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私の一日は、
いつもここから始まる
差が目に
染みる。
朝の匂いがする、
立ち上がった湯気に体が包まれて、まだ
夢が覚めてないみたい。
アップな。
今日は約束があったんだ。
太一。
ごめん、また
全然今ちょうど来たとか
嘘だ。
本読んでたじゃん。
気にしない。
気にしない
ほら。
何
てつなが。
太一は、私の幼なじみ。
明るく元気で、笑顔がまぶしい。
ずっと前から知ってる男の子、
それだけじゃない。
また、太一の看板がある。
今度は化粧品だ
うん。
しかも女性用のやつなの
珍しいでしょ。
太地は、
誰もが知ってる。
人気の若手俳優で、特に10代の女の子
からの指示は絶大だ。
今ここに大地がいると知られたら、パニ
ックになるに違いなかった。
この先にあるんだけど、この間、番組の
ロケで行った場所がいい感じでさ、一緒
に行ってみたいと思ったんだよね。
もしかして
先週、ドラマの番戦で出てたやつ、
おっ。
見ててくれたんだ。
そりゃそうだよ。
だって、私は大地の
今、写真。
大丈夫。
気づいてるのは一人だけだし、
とりあえず走ろう
待て。
誰もが後期の目を向ける人気者なのに、
太一は私の手を
躊躇なく握ってくれる。
だから、いつも
私は大地といると、
ドキドキする。
ドキドキするのは、走ったからでしょ、
運動不足なんじゃない。
そういうことじゃないよ。
いつも家で寝てばっかなんでしょ。
そりゃトイチに呼ばれたら、すぐ行ける
ようにしないと。
だし、
そっか
喫茶店に足を運んだ。
私と大地は
互いのない話をして盛り上がった。
太地は私といる時だけは、ただの幼馴染
に戻ってしまうみたい。
じゃあ俺、
そろそろ行くから
お金払ってくれ。
もう
約束したでしょ。
今日はここまでじゃ。
また
私の髪を撫でて、大地は出て行ってしま
った。
太地はとても忙しい。
本当だったら、こうして会う時間を作る
ことも簡単なことじゃない。
それは分かっていた。
また、
今度
家に帰ってテレビを見ると、大地が写っ
ていた。
会えなくても、テレビをつければ、
動画を再生すれば大地を見ることができる。
でも、
それは本物じゃない。
俺は作り物の笑顔。
仕事じゃない。
プライベートの彼の笑った顔は
いたずらな猫みたい。
本当の大地を知ってるのは私だけ。
本当にそうかな。
本当に私は
彼のことを知ってる。
テレビから変な声が。
私にそっくりな
声。
違う。
こんなに私の声はいびつじゃない。
前にもこんな声
聞いたことがある気が
する。
私は大地のことを小さい時から知ってる。
知らないことなんて。
太一と会えない時の私は、
空っぽで退屈で、眠たくて、
まるで私じゃないみたい。
そんなことを考えているうちに、いつの
間にか眠
りに落ちていった
もしもし、
ごめん起こしちゃったよね。
トイチ。
全然大丈夫。
どうしての。
さっきはすぐに帰っちゃったから、
スケジュール確認したんだけど、映画の
撮影が終わったタイミングなら、会えそ
うなんだよね。
どうかな。
いつ。
むしろ撮影終わった後とか。
疲れちゃわない。
いいの。
オフの時間こそ有に使わないと。
こっちに会わせてもらってごめんね。
じゃあ、日付なんだけど、
太地はフォローも完璧で
好かれない理由がない。
私の知っているいつもの大地だ。
こんなに素敵な人を
私だけの人にしていいのだろうか
なんて思ってしまった。
数週間後、
映画の撮影を終えた太地に会いに私は都
会の街に来ていた。
めったに履かないヒールの靴を履いてき
てしまったのは、
久しぶりに会えるのが嬉しかったから
しまった。
時間間違えちゃった。
一時間も早いよ。
せっかくだし、
ちょっとブラッとしてみるか。
たくさんの男女が行き交っている。
とっても仲が良さそうだけど、他人に興
味のない私には、
彼らが能面をつけているようにしか見え
ない。
私だけがネオンの明かりから外れて、
夜の闇にいるみたいだった。
大地って
どんな服が好きなんだろう。
やっぱ
可愛い系かな。
大人っぽい人。
興味なさそうだもん。
マネキンが並ぶディスプレイの前で私は
立ち止まる。
そういえば、私は太一がどんな子が好み
かを気にしたことがなかった。
すると、
マネキンの口がゾワゾワと
アリがうごめくように突然動いた。
あいつの好みなんて知って。
どうするの。
また
この声。
知ったところで何の意味もないのに。
だって、
あなたは
やめて。
ごめんなさい。
大丈夫。
一。
どうしているの。
もしかして、予定が早く終わったとか。
えっと、
隣にいる人
どれ。
隣に立っていた女性を、私は見たことが
あった
そうだ。
テレビに出ていた人。
年上の女優さんだ。
最近やっていたドラマで、大地の恋人役
をやっていた。
そういう設定の
ああ、
違うんです。
この子は。
俺の幼なじみ。
そんなんじゃないんで。
ごめん、
これから電話しようと思ってたんだけど、
この人と用事ができたんだ。
また連絡するから、
気をつけて帰って。
きれいな人。
いつも私と出かける時は、周りにバレな
い格好をしているのに、
さっきの大地は
気にしていなかった。
撮影終わりで一緒になったのかな。
でも、
大地のあんな顔。
私の前ではしたことがない。
ヒーローが折れてる。
また、大地から連絡が来なくなっちゃった。
私は大地のことが好き。
でも、どうしてだろう。
好きなのに、時々、とても不安になる。
片思いじゃないのに。
何も間違ってないはずなのに、
洗面台の鏡に映った私の顔は、
すごくひどい顔をしている。
そう思った時、
鏡の中の私がこう言った。
かわいそう、
そう思っているのは
あなただけなのに。
電話はなるべくしない。
う約束していたけど、
大地の声が聞
きたくなってしまった。
その優しい声で、
私の不安を取り除いてほしかった。
もしもしね、
ごめ
ん寝てた。
うん。
私にとって。
大地って
どうしたの。
気になっちゃって。
あの時、一緒にいた人誰
のこと。
年上のきれいな人。
クイズみたいだな。
そんなこと言われても、
仕事的に女の人と一緒にいることなん
て、いつものことだし。
そうだけど、
それに、
最初に約束したろ。
俺、誰とも付
き合わないって。
ボケてんの。
全部役作りなんだって。
俺って
恋愛者やることが多いから、
たくさん経験積んでおかないと役
に活かせないし、
幼馴染と付き合うとか、鉄板だろ。
知らない。
そんなの。
知らない。
ああ、思い出した。
この間、写真撮られたろ。
あれが意外と拡散
されちゃってさ。
俺のイメージにも関わるから、
もっといいものに上書きしないといけな
かったんだ。
あの時の人にもそう説
明して納得してくれたよ。
いい
もんな。
まさか
本気にしちゃった。
どうすればいいかわからなかった。
私には大地しかいなかったから。
大地だけの私だと思っていたから、
とりあえず、
お風呂葉
まだ入
ってなかった
バスタブに水を貯めながら
私は考えた。
これからどうしよう。
大地にとって、私はディスプレイに並ん
でいるものの、一つ
思い入れなんてあるはずがなかった。
どうして気づかなかったんだろう。
そもそも私は
今までどうやって生きてきたのか
思い出して、
思い出すって。
何は。
声は水の底から響いていて、
私は目を向ける。
そこに映る私の顔
は
骨のようだった。
気持ち悪。
すっごく嫌な夢を見た気がする。
思い出したくもないくらい黒テ
スクなやつ。
寝袋で寝てるせいかな。
でも
心地よくて、
病みつきになっちゃうんだよな。
朝ごはん食べよう
や。
夜か
つ
朝ごはんのつもりだったのに、
外の景色は代々色と紺色が食い合っている。
食事を終えた私は、簡単に支度をして家
を出ることにした。
英二さんの仕事の時間に合わせていた
ら、すっかり昼夜逆転しちゃった。
私がやってきた場所は、クラシックで少
しお高めなホテル。
このホテルのスイートルームに住み着い
ている平治さんに、
私は会いに来ていた。
公衆電話から英二さんに連絡してもつな
がらない。
まだ
仕事が終わっていないのかもしれない
私は、
先に部屋に入って待つことにした。
英二さんの匂いがちょっとだけする。
生き慣れてるせいで、ホテルの人にも止
められなくなっちゃった。
一体何だと思われてるんだろうね。
独り言、
びっくりした
声
ってたんですか。
ちょうど今、さっきね、
うんシャワー浴びるんだけど。
君もどう私は出かける前にしてきたんで。
そう。
一緒に入りたかったのに。
バーカ。
英二さんの素性をよくわからない
年上の社会人で、結構な額を稼いでいる
ということだけ。
そんな英治さんと最初に出会ったのは、
履き慣れないパンプスで街を歩いていた
時だった。
ヒールが折れちゃった。
どうしよう。
君。
大丈夫
具合悪い。
ああ、
違うんです。
ヒールが。
こう、ポキッと
そうなんだ。
じゃあ、応急処置してあげるよ。
そのまま、じっとした。
で、
お、
えっと、
英二さんは、
綺麗で高そうなハンカチを取り出すと、
ためらいなく折れた。
ヒーローを結び始めた。
その手際がとても軽やかなの。
と
かがんで、私の足先を見つめる首筋が美
しく感じた。
はい、
結んだだけだけど、歩けなくはないから。
じゃあ、これで待って、
あの俺、
お礼させてください。
俺
か
この世に出会って、
今に至り。
い、乾いた
ねえ。
今、別の人のこと考えてたでしょ、
そんなことないです。
英治さんにかなう別の人とかいないんだ。
嬉しいこと言ってくれるね。
だって、本当のこと。
だから。
年上だからよく見えてるだけだよ。
ほら
ねえ。
閉じて
おい。
触ってもいい。
もちろん、
英二さんの骨張った綺麗な指で、
私の体は
優しく暴かれていった。
おっそ
ごめん。
まだ寝てていいのに。
英二さんは
眠くて。
おぼろげな私の頭
をそっとなでる。
私を見つめる瞳は、とても優しくて、
少しだけ冷たく見えた。
仕事ですか。
うん。
もうちょっと君とゆっくりして痛かった
んだけどね。
ああ、そうだ。
朝、ごはん注文しといたから、食べてって。
それじゃ、
英二さんと会えるのは、この部屋だけ。
夜から朝に変わる時間、
電話ボックスから連絡してつながる時しか、
その体に触れられない。
それでも、
何もなくて退屈で空っぽな私には
刺激的でドキドキする時間で、
英二さんと過ごす時間だけは
どうか壊
れないでほしいと願っていた。
あー、悪い
手がすべて触らないで、
今、ホテルの人に片付けてもらうから、
英二さん
疲れてる。
ちょっとだけね。
でも、君に会えたから問題なし。
よくそんな言葉すらすら出てきますね。
英二さんは普段何をしているのか。
他に家族や恋人はいるのか。
英二という名は、
本当に彼の名前なのか。
たくさんの疑問がいつも喉から出かける
けど、頑張って押し込んだ。
だって、
そんなことを聞いてしまったら、
また何か考えてる。
英治さんって結構疑い深いですよね。
そういう勝負なんて、
君が思っているほどきちんとした人間
じゃないんだ
しゃはった。
重いですって
ね。
ちょっと
眠っている英治さんの
少し幼く見える顔を眺
めていたら、
口が開いていないのに声が響いた。
君はそれでいいの
じ。
そん
ちょない。
余った類だけで進展しない。
関係に溺れて時間だけを浪費して、
その甘さは。
やがて
乙女の時間をむしばんで、体が腐ってい
て、骨がむき出しになる
よ。
こった
まだ寝てる。
一瞬、英二さんが起きてしまったのかと
思って、
ほっとしたのもつかの間、
英治さんは誰かの
名前を口にした。
それは私の知らない名前。
今付き合っている人なのか、
それとも家族
の名前なのか。
何も知らない私には開幕。
見当がつかなかった。
うん、分かった。
どうかを大事に。
また後で駆け直すから、
君、起きてたんだ。
盗み聞きだなんて趣味が悪いね。
タバコ
吸うんですね。
あれ。
君の前では吸ってなかったんだっけ。
他の人の前では吸うんだ。
ごめんね。
今、していた電話の通り、用事が入っ
ちゃってさ。
また今度ね。
それから
英二さんに連絡しても、
つながらなくなった。
前は
週に何度も会っていたのに、
もう半月は声を聞いていない。
平凡で退屈な日常にまた戻ってしまった。
もしかしたら、
最初に会った場所に行けば、見かけるこ
ともあるかも。
そう、歩き出そうとした時、
水たまりに映った私がこう言った。
せっかく離れられるチャンスなのに、
そこまでして会いたいの。
別に会いたいわけじゃない。
会いたいんじゃなくて、気になるだけ。
ただ、惹かれるだけ。
中身が空洞で真っ黒な私を
満たしてくれる人なんて他に知らないから。
あれ
どうして君、
エイジスさん、
すごいつぶぬれこそ入ってください。
ありがとう。
濡れた紙をいつも見ているはずなのに、
雨に濡れた英二さんは違う人のようで、
今目の前にいるのは、
私の知らない世界の平治さんだと思った。
ごめんね。
傘は二人じゃ狭いだろう。
英二さんとなら狭くても大丈夫。
むしろ嬉しい。
いつもの場所、
行く。
はい。
部屋に着くまで、
英二さんは一言も口を開かなかった。
英治さん、
何。
私に何かできることある。
もし私が力
になれることが
あったら、
唇を強引に塞がれた。
私は
ベッドの上に押し倒された。
痛い
私の手を強く掴んだ英治さんは、
冷たい目をしている。
逃げるなら今のうちだよ。
逃げる。
僕らはここで。
ただ、
お互いのことを知らずに触れ合うだけの
関係だ。
深入りできるのは体の奥底だけ。
それ以上ない。
それが嫌なら、消えるべきだ。
私は
知りたい。
英治さんの心の中は、辛いと思ってるこ
とは、
私は分かってしまっていた。
英二さんは、私を離れさせるために、わ
ざと悪い人のふりをしている。
でも、
その優しさを感じてしまうと、なおさら
離れたくなくなる。
そんなに、簡単に騙されるほど
適当な関係のつもりではなかった。
もっと
ぶっていいよ。
それから一晩続いたのは、
苦しくて辛いだけの時間。
私の意識はゆっくりと
黒く塗りつぶされていった。
オメ
読んでる
朝、目が覚めると
英二さんの姿はなかった。
一切
連絡もつかなくなった。
ホテルに尋ねても、英二さんがずっと泊
まっていた部屋は、あの日から別の人が
使い始めたようだった。
久々に家で朝ごはんを食べながら、
ぼんやりと考えた。
私は結局、
英二さんのことを何も知らない。
連絡する手段ももうない。
英治さんとの関係は
跡形もなくなってしまった
うだうだ。
考えててもしょうがない。
久々に学校でも行くか、
電車に乗るのも久々。
こんなに人って多かったっけ。
やっぱり行くの。
やめよっかな。
楽しくないのに、行く必要なんて。
駅のホームで待っていた私は気づいた。
ずっと探していた人物が
向こう側のホームに立っている。
年上の女性と、
小さな男の子と女の子と一緒に。
バカみたい。
まさか
声でもかけるつもり。
やめなよ。
どうして。
だって、
あの人はもう他人でしかないから。
あなたはなかったことにされてる人。
もう会いたくない人なんだよ。
でも、
私は知ってる。
英治さんの優しい瞳とか、
笑った髪の匂いとか、肌
の感触とか
なかったことにはならない。
何も知らないわけじゃない。
待て、
今、
恋は。
夢の中で。
か。
もうこんな事故
先輩。
俺。
はじめくん。
あれじゃないですよ。
今、何時だと思ってます。
そうだ。
学校
ちょっと待って、着替えてくる。
どんだけ楽しい夢見てたんですか。
えー、そんな楽しい夢じゃなかった気が
するけど、
着替えた。
行こう
なんですか。
人の顔、ジラジラ見て、
律儀にお迎えしてくれるなんて、
いい子だなって
急いでください。
次の電車に乗れなかったら確実に遅刻です。
嘘。
急がなきゃじゃん。
だから。
そう言って
早
下扱いすると怒る。
顔が可愛いのは高校一年生の初君。
初めて初君を見た時は、中学生だと思っ
ていた。
病院に来ていた私は、学校の人と出会わ
ないよう、遠回りをしながら帰ることに
した。
こんなとこ、
もう二度と来たくない。
自分をダメにする恋をしていた私は、
染み込んだ罪悪感とおさらばするために
ここに来ていた。
でも、
体の後は消えても、
罪の意識は殴れそうにない。
私がしたことは
人殺しのようなものだから。
そんな時、
階段のある方向から音が聞こえて、
私は足を止めた。
何これ。
紙コップ。
あ。
ごめんなさい。
それ。
電話に使ってて。
分かった。
糸電話だ。
はい。
小児科の子たちと遊んでたんです。
どうぞ
懐かしい。
ちっちゃい頃よくやったな。
あの
子供っぽいってバカにしてません。
僕。
一応高校生なんですけど。
え。
そうなの。
それが、病気で休みがちな初君との出会
いだった。
せっかく遅刻しないで済んだのに、図書
室にこもるんじゃ意味ないんじゃないかな。
ずっと入院してたんで、
クラスに行っても居場所ないですし。
先輩は。
私も同じかな。
あんまり仲いい人いないっていうか、
居心地よくないし。
なんでそんな嬉しそうなの。
だって。
先輩を独り占めできるじゃないですか。
初君が私をよく思っているのは分かって
いたけど、
分からないふりをしていた
純粋無垢な初君には、私はふさわしくな
いと思ったから
けど、
突き放す勇気もなくて。
こうして一緒の時間を過ごしている
初君って、
なんで植物の本ばかり読んでるの。
病室の窓から
いつも中庭が見えてたんで。
花って
必ず最後には枯れるから、
そこに惹かれるというか。
そっか
体の弱い初君は
時々切ない表情を見せる。
狂おしいほど魅力的で
壊したくなるような横顔だった。
この本はこの棚に戻して。
初君。
そんなとこ
に突っ立ってるなら、手伝ってよ。
先輩。
聞いてください。
いつも聞いてるじゃん、
また病院に戻ることになっちゃいました。
そうなんだ
じゃあ、
遊びに行くね。
学校にいるよりマシだし。
どうしたの。
危ない
からこの手話して、
もう
戻れないかもしれない。
そんなこと
だから。
先輩と
ずっと一緒にいたい。
離れたくないんです。
大丈夫ですか。
先輩。
元君が引っ張るから、
いきなり。
変なこと言わないでよ。
ほら。
手離して。
嫌だ
話して
いたいよ。
僕
本気です。
変なことを言ったつもりじゃなくて、
同い年のこ
とか。
もっといい人いるじゃん。
それは私じゃない。
僕には先輩しかいないのに。
あの時、
私がなんで病院にいたか知ってる。
私がなんでクラスの人に汚い目で見られ
てるか知ってる。
私はね、
私はいいんです。
僕だって汚い人間だから。
こうやって弱みを見せて
先輩に断らせないように必死。
だから
その必死な顔はとても愛おしくて、
断ることなんて
できなかった。
初君と唇を重ねると、
机の上にゆっくりと倒れ込む。
その時、
私はど
こかから視線を感じた。
誰
か来ました。
こん違っこも。
でも片付けよ。
次の日から初君は病院に戻ることになり、
私は頻繁に会いに行くようになった。
あれ。
なんで窓が開いて。
これ。
糸電話だ。
もしもし
やっぱり先輩だ。
子供っぽいってバカにしてたくせに。
この窓からさ、
病院抜け出さない。
たまには外でのデートも。
どう。
ぜひ
病院に飽き飽きしてました。
こんなに混んでるとは思わなかった。
お祭りやってたんだ。
いつもこんな感じでやってるんですね。
そんなに珍しい。
ちっちゃい頃から、こんな。
なので、
誰かと一緒に遊びに来たの初めてかもし
れません。
それも
好きな人と
そっから。
その時、
人混みの中に会いたくない人たちを見つ
けた。
その人たちは、私のことを見つけると、
口元をみやりと歪ませた。
教室にいる時に見せつけてくる嫌な感じ。
聞こえなくても言われていることがわか
ってしまう。
でも、
言われて当然のことを私はしたから。
先輩、
せっかく誘っていただいて嬉しいんです
けど、
もっと静かなところに行きたいです。
わかった。
河原で線香花火なんて素敵でしょ。
返事がなくて、私は顔を上げる。
初君は、消えゆく花火の明かりをぼんや
りと見つめていた。
先輩、
何。
僕と
駆け落ちしませんか。
どうしたの。
急に
何の話、
冗談ですよ。
でも、
いつになったら先輩と普通に会えるよう
になるんですかね。
僕って
ずっとあの真っ白な部屋に閉じ込められ
たままなのかな。
もう少しの辛抱だよ。
本当ですか。
私はとっさに嘘をついた。
私は知っていた
病院に足を運んだ時に、
初君のお母さんに声をかけられたことが
あった。
彼の抱えている病は
簡単には治らない。
むしろ悪化していて、
どんどんと体をむしばんでいっていると、
彼にはまだ
そのことを伝えられていないと、
さっき
宝塚が売ってるのが見えたんですけど、
宝塚って
いろんな花言葉があるの知ってますか。
知らない。
どうなの。
例えば
心の平安とか。
僕は先輩と一緒にいると
そういう気持ちになれる
じゃあ、
私がこれからも
君の心の平安であり続けてあげよう。
約束ですよ。
それから
図書室で一人で過ごすことが増えた。
前のように不登校になろうかと思ったけど、
元くんに怒られそうだった。
この本、
前に元くんが読んでた
花言葉の本。
こう、
宝塚にはたくさんの花言葉がある。
初君がそう言っていたのを思い出した。
私は
他の意味を調べるためにページをめくっ
ていくと、
宝塚の花子トボ
心の平安、
不思議。
夫を
偽りと
細かし、
君はきっと気づいていた。
がとっさについた嘘に、
自分の問
題に
ってことは、
あの時言ってた。
駆け落ちって
嫌な予感がした。
私は学校を飛び出した。
病院に着くと、初君の姿はない。
開いた窓から吹き込む風でカーテンが揺
らめいていた。
どこにいるかわからない初君を私は探した。
この間、巡った場所を当たっていると、
花火をした瓦にその姿を見つけた。
初君。
こんなとこにいた
先輩
どうしたの。
誰にも言わずに抜け出して
行ったら先輩
ついてきてくれました。
一緒にいたいって先に行ったのは、君じゃ
駆け落ちも
してくれますか。
いいよ、
初君が満足できるなら
どこにでも言ってあげる。
本当に
僕に対する罪悪感からじゃなくて、
嘘をついたのは、
君を傷つけたくなかったから。
でも
そのせいで孤独を感じたのなら、
私にも。
はじめくんの苦しみを分けて、
つらいことも全部私が一緒に味わってあ
げる。
嬉しい
じゃあ、行こう。
先輩。
どこに。
あっち。
元。
君は。
私の手をつかむと、
ゆっくりと歩いていった。
僕はもう
全部が嫌なんです。
私も
一緒だ。
全てを受け入れて、沈んでいくと、
水面から手を差し伸べられた。
それは時々感じていた視線の正体。
もう一人の私だった。
ほら、捕まって
いかないで、
手を引っ張ってあげるなら、
私じゃなくて、
初君にしてあげて。
私がそう言うと、
私は悲しそうな顔で視界から消えていく。
やっと
気づけた
罪悪感を抱いていたのも、
楽になりたいと思っていたのも、私。
目を閉じると、
私はゆっくりと暗闇の底に落ちていった。
また
嘘だ
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