All language subtitles for 나에게 어울리는 호텔 2024 1080p

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Original subtitles

(中島加代子なかじま かよこの声)作家の山口やまぐち 瞳ひとみは

ここ“山やまの上うえホテル”を

ここ“山やまの上うえホテル”を (ホテルマン) いらっしゃいませ

“小説家のためのホテル”と 称したそうだ

神保町じんぼうちょう古本屋街 大手出版社に近く

調べ物や打ち合わせの勝手が いいばかりではない

40足らずの客室ゆえに 行き届いたホスピタリティ

物書きに多い美食家をうならせる 天ぷらやステーキのおいしさ

巣ごもり気分になれる 丘の上の静謐せいひつな空間

そのすべてが 小説家に活力を与えるとともに

創作の孤独を そっと包んでくれるのだ

池波正太郎いけなみ しょうたろう

石坂洋次郎いしざか ようじろう

井上いのうえ 靖やすし

川端康成かわばた やすなり

高見たかみ 順じゅん

檀だん 一雄かずお

松本清張まつもと せいちょう

三島みしま由紀夫ゆきお

このホテルを愛した文豪を挙げれば 切りがない

このホテルを愛した文豪を挙げれば 切りがない (ページボーイ) お客様

(ページボーイ) 401号室でございます

何かございましたら フロントまでお電話ください

ごゆっくりお過ごしください

(加代子)ありがとう

ただいま

私のためのホテル

よし!

♪~

(ペンを走らせる音)

~♪

(ノックの音)

(遠藤道雄えんどう みちお) 今年も自腹で小説家ごっこか?

相田大樹あいだ たいじゅ先生

おーい!

“ごっこ”じゃないです 私は正真正銘 小説家です

まだ単行本が 1冊も出版されてないけどな

先輩 なんで ここが分かったんですか? 帰ってください!

せっかく気分に浸ってたのに… 最悪です

編集者が訪ねてきてやったんだ

立派に小説家気分を味わえるだろ

“ホテルに缶詰の有名作家” 自腹で気取るヤツなんて

なかなか いないぞ

(加代子)先輩 そもそも 何しに来たんですか?

先輩?

ちょっと!

(遠藤)中島… お前 まだ ファミレスのバイトやってんの?

(加代子) 先輩には関係ないでしょ!

先輩 これ もしかして…

(遠藤)あ?

うわー! ありがとうございます

数々の有名作家に愛された 差し入れの定番

千疋屋せんびきやのフルーツサンド

ありがたく頂きまーす!

お前に千疋屋は まだ早いだろ

先生 酒も好きだけど 甘い物も好きだから

(加代子)先生?

(遠藤) 501号室のスイートルーム

東十条宗典ひがしじゅうじょう むねのり先生を缶詰にする時は ここって決めてんだよ

先生をロビーで待ってたら お前が入ってきたから

冷やかしに来た

まあ お前への差し入れは あとでまた届けるよ

東十条宗典…

あっ そうか

先輩 今 担当してるんでしたね

私の不遇の元凶!

今年度のプーアール社新人賞を 受賞いたしました相田大樹先生に

いま一度 大きな拍手を お願いいたします

(拍手)

あっ あの… あの ほんとにうれしいです

あの… ほん… ほんとに ありがとうございます!

(ゴン!) (加代子)痛いたっ!

(出席者たちの笑い声) (加代子)アハハ… すいません

(東十条宗典の声)“先日 プーアール社新人賞を受賞した―”

“相田大樹という新人作家の 短編を読んだのだが”

“何故なぜこんな作品が賞を獲とったのか”

“私には理解できない”

ちょっと待ってよ

あの たった1本の書評のおかげで 私は今も 鳴かず飛ばず

あれは不運だったな

…で 先輩が わざわざ来たってことは その…

新聞の連載で忙しいとかで なかなか時間が取れなくて

今日になったんだよ

デッドラインは明日の朝9時

今回ばかりは落とされたら困る

東十条先生の読み切り短編は

来月の創刊50周年特大号の 目玉の1つだしな

「小説ばるす」の創刊50周年特大号?

“50”に ちなんで 短いコラムから短編まで

掲載した売れっ子作家 50名の名前が

表紙にズラッと並ぶ

業界注目の豪華企画だ

ってことは ですよ

もしも今晩中に 東十条宗典の原稿が上がらなければ

私にもチャンスが!

何 言ってんの? お前

あるじゃないですか!

先輩とつくり上げた 私の あの短編が!

(遠藤)あー! (加代子)それ!

(駆け寄る足音)

助けてください 遠藤先輩!

(加代子) 私 単行本を出したいんです

(遠藤)2年前だっけ? プーアールの新人賞

そうです

順風満帆だと思っていたのに

東十条宗典の辛辣しんらつなコメントで すべての風向きが変わり

2年たった今でも まだ出版の話は ありません

編集部に 何度も 原稿を送ってますが

最近は 修正どころか 返事もありません

先輩

私 どん底です 助けてください!

プーアール社から出せないお前が うちから出せるわけないだろ

こんなこと言っちゃ悪いけど うちとプーアールじゃ 格が違う

(加代子) 同じ大学のサークルのよしみで

助けてください!

お願いします!

(遠藤) 昔のよしみで 何とかなるような

そんな甘い世界じゃない

分かってるだろ?

先輩 変わっちゃいましたね~

やっぱ出世すると 人間 変わるんだ~

大手出版社の文鋭ぶんえい社に就職して

役員の娘と結婚して

子どもも2人いて

業界でも一番の売れ筋文芸誌 「小説ばるす」の編集者ですもんね!

俺の経歴は関係ないだろ

(加代子)すみませんでした! 私ごときが生意気を!

どうか… どうか 先輩のお力を!

(涙声で)私 先輩のほかに 頼る人がいないんです

原稿は あんのか?

はい もちのろんです!

(遠藤)単行本を出すのは まだ無理だが…

(加代子)だが?

短編くらいなら 掲載できる可能性は…

(加代子)可能性は?

ゼロ

…でもないか

(加代子)ん?

やったー! さすが先輩!

出世しても 人間 変わらない

結局 先輩は 後輩を見捨てられない

心優しい方なんですよ!

(遠藤)ゼロではないってだけで 限りなくゼロに近いぞ

(加代子)なっ!

そこを何とか…

やるだけやってみるか?

はい もちのろんです!

やり直し

えっ?

意味が分からない

ヒイッ!

盛り上がりに欠ける

ううっ…

ある程度は形になったかな

え? え? ほんとに?

(遠藤)うん

うわっ… 立ちくらみ!

時は来た

あの原稿は この瞬間のために!

ついに 50人の売れっ子作家の 1人として

“相田大樹”の4文字が

あの「小説ばるす」の表紙に 刻まれる!

中島 また変なこと考えるなよ

また?

お前は 昔から ムチャをする人間だということを

俺は知っている

サークル時代のお前がやらかした 数々の事件は

思い出したくもない

(加代子)ふざけるな! 全然 自由じゃねえじゃねえか!

権力 振りかざしてんじゃねえよ!

コラァ! 大学はアウシュビッツか!

自由にさせろよ!

べ… 別に 何も考えてませんよ

今の話は忘れろ

この世界 近道なんかないんだからさ

真面目に頑張れよ

これでも ちょっとは期待してんだよ

(ドアの開閉音)

あの恨み 晴らさで おくべきか…

待ってろ ほえ面づら かかせてやる

“女は かくあるべし”が口癖だ

男尊女卑クソジジイ!

(机をたたく音)

(ノックの音)

ルームサービスでございます

どうも

先ほどお帰りになったお客様から 賜りました

遠藤先輩?

はい 遠藤様です

失礼します

よろしければ 今

栓を抜かせていただいて よろしいでしょうか?

あー いえ

今は いいので そこに置いといてください

あの… 遠藤様から “必ず係の人が抜いてください”と…

私が“すぐに飲みたい”って 言ったんですけど

“やっぱり あとでいいかな~” ってなったので 大丈夫です

大丈夫ですか?

大丈夫です!

では ごゆっくりお過ごしください

(ドアの開閉音)

差し入れは いいけど

なんでシャンパン?

(物音)

(物音)

(東十条)ん?

ハァ…

(電話のベル)

もしもし

(加代子:男性の声色で) 静かにせい! 静かにせい!

話を聞け!

男一匹が命を懸けて 諸君に訴えているんだぞ!

諸君は武士だろ!

三島?

(明美あけみ)先生って 山の上ホテルの常連なんですか?

もしかして スイートルーム?

まあな

(明美)フフッ

確か 三島先生とかも 常連だったんでしょう?

すごい

(東十条)まあな (明美)フフッ

(東十条の声)三島の亡霊?

(東十条の声)三島の亡霊? (電話・・加代子) 静かにせい!

(電話・・加代子) 静かにせい!

(電話・・加代子) 静かにせい! いや 待て

いや 待て

いや 待て 静かにせい! 話を聞け!

静かにせい! 話を聞け!

静かにせい! 話を聞け! 文学ホテルならではの 粋なサービスかも

文学ホテルならではの 粋なサービスかも

文学ホテルならではの 粋なサービスかも (加代子の 話し声が続く)

(加代子の 話し声が続く)

(加代子の 話し声が続く) しかし 時間が…

その時 三島にあおられて 私に文学が降ってきた

(東十条の声)実に困った

主人公 蓮子れんこの気持ちが 全くつかめない

父親でもおかしくない年齢の 妻子ある上司に心を寄せる

20代前半の銀行員

そもそも その年頃の 私の周りの女性なんて

ホステスに モデル 女優

ふん!

(ノックの音)

(ノックの音)

(ため息)

ルームサービスでございます

こちらは 当ホテルから東十条様への プレゼントでございます

よく冷えたシャンパンを ご用意いたしました

いや 私は仕事中は 飲まないことにしている

結構だ

痛いったっ

でも サービスですから

(東十条)サービスって 君 何時だと思ってるんだ?

(加代子)最近 始まりました

新しいミッドナイトサービスで ございます

寝てたら どうするんだ!

深夜に頑張っていらっしゃる 小説家の先生のみに限定した

サービスでございます

大好評です

ぜひ受け取ってくださいませ

だから 酒は飲まないんだ

(加代子) 受け取っていただくことが

従業員一同の願いでございます

(東十条)君…

(加代子)失礼いたします!

(東十条)君! 君! それを置いて 早く戻りなさい

せっかくのシャンパンですので

文豪コール 入れさせていただきまーす!

文豪コール?

逍遥しょうよう 四迷しめいに

鴎外おうがい 露伴ろはん!

国木田くにきだ 荷風かふうに

漱石そうせき 藤村とうそん!

花袋かたい! 白秋はくしゅう! 潤一郎じゅんいちろう!

芥龍あくりゅう! 川端かわばた! 太宰だざいに安吾あんご!

三島みしま 遠藤えんどう 大江おおえに司馬しばで

おぉぉぉぉぉぉぉぉ

ムラムラ(村上○○ 村上○)文豪っ!

一気(五木)! 一気(五木)! 一気(五木)! 一気(五木)!

(ポン!)

(東十条と加代子の叫び声)

(東十条)何をしてる! ああ…

(加代子)申し訳ありません! 私が何とかいたします!

ああー!

(東十条) あー! どけ どけ どけー!

あー あー! あー あー!

あー ダメだ…

ど… どうか

どうか このことは ホテルには言わないでください!

バレたらクビです!

本当に本当に 申し訳ありません!

(泣き声)

泣くな 泣くな!

泣きたいのは私だ

うわーん! 本当にすみませーん!

許してください!

これ以上 騒がないでくれ 頼むから…

でもー!

大丈夫 コピーは取ってある

以前も 原稿に 水をこぼしてしまったことがあってね

ううっ…

ああ… なんて お優しい

実は私

先生のファンなんです

ファン?

先ほど フロントでお見かけして

もう 居ても立っても いられなくなってしまって…

このシャンパンも 私が個人的に用意したものなんです

君 それは…

(加代子)分かってます

ホテルで働いている者として 失格です

でも 先生をお慕いする気持ちが 抑えきれなくて…

私 先生の作品は すべて読んでいます

ほう 全部?

全部です

私 先生に憧れて 小説家になろうと思ったんです

小説家?

では なぜ このホテルで働いている?

(加代子)どうせ働くなら いろんな人に会えるホテルで働いて

視野を広げたいと思ったからです

先生もエッセイに 書かれていらっしゃったでしょ?

“小説家には 筆力よりも まず経験が必要だ”って

私には 圧倒的に人生経験も

恋愛経験も足りませんから…

恋愛経験が… 足りない?

あの… ええと…

その…

(東十条の声)恋愛もせず

ひたすらに夢を追いかける この純粋さ

よく見れば 化粧っ気もなく 髪も傷んでいる

これこそ… 彼女こそが 今回の主人公 蓮子なのではないか?

先生 申し訳ありません

お慕いするあまり…

もう そのことはいい

えっ?

(東十条)そこに座りなさい 君の話が聞きたくなったよ

(加代子)いいんですか?

(東十条)いいから

(東十条の声) この素朴さの中に潜む 純粋な情熱

まさに蓮子だ

先生にお聞かせする話なんて 私には何も…

あっ!

私 先生に憧れるあまり 早星田わせいだ大学に進学しました

(東十条)早星田!

(東十条)ハハッ 後輩か (加代子)はい

もちろん 先生と同じ 文芸サークルです

ハハハッ 思い出すよ

まだ存続しているんだね うれしいことだ

(加代子)実は 一度 廃部になりかかったんですが

新入部員を大勢 勧誘することに 成功したんです

その年のミス早星田を入部させて

ミス早星田が文芸部に?

ハハハッ

君 ウソ言っちゃいかんよ

本当です

もちろん 簡単ではありませんでした

(おなかが鳴る音)

あっ 私ったら…

すみません

よかったら このフルーツサンドを食べなさい

(加代子)いや そんな…

でも また おなかが鳴ると 恥ずかしいので

お言葉に甘えて 頂きます

おいしい!

ありがとうございます

先生は本当にお優しい

(東十条の声)蓮子…

(加代子)話の続きです

廃部を回避するには ミス早星田の入部が不可欠

そこで私たちは ある作戦を思いついたんです

ある作戦?

一体 どんな作戦なんだ?

少しだけ聞かせてもらえないか?

先生に聞いていただけるなんて 光栄です

ただ ちょっぴり 長くなるんですけど…

ハハッ 気にするな

君の話が気になって 仕事どころではない

ありがとうございます

では もう 勤務が終わるところなので

また こちらの部屋に 伺ってもいいですか?

もちろんだとも

(加代子)それでは 後ほど よろしくお願いします

(ドアの開閉音)

私服も…

楽しみだな

(鳥のさえずり)

(自動ドアが開く音)

(ホテルマン)中島様!

お電話 入っております こちらへどうぞ

あちらです

もしもし 中島です

(電話:遠藤)俺だ

あっ 先輩?

(遠藤)中島 驚かないで よく聞けよ

東十条先生が原稿を落とした

今から お前の短編でいけるか 掛け合ってくる

というか 穴を埋めるには それしかない状況だ

マジですか

相田大樹 承知しました! (受話器を置く音)

よっしゃ!

(電話:東十条) おい 聞いているのか?

(遠藤)はい 聞いておりますが

新人作家がメイドのフリをして 大御所の執筆を妨害?

そんな小説みたいなこと…

(東十条)その相田大樹とかいう 新人を呼び出せ

知ってるんだろ?

(遠藤)よく知ってます

担当は私ですし そもそも大学の後輩ですから

じゃあ 呼べ

今すぐ呼べ!

証拠は まさに今 君の手元にある 「小説ばるす」50周年特大号だ!

これが… 証拠?

相田の作品をよく読みたまえ

あの晩 私の部屋に来たメイドが

朝まで話して帰った内容と そっくりなんだ

あの女 指一本 触れさせず

ベラベラとしゃべりたいだけ しゃべりやがって!

(加代子)それで そのミス早星田が言ったんですよ

何て言ったんだ?

(加代子) “あなたは私の親友よ”って

おお 2週間で そこまで仲良くなったのか

(加代子)でも 私は それを受け入れませんでした

なんでだ?

(加代子)“ゆみっぺ 私は まだ あなたのことを”

“親友とは思えない”

“まだ私たちは友達だよ”

なんで そんなことを言うんだ?

せっかく いいところまで来てたのに…

で どうなった?

(加代子)3日後… (東十条)3日後!

うおおおおー!

お願いですから 落ち着いてください 先生

(東十条)ハハハハッ!

落ち着いている

あの若いメイドだ

私と同じ 早星田大学 文芸サークルの…

(遠藤)先生

相田は私と同じ 青教あおきょう大学出身です

いや…

いや しかしだな

(遠藤)“恋愛経験がない”と おっしゃいましたが

相田は2か月前まで 彼氏がいました

じゃあ君は あくまで

相田がやったんじゃないと 言うんだな?

…と 私は思います

分かった

ところでだ

君たちのサークルというのは 文芸サークルかね?

文芸?

いえ 大学公認の

演劇部です

(東十条)チクショー!

(受話器をたたきつける音)

(不通音)

(受話器を置く音)

(笑い声)

は? え? ちょっと待ってくださいよ

この前 “単行本が出せるかも”って 言ったばっかじゃないですか

(ため息)

うちから本を出すうわさを聞いた プーアール社から

問い合わせがあった

お前 プーアール社の新人賞 取ってるだろ?

本来ならプーアール社から デビューするのが筋だとな

ウソでしょ!

だって 今まで さんざん無視されてきたんですよ

ここ2年ぐらい 連絡 取り合ってませんよ

何ですか? これ

(遠藤) 偶然かどうか分からんが…

(加代子)うわっ 東十条

(遠藤)短編掲載を担保に 言うことを聞かせる

それ以外に 弱小誌に 短編を載せるメリットなんかねえよ

まあ あの人なら やりかねない動きだな

あの 不倫小説ジジイ!

許すまじ~!

(遠藤)悪いな 中島 力になれなくて

(加代子の泣き声)

(遠藤)泣くなよ おい!

(加代子)先輩 ごはん おごってくださいよ!

あー もう! ドカ食いしたーい!

(加代子)確かに 私

“ドカ食いしたい”と お願いはしました

…が しかし よりによって…

(遠藤)お前と この舞台に立ちたかったが

新人賞は 一度きりだしな

まあ 今日は

未来のライバルの顔 見ながら 腹いっぱい食って 元気 出せ!

(加代子)優しいんだか 優しくないんだか…

相変わらず先輩っぽくて すてきです

今日のところは お言葉に甘えて 頂きます!

最初は やっぱり寿司すしだよね 寿司 寿司!

(カラン…)

(カラン カラン…)

すごっ

寿司!

寿司 寿司~ (駆け寄る足音)

えっ?

やっと見つけた

相田大樹!

この半年間 お前を捜し続けていた

うわっ もしかして…

東十条宗典先生ですか?

すごーい! はじめましてー!

“はじめまして”だと?

(加代子)はい “はじめまして”です

東十条宗典先生

その手には乗らんぞ

青教大学 元演劇部!

(舌打ち)

ここは 小説ばるす新人賞の 会場のはずだが

なぜ君が?

そういえば プーアール社から 単行本が出るうわさ

最近 聞かないが どうなった?

はあ?

私にできることがあれば いつでも相談してきなさい

(加代子)おりゃー!

(歓声と拍手)

(加代子)お客様 どうなさいましたか?

(東十条)お客様だと? 何のマネだ?

お気を悪くされたら 申し訳ございません

私は当ホテルの

ただのメイドです

同じ手には乗らんと言ってるんだ 相田大樹!

相田大樹?

あの 今 話題の小説家の?

しらばっくれるな!

お前は半年前 山の上ホテルにいただろ

…四迷に 鴎外 露伴!

そうだ… その時もメイドだった

(加代子)お客様

私は 一流のホテルマンを目指し

さまざまなホテルで 短期のアルバイトをしている―

見習いでございます

腰にテーブルクロスを巻きつけて 何が 一流のホテルマンだ

当ホテルの見習いは このような仕様になっておりまして…

そんなわけあるか!

もし ご気分を悪くされたようでしたら 着替えてまいりますね

失礼いたします

(東十条)待て 待て! 待て 待て 待て!

待て 待て… 待て!

(ざわめき)

こっちに来い

(加代子)お客様 何をなさるんですか!

私が 何か気に障ることを?

(東十条)いいから来い!

(東十条の荒い息)

答えるんだ

この女が

相田大樹だな?

先生

この方は 相田大樹さんではありません

な… 何だと?

失礼ですが 相田大樹さんは こんな…

もっさりした人ではありません

もっさり…

もっと すてきな人です

ひどい!

写真を見せろ!

ご本人の意向で 顔出しNGとなっておりまして

いくら先生のお願いでも 許可なく お見せすることができません

完全な人違いだったみたいですね

じゃあ 私 仕事に戻りますんで!

(東十条)そんな…

いや でも 間違いなく…

東十条宗典先生

おわびに 1杯 おごっていただけませんか?

はあ?

(東十条)仕事は いいのか?

ええ

アルバイトの身分で パーティーから抜け出してしまったので

戻ってもクビになるだけです

(東十条)そうか

それは 申し訳ないことをした

先生

私 先生が ふだん行くような 銀座ぎんざの高級クラブで

お酒を飲んでみたいな

ダメ?

気色悪わるっ

ねえ 先生 いいでしょ?

(東十条)では

私のなじみのクラブで ごちそうするとしよう

迷惑をかけたおわびと 仲直りの意味を込めた―

とびきりのシャンパンをね

うわー すてき!

実は私 東十条先生に ずっと憧れてて…

デビュー作の「しゃくなげの人」から 全部 読んでるんですよ

おお そうか! ハハハハッ

君は なかなか お目が高いな

うれしい! 行きましょ!

(加代子と東十条の笑い声)

♪(ピアノの演奏)

明美さん そのお着物 すてき!

(明美)お目が高い

これは 先生に 作っていただいたものなのよ

(加代子)すごーい! 高そう…

(東十条)ところで 君の名前を聞いてなかったな

白鳥しらとり…

(カラン…)

白鳥 氷こおりです

ハハッ 変わった名前だな

(明美)お代わり どうぞ

ありがとうございます

(客たちが盛り上がる声)

(加代子)あっ あそこにいる人 俳優さんですよね?

(東十条)ああ 彼とは友人だよ あとで紹介しよう

やった!

あー もう 生演奏まで聴けるなんてゴージャス

こんな夜を過ごせるなんて 夢みたい

お酒もおいしい

一流のホテルマンを目指すなら

こういう世界だって 知っておいて損はない

ここには男女のすべて…

いや 人生のすべてが 集約されている

勉強になります

(東十条)せっかくの機会だ 好きなものを頼みたまえ

いいんですか? ありがとうございます!

(東十条の声)お前が 相田大樹だろうが 白鳥 氷だろうが

もう どうでもいい

俺を二度までもバカにした罪は 償ってもらう

たくさん飲んでね

はい!

(東十条の声) 好きなだけ飲むがいい

(酒を飲み干す音)

(加代子)東十条先生

この氷はね

有楽町ゆうらくちょうのガード下の 有名な氷屋さんからの

特注品らしいんですよ

さっき ボーイさんが言ってました

そうか

(加代子)その氷屋さんはね

この辺りの高級飲食店すべてに 出入りしているらしくて

私 思ったんです

もし さっきのパーティー会場の 白鳥細工の氷も卸しているとしたら

おもしろくないですか?

同じ氷なのに

片方は こうして かち割られる氷に

そして片方は

文学賞のパーティー会場の 美しいオブジェに…

文学賞のパーティー会場の 美しいオブジェに… (カラン…)

なんだか 人の運命みたい じゃないですか

元は同じ水なのに

どこでどう 道が分かれちゃったんですかね

(明美)あらあら 氷さんって詩人ね

作家を目指したらいいのに

(加代子) いえいえ 私なんて全然!

ねえ 先生

輝ける人と輝けない人の違いって 一体 何だと思います?

そりゃ まあ

才能の差だろうね

努力の差とも言えるが

私は そうは思いません

現に 才能があって努力をしても

一生スポットが当たらない人間は たくさんいる

そして 何の力もない人間が

コネや政治のおかげで 表舞台に立つことができる

本当に この世は 不公平だと思いませんか?

でもね そんな既存のルールに 負けちゃいけないんですよ

スポットが当たらなかったら スポットの下に飛び出せばいい

先生

あの子 なんか… すごいですね

あの子 なんか… すごいですね ♪(ピアノの演奏)

♪(ピアノの演奏)

♪(ピアノの演奏) (東十条)ああ

♪(ピアノの演奏)

くりびつ てんぎょうだ

♪ しのび会う恋を

♪ つつむ夜霧よ

♪ つつむ夜霧よ (東十条の声) どうして

♪ つつむ夜霧よ

♪ つつむ夜霧よ 知ってるんだ?

♪ つつむ夜霧よ

♪ つつむ夜霧よ 私の一番 好きな曲を…

♪ 知っているのか

♪ ふたりの仲を

♪ 晴れて会える

♪ その日まで

♪ かくしておくれ

♪ 夜霧

♪ 夜霧

♪ 僕等ぼくらはいつも

♪ そっと言うのさ

♪ 夜霧よ

♪ 今夜も

♪ 有難ありがとう

~♪

(明美)先生

起きてください 先生

先生!

あの女は?

(明美) もう とっくに帰られましたよ

(東十条)帰った?

それにしても お酒のお強い方ですね

これ全部 飲んでいかれましたよ

楽しそうに歌って踊って

楽しそうに歌って踊って ♪(ピアノの演奏)

♪ Stay with me

♪ 真夜中のドアをたたき

♪ 帰らないでと泣いた

~♪

はい 先生

カードで…

毎度ありがとうございます

(加代子)先輩 何ですか? 急用って

(遠藤)お前の本当の才能を 生かす方法を思いついた

(加代子) はあ? 私の本当の才能?

やってみるか?

何のことか 全然 分かりませんが

売れるのなら もちのろんです!

小説ばるす新人賞の 有森樹李ありもり じゅりさんのスピーチです

皆さん 拍手でお迎えください!

(拍手)

有森さん お座りください

(カメラのシャッター音)

皆様 はじめまして

有森樹李です

どうぞ よろしくお願いします

(拍手)

(加代子) まず最初に 選考委員の皆様

心から感謝します

受賞作「氷をめぐる物語」は

有楽町の氷屋を舞台にした オムニバス小説です

氷の視点から さまざまな人物や場所を 描えがいた作品ですが

下積み時代に私が日々感じていた 理不尽や悲しみを

それぞれ氷のキャラクターに なぞらえたつもりです

あの女が相田大樹なんだろ? (加代子の スピーチが続く)

相田大樹は 筆を折って故郷に帰りました

なぜか突然 出版の話が立ち消えになって…

本当に かわいそうな作家でした

(小声で)ふざけるな

銀座のクラブの場面

私が あの女を連れていった “ジレ”そのままだ

白鳥 氷は相田大樹で

相田大樹は有森樹李だ

お前にも会わせただろ? あの女だ

(遠藤)よく見てください

あの時の女ではありません 先生

その辺の氷ではありません

彼女は まるで

白鳥はくちょうです 先生

あまり…

私をナメるなよ

(拍手)

さすが 本物のウソつきだ

(遠藤の声)編集者の幸せは とてつもない才能に出合うことだ

文章を読んだ瞬間

まるで恋に落ちたように 心臓が高鳴り

ページをめくる手が 止まらなくなる

こんな気持ちは初めてだ

彼女となら 最高の作品をつくれる

彼女の名は

有森…

光来みく

(加代子)先輩

(遠藤)何だよ 俺 忙しいんだよ

(加代子)どこが悪いのか 言ってくださいよ

(遠藤)は? 何が?

(加代子)新作の 「おばあちゃんをリクルート」

書評家から酷評されてるんです

(遠藤)読者評は 悪くは なかっただろ

気にし過ぎだ

(加代子) 気にしなさ過ぎです!

前の遠藤先輩だったら もっと言ってくれた!

お前 何が言いたいんだよ はっきり言えよ

有森光来の担当に なったからですか?

飽きたんですか? 私に

(遠藤)飽きたとかじゃない

ただ 忙しいのは本当だ

有森光来は 短編を発表しただけだが

その短編が 今やブームになってる

1冊も本を出してないのにだ

取材依頼が殺到してる

こんなこと 文鋭社 始まって以来だそうだ

なんで よりによって 同じ“有森”なんて名字を!

(遠藤)しょうがないだろ 向こうは本名だ

(加代子)私は 先輩に言われて

姿形すがたかたちを変えてまで やってるんですよ

私の何が いけないんですか?

だから ひと言も “いけない”なんて言ってないだろ!

いいか 有森光来は高校生だ

スター性があるとはいえ まだ粗削りなんだよ

今は 付きっきりで いろいろ教えないとダメなんだ

大事な時期なんだよ

それで こっちは おざなりってことですか!

やってるだろ 勘弁してくれよ

先輩は変わりました

(遠藤)お前なあ… (加代子)この薄情者!

(走り去る足音)

(バーテンダー)お待たせしました

(東十条)ありがとう

プーッ!

マスター もう1杯ください

久しぶりだな

“はじめまして”ですけど?

(東十条)ふん!

まあ いい

まあ いい

それなら 私と君には 何の因果もないわけだ

私の力で本を出せなくなった 相田大樹じゃないんだろ? 君は

まだ言ってんの? このクソオヤジ!

ヘヘヘッ やっぱり君なんじゃないか

相田大樹は 有森樹李だったわけだ

フフッ

まあ もういいわ

嫌がらせでも何でも すれば?

もっと突っかかってくるかと 思ったが

ずいぶんと おとなしいじゃないか

つまらんな

(舌打ち)

てか 何?

お年寄りのお相手してる余裕 ないんだけど~

新人作家の最低限の礼儀として

敬語くらい 使ってもらいたいものだね

ああー!

マスター 彼女に同じものを

(東十条)私の伝票に付けてくれ (バーテンダー)はい

何 それ?

いくら優しくされても あんたに1ミリも興味ないから

正直 こぎれいになってしまった君に 興味はないな

とっぽくてダサい君のほうが 魅力的だった

男って みんな そうなの?

不完全な少女を 自分の理想に育て上げるのが

好きなんでしょ?

君は少女じゃないだろ

で? 何なの?

嫌いなんでしょ? 私のこと

いや~ それがね

君への怒りからか 執筆が順調でね

今 「源氏げんじ物語」を下敷きにした 長編小説に取りかかっている

怒りというのは 時に…

パワーになるものだ

あっそ!

少なくとも私のおかげなら

ギャラくださいよ

君 やさぐれ過ぎだろ

2作目が難しいのは 私も知ってる

私も ずいぶん たたかれたからな

まあ いいだろ

周りの批評など気にせずとも

まずは のびのび 書きたいことを書けばいいんだ

(加代子)え?

(東十条) 私が慰めるのは意外か?

ちょ… 隠れて!

(東十条)え? え? え?

何? 何? え?

(小声で)どうした? え?

(加代子)遠藤先輩と…

有森光来!

変装! 変装 変装!

変装 変装 変装!

なぜ私が 隠れなければならない!

いいから シーッ!

(遠藤) フルーツジュース2つ ください

(バーテンダー) かしこまりました

(有森光来) すいません 遠藤さん

夢だったんです このお店の この席に座ること

憧れの作家さんが このお店で 直林なおばやし賞の受賞報告を受けたって聞いて…

(遠藤)君も そのうち 同じようになるよ

きっと この店で“待ち会”して 受賞するような作家にね

私に そんなこと 言ったこと ない!

私なんか 初めて同人誌に投稿した小説を

遠藤さんが見つけてくれて

それが たまたま 少し話題になっただけで…

少しどころじゃないよ

僕が君の小説を 初めて読んだ時の衝撃

それと同じものを 今 たくさんの人々が感じてるんだ

学校あるし

次の作品だって なかなか うまく書けないし

遠藤さんに 迷惑かけてばっかだし…

大丈夫

今は 時間を見つけて どんどん書こう

協力は惜しまないよ

ほんとに書けるのかな? 私

実はね 君の短編「六月のピストル」が

鮫島さめじま賞の候補に挙がりそうなんだ

鮫島賞?

マジ?

く… 悔しい

鮫島賞なんて

私じゃなくて 有森樹李さんみたいな

ベテランの作家さんが もらうべきじゃ…

ベテラン?

(遠藤)いやいや 有森樹李なんて 君の足元にも及ばないよ

彼女は テクニックだけの大衆作家

最近は 現実的なことしか書けない

彼女の話には夢がない

デビューの時は期待値も高かったけど すぐに飽きられるよ

(加代子)何だと コラァ!

(東十条)く… 苦しい

は… 離せ 君! 苦しい…

(遠藤)今回の作品だって…

「おばあちゃんをリクルート」ですね

(遠藤) あれも重版は かかったけど

それほど いい作品じゃない

彼女には 君のような イノセンスを感じないんだ

イノセンス?

ひどい言われようだな

(遠藤)いいかい?

売れることや 作品を連発することだけが

作家に必要な能力じゃないんだよ

一作一作 丁寧 誠実に 読者に語りかけるように書くこと

それこそが作家の財産なんだ

なかなか いいことを 言うじゃないか

シッ!

例えば…

東十条宗典先生なんか

確かにスターだし 売れてるかもしれないけど

玄人筋の評価は低い

何!?

読者と心のやり取りが できてるとは言えないね

僕に言わせれば タレント作家さ

ううう… おのれ 遠藤!

(加代子)ちょっと… 首が絞まってるって!

(東十条の荒い息)

ここまで けなされて すごすご引き下がれる?

その目には見覚えがあるな

すべてを手にした 業界トップの権力者と

野心と才能の新人

私とあんたが手を組めば 何だってできると思わない?

どういう意味だ?

ホリデーシーズンは 一時休戦といかない?

力を合わせて あの遠藤道雄を

地獄の底まで 追い込んでやりましょうよ!

(東十条)うーん うーん…

ううーん…

(光来)ごめんなさい

(遠藤)どういうこと?

(光来)書けないんです

大丈夫

君には すばらしい才能があるよ

10年に1人だよ 鮫島賞だって…

書けないんです そう言われれば言われるほど

えっ? ♪(ピアノの演奏)

♪(ピアノの演奏)

私は

遠藤さんの理想には なれません

ごめんなさい

♪ I'm dreaming of a white Christmas

♪ With every Christmas card I write

♪ Where the tree tops glisten

♪ And the children listen

(歌手の歌が続く)

(遠藤の妻)あなた?

ああ 悪い

大丈夫?

ねえ

ん?

毎年のクリスマスの これって

俺のエゴなのかな?

私は すてきなことだと思うよ

子どもたちにとっても

ありがとう

~♪

(東十条)ほんとなのか?

(加代子)何が?

(東十条)遠藤君の弱点だよ

本当にサンタクロースなのか?

(加代子)先輩が 唯一 こだわっていること

それが 子どもたちに サンタクロースを信じ込ませること

毎年 クリスマス当日は 外国人の役者を使ってまで

子どもたちに サンタクロースの存在を 信じ込ませてる

同じサークルの先輩が言ってたから 間違いない

(東十条) ここまでする意味が分からん

(加代子)分からないでしょ?

だからこそ そこが弱点なんだよ

人のこだわりって コンプレックスが隠れてたりするから…

君は性格が悪いな

私は ただ…

先輩が子どもたちについてるウソを 正したいだけ

“イノセンス”なんて 大人の勝手な願望を押しつけられて

かわいそうだよ

遠藤君に 仕返ししたいだけだろ

クリスマスに 正論は聞きたくありませーん!

くっ…

しかし こんなもん

週刊誌にでも載ったら 恥ずかしすぎるぞ

(加代子)天下の東十条先生が 仮装ですからねえ

(東十条)偽物っぽくしたほうがいいと 言ったのは君だ

(支配人)あ… あの 失礼ですが

遠藤様の業者様で いらっしゃいますか?

はい

(支配人)予定のお時間は

ライブが終わって 遠藤様が部屋に戻られる

8時では ございませんでしたでしょうか?

いえ!

先ほど遠藤様から 変更のお電話を頂きました

せっかくなら 子どもだけで サンタクロースと対面させたいと

自立心を養う貴重な体験をさせたい とのことですが

申し訳ありませんが 約束の時間が迫っておりますため

これにて失礼します

(支配人)遠藤様に ご確認を…

確か 遠藤様は クリスマスライブに集中したいと

はい それが もう1つの 変更の理由でした

なので 今は そっとしておいてあげてください

さようでございますか 申し訳ございません

(2人)では!

(走り去る足音)

(加代子) なかなか やるじゃないですか

(東十条)君こそ さすがだな

私を何度もだましただけある

(加代子)好きになりました?

(東十条)調子に乗るな

私の一番嫌いな小説家は 君だ

それを忘れるなよ

(加代子)奇遇ですね

私も一番嫌いです

(東十条の笑い声)

(ノックの音)

(遠藤の長女) どちら様ですか?

(東十条)ホー ホー ホー

よい子のお嬢ちゃんたち

サンタのおじさんとトナカイが 贈り物を届けに来たよ

(長女) ハァ… 何かご用ですか?

サンタクロースのおじさんと トナカイのお姉さんだよ!

ねえ 中に入れてよ お嬢ちゃん

知らない人を中に入れてはいけないと 言われているので

知らない人じゃないでしょう?

みーんな大好き サンタさんだよー!

去年のサンタさんとは ずいぶん違うんですね

えっ?

(東十条)そんなことないよ

おじさんはね 本物のサンタさんだよ

ホー ホー ホー

2人が楽しみにしている おもちゃを持ってきたんだ

お姫様セットと絵本だよ

(長女)去年のサンタさんは 外国人のおじさんで 太ってて…

あっ お芝居も もっと上手でしたよ

パパがこんな大根役者 雇うはずがないです

お芝居?

いや お芝居っていうか~

(遠藤の次女)知ってるよ

サンタは お父さんなんでしょ?

学校で みんながそう言ってた

(2人)え?

(長女)でも私たち パパを喜ばせたいから

信じているフリしてるんだよ

パパには 夢を見させてあげたいから

それが子どもの務めだからね

(エレベーターの到着音)

(長女)あ! パパとママ 帰ってきた

(2人)パパ! ママ!

(次女)偽にせサンタさんと 偽トナカイさんがいるよ!

早く 早く! おいでー!

(遠藤の妻)ただいま

(2人)おかえり

あれ? 今 そこにいたのに…

本物だったのかな?

え? サンタ もう来たの?

本物?

(東十条と加代子の荒い息)

(加代子)先生 袋は?

(東十条)え?

あー しまった!

逃げるのに夢中で どこかに置いてきた

(加代子)はあ?

あれに着替え全部 入ってたんですけど!

あー これじゃあ 電車で帰れないから

タクシー つかまえるしか ないですね

(東十条)ずうずうしい女だな

しかし 手持ちの現金がない

(加代子)チッ!

(東十条)銀行 探して そこで下ろそう

(加代子)あ~あ! 最低最悪のクリスマスイブだわ

遠藤先輩にも 東十条先生にも 家族がいるってのに…

独りぼっちなのは私だけか~

(東十条) 前から思っていたんだが

君は どういうふうに育ったんだ?

(加代子)はい?

(東十条) 君の作品は2作とも読んだ

しかし 作風がずいぶん違う

育ってきた環境やパーソナリティーが 全く見えない

君は どんな親に育てられた?

どこで育った? 兄弟は いるのか?

そもそも 今 どこに住んでいるんだ?

質問攻め やめて!

東十条先生の 「怠慢セックスのススメ」第六章で…

なんで私の本の話なんだ?

六章に書いてあったよね?

30年以上前 京都で一晩だけ愛し合った―

若く美しい芸妓げいこのこと

彼女とは それきり会っていないけど

忘れたことは 1日たりともないって

もしかして

君は その彼女の…

ママは あの夜のこと 忘れたことないって!

まさか…

お父さ…

(カン!) (加代子)痛いってえ!

何すんだ このクソジジイ!

あれは作り話だ

うわっ エッセイで捏造ねつぞう? ダッセー!

うるさい!

読者に夢を見せるのも 作家の仕事だ!

夢? 似合わなっ!

そもそも 背景とか パーソナリティーとか要る?

おもしろければ いいんじゃない?

売れれば いいんじゃない?

私の人生 小説 書いてる私が 主人公なの

だから 私は私の夢をかなえる!

なんという傲慢ごうまん 欲深さだ

休戦も ここまでだ

(ペンを走らせる音)

うう…

(叫び声)

(荒い息)

(街の喧騒けんそう)

買え 買え…

買え 買え

買え!

買わんのか!

あの すみません お電話した有森樹李ですが…

(須藤すどう 純かおる)お待たせしました

あっ はじめまして 有森です

今日は お忙しい中 お時間 頂き ありがとうございました

須藤です よろしくお願いします

(加代子の声)出たな カリスマ書店員 須藤 純!

彼女がポップを書けば その本は たちまち売り切れる

ちなみに私の本には 一度もポップを書いてくれた試し なし

何か顔に付いてますか?

あっ いえ

そうだ あの…

もし よろしければ これ お口に合えば…

作家から 金品は 受け取らない主義ですので

こういう贈り物は困ります

失礼しました

あの 今日は 手書きのポップを作ってきました

色紙も よかったら 置いていただけると…

(須藤)あの… (加代子)はい?

有森さんって 有森光来さんでは ないんですね

すいません てっきり光来さんとばかり…

(加代子)ああ…

(須藤)有森さんといえば 僕の中では光来さんで…

申し訳ないんですが あなたの本は 読んだことないんですよ

(加代子の声) この 歯に衣きぬ着せぬ物言い

カリスマ書店員の真骨頂

すみませーん よく間違えられるんですよね

ほら 光来さんって

伝説の短編以来 作品を発表してないじゃないですか

ミステリアスですよね

私は ノンミステリアスな有森です

もしくは

“才能のないほうの有森”とか 呼ばれちゃったりしてます

アハハハハッ

アッハッハッ…

そうですか

あの… 才能のないほうの有森で 申し訳ないんですが

サイン本とか 置かせていただいても?

サイン本ですか…

まあ どうぞ

何冊くらい書きましょうか?

50冊?

10冊で

承知しました ササッと書いちゃいますんで

(須藤)あの… こういう時 編集者さんは同行されないんですか?

(加代子) ええ 予定が合わなくて

私みたいな売れない作家に ついてくるほど

暇じゃないみたいですね ハハッ

ご自分で“売れない作家”って 言うんですね

ええ まあ

他人に言われるよりは マシかなって

すいませんね 読んでなくて

いえいえ

その装丁…

(加代子)ダサいですよね! (須藤)え…

私 この装丁 全然 気に入ってないんですよ!

担当編集者にゴリ押しされて!

今 絶賛ケンカ中です!

あ… すみません

いえ…

出来ました

頂戴いたします

お時間 頂き ありがとうございました

あの お手すきの時にでも ぜひぜひ目を通してください

装丁はダサいけど 中身は自信あるんで

ほんと よろしくお願いします!

頑張ってください

それでは失礼いたします!

(ため息)

えっと 次は

五所川原ごしょがわら書房か…

(ぶつかる音) (加代子)うわっ! すみません

あっ ちょっと あんた 待ちなさい!

その男 万引きです!

頼むぞ 東十条!

(ぶつかる音) (万引き犯)あっ!

痛いってえ!

(蹴る音) (加代子)おっしゃー!

(万引き犯)やめろよ! 何すんだよ ババア! 離せよ!

ガタガタぬかすとブチ殺すぞ! このゴミ野郎!

いいか よく聞け!

どうせ盗むなら 売れっ子以外の本も ちゃんと読め!

悔しかったら 自分が本当に欲しい本 探して盗め!

犯罪者のくせして

世の中の物差しに 従ってんじゃねえよ!

ありがとうございます!

へ?

あの男 新刊ばかりを狙った 窃盗グループのボスなんです

うちだけじゃない

東京のあらゆる大型書店が 被害に遭ってて

もう 何とお礼を言ったら いいのか…

お礼なんて そんな…

私は 本さえ読んでもらえたら 満足です

(パトカーの サイレン)

(パトカーの サイレン) 小説家の鑑かがみだ!

(拍手)

いや そんな…

いや~ そんな

♪ 涼し気な 目もと流し目 eye eye eye

♪ 粋なこと 起こりそうだぜ めッ!

~♪

(遠藤)フー!

(加代子)先輩 今日は もう 朝まで歌っちゃいましょうよ!

(遠藤)歌え 歌え 好きにしろ!

焼きそばも俺のおごりだ

ん~ スナックの焼きそば 落ち着く~

まさか お前の本が 書店員大賞第1位に選ばれるなんてな

すでに3刷すりです (電話のベル)

全部 先輩と文鋭社さんのお力です

今後とも よろしくお願いします!

(店員)遠藤さん 電話だよ

(遠藤)俺?

はいはい はいはいはい

はい 遠藤ですー

え?

はい 承知しました

はい よろしくお願いしますー

はい どうも

中島 驚かないで聞け

(加代子)何すか?

何なんすか?

その まるで私の小説が 文学賞に選ばれたかのような

重々しい感じ

正解

お前の「魔女だと思えばいい」が 鮫島賞の候補に選ばれた

ええー!

(遠藤)ほかの候補は お前ほど話題になってない

おまけに お前は 文鋭社の新人賞出身だ

このレース はっきり言って勝ち戦いくさ!

やったー!

先輩と私 悲願の鮫島賞

(遠藤)だが… (加代子)だが?

だが 残念ながら お前の受賞は100%ありえない

えー! なんで?

今年の鮫島賞の選考委員の中に

東十条宗典がいる

てめえ コラァ! 東十条~!

でも 選考委員だって10人もいるし

私の作品を推してくれる人だって…

最年長でキャリアも一番長い東十条に 逆らえる委員なんて…

内容関係なしの 出来レースってことですか?

選考は公平だ

しかし 最終的にもつれたら 東十条の意見が尊重されるだろ

ムカつく~

権力に虐げられる この腐った業界

残念ながら 上に にらまれたら やってけねえよ

やっぱし出来レースってことだ

(遠藤)お前も いっぱしの小説家なら それを口にするな!

(加代子)先輩の言ってることは 矛盾が過ぎますよ!

いいですよ もう!

私一人で 出来レースを覆しますから

おい ムチャは やめろ

覆します

お前なあ

先輩

私一人で何とかするんで

担当を外れてください

(遠藤)はあ?

だって先輩は さっきから勝手に諦めて

協力してくれる気なんて 一切ないじゃないですか!

落ち着けよ!

結局 「魔女」が売れたのだって 私の力じゃん!

書店回りに ついてきてもくれなかった!

協力してくれないんだったら

先輩は 金輪際 口出ししないでください

ちょっと待て! 俺だって 今まで作品をチェックして…

(加代子) あー もう うっとうしい!

先輩は ずっと 私に理想を押しつける

私がやりたいようにやると 文句を言う

私は先輩の理想には なれない

作家は操り人形なの?

有森光来が 書けなくなったのだって

先輩が “イノセンス”なんて言って

プレッシャーを かけたからじゃないの?

中島!

(加代子) 現場では厳しくしておいてさ

肝心な時は そこにいない

小説家に自らの手を汚させる

覚えてますか? 山の上ホテル

シャンパンとグラスを 私に差し入れたのも

あわよくばって 思ってたんですよね?

私の性格を把握したうえで!

パーティー会場に 連れていったのも そう

いつも私の行動を把握して

操ったつもりでいるんでしょ?

泥をかぶるのは私なんでしょ?

傷つくのだって私なんでしょ?

じゃあ 要らない

先輩なんて要らない!

だから

担当を外れてください

お願いします

お前 何が望みだ?

望み?

私の望みは

私と同じ所に あんたが…

編集者が堕おちてくることよ

堕ちる?

鮫島賞を取るために

一緒に堕ちてくれますか?

「魔女だと思えばいい」?

大したことなかったな

うん

私は ほかの作品を推すよ

決まったら連絡する

(東十条の声)また有森樹李

あの女の書評を書いて以来

なぜか あのイラつく女が ついて回る

創作意欲など 遠い昔の話

職業的に作家を続ける 今の俺には

あの女と やり合っている時が

一番 心高こころたかぶるのは 認めたくない事実だが…

そんな遊びも これで終わりだ

ハハハハハッ

(戸の開閉音)

(足音)

(東十条千恵子ちえこ)おかえりなさい

(東十条)ああ

(千恵子)1週間ぶりかしら?

(東十条)仕事が立て込んでいてね

美和子みわこは?

(千恵子)出かけてますよ

(東十条)そうか

(千恵子)そうそう 今日は お客さんが来てるのよ

ほら この前 電話で話した―

お着物のパーティーで知り合った お嬢さんなんだけど

珍しいな お前が人をうちに呼ぶなんて

すごくいい人で 仲良くなったのよ

(加代子)ああ 東十条先生に 本当にお会いできるなんて…

私 中島加代子と申します

ずっと先生の作品のファンで…

もう 感激です!

(加代子の泣き声) (千恵子)もう 加代子さん

大げさよ 泣いたりして

ありがとうございます

先生もお戻りになったことですし

私は もう おいとまさせていただきます

(千恵子)ねえ 加代子さん

よかったら お夕食 食べてらして

今日は お鍋だし 人数が増えても大丈夫なの

ねっ いいでしょう? あなた

え?

ああ…

(千恵子)それにしても すてきな お召し物ね

いい物だわ

この着物 祖母の形見なんです

祖母が“何かあったら これを売りなさい”って

私 不勉強で 千恵子さんにご意見を伺いたくて

ずうずうしく 遊びに来てしまったんです

いいえ

それは地味に見えるけど…

ものすごく お高いお着物よ

あなたが1年や2年 暮らしていけるぐらいのお金

すぐに出来るわ

千恵子さんに そう言っていただけると安心です

30歳も超えて お恥ずかしい話ですけど

かなり生活が厳しくて…

加代子さん 小説家を目指してるんですって

まだまだ駆け出しだけど お話がおもしろいもの

きっと才能があるのよ

千恵子さん 先生の前でやめてください

あなたと出会った頃のことを 思い出すわね

そうだ! 出会いの話 しちゃおうかな

ぜひ聞きたいです!

そういう話は しなくてもいいんじゃ…

私の父の工場にね 彼がアルバイトで来たの

彼は小説家を目指していて

それは熱っぽく 文学論を語っていたのよ

執筆がノッてくると 寝食も忘れて

しょっちゅう 仕事もすっぽかしたの

父をなだめるのが苦労したわ

下積み時代を支えられたんですね

なんて すてきな話

涙が出そう

(千恵子と加代子の笑い声)

(千恵子)う~ん

ちょっとしゃべり過ぎたかしら

あっ そうだ 頂き物のワインがあったわ

(加代子)千恵子さん 私も

いいの いいの ここで主人の話し相手 お願いね

(ふすまが閉まる音)

なんで お前がここにいるんだ!

なんで その着物を着ている!

明美さんに 1日3,000円で レンタルさせてもらってんの

いつの間に明美と仲良く…

明美さんのスポーツクラブで 仲良くなったんだよ

スポーツクラブ?

千恵子さんとは 着物の展示会に潜り込んで

展示会?

(加代子)私 同性には 意外とモテるんだよね~

うわっ! からしれんこん おいしい~

幸せ者ですね~ 先生

この着物 500万円ぐらいするんだっけ?

かわいそう~

極貧時代から あんたを支えてきた 奥様が知ったら

どう思うんだろう?

その年で家族に出ていかれたら さすがに つらいよね?

フッ…

何が望みだ?

お前 まさか…

鮫島賞!

(東十条美和子) あっ 加代子さん!

来てたんだ!

美和ちゃん おかえりなさい!

加代子さん? 美和ちゃん?

加代子さんの履歴書指導のおかげで 書類選考 無事通過!

わー!

次は小論文と面談なんだ

また相談 乗ってくれる?

任せて 作文は得意だもん

さすが小説家の卵だね

(加代子たちの笑い声)

(ふすまが開く音)

あら 遅かったじゃない

ちょうどいいわ

さあ 久しぶりに みんなで食べましょう

めちゃくちゃおいしそうな ワインじゃないですか

いいんですか?

(ワインを注ぐ音) (千恵子)シャトー・マルゴーよ

さあ どうぞ

ありがとうございます

(千恵子)ねえ あなた

加代子さんを知り合いの編集者に 紹介してさしあげたら?

(加代子)え? いやいや そんな そんな

(美和子)ママ やめてよ

この人のコネなんて なくたって

加代子さんは 実力でデビューできるよ

この前 読ませてもらった話も おもしろかったもん

この人のエロ小説より全然

(千恵子) そんな言い方 良くないわ

あなた お父さんのおかげで 大きくなったのよ

私には

こんなエロ小説家の力なんて 必要ない!

まあまあ まあまあ

先生 美和ちゃんは 編集者を目指してるんですよ

編集者?

(加代子)美和ちゃんは 先生の背中を見て育ったんですから

素直になれないだけで 本当は先生のことを尊敬してますよ

そんなことない!

ほら 素直じゃない

文鋭社の遠藤さんに いろいろ教えてもらってるんでしょ?

遠藤?

お前ら…

美和ちゃんも頑張ってるし 私も頑張んなきゃな~

もしも いつか

大きな文学賞の候補になって お父様が審査員だったら

コネで何とかなったりしますか?

…とか言って!

(加代子たちの笑い声)

(美和子)その時は 加代子さんの担当になるから

パパ 何とかしてよ

パパなら 何とかできるでしょ?

パパ?

美和子が“パパ”なんて言うの 久しぶりに聞いたわ

(美和子)いいじゃん 別に!

てれてる~ かわいい~

(美和子)もう! 加代子さん!

(千恵子)ねえ 加代子さん

泊まっていったら? よかったら

もう遅くなったし

えー いいんですか?

じゃあ…

お言葉に甘えちゃいますよ?

(千恵子たちの笑い声)

(テーブルをたたく音)

いいかげんにしろ!

千恵子

はい

すまなかった

この女の着物は

銀座の女に 買ってやったもんだ

え?

最低…

エロオヤジ!

(東十条)美和子! (美和子)何!

私のことを嫌うのは かまわない

ただ この女のことは信じるな

何 言ってんの? エロオヤジのくせに!

この女は

小説家 有森樹李

鮫島賞を取るために

編集の遠藤を使って 私の弱みを調べ尽くし

お前たちに近づき

今 ここで こうして 私を脅迫している

そうだ

これは

脅迫だ

加代子さん 主人が言ってること ほんとなの?

加代子さん?

(遠藤)もしもし

中島?

そうか

うん…

(玄関チャイム)

(千恵子)はいはい

加代子さん

あの 千恵子さん

あの…

ウソついて すみませんでした!

もう いいの

最初は びっくりしたけど…

(加代子)あの… 先生を 脅迫するつもりなんてなくて

ちょっとした イタズラのつもりで…

本当にすみませんでした!

だから もういいわ

それよりね

(加代子)はい?

あの人 あれからずーっと 部屋に籠こもって 出てこないのよ

え?

ずーっと

原稿 書いてるの

寝食を忘れて…

出会った頃のあの人みたい

あなたのおかげかも

先生は本来 カポーティ並みに

とてもイノセントな少年時代を 描えがける方です

デビュー作のような傑作が また生まれるのなら

本当に楽しみです

デビュー作…

「しゃくなげの人」を?

あなた あれ読んでるの?

はい

先生の作品は すべて読んでます

全部?

はい

ライバルですから

まあ フフフッ

取れるといいわね 鮫島賞

(加代子)いや~

(ペンを走らせる音)

(電話のベル)

(遠藤)はい

はい おります

もしもし 有森です

(司会者)それでは

第169回 鮫島賞を受賞されました 有森樹李さんより

ごあいさつを賜りたいと存じます

(カメラのシャッター音)

鮫島賞を受賞させていただきました 有森樹李です

どうぞよろしくお願いします

(拍手)

(司会者)ありがとうございます

では 有森さん

今回 受賞されました 「魔女だと思えばいい」

この作品に関して 少しお話しいただけますか?

(遠藤の声)結局 東十条先生は 選考会には現れなかった

(遠藤の声)結局 東十条先生は 選考会には現れなかった (ペンを 走らせる音)

(加代子)なかなか筆が進まない日が 続くことも ありました

このまま小説を書くことを やめようかと思う日もありました

(遠藤の声)彼女と ここまでやってきて分かったのは (加代子の スピーチが続く)

彼女をこの先も 支え続けることができるのは

俺だけだということだ

こうして この光景を 共犯者として見届けられる編集者は

俺しか いないんだ

(加代子)デビューした時から

見放さずに支えてくれた 書評家の皆様

それと忘れちゃいけないのが

二人三脚で この作品をつくってくれました―

文鋭社の遠藤さんです

遠藤さん

本当にありがとう

今回の受賞作 「魔女だと思えばいい」は…

(加代子のスピーチが続く)

(加代子の声)作家の山口 瞳は

ここ“山の上ホテル”を

“小説家のためのホテル”と 称したそうだ

おかえりなさいませ 有森様

(ページボーイ) お客様 501号室でございます

何かございましたら フロントまでお電話ください

ごゆっくりお過ごしください

ただいま

(ノックの音)

はい

お疲れさまです 先生 書けてますか?

(ドアが閉まる音)

書けてないのかよ

うーん…

(加代子)先輩

(遠藤)ん?

私ね ずっと悔しくて

あのころの…

何の力もなくて 虐げられてきた 恨みを晴らすことで

純粋だった自分を 守るつもりだったんだ

この文学界のしきたりとか 大人の汚さとか 全部ぶっ壊してさ

でも全然 気持ちは晴れない

っていうか ずっと なくならない

胸の奥にある “悔しい”って気持ちが…

何 言ってんだ

お前は今や 直林賞候補だ

今回の55周年記念号も お前の短編が目玉だ

あ~あ!

ここまで売れたら 悔しさも晴れると思ったのになあ

今まで私の作品を酷評した人とか

読みもしないで評価した人とか

すべての人を見返したとは とても思えない

クソ!

バーカ バーカ!

小説家みんな 死ねばいいのに

言い過ぎだろ

あー ムカつく!

だから書くんだよ

その気持ちがあるかぎりはな…

言われなくても 書きますよ

これだけは言っておく

このホテルは

まさに お前にふさわしいホテルだ

(ドアの開閉音)

(加代子の声) 私は これからも小説を書き続ける

やがて昭和という時代が終わり

小説を取り巻く環境が 大きく変わっても…

私は枯れない

私は戦う

満たされない この悔しさを 力に変えて

書き続けるんだ

(携帯電話の振動音)

(振動音が鳴り続ける)

(加代子) はい もしもし 中島です

はい…

ああ 大丈夫です

はい

♪~

♪ Hey Hey Hey Hey Hey Hey

♪ 夢で見たあの子の優雅DANCE

♪ 遊んで覚えたのHEART&SOUL

♪ まだまだ足りないようだね

♪ 朝からマジでやばいよね

♪ Hey Hey Hey Hey Hey Hey

♪ 頭にくるわ

♪ 遊びじゃないの

♪ 乾いた胸に炎のように

♪ 燃えているから

♪ 夢暴むぼうダンス 夢暴ダンス

♪ 夢中だ

♪ 夢暴ダンス 夢暴ダンス

♪ 夢暴ダンス 夢中だ

♪ 世界はまるで地獄のSHOW TIME

♪ 私はここで何を踊ろう

♪ 世界はまるで地獄のSHOW TIME

♪ 私は今夜何を踊ろう

♪ 乾いた胸に炎のように

♪ 燃えているから

♪ 夢で見たあの子の優雅DANCE

♪ 遊んで覚えたのHEART&SOUL

♪ まだまだ足りないようだね

♪ 夜が始まる やばいよね

♪ Hey Hey Hey Hey Hey Hey

♪ 夢暴ダンス 夢暴ダンス

♪ 夢中だ

♪ 夢暴ダンス 夢暴ダンス

♪ 夢暴ダンス 夢中だ

~♪

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