声）

（食器の音）

（話し声）

何にしよっかな

ほら これ ドリア全品使えるよ
スープは30円オフね

（信介）狭いな このキッチン

もっと スペース
広く取れんだろ これ

（中川圭子けいこ）
また 人ん家来て 文句言って
もう 早く座って食べて

誰の設計だ これ

（中川）焼肉は延期か？
（桑野育代いくよ）フフフッ

たまには こうやって 大勢で
食事するのも いいもんでしょ？

しょっちゅう来てんの？　この人

あなたに つべこべ
言われる筋合いはないのよ

近くなんだから
いつでも来てください

（育代）ねえ ありがとう フフッ
（中川）いえいえ

（ゆみ）伯父ちゃん
なんで いるの？

（圭子）よいしょ
（信介）あっ これ マヨネーズ

あっ かかってるわよ
ドレッシング ノンオイルの

そうだ このヘルシーメニューの
説明してやってよ

フフッ 肉の脂身や卵の黄身は

コレステロールが
多いから使ってないの

魚に含まれてるEPAやDHAは—

悪玉コレステロールを
取り除いてくれるんだって

海藻の食物繊維も
コレステロールを排出してくれるし

ビタミンＥやＣもとれるでしょ？

繊維分の多いコンニャク
きのこ類はサラダに入れて

これで１人 500カロリーぐらいかな

（中川）分かったか？
（信介）今のフランス語だろ

無理に決まってるわよ
この人には

あなたさ
お料理するっていったって—

どうせ 栄養なんか
何にも考えないで—

お肉を ただジューッと焼くだけ
そういうんでしょ？

（圭子）やっぱり 健康への
いちばんの近道は—

料理上手な奥様を
もらうってことなんじゃないの？

（育代）うん 確かに

孫ができるまでは
あなたに健康でいてもらわないとね

そのあとは用済みか

（圭子）ねえ いっそのこと
早坂先生は どうなの？

（中川）いや お尻の
手術をされた人は無理だろ

（育代）ええっ？　ねえ ちょっと
その早坂さんって どういう女性？

お医者様と結婚すれば
病気になった時 安心よ

（育代）ねえ ねえ ねえ
ちょっと ちょっと

その方って おいくつ？

（信介）メモんなよ
（圭子）ああっ もう

（店員）924円です

1000円からで
よろしかったでしょうか？

（信介）よろしかったです
（店員）はい

（店員）いらっしゃいませ

巻数 これで
よろしかったでしょうか？

よろしかったです

あっ いや ３巻じゃない

（口笛）

（みちる）なんか がっかり
イタリアンマミーよ？

初デートでチェーンの
レストランに行く？　普通

しかも 最悪なのがね
クーポン使うのよ

雑誌から切ったやつ そうそう
私 びっくりしちゃったよ

（西村千鶴ちづる）
いいんじゃん 若者なんだから

でも 高校生じゃないんだからさ
最低ラインってものがあるじゃない

（千鶴）
いきなり スカしたレストランに
連れてく男も引くけどな

ええ？　せっかくなら
おいしい物食べたほうがいいじゃん

渋谷で
イタリアンっていうから—

“アンジェパティオ”辺り
期待しちゃったよ

（千鶴）前の男のレベルを
要求しちゃダメよ

でもさ 前よりレベルの高い人と
つきあいたいっていう—

向上心も大切だと思うわけ

“思考は現実になる”って この間
読んだ本にも書いてあったし

（千鶴）建築事務所ってさ
給料少ないの？

ていうかさ

あの桑野さんっていう人が
ケチなんだよ 絶対

（みちる）ハッ
（千鶴）どうかした？

ううん 何でも また電話する

（みちる）こんばんは
（信介）どうも

あの—

私 同じマンションの人と
話すようになったのって初めてです

僕も そうだけど

あの 知らない同士なら
会釈するだけでいいと思うんですよ

でも 知り合いになったら 少し何か
話さないと気持ち悪くないですか？

話したいの？　僕と

ていうか
知り合う前に戻りたいです

（ドアの閉まる音）

何なんだろうね あの人
どう思う？

よいしょ

♪（“ショスタコーヴィチ
交響曲第５番 第４楽章”）

〜♪

どうだった？　昨日のデートは

（英治）フフッ
いや デートってほどでも

えっ なんで知ってんですか？

部下のことは
お見通しなんだよ

フフッ まあ バッチリでしたよ

まさか いきなり—

チェーンのレストランなんて
行ってないだろうな

えっ？

しかもクーポンなんか使った日には
これは もうおしまいだよ

だから機嫌悪かったんだ

（信介）これ模型にしといて
（英治）はい

おかげで こっちは
微妙に とばっちりだ

フフッ なんだ
彼女から聞いたんじゃないっすか

彼女 言ってたぞ

“あんな お子ちゃま
二度と ごめんだ”ってな

お子ちゃま？　なんだよ 自分から
電話しときながら その言いぐさ

（信介）おおっ 金田かねだ 更新してる
（英治）えっ

（英治）“ちょっとパリに
行ってきました”？

（信介）ちょっと行くなよ

（英治）なんか インチキ建築家に
先 越されてますね

こいつ 絶対 親が金持ちなんだ

チッ 世の中 金持ちが
勝ちってことなんじゃないっすか？

（摩耶）こんにちは
（英治）ああ いらっしゃい

ねえ 昨日のお客さん
あなたの案でいくって

奥さんの希望が通ったみたい

（信介）ああ そう
（英治）やったじゃないっすか

すぐに設計の修正作業に
かかんないとね

すぐ やりましょ

ちょっと片づけたほうがいいですね

（摩耶）そうね

（信介）はい

（英治）あっ できてる
（摩耶）さすが

（英治）フフッ あっ じゃ 焼肉
今夜 行きましょうよ ねえ？

チッ なんだ しょうがないな

（摩耶）ああ ごめん
今夜は私がダメなの

友達と島唄のライブ
行く約束しちゃった

（英治）えーっ そうなんすか
そっか

だったら２人で
行けばいいじゃない

男２人なら
問題ないでしょ

イヤですよ 男２人で
暗く 焼肉食うなんて

また別の日に
みんなで行きましょ

でも 不思議よね
ラーメン屋は１人で行けるのに—

なんで 焼き肉屋って
１人で行きにくいのかな？

ああ まあ ２人以上で
こう わいわい言いながら—

食うっていうような感覚が
あるからじゃないですか

なんで 行けるだろ

それに高級レストランも
１人じゃ行きにくいわね

（英治）いやあ 分かります
（信介）変なやつら

（英治）
あの 島唄って何ですか？

（店員）いらっしゃいませ
何名様ですか？

１人です

こちらへ どうぞ

ご注文は お決まりでしょうか？

これ ハーフサイズとかないの？

はい？

（信介）いや いい いい
（店員）あっ

えー 特上霜降りカルビ１人前

はい

特上霜降りロース１人前

霜降りロース はい

（信介）上ハラミ ええ…
（店員）上ハラミ

（信介）それと センマイ刺しに
（店員）センマイ刺し

（信介）レバ刺し
（店員）レバ刺し はい

（信介）これ それぞれ１人前ずつ
（店員）はい

（信介）あと 赤ワインをグラスで
（店員）赤ワインをグラスで はい

（男性）どんどん食えよ

（男性）
いや ホントに入らないんで

（男性）何を言ってんだ 食え

（女性）ほら 焦げてる
（男性）それ お前のだろ

（女性）これ あなたのでしょう？
（男性）いや お前のだよ ほら

（女性）ああ もう これ はい
（男性）なんだよ

うーん

（みちる）こんばんは
（夏美）ああ こんばんは

（みちる）いいですか？　隣
（夏美）ああ どうぞ

（みちる）よいしょ へえ
１人の席って初めて来たな

ふーん そう

なんとなく
会える気がしたんです

ねえ 突然だけど食事って
どうしてる？　特に夕食

えっ うーん
夜は１人なら自炊しますね 家で

ああ じゃ 最近は自炊なんだ

まあ そうです シングルなんで

自炊か 偉いね

この年になって 独りぼっちで
外食って なんか わびしくて

私の年になると
わびしさ通り越して平気になるの

（みちる）すいません
（夏美）フフフフッ ううん

仕事が夜10時とかに終わると
家に帰って作る気力ないし

定食屋は もう閉まってるし
レストランは入りにくいし

… で 結局ラーメン屋で
夕食ってことが多いかな

一応 栄養考えて
野菜ラーメンにして

（みちる）汁は残して
（夏美）そうそう そうそう

なんで急に そんなことを？

まあ 医者として独り者の
食事について考えてるわけですよ

夏美さんって かわいいですね
フフッ

フフッ 年下に言われてもね

（携帯電話の着信音）

もしもし

（英治）ああ あのさ
今 青山あおやまのバーにいるんだけど

これから来ない？

そんな 急に言われたって

チェーンのイタメシ屋なんか
連れてって すいませんでしたね

（みちる）えっ？
（英治）いや

“お子ちゃま”とか言われちゃ
気が収まらないっていうか

お子ちゃまなんて言ってないけど

来てよ
今日は ちゃんとした店だし

そんなの そっちの都合でしょ

悪いけど 私 これから野菜ラーメン
食べるの それじゃあね

いいの？

いいんです
行きません？　ラーメン

うん

あーあ 何やってんだ 俺

あっ 金田

（金田裕之ひろゆき）
僕 どっかで会ったっけ？

（英治）いえ
（金田）あっ そう フフッ

だから僕の経験じゃ
年上の女性には—

“さすがです”と
“勉強になります”だけ言っときゃ

（金田）大体 うまくいくんだよ
（バーテンダー）なるほど

（金田）もっとも 今は若い女性

（ドアの開く音）
（バーテンダー）いらっしゃいませ

（金田）よう

（女性）待った？
（金田）いや 全然 どうぞ

桑野さんより イケてんじゃん

（夏美）それでね
（みちる）はい

結婚しようと思ってた人がいたの

はい はい はい

同じ大学病院に勤めてて

医療に対する考え方も
通じるものあったし

ああ この人かなって感じあった

うんうん

… で プロポーズされて
うれしかった

ですよねえ

でも 結婚って考えた途端
足がすくんだっていうか—

どうしてですか？

私ね 一生 医者として
やっていきたいと思ってるの

ああ そりゃ そうですよね

彼は 結婚したら すぐ
子供が欲しいって人だったの

でも その時 私
大きな論文に取りかかってたし

それが終わったら 民間の病院で
臨床をやりたいと思ってたし

子供 産んで

キャリア中断してる場合じゃ
ないって感じだったのよ

… で そのことを彼に話したら
途端に雰囲気悪くなって

話し合い
うまく いかなかったんですか？

うーん というより
うまく話し合えなかったっていうか

つまり 夏美さんは—

その時 事故って
一度 車庫に入ったと？

うん

あの どうして それ以来
入ったままなんですか 車庫に

えっ？

いや 私なら すぐ発車オーライって
感じだと思うんですけど

うん 仕事が忙しいから

出会いがないから
いい男がいないから

うーん どれも ちょっと違うな

あの時 結婚してたら
どんな人生だったんだろうね

フフッ

（ため息）

（みちる）すいません

（みちる）ビール もう１本
（店員）はい

（みちる）おごりです
（夏美）ありがと

（店員）はい お待ち
（みちる）うん どうも

（みちる）
まあ ポジティブシンキングですよ

（夏美）フフフッ そうね

自分は これでいいんだって
信じられるといいんだけどね

（みちる）そうそう
（夏美）フフフッ

（夏美）あれ？
（みちる）えっ？

あっ

うーん

（夏美）誰といるのかな？
（みちる）さあ

もしかして１人？

まさか
連れの人 トイレじゃないの？

（夏美）１人だ
（みちる）１人ですよ

（夏美）ああ 網 替えてもらってる
（みちる）あっ 追加頼んでる

“肉は控えろ”って言ったのに

（夏美）帰りましょう
（みちる）はい

うーん

（摩耶）こんにちは
（棟梁とうりょう）アハハハッ どうも どうも

よし

あの ちょっと
聞きたいんですけど—

お隣さん ホントに俺のこと
お子ちゃまなんて言ったんですか？

（信介）何？　それ
（英治）えっ “何？　それ”って

いや 俺 それ聞いて
すっげえムカついたんすよ

だから
片つけてやろうと思って—

“今から出てこい”なんて
電話しちゃったじゃないっすか

自分の言動の責任は自分で取れ

おお おっ

（信介）おっ おっ おおっ
（英治）ああ ああ

何やってんですか？

肉 食っても運動すりゃいいんだよ

（英治）あっ こんにちは
（摩耶）英治君 こんにちは

（英治）あっ 棟梁も どうも
（棟梁）ヘヘヘッ

（信介）あーっ あっ
（落ちる音）

（英治）ああっ
（信介）イテッ

（摩耶）大丈夫？
（英治）大丈夫ですか

（棟梁）ああっ
ちょっと動かすな ああ

（夏美）どうしたんですか？

うん まあ 労災ってやつですかね

結構 病院に縁のある人ですね

フン

（摩耶）ごめん 電話してた
（せきばらい）

（摩耶）あっ こちら 例の？
（夏美）例のって？

桑野が お世話になりまして
ありがとうございます

（夏美）いいえ
（受付）桑野さん

イテッ ああっ

ああ いいって あっ ちょっと私
支払いしてきてあげる

（夏美）なんだ
（信介）えっ？

（夏美）いるんじゃないですか
（信介）何が？

（夏美）ああいう人
（信介）どういう人？

ああいう人がいるんだったら—

ちゃんと栄養バランスのいい食事を
作ってもらってください

心配して損しましたよ

何 言ってんだ？

（摩耶）思ってたより
きれいな人だった

（信介）えっ？

あの人に お尻の手術をねえ

アイテッ

それじゃ 食事とか不便よね

あっ なんなら今夜
食事 作りに行ってあげようか？

えっ？

焼肉 お供できなかった埋め合わせ

ああ 結構だ

俺は 自分の部屋に
人を入れない主義なんでね

何か 他人が俺の部屋に入ると
空気が こう よどむ気がするんで

ふーん

じゃんけんぽい

勝った
タクシー代 そっち持ちね

卑怯者

よろしくお願いします

いらっしゃいませ

（英治）これ いくらですか？
（みちる）499万8000円になります

（英治）100年ローンとか
できますか？

（みちる）無理です 仕事は？

ちょっと アクシデントがあって
時間 空いちゃって

こんにちは

すいませんでした
ゆうべは 変な電話して

ああ 別に

俺のこと お子ちゃまなんて
言ってないんでしょ？

（みちる）言ってない
（英治）ハア よかった

いや 俺 いきなり
あの店とか連れてって—

気分悪くしたかなとか
余計な心配しちゃって

（みちる）気分は悪くしたよ
（英治）えっ？

もちろん 若いから
お金ないのは しょうがないし

けど 私にしてみれば
男の人と会って—

すぐチェーンの
レストランに連れていかれたら—

自分が安く
見られてるような気がするの

言っとくけど 私はね
あんな店が似合う女じゃないの

さすがです

ていうか そういうことを
言ってみたい お年頃

勉強になります

（みちる）真面目に聞いてんの？
（英治）聞いてます

私 失恋したばっかりだから
そういうとこナーバスなのよ

油断すると 自分で自分の評価が
どんどん落ちそうで

（社員）田村さん
（みちる）はい

それじゃあね

あの人 相手に
何 語ってんだろ？　私

（携帯電話の着信音）

あっ もしもし どうしたの？

沙織さあ イタリアンマミーで
メシ食うのって どう思う？

うん いいじゃん あの店
安いわりに おいしいし

ふーん

（沙織）えっ それが？

いや 分かった そいじゃ

採血の結果は
手渡しできるように—

全部コピーしといてねって
言ったはずよね

（小沢真理まり）すいません
（江森和美かずみ）気をつけます

じゃあ お願いね

（ドアの開閉音）

えっ？　私
なんで 機嫌悪いんだろ？

（電話の着信音）

はい うん どうした？

シングル同士で おいしい物でも
食べましょうよ

今夜どうですか？

シングル同士
パーッとやりますか

なんで ケガしてる日に こんなの
買わなきゃいけないんですか

お前に荷物持ち 頼めるだろ

えっ？　俺に運ばせるためかよ

（信介）そこ置いとけ
（英治）はい

（英治）よいしょ ハア ハア
（信介）帰っていいよ

あっ これ 残業代出ますか？

親切でやってくれたんだろ？

ハア 腹減ったなあ

（英治）あっ
（みちる）あっ

あの ２人で家で食事でも
作って食べようって話になって

いいなあ

（みちる）一緒に食べる？
（英治）えっ マジ？

（みちる）いいですか？
（夏美）うん よかったら

やったー ハハハッ

あっ … で こちらの方は？

あっ 中川総合病院の早坂先生

ああ 例の

フフッ 私って
“例の女”なんですか？

（夏美）フフッ
（英治）あっ じゃ 俺は

（信介）うん 行け
（英治）お疲れさまです

それじゃ

♪（“マーラー交響曲
第５番 第５楽章”）

（笑い声）
（みちる）何 それ？　もう

（英治）いや いや いや
危なかったですね

いやあ ホントに危ない

“お前 運転 下手クソなんだろ”
なんて言ってたら帰ったらですね

… で
バッシャー降りてきたわけです

そしたら モロこれですよ

もう それが だから
人生最大の危機だったわけですよ

… で 大丈夫だったの？　それ

（英治）いや それは もうこの先は
ちょっと話せないですけども

（みちる）なんで なんで？
（夏美）えっ ダメなの？

（英治）
いや 女性の前では これは
ちょっと話せないようなことが—

出来事が起こってしまいました

♪〜

（携帯電話の着信音）
（ため息）

はい

ちょっと ちょっと
８チャンネル見なさいよ

なんで？

（育代）アシカの夫婦がね

そろって芸やってんのよ
面白いから

フフッ なるほどね

（育代）いいから いいから
見なさい

（信介）はいはい はい はいはい

今 つけた

（育代）ハア ああ かわいいわ
（笑い声）

ハハハハッ ホントだね

アシカも こうやって
夫婦むつまじく やってるのよ

あなた
アシカに負けてるわよ

（中山とゆみの笑い声）

（育代）じゃあね

（電話の切れる音）
（不通音）

ハア

（夏美）ハハハッ
（みちる）もう おなか痛いよ

ああ やっぱりさ
人と一緒の食事って いいね

うん 栄養も大切だけど
食事は楽しくないとね

うん まあ でも
１人が楽しいって人もいますけどね

でも あの人 いるんでしょ？

（英治）えっ 何がですか？

（夏美）きれいな人 病院に来てた
（英治）あっ 沢崎さん？

いやいや もう ただの仕事関係

恋人なんて言ったら
あの人が怒りますよ

そうなんだ

♪（“ショスタコーヴィチ
交響曲第５番 第四楽章”）

また始まった

当てつけだよ 当てつけ

（携帯電話の着信音）

（信介）はい
（英治）ああ 俺ですけど

（信介）何か用か？
（英治）音楽 うるさいんですけど

そっちの笑い声が うるさいから

あっ
“こっち来ませんか”って—

早坂さんが言ってんですけど

（信介）どうせ ついでだろ
（英治）いや ついでってことは…

ついでです

ついでだそうです

（夏美）恋に落ちる瞬間ね
（英治）はいはい

（夏美）意外性を感じた時
（英治）意外性？

印象の悪かった人が—

実は こんなにいい人なんだって
分かった時とか

ああ あるある
最初から そこそこ印象いいより

（みちる）そのほうが
好きになっちゃうかも

（みちる）そのほうが
好きになっちゃうかも
（夏美）うん！

そっか えっ じゃ“悪い”から
“いい”に変わったほうが—

ポイント高いんですね
勉強になります

（ケンの鳴き声）

お前 これ欲しいのか？

ちゃんと味わって食べてます？

そのパスタは私が作ったやつで

ビタミンＣとカルシウムがたっぷり

その豆腐ヒジキハンバーグは
夏美さんのお得意メニューでーす

低カロリー 高タンパク

フフッ 腹に入れば一緒だ

気に入ってんですよ
イヤなら食べませんから あの人

お肉ばっかり食べてないで—

そういうメニューも
気にして取り入れてください

はい ああ 俺にかまわないでさ
勝手に ご歓談すれば？

お前 その体勢 疲れないか？

ねえ 桑野さんの
恋に落ちる瞬間は何ですか？

落ちない

そんなことないでしょ

落ちるんじゃなくて
上がるんだ 上に

まあ 落ちるよりは いいかも

うん たまに
マシなこと言うんすよね

フフッ 適当に言っただけだよ

私も そろそろ恋を見つけよう

そうしたら
久しぶりに車庫から出れるかも

えっ 車庫って何すか？

あっ 夏美さんね 結婚しようと
思ってたことがあったけど

仕事のために諦めたの

それ以来 車に例えれば
“車庫に入ったままみたい”って

あっ
言ってよかったですか？

（夏美）いいよ 別に

ええっ でも その車庫から
出ようと思ったら—

いつでも外に出れるって
話ですよね？

（みちる）うん そうですよ
（夏美）フフッ うん

もう サビついて
動かなくなってるかもしれないぞ

どういう意味ですか？

だって 四捨五入して40だろ
車に例えるとか言うからさ

四捨五入して40の女は—

車に例えると
サビついているんですか？

いや サビついてるほうが
腐るよりマシだろ

どうして
そんな ひどいこと言うんですか

私はサビついても
腐ってもいません

（信介）ああ
（夏美）ハア 私 帰ろうかな

（英治）あっ
（夏美）あっ 片づけ

あっ あっ いいです
私やりますから

（英治）あっ 俺もやりますよ
あの ごはんのお礼に

そう じゃ おやすみなさい

（みちる）
おやすみなさい 気をつけて

謝ったほうが
いいんじゃないっすか

あの 年より若く見えます

追いかけて謝ってください

ほら

ああ

（うなり声）

いらっしゃいませ

（信介）それ つまんないですよ

（夏美）つまんないですか？
（信介）ええ つまんないです

（信介）あの 俺は その
一般論を言ったっていうか

自分は悪くないって？

（信介）いや 悪いんでしょ？
（夏美）“悪いんでしょ”？

みんなで責めるから つっ つい

自分は悪いって思ってないんだ

ああ いや

謝りに来たんじゃないんですか？

いや まあ

すいません

もういいです

（せきばらい）

これ面白いです

面白いですか？

（夏美）借りよっかな
（信介）はい

（テレビ音声）

つまんない

感動してるぞ 今頃
ざまあみろだ ハハッ