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(敦康親王)中宮様。
(藤原彰子)親王様…。 漢文の刻限ではございませんの?
嫌になったので 逃げてきました。
帝には ないしょにしてください。 はい。
よかった。
(宮の宣旨)荷葉の香りでございます。
うっ…。
(赤染衛門) 中宮様のご学問も お話の相手も➡
今は 藤式部が務めておるそうにございます。
(藤原道長)はあ… はあ…。
(源 倫子)どうなさいましたの? こんなにお早く。
中宮様が…➡
ご懐妊あそばされた。
急ぎ 知らせに戻った。
おめでとうございます。 ああ…。
♬~
(宮の宣旨) 中宮様のお体に障りのないよう➡
これまで以上に しっかりとお世話申し上げるように。
(女房たち)はい。
♬~
(まひろ)参りました。
そなたらは 下がれ。
お加減 いかがでございますか?
今日は 気分がよいゆえ ないしょの話をしたい。
(一条天皇)懐妊の祝いに 中宮に しるしの帯を送る。
手配いたせ。 承知つかまつりましてございます。
藤式部は 何故 漢籍に詳しいのだ?
父が 学者でございましたので➡
幼い頃 弟に 父が 漢籍を読み聞かせているのを聞いて➡
覚えてしまいました。
私には 無理であろうか…。
学ぶことは いつからでも始められます。
以前 帝が 藤式部と話しておられた…。
「高者 未だ必ずしも賢ならず 下者 未だ必ずしも愚ならず」。
あれは 何の話だ?
白居易の新楽府の一節にございました。 シンガフとは 何だ?
唐の国の白居易という詩人が 民人の声を代弁し➡
為政者のあるべき姿を示した 漢詩にございます。
帝のお好きな書物と存じます。
それを学びたい。 ないしょで。
ないしょででございますか…。
亡き皇后様は 漢籍もお得意だったのであろう?
私もひそかに学んで 帝を驚かせ申し上げたい。
「獨り善く戰い 善く時に 乘ずるのみならず➡
心を以て人を感ぜしめて 人心歸す」。
太宗皇帝は ただ 戦がうまく➡
時運に乗ずるのに たけていたのみではありませぬ。
人に対し 常に真心を尽くしたゆえ➡
おのずと 人々の心は 皇帝に付き従ったのでございます。
真心を尽くす…。
政の頂にある者が 人々の心を まことにつかむのは➡
並大抵のことではございませぬ。
そうか…。
続きを。
(藤原斉信) 中宮様のお子が 皇子であったら➡
道長は 盤石だ。➡
めでたい めでたい。
(藤原公任)めでたいことは めでたいが➡
皇子であったら ややこしいことになるな。
(藤原行成) ややこしいことは ございませぬ。
これまでの倣いによれば 居貞親王様のあとは➡
帝の一の宮 敦康親王様が 東宮になられるのが道理にございます。
敦康様の後見は 道長だが もし道長が後見をやめたら どうなる。
そのようなことを 道長様が なさるはずはございません。
(斉信)ふ~ん…。
あれ? 何も言わないのか?
次の東宮様のお話をするということは➡
帝が御位をお降りになる時の話をする ということだ。
この話は もう終わり。
ここからが面白いのにな~。 ああ。
(藤原道綱) 花山院が お隠れあそばしてございます。
(居貞親王)なんということか…。
ご在所にて 厳かなご最期であったと 聞いております。
これで 冷泉天皇の子は 私だけになってしまった。
我が子 敦明が 次の東宮にならねば➡
冷泉の皇統は途絶える。 は…。
中宮様のお産みになる子が 皇子でないことを祈るばかりだ。
(道綱)こればかりは➡
お生まれになってみないことには 分かりませんのでね…。
(ため息)
(敦明)道綱。 もっと父上を大事にせねばならぬぞ。
はっ。 敦明様には ご機嫌麗しゅう。
これから狩りに参る。 そなたも どうだ?
(藤原娍子) この間 行ったばかりではありませぬか。
母上… 私は 力が有り余っているのです。
人にぶつけるより 獣にぶつける方が マシでございましょう。
私は 狩りは苦手でございますゆえ。
そなたは 獣の肉を食わないのか?
食べます。
肉を食うくせに 自分の手は 汚したくないというやつか。
ハハ… いや~。
道綱。 中宮様のご様子 逐一知らせよ。 はっ。
しばらくの間 里に下がりますが➡
親王様は 怠ることなく 学問にお励みくださいませ。
親王様?
お子が生まれたら 私と遊ばなくなるのでしょ?
そのようなことはございませぬ。
私は 中宮様の子ではありません。
まことの子が お生まれになれば➡
その子の方が いとおしくなるのは 道理です。
親王様が ほんの幼子であられた頃から➡
親王様と私は ここで一緒に生きてまいりました。
今日まで ずっと。
帝のお渡りもない頃から 親王様だけが 私のそばにいてくださいました。
この先も 私のそばにいてくださいませ。
子が生まれても 親王様のお心を 裏切るようなことは決してございませぬ。
♬~
中宮 彰子は 出産のため 土御門殿に退出した。
夜も ゆっくり休めるようにと 殿の仰せでしつらえた。
ここで存分に書いておくれ。
ありがたいお計らい まことに うれしく存じます。
人見知りで 口数も少なく 笑顔もお見せにならなかった中宮様が➡
帝のご寵愛を受け 見違えるほど明るくなられた。
藤式部の物語の力が 帝のお心を変え➡
中宮様を変えたのだと 殿から聞いておる。
母として 私は 何もしてやれなかったが そなたが 中宮様を救ってくれた。
心から ありがたく思っておる。
そのような… お方様 もったいのうございます。
どうか これからも中宮様を頼む。 はっ。
我が屋敷は そなたも若き日より 慣れ親しんだ所。
自分の家のように過ごしておくれ。
「人の心の好惡 苦だ常ならず 好めば 毛羽を生じ 惡めば瘡を生ず」。
人の好き嫌いの心は とても変わりやすいもの。
好きとなれば 羽が生え 飛ぶほどに持ち上げて大事にしますが➡
嫌いとなれば 瑕ばかり探しだします。
私も 間もなく 帝に 瑕を探されるのであろうか。
瑕とは 大切な宝なのでございますよ。 え?
瑕こそ 人を その人たらしめるものにございますれば。
♬~
(藤原妍子)中宮様 ご機嫌麗しく お喜び申し上げます。
(藤原教通)あの人 誰? (威子)知らない。
これ。
こちらは 藤式部。
私の大切なご指南役ですよ。
(左衛門の内侍)衛門様 このようなことで よろしいのでございましょうか?
何のことですの?
(左衛門の内侍)悔しくはございませんの?
あなた様は 指南役の座を奪われ➡
私は 中宮様のおそばに仕える務めを 奪われたのでございますよ。
中宮様が 藤式部をお求めになれば 致し方ないことです。 では。
衛門様は 昔から 藤式部を ご存じなんですのよね?
ええ。 では お聞きしますけれど➡
左大臣様と藤式部は どういう間柄なんでございましょう?
は? ただの主従ではありませんわよね。
ありえませぬ。
藤壺でも 左大臣様は 藤式部のつぼねに➡
しばしば しばしば お立ち寄りになるようになって➡
毎度 ひそひそ ひそひそと。
フフフ… 大事なお話があったのでございましょう。
では これで。
♬~
見舞いの品を送っておけ。 はっ。
中宮 彰子 懐妊の陰で 定子の産んだ媄子内親王は➡
この世を去った。
僅か9歳であった。
(藤原伊周)待たせたな。
(ききょう) この度は 媄子内親王様の御事➡
ひたすら お悔やみ申すばかりにございます。
(ききょう) くれぐれも お心落としありませぬよう。
それで来てくれたのか。
私は 皇后様ほど お慕いし お尽くし申し上げた方はございません。
今も 竹三条宮で 脩子内親王様にお仕えしつつ➡
毎日 亡き皇后様を思い出しております。
秋には 中宮に お子が生まれよう。
何もかも 左大臣の思いのままだ。
帝のお心さえも…。
信じられません。 皇后様一筋の帝が 何故…。
藤式部という女房が 帝のお心をとらえ奉る物語を書き➡
次第に帝のおみ足が 藤壺に向かわれるようになったらしい。
藤式部… それは どういう女房でございますか?
前越前守の娘といったかな…。
いかがいたした?
あ… その方が➡
帝のお心を引き付けまいらせる物語を 書いたのでございますか?
帝は そなたの「枕草子」を 破れるほどお読みになっておったのに➡
今は その者の物語を いたくお好みだそうだ。
伊周様 その物語を 私も読みとうございます。
この者らが 中宮様ご出産を 記録する者たちにございます。
うむ。
よしなに頼む。 (官人たち)はは~っ。
帝の子の出産時には 漢文による 公式記録をつけるのが通例であった。
藤式部。
頼みがある。 は…。
中宮様のご出産の記録を 作ってもらいたい。
公の記録など 私には…。
中宮様のおそばにいて➡
中宮様のお心をよく分かっているお前にも 書いてもらいたい。
う~ん…。
中宮様の晴れの場 後に続く娘たちにも 役立つように 残したいのだ。
承知つかまつりました。
はあ… うん。
私も 死ぬのであろうか。 (宰相の君)は?
亡き皇后様も 最後のお産で身まかられた。
お呼びでございますか?
ほかの者は 下がれ。
ご気分がお悪くていらっしゃいますか? 分からぬ…。
お方様をお呼びいたしましょう。 い… いらぬ。
母上に心配はかけたくない。
そなたがおればよい。
恐れながら 中宮様のお気持ち よく分かります。
私にも娘がおりますが お産の前は 不安でなりませんでした。
そなたも そうであったのか…。
帝のお喜びになるお顔を 思い浮かべてくださいませ。
きっと不安は 遠のきましょう。
[ 心の声 ] 「真夜中から お屋敷が騒がしくなり始める」。
[ 心の声 ] 「日がな一日 中宮様は➡
とても不安げに 起きたり伏せったりして➡
お過ごしになられた」。
ふう…。
[ 心の声 ] 「祈とう僧たちは➡
中宮様に取りついている もののけどもを➡
寄坐に駆り移そうと 限りなく大声で祈り立てている。➡
南には 高貴な僧正や僧都が 重なり合うように座り➡
不動明王の生きたお姿をも 呼び出してみせんばかりに➡
頼んだり 恨んだり…」。
≪うるさい! ≪(物音)
[ 心の声 ] 「皆 声が かれ果てているのが とても尊く聞こえる」。
≪(笑い声)
恐ろしく強いな もののけが…。
(読経)
(呪詛する声)
(呪詛する声)
(読経)
うるさいこと。
(読経)
もう嫌! お黙りなさい!
お清めを。
[ 心の声 ] 「頭には 邪気払いの米が 雪のように降りかかり➡
しぼんでしまった衣姿が どんなに見苦しかったことか➡
あとになると おかしくてならない」。
(読経)
(百舌彦)中宮様 ただいま お大事の最中ゆえ こちらで。
(藤原顕光)これは ちょっと…。
帰ろうかな。
私は…➡
やります。 えっ。
(読経)
(呪詛する声)
(読経)
道長!
どうか… どうかお鎮まりくださいませ!
(悲鳴)
≪(産声)
皇子様にございます。
(どよめき)
♬~
(藤原頼通)皇子様…。
♬~
皇子様だ!
♬~
皇子であったか…。
皇子…。
♬~
(藤原穆子)よかった。
亡き殿も どんなにかお喜びでしょう。
♬~
美しい皇子様ですこと。
お手柄ですわ。
私の今日は 藤式部の導きによるものです。
礼は 藤式部に。
もう さんざん申しましたわよ。
♬~
「めずらしき 光さしそう 盃は➡
もちながらこそ 千代もめぐらめ」。
その歌の心 聞かせてくれ。
中宮様という月の光に➡
皇子様という新しい光が加わった盃は➡
今宵の望月のすばらしさ そのままに 千代もめぐり続けるでありましょう。
よい歌だ。
覚えておこう。
(源 俊賢)うむ… これで 左大臣様も盤石だ。 ハハハ。
(源 明子)フフフフ…。 うちの寛子も必ず入内させます。
まだ裳着も済ませておらぬではないか。
土御門には負けられませぬ。
子らを 政争の具にするなと 左大臣様も仰せになっておったぞ。
殿の言いなりにはなりませぬ。➡
フフフフフ…。
一条天皇は 敦成と名付けられた若宮に会いに➡
土御門殿に行幸した。
朕に抱かせよ。
一条天皇は この日 敦成に親王宣旨も下した。
この日は 五十日の儀。
子供の誕生 50日に行われる 今で言う お食い初めの祝いである。
♬~
ちょちょ ちょちょ…。
これも これも これも これも これも…➡
ハハハハ! これも これも これも これも…➡
み~んな 50個なのだよ。 ん?
50日で 50個!
〽
今日は 敦成親王様が 健やかに 50日を迎えられた祝いのうたげである。
無礼講ゆえ 皆々 心ゆくまで楽しんでくれ。
いっくらでも酔ってくれ。
♬~
ハハハ。
♬~
女子は どこかな…。
まあ…。 (顕光)アハハハハハ!
♬~
(大納言の君)大納言様 寒うございます。
(せきばらい) この辺りに 若紫はおいでかな?
若紫のような美しい姫はおらぬな。 ハハハハ。
ここには 光る君のような殿御はおられませぬ。
ゆえに 若紫もおりませぬ。
藤式部。
は…。
なんぞ歌を詠め。
はっ。
「いかにいかが 数えやるべき 八千歳の➡
あまり久しき 君が御代をば」。
さすがであるな。
用意してあったのよ。
「あしたづの よはひしあらば 君が代の➡
千歳の数も 数え取りてむ」。
(ざわめき)
(馬中将の君) あうんの呼吸で 歌を交わせるなんて…。
母上。
藤式部。 はい。
左大臣様とあなたは どういうお仲なの?
帝へのお土産を作りとうございます。 まあ…。
賢子の役に立てたいと思って…。
うそつき。 母上なんか大嫌い!
次の東宮に…。 そなたも その心があるか?
もうお黙りを。 盗人が押し入ったそうにございます。
光る君の物語 読みました。 三十三帖か。 大作であるな。
これから どうなるのだ? まだ終わってはおりませぬ。
京都市内の中心部に広がる京都御苑。
かつて この界わいには 貴族の屋敷が立ち並んでいました。
明治時代に公園として開放され➡
今も 市民の憩いの場として 親しまれています。
園内の一角には 藤原道長と源 倫子の屋敷➡
土御門殿の跡地があります。
紫式部は 出産のために里帰りをした 彰子に従い この地を訪れました。
紫式部の日記には➡
安産祈願の儀式の様子や 道長が孫を慈しむ姿など➡
土御門殿での出来事が 細かく記されています。
敦成親王の五十日の儀も この地で行われました。
藤原公任が 「この辺りに 若紫はおいでですか?」と➡
紫式部に尋ねたというエピソードは➡
「源氏物語」について記された 最も古い記録であると考えられています。
今は 穏やかな時が流れる この地を中心に 藤原氏は 栄華を極めたのです。
おふねちゃん…。
彼女を知っていたという ならず者が殺された。➡
手習い仲間だったお松や 飾り職人の新吉も➡
その一件に巻き込まれる。➡
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