All language subtitles for 雪国 - [1920-1920x1080@KFMVFR.hevc10_crf 20][字]_track4_jp
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1
00:00:06,506 --> 00:00:14,848
(足音)
2
00:00:14,848 --> 00:00:23,190
(島村)<国境の長いトンネルを抜けると
雪国であった。➡
3
00:00:23,190 --> 00:00:27,895
夜の底が白くなった>
4
00:00:29,529 --> 00:00:35,402
<その土地を 私は3度訪れた。➡
5
00:00:35,402 --> 00:00:42,542
1度目は 初夏 2度目は 冬の初め。➡
6
00:00:42,542 --> 00:00:48,849
3度目は
秋から冬にかけての長逗留だった>
7
00:00:51,885 --> 00:00:58,225
<私の記憶の中では
いつ何時も…➡
8
00:00:58,225 --> 00:01:02,930
そこは 雪国だった>
9
00:01:31,858 --> 00:01:33,794
(ノック)
10
00:01:33,794 --> 00:01:37,731
旦那様。
ん。
11
00:01:37,731 --> 00:01:41,034
奥様がお呼びです。
12
00:01:42,869 --> 00:01:48,675
何?
坊ちゃんたちを 叱ってほしいそうです。
13
00:01:48,675 --> 00:01:51,211
何かしたのか?
14
00:01:51,211 --> 00:01:55,916
古伊万里の深鉢にいたずらを。
15
00:02:01,822 --> 00:02:06,526
割れた?
はい。
16
00:02:08,161 --> 00:02:11,064
いいよ。
17
00:02:11,064 --> 00:02:15,769
自分たちで 遺産の取り分を
減らしただけのことだ。
18
00:03:01,815 --> 00:03:05,118
(汽笛)
19
00:03:14,161 --> 00:03:18,498
<窓ガラスが鏡となって➡
20
00:03:18,498 --> 00:03:22,502
斜め向かいの女を写していた>
21
00:03:30,010 --> 00:03:36,183
<女の連れは 明らかに病人だった。➡
22
00:03:36,183 --> 00:03:40,520
2人の様子は 夫婦じみて見えたが…➡
23
00:03:40,520 --> 00:03:46,827
女のしぐさは
娘のように幼い母ぶりだった>
24
00:03:51,164 --> 00:03:54,468
(マッチをする音)
25
00:03:56,069 --> 00:04:02,476
<娘の顔のただ中に
ともし火がともった>
26
00:04:02,476 --> 00:04:13,820
♬~
27
00:04:13,820 --> 00:04:19,493
<娘と病人は 同じ駅で降りた>
28
00:04:19,493 --> 00:04:22,829
おっ 葉子さんじゃないか。
(葉子)駅長さん。
29
00:04:22,829 --> 00:04:26,166
帰ったのかい。
ええ ご機嫌よろしゅうございます。
30
00:04:26,166 --> 00:04:28,168
弟が お世話様ですわ。
ああ いやいや。
31
00:04:28,168 --> 00:04:34,508
<悲しいほど 美しい声であった>
32
00:04:34,508 --> 00:04:38,845
いらっしゃいませ。
はい お荷物お持ちします。
33
00:04:38,845 --> 00:04:40,781
こちらですね。
34
00:04:40,781 --> 00:04:46,720
<雪国に来るのは 2度目だった>
35
00:04:46,720 --> 00:04:50,557
汽車に何か 気になるものでも
ありましたか?え?
36
00:04:50,557 --> 00:04:53,693
あっ いや…
何度も振り返っていらしたから。
37
00:04:53,693 --> 00:04:58,532
ああ… 病人がね。
38
00:04:58,532 --> 00:05:01,801
同じ汽車に病人が乗ってたんだ
東京から ずっと。
39
00:05:01,801 --> 00:05:06,673
ああ。 それは きっと
お師匠さんの息子でしょう。
40
00:05:06,673 --> 00:05:08,675
お師匠さん?
ええ。
41
00:05:08,675 --> 00:05:11,144
三味線と踊りの師匠です。
42
00:05:11,144 --> 00:05:16,483
あっ そうだ。 師匠の弟子だった娘に
旦那 前にお会いになったでしょう。
43
00:05:16,483 --> 00:05:22,656
ああ。 あの子は まだいるかい?
へえ おります おります。
44
00:05:22,656 --> 00:05:30,163
<病人は 私が会いに来た女の
師匠の息子だと分かった>
45
00:05:36,169 --> 00:05:43,877
<指で覚えている女と
目に ともし火をつけていた女>
46
00:05:46,179 --> 00:05:52,886
<2人の間に
何があるのか 何が起こるのか>
47
00:05:54,521 --> 00:06:00,827
<なぜか それが
心のどこかで見えるような気がした>
48
00:06:47,507 --> 00:06:52,178
<とうとう芸者に出たのだと分かった>
49
00:06:52,178 --> 00:07:25,078
♬~
50
00:07:25,078 --> 00:07:29,783
この指が 一番よく君を覚えていたよ。
51
00:07:33,486 --> 00:07:36,189
(駒子)そう?
52
00:07:41,361 --> 00:07:49,669
<その女に初めて会ったのは
半年余り前の初夏だった>
53
00:07:53,506 --> 00:07:57,177
<確かに初夏だったのに➡
54
00:07:57,177 --> 00:08:02,782
どういうわけか思い浮かぶのは
雪景色だ。➡
55
00:08:02,782 --> 00:08:08,455
無為徒食の私は
自身に対する真面目さを取り戻すため➡
56
00:08:08,455 --> 00:08:11,358
1人で旅をしていた>
57
00:08:11,358 --> 00:08:14,961
何にもない所ですけどねえ➡
58
00:08:14,961 --> 00:08:19,265
昔は 雪解けの頃
近くに縮の初市が立って➡
59
00:08:19,265 --> 00:08:22,469
それは にぎやかだったそうですよ。
60
00:08:24,104 --> 00:08:27,807
私も 夏には 麻の縮を重宝してるよ。
61
00:08:27,807 --> 00:08:32,979
結構でございますね。
きっと明治の頃 ここいらの娘たちが➡
62
00:08:32,979 --> 00:08:36,015
半年も丹精して 織り上げたものでしょう。
63
00:08:36,015 --> 00:08:38,651
半年。
64
00:08:38,651 --> 00:08:41,554
ここは 雪国ですからねえ。
65
00:08:41,554 --> 00:08:46,393
雪籠もりの月日には
ほかにすることもありません。
66
00:08:46,393 --> 00:08:49,162
子供のうちに習うんです。
67
00:08:49,162 --> 00:08:53,666
その出来栄えが
嫁選びの基準にもなったんだそうですよ。
68
00:08:53,666 --> 00:08:56,703
失礼いたします。
ふ~ん。
69
00:08:56,703 --> 00:09:00,940
大切に扱えば
50年より もっと前のものだって➡
70
00:09:00,940 --> 00:09:04,144
色もあせないで着られますよ。
71
00:09:10,116 --> 00:09:12,786
芸者呼んでくれ。
72
00:09:12,786 --> 00:09:15,121
あいすみません。
73
00:09:15,121 --> 00:09:21,461
あいにく大きな宴会があって
誰も空いていないんですよ。
74
00:09:21,461 --> 00:09:23,797
一人ぐらい どうにかなるだろう。
75
00:09:23,797 --> 00:09:27,133
道路普請の落成祝でしてね。
76
00:09:27,133 --> 00:09:30,437
にぎやかなんです。
77
00:09:35,809 --> 00:09:42,515
もしかしたら 師匠の家の娘なら
来てくれるかもしれませんねえ。
78
00:09:44,150 --> 00:09:46,486
師匠の家の娘?
79
00:09:46,486 --> 00:09:50,824
ええ。 近くに
三味線と踊りの師匠がいるんですよ。
80
00:09:50,824 --> 00:09:53,726
中風を患って
もう教えてはいませんけどね。
81
00:09:53,726 --> 00:09:59,165
その弟子にあたる娘が
今 一緒に暮らしてるんです。
82
00:09:59,165 --> 00:10:01,101
芸者なのかい?
83
00:10:01,101 --> 00:10:05,505
いいえ。素人かい。
いいえ。
84
00:10:05,505 --> 00:10:09,843
<それで やって来たのが…➡
85
00:10:09,843 --> 00:10:12,145
駒子だった>
86
00:10:13,713 --> 00:10:18,184
<駒子というのは
芸者になってからの芸名だから➡
87
00:10:18,184 --> 00:10:21,521
この時は 別の名前だったはずだが➡
88
00:10:21,521 --> 00:10:23,857
今となっては 覚えていない>
89
00:10:23,857 --> 00:10:26,559
失礼いたします。
90
00:10:30,730 --> 00:10:37,036
<駒子の印象は
不思議なくらい清潔であった>
91
00:10:49,549 --> 00:10:52,218
雪国の生まれなの?
92
00:10:52,218 --> 00:10:57,557
ええ。 でも この温泉場じゃありませんわ。
港の方ですの。
93
00:10:57,557 --> 00:11:00,293
そう。
94
00:11:00,293 --> 00:11:04,497
どちらから?
東京。
95
00:11:07,500 --> 00:11:09,836
行ったことあるかい。
96
00:11:09,836 --> 00:11:12,839
ええ。
へえ。
97
00:11:14,507 --> 00:11:19,846
お酌に出ていたんです。
98
00:11:19,846 --> 00:11:22,749
芸者になるつもりだったのか?
ええ。
99
00:11:22,749 --> 00:11:27,754
けど 半玉で受け出されました。
100
00:11:29,856 --> 00:11:34,327
行く末は 日本踊りの師匠として➡
101
00:11:34,327 --> 00:11:37,864
身を立てさせてもらおうと
思ってたんですよ。
102
00:11:37,864 --> 00:11:41,734
それなのに たった1年半で…。
103
00:11:41,734 --> 00:11:44,737
別れたの。
104
00:11:44,737 --> 00:11:48,041
死に別れたんです。
105
00:11:50,877 --> 00:11:57,884
17の時ですわ。 もう2年も前のことです。
そう。
106
00:11:59,552 --> 00:12:02,455
踊りは お好き?
107
00:12:02,455 --> 00:12:05,158
ああ。
108
00:12:05,158 --> 00:12:09,028
学生の頃から 随分と研究をしたよ。
109
00:12:09,028 --> 00:12:13,499
そのうち 批評文を書くようにもなった。
110
00:12:13,499 --> 00:12:17,170
それじゃ 日本踊りの批評をするのが
お仕事?
111
00:12:17,170 --> 00:12:20,073
今は 西洋舞踊に くら替えしたよ。
112
00:12:20,073 --> 00:12:23,309
あら。 外国へ見に行くんですの?
113
00:12:23,309 --> 00:12:27,513
西洋舞踊を じかに見たことはない。
114
00:12:29,115 --> 00:12:32,418
そこが いいんだ。
115
00:12:35,521 --> 00:12:40,193
西洋の本や写真や ポスターやプログラム。
116
00:12:40,193 --> 00:12:45,531
そういう… 印刷物を
苦労して手に入れて➡
117
00:12:45,531 --> 00:12:48,434
それを頼りに 西洋舞踊について書くんだ。
118
00:12:48,434 --> 00:12:51,704
これほど 安楽なことはない。
これほど 机上の空論はないよ。
119
00:12:51,704 --> 00:12:54,207
天国の歌だ。
120
00:12:57,210 --> 00:13:01,814
所詮は 勝手気ままな妄想さ。
121
00:13:01,814 --> 00:13:10,823
西洋の言葉や写真から 僕自身の空想が
踊る幻影を鑑賞しているのさ。
122
00:13:15,161 --> 00:13:22,468
見ぬ恋に 憧れるようなものかしら。
123
00:13:29,709 --> 00:13:32,712
うまいことを言う。
124
00:13:37,417 --> 00:13:44,524
<次の日も 駒子は
私の部屋に遊びに寄った。➡
125
00:13:44,524 --> 00:13:50,396
それで つい 変な頼み事をしてしまった>
126
00:13:50,396 --> 00:13:54,200
芸者を世話してくれないか。
127
00:13:54,200 --> 00:13:57,537
世話するって?
128
00:13:57,537 --> 00:14:00,440
分かってるじゃないか。
129
00:14:00,440 --> 00:14:06,346
いやあねえ そんなこと頼まれるとは
夢にも思いませんでしたわ。
130
00:14:06,346 --> 00:14:10,817
友達にしときたいから
君は口説かないんだよ。
131
00:14:10,817 --> 00:14:14,153
あきれるわ。
132
00:14:14,153 --> 00:14:16,089
若いのが いいね。
133
00:14:16,089 --> 00:14:19,025
若い方が
何かにつけて間違いが少ないだろう。
134
00:14:19,025 --> 00:14:21,027
うるさくしゃべらんのがいい。
135
00:14:21,027 --> 00:14:24,664
ぼんやりしていて 汚れてないのが。
136
00:14:24,664 --> 00:14:26,699
しゃべりたい時は 君としゃべるよ。
137
00:14:26,699 --> 00:14:30,837
私は もう来ませんわ。
ばか言え。
138
00:14:30,837 --> 00:14:35,842
あら。 来ないわよ。 何しに来るの?
139
00:14:41,481 --> 00:14:44,851
君とは さっぱりつきあいたいんだ。
140
00:14:44,851 --> 00:14:52,558
何。 したら おしまいさ。 味気ないよ。
長続きしないだろう。
141
00:15:02,802 --> 00:15:07,140
そうね。 私も そういうのが大好き。
142
00:15:07,140 --> 00:15:12,845
あっさりしたのが長続きするわ。
うん。
143
00:15:15,815 --> 00:15:23,122
そう。 本当に みんな そうだわ。
144
00:15:25,491 --> 00:15:31,164
旅のお客さんたちに
いろんな話を聞いてみても➡
145
00:15:31,164 --> 00:15:40,173
何となく好きで その時は
好きだとも言わなかった人の方が➡
146
00:15:40,173 --> 00:15:46,879
いつまでも懐かしいのね。 忘れないのね。
147
00:15:48,848 --> 00:15:53,719
向こうでも 思い出して
手紙をくれたりするのは➡
148
00:15:53,719 --> 00:15:57,423
大抵 そういうんですわ。
149
00:16:03,362 --> 00:16:11,103
<女中に呼ばれて 来たのは
いかにも山里の芸者だった>
150
00:16:11,103 --> 00:16:22,715
♬~
151
00:16:22,715 --> 00:16:25,418
フフッ。
152
00:16:27,687 --> 00:16:29,989
どうなすったの?
153
00:16:32,158 --> 00:16:37,029
やめたよ やめた。
154
00:16:37,029 --> 00:16:39,332
そう。
155
00:16:42,501 --> 00:16:45,838
あの子に気の毒したよ。
156
00:16:45,838 --> 00:16:48,307
そんなの お客さんの随意じゃないの。
157
00:16:48,307 --> 00:16:50,810
いつ帰そうと。
158
00:16:53,145 --> 00:16:56,515
ここ 何?
159
00:16:56,515 --> 00:16:59,318
繭倉ですわ。
繭倉?
160
00:16:59,318 --> 00:17:03,789
改築の前はね。
でも みんな 今でも そう呼ぶわ。
161
00:17:03,789 --> 00:17:07,460
へえ。
いろんなことに使われるのよ。
162
00:17:07,460 --> 00:17:12,965
芝居や映画がかかることもあるし
大きな宴会にも重宝するの。
163
00:17:12,965 --> 00:17:17,470
それじゃ ゆうべの道路普請の落成祝も。
ええ。
164
00:17:17,470 --> 00:17:20,373
あなたに呼ばれる前
ここで 踊りを踊ったの。
165
00:17:20,373 --> 00:17:24,343
その時 扇子を置いてきてしまって
取りに寄ったんですわ。
166
00:17:24,343 --> 00:17:27,146
そうか。
167
00:17:27,146 --> 00:17:30,049
今夜は 映画があるそうよ。
誰の?
168
00:17:30,049 --> 00:17:32,485
大河内傳次郎。
169
00:17:32,485 --> 00:17:36,355
「丹下左膳」か。 一緒に見に来よう。
170
00:17:36,355 --> 00:17:43,362
あら。 悪いけど 今夜は 仕事があるの。
171
00:17:53,172 --> 00:17:55,474
「やいやい やいやい!」。
172
00:18:00,780 --> 00:18:06,786
(拍手と歓声)
173
00:18:08,654 --> 00:18:12,358
(拍手と歓声)
174
00:18:14,126 --> 00:18:17,029
(足音)
175
00:18:17,029 --> 00:18:20,100
⚟島村さん 島村さん!
176
00:18:20,100 --> 00:18:24,136
<その夜のことだった>
177
00:18:24,136 --> 00:18:28,007
はあ…。
どうしたんだ。
178
00:18:28,007 --> 00:18:33,145
スキー場で なじみになった人たちに
呼ばれて 宿屋に寄ったの。
179
00:18:33,145 --> 00:18:37,483
そしたら 芸者呼んでの大騒ぎになって。
180
00:18:37,483 --> 00:18:42,154
だからって そんななるまで
飲むことないだろう。
181
00:18:42,154 --> 00:18:46,826
ああ。 ああ 苦しい。
182
00:18:46,826 --> 00:18:49,662
あの人たち 安瓶を買ってきたのよ。
183
00:18:49,662 --> 00:18:51,597
それ知らないで…。
184
00:18:51,597 --> 00:18:54,100
ばかだな。
185
00:18:57,403 --> 00:19:02,708
戻らなくちゃ。
どうしたかと捜してるわ。
186
00:19:06,112 --> 00:19:08,114
ああっ!
187
00:19:12,785 --> 00:19:26,499
(荒い息遣い)
188
00:19:40,813 --> 00:19:44,817
思うように力が入らない…。
189
00:19:46,686 --> 00:19:55,161
何だ こんなもの! 畜生 畜生!
190
00:19:55,161 --> 00:20:01,500
だるいよ こんなもの。
191
00:20:01,500 --> 00:20:04,503
よせ。
192
00:20:18,517 --> 00:20:23,856
<安瓶のせいで 苦しいのだと思っていた>
193
00:20:23,856 --> 00:20:28,861
もう遅いよ 帰るなら送ってやる。
194
00:20:37,403 --> 00:20:42,541
<酔いで 文字盤が読めないのだと
思っていた>
195
00:20:42,541 --> 00:20:46,846
もう 1時になる。
196
00:20:49,215 --> 00:20:51,517
さあ。
197
00:20:56,889 --> 00:21:02,294
名前を書いたげる。
名前?
198
00:21:02,294 --> 00:21:06,499
好きな人の名前を書くの。
199
00:21:12,037 --> 00:21:19,745
<尾上菊五郎 阪東妻三郎>
200
00:21:24,183 --> 00:21:27,887
<大河内傳次郎>
201
00:21:50,209 --> 00:22:00,019
♬~
202
00:22:00,019 --> 00:22:02,488
いけない。
203
00:22:02,488 --> 00:22:04,790
いけないわ。
204
00:22:06,358 --> 00:22:12,064
お友達でいようって
あなたが おっしゃったんじゃないの。
205
00:22:14,833 --> 00:22:21,507
<私は 何にも惜しいものはないのよ。➡
206
00:22:21,507 --> 00:22:24,810
決して惜しいんじゃないのよ>
207
00:22:27,179 --> 00:22:30,082
<私が 悪いんじゃないわよ。➡
208
00:22:30,082 --> 00:22:33,852
あんたが悪いのよ。➡
209
00:22:33,852 --> 00:22:36,855
あんたが負けたのよ>
210
00:22:45,197 --> 00:22:52,071
あんた 笑ってるわね。
211
00:22:52,071 --> 00:22:54,206
笑ってやしない。
212
00:22:54,206 --> 00:22:57,509
心の底で笑ってるでしょ。
213
00:22:59,879 --> 00:23:06,585
今 笑ってなくても きっと後で笑うわ。
214
00:23:10,823 --> 00:23:16,996
(すすり泣き)
215
00:23:16,996 --> 00:23:21,166
199日目だわ。
216
00:23:21,166 --> 00:23:26,839
5月23日から ちょうど199日目よ。
217
00:23:26,839 --> 00:23:29,742
何を勘定してるのかと思えば。
218
00:23:29,742 --> 00:23:34,179
だけど 5月23日って よく覚えてたね。
219
00:23:34,179 --> 00:23:36,849
日記を見れば すぐ分かるわ。
220
00:23:36,849 --> 00:23:42,187
日記? 日記をつけてるの?
ええ。
221
00:23:42,187 --> 00:23:45,090
いつから?
222
00:23:45,090 --> 00:23:48,861
東京でお酌に出る少し前から。
223
00:23:48,861 --> 00:23:55,534
それから ずっと欠かさず?
ええ。
224
00:23:55,534 --> 00:24:02,141
今年のと 16の時のとが 一番面白いわ。
225
00:24:02,141 --> 00:24:08,013
今年は ページごとに 日付の入ったのしか
買えなくて 失敗したわ。
226
00:24:08,013 --> 00:24:12,785
書き出せば
どうしても長くなることがあるもの。
227
00:24:12,785 --> 00:24:18,691
そういうものかい。
ええ。
228
00:24:18,691 --> 00:24:25,297
それとは別の雑記帳も
もう10冊になったわ。雑記帳?
229
00:24:25,297 --> 00:24:30,836
ええ。 読んだ小説を
いちいち書き留めるんですの。
230
00:24:30,836 --> 00:24:32,771
感想を書いとくんだね。
231
00:24:32,771 --> 00:24:39,178
いいえ。 題と作者と
それから 出てくる人物の名前と➡
232
00:24:39,178 --> 00:24:44,183
その人たちの関係と
それくらいのことですわ。
233
00:24:46,852 --> 00:24:55,160
徒労だね。
そうですわ。
234
00:24:59,865 --> 00:25:02,768
⚟(汽笛)
235
00:25:02,768 --> 00:25:05,771
0時の上りだわ。
236
00:25:13,412 --> 00:25:18,117
おい 寒いじゃないか ばか。
237
00:25:25,824 --> 00:25:31,830
8月いっぱい神経衰弱だったのよ。
238
00:25:33,499 --> 00:25:37,169
どうして。
239
00:25:37,169 --> 00:25:43,308
何か 一生懸命に
思い詰めているんだけれど➡
240
00:25:43,308 --> 00:25:49,114
何を思い詰めているのか
自分に よく分からないの。
241
00:25:52,985 --> 00:25:56,855
気ちがいになるのかと心配だったわ。
242
00:25:56,855 --> 00:26:03,662
畳へね 縫い針を突き刺したり 抜いたり。
243
00:26:03,662 --> 00:26:08,467
そんなこと いつまでもしてるのよ。
244
00:26:08,467 --> 00:26:11,970
暑い日なかにさ。
245
00:26:16,341 --> 00:26:20,345
悲しいわ。
246
00:26:28,487 --> 00:26:31,390
<徒労だ。➡
247
00:26:31,390 --> 00:26:39,398
生きることも 愛することも 全て>
248
00:27:00,119 --> 00:27:05,791
⚟(話し声)
249
00:27:05,791 --> 00:27:10,662
泣いちゃってね。 泣いてばっかりなの。
(笑い声)
250
00:27:10,662 --> 00:27:14,666
この間 大丈夫だった?
結構 厳しく言われてたけど。
251
00:27:22,341 --> 00:27:25,043
島村さん。
252
00:27:34,486 --> 00:27:39,825
困るわ あんなとこ お通りになっちゃ。
253
00:27:39,825 --> 00:27:45,164
困るって 君がいるなんて知りゃしないよ。
254
00:27:45,164 --> 00:27:48,834
こんな ばたばたと
追いかけてきたりしたら➡
255
00:27:48,834 --> 00:27:50,769
なお困るじゃないか。
256
00:27:50,769 --> 00:27:56,074
うちに寄っていただこうと思って
走ってきたんですわ。うちへ?
257
00:27:58,510 --> 00:28:03,115
だけど 君のうち 病人があるんだろう。
258
00:28:03,115 --> 00:28:06,451
あら よくご存じね。
259
00:28:06,451 --> 00:28:11,156
僕は 同じ汽車で
病人のすぐ近くに乗ってきたんだよ。
260
00:28:14,126 --> 00:28:19,932
実に真剣に 実に親切に➡
261
00:28:19,932 --> 00:28:26,138
病人の世話をする娘さんが
付き添ってたけど あれ細君かね。
262
00:28:26,138 --> 00:28:29,474
ここから迎えに行った人?
263
00:28:29,474 --> 00:28:32,144
東京の人?
264
00:28:32,144 --> 00:28:36,014
まるで母親みたいで
僕は感心して見てたんだ。
265
00:28:36,014 --> 00:28:42,154
あんた そのこと
ゆうべ どうして話さなかったの?
266
00:28:42,154 --> 00:28:44,823
なぜ 黙ってたの?
細君かね。
267
00:28:44,823 --> 00:28:47,526
なぜ ゆうべ話さなかったの?
268
00:28:50,162 --> 00:28:53,832
おかしな人。
269
00:28:53,832 --> 00:28:58,837
日記を見せてくれるんだったら
寄ってもいいね。
270
00:29:04,443 --> 00:29:06,745
ばかね。
271
00:29:11,116 --> 00:29:14,453
どうぞ。
272
00:29:14,453 --> 00:29:19,324
⚟(せきこみ)
273
00:29:19,324 --> 00:29:22,027
駒ちゃん お帰りなさい。
274
00:29:23,795 --> 00:29:26,465
この上よ。
275
00:29:26,465 --> 00:29:28,800
十能 持っていきましょうか?
276
00:29:28,800 --> 00:29:32,504
あら 葉子さんに そんな悪いわ。
持ってきます。
277
00:29:34,139 --> 00:29:38,010
上がってて。
278
00:29:38,010 --> 00:29:43,815
<2人のやり取りに
何か違和感を感じた。➡
279
00:29:43,815 --> 00:29:48,520
…が その正体は分からなかった>
280
00:29:50,155 --> 00:29:54,159
元は お蚕様の部屋だったのよ。
281
00:29:56,028 --> 00:30:01,033
病人の部屋からだけれど
火は きれいだって言いますわ。
282
00:30:06,171 --> 00:30:12,044
師匠の息子さんは
東京で夜学に通っていたの。
283
00:30:12,044 --> 00:30:15,847
でも 腸結核を患ってね。
284
00:30:15,847 --> 00:30:18,750
ここへは 死にに帰ってきたのよ。
285
00:30:18,750 --> 00:30:22,187
ここが 生まれ故郷なの?
師匠のね。
286
00:30:22,187 --> 00:30:25,190
息子さんは 港町の生まれよ。
287
00:30:27,059 --> 00:30:30,862
君と同じ?
ええ。
288
00:30:30,862 --> 00:30:34,733
幼なじみなんだね。
どうかしら。
289
00:30:34,733 --> 00:30:40,205
6つも年が離れているから。
僕とは 6つどころじゃないよ。
290
00:30:40,205 --> 00:30:44,076
あんたは 幼なじみじゃないでしょ。
291
00:30:44,076 --> 00:30:48,714
東京の夜学って
何を勉強しに行っていたんだろう。
292
00:30:48,714 --> 00:30:50,649
さあ…。
293
00:30:50,649 --> 00:30:58,223
でも 昔から機械が好きで
時計屋に勤めてたぐらいだから➡
294
00:30:58,223 --> 00:31:03,495
きっと何か 機械に関係することでしょう。
295
00:31:03,495 --> 00:31:06,398
東京でお酌に出ていた時に
会わなかったの?
296
00:31:06,398 --> 00:31:12,404
会わないわ 入れ違いだったもの。
入れ違い?
297
00:31:15,507 --> 00:31:18,176
私が 港へ帰って➡
298
00:31:18,176 --> 00:31:24,883
しばらくして 息子さんは時計屋を辞めて
東京へ行ったのよ。
299
00:31:31,523 --> 00:31:34,226
日記は どこ?
300
00:31:37,195 --> 00:31:40,899
あれは 焼いてから死ぬの。
301
00:31:43,869 --> 00:31:49,541
<駒子は 葉子のことには
ひと言も触れなかった。➡
302
00:31:49,541 --> 00:31:56,548
駒子の日記には
葉子のことも書かれているだろうか>
303
00:32:00,819 --> 00:32:05,690
♬~(三味線)
304
00:32:05,690 --> 00:32:07,692
誰だか 下手な三味線だね。
305
00:32:07,692 --> 00:32:11,463
フフ 井筒屋のふみちゃんかしらね。
306
00:32:11,463 --> 00:32:13,398
うまい人はいるかい?
307
00:32:13,398 --> 00:32:20,172
駒子って子は
このごろ達者になりましたね。ふ~ん。
308
00:32:20,172 --> 00:32:22,507
旦那さん ご存じなんですね。
309
00:32:22,507 --> 00:32:26,178
まあ 上手といっても
こんな山ん中のことですから。
310
00:32:26,178 --> 00:32:31,049
いや 知らないけれど 師匠の息子が
帰るのと 昨夜 同じ汽車でね。
311
00:32:31,049 --> 00:32:38,190
おや よくなって帰ってきましたか?
よくないようだったね。
312
00:32:38,190 --> 00:32:40,525
気の毒に…。
313
00:32:40,525 --> 00:32:45,197
その駒子っていう子が
この夏 芸者に出てまで➡
314
00:32:45,197 --> 00:32:48,867
病院の金を送ったそうですけどねえ。
315
00:32:48,867 --> 00:32:52,204
でも まあ 尽くすだけ尽くしておけば➡
316
00:32:52,204 --> 00:32:56,708
いいなずけというだけでも 後々までねえ。
317
00:32:56,708 --> 00:33:00,145
いいなずけ?
そういう うわさでございますよ。
318
00:33:00,145 --> 00:33:05,951
駒子… その駒子って子が 師匠の息子の?
319
00:33:05,951 --> 00:33:10,155
ああ。 よくは知らないんですけどね。
320
00:33:12,157 --> 00:33:18,163
<徒労という言葉が また浮かんだ>
321
00:33:19,831 --> 00:33:28,840
<駒子が 息子のいいなずけだとして
葉子が 息子の新しい恋人だとして➡
322
00:33:28,840 --> 00:33:34,846
しかし 息子は
やがて死ぬのだとすれば…>
323
00:33:37,315 --> 00:33:43,121
<駒子が 身を落としてまで
息子を療養させたことは➡
324
00:33:43,121 --> 00:33:47,125
これ徒労でなくて 何であろう>
325
00:33:53,198 --> 00:33:57,202
あんた ばかだ。
326
00:34:03,008 --> 00:34:09,014
<その日 駒子は 夜明け前に帰り損ねた>
327
00:34:16,154 --> 00:34:20,025
早く帰って お稽古をすればよかったわ。
328
00:34:20,025 --> 00:34:23,328
朝は 音が違う。
329
00:34:26,798 --> 00:34:30,502
ここで 稽古すればいいじゃないか。
330
00:34:32,170 --> 00:34:41,179
<駒子は 家に電話をして 着替えと一緒に
長唄の本を届けるように言った。➡
331
00:34:41,179 --> 00:34:46,484
持ってきたのは 葉子だった>
332
00:34:50,855 --> 00:35:01,466
〽 元より勧進帳のあらばこそ
333
00:35:01,466 --> 00:35:07,339
〽 笈の内より往来の
334
00:35:07,339 --> 00:35:13,078
〽 巻物一巻取出だし
335
00:35:13,078 --> 00:35:21,786
〽 勧進帳と名付けつつ
336
00:35:21,786 --> 00:35:32,430
〽 高らかにこそ
337
00:35:32,430 --> 00:35:55,520
〽 読み上げけれ
338
00:35:55,520 --> 00:36:02,127
〽 すわや我が君怪しむるは
339
00:36:02,127 --> 00:36:07,465
〽 一期の浮沈ここなりと
340
00:36:07,465 --> 00:36:11,136
<敬けんの念に打たれた。➡
341
00:36:11,136 --> 00:36:14,472
悔恨の思いに洗われた。➡
342
00:36:14,472 --> 00:36:17,776
ただ もう 無力だった>
343
00:36:19,344 --> 00:36:41,166
〽 立ちかえる
344
00:36:41,166 --> 00:36:47,038
<ああ この女は 俺にほれているのだ。➡
345
00:36:47,038 --> 00:36:49,741
そう思った>
346
00:36:56,715 --> 00:37:04,022
君は あの 病人の息子さんの
いいなずけだって?
347
00:37:06,124 --> 00:37:11,463
あら。 いつ そんなこと聞いたの?
昨日。
348
00:37:11,463 --> 00:37:16,334
おかしな人。
なぜ ゆうべ そう言わなかったの。
349
00:37:16,334 --> 00:37:19,204
そのために芸者になって
療養費を稼いでるって。
350
00:37:19,204 --> 00:37:22,140
嫌らしい。
そんな新派芝居みたいなこと。
351
00:37:22,140 --> 00:37:24,476
あんた それを本当にしたの?
本当にした。
352
00:37:24,476 --> 00:37:26,511
本当なんかじゃないわ。
353
00:37:26,511 --> 00:37:28,813
じゃあ 何で
いいなずけなんて人がいるんだ。
354
00:37:28,813 --> 00:37:32,817
そう思ってる人が多いのよ。
355
00:37:34,486 --> 00:37:36,421
謎みたいなことばかり言うなよ。
356
00:37:36,421 --> 00:37:40,158
はっきり言いますわ。
357
00:37:40,158 --> 00:37:44,829
お師匠さんがね 息子さんと私と➡
358
00:37:44,829 --> 00:37:50,001
一緒になればいいと思った時が
あったかもしれないの。
359
00:37:50,001 --> 00:37:54,172
あったかもしれない?
心の中だけのことで➡
360
00:37:54,172 --> 00:37:58,042
口には 一度も出しゃしませんけどね。
361
00:37:58,042 --> 00:38:02,981
口に出さないのに どうして分かるんだ。
分かるわよ。
362
00:38:02,981 --> 00:38:08,119
息子さんも私も うすうす知ってた。
363
00:38:08,119 --> 00:38:11,456
だけど 2人は 別に何でもなかった。
364
00:38:11,456 --> 00:38:14,459
ただ それだけ。
365
00:38:21,466 --> 00:38:23,401
よそに泊まるのなんか よくないね。
366
00:38:23,401 --> 00:38:28,706
私が 好きなようにするのを
死んでいく人が どうして止められるの?
367
00:38:41,152 --> 00:38:50,495
東京に行く時
あの人が たった一人 見送ってくれた。
368
00:38:50,495 --> 00:38:57,502
(三味線の音)
369
00:39:00,772 --> 00:39:10,782
一番古~い日記の 一番初めに
そのことが書いてあるわ。
370
00:39:12,383 --> 00:39:21,392
小さい時 こうして習ったわ。
371
00:39:26,798 --> 00:39:39,811
〽 く ろ かあ みい の
372
00:39:39,811 --> 00:39:44,115
♬~
373
00:39:49,821 --> 00:39:56,160
ねえ。 あんた もう 東京へ帰んなさい。
374
00:39:56,160 --> 00:40:00,865
つらいわ。 もう帰んなさい。
375
00:40:06,504 --> 00:40:10,842
雪見に来たいが
正月は 宿が混むだろうね。
376
00:40:10,842 --> 00:40:14,712
2月は 鳥追い祭りがあるわ。
鳥追い祭り?
377
00:40:14,712 --> 00:40:17,181
子供の年中行事よ。
378
00:40:17,181 --> 00:40:24,522
雪の堂を作って 屋根の上で
押し合いもみ合い鳥追いの歌を歌うの。
379
00:40:24,522 --> 00:40:27,191
いいね 見に来るよ。
380
00:40:27,191 --> 00:40:29,527
あんた ぜいたくな人ね。
381
00:40:29,527 --> 00:40:32,830
いつも そういう暮らしばかりしてるの?
382
00:40:36,200 --> 00:40:39,103
あっ 駒ちゃん! 駒ちゃん!
383
00:40:39,103 --> 00:40:42,340
行男さんが… ねっ 駒ちゃん 早く帰って。
384
00:40:42,340 --> 00:40:44,842
様子が変よ。 早く!
385
00:40:46,544 --> 00:40:51,215
お客様を送ってるんだから
私 帰れないわ。
386
00:40:51,215 --> 00:40:53,885
見送りなんて そんなものいいから。
よくないわよ。
387
00:40:53,885 --> 00:40:56,220
あんた もう 二度と来るか来ないか
分かりゃしない。
388
00:40:56,220 --> 00:40:59,891
来ると言ってるだろう。
駒ちゃん。 行男さんが呼んでるの!
389
00:40:59,891 --> 00:41:02,894
ねえ!
嫌よ!
390
00:41:05,496 --> 00:41:08,399
ねえ この人を帰してください
帰してください!
391
00:41:08,399 --> 00:41:11,369
ええ 帰します。
早く帰れよ ばか。
392
00:41:11,369 --> 00:41:15,173
あんた 何を言うことあって。
すぐに帰しますから。
393
00:41:15,173 --> 00:41:20,044
とにかく あんたは
先に行っていたらいいでしょう。
394
00:41:20,044 --> 00:41:23,047
早く… 早くね!
395
00:41:29,520 --> 00:41:32,190
私 帰らないわよ。
396
00:41:32,190 --> 00:41:36,494
帰れ。 一生後悔するよ。
397
00:41:40,064 --> 00:41:42,900
君たち3人の間に
どういう事情があるか知らんが➡
398
00:41:42,900 --> 00:41:44,902
息子さんは 今 死ぬかもしれんだろう。
399
00:41:44,902 --> 00:41:47,038
それを会いたがって
呼びに来たんじゃないか。
400
00:41:47,038 --> 00:41:49,540
こう言ってる間にも
息が絶えたら どうする。
401
00:41:51,876 --> 00:41:57,749
君が 東京に売られていく時
ただ一人 見送ってくれた人ではないか。
402
00:41:57,749 --> 00:42:02,153
一番古い日記の
一番初めに書いてある人だ。
403
00:42:02,153 --> 00:42:05,823
その人の命の終わりのページに
君を書きに行くんだ。
404
00:42:05,823 --> 00:42:07,825
嫌よ。
405
00:42:11,162 --> 00:42:14,832
もう日記なんかつけられない。
406
00:42:14,832 --> 00:42:17,535
焼いてしまう。
407
00:42:21,706 --> 00:42:23,908
ねえ。
408
00:42:25,843 --> 00:42:29,714
あんた素直な人ね。
409
00:42:29,714 --> 00:42:37,855
素直な人なら 私の日記を
すっかり送ってあげてもいいわ。
410
00:42:37,855 --> 00:42:46,164
あんた… 私を笑わないわね。
411
00:43:03,815 --> 00:43:10,154
<その時 脳裏によみがえった。➡
412
00:43:10,154 --> 00:43:14,025
あの日 この雪国に着いた夜>
413
00:43:14,025 --> 00:43:17,495
ああ 葉子さんじゃないか。
駅長さん。
414
00:43:17,495 --> 00:43:21,799
<宿で 駒子に再会する直前>
415
00:43:24,168 --> 00:43:27,872
<駒子は 駅に来ていた>
416
00:43:33,177 --> 00:43:37,181
<行男を迎えに来ていたのだ>
417
00:43:39,517 --> 00:43:42,420
<駒子は 知っていたのだろうか。➡
418
00:43:42,420 --> 00:43:47,391
行男が 葉子と帰ってくることを。➡
419
00:43:47,391 --> 00:43:51,128
葉子と行男は 知っていたのだろうか。➡
420
00:43:51,128 --> 00:43:55,867
駒子が 迎えに来ていることを。➡
421
00:43:55,867 --> 00:44:00,705
そのあと 宿に現れるまで➡
422
00:44:00,705 --> 00:44:05,476
駒子は どこで どんな時を
過ごしていたのだろうか。➡
423
00:44:05,476 --> 00:44:11,349
何を思って 私に会いに来たのだろうか>
424
00:44:11,349 --> 00:44:14,151
(汽笛)
425
00:44:14,151 --> 00:44:21,025
<今 行男は死のうとしていて
葉子が 駒子を呼びに来て➡
426
00:44:21,025 --> 00:44:27,298
駒子が それを断って
私を見送っているのだとすれば➡
427
00:44:27,298 --> 00:44:30,801
これ徒労でなくて 何であろう>
428
00:44:33,504 --> 00:44:38,175
<私が 駒子を愛していたとして➡
429
00:44:38,175 --> 00:44:42,480
これ徒労でなくて 何であろう>
430
00:44:51,189 --> 00:44:56,861
ただいま。
(茂)お帰り!(正)お帰りなさい!➡
431
00:44:56,861 --> 00:45:00,464
僕 ちゃんといい子にしてたよ。
本当?本当だよ。
432
00:45:00,464 --> 00:45:04,135
茂。
わあ 大きい!はい 正。
433
00:45:04,135 --> 00:45:07,438
(笑い声)
434
00:45:10,474 --> 00:45:16,147
♬「あの鳥なーんで やってきた」
435
00:45:16,147 --> 00:45:21,819
♬「稲の傍にやってきた」
436
00:45:21,819 --> 00:45:26,290
ヴァレリーは 生きることへの
けん怠に対する治療法は➡
437
00:45:26,290 --> 00:45:28,826
舞踊であると言ってるんだよ。
438
00:45:28,826 --> 00:45:31,162
ディアギレフや
ニジンスキーについても➡
439
00:45:31,162 --> 00:45:34,498
その視点から捉え直すことができると
僕は思う。
440
00:45:34,498 --> 00:45:39,837
今度の本は そうした
総合芸術における西洋舞踊➡
441
00:45:39,837 --> 00:45:44,709
なかんずく肉体が魂に与える
影響についてのものになるだろう。
442
00:45:44,709 --> 00:45:48,179
部数は 少ない方がいい。
443
00:45:48,179 --> 00:45:52,049
ぜいたくで 豊かなものにしたいね。
444
00:45:52,049 --> 00:45:57,521
♬「鳥追いだ 鳥追いだ 追い出せ」
445
00:45:57,521 --> 00:46:00,524
食べようか。
ええ。
446
00:46:02,126 --> 00:46:06,998
♬「西の空に追いもうせ」
447
00:46:06,998 --> 00:46:12,470
♬「テンジクまで追いもうせ」
448
00:46:12,470 --> 00:46:22,480
(セミの声)
449
00:46:22,480 --> 00:46:29,186
<もう夏衣では 寒い。
そう思った時だった>
450
00:46:31,155 --> 00:46:34,458
<雪国を思い出した>
451
00:46:39,497 --> 00:46:47,805
<雪国の女の みうちのあつさが
いとしく思い出された>
452
00:46:51,509 --> 00:46:59,850
<「あの山に咲き乱れて
銀色に光って見えるのは白萩よ」と➡
453
00:46:59,850 --> 00:47:03,154
駒子が言っていたように思う>
454
00:47:07,658 --> 00:47:11,462
<そんな季節の逗留にもかかわらず➡
455
00:47:11,462 --> 00:47:18,769
私の記憶のその村は
やはり 白い雪に埋もれている>
456
00:47:26,811 --> 00:47:31,682
2月は悪かったね。
鳥追い祭りに来られなかった。
457
00:47:31,682 --> 00:47:39,156
いいの。 私も 2月は 実家へ行ってたの。
商売を休んでね。
458
00:47:39,156 --> 00:47:43,027
どうして?
どうしてだっていいわ。
459
00:47:43,027 --> 00:47:48,833
同じ時に お師匠さんも港へ行って
肺炎になったの。
460
00:47:48,833 --> 00:47:52,503
うちに電報が来て 看病したのよ。
461
00:47:52,503 --> 00:47:56,173
よくなった?
いいえ。
462
00:47:56,173 --> 00:47:59,076
それは 悪かったね。
463
00:47:59,076 --> 00:48:03,080
今は 息子さんと同じお墓に入ってるわ。
464
00:48:04,782 --> 00:48:14,458
息子さんは あの日
君が送りに来てくれた時に…?
465
00:48:14,458 --> 00:48:19,764
また商売に戻るなんて
夢にも思わなかった。
466
00:48:25,469 --> 00:48:31,475
あんた 私の気持ち分かる?
467
00:48:33,144 --> 00:48:35,446
分かるよ。
468
00:48:37,014 --> 00:48:39,016
うそばっかり。
469
00:48:39,016 --> 00:48:41,485
あんたは ぜいたくに暮らして
いいかげんな人だわ。
470
00:48:41,485 --> 00:48:43,821
私の気持ちなんて 分かりゃしない
そうでしょ。
471
00:48:43,821 --> 00:48:46,524
そう問い詰めんなよ。
472
00:48:50,494 --> 00:48:57,168
悲しいわ。 あんた もう 明日 帰んなさい。
473
00:48:57,168 --> 00:49:03,974
<駒子の言葉は
いつも謎かけのようだった。➡
474
00:49:03,974 --> 00:49:07,611
問われたことに
ろくに答えない代わりに➡
475
00:49:07,611 --> 00:49:11,115
少しずつ 手がかりを残す。➡
476
00:49:11,115 --> 00:49:17,822
そうかと思うと 驚くようなことを
打ち明けるのだった>
477
00:49:20,791 --> 00:49:26,797
私 5年続いてる人があるのよ。 港町に。
478
00:49:28,465 --> 00:49:35,339
だけど 初めっから 今日まで
その人が嫌で➡
479
00:49:35,339 --> 00:49:38,642
いつまでも打ち解けられないの。
480
00:49:46,016 --> 00:49:49,486
それだけ続けば 上等の方じゃないか。
481
00:49:49,486 --> 00:50:00,497
悲しいわ 親切な人なのに 一度も
生き身を許す気になれないんだもの。
482
00:50:00,497 --> 00:50:05,836
5年前っていうと
君が港に帰ってきてから すぐ?
483
00:50:05,836 --> 00:50:08,506
ええ そうよ。
484
00:50:08,506 --> 00:50:11,542
港に置くのは 都合が悪いからって➡
485
00:50:11,542 --> 00:50:16,347
師匠が この村に来た時に
私を預けたんだわ。
486
00:50:19,517 --> 00:50:23,187
同じ時期なんだね。
487
00:50:23,187 --> 00:50:26,090
え?
488
00:50:26,090 --> 00:50:32,396
師匠の息子さんが
時計屋を辞めて 東京へ行ったのと。
489
00:50:36,534 --> 00:50:41,839
そう言っていたよね?
さあ どうだったかしら。
490
00:50:45,209 --> 00:50:47,912
墓に行ってみようか。
491
00:50:51,015 --> 00:50:54,518
君の いいなずけの墓。
492
00:51:00,491 --> 00:51:05,829
あんた 私をばかにしてんのね。
493
00:51:05,829 --> 00:51:10,501
何の因縁があって
あんた 墓を見物するのよ。
494
00:51:10,501 --> 00:51:13,404
何を そう むきになるんだ。
495
00:51:13,404 --> 00:51:17,374
あれだって
私には 真面目なことだったんだわ。
496
00:51:17,374 --> 00:51:21,512
あんたみたいに
ぜいたくな気持ちで生きてる人と違うわ。
497
00:51:21,512 --> 00:51:23,547
誰が ぜいたくな気持ちで生きてるもんか。
498
00:51:23,547 --> 00:51:27,384
じゃあ 何で いいなずけなんて言うのよ。
499
00:51:27,384 --> 00:51:31,689
いいなずけでないってことは
前に よく話したじゃないの。
500
00:51:39,063 --> 00:51:43,534
分からないわ 東京の人は複雑で。
501
00:51:43,534 --> 00:51:46,537
君の方が よっぽど複雑だよ。
502
00:51:50,407 --> 00:51:54,111
今に命まで散らすわよ。
503
00:52:08,692 --> 00:52:11,495
駒ちゃん。
504
00:52:11,495 --> 00:52:15,799
葉子さん 早いのね。
505
00:52:17,368 --> 00:52:21,005
お墓参りばかりしているって
聞いてたけど➡
506
00:52:21,005 --> 00:52:24,875
いつも こんなに朝早くから?
507
00:52:24,875 --> 00:52:26,877
ああ…。
508
00:52:28,746 --> 00:52:32,716
さっき 貨物列車が通ったんです。
509
00:52:32,716 --> 00:52:35,185
弟が乗っていたわ。
510
00:52:35,185 --> 00:52:41,058
信号所に勤めてるんです。
そう。
511
00:52:41,058 --> 00:52:49,066
立派な弟さんね。
まだ ほんの子供ですわ。
512
00:52:54,538 --> 00:52:57,241
私ね…。
513
00:53:00,811 --> 00:53:05,516
行男さんのお墓参りはしないことよ。
514
00:53:07,684 --> 00:53:39,183
♬~
515
00:53:39,183 --> 00:53:42,886
おはようございます。
516
00:53:48,192 --> 00:53:53,530
<葉子が 宿で下働きを始めた>
517
00:53:53,530 --> 00:53:56,867
そこ終わったら 次 大広間ね。
はい!
518
00:53:56,867 --> 00:54:01,138
<私には 飲み込めなかった。➡
519
00:54:01,138 --> 00:54:06,810
なぜ あえて この宿で…。➡
520
00:54:06,810 --> 00:54:14,485
駒子が しげしげと通ってくる
私の定宿で>
521
00:54:14,485 --> 00:54:20,791
⚟ごめんください ごめんください。
522
00:54:24,495 --> 00:54:28,198
あの駒ちゃんが これ よこしました。
523
00:54:31,368 --> 00:54:36,507
<こうして 駒子の
使い走りのようなことまでしているのは➡
524
00:54:36,507 --> 00:54:40,210
どういう心持ちなのだろう>
525
00:54:48,118 --> 00:54:51,054
<そして 駒子にしても>
526
00:54:51,054 --> 00:54:55,192
(足音)
527
00:54:55,192 --> 00:54:57,861
今 あの子が 何か持ってきた?
528
00:54:57,861 --> 00:55:01,865
来たよ。
そう?
529
00:55:08,472 --> 00:55:13,477
風 いい気持ち。
530
00:55:15,245 --> 00:55:18,148
お酒を注文してくる。
531
00:55:18,148 --> 00:55:22,486
そう言って そ~っと抜けてきた。
532
00:55:22,486 --> 00:55:25,522
ああ 水… 水飲みたい。
533
00:55:25,522 --> 00:55:28,025
水 頂戴。
534
00:55:30,827 --> 00:55:35,699
指の先まで いい色だよ。
フフフ。
535
00:55:35,699 --> 00:55:38,702
あの子 何て言った?
536
00:55:38,702 --> 00:55:41,004
何も言ってない。
537
00:55:43,407 --> 00:55:49,713
恐ろしいヤキモチやきなの 知ってた?
誰が?
538
00:55:51,849 --> 00:55:55,152
殺されちゃいますよ。
539
00:56:06,797 --> 00:56:11,468
私 酔ってる?
540
00:56:11,468 --> 00:56:18,475
<私には この雪国に 会いたい人がいた>
541
00:56:20,811 --> 00:56:25,682
<会って 話をしてみたい人がいた>
542
00:56:25,682 --> 00:56:43,066
♬~
543
00:56:43,066 --> 00:56:47,671
駒ちゃんを よくしてあげてください。
544
00:56:47,671 --> 00:56:53,176
駒ちゃんは かわいそうなんですから
よくしてあげてください。
545
00:56:53,176 --> 00:56:58,515
僕には 何もしてやれないんだよ。
546
00:56:58,515 --> 00:57:02,786
早く東京へ帰った方が
いいかもしれないんだけれどね。
547
00:57:02,786 --> 00:57:05,689
私も 東京へ行きますわ。
548
00:57:05,689 --> 00:57:08,125
いつ?
いつでもいいんですの。
549
00:57:08,125 --> 00:57:10,460
それじゃ 帰る時
連れていってあげようか。
550
00:57:10,460 --> 00:57:13,764
ええ 連れて帰ってください。
551
00:57:18,135 --> 00:57:21,038
東京に 何か 当てがあるの?
いいえ。
552
00:57:21,038 --> 00:57:23,340
駒子に相談した?
553
00:57:25,809 --> 00:57:29,813
駒ちゃんは 憎いから 言わないんです。
554
00:57:31,481 --> 00:57:36,820
前に東京にいた時は 何をしてたんだ。
555
00:57:36,820 --> 00:57:39,156
看護婦です。
556
00:57:39,156 --> 00:57:44,828
それじゃ
今度も 看護婦の勉強をしに行くんだね。
557
00:57:44,828 --> 00:57:48,699
看護婦には もうなりません。
558
00:57:48,699 --> 00:57:55,172
だって 私は
一人の人しか 看病しないんです。
559
00:57:55,172 --> 00:57:58,842
一生のうちに
ほかの病人を世話することも➡
560
00:57:58,842 --> 00:58:01,845
ほかの人の墓に参ることもありません。
561
00:58:07,117 --> 00:58:09,786
あの人は
駒子のいいなずけじゃなかったの?
562
00:58:09,786 --> 00:58:14,091
そんなの うそです。
どうして 駒子が憎いの?
563
00:58:16,660 --> 00:58:18,962
駒ちゃん…。
564
00:58:21,798 --> 00:58:27,804
駒ちゃんを よくしてあげてください。
僕には 何もしてやれないんだよ。
565
00:58:35,345 --> 00:58:39,649
駒ちゃんは 私が 気ちがいになると
言うんです。
566
00:58:49,026 --> 00:58:54,331
<行男と 話がしたかった>
567
00:58:56,700 --> 00:59:03,407
<雪国の女たちの話がしたかった>
568
00:59:12,449 --> 00:59:16,787
さあ 飲みなさい。
569
00:59:16,787 --> 00:59:19,089
飲むのよ。
570
00:59:23,460 --> 00:59:26,496
君のこと よくしてあげてくださいって
頼まれたよ。
571
00:59:26,496 --> 00:59:29,132
誰に?
572
00:59:29,132 --> 00:59:31,835
あの葉子って子に。
573
00:59:35,472 --> 00:59:40,177
あんた あの子が欲しいの?
574
00:59:42,145 --> 00:59:47,150
君は あの子のこととなると
どうも 妙だね。
575
00:59:48,819 --> 00:59:52,155
あの子を見てると➡
576
00:59:52,155 --> 00:59:57,861
行く末 私のつらい荷物に
なりそうな気がするの。
577
01:00:02,799 --> 01:00:04,801
荷物?
578
01:00:06,503 --> 01:00:09,406
あんたみたいな人の手にかかれば➡
579
01:00:09,406 --> 01:00:12,676
あの子は 気ちがいにならずに
済むかもしれないわ。
580
01:00:12,676 --> 01:00:17,514
ねえ 私の荷を
持ってっちゃってくれない?
581
01:00:17,514 --> 01:00:21,384
いいかげんにしろよ。
582
01:00:21,384 --> 01:00:27,524
葉子さんが あんたのそばで
かわいがられてると思って➡
583
01:00:27,524 --> 01:00:35,398
私は この山の中で 身を持ち崩すの。
584
01:00:35,398 --> 01:00:40,103
シ~ンと いい気持ち。
585
01:00:40,103 --> 01:00:44,407
おい。
何?
586
01:00:46,877 --> 01:00:54,551
<それは いつも感じていた
違和感の正体だった>
587
01:00:54,551 --> 01:01:00,824
君は あの子のことを
葉子さんと呼ぶんだね。
588
01:01:00,824 --> 01:01:03,493
それが?
589
01:01:03,493 --> 01:01:06,796
あの子は 君のことを 駒ちゃんと呼ぶ。
590
01:01:08,365 --> 01:01:15,105
だけど 駒子は
君が芸者に出てからの名前だ。
591
01:01:15,105 --> 01:01:18,108
それが 何だって言うの?
592
01:01:19,843 --> 01:01:25,148
君は いいなずけの療養費を稼ぐために
芸者になった。
593
01:01:27,184 --> 01:01:30,487
あの子に初めて会ったのは いつなんだ。
594
01:01:34,057 --> 01:01:40,764
もう帰って。
つらいから 帰ってちょうだい。
595
01:01:44,534 --> 01:01:52,409
初めて会った時
あんた なんて嫌な人だろうと思ったわ。
596
01:01:52,409 --> 01:01:57,881
あんな失礼なこと 言う人ないわ。
597
01:01:57,881 --> 01:02:01,651
それを私 今まで黙ってたの。
598
01:02:01,651 --> 01:02:04,487
分かる?
599
01:02:04,487 --> 01:02:08,792
女に こんなこと言わせるようになったら
おしまいじゃないの。
600
01:02:13,163 --> 01:02:17,467
君は いい女だよ。
どう いいの。
601
01:02:21,037 --> 01:02:23,340
いい女だよ。
602
01:02:25,508 --> 01:02:28,211
どういう意味?
603
01:02:30,847 --> 01:02:34,517
言ってちょうだい。
604
01:02:34,517 --> 01:02:38,188
それで 通ってらしたの?
605
01:02:38,188 --> 01:02:40,490
それでって?
606
01:02:46,062 --> 01:02:54,537
あんた… 私を笑ってたのね。
607
01:02:54,537 --> 01:02:58,208
笑うって 何を。
608
01:02:58,208 --> 01:03:02,212
やっぱり 笑ってらしたのね。
609
01:03:07,484 --> 01:03:10,487
悔しい…。
610
01:03:12,155 --> 01:03:18,028
(すすり泣き)
611
01:03:18,028 --> 01:03:21,331
悔しい…。
612
01:03:25,502 --> 01:03:32,509
<駒子の しげしげ会いに来るのを
待つ癖になってしまっていた>
613
01:03:38,515 --> 01:03:43,853
<そうして 駒子が
切なく迫ってくれば くるほど➡
614
01:03:43,853 --> 01:03:48,858
自分が 生きていないかのような
かしゃくが募った>
615
01:03:51,194 --> 01:04:00,904
<駒子の全てが 自分に通じてくるのに
自分の何も駒子に通じていそうにない>
616
01:04:03,473 --> 01:04:10,347
<このような わがままは
いつまでも続けられるものではなかった>
617
01:04:10,347 --> 01:04:26,696
♬~(三味線)
618
01:04:26,696 --> 01:04:45,515
〽 解けて寝た夜の枕とて
619
01:04:45,515 --> 01:04:50,220
駒ちゃん 今夜 繭倉に映画があるのよ。
620
01:04:51,855 --> 01:04:56,526
それが?
一緒に行かない?
621
01:04:56,526 --> 01:05:00,396
どうして?
行かない?
622
01:05:00,396 --> 01:05:04,801
行かないわ。
そう。
623
01:05:04,801 --> 01:05:10,673
ほかの人を誘えば?ううん。
駒ちゃんとじゃないなら 私も行かない。
624
01:05:10,673 --> 01:05:22,819
♬~(三味線)
625
01:05:22,819 --> 01:05:37,367
〽 昨夜の夢の
626
01:05:37,367 --> 01:05:41,171
わあ 危ねえ! 止まれ 止まれ!
627
01:05:41,171 --> 01:05:47,510
どこへ行った? ねえ どこへ行った?
危ないじゃないか むちゃするね。
628
01:05:47,510 --> 01:05:51,181
どうして私を連れていかないの?
そうだったね。
629
01:05:51,181 --> 01:05:53,116
ここで いいや。
630
01:05:53,116 --> 01:05:58,054
今朝 あんたが 出ていらっしゃったの
私 見てたのよ。え?
631
01:05:58,054 --> 01:06:00,456
私が 見送ってたの。
632
01:06:00,456 --> 01:06:05,128
あんた知らないでしょう。
知らなかったね。
633
01:06:05,128 --> 01:06:08,798
ほ~れ ご覧なさい。
634
01:06:08,798 --> 01:06:12,135
縮の産地に行ってたんだよ。
635
01:06:12,135 --> 01:06:14,070
縮の?
うん。
636
01:06:14,070 --> 01:06:16,005
何かあった?
何にも。
637
01:06:16,005 --> 01:06:19,809
でしょ?
うん。
638
01:06:19,809 --> 01:06:23,513
どうして私を連れていかないの?
639
01:06:28,151 --> 01:06:33,022
冷たくなってきて 嫌よ。
640
01:06:33,022 --> 01:06:43,166
♬~(三味線)
641
01:06:43,166 --> 01:06:46,503
(半鐘の音)
642
01:06:46,503 --> 01:06:52,175
火事… 火事よ。
火事だ。
643
01:06:52,175 --> 01:06:58,681
どこだ。 君の家 近いんじゃないか?
違う もっと上よ。
644
01:06:58,681 --> 01:07:00,884
繭倉だわ。
645
01:07:02,452 --> 01:07:05,755
繭倉が焼けてるのよ!
646
01:07:12,128 --> 01:07:14,797
あんたは 来ないで。
647
01:07:14,797 --> 01:07:18,468
私が笑われるから 来ないでちょうだい。
648
01:07:18,468 --> 01:07:23,473
火事場まで あんたを連れていくなんて
村の人たちに悪いわ。
649
01:07:25,141 --> 01:07:27,076
ごめん。 でも そこまで。
650
01:07:27,076 --> 01:07:31,014
やだ! もう。
651
01:07:31,014 --> 01:07:35,151
情けないわ。
652
01:07:35,151 --> 01:07:41,024
あんた 私をいい女だって言ったわね。
653
01:07:41,024 --> 01:07:46,763
行っちゃう人が
なぜ そんなこと言って 教えとくの?
654
01:07:46,763 --> 01:07:51,701
泣いたわ。 うちに帰ってからも 泣いたわ。
655
01:07:51,701 --> 01:07:55,838
あんたと離れるの怖いわ。
656
01:07:55,838 --> 01:08:00,843
けど もう… 早く行っちゃいなさい。
657
01:08:07,450 --> 01:08:09,752
行って。
658
01:08:12,121 --> 01:08:19,829
あんたが行ったら
私は 真面目に暮らすの。
659
01:08:23,466 --> 01:08:34,177
(半鐘の音)
660
01:08:38,815 --> 01:08:40,750
どんどん助け出してるんだあ。➡
661
01:08:40,750 --> 01:08:44,487
子供なんか
2階から ぼんぼん投げ下ろしてらあ。➡
662
01:08:44,487 --> 01:08:47,824
活動のフィルムから
ボンといっぺんに燃えついて➡
663
01:08:47,824 --> 01:08:51,527
火の回りが早いや。 ごめんよ。
664
01:08:56,165 --> 01:09:08,745
(悲鳴)
665
01:09:08,745 --> 01:09:12,749
どいて… どいてちょうだい!
666
01:09:21,124 --> 01:09:23,426
あ…。
667
01:09:32,735 --> 01:09:37,673
<汽車の中で 葉子の顔のただ中に➡
668
01:09:37,673 --> 01:09:43,813
ともし火がともった時の様を
思い出した。➡
669
01:09:43,813 --> 01:09:50,520
一瞬に 駒子との年月が
照らし出されたようだった>
670
01:09:53,156 --> 01:09:57,460
<いや 違う>
671
01:10:00,830 --> 01:10:15,378
〽 く ろ かあ みい の
672
01:10:15,378 --> 01:10:24,053
♬~(三味線)
673
01:10:24,053 --> 01:10:26,522
回想 雪国の生まれなの?
674
01:10:26,522 --> 01:10:33,196
ええ。 でも この温泉場じゃありませんわ。
港の方ですの。
675
01:10:33,196 --> 01:10:53,516
♬~(三味線)
676
01:10:53,516 --> 01:11:16,172
〽 解けて寝た夜の枕とて
677
01:11:16,172 --> 01:11:19,842
〽 独り寝る
678
01:11:19,842 --> 01:11:26,616
回想
お師匠さんがね 息子さんと私と➡
679
01:11:26,616 --> 01:11:31,454
一緒になればいいと思った時が
あったかもしれないの。
680
01:11:31,454 --> 01:11:37,393
♬~(三味線)
681
01:11:37,393 --> 01:11:41,864
時計屋にお勤めが決まったんですって。
682
01:11:41,864 --> 01:11:45,168
おめでとうございます。
683
01:11:47,537 --> 01:11:50,873
下手ですけど…。
684
01:11:50,873 --> 01:11:54,343
(行男)ありがとう さっちゃん。
685
01:11:54,343 --> 01:12:00,850
回想
だけど 2人は 別に何でもなかった。
686
01:12:06,823 --> 01:12:12,828
許しておくれ お前一人に苦労させて…。
687
01:12:17,166 --> 01:12:21,037
回想 あんたは ぜいたくに暮らして
いいかげんな人だわ。➡
688
01:12:21,037 --> 01:12:25,041
私の気持ちなんて 分かりゃしない。
689
01:12:27,810 --> 01:12:32,181
(足音)
690
01:12:32,181 --> 01:12:48,531
♬~
691
01:12:48,531 --> 01:12:54,870
(電車の発車ベル)
692
01:12:54,870 --> 01:13:01,677
回想 何となく好きで その時は
好きだとも言わなかった人の方が➡
693
01:13:01,677 --> 01:13:07,683
いつまでも懐かしいのね。 忘れないのね。
694
01:13:18,494 --> 01:13:25,501
「12月18日
今日から日記を書くことにした」。
695
01:13:28,504 --> 01:13:37,213
「東京行きの汽車に乗った私を
ただ一人 行男さんが見送ってくれた」。
696
01:13:40,516 --> 01:13:49,859
〽 黒髪の
697
01:13:49,859 --> 01:13:54,730
「4月3日。➡
698
01:13:54,730 --> 01:13:58,334
今日も お酌の仕事。➡
699
01:13:58,334 --> 01:14:01,804
毎日 いろんなお客さんに会う」。
700
01:14:01,804 --> 01:14:24,493
〽 結ばれたる思いには
701
01:14:24,493 --> 01:14:31,367
♬~(三味線)
702
01:14:31,367 --> 01:14:34,670
踊りが終わったら あの娘 呼んでくれ。
703
01:14:39,008 --> 01:14:42,845
「貧乏は嫌だ。➡
704
01:14:42,845 --> 01:14:47,149
お金のために生きなくてはならなくなる」。
705
01:14:49,719 --> 01:14:58,728
「貧乏は嫌。 貧乏は嫌。 貧乏は嫌」。
706
01:15:07,470 --> 01:15:16,178
「貧乏は嫌。 貧乏は嫌。 貧乏は嫌」。
707
01:15:25,020 --> 01:15:31,327
「たった1年半で
死に別れるとは思わなかった」。
708
01:15:34,497 --> 01:15:38,167
「何もかも捨てたつもりだったのに➡
709
01:15:38,167 --> 01:15:41,871
またこの町に戻ってきた」。
710
01:16:00,122 --> 01:16:04,460
「また同じことの繰り返し」。
711
01:16:04,460 --> 01:16:06,495
よろしくお願いいたします。
712
01:16:06,495 --> 01:16:11,133
「貧乏は嫌。 素直でいられません。➡
713
01:16:11,133 --> 01:16:16,839
貧乏は嫌。 貧乏は嫌」。
714
01:16:19,475 --> 01:16:25,815
「今度の人は
私を港に置くのは都合が悪いと言う。➡
715
01:16:25,815 --> 01:16:31,620
ちょうどお師匠さんが
生まれ故郷の温泉場に帰るからと➡
716
01:16:31,620 --> 01:16:35,825
私を預かってくれることになった」。
717
01:16:43,165 --> 01:16:45,468
靴を。
718
01:16:54,176 --> 01:17:01,784
行男が 東京の夜学に行くって言ってる。
719
01:17:01,784 --> 01:17:10,126
きっと立派になって
帰ってくるつもりでしょう。
720
01:17:10,126 --> 01:17:15,431
「お師匠さんは 優しい人だ」。
721
01:17:18,467 --> 01:17:27,176
「5月22日 今日は 繭倉で
道路普請の落成祝があって呼ばれた」。
722
01:17:27,176 --> 01:17:30,813
悪いけど
ちょっと頼まれてくれるかしらねえ。
723
01:17:30,813 --> 01:17:33,482
椿の間のお客さんなんだけども…。
724
01:17:33,482 --> 01:17:36,819
失礼いたします。
725
01:17:36,819 --> 01:17:45,528
「椿の間のお客さんは 東京から来た
島村さんという人だった」。
726
01:17:49,164 --> 01:17:54,036
「見もしない西洋舞踊について
書いていると言っていた。➡
727
01:17:54,036 --> 01:17:57,039
面白い人だ」。
728
01:18:02,711 --> 01:18:09,118
「5月23日➡
729
01:18:09,118 --> 01:18:13,789
お師匠さんが泣いていた」。
730
01:18:13,789 --> 01:18:15,724
どうなすったんです。
731
01:18:15,724 --> 01:18:17,660
「東京からの手紙だった」。
732
01:18:17,660 --> 01:18:26,135
行男が 腸結核にかかって
よくないらしいんだよ。
733
01:18:26,135 --> 01:18:29,805
(すすり泣き)
734
01:18:29,805 --> 01:18:34,143
お師匠さん 心配なさらないで
私が 東京へ。
735
01:18:34,143 --> 01:18:42,451
いけない。
お前も 行男も 傷つくだけだよ。
736
01:18:46,722 --> 01:18:48,691
(泣き声)
737
01:18:48,691 --> 01:18:53,996
「そのあと呼ばれた宴会で
しこたま飲んだ」。
738
01:18:56,165 --> 01:19:02,771
「安瓶で酔い潰れて 気持ち悪かった」。
739
01:19:02,771 --> 01:19:04,707
島村さん…。
740
01:19:04,707 --> 01:19:06,642
「なぜだろう。➡
741
01:19:06,642 --> 01:19:10,112
島村さんに会いたくなった」。
742
01:19:10,112 --> 01:19:14,450
島村さん!
743
01:19:14,450 --> 01:19:17,353
どうしたんだ。
744
01:19:17,353 --> 01:19:32,468
♬~
745
01:19:32,468 --> 01:19:35,371
「行男さん」。
746
01:19:35,371 --> 01:19:37,373
さあ。
747
01:19:41,143 --> 01:19:44,813
名前を書いたげる。
748
01:19:44,813 --> 01:19:49,485
好きな人の名前を書くの。
749
01:19:49,485 --> 01:19:58,794
「行男さん 行男さん
行男さん 行男さん」。
750
01:20:00,496 --> 01:20:04,166
「私は 何にも惜しいものはないのよ。➡
751
01:20:04,166 --> 01:20:07,503
決して惜しいんじゃないのよ。➡
752
01:20:07,503 --> 01:20:13,842
行男さん 私は そういう女じゃないの。➡
753
01:20:13,842 --> 01:20:16,879
私が 悪いんじゃないわよ。➡
754
01:20:16,879 --> 01:20:19,515
あんたが悪いのよ。➡
755
01:20:19,515 --> 01:20:22,418
あんたが負けたのよ。➡
756
01:20:22,418 --> 01:20:24,853
私じゃないのよ。➡
757
01:20:24,853 --> 01:20:28,190
行男さん 聞いてるの?➡
758
01:20:28,190 --> 01:20:34,530
行男さん 行男さん 行男さん…。➡
759
01:20:34,530 --> 01:20:38,400
あんた 笑ってるわね。➡
760
01:20:38,400 --> 01:20:41,403
私を笑ってるわね。➡
761
01:20:41,403 --> 01:20:44,873
心の底で 笑ってるでしょ。➡
762
01:20:44,873 --> 01:20:50,879
今 笑ってなくても きっと後で笑うわ」。
763
01:20:54,216 --> 01:21:01,023
「8月11日 お師匠さんに手紙が来た。➡
764
01:21:01,023 --> 01:21:05,160
『もう病院代は 送らなくていい。➡
765
01:21:05,160 --> 01:21:10,833
このまま治療を続けても無駄なのだ』と
書いてあった。➡
766
01:21:10,833 --> 01:21:18,507
無駄 無駄 無駄。➡
767
01:21:18,507 --> 01:21:24,380
12月8日に
行男さんが帰ってくると聞いた」。
768
01:21:24,380 --> 01:21:27,516
いらっしゃいませ。
お荷物 お持ちします。
769
01:21:27,516 --> 01:21:32,187
「お師匠さんにはないしょで
迎えに行った」。
770
01:21:32,187 --> 01:21:44,199
♬~
771
01:21:44,199 --> 01:21:47,102
「女の人が一緒だった。➡
772
01:21:47,102 --> 01:21:52,875
近所に住んでいたのに
いつの間にか いなくなった人。➡
773
01:21:52,875 --> 01:21:57,579
確か名前は 葉子だった」。
774
01:22:05,454 --> 01:22:08,157
さっちゃん?
775
01:22:11,360 --> 01:22:15,130
今は 駒子です。
776
01:22:15,130 --> 01:22:18,500
じゃあ 駒ちゃんね。
777
01:22:18,500 --> 01:22:33,048
♬~
778
01:22:33,048 --> 01:22:39,521
「一体 どうした因縁だろう。➡
779
01:22:39,521 --> 01:22:47,196
同じ汽車で 島村さんが来ていた。➡
780
01:22:47,196 --> 01:22:52,067
島村さんが 来てくれた。➡
781
01:22:52,067 --> 01:22:58,073
私の死にたい夜に 島村さんが…」。
782
01:22:59,775 --> 01:23:04,079
「島村さんが来てくれた」。
783
01:23:08,150 --> 01:23:13,021
駒ちゃん 駒ちゃん!
行男さんが… ねっ 駒ちゃん 早く帰って。
784
01:23:13,021 --> 01:23:15,023
様子が変よ。 早く!
785
01:23:15,023 --> 01:23:17,159
「島村さんには 知られたくない」。
786
01:23:17,159 --> 01:23:19,995
お客様を送ってるんだから
私 帰れないわ。
787
01:23:19,995 --> 01:23:24,166
「けれど…」。
帰れ。 一生後悔するよ。
788
01:23:24,166 --> 01:23:26,468
「なぜだろう」。
789
01:23:29,505 --> 01:23:37,179
「どこかで 島村さんに
日記を読んでほしいと思っている」。
790
01:23:37,179 --> 01:24:02,471
♬~
791
01:24:07,142 --> 01:24:10,846
お寺さんを呼ぶわ。
792
01:24:21,490 --> 01:24:42,511
(師匠の泣き声)
793
01:24:42,511 --> 01:24:51,520
「2月1日
港町の実家に帰ることにした。➡
794
01:24:51,520 --> 01:24:55,190
2月7日 電報が来た」。
795
01:24:55,190 --> 01:25:00,028
もともとお悪いのに…。
796
01:25:00,028 --> 01:25:03,999
どうして港に来たんです?
797
01:25:03,999 --> 01:25:10,706
「お師匠さんも港に来ていて
肺炎になったという知らせ」。
798
01:25:16,144 --> 01:25:23,819
お前の旦那と 話をしたよ。
799
01:25:23,819 --> 01:25:32,527
私が死んだあとのこと 頼んどいた。
800
01:25:37,366 --> 01:25:44,840
「2月14日 港を離れた。➡
801
01:25:44,840 --> 01:25:49,711
優しいお師匠さんの看病を放り出して。➡
802
01:25:49,711 --> 01:25:52,514
鳥追い祭りに行った」。
803
01:25:52,514 --> 01:25:58,186
♬「憎い鳥追い返せ」
804
01:25:58,186 --> 01:26:06,461
♬「山の鳥も 里の鳥も
追い出せ ホーイホイ」
805
01:26:06,461 --> 01:26:11,800
「島村さんは 来なかった」。
806
01:26:11,800 --> 01:26:16,471
♬「よく聞きもうせ」
807
01:26:16,471 --> 01:26:22,344
「いつか島村さんの言った言葉を
思い出した」。
808
01:26:22,344 --> 01:26:25,147
徒労だね。
809
01:26:25,147 --> 01:26:28,483
「そうかしら。➡
810
01:26:28,483 --> 01:26:32,487
私は そうは思わないわ」。
811
01:26:36,158 --> 01:26:42,864
人は 人を愛し過ぎると。
812
01:26:49,504 --> 01:26:52,207
(落ちる音)
813
01:27:10,125 --> 01:27:12,060
通るよ どいて どいて!
814
01:27:12,060 --> 01:27:13,995
道開けて!
815
01:27:13,995 --> 01:27:17,799
おい 大丈夫か!
816
01:27:17,799 --> 01:27:21,136
離れて あんた 離れて!
817
01:27:21,136 --> 01:27:26,808
この子… 気がちがうわ!
818
01:27:26,808 --> 01:27:29,811
気がちがうわ!
819
01:27:36,818 --> 01:27:40,122
どいて どいて! どいて!
820
01:28:20,362 --> 01:28:30,472
<国境の長いトンネルを抜けると
雪国であった>
821
01:28:30,472 --> 01:29:53,788
♬~
71447