All language subtitles for SP 라이징 자쿠추 천재 그림을 깨우치다
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1
00:00:36,406 --> 00:00:41,706
(岩次郎)
<徳川はんの世になってから 早150年…>
2
00:00:44,281 --> 00:00:49,887
<将軍お膝元の江戸は
ごっついご城下やいう話やけど➡
3
00:00:49,887 --> 00:00:54,424
この京が
日本の都いうことには変わりなく➡
4
00:00:54,424 --> 00:00:58,896
まあまあ ええ感じで栄えてます。➡
5
00:00:58,896 --> 00:01:04,701
おんなじ上方でも
商人が算盤でしのぎを削る大坂と違うて➡
6
00:01:04,701 --> 00:01:11,441
天皇さんを頂く京は
茶碗の中みたいに穏やかや。➡
7
00:01:11,441 --> 00:01:14,912
けど ただの茶碗と違いまっせ?➡
8
00:01:14,912 --> 00:01:18,782
職人や絵師が鑿や筆でしのぎを削る➡
9
00:01:18,782 --> 00:01:24,454
なんともキラキラしい茶碗のような
小天地や。➡
10
00:01:24,454 --> 00:01:31,154
かく言う わしも その茶碗の中で
一旗揚げようとする一人>
11
00:01:35,732 --> 00:01:39,403
<わしらが作り出す美の一つ一つが➡
12
00:01:39,403 --> 00:01:43,073
キラキラしい茶碗の模様を作ってる。➡
13
00:01:43,073 --> 00:01:49,246
いうたら 京の町は
群雄割拠の芸術の都や>
14
00:01:49,246 --> 00:01:53,417
♬~
15
00:01:53,417 --> 00:02:21,278
♬~
16
00:02:21,278 --> 00:02:35,726
♬~
17
00:02:35,726 --> 00:02:38,426
(鳴き声)
18
00:02:45,402 --> 00:02:48,071
≪(与兵衛)お~い 岩次郎!
へ~い!
19
00:02:48,071 --> 00:02:50,974
(与兵衛)ええかげん 下りて来。
店番頼むわ。
20
00:02:50,974 --> 00:02:53,274
今すぐに。
21
00:02:59,082 --> 00:03:01,082
ん?
22
00:03:06,423 --> 00:03:09,123
いやいやいや。
23
00:03:10,761 --> 00:03:16,099
旦那さんと寄り合いに顔出してくるよって
夕方には戻るし あとのこと頼むで。
24
00:03:16,099 --> 00:03:19,970
へえ それはよろしおすけど…。
(勘兵衛)けど 何や?
25
00:03:19,970 --> 00:03:24,608
出かけはるのは もうちょっと
待たはった方がええかと。
何でや?
26
00:03:24,608 --> 00:03:29,780
もうすぐ大典さんが
お見えになるはずです。
ホンマか?
27
00:03:29,780 --> 00:03:34,384
与兵衛どん 悪いけど先に行っといて。
へえ。
28
00:03:34,384 --> 00:03:40,084
そや あれとあれ見せなあかんなあ。
あれとあれ見せなあかんわ。
29
00:03:47,397 --> 00:03:50,867
大典様~。
30
00:03:50,867 --> 00:03:54,071
(大典)これはこれは 一嘯先生。
さっ ささささ…。
31
00:03:54,071 --> 00:03:56,006
絵の腕は上がりましたか?
32
00:03:56,006 --> 00:04:00,577
わしを雅号で呼んでくれはるんは
大典さんだけですわ。
33
00:04:00,577 --> 00:04:03,246
今は 一嘯をやめて➡
34
00:04:03,246 --> 00:04:06,883
僊斎と号してます。
忙しないな。
35
00:04:06,883 --> 00:04:09,252
つい この前まで 雪汀と
名乗ってへんかったか?
36
00:04:09,252 --> 00:04:14,091
僊斎に変えてから わしの絵も
ちょくちょく売れるようになりましてん。
37
00:04:14,091 --> 00:04:17,391
ほう 見たいな。
喜んで!
38
00:04:21,431 --> 00:04:24,768
見事や…。 これは写生いうやつやな?
39
00:04:24,768 --> 00:04:26,703
腕上げたな岩次郎さん。
40
00:04:26,703 --> 00:04:29,639
(勘兵衛)こいつは絵師にする約束で
預かりましたよって➡
41
00:04:29,639 --> 00:04:32,509
ええかげん 腕上げてもらわんと。
42
00:04:32,509 --> 00:04:37,848
ようおいでやした。
何か目の保養になるものはありますか?
43
00:04:37,848 --> 00:04:40,148
面白いものがいくつか。
44
00:04:44,554 --> 00:04:48,391
う~ん… 落款も銘もないが➡
45
00:04:48,391 --> 00:04:51,294
筆つきからすると如拙の作ですね。
46
00:04:51,294 --> 00:04:56,133
ただし 絵がまだ拙い。
恐らく 20代の頃に描いたもの。
47
00:04:56,133 --> 00:05:01,104
ご明察や! いや~ さすが五山随一の才を
うたわれるだけのことはある。
48
00:05:01,104 --> 00:05:04,574
骨董屋になった方がよろしいかな?
(勘兵衛)ハッハッハッ。
49
00:05:04,574 --> 00:05:07,611
何ですか? この地味なんか派手なんか
分からん絵は。
50
00:05:07,611 --> 00:05:11,448
絵師の大岡春卜はんから
譲ってもろたんやけどな…。
51
00:05:11,448 --> 00:05:14,251
大岡春卜なら狩野派の大物。
間違いなかろう。
52
00:05:14,251 --> 00:05:17,587
いやいや そのお弟子さんの描いたもんで。
53
00:05:17,587 --> 00:05:21,258
蕪の畑に 鶏が2羽。
54
00:05:21,258 --> 00:05:25,595
(勘兵衛)
蕪の葉っぱは虫食いだらけの穴だらけ。
55
00:05:25,595 --> 00:05:28,431
けったいな絵やけど…。
56
00:05:28,431 --> 00:05:36,039
寒い寒い冬の蕪畑に
ポツンと立ってる気ぃにさせられる。
57
00:05:36,039 --> 00:05:38,375
(勘兵衛)
これも写生いうやつか?
58
00:05:38,375 --> 00:05:42,712
ちゃいます。
多分 想像で描いた絵空事ですわ。
59
00:05:42,712 --> 00:05:44,648
想像で これを…。
60
00:05:44,648 --> 00:05:47,584
鶏は こんな首の曲げ方せえしません!
61
00:05:47,584 --> 00:05:51,221
体全体が妙な折れ方してて不自然やし➡
62
00:05:51,221 --> 00:05:53,156
枯れた葉っぱも嘘。
63
00:05:53,156 --> 00:05:55,091
茎の右と左で枯れ方が違う。
64
00:05:55,091 --> 00:05:59,563
それに 畑の土 何ですか? これは。
65
00:05:59,563 --> 00:06:02,599
中国の山水画の雲か! みたいな。
66
00:06:02,599 --> 00:06:05,735
こんな現実と空想が
ごちゃ混ぜになった絵➡
67
00:06:05,735 --> 00:06:08,738
知らんわ。
誰の作です?
68
00:06:08,738 --> 00:06:13,243
春卜先生のお弟子さんで 桝屋源左衛門。
69
00:06:13,243 --> 00:06:18,882
桝屋いうたら 錦市場の…。
うん 青物問屋の四代目や。
70
00:06:18,882 --> 00:06:23,753
それでか…
こんな高い絵の具 ぎょうさん使うて。
71
00:06:23,753 --> 00:06:27,090
一度 お会いしてみたいものです。
え?
72
00:06:27,090 --> 00:06:30,427
それは無理な話ですな。
何故?
73
00:06:30,427 --> 00:06:33,029
失踪中ですわ。
ええ~。
74
00:06:33,029 --> 00:06:38,535
丹波の山へ隠遁して 絵師になる言うて
家出たきり かれこれ2年。
75
00:06:38,535 --> 00:06:40,470
行方知れずいうことですか?
76
00:06:40,470 --> 00:06:43,373
もう死んでるいう噂もある。
77
00:06:43,373 --> 00:06:46,409
尾張屋さん。
(勘兵衛)へえ。
78
00:06:46,409 --> 00:06:52,048
この絵 拙僧に譲ってはいただけまいか?
79
00:06:52,048 --> 00:06:57,387
(悲鳴)
80
00:06:57,387 --> 00:07:09,399
♬~
81
00:07:09,399 --> 00:07:12,302
桝屋源左衛門が弟 宗次郎と申します。
82
00:07:12,302 --> 00:07:19,075
(山師)ほう 今度は弟が出てきよったか…
おい もう3日目やで。
83
00:07:19,075 --> 00:07:21,011
ええかげん話つけようやないか。
84
00:07:21,011 --> 00:07:24,748
ただいま市場の株仲間の皆様方にも
おはかりしたところ➡
85
00:07:24,748 --> 00:07:28,585
やはり 兄から直接話を聞かんことには
決め難いと…。
86
00:07:28,585 --> 00:07:32,022
(笑い声)
87
00:07:32,022 --> 00:07:36,526
し… 死んだ人間に
どないして話聞くっちゅうねん?
88
00:07:36,526 --> 00:07:40,397
今 店の者らを丹波に送り 手分けして
兄を捜しておるところでございます。
89
00:07:40,397 --> 00:07:42,897
でかいな もう。
おおきに。
90
00:07:44,701 --> 00:07:47,704
(勘兵衛)そうか 弟はんが店をな。
91
00:07:47,704 --> 00:07:49,839
(与兵衛)
変わった兄貴持つと難儀なことで。
92
00:07:49,839 --> 00:07:53,209
その源左衛門はん そないに変人なんか?
93
00:07:53,209 --> 00:07:56,046
むしろ 評判のええお人ですねん。
94
00:07:56,046 --> 00:07:58,715
真面目で酒も博打もやらん。
95
00:07:58,715 --> 00:08:03,553
俳句や義太夫みたいな道楽もなし。
着物の趣味も地味。➡
96
00:08:03,553 --> 00:08:08,725
大店の主にしたら
今どき珍しい堅物いう評判です。
97
00:08:08,725 --> 00:08:12,395
(勘兵衛)女道楽は どうや?
(与兵衛)ところが大の女嫌いで➡
98
00:08:12,395 --> 00:08:15,732
縁談話から逃げまくって
三十路も半ばやいうのに➡
99
00:08:15,732 --> 00:08:20,070
まだ独り身らしいですわ。
何や おもろない男やな。
100
00:08:20,070 --> 00:08:24,574
ええ年になってから始めた絵に
すっかり はまってしもて…➡
101
00:08:24,574 --> 00:08:29,245
根が真面目な男ほど はまると始末が悪い。
102
00:08:29,245 --> 00:08:34,017
要するに 金持ちの趣味が高じた
いうことですやん。
103
00:08:34,017 --> 00:08:37,053
金に困ってへんから純粋に打ち込めるとも
言えるで。
104
00:08:37,053 --> 00:08:39,189
わしは絵で食えるようになりたいし➡
105
00:08:39,189 --> 00:08:43,360
どうせやったら
京で一番の絵師になりたい!
106
00:08:43,360 --> 00:08:49,032
うん お前は それでええ。 ハハハハッ。
(太兵衛)ただいま戻りました。
107
00:08:49,032 --> 00:08:50,967
(与兵衛)遅かったやないか 太兵衛どん。
108
00:08:50,967 --> 00:08:53,903
薬味のミョウガもネギもあらへんがな。
はよ刻んでんか。
109
00:08:53,903 --> 00:08:58,041
五条の市場まで行ってまして。
(与兵衛)錦市場で買うたらええやん。
110
00:08:58,041 --> 00:09:02,712
錦はおろか この界隈の八百屋は
ぜ~んぶ閉まってます。
111
00:09:02,712 --> 00:09:06,583
何でや?
(太兵衛)何日か前から 青物問屋の前に➡
112
00:09:06,583 --> 00:09:10,854
山師どもが居座って
えらい騒ぎになってるらしいんですわ。
113
00:09:10,854 --> 00:09:15,692
青物問屋て 桝屋のことかいな?
(太兵衛)へえ。
114
00:09:15,692 --> 00:09:18,061
見てきます!
115
00:09:18,061 --> 00:09:20,096
すんまへん すんまへん。
(山師)仏の顔も三度まで!➡
116
00:09:20,096 --> 00:09:23,233
わしらの我慢にも限度があるで。
117
00:09:23,233 --> 00:09:27,570
桝屋源左衛門は もう死んどる!
(どよめき)
118
00:09:27,570 --> 00:09:30,073
わしらは死ぬ間際に➡
119
00:09:30,073 --> 00:09:35,812
この店を頼む言われて
この証文 渡されたんやで?
120
00:09:35,812 --> 00:09:38,348
よう見とけ!
何ですか? あの証文。
121
00:09:38,348 --> 00:09:40,683
桝屋の問屋株の譲り状やて。
122
00:09:40,683 --> 00:09:43,353
手前どもの商いが これ以上 滞りますと➡
123
00:09:43,353 --> 00:09:46,823
市場の者はもちろん ぎょうさんの町衆に
迷惑がかかりますゆえ…。
124
00:09:46,823 --> 00:09:53,196
そやから…
早う話つけよ言うてるんやないの。
125
00:09:53,196 --> 00:09:56,699
証文どおり株を譲るか➡
126
00:09:56,699 --> 00:10:01,538
さもなければ いっぺん金で買い戻すか
どっちや!
127
00:10:01,538 --> 00:10:04,207
どないすんじゃ こら!
完全に ゆすられとる。
128
00:10:04,207 --> 00:10:06,709
どないするんじゃ!
何や こら!
129
00:10:06,709 --> 00:10:14,217
あの世に逝った桝屋源左衛門
出せるもんなら…。
130
00:10:14,217 --> 00:10:17,720
兄貴!
あっ 出してみんかい!
131
00:10:17,720 --> 00:10:23,860
いよっ! 日本一!
(どよめき)
132
00:10:23,860 --> 00:10:28,565
(宗次郎)小助どん!
(小助)ああ… えらい お待たせしました!
133
00:10:28,565 --> 00:10:32,435
何や お前ら?
うちの番頭どす。
134
00:10:32,435 --> 00:10:35,071
誰や お前は!
135
00:10:35,071 --> 00:10:37,407
(源左衛門)お初にお目にかかります。
136
00:10:37,407 --> 00:10:40,877
私が その 死んだはずの➡
137
00:10:40,877 --> 00:10:44,414
桝屋源左衛門にございます。
138
00:10:44,414 --> 00:10:46,349
(どよめき)
え?
139
00:10:46,349 --> 00:10:48,751
兄さ~ん!
ええ~!
140
00:10:48,751 --> 00:10:51,654
(宗次郎の泣き声)
141
00:10:51,654 --> 00:10:55,625
何や知らんけど
えらい苦労かけたみたいやな。
142
00:10:55,625 --> 00:10:59,095
いよっ 四代目!
(笑い声)
143
00:10:59,095 --> 00:11:02,966
お前が 桝屋源左衛門っちゅう証拠が
ど… どこにある!
144
00:11:02,966 --> 00:11:04,966
(騒ぐ声)
145
00:11:15,545 --> 00:11:18,481
あの~。
146
00:11:18,481 --> 00:11:23,119
もう 御用はお済みどすやろか?
147
00:11:23,119 --> 00:11:33,119
♬~
148
00:11:45,241 --> 00:11:49,579
改心しよったか。
149
00:11:49,579 --> 00:11:51,514
おいでやす!
ああ こんにちは。
150
00:11:51,514 --> 00:11:55,451
どうどすか? 大原で捕れた鶉の雛ですわ。
151
00:11:55,451 --> 00:11:58,288
やわらこうて うまおまっせ。
152
00:11:58,288 --> 00:12:01,591
これで 焼き鳥 何本分になるんやろ?
153
00:12:01,591 --> 00:12:05,461
そうどすなあ…
1羽から3本分の身ぃ取れるとして➡
154
00:12:05,461 --> 00:12:08,765
まっ ざっと100本。
ん。
155
00:12:08,765 --> 00:12:11,768
ほな 100本分もらうわ。
ええ?
156
00:12:11,768 --> 00:12:14,904
籠ごともらいます。
ええ!?
釣りは要らんさかい。
157
00:12:14,904 --> 00:12:17,774
はあ!
おおきに。
158
00:12:17,774 --> 00:12:19,974
おおきに!
159
00:12:23,913 --> 00:12:26,783
≪焼き鳥にならんで済んだなあ。➡
160
00:12:26,783 --> 00:12:29,783
ほら お逃げ。
161
00:12:32,589 --> 00:12:35,224
おいおいおい…。
162
00:12:35,224 --> 00:12:37,860
ほら お食べ。
163
00:12:37,860 --> 00:13:33,082
♬~
164
00:13:33,082 --> 00:13:35,882
<ふ… 筆が速い!>
165
00:13:42,558 --> 00:13:48,058
<速いが 雑やで。 写生は正確さこそ命>
166
00:13:56,072 --> 00:14:00,272
<その顔が あんたの正体やな>
167
00:14:06,249 --> 00:14:08,885
兄さん。
168
00:14:08,885 --> 00:14:15,425
あ… 堪忍。 つい絵心が動いた。
169
00:14:15,425 --> 00:14:21,230
無理してへんか?
何のことや。
170
00:14:21,230 --> 00:14:25,601
私は 兄さんほど上手に商いができん。
171
00:14:25,601 --> 00:14:30,106
学問も足らんし 人徳もない。
172
00:14:30,106 --> 00:14:35,912
何 言うんや。 私は ええ弟を持った。
173
00:14:35,912 --> 00:14:40,216
<何や このええ感じの兄弟愛は>
174
00:14:40,216 --> 00:14:44,387
そやけどな 私に この絵は描けへん。
175
00:14:44,387 --> 00:14:49,559
この才を
青物問屋に縛りつけとくんは 罪や。
176
00:14:49,559 --> 00:14:52,228
<あの絵 見てみたい>
177
00:14:52,228 --> 00:15:00,403
どうも私の中には 風神さんと
雷神さんがいてはるみたいでな。
178
00:15:00,403 --> 00:15:06,743
年中 雷 光らせて
激しい風を吹かさはる。
179
00:15:06,743 --> 00:15:15,251
その胸の内の嵐を
筆を使うて吐き出さんことには➡
180
00:15:15,251 --> 00:15:20,089
苦しゅうて苦しゅうてかなん。
181
00:15:20,089 --> 00:15:24,961
死んでしまうんやないかて
思う時もある。
182
00:15:24,961 --> 00:15:29,265
これは何やろな?
183
00:15:29,265 --> 00:15:34,237
私の中にある煩悩やろか?
184
00:15:34,237 --> 00:15:37,974
≪願いみたいなもんやろか?
185
00:15:37,974 --> 00:15:40,974
<見たい! あの絵が>
186
00:15:44,213 --> 00:15:49,913
そやったら それが分かるまで
とことん描いたらええ。
187
00:15:51,721 --> 00:15:57,521
家業は私がやりますよって
絵に生きておくれやす。
188
00:16:01,230 --> 00:16:08,871
(鐘の音)
189
00:16:08,871 --> 00:16:23,886
♬~
190
00:16:23,886 --> 00:16:27,086
桝屋源左衛門…。
191
00:16:35,364 --> 00:16:40,536
何か 変なもんが見えとるな。
192
00:16:40,536 --> 00:16:54,236
♬~
193
00:17:00,857 --> 00:17:04,357
どく らく か。
194
00:17:09,398 --> 00:17:21,878
♬~
195
00:17:21,878 --> 00:17:26,749
平安錦街居士… もっさい名前。
196
00:17:26,749 --> 00:17:29,585
(戸が開く音)
うわっ!
197
00:17:29,585 --> 00:17:31,554
ど… どちらさんですやろ?
198
00:17:31,554 --> 00:17:35,191
て… 手前は星聚館と申す➡
199
00:17:35,191 --> 00:17:37,526
駆け出しの絵師にございます。
200
00:17:37,526 --> 00:17:39,562
せい… しゅ?
あっ この前➡
201
00:17:39,562 --> 00:17:45,701
あっちのお庭で鶉描いたはりましたやろ?
あ… ああ はい 確かに。
202
00:17:45,701 --> 00:17:51,001
興をそそられましたもので
つい筆が動きました。
203
00:17:53,843 --> 00:17:55,912
あっ あっ。
204
00:17:55,912 --> 00:17:58,214
これは私ですか?
205
00:17:58,214 --> 00:18:00,149
唐の文人画みたいや。
206
00:18:00,149 --> 00:18:05,554
あの時 描いてはった手控えの鶉
拝見しとうございます。
207
00:18:05,554 --> 00:18:10,226
手控え… いうより
絵のつもりで描いたもんどすけど。
208
00:18:10,226 --> 00:18:12,561
いやいやいや…。
209
00:18:12,561 --> 00:18:15,064
<アホなこと言うな。➡
210
00:18:15,064 --> 00:18:18,401
あれが手控えやのうて何やねん>
211
00:18:18,401 --> 00:18:22,071
見事な筆の速さ。 是非にも拝見したく。
212
00:18:22,071 --> 00:18:24,573
よろしおす。
213
00:18:24,573 --> 00:18:27,410
おおきに。
214
00:18:27,410 --> 00:18:29,410
これどすけど。
215
00:18:32,014 --> 00:18:34,917
<ひえぇぇぇ!➡
216
00:18:34,917 --> 00:18:38,788
あんな短い間に これ描いたいうんか>
217
00:18:38,788 --> 00:18:43,359
まあ 手慰みみたいなもんどすわ。
218
00:18:43,359 --> 00:18:45,559
おおきに…。
219
00:18:48,698 --> 00:18:53,369
あの 青春館さん。
星聚館です。
220
00:18:53,369 --> 00:18:57,569
よかったら お茶でも…。
失礼します。
221
00:19:05,381 --> 00:19:07,850
<負けた…>
222
00:19:07,850 --> 00:19:18,350
♬~
223
00:19:31,073 --> 00:19:33,573
鶴なあ…。
224
00:19:36,345 --> 00:19:41,045
そういうたら 実物見たことないわ。
225
00:19:56,699 --> 00:20:00,202
鷺と比べてもしゃあないか…。
226
00:20:00,202 --> 00:20:11,814
(鈴の音)
227
00:20:11,814 --> 00:20:14,717
何やろ?
228
00:20:14,717 --> 00:20:34,103
♬~
229
00:20:34,103 --> 00:20:38,903
茶道具か… 野点でもしはんのやろか。
230
00:20:45,414 --> 00:20:48,884
(売茶翁)物陰の御仁。
231
00:20:48,884 --> 00:20:51,420
え?
232
00:20:51,420 --> 00:20:55,891
通仙亭 ただいま開店しました。 どうぞ。
233
00:20:55,891 --> 00:20:58,091
はあ…。
234
00:21:00,763 --> 00:21:03,766
茶店… なんですか?
235
00:21:03,766 --> 00:21:10,272
さよう。
煎茶を一杯いくらで出すゆえ 茶店やな。
236
00:21:10,272 --> 00:21:13,609
いつも ここにお店を出したはるので?
237
00:21:13,609 --> 00:21:16,645
決まっておらん。 その日の気分次第や。
238
00:21:16,645 --> 00:21:21,117
それでお商売にならはるんでしょうか?
239
00:21:21,117 --> 00:21:24,920
それが不思議と繁盛しとるんよ。
240
00:21:24,920 --> 00:21:30,459
あんたみたいに物珍しさで立ち寄る
一見さんもおれば➡
241
00:21:30,459 --> 00:21:36,565
わざわざ わしの居場所を探して来よる
常連客もおってな。
242
00:21:36,565 --> 00:21:40,870
わざわざ来はる客を持つのは
一流の店です。
243
00:21:40,870 --> 00:21:45,708
(売茶翁)商人さんかね?
はい。 錦市場で青物を扱うております。
244
00:21:45,708 --> 00:21:48,077
高遊外と申す。
245
00:21:48,077 --> 00:21:52,248
人は勝手に売茶翁などと呼んどるがな。
246
00:21:52,248 --> 00:21:58,053
ばいさおう?
茶を売るジジイという意味よ。
247
00:21:58,053 --> 00:22:01,957
何とお呼びすればええ?
先頃 隠居を決めまして➡
248
00:22:01,957 --> 00:22:05,427
今は一介の絵描きなれば➡
249
00:22:05,427 --> 00:22:09,598
平安錦街居士と名乗っております。
250
00:22:09,598 --> 00:22:12,101
分かりやすい号やな。
251
00:22:12,101 --> 00:22:19,842
あっ! あんた ひょっとして
錦の桝屋の四代目?
252
00:22:19,842 --> 00:22:25,281
へえ おっしゃるとおりで…。
ほう~ あんたがなあ…。
253
00:22:25,281 --> 00:22:28,117
何で 私のことを?
254
00:22:28,117 --> 00:22:33,617
我が友が あんたの噂をしとったよって…。
255
00:22:41,230 --> 00:22:47,036
(売茶翁)ここにある十二の茶道具は➡
256
00:22:47,036 --> 00:22:52,741
いろいろなことに気付かせてくれる
師匠みたいなもんでな。
257
00:22:52,741 --> 00:23:01,417
自分では 十二先生と呼んどるが
それぞれに名前は付いとる。
258
00:23:01,417 --> 00:23:04,917
さっ どうぞ。
頂戴いたします。
259
00:23:10,125 --> 00:23:20,436
例えば この水差しの名は 若冲先生。
じゃくちゅう?
260
00:23:20,436 --> 00:23:23,472
「大盈ハ冲シキガ若キモ➡
261
00:23:23,472 --> 00:23:27,776
其ノ用ハ窮マラズ」という
老子の一説じゃ。➡
262
00:23:27,776 --> 00:23:32,381
大きな器は一見空っぽで無駄に思えるが。
263
00:23:32,381 --> 00:23:38,554
何に使うても役立つ万能さがある。
人も また同じ。
264
00:23:38,554 --> 00:23:45,060
若冲… 「冲シキガ若シ」。
ええ名前やろ?
265
00:23:45,060 --> 00:23:48,564
その名前
譲ってもらうことはできませんやろか?
266
00:23:48,564 --> 00:23:51,233
若冲を?
はい。
あんたに?
はい!
267
00:23:51,233 --> 00:23:53,168
えぇぇ~。
268
00:23:53,168 --> 00:23:55,404
是非に!
269
00:23:55,404 --> 00:23:59,875
(小声で)
先生 あんなこと言うとりますが➡
270
00:23:59,875 --> 00:24:04,413
ん? えっ? マジっすか。
271
00:24:04,413 --> 00:24:07,883
あの…。
じゃくちゅう!
272
00:24:07,883 --> 00:24:09,818
呼んだら答えなさい。
はい。
273
00:24:09,818 --> 00:24:14,256
若冲~!
274
00:24:14,256 --> 00:24:16,292
…はい。
275
00:24:16,292 --> 00:24:19,895
ええ響きじゃ。
276
00:24:19,895 --> 00:24:26,268
今日から そう名乗るとよかろう。
あ… ありがとうございます!
277
00:24:26,268 --> 00:24:28,904
ところで 若冲殿。
はい。
278
00:24:28,904 --> 00:24:36,712
さっき橋の上から川原の白鷺を見つめて
どんよりしておったな?
279
00:24:36,712 --> 00:24:40,849
鷺と比べてもしゃあないか…。
280
00:24:40,849 --> 00:24:43,552
鶴の絵を描こうとして➡
281
00:24:43,552 --> 00:24:46,855
実物見たことないのに
改めて気付きまして。
282
00:24:46,855 --> 00:24:51,060
ありゃ渡り鳥じゃから
今の季節 日本におらんし➡
283
00:24:51,060 --> 00:24:55,230
季節になっても
人の多い京や大坂には飛んでこんな。
284
00:24:55,230 --> 00:24:59,401
どないしたらよろしいですやろ?
何のために京に住んどんのか?
285
00:24:59,401 --> 00:25:03,238
鶴を見たいなら寺へ行け 寺へ。
寺?
286
00:25:03,238 --> 00:25:11,580
宋 元 明代の渡来物
本朝なら雪舟に狩野一門➡
287
00:25:11,580 --> 00:25:17,386
最高のお手本が 襖絵や掛け軸になって
掃いて捨てるほどある。
288
00:25:17,386 --> 00:25:25,094
模写しまくって
その中から まことの姿を導き出すべし。
289
00:25:25,094 --> 00:25:27,129
なるほど!
290
00:25:27,129 --> 00:25:29,898
紹介状を書いて進ぜよう。➡
291
00:25:29,898 --> 00:25:32,701
若冲さん あんた 本姓はあるかね?
292
00:25:32,701 --> 00:25:35,604
はい 伊藤を名乗っております。
293
00:25:35,604 --> 00:25:38,574
伊藤若冲。
はい。
294
00:25:38,574 --> 00:25:41,410
(売茶翁)
これを持って相国寺に行かれよ。➡
295
00:25:41,410 --> 00:25:44,046
あそこは絵の宝庫や。
296
00:25:44,046 --> 00:25:48,046
いとう じゃくちゅう…。
297
00:25:51,553 --> 00:25:53,753
失礼いたします。
298
00:25:56,425 --> 00:26:04,125
(鐘の音)
299
00:26:12,941 --> 00:26:14,941
もし。
300
00:26:20,416 --> 00:26:22,885
ご住職にお会いしたいのですが。
301
00:26:22,885 --> 00:26:26,422
添え状はお持ちか?
はい。 ここに…。
302
00:26:26,422 --> 00:26:28,922
どうぞ。
303
00:26:31,093 --> 00:26:36,064
あ… 売茶翁の字ですね。
はい。
304
00:26:36,064 --> 00:26:38,264
あの…。
305
00:26:40,769 --> 00:26:43,038
あなたが?
はい?
306
00:26:43,038 --> 00:26:46,842
若冲と名乗られたか?
307
00:26:46,842 --> 00:26:52,381
売茶翁にお願いして
水差しの名を譲っていただきました。
308
00:26:52,381 --> 00:26:57,719
「大盈ハ冲シキガ若キモ
其ノ用ハ窮マラズ」。
そのとおり。
309
00:26:57,719 --> 00:27:02,558
あの水差しに その名を付けたのは私です。
では…。
310
00:27:02,558 --> 00:27:07,396
この塔頭の住職 大典顕常と申す。
311
00:27:07,396 --> 00:27:10,596
あなたが ご住職?
312
00:27:14,069 --> 00:27:19,875
これは 昔描いた私の絵ですが…。
313
00:27:19,875 --> 00:27:23,245
こんなに冷徹で厳しいて不安定やのに➡
314
00:27:23,245 --> 00:27:27,583
不思議なぬくもりを感じさせる絵は
見たことがない。
315
00:27:27,583 --> 00:27:30,419
つまり 得体が知れへん。
316
00:27:30,419 --> 00:27:34,389
書も絵も作者の人格や心の内を
表さずにはおかへんが➡
317
00:27:34,389 --> 00:27:38,026
この絵から それを推し量るのは難しい。
318
00:27:38,026 --> 00:27:40,062
訳が分からん。
319
00:27:40,062 --> 00:27:44,900
それは 私の技量が足らんだけです。
ハハッ。
320
00:27:44,900 --> 00:27:47,703
技だけあって心がない絵は
何千枚と見てきた。
321
00:27:47,703 --> 00:27:52,040
しかし この絵の奥には➡
322
00:27:52,040 --> 00:27:57,546
描こうとしている正体不明のものがある。
323
00:27:57,546 --> 00:28:04,720
混沌として まるで宇宙の正体のような…。
324
00:28:04,720 --> 00:28:09,558
いや そんな大層なもんと違います。
325
00:28:09,558 --> 00:28:18,267
私の心の中に吹く風 降る雨➡
326
00:28:18,267 --> 00:28:25,107
雲を割って射す陽
稲妻の光みたいなもんを➡
327
00:28:25,107 --> 00:28:29,244
絵に込めようと思うんですけど➡
328
00:28:29,244 --> 00:28:33,682
なかなか うまいこといかしません。
329
00:28:33,682 --> 00:28:38,820
それこそ 禅の境地です!
我々は 何十年もの修行の果てに➡
330
00:28:38,820 --> 00:28:43,020
一瞬でもかいま見たいと思う ひらめきが
あなたの中にはある。
331
00:28:46,695 --> 00:28:51,700
あなたには 描いてもらいたいものが
たくさんある。
332
00:28:51,700 --> 00:28:55,704
この世の森羅万象 そして 仏。
333
00:28:55,704 --> 00:28:57,839
御仏を… この私が?
334
00:28:57,839 --> 00:29:01,043
それを見た時
私の悟りも開けるやもしれません。
335
00:29:01,043 --> 00:29:05,543
そのためなら 何でもお手伝いします。
336
00:29:09,384 --> 00:29:13,684
あっ… これは失礼を。
337
00:29:15,257 --> 00:29:21,096
御坊は 見た目によらず 力が強うおすな。
338
00:29:21,096 --> 00:29:23,932
申し訳ない。 つい力が入り申した。
339
00:29:23,932 --> 00:29:29,071
こんな 強う手ぇ握られたんは➡
340
00:29:29,071 --> 00:29:31,871
生まれて初めてです。
341
00:29:36,812 --> 00:29:40,682
そうそう 鶴でしたね?
はい。
342
00:29:40,682 --> 00:29:46,355
相国寺をはじめ 京の五山には
名作と呼ばれる鶴が何百羽もいる。
343
00:29:46,355 --> 00:29:50,692
仲介の労をとりますゆえ。
心行くまで模写されよ。
344
00:29:50,692 --> 00:31:09,192
♬~
345
00:31:15,777 --> 00:31:34,062
♬~
346
00:31:34,062 --> 00:31:38,734
どないしはりました?
347
00:31:38,734 --> 00:31:44,539
これ以上 模写続けても
無駄やと思います。
348
00:31:44,539 --> 00:31:48,744
ハハッ えろう きっぱり言いますね。
349
00:31:48,744 --> 00:31:51,580
もう千枚近う模写した思いますけど➡
350
00:31:51,580 --> 00:31:56,084
鶴も虎も描いた作者が見たもので➡
351
00:31:56,084 --> 00:32:00,084
私が見ているのは実物やない。
352
00:32:03,959 --> 00:32:07,429
私に言わせれば 若冲さんの模写の方が➡
353
00:32:07,429 --> 00:32:13,101
細かい虎の毛並みといい
より本物の虎に近い気がしますがね。
354
00:32:13,101 --> 00:32:18,607
よう出来てても
私の描いた虎は生きていません。
355
00:32:18,607 --> 00:32:24,279
死んでます。
絵の中の虎に魂がないんです。
356
00:32:24,279 --> 00:32:29,779
私の模写は よう出来た偽物です。
357
00:32:36,391 --> 00:32:40,228
一滴ずつ滴る雫も
いつの間にか大きな盥を満たす。
358
00:32:40,228 --> 00:32:42,864
千枚描いて ようやく単純なことに
気付くこともある。
359
00:32:42,864 --> 00:32:49,571
私は つくづく 頭の悪い男なんですなあ。
作麼生!
360
00:32:49,571 --> 00:32:57,271
ならば 伊藤若冲は 何を描くべきか?
361
00:33:06,888 --> 00:33:09,424
あ~ おった おった。
毎回毎回➡
362
00:33:09,424 --> 00:33:12,460
気まぐれに店広げる場所が
よう分かりますねえ。
363
00:33:12,460 --> 00:33:16,898
長年の勘で。 おっ あら大雅やな。
たいが?
364
00:33:16,898 --> 00:33:21,269
池 大雅。
あんたとは また違う種類の天才です。
365
00:33:21,269 --> 00:33:24,906
絵師ですか?
絵も天才やが 書も天才。
366
00:33:24,906 --> 00:33:27,442
7歳の時 萬福寺で書を揮毫し➡
367
00:33:27,442 --> 00:33:30,478
長老たちをうならせた神童です。
368
00:33:30,478 --> 00:33:32,714
はあ~。
369
00:33:32,714 --> 00:33:36,718
おお そろっとんな。 ハッハッハッ。
370
00:33:36,718 --> 00:33:40,856
(大雅)おお~! 大典兄貴!
371
00:33:40,856 --> 00:33:43,225
酒臭っ! 茶やのうて酒飲んどるな?
372
00:33:43,225 --> 00:33:45,861
久しぶりやんか~! ハハッ!
離せ。
373
00:33:45,861 --> 00:33:49,564
会いたかったで~。
頬ずりすな!
374
00:33:49,564 --> 00:33:52,234
ひどいやないの もう~。
375
00:33:52,234 --> 00:33:56,872
若冲は 大雅が初めてやったな?
はい。
376
00:33:56,872 --> 00:33:59,774
ほう~。
377
00:33:59,774 --> 00:34:03,411
あんたが噂の伊藤若冲か。
378
00:34:03,411 --> 00:34:07,082
う… 噂て そんな。
私みたいな無名の者を…。
379
00:34:07,082 --> 00:34:09,584
この都に絵師は
掃いて捨てるほどおるけど➡
380
00:34:09,584 --> 00:34:14,456
天下の売茶翁と大典禅師が認める絵師は
数えるほどや。
381
00:34:14,456 --> 00:34:17,259
あんたとわしは そのうちの2人。
382
00:34:17,259 --> 00:34:19,294
相変わらず自信満々やな。
383
00:34:19,294 --> 00:34:22,597
ハハハッ まっ 金がないさけな。
384
00:34:22,597 --> 00:34:25,433
自信ぐらいは売るほど持っとかんと。
ほら。
385
00:34:25,433 --> 00:34:27,733
ああ すんまへん。
386
00:34:32,207 --> 00:34:34,142
えらい日に焼けてはりますね?
387
00:34:34,142 --> 00:34:39,080
ああ 山焼けですわ。
江戸からの戻りがてら ちょっと富士山に。
388
00:34:39,080 --> 00:34:42,384
まさか… 登ったんですか?
ええ。
389
00:34:42,384 --> 00:34:47,884
ほんで そのまま甲斐から信濃を
ぐる~っと回って 立山にも。
はあ~。
390
00:34:52,861 --> 00:34:55,397
こんな上等な般若湯 どこで手に入れた?
391
00:34:55,397 --> 00:35:00,268
やましい酒とちゃいまっせ。
祇園で絵ぇ描いた謝礼や。
392
00:35:00,268 --> 00:35:02,570
また酒と交換したんか。
393
00:35:02,570 --> 00:35:06,741
絵の代金をもらわへんのですか?
そらまあ もらう時は もらいます。
394
00:35:06,741 --> 00:35:11,246
そやけど 「お~い 提灯に なんぞ
絵ぇ描いてくれ」いう そば屋からは➡
395
00:35:11,246 --> 00:35:13,181
かけそば一杯。
396
00:35:13,181 --> 00:35:18,019
「お扇子に絵ぇ描いてくれはります?」いう
芸妓はんからは酒を5合。
397
00:35:18,019 --> 00:35:21,423
そんなんやから お前ほどの才が
いつまでも貧乏なんや。
398
00:35:21,423 --> 00:35:24,326
ヘッヘッヘッヘッ。
貧乏すぎて絵師のくせに➡
399
00:35:24,326 --> 00:35:28,596
筆も持っとらん。
筆は質屋に入っとります。 ヘヘッ。
400
00:35:28,596 --> 00:35:33,368
筆もなしに どうやって描くんですか?
これで。
401
00:35:33,368 --> 00:35:43,378
♬~
402
00:35:43,378 --> 00:35:46,414
知りませんか?
指墨いう唐の技法です。
403
00:35:46,414 --> 00:35:48,550
初めて見ました。
404
00:35:48,550 --> 00:35:51,350
ほい 一丁上がりや。
405
00:35:53,722 --> 00:35:56,057
(大雅)この前 登った立山の風景です。
406
00:35:56,057 --> 00:36:02,397
はあ~ いやもう 雪が積もって
これ大変でしたわ。
407
00:36:02,397 --> 00:36:06,735
そこまでして探さんと
理想の画題に巡り会えませんか?
408
00:36:06,735 --> 00:36:10,535
あ~ 何て答えたらええか…。
409
00:36:15,243 --> 00:36:20,081
常に心を開き感じ取っていれば
見えてくるということ。
410
00:36:20,081 --> 00:36:23,752
無理やり探そうとすると 大概 道に迷う。
411
00:36:23,752 --> 00:36:29,090
高遊外先生~! ヘヘッ。
412
00:36:29,090 --> 00:36:34,529
その見本みたいなやつが来よった。
413
00:36:34,529 --> 00:36:36,464
あ…。
414
00:36:36,464 --> 00:36:41,202
これこれは 平安錦街居士さん。
415
00:36:41,202 --> 00:36:45,540
今は 若冲と名乗っております。
じゃくちゅう?
416
00:36:45,540 --> 00:36:49,044
星聚館さん どしたな?
あ~ それは古い。
417
00:36:49,044 --> 00:36:54,215
今は 鴨水漁史ですわ。
また雅号変えたんか?
418
00:36:54,215 --> 00:36:59,215
それはなんぞや?
あっ ここをのぞいてみてください。
419
00:37:03,391 --> 00:37:07,062
(大雅)おお~ こら
ごっつい奥行きのある絵やで。
420
00:37:07,062 --> 00:37:08,997
のぞき眼鏡いいますねん。
421
00:37:08,997 --> 00:37:12,734
中の絵は西洋の遠近法で描いてます。
422
00:37:12,734 --> 00:37:16,571
こうやって絵を変えたら…。
423
00:37:16,571 --> 00:37:19,607
(大雅)おお 四条の南座や。
ヘッヘッヘッ。
424
00:37:19,607 --> 00:37:23,745
今 開発中の新商品ですわ。
425
00:37:23,745 --> 00:37:29,617
ああ~ 確かに… 本物の風景みたいや。
でっしゃろ?
426
00:37:29,617 --> 00:37:34,355
う~ん 奥行きのある浮世絵… どすな。
427
00:37:34,355 --> 00:37:38,226
そやな。 浮世絵っぽい。
428
00:37:38,226 --> 00:37:42,831
人が気にしてることを…。
429
00:37:42,831 --> 00:37:47,035
わしは 何を描くべきか?
430
00:37:47,035 --> 00:37:51,539
野に出て 虚心坦懐に写生でもしたら➡
431
00:37:51,539 --> 00:37:55,410
描くべきものが
見つかるかもしれまへんな。
432
00:37:55,410 --> 00:38:00,715
おもろい! ほな これから3人で
写生に行きまへんか?
433
00:38:00,715 --> 00:38:06,221
写生? わしの土俵で勝負する気ですか?
434
00:38:06,221 --> 00:38:11,059
何の勝負やねんな。 おのおの
心惹かれるもんを見つけて描くの。
435
00:38:11,059 --> 00:38:14,929
自分の描くべきものを やね?
(大雅)そのとおりや。
436
00:38:14,929 --> 00:38:18,629
行くのはええが 酒は置いてけ。
437
00:38:24,739 --> 00:38:29,244
あの3人 今は無名やが➡
438
00:38:29,244 --> 00:38:36,351
遠からず 天下を三分する
絵師になる逸物やと思うが➡
439
00:38:36,351 --> 00:38:39,687
どうや?
同感です。
440
00:38:39,687 --> 00:38:43,987
(売茶翁)
呼びもせんのに よう集まりよった。
441
00:40:08,209 --> 00:40:12,714
<魂が… 見えた>
442
00:40:12,714 --> 00:41:00,595
♬~
443
00:41:00,595 --> 00:41:04,899
(鶏の鳴き声)
444
00:41:04,899 --> 00:41:09,771
養鶏でも始めるつもりか?
かしわ肉は苦手や。
445
00:41:09,771 --> 00:41:15,109
これは食う鶏とは違う。 鑑賞用やがな。
446
00:41:15,109 --> 00:41:22,850
身近な動物の中で
鶏が群を抜いて美しいと私は思う。
447
00:41:22,850 --> 00:41:28,790
うん… 古来中国では
鶏は5つの徳を持つ鳥やといわれてきた。
448
00:41:28,790 --> 00:41:36,064
画題としては気高さがあってええな。
あんたも そう思うか?
449
00:41:36,064 --> 00:41:43,571
もう10日も こうして眺めてるけど
一向に飽きん。
10日も?
450
00:41:43,571 --> 00:41:48,743
もう さんざん見尽くした
と思うた時➡
451
00:41:48,743 --> 00:41:51,245
神気が見える。
452
00:41:51,245 --> 00:41:55,083
神気とは 霊のようなものか?
453
00:41:55,083 --> 00:42:01,589
そんな不確かなもんと違うて
躍動する魂の力みたいなもんや。
454
00:42:01,589 --> 00:42:06,894
物言わん動物と人間が
通じ合えると思うか?
455
00:42:06,894 --> 00:42:12,700
う~ん…
犬や猫 馬や牛とはできるかもしれんが➡
456
00:42:12,700 --> 00:42:19,440
鳥や蛙 魚や虫と心を通わせるんは
なかなかに難しい。
457
00:42:19,440 --> 00:42:22,777
何でやと思う?
ハハッ。
458
00:42:22,777 --> 00:42:25,780
相手が何を考えているかが分からない。
459
00:42:25,780 --> 00:42:30,651
鳥や虫 カエルや蛇には表情がないからや。
460
00:42:30,651 --> 00:42:36,724
そやから喜怒哀楽がないと
人間が勝手に思うてる。
461
00:42:36,724 --> 00:42:42,864
しかし 生き物である以上 欲も愛もある。
462
00:42:42,864 --> 00:42:47,735
それを外界に 気として放っとる。
463
00:42:47,735 --> 00:42:50,738
それが あんたの言う 神気か。
464
00:42:50,738 --> 00:42:57,879
それを感じることができたら
絵に命を与えられる。
465
00:42:57,879 --> 00:44:11,886
♬~
466
00:44:11,886 --> 00:44:15,756
不思議やな。
あかんか?
467
00:44:15,756 --> 00:44:21,262
あんたにしか見えんと思うてた鶏の神気が
こうして絵になると 私にも見える。
468
00:44:21,262 --> 00:44:27,068
草花や木 虫の中にも神気が見える。
469
00:44:27,068 --> 00:44:33,908
そやから今は この世のどんな生き物でも
自在に描ける気ぃがする。
470
00:44:33,908 --> 00:44:40,548
神気を感じて 注意深く描けば➡
471
00:44:40,548 --> 00:44:45,548
死んだものにも命を与えることができる。
472
00:44:55,096 --> 00:44:57,796
誤解せんといてほしい。
473
00:44:59,934 --> 00:45:03,738
傲慢な物言いやな。
ハハハハッ。
474
00:45:03,738 --> 00:45:07,742
大言壮語などせん あんたがそう言うなら
ホンマのことやろ。
475
00:45:07,742 --> 00:45:15,349
おかしいか?
いや… 私は すごい人間を友に持った。
476
00:45:15,349 --> 00:45:17,649
それが うれしい。
477
00:45:20,888 --> 00:45:22,823
大典さん。
478
00:45:22,823 --> 00:45:28,095
私は もう
絵のことだけ考えて生きていきたい。
479
00:45:28,095 --> 00:45:34,295
そやから きっぱりと世俗を捨てて
禅僧になりたい。
480
00:45:39,206 --> 00:45:41,206
喝!
481
00:46:03,731 --> 00:46:05,666
こんにちは。
482
00:46:05,666 --> 00:46:09,236
若冲さんやないの。 何やえらい珍しい。
483
00:46:09,236 --> 00:46:11,572
昼餉の最中やったら出直します。
484
00:46:11,572 --> 00:46:15,409
何を言うてますのや。
よかったら食べていきよし。 なっ。
485
00:46:15,409 --> 00:46:17,345
(玉瀾)何をお出しするつもりどす?
486
00:46:17,345 --> 00:46:20,581
あんたの茶碗の中のごはんで
うちの米はおしまい。
487
00:46:20,581 --> 00:46:23,618
気ぃ遣わんといて。 昼は食べへんよって。
488
00:46:23,618 --> 00:46:25,818
そうですか。
489
00:46:29,590 --> 00:46:33,828
伊藤若冲と申します。
490
00:46:33,828 --> 00:46:36,530
大雅の妻の玉瀾です。
491
00:46:36,530 --> 00:46:40,201
何もあらしませんけど
井戸だけは ええ水が出ますさかい➡
492
00:46:40,201 --> 00:46:43,901
お白湯でもどうどす?
頂戴いたします。
493
00:46:45,840 --> 00:46:49,210
これは 絵や道具を干してるんですか?
494
00:46:49,210 --> 00:46:52,847
いやいや
ここが わしとカミさんの仕事場。
495
00:46:52,847 --> 00:46:56,050
えっ!
奥の3畳間で寝起きして➡
496
00:46:56,050 --> 00:46:59,854
この6畳間で飯食うたり 客泊めたり。
497
00:46:59,854 --> 00:47:01,922
ほんで残ってんのが庭だけ。
498
00:47:01,922 --> 00:47:06,627
はあ… 玉瀾さんも 絵を?
499
00:47:06,627 --> 00:47:09,327
へえ。 修業中どすけど。
500
00:47:11,065 --> 00:47:13,734
この白砂にね 日の光がはね返って➡
501
00:47:13,734 --> 00:47:17,405
これ ええ具合に
手元を明るうしてくれるんですわ。
502
00:47:17,405 --> 00:47:22,905
はあ~ なるほど…。
503
00:47:24,879 --> 00:47:28,082
見事な絵や。
おおきに。
504
00:47:28,082 --> 00:47:31,585
え?
それ カミさんの描いた絵。
505
00:47:31,585 --> 00:47:36,023
ええっ! てっきり 大雅さんのもんやと。
506
00:47:36,023 --> 00:47:38,059
(玉瀾)似てますか? うちの人の絵に。
507
00:47:38,059 --> 00:47:41,896
夫婦いうのは 絵も似るもんなんですか?
508
00:47:41,896 --> 00:47:45,700
私がうちの人のこと好きやから
似るんやと思います。
509
00:47:45,700 --> 00:47:49,203
これは 野暮なこと聞きました。
510
00:47:49,203 --> 00:47:53,703
それはそうと なんぞ話があって
来たんと違いますの?
511
00:47:55,710 --> 00:48:03,451
実は… 大典さんに叱られまして。
512
00:48:03,451 --> 00:48:09,857
はあ~ そら 珍しな。
仲のええ あんたらが。
513
00:48:09,857 --> 00:48:15,563
出家したい言うたら 「甘い!」て。
514
00:48:15,563 --> 00:48:19,433
はあ~。
515
00:48:19,433 --> 00:48:25,740
そりゃ あんたに対する
大典の嫉妬やな。
516
00:48:25,740 --> 00:48:28,409
嫉妬?
517
00:48:28,409 --> 00:48:37,017
若冲の才に嫉妬しとるんやない。
生き方に嫉妬しとる。
518
00:48:37,017 --> 00:48:40,717
大典は五山の星や。
519
00:48:42,523 --> 00:48:51,232
(売茶翁)あのくらい優れた男やと
宗派の期待を一身に背負わなあかん。➡
520
00:48:51,232 --> 00:49:00,908
あれだけの詩文の才を持ちながら
自由な文人生活など許されん。➡
521
00:49:00,908 --> 00:49:05,212
二足の草鞋を履く余裕など皆無。➡
522
00:49:05,212 --> 00:49:13,721
ひたすら 禅を極め
僧として生きる道を選ばざるをえん。➡
523
00:49:13,721 --> 00:49:16,724
おぬしを深く知れば知るほど➡
524
00:49:16,724 --> 00:49:24,865
芸術家としての欲が
むくむくと頭をもたげてきよったのよ。➡
525
00:49:24,865 --> 00:49:32,565
何者にも囚われず
詩のためだけに生きてみたいとな。
526
00:49:36,544 --> 00:49:41,816
(無聞)お前の気持ちは よう分かった。
527
00:49:41,816 --> 00:49:46,687
これは わしが預かっておく。
528
00:49:46,687 --> 00:49:48,687
禅師…。
529
00:49:51,025 --> 00:49:56,363
よう考えるのや。 もう一度。
530
00:49:56,363 --> 00:50:02,703
(売茶翁)
大典の心に火ぃつけたのは あんたや。
531
00:50:02,703 --> 00:50:08,375
気付きませんでした。
そら 今更消すのも野暮な話やな。
532
00:50:08,375 --> 00:50:11,278
消せるもんか。
533
00:50:11,278 --> 00:50:14,849
ところで 両先生。
(2人)はい。
534
00:50:14,849 --> 00:50:19,720
記念に
わしの肖像画を描いてはくれんか?
535
00:50:19,720 --> 00:50:24,859
何の記念ですの?
茶店をやめる 引退記念。
536
00:50:24,859 --> 00:50:27,359
え…。
(2人)そんな!
537
00:50:35,502 --> 00:51:08,769
♬~
538
00:51:08,769 --> 00:51:15,910
わしが80年
生き長らえることができたのも➡
539
00:51:15,910 --> 00:51:19,113
お前たちのおかげや。
540
00:51:19,113 --> 00:51:27,821
しかし もう老いてしもうて
お前たちを担ぐ力もない。
541
00:51:27,821 --> 00:51:38,465
あとは ひっそりと世の片隅で
死を待つのみ。
542
00:51:38,465 --> 00:51:47,574
わしが死んで お前たちが俗物の手に渡り
辱められたら➡
543
00:51:47,574 --> 00:51:53,080
お前たちは わしを恨むやろう?
544
00:51:53,080 --> 00:51:59,080
そやから こうして荼毘に付してやるのよ。
545
00:52:01,255 --> 00:52:11,555
輪廻転生 人間にでも花にでもおなり。
546
00:52:24,912 --> 00:52:27,212
さらばじゃ。
547
00:52:36,523 --> 00:52:43,230
わしは また旅に出ます。
そうか… 今度は どこへ行く?
548
00:52:43,230 --> 00:52:45,733
山陰路を宍道湖まで。
549
00:52:45,733 --> 00:52:49,236
たまには玉瀾の絵も見てやってください。
随分と腕を上げとる。
550
00:52:49,236 --> 00:52:52,873
ああ 分かった。
道中 気ぃ付けて。
551
00:52:52,873 --> 00:52:54,873
うん。
552
00:52:57,411 --> 00:52:59,611
岩次郎。
553
00:53:09,123 --> 00:53:12,423
どうした 鴨水漁史先生。
554
00:53:14,261 --> 00:53:16,597
今は攘雲です。
555
00:53:16,597 --> 00:53:22,102
ならば じょううん先生
そう しょげるな。
556
00:53:22,102 --> 00:53:29,777
高遊外先生も隠居しはるし
京を離れよう思てます。
557
00:53:29,777 --> 00:53:35,716
どこへ行く?
さあ… 大坂か 奈良か 大津か。
558
00:53:35,716 --> 00:53:40,721
そんな 岩次郎さんまで
おらんようになったら 寂しい。
559
00:53:40,721 --> 00:53:49,063
高遊外先生は わしを高みに導いてくれる
ただ一人の師匠やった。
560
00:53:49,063 --> 00:53:53,233
師匠もなしに
明日から どないせえいうんです。
561
00:53:53,233 --> 00:53:56,733
それは私も おんなじや。
違う!
562
00:54:00,407 --> 00:54:04,278
わしとは全っ然違う!
563
00:54:04,278 --> 00:54:11,752
あんたには まだ
大典さんがいてはるやないの!
564
00:54:11,752 --> 00:54:15,589
わしは それが羨ましい。
565
00:54:15,589 --> 00:54:19,093
私は若冲さんの師やない。 ただの友や。
566
00:54:19,093 --> 00:54:22,593
師でも友でも どっちゃでもええねん!
567
00:54:26,767 --> 00:54:32,706
自分が美しいと思うものに
たどりつく道は険しい。
568
00:54:32,706 --> 00:54:36,443
孤独でつらい。
569
00:54:36,443 --> 00:54:42,716
闇夜に提灯なしで歩くようなもんですわ。
570
00:54:42,716 --> 00:54:49,389
大典さんは 若冲さんの足元を
煌々と照らしてくれる光や。
571
00:54:49,389 --> 00:54:54,061
わしも
足元を照らしてくれる人を見つけます。
572
00:54:54,061 --> 00:54:58,732
それまで勝負はお預けや。
し… 勝負?
573
00:54:58,732 --> 00:55:03,070
わしは いつか あんたに勝ちたい!
574
00:55:03,070 --> 00:55:05,973
それまで せいぜい➡
575
00:55:05,973 --> 00:55:09,943
筆を洗て待っといてんか!
576
00:55:09,943 --> 00:55:12,243
岩次郎さん…。
577
00:55:20,621 --> 00:55:28,896
大典さん
私は あんたの重荷になってないか?
578
00:55:28,896 --> 00:55:33,734
重荷? 重荷どころか助けになってる。
579
00:55:33,734 --> 00:55:39,206
私は あんたに助けられはしたが
助けた覚えはない。
580
00:55:39,206 --> 00:55:41,542
確かに私は いっとき➡
581
00:55:41,542 --> 00:55:45,045
あんたの足元を照らす
光やったのかもしれん。
582
00:55:45,045 --> 00:55:51,552
けど今は あんたの方が私の光なんや。
アホなこと言わんといてくれ。
583
00:55:51,552 --> 00:55:56,423
ただし 足元を照らす光やない。
584
00:55:56,423 --> 00:56:01,862
私が歩く道のずっと先にある
道標になる光や。
585
00:56:01,862 --> 00:56:05,732
それを目指して
暗い道を懸命に歩いていかな➡
586
00:56:05,732 --> 00:56:08,735
あんたに置いていかれる。
587
00:56:08,735 --> 00:56:14,074
あんた… そんなふうに思うてたんか?
588
00:56:14,074 --> 00:56:17,074
私は相国寺に暇乞いをした。
589
00:56:19,580 --> 00:56:24,885
どこの寺の僧でもない
一介の雲水になるつもりや。
590
00:56:24,885 --> 00:56:29,256
そんな…。
ハハハハハハハハハハッ!
591
00:56:29,256 --> 00:56:32,526
金なく名もなくや! ハハハッ。
592
00:56:32,526 --> 00:56:40,526
ああ 貧なる哉! 自由なる哉!
ハッハッハッ。
593
00:56:51,378 --> 00:56:57,078
私は旅に出る。 詩を詠むためだけに。
594
00:56:59,853 --> 00:57:02,353
…そうか。
595
00:57:05,559 --> 00:57:10,063
ほな 行ったらええ。
596
00:57:10,063 --> 00:57:15,863
けど 必ず帰ってきてくれ。
597
00:57:17,571 --> 00:57:25,245
私は ここで あんたとの約束を➡
598
00:57:25,245 --> 00:57:27,745
果たしながら待ってる。
599
00:57:29,416 --> 00:57:33,020
あなたには 描いてもらいたいものが
たくさんある。
600
00:57:33,020 --> 00:57:37,524
この世の森羅万象 そして 仏。
601
00:57:37,524 --> 00:57:40,360
今でも見たいと思うてる。
602
00:57:40,360 --> 00:57:43,697
伊藤若冲が描いた宇宙の姿。
603
00:57:43,697 --> 00:57:46,199
描くよ。
604
00:57:46,199 --> 00:57:51,705
御仏が中心にいる美しい世界を。
605
00:57:51,705 --> 00:57:56,376
どんな絵になるやら 想像もつかんわ。
606
00:57:56,376 --> 00:58:01,048
釈迦三尊像が三幅➡
607
00:58:01,048 --> 00:58:05,385
草や花や木 虫や鳥や魚➡
608
00:58:05,385 --> 00:58:12,885
この世にあふれる森羅万象の絵が 三十幅。
609
00:58:14,861 --> 00:58:21,561
そんな大作…
残りの人生かけて描くつもりか?
610
00:58:23,236 --> 00:58:29,409
あんたが帰ってくるまでに描き上げる。
611
00:58:29,409 --> 00:58:33,680
命を削ることになるぞ。
612
00:58:33,680 --> 00:58:38,180
今の私にやったら できる。
613
00:58:47,227 --> 00:58:54,835
全三十三幅 あんたに見せるまでは➡
614
00:58:54,835 --> 00:58:57,535
死んだりせえへん。
615
00:59:02,209 --> 00:59:05,245
そやから あんたは➡
616
00:59:05,245 --> 00:59:10,545
自分のやりたいことを思いっきりやり。
617
00:59:12,919 --> 00:59:20,594
あんたは もう随分先で
輝く光になってしもうたが…➡
618
00:59:20,594 --> 00:59:29,294
再会する時には また
あんたの足元を照らす光になりたい。
619
00:59:33,006 --> 00:59:35,909
当たり前や。
620
00:59:35,909 --> 00:59:42,709
一生 私のそばで 足元を照らしてほしい。
621
00:59:50,190 --> 00:59:55,529
私がここで賛と共に見送る。
622
00:59:55,529 --> 00:59:58,029
先に行け。
623
01:00:58,258 --> 01:01:00,458
若冲さん。
624
01:01:02,128 --> 01:01:04,598
あんたは 私の…。
625
01:01:04,598 --> 01:01:12,098
(風の音)
626
01:01:33,059 --> 01:02:29,559
♬~
627
01:02:47,601 --> 01:02:54,341
これが 噂に聞く「動植綵絵」かね。
628
01:02:54,341 --> 01:02:59,079
まだ半分ほどしか出来ておりませんが➡
629
01:02:59,079 --> 01:03:03,079
先生に見ていただきとうて。
630
01:03:05,418 --> 01:03:08,218
(売茶翁)なんと…。
631
01:03:10,890 --> 01:03:14,427
(売茶翁)こういう絵は➡
632
01:03:14,427 --> 01:03:18,598
仏のためにこそ描かれるべきや。➡
633
01:03:18,598 --> 01:03:23,903
一切妥協しない美しさいうのは➡
634
01:03:23,903 --> 01:03:30,403
人間の手には 余るものや。
635
01:03:44,724 --> 01:03:46,724
(せきこみ)
636
01:04:05,745 --> 01:04:13,420
あんたの絵の腕は もはや神の領域や。
637
01:04:13,420 --> 01:04:18,892
先生…➡
638
01:04:18,892 --> 01:04:24,264
まだまだ至らん私に教えてください。
639
01:04:24,264 --> 01:04:28,902
もう わしの教えることなどない。
640
01:04:28,902 --> 01:04:34,402
ただ 感じ入るばかりや。
641
01:04:36,376 --> 01:04:58,176
♬~
642
01:05:05,238 --> 01:05:15,038
♬~
643
01:05:28,428 --> 01:05:30,363
フフッ。
644
01:05:30,363 --> 01:05:33,399
いかがされました?
645
01:05:33,399 --> 01:05:38,538
いや… このような刻限に
御住持様に呼び出されるとは➡
646
01:05:38,538 --> 01:05:43,038
よい話ではなかろう。
ちと気が重い。
647
01:05:46,045 --> 01:05:48,045
こちらです。
648
01:06:03,863 --> 01:06:07,734
若冲さん。
649
01:06:07,734 --> 01:06:10,234
どういう趣向だ?
650
01:06:12,605 --> 01:06:15,105
何を企んでいる。
651
01:06:21,748 --> 01:06:46,840
♬~
652
01:06:46,840 --> 01:06:49,140
おお…。
653
01:06:51,711 --> 01:06:54,011
無聞禅師様…。
654
01:06:58,384 --> 01:07:00,420
もったいなくも若冲殿は➡
655
01:07:00,420 --> 01:07:09,395
「動植綵絵」三十幅と 釈迦三尊像三幅を
相国寺にご寄進になられた。
656
01:07:09,395 --> 01:07:14,567
実に前代未聞 未曽有の快挙。
657
01:07:14,567 --> 01:07:18,367
永く我が寺の宝となさん。
658
01:07:20,240 --> 01:07:24,077
これひとえに汝の功なり。
659
01:07:24,077 --> 01:07:27,947
おぬし 禅師に何を言うた?
660
01:07:27,947 --> 01:07:31,885
今しばらくの間 遊行を許す。
661
01:07:31,885 --> 01:07:34,185
禅師 お待ちを…。
喝~っ!
662
01:07:36,189 --> 01:07:42,362
お前の顔を見とると小言言いたなるよって
わしは退散する。➡
663
01:07:42,362 --> 01:07:46,362
心行くまで堪能せい。
664
01:07:56,542 --> 01:08:00,413
おのれ若冲 謀ったな。
665
01:08:00,413 --> 01:08:04,413
まずは とくとご覧あれ。
666
01:08:06,552 --> 01:08:08,488
うん。
667
01:08:08,488 --> 01:09:25,932
♬~
668
01:09:25,932 --> 01:09:29,769
どうや? 大典さん。
669
01:09:29,769 --> 01:09:38,011
伊藤若冲 ここに名を遂げん。 事終われり。
670
01:09:38,011 --> 01:09:42,815
御仏に捧げた全三十三幅。
671
01:09:42,815 --> 01:09:46,686
圧倒されて言葉もない。
672
01:09:46,686 --> 01:09:52,558
御仏に捧げたのは 三十一幅や。
673
01:09:52,558 --> 01:09:57,330
あとの二幅は➡
674
01:09:57,330 --> 01:10:04,037
我が導師 大典顕常に捧げる。
675
01:10:04,037 --> 01:10:05,972
何やて?
676
01:10:05,972 --> 01:10:15,214
最後の二篇 「老松白鳳図」と「芦雁図」は
一対になってる。
677
01:10:15,214 --> 01:10:21,554
空から降りてくる雁を
鳳凰が迎え入れてる。
678
01:10:21,554 --> 01:10:28,728
互いに呼び交わし 求め合う姿や。
679
01:10:28,728 --> 01:10:33,866
なるほど… そう見えるな。
680
01:10:33,866 --> 01:10:44,510
雁は黒衣を着たあんたで 鳳凰は…➡
681
01:10:44,510 --> 01:10:46,810
私や。
682
01:10:56,422 --> 01:11:01,622
死ぬまで 私のそばにいてほしい。
683
01:11:11,904 --> 01:11:14,404
友としてか?
684
01:11:19,278 --> 01:11:25,778
そうや。 生涯の友として。
685
01:11:27,620 --> 01:11:33,426
死が 2人を分かつまで。
686
01:11:33,426 --> 01:11:35,626
うん…。
687
01:11:53,412 --> 01:11:57,583
気持ちええなあ…。
気に入ったか?
688
01:11:57,583 --> 01:12:01,754
貸し切りやなんて
金のない雲水にしたら随分奮発したな。
689
01:12:01,754 --> 01:12:06,092
ハハッ まあ 心の洗濯や。
690
01:12:06,092 --> 01:12:18,671
♬~
691
01:12:18,671 --> 01:12:24,911
何や 岩次郎のこと思い出すな…。
692
01:12:24,911 --> 01:12:27,813
あっ そや。
ん?
693
01:12:27,813 --> 01:12:34,053
「上方萬番付」いう 年に一回出る本でな。
694
01:12:34,053 --> 01:12:39,392
京 大坂の腕のええ料理人や職人
人気の歌舞伎役者なんかを番付にしてる。
695
01:12:39,392 --> 01:12:45,565
歌舞伎… 私には縁のないもんや。
そうでもないで。
696
01:12:45,565 --> 01:12:50,069
上方人気絵師番付。
絵師の番付もあるんか?
697
01:12:50,069 --> 01:12:57,243
三番人気 池 大雅。
おお~。
698
01:12:57,243 --> 01:13:03,583
二番人気 伊藤若冲。
699
01:13:03,583 --> 01:13:06,083
う~ん…。
700
01:13:08,087 --> 01:13:10,022
で?
気になるやろ?
701
01:13:10,022 --> 01:13:15,022
私や大雅より上 言われるとなあ…。
一番人気…。
702
01:13:18,731 --> 01:13:22,101
やった! やった!
703
01:13:22,101 --> 01:13:25,905
ついにやったで~!
(芦雪)何ですか? 先生。
704
01:13:25,905 --> 01:13:33,045
ついに わしが
「上方萬番付」絵師番付の➡
705
01:13:33,045 --> 01:13:35,381
一番や!
(一同)え!?
706
01:13:35,381 --> 01:13:38,217
ホンマですか!
707
01:13:38,217 --> 01:13:40,720
ホンマや!
(一同)おお~!
708
01:13:40,720 --> 01:13:44,590
先生 おめでとうございます!
(一同)おめでとうございます!
709
01:13:44,590 --> 01:13:51,230
伊藤若冲にぃ…➡
710
01:13:51,230 --> 01:13:56,068
あっ 勝ったでぇ!
711
01:13:56,068 --> 01:14:49,221
♬~
712
01:14:49,221 --> 01:15:09,608
♬~
713
01:15:09,608 --> 01:15:13,412
♬~
714
01:15:13,412 --> 01:15:23,412
♬~
715
01:15:32,732 --> 01:15:37,603
伊藤若冲畢生の大作「動植綵絵」は➡
716
01:15:37,603 --> 01:15:39,605
まさに圧巻であった。
717
01:15:39,605 --> 01:15:44,076
当の本人も 「1, 000年後に
理解されればいい」と言うたが➡
718
01:15:44,076 --> 01:15:48,948
それを見た当時の人々も
圧倒されたに違いない。
719
01:15:48,948 --> 01:15:51,417
あっ 失礼…。
720
01:15:51,417 --> 01:15:57,289
私は若冲の理解者の一人 売茶翁と申す
しがない路上茶人。
721
01:15:57,289 --> 01:16:00,126
これは若冲が描いてくれた
私だが➡
722
01:16:00,126 --> 01:16:03,896
若冲が人間を描くのは
大変珍しいことじゃった。
723
01:16:03,896 --> 01:16:08,100
これ 軽い自慢である。
その礼というては何だが➡
724
01:16:08,100 --> 01:16:13,800
若冲のその後の人生を
皆さんにお伝えしよう。
725
01:16:17,777 --> 01:16:23,582
若冲が絵に専念し始めたのは
四十というから 遅咲きも遅咲きだが➡
726
01:16:23,582 --> 01:16:30,289
その後 八十五歳で世を去る間際まで
絵を描き続けた体力と精神力は➡
727
01:16:30,289 --> 01:16:34,260
驚異的と言うしかあるまい。
728
01:16:34,260 --> 01:16:39,732
大作「動植綵絵」は
京都を代表する臨済禅の寺➡
729
01:16:39,732 --> 01:16:42,568
相国寺に奉納するために描かれた。
730
01:16:42,568 --> 01:16:47,239
つまり 若冲は 仏に捧げるために描いた
と言うておるが➡
731
01:16:47,239 --> 01:16:53,112
それだけではないだろう?
というのは わしの見立て。
732
01:16:53,112 --> 01:16:57,249
若冲の最大の理解者である大典顕常は➡
733
01:16:57,249 --> 01:17:03,422
後に相国寺第113世住持になるほどの
若き名僧。
734
01:17:03,422 --> 01:17:05,891
名プロデューサーと言っていい大典が➡
735
01:17:05,891 --> 01:17:12,097
若冲の才能を世に知らしめるために
描くことを勧めた… と➡
736
01:17:12,097 --> 01:17:16,097
2人をよく知る私などは思うのだが。
737
01:17:18,604 --> 01:17:25,478
着手から およそ10年
若冲は「動植綵絵」全三十幅と➡
738
01:17:25,478 --> 01:17:32,852
釈迦三尊像 三幅を完成させ
相国寺に寄進した。
739
01:17:32,852 --> 01:17:40,593
その構図の大胆さ 描写の精密さ
色彩表現のこまやかさ➡
740
01:17:40,593 --> 01:17:46,593
二百数十年後の今でも
見る人を引き付けてやまない。
741
01:17:51,070 --> 01:17:55,875
しかし明治に入り
廃仏毀釈の煽りを受けて➡
742
01:17:55,875 --> 01:18:01,080
経済的に困窮した相国寺は
泣く泣く寺の宝であった➡
743
01:18:01,080 --> 01:18:04,950
この「動植綵絵」を皇室に献上。
744
01:18:04,950 --> 01:18:07,853
その御下賜金で窮地を救われ➡
745
01:18:07,853 --> 01:18:11,757
廃寺になるのを危うく免れたという。
746
01:18:11,757 --> 01:18:18,430
若冲がこの世に送り出した大作が
100年後に相国寺を救うことになるとは➡
747
01:18:18,430 --> 01:18:21,267
芸術の力も捨てたものではない。
748
01:18:21,267 --> 01:18:29,775
今この絵は 皇居の三の丸尚蔵館で
静かな余生を送っておる。
749
01:18:29,775 --> 01:18:36,048
これは 昔描いた私の絵ですが…。
750
01:18:36,048 --> 01:18:42,721
劇中冒頭 若冲と大典が出会う
きっかけになった作品として登場する➡
751
01:18:42,721 --> 01:18:44,657
「蕪に双鶏図」。
752
01:18:44,657 --> 01:18:50,462
実はこれ ごく最近発見された
珍しい若冲初期の作品。
753
01:18:50,462 --> 01:18:53,732
美術界を大いに沸かせた大発見だが➡
754
01:18:53,732 --> 01:19:00,406
それをすぐさまドラマに使うなど
NHKも目端の利くことよ。
755
01:19:00,406 --> 01:19:04,877
若冲30代半ば頃の作と見られる この絵。
756
01:19:04,877 --> 01:19:09,715
このころから鶏の美しさに
魅せられていることが分かるが➡
757
01:19:09,715 --> 01:19:15,888
後年のように美しい花ではなく
枯れた蕪の葉と一緒に描いているのが➡
758
01:19:15,888 --> 01:19:20,259
なんとも ほほ笑ましい。
759
01:19:20,259 --> 01:19:25,898
死ぬまで 私のそばにいてほしい。
760
01:19:25,898 --> 01:19:29,768
死が 2人を分かつまで。
761
01:19:29,768 --> 01:19:38,377
「動植綵絵」を相国寺に寄進した時
若冲は五十歳 大典は四十七歳。
762
01:19:38,377 --> 01:19:43,716
その後 若冲は
相国寺に生前墓を建立した。
763
01:19:43,716 --> 01:19:47,586
墓石には 大典の碑文が刻まれている。
764
01:19:47,586 --> 01:19:52,725
若冲の人柄や才能
「動植綵絵」三十幅の快挙を➡
765
01:19:52,725 --> 01:19:55,227
熱くたたえている。
766
01:19:55,227 --> 01:19:57,162
これは友への賛辞か➡
767
01:19:57,162 --> 01:19:59,565
はたまた
恋文か…。
768
01:19:59,565 --> 01:20:02,401
いやいやいや
いらぬ詮索は
やめておこう。
769
01:20:02,401 --> 01:20:06,401
諸氏のご想像に
お任せする。
770
01:20:09,074 --> 01:20:12,411
その相国寺にある美術館には➡
771
01:20:12,411 --> 01:20:16,749
いつでも見られる
若冲の作品があるのをご存じか?
772
01:20:16,749 --> 01:20:23,088
これは相国寺の塔頭でもある
金閣寺の書院に描かれた障壁画。
773
01:20:23,088 --> 01:20:27,760
この大仕事に
まだ無名に近い若冲を抜擢したのも➡
774
01:20:27,760 --> 01:20:30,560
大典だっただろう。
775
01:20:33,198 --> 01:20:36,835
当時 格式の高い寺の襖を飾るのは➡
776
01:20:36,835 --> 01:20:41,040
豪華な花鳥画や山水画が
一般的じゃったが➡
777
01:20:41,040 --> 01:20:44,376
若冲は 野生の山葡萄や実芭蕉➡
778
01:20:44,376 --> 01:20:48,547
つまり バナナの木を
生き生きと描いてみせた。
779
01:20:48,547 --> 01:20:53,385
描いた若冲も若冲なら
任せた大典も大典。
780
01:20:53,385 --> 01:20:58,257
う~ん いいコンビじゃ。
781
01:20:58,257 --> 01:21:02,757
ええ川風やな。
ホンマに。
782
01:21:06,098 --> 01:21:08,233
大仕事を終え 舟旅で➡
783
01:21:08,233 --> 01:21:13,739
更なる友情を深めた2人の
その後はというと…。
784
01:21:13,739 --> 01:21:16,241
この舟旅で 2人の合作➡
785
01:21:16,241 --> 01:21:20,746
まあ 今風に言えば
コラボレーション作品を作った。
786
01:21:20,746 --> 01:21:24,616
極彩色の「動植綵絵」を完成させた後➡
787
01:21:24,616 --> 01:21:30,456
若冲が挑戦したのは
白と黒の美 版画巻じゃった。
788
01:21:30,456 --> 01:21:35,194
全長11メートルの
昼の気ままな淀川下り。
789
01:21:35,194 --> 01:21:39,832
京都・伏見を出発し
大坂・天満橋へ向かう道中➡
790
01:21:39,832 --> 01:21:43,202
目の前に広がる のんびりした光景を➡
791
01:21:43,202 --> 01:21:48,402
若冲が描いた絵に大典が漢詩を合わせた。
792
01:21:51,076 --> 01:21:55,380
巻末には 若冲と大典2人の落款が➡
793
01:21:55,380 --> 01:21:58,717
仲よく並んでいる。
794
01:21:58,717 --> 01:22:04,223
人間 長く生きていれば
つらい目にも遭う。
795
01:22:04,223 --> 01:22:12,097
1788年
天明の大火が京の都を焼き尽くした。
796
01:22:12,097 --> 01:22:15,734
実家が裕福な青物問屋だった若冲も➡
797
01:22:15,734 --> 01:22:21,540
自宅や画材 多くの作品を失ってしまう。
798
01:22:21,540 --> 01:22:25,840
その後 若冲が描いたのは こんな絵だ。
799
01:22:30,582 --> 01:22:34,553
7人の布袋様が
ニコニコ
ほほ笑みながら➡
800
01:22:34,553 --> 01:22:39,024
歩み寄ってくる。
801
01:22:39,024 --> 01:22:44,897
今は苦しく悲しいが
幸せは ついそこまで来ている。
802
01:22:44,897 --> 01:22:48,700
そのメッセージは自分を励ますものか➡
803
01:22:48,700 --> 01:22:55,000
はたまた 罹災した
京の民衆に向けたものだったのか…。
804
01:22:59,044 --> 01:23:03,849
その後も精力的に創作し続けた若冲。
805
01:23:03,849 --> 01:23:08,049
しかし 最後の作品となるのが…。
806
01:23:10,055 --> 01:23:15,055
この荒々しい水墨画「鷲図」じゃ。
807
01:23:17,396 --> 01:23:24,169
落款には 数え年で
「若冲八十五歳」とある。
808
01:23:24,169 --> 01:23:29,469
不思議な波頭の上に 雪に覆われた岩壁。
809
01:23:31,810 --> 01:23:37,015
爪を立て
落ちないように佇む鷲が 向こう側へ➡
810
01:23:37,015 --> 01:23:40,515
今にも飛び立とうとしておる。
811
01:23:46,358 --> 01:23:54,358
1800年 八十五歳の若冲は
あの世へと飛び立った。
812
01:23:57,369 --> 01:24:02,040
その5か月後 亡き若冲の誕生日の日。
813
01:24:02,040 --> 01:24:10,340
生涯の盟友 大典顕常も
若冲のあとを追って飛び立った。
814
01:24:16,221 --> 01:24:20,058
若冲の死から今年で221年。
815
01:24:20,058 --> 01:24:22,961
彼が生まれ育った錦市場は➡
816
01:24:22,961 --> 01:24:25,931
今なお にぎわいを
見せている。
817
01:24:25,931 --> 01:24:30,235
錦市場有数の青物問屋の主人から➡
818
01:24:30,235 --> 01:24:35,007
天才絵師へと覚醒していった伊藤若冲。
819
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多くの人でにぎわう この雑踏が➡
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案外 あの男の息吹を
一番感じられる場所かもしれん。
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閉店後 延々と続くシャッターには➡
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若冲に思いを寄せる
NPOや美術館の協力の下➡
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若冲の作品が印刷されておる。
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さながら
入場無料のナイトミュージアムよ。
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一度 足を運んでみては いかがかな?
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≫こんばんは。
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8時45分になりました。
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ニュースをお伝えします。
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新型コロナウイルス、
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東京都内では新たに814人の
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