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(健輔)
和美 席空いてるから 座ろう｡

(和美)大丈夫｡ ここが好きなの｡
いや でもな…｡

海のにおいがする｡
見えてきた？

違う この電車｡

多分 海沿いを走るから
海のにおいが染み込んでるのね｡

新町に住んでた時は
気付かなかったな…｡

それより 寒くない？
うん｡

喉は？ 渇いてたらさ…｡
渇いてない｡

ほら 危ない｡

大丈夫？
ありがとう｡ 大丈夫｡

やっぱり
駅着くまで 座ってない？

もう～ 気にし過ぎだってば｡

久しぶりのﾃﾞｰﾄなんだから
もうちょっと楽しもうよ｡

めちゃくちゃ楽しんでるけど…｡

あ～ 海！
おお～｡

久しぶりだな 海見るの｡
そうだな｡

去年は
結局 来られなかったもんね｡

子どもが中学に入ると➡

長期の休みなんて どこにも
行けないって聞いてたけど➡

ﾎﾝﾄだったね｡

先生も先生よ｡ 夏休み中
毎日練習してんだから➡

お盆まで取り上げる事
ないと思わない？

しかも
先生の実家で合宿なんて…｡

先生は 里帰りできて
一石二鳥かもしれないけど➡

子どもの家族は いい迷惑よ｡
しょうがないだろ｡

自由参加なのに ケンが
自分で行くって言ったんだから｡

バカねえ｡
部員のほとんどが行くのに➡

ケンだけ行かないって訳
いかないじゃない｡

しかも １年生だよ？ 怖い先輩に
目でもつけられたら どうすんの？

やっぱり するな～ 海のにおい｡

わあ～ 海入りたい！

今なら 最高に気持ちよさそう！
ﾌﾌﾌｯ｡

何？

いや…｡

死ぬような病気とは思えないって
顔してる｡

あなたが思えないんだから
きっと誰も思わないね｡

私が 末期のがん患者だなんて｡

(セミの声)

ｲﾃﾃﾃﾃﾃ… ｲﾀｯ｡

うん？
ああ いいとこ来た｡

ねえ あれ取って｡
どうした？

朝起きてから
ずっと背中が痛いの｡

背中？
うん｡ 何でだろう？
寝違えちゃったのかな？

どれ｡ ほら｡
ん？ 見たって 分かんないよ｡

どの辺？
ｲﾀﾀﾀﾀ… その辺 全部痛い｡

全部痛いって…｡
背中全部寝違えるって➡

どんな寝方したんだ？ お前｡
ほら 私 ダイに似て寝相悪いから｡

違うだろ｡ ダイが お前に似て
寝相が悪いんだ｡
そっか｡

はい 上げて｡
は～い｡ 貼って 貼って｡

いくよ｡ は～い｡
ん～ いいね！

和美｡
ん？

背中だけ見てると
ものすごく ババ臭いぞ｡

うるさいよ｡
ﾊﾊﾊﾊﾊﾊﾊ…｡

早く ごはん食べちゃって｡
はいはい｡
片づかないから｡

静かだな｡ 子どもたちは？
公園｡

おっ ケン 今日 部活休みか？
だから～➡

午後から 先生の実家で
合宿だって｡
あ そっか そっか｡

やっぱり
学校にｸﾚｰﾑ 入れようかな｡
あ？

だって お盆も家族と一緒に
過ごせないなんて➡

おかしいよ 絶対｡
｢絶対｣ 出た～｡

何？
お前さ むきになると
すぐ言うだろ ｢絶対 絶対｣って｡

そういうとこ ﾎﾝﾄ 小学生だな
絶対｡ ﾊﾊﾊ…｡

もう～ 人の事 バカにして！
早く食べちゃって｡

子どもたち 待ってるから｡
あ～ そうか そうか｡

じゃあ 頂きま～す！

(大輔)ねえ ちょっと待って！➡

ねえ ねえ！
ダイ！

ママ～！
(健哉)パパ 遅い！

ごめん ごめん｡
よっしゃ いくぞ！

(大輔)パパ ﾎﾞｰﾙ取って！
ヘイ！

ほら｡
ヘイ｡

パス｡ はい はい はい…｡

(セミの声)

(永原)検査の結果
すい臓に がんが見つかりました｡

かなり進行していまして➡

肺への転移も認められます｡➡

手術で 全部 取りきるのは
難しいと思います｡➡

今後は 抗がん剤治療と
痛みを和らげるための➡

放射線治療を
併用して行うとともに➡

新しい治療法を試していく事も
考えています｡

一日も早い方がいいので
このまま入院して頂いて➡

早速 明日から 始めましょうか｡

分かりました｡

それで あの…｡

こんな事を聞いていいのか
分からないんですけど…｡

何でも聞いて下さい｡

♬～

私は あと どのくらい
生きられるんでしょうか？

(永原)そうですね…｡

このままですと １年…｡

治療の効果次第では もう少し
希望が持てると思います｡

♬～

ﾄﾞﾗﾏみたいだったな…｡

は…？

余命宣告って…➡

ﾎﾝﾄに ああいう感じなんだね｡

ガ～ンって来なかった？
がんだけに｡

悪いんだけど 下着とかﾀｵﾙとか
適当に持ってきてくれる？

ああ 分かった…｡

どうする？ 子どもたちには｡

言わないで｡

病気になって
入院する事になったけど➡

必ず治るから
心配するなって伝えて｡

話さないつもりか？
今 そんな事まで考えられない｡

自分でも まだ信じられないのに｡

だな…｡

何でかな…？

体にだけは
自信があったんだけど…｡

何でかな…？

(泣き声)

♬～

(泣き声)

調子どうですか？
はい おかげさまで➡

すごく気分いいです｡
あ～ よかった｡➡

寒くなってきたから
体調 気を付けて下さいよ｡

もう 早く帰らないと｡
ねえ お孫さんに会わないと｡

ﾎﾝﾄ｡
今度 遊園地 行くんでしょう？

♬～

外 寒い？
寒い 寒い｡

今朝なんか すごく冷えてさ➡

あのダイが
自分で起きてきたぐらいだから｡

それは 相当だね｡

少し温かくなったら
新町に行きたいな｡

新町って あの新町？
新婚の頃 住んでた？

ほかに どの新町があるのよ？

俺の知らない お前だけの新町が
あるかもしれないじゃないか？

ある訳ないじゃない｡
あなたと出会ってから➡

私だけの何かなんて 一つも
なかったよ はっきり言って｡

お 何だ 何だ？ 20年の結婚生活で
たまりにたまった愚痴を➡

ここで 一気に吐き出すつもりか？
違うわよ｡

でも よく考えてみて｡

結婚して あの町に越して
６畳２間の狭いｱﾊﾟｰﾄで暮らして➡

健哉を妊娠して
こっちに引っ越してきて➡

ちょっと手が離れたと思ったら
今度は ダイができて➡

あなたが だんだん忙しくなって
私は 仕事を辞めて➡

幼稚園の役員が
終わったと思ったら➡

今度は 小学校の方が回ってきて｡
ﾊﾊﾊ…｡

ﾎﾝﾄに つい最近なんだよね｡

やっと 少し➡

自分一人の時間が持てるように
なったなって 感じてたの｡

あ…なのに こんな事に
なっちゃってって話じゃないよ｡

すごく楽しかったし
いろんな経験できたし➡

私だけの何かは なかったけど➡

私のそばには
いつも あなたがいてくれて➡

子どもたちが いてくれて➡

おかげで いつも笑っていられて
とっても幸せだった｡

やめろよ 過去形で言うの｡
あ… ごめん｡

でも だからこそ
行ってみたいの 新町に｡

幸せが始まった あの場所に
もう一度 行ってみたいの｡

ここ ﾎﾝﾄに新町？
ああ｡

違う町みたい｡
だな…｡

あれ？ でも 20年たってんだから
変わらない方が 変だよ｡

そうだけど…｡

商店街も もうないのかな？
おい 和美｡

おい 和美 無理すんな｡
見て｡

ﾘﾘｨ･ｱﾍﾞﾆｭｰ｡

前は 新町しらゆり商店街っていう
名前じゃなかった？ ﾌﾌﾌ…｡

笑うな｡
だって ﾘﾘｨ･ｱﾍﾞﾆｭｰって…｡

もし あなたの事務所が
ﾈｰﾐﾝｸﾞの依頼 受けてたら➡

ﾘﾘｨ･ｱﾍﾞﾆｭｰなんて名前にした？

しません｡
ほら～｡ ﾌﾌﾌﾌﾌﾌ…｡

でも 確かに変わっちゃったかも｡
ﾎﾝﾄだな｡

ほら ﾗｰﾒﾝ屋 ３軒もあるよ｡

ﾎﾝﾄだ～｡

何か 若者向けの店 増えたね｡

俺たちが越したあとに
大学が移転してきたんだな｡

あ そうだった｡

あそこは 帽子屋だったし
あそこは 定食屋だったよね｡

よく覚えてるな｡ ああ ああ ああ｡

あ～ あの店 懐かしい！

ｺﾛｯｹ４つ はい どうも～｡
あそこのｺﾛｯｹ よく食べたよね｡

食べたな｡ 安かったんだよな
１個40円 50円｡

そうそう｡

いつも あなたが
駅まで迎えに来てくれて➡

ごはんと みそ汁は作っといたから
って言って➡

ｺﾛｯｹとかﾒﾝﾁｶﾂとか
買って帰ったよね｡

おっちゃん 変わってない｡
ﾎﾝﾄだ｡ ﾌﾌﾌﾌ…｡

あっ！

ねえ ここ 覚えてる？
もちろん｡

同じの あるかな？
いや さすがに ないだろう｡

あ～ 変わってない｡

あ こんなんじゃなかった？
似てるし！

幅 もうちょっと狭くなかった？
でも 値段は このぐらい｡

自分たちで持ち帰ると
500円引きで｡

500円だったっけ？
そうだよ｡

その500円 浮かすために
持って帰ったんだもん｡

若かったな～｡
重かったよね～｡

ｱﾊﾟｰﾄの最後の坂 きつかったな｡
きつかった～｡

でも ２人で初めて選んで
買った家具だったから➡

何だか ｳｷｳｷしてさ
重かったけど 楽しかったな～｡

不安じゃなかった？
ん？
いや 脱サラして➡

ｲﾗｽﾄﾚｰﾀｰ目指してたけど ここに
いた頃は 全然パッとしなくて➡

お前に 生活まるまる
支えてもらってた｡

今更だけど
よく 俺なんかと結婚したよな｡

若かったな～｡
若気の至りかい！
ﾌﾌﾌﾌ…｡
おい｡

ｱﾊﾊﾊﾊ…｡

でも 先の見える生活なんて
つまんないよ｡

人生 何が起こるか分からないから
楽しいんじゃない｡

だからって こんな展開
望んでなかったと思うけど｡

そんな事 言ってないって｡
自虐的になるな｡

そんなつもりは ないの｡

私って もともと ｽﾞｹｽﾞｹ言う方だし
多分 病気になったから➡

それが
自虐っぽく聞こえるのかもね｡

ごめん｡
いや 謝らなくていいよ｡

うっ… ｹﾞﾎｯ…｡
おい 気分悪いの？

ちょっと…｡ ニスのせいかも｡
出よう｡

はあ…｡
大丈夫？
うん 大丈夫｡

これ 楽ちん｡
うん｡

よかった
帰ろうって言われなくて｡

言ったところで
素直に帰らないだろう｡
ﾌﾌﾌﾌﾌ…｡

でも きつくなったら
ﾎﾝﾄ 我慢しないで言えよ｡

すぐ ﾀｸｼｰ呼ぶから｡
分かってる｡

ねえ ちょっと早いけど ここで
ついでに お昼済ませちゃえば？

いい｡ 全然 おなか減ってない｡

朝も そう言って
ｺｰﾋｰだけだったじゃない｡

昨日 調子に乗って 食べ過ぎたよ｡

そういえば
みんな よく食べてたよね｡

う～ん おいしい！

ねえ もうちょっと
ゆっくり食べたら？

だって ママの作ったﾊﾝﾊﾞｰｸﾞとｸﾞﾗﾀﾝ
超久しぶりだもん！

家政婦の石井さん ﾊﾝﾊﾞｰｸﾞとか
ｸﾞﾗﾀﾝとか 使ってくんないからさ｡

そうなんだよ｡ 煮物とかさ
酸っぱいものとかさ｡

それは ママがお願いして
わざと そうしてもらってるの｡

え？
何それ？

だって ママ以外の人が ごはんを
作ってくれる機会なんて➡

なかなか ないでしょう？
だから この機会に➡

ふだん 食べてない物を
食べさせてやって下さいって｡

そうしたら あなたたちも 自然に
好き嫌いがなくなると思って｡

僕ね
ナス 食べられるようになったよ｡

ﾎﾝﾄに？
こんな小さいのだけじゃん｡

もっと大きいの 食べれます～｡
あ そうですか｡

お兄ちゃんより ナスなんか
食べれるから｡

そんな事ないよ｡
もういいから 食べなさい｡

は～い｡
ママの作ったｸﾞﾗﾀﾝ 大好き！

そんなに慌てなくていいから｡

よくかんで食べないと
消化に悪いよ｡

ﾌﾌﾌﾌﾌﾌﾌ…｡

おいしい｡

ちょっと 嫌だ パパまで…｡

(健哉)ママ お代わり｡
はい｡

僕も！
はい｡
パパも！

パパも？
まだまだ お前らには負けないぞ｡

どうだ この太鼓腹！
ﾊﾊﾊﾊﾊﾊ…｡

もうﾊﾟﾝﾊﾟﾝじゃん！

じゃあ 誰が一番 ママのごはん
食べるか 競争しようか｡

いいよ！
絶対負けねえ！

嫌だ 競争なんて…｡
おなか 壊しちゃうよ｡

いくぞ～！
ママ 早く ごはん ごはん｡

(大輔)早く 早く！
はいはい｡

(大輔)ねえ ママ
いつ退院できるの？

先生が いいよって言ったらね｡
それって いつ？

いつかな？
ねえ 退院したら 何する？

ｻｲｸﾘﾝｸﾞ！
旅行！

じゃあ 車に自転車積んで
ｻｲｸﾘﾝｸﾞできる所に 旅行しようか｡

うん！
どこ行く？

どこがいいかな？ 伊豆高原なんて
気持ちよさそうじゃない？

そこがいい！ そこにする！
ダイ 分かって言ってんの？

分かってるよ｡
ﾎﾝﾄに？

(健哉)
あとさ 部活の友達が 泊まりに
来たいって言ってんだよね｡

ＯＫ 任しといて｡

そうだ ケン｡ もうしばらく
お弁当 作れないけど ごめんね｡

いいよ 別に｡
もし あれだったら➡

お弁当も 石井さんに頼もうか？
前の日に作っといてもらってさ➡

朝 チンして 持ってくとか｡

いいよ 面倒くさいし
パン 好きだし｡
そっか…｡

ありがとう ケン！
痛い 痛い 痛い｡

大げさね～｡
マジで痛いって｡

ママ 僕も痛くして！
え？

いいの？ ダイ｡ 痛くしちゃうよ｡

ｷﾞｭ～ｯ！
痛～い！
喜んでるし｡

ケンも ｷﾞｭ～ｯ！
ダイ ｷﾞｭ～ｯ！

ｱﾊﾊﾊﾊﾊﾊ…｡
ケンもダイも ｷﾞｭ～ｯだよ！

♬～

(大輔)えっ 今日 ここで寝るの？

そう｡ み～んなで ここで寝るの｡
ママも？
もちろん｡

やった～！ やった～！

ダイの隣は 絶対嫌だから｡
こいつ 寝相 最悪なんだもん｡

じゃあ ママ 真ん中｡

じゃあ パパ ママの隣！
あっ パパ 駄目！

何？
パパ ちょっと やめて！ ねえ！

ケン おいで！

あんたたちが小さい時は
ずっと こうやって寝てたんだよ｡

そうなの？
そうだよ｡

毎晩 ２人で
ママの事 取り合いっこして｡

あのころは まだ➡

あんたたちの世話に追われて
大変だったけど➡

毎日 充実してて 幸せだったな…｡
今は 幸せじゃないの？

幸せだよ｡
今は今で もちろん幸せ｡

ただ
すごく大変って思ってた時も➡

今思うと
幸せだったなっていう話｡

そっか｡
よし 電気消すぞ｡

マジで このまま寝る気？
寝る気～｡ よし｡

ほい｡

はい 消えた～｡
真っ暗だし｡

小さい電気は？
うるさい｡

おやすみ！
おやすみ！

おやすみ！
おやすみ！

ﾌﾌﾌﾌ…｡
ﾌﾌﾌﾌ…｡
ﾌﾌﾌﾌ…｡

ﾊﾊﾊﾊﾊ…｡
ﾌﾌﾌﾌ…｡
ﾌﾌﾌﾌ…｡
ﾌﾌﾌﾌ…｡

♬～

いつか 連れてってあげてね
ｻｲｸﾘﾝｸﾞも旅行も｡

ケンの友達も 呼んであげて｡
布団とか 必要な物➡

ﾈｯﾄで注文しとくし
ｽﾍﾟｱﾘﾌﾞのﾚｼﾋﾟも書いとくから｡

本当に このまま
子どもたちに話さないつもりか？

うん｡
でもな…｡

わがままだって事は
よく分かってる｡

でも 最後の最後のｷﾞﾘｷﾞﾘまで
２人の元気な顔を見ていたいの｡

ママは治るんだって 信じてる顔を
見ていたいの｡

あの子たちの悲しんでる顔だけは
見たくない｡

お前の気持ちも分かるけど…｡
分かってるなら➡

言うとおりにして｡

お願い｡

さてと そろそろ行こっか｡

大丈夫？
うん｡ 大丈夫 大丈夫｡

ねえ まだ あるかな？

あるだろう｡
あの時 新築だったんだから｡

でも もう築20年だよ？
あったとしても ﾎﾞﾛﾎﾞﾛじゃない？

どんな人が住んでるかな？

新婚さん！ すっごい仲のいい
新婚さんだよ 絶対｡

絶対って…｡
何か言った？
いいえ 別に｡

ねえ せ～ので 一緒に見よう｡
ＯＫ｡

(２人)せ～の｡

あった～｡

懐かしいな…｡
ああ｡

もったいない｡
何が？

出窓｡ 何も置いてない｡
日当たりがいいから➡

あそこに鉢植えを置くと
すごくよく育つのに｡

男の１人暮らしなんじゃないか？
ううん それはない｡

だって あのｶｰﾃﾝ どう見ても
男の人のｾﾝｽじゃないもん｡

表札 見てみるか？
うん｡
行こう｡

同棲ｶｯﾌﾟﾙじゃない？
かもな｡

絶対そうよ｡ 武口さんっていう
男の人が住んでる部屋に➡

入江さんっていう女の人が
引っ越してきて➡

一緒に暮らし始めたのよ｡
決めつけてるし｡

あのころの私たちみたいな暮らし
してるかな？

訪ねてみるか？
え？

いや いたら
見せてくれるかもしれないよ｡

見たいんだろ？ 中も｡

ううん いい｡

いいのか？

うん いい｡ ここで ｺﾞｰﾙにしよう｡

分かった｡

なあ｡
ん？

ｲﾗｽﾄの仕事 駄目なままだったら
いろんな事 変わってたよな｡

そうだね｡ もしかしたら ずっと
ここに住んでたかもしれないね｡

30まで頑張って
芽が出なかったら➡

諦めて
ｻﾗﾘｰﾏﾝに戻るつもりだった｡

言ってたね 昔｡

もし そうだったら
お前も 仕事辞めてないよな｡

大輔が小学校に上がる
前だったよね｡

あなたの仕事が
本格的に忙しくなってきて➡

私は 会社に
行ってる場合じゃなくなって｡

もし あのまま辞めてなかったら
年２回の健康診断も受けて➡

そして… 病気も もっと早く➡

手遅れになる前に
見つかってたかもしれない｡

何言ってるの！ 同じだってば｡

そういうの言いだしたら
切りがないって｡

でも…｡
私は 信じてたよ｡

あなたのｲﾗｽﾄ いつか売れるって
確信してた｡ だから 結婚したの｡

先見の明があったって訳か｡
一緒に夢が見れるって思ったの｡

そして 見せてもらった｡

あなたのｲﾗｽﾄが
初めて雑誌に載ったのを見た時➡

叫んだんだから 私｡
一人で あの部屋で｡

自分の夢がかなったみたいに
うれしかった｡

今だって あなたの仕事が
うまくいってるから➡

入院の費用だって
なんとかなってるし➡

来週から始まる何とか療法だって
すごく高いじゃない？

びっくりしちゃった｡
お金の事なんてどうだっていいよ｡

どうでもよくない｡

今度の治療で もし 治ったら
あなたのおかげ｡

一生
恩着せがましくしていいからね｡

来週から また大変だな｡

うん｡

背骨がﾊﾞﾗﾊﾞﾗになりそうなほど
痛いんだって｡

うん｡

だから来たの 今日｡

え？

ひょっとして 最後の思い出作りに
来たんだと思ってた？ 違うよ｡

ここから 始まったんだから➡

もう一度
ここから始めたかったの｡

私 まだ諦めてないから｡

まだ やりたい事たくさんあるし➡

行きたいとこだって
たくさんある｡

あの子たちが 将来
どんな大人になるか 見たいもん｡

どんな仕事に就いて
どんな人 好きになって➡

どんなお嫁さん 連れてくるか
見たいもん｡

♬～

見届けよう 一緒に｡

絶対｡

♬～

じゃあ ここでいいよ｡
え～ 上まで行く｡

でも 明日も学校だし
早く帰って 寝る準備しないと｡

嫌だ まだ ママといる！

ダイ…｡

(山本)お帰りなさい｡
あ ただいま戻りました｡

あら～ いい顔してる｡
これは 相当楽しかったな？

おかげさまで｡

こんにちは｡
(３人)こんにちは｡

ケン君に ダイ君だったわよね？

昨日は お母さんに
いっぱい甘えられた？

うん！
でも 一番甘えたのは パパだよ｡

え？
だって そうじゃん｡
僕たちが学校に行ってる間に➡

パパとママだけで
お出かけするなんて➡

ずるいよね お兄ちゃん｡
何だ そういう意味か｡

どういう意味だと思ったのよ？
え？
そっか～｡

今日から また しばらく
ママいなくて 寂しいと思うけど➡

ママの事 応援してあげてね｡
はい！
おお いいお返事｡

じゃあ 病室まで ご案内しますね｡
お願いします｡

そうだ 忘れてた｡

はい ２人に お土産｡
うわ～ やった～！

でも ごめん｡
選ぶ時間 あんまりなかったんだ｡

わあ～ かわいい！

ﾗﾝﾄﾞｾﾙにつけて いい？
いいよ｡

ケンには
ちょっと子どもっぽかったかな？

ううん 大丈夫｡

僕は 気に入ったよ｡
ママ ありがとう｡

どういたしまして｡

じゃあ すいません｡
よろしくお願いします｡

さあ 行こう｡

待って！

２人とも 大好きだよ｡

私の宝物｡

♬～

おやすみ｡

おやすみ｡

おやすみ ママ｡
おやすみ｡

行こう｡

♬～

(村山)安ちゃん 安ちゃん
ちょっと ちょっと…｡

おはよう！
(一同)おはようございます！

昨日は 勝手して悪かったな｡
(工藤)とんでもない｡

奥様 大丈夫でしたか？
俺より元気だった｡

それは 何よりでした｡
留守中に入った連絡と➡

ｽﾀｯﾌからの連絡事項です｡
ありがとう｡

それと 新しい依頼が
１件あったんですが｡
うん｡

ちょっと珍しい内容で｡
というと？

それがですね
お盆の花火大会のﾎﾟｽﾀｰなんです｡

お盆の花火大会？

うちのﾃﾞｻﾞｲﾝは お盆や花火みたいな
和風なものには 合わないって➡

言ったんですけどね ｢そこを
なんとか｣って 粘られまして｡

まあ
やって やれない事はないけど➡

今は ちょっと 気持ち的に
余裕ないからな｡
了解です｡

あ～ そうだ｡

これ｡
何ですか？

連絡ﾘｽﾄ もしもの時の｡
え？

あいつが 自分で作ったんだ｡
その日が来たら➡

通夜や葬儀の事
連絡してくれって｡

その日？

余命宣告受けた時から ずっと➡

いつか 息を引き取る日の事を
その日って呼んで➡

去年の暮れ 一時退院した時から
いろいろ準備してたんだ｡

何やってんの？
身辺整理｡

え？

荷物の整理をしないまま
その日を迎えたら➡

あなた 困るでしょう｡
だから 今のうちに➡

要らない物は なるべく
捨てといてあげようと思って｡

そんなの いいよ｡
よくないよ｡

お葬式のあとで 何年もこのままに
しておかれるの 嫌だもん｡

でもさ 私の場合➡

余命宣告されたから
まだいいけど➡

突発的な事故や
急病で突然死んだら➡

こんな事 できないんだよね｡

そう考えると
人間 いつ死んでもいいように➡

ｼﾝﾌﾟﾙに暮らしとくべきかもね｡

何 しんみりしちゃってんの？

あなただって
明日死ぬかもしれないんだから➡

ひと事じゃないよ｡

あ でさ… 来週 ちょっと
実家に帰ってきていい？
うん｡

お父さんとお母さんにも 何となく
話しといた方がいいでしょう？

自分で言うのか？
あなた 言ってくれる？

冗談｡ 大みそかまでには
帰ってくるから｡

食事とか 大丈夫よね？

そんな事 心配しなくていいよ｡
そうだよね｡

あなたは 料理もできるし
洗濯もできるし➡

私より きれい好きだし
一人になっても やってけるよね｡

あ でも 愛人がいるんなら
ちゃんと紹介してよ｡

ケンやダイの事
いろいろ お願いしときたいから｡

何 バカな事 言ってんだよ！

(工藤)そんな事 言ったんですか？
奥さん｡

愛人の件は さすがに
何言ってんだと思ったけどな｡

でも 逃げずに 死と向き合って➡

その日を
迎えようとしてるところは➡

すごいと思う｡

俺が あいつの立場だったら
絶対あんな冷静じゃいられないよ｡

強い方ですね｡

うん｡

(遥香)かわいい｡

ここにいたんだ｡
何か用？

最近 お弁当の時間になると
いないから➡

どこで食べてるのかなって思って｡
関係ねえだろ｡

私も しばらく
パンだった事あったんだ｡

６月に 親が離婚して
母親の方が出てったの｡

２学期からは 自分でお弁当
作るようになったんだけどね➡

その前は やっぱり いろいろ
言われて うざかったから➡

気持ち 分かるなって…｡

ｸﾗｽ替わったし
また言われちゃうもんね｡

原田君ちも 離婚？

入院｡

そっか…｡

長いね｡

(永原)
進行が 思った以上に早くて➡

これ以上 治療を続けるのは➡

かえって 体力を奪う事になると
判断しました｡

つまり
治療をやめるという事ですか？

残念ですが…｡

いつ急変しても おかしくない
状態だと 思って下さい｡

♬～

はい｡

緊急の際は
この番号から 電話がいきます｡

念のために 携帯電話の番号を
教えて頂けますか？

♬～

明日
ケンとダイも 連れてくるから｡

２人とも
ずっと会いたがってたから｡

お前も 本当は 会いたいんだろ？

あいつらの顔 見たいだろ？

♬～

だから もう いいよな？

♬～

心の準備をしといて下さい
って事だと思います｡

何かあったら
すぐに連絡しますので➡

お父様の方にも
そのようにお伝え下さい｡

はい 失礼します｡

♬～

♬～(ﾊﾟｯﾍﾙﾍﾞﾙ ｢ｶﾉﾝ｣)

お客さん
その曲 何ていう曲なんですか？

ああ… ｢ｶﾉﾝ｣です｡
｢ｶﾉﾝ｣か…｡

いや 時々 ﾗｼﾞｵで流れてて
いい曲だなって思ってたんですよ｡

♬～(ﾊﾟｯﾍﾙﾍﾞﾙ ｢ｶﾉﾝ｣)

そうですね｡

♬～(ﾊﾟｯﾍﾙﾍﾞﾙ ｢ｶﾉﾝ｣)

≪(健哉)ﾊﾊﾊﾊﾊﾊ…｡
≪ただいま｡

お帰り｡
お帰り｡

何だ？ この荷物｡
(健哉)知らない｡ さっき届いた｡

(大輔)お兄ちゃん 何やってんの？
(健哉)お前 入ってくんなって｡

(大輔)もう～｡
(健哉)ほら 死んじゃった｡➡

もう一回やろう｡

(大輔)パパ 何だった？
野菜｡

ｹﾞｹﾞｯ！ 野菜？
誰が送ってきたの？
ママだ｡

ママ？ 何で？ 病院から？
違う｡

頒布会っていってな
事前に申し込んでおいたら➡

農家の人たちが 取れたての野菜を
送ってくれるんだ｡

何だ…｡
野菜なら ｽｰﾊﾟｰで売ってるのに｡

いや ｽｰﾊﾟｰのとは ちょっと違うな｡

農薬とか化学肥料とか
なるたけ使わないようにして➡

手間ひまかけて育てた野菜だ｡

ママが お前たちに食べさせたくて
頼んでたんだな｡

ケン ダイ ちょっといいか？

今 無理｡

何すんだよ？
いいから来い｡

何？

明日 ママに会いに行こう｡

ママ 元気になったの？

ねえ パパ
ママ 治ったの？
ダイ…｡

あのな… ママ 駄目なんだ｡

駄目って？

ずっと頑張ってきたけど
病気 治らなかった｡

まだ退院できないの？

そうじゃない｡

ずっと入院してるって事？

違う｡

じゃあ 何？

酒なんか飲むなよ！
ちゃんと言えよ！

ひきょうな事すんなよ｡

(大輔の泣き声)

ごめん｡

ごめんな｡

ケンの言うとおりだ｡

お前たちは 酒飲んで
酔っ払う事もできないのに➡

パパだけ飲んで…
ひきょうだった｡

ケン｡ ダイ｡
明日 病院に行って ママに会おう｡

ママな ﾎﾝﾄによく頑張ったんだ｡

早く 病気治して
早く うち帰って➡

早く
お前たちに会いたいと思って➡

痛い注射も 苦い薬も
我慢して 頑張ったんだ｡

でも…➡

もう治らないんだって｡

(泣き声)

だからな ダイ…｡

明日…
ママに会って 言ってやってくれ｡

よく頑張ったねって｡
ママ すごいねって｡

(泣き声)

なっ ママ 喜ぶから｡

すごく喜ぶから｡

ダイが言ってやってくれよな｡

頼むよ｡

♬～

(健哉の泣き声)

[無線](ﾊﾟｯﾍﾙﾍﾞﾙ ｢ｶﾉﾝ｣)

はい｡

分かりました｡ すぐ行きます｡

ええ…｡ そうですか｡

じゃあ そのように｡

はい 失礼します｡

病院から？
うん｡

ダイ 起こすよ｡
ああ まだいいよ｡

今すぐ どうこうって訳じゃ
ないらしいから｡

朝になってからでいいって｡
何で？

行こうよ
今すぐ ママの所に行こうよ｡

お前の気持ちは 分かる｡
でも まだ夜中だ｡

それに… 今日は 長い一日になる｡

今のうち 寝とけ｡

♬～

ちゃんと眠って
ちゃんと朝ごはん食べて➡

元気な顔で ママに会いに行こう｡

その方が ママ 喜ぶから｡ なっ｡

♬～

パパ｡
ん？

俺 分かってたよ
もう だいぶ前に｡

ママが
死んじゃうかもしれないって事｡

そうか｡

何で ママだったんだろう？

長生きしてる人は
いっぱい いるのに➡

何で うちのママだけ
病気になっちゃったんだ…｡

かわいそうだよ｡

ママは 何もしてないのに｡

何で ママだけ…？

♬～

(泣き声)