All language subtitles for SP 라이징 자쿠추 천재 그림을 깨우치다

af Afrikaans
sq Albanian
am Amharic
ar Arabic
hy Armenian
az Azerbaijani
eu Basque
be Belarusian
bn Bengali
bs Bosnian
bg Bulgarian
ca Catalan
ceb Cebuano
ny Chichewa
zh-CN Chinese (Simplified)
zh-TW Chinese (Traditional)
co Corsican
hr Croatian
cs Czech
da Danish
nl Dutch
en English
eo Esperanto
et Estonian
tl Filipino
fi Finnish
fr French
fy Frisian
gl Galician
ka Georgian
de German
el Greek
gu Gujarati
ht Haitian Creole
ha Hausa
haw Hawaiian
iw Hebrew
hi Hindi
hmn Hmong
hu Hungarian
is Icelandic
ig Igbo
id Indonesian
ga Irish
it Italian
ja Japanese
jw Javanese
kn Kannada
kk Kazakh
km Khmer
ko Korean Download
ku Kurdish (Kurmanji)
ky Kyrgyz
lo Lao
la Latin
lv Latvian
lt Lithuanian
lb Luxembourgish
mk Macedonian
mg Malagasy
ms Malay
ml Malayalam
mt Maltese
mi Maori
mr Marathi
mn Mongolian
my Myanmar (Burmese)
ne Nepali
no Norwegian
ps Pashto
fa Persian
pl Polish
pt Portuguese
pa Punjabi
ro Romanian
ru Russian
sm Samoan
gd Scots Gaelic
sr Serbian
st Sesotho
sn Shona
sd Sindhi
si Sinhala
sk Slovak
sl Slovenian
so Somali
es Spanish
su Sundanese
sw Swahili
sv Swedish
tg Tajik
ta Tamil
te Telugu
th Thai
tr Turkish
uk Ukrainian
ur Urdu
uz Uzbek
vi Vietnamese
cy Welsh
xh Xhosa
yi Yiddish
yo Yoruba
zu Zulu
or Odia (Oriya)
rw Kinyarwanda
tk Turkmen
tt Tatar
ug Uyghur
Would you like to inspect the original subtitles? These are the user uploaded subtitles that are being translated: 1 00:00:36,406 --> 00:00:41,706 (岩次郎) <徳川はんの世になってから 早150年…> 2 00:00:44,281 --> 00:00:49,887 <将軍お膝元の江戸は ごっついご城下やいう話やけど➡ 3 00:00:49,887 --> 00:00:54,424 この京が 日本の都いうことには変わりなく➡ 4 00:00:54,424 --> 00:00:58,896 まあまあ ええ感じで栄えてます。➡ 5 00:00:58,896 --> 00:01:04,701 おんなじ上方でも 商人が算盤でしのぎを削る大坂と違うて➡ 6 00:01:04,701 --> 00:01:11,441 天皇さんを頂く京は 茶碗の中みたいに穏やかや。➡ 7 00:01:11,441 --> 00:01:14,912 けど ただの茶碗と違いまっせ?➡ 8 00:01:14,912 --> 00:01:18,782 職人や絵師が鑿や筆でしのぎを削る➡ 9 00:01:18,782 --> 00:01:24,454 なんともキラキラしい茶碗のような 小天地や。➡ 10 00:01:24,454 --> 00:01:31,154 かく言う わしも その茶碗の中で 一旗揚げようとする一人> 11 00:01:35,732 --> 00:01:39,403 <わしらが作り出す美の一つ一つが➡ 12 00:01:39,403 --> 00:01:43,073 キラキラしい茶碗の模様を作ってる。➡ 13 00:01:43,073 --> 00:01:49,246 いうたら 京の町は 群雄割拠の芸術の都や> 14 00:01:49,246 --> 00:01:53,417 ♬~ 15 00:01:53,417 --> 00:02:21,278 ♬~ 16 00:02:21,278 --> 00:02:35,726 ♬~ 17 00:02:35,726 --> 00:02:38,426 (鳴き声) 18 00:02:45,402 --> 00:02:48,071 ≪(与兵衛)お~い 岩次郎! へ~い! 19 00:02:48,071 --> 00:02:50,974 (与兵衛)ええかげん 下りて来。 店番頼むわ。 20 00:02:50,974 --> 00:02:53,274 今すぐに。 21 00:02:59,082 --> 00:03:01,082 ん? 22 00:03:06,423 --> 00:03:09,123 いやいやいや。 23 00:03:10,761 --> 00:03:16,099 旦那さんと寄り合いに顔出してくるよって 夕方には戻るし あとのこと頼むで。 24 00:03:16,099 --> 00:03:19,970 へえ それはよろしおすけど…。 (勘兵衛)けど 何や? 25 00:03:19,970 --> 00:03:24,608 出かけはるのは もうちょっと 待たはった方がええかと。 何でや? 26 00:03:24,608 --> 00:03:29,780 もうすぐ大典さんが お見えになるはずです。 ホンマか? 27 00:03:29,780 --> 00:03:34,384 与兵衛どん 悪いけど先に行っといて。 へえ。 28 00:03:34,384 --> 00:03:40,084 そや あれとあれ見せなあかんなあ。 あれとあれ見せなあかんわ。 29 00:03:47,397 --> 00:03:50,867 大典様~。 30 00:03:50,867 --> 00:03:54,071 (大典)これはこれは 一嘯先生。 さっ ささささ…。 31 00:03:54,071 --> 00:03:56,006 絵の腕は上がりましたか? 32 00:03:56,006 --> 00:04:00,577 わしを雅号で呼んでくれはるんは 大典さんだけですわ。 33 00:04:00,577 --> 00:04:03,246 今は 一嘯をやめて➡ 34 00:04:03,246 --> 00:04:06,883 僊斎と号してます。 忙しないな。 35 00:04:06,883 --> 00:04:09,252 つい この前まで 雪汀と 名乗ってへんかったか? 36 00:04:09,252 --> 00:04:14,091 僊斎に変えてから わしの絵も ちょくちょく売れるようになりましてん。 37 00:04:14,091 --> 00:04:17,391 ほう 見たいな。 喜んで! 38 00:04:21,431 --> 00:04:24,768 見事や…。 これは写生いうやつやな? 39 00:04:24,768 --> 00:04:26,703 腕上げたな岩次郎さん。 40 00:04:26,703 --> 00:04:29,639 (勘兵衛)こいつは絵師にする約束で 預かりましたよって➡ 41 00:04:29,639 --> 00:04:32,509 ええかげん 腕上げてもらわんと。 42 00:04:32,509 --> 00:04:37,848 ようおいでやした。 何か目の保養になるものはありますか? 43 00:04:37,848 --> 00:04:40,148 面白いものがいくつか。 44 00:04:44,554 --> 00:04:48,391 う~ん… 落款も銘もないが➡ 45 00:04:48,391 --> 00:04:51,294 筆つきからすると如拙の作ですね。 46 00:04:51,294 --> 00:04:56,133 ただし 絵がまだ拙い。 恐らく 20代の頃に描いたもの。 47 00:04:56,133 --> 00:05:01,104 ご明察や! いや~ さすが五山随一の才を うたわれるだけのことはある。 48 00:05:01,104 --> 00:05:04,574 骨董屋になった方がよろしいかな? (勘兵衛)ハッハッハッ。 49 00:05:04,574 --> 00:05:07,611 何ですか? この地味なんか派手なんか 分からん絵は。 50 00:05:07,611 --> 00:05:11,448 絵師の大岡春卜はんから 譲ってもろたんやけどな…。 51 00:05:11,448 --> 00:05:14,251 大岡春卜なら狩野派の大物。 間違いなかろう。 52 00:05:14,251 --> 00:05:17,587 いやいや そのお弟子さんの描いたもんで。 53 00:05:17,587 --> 00:05:21,258 蕪の畑に 鶏が2羽。 54 00:05:21,258 --> 00:05:25,595 (勘兵衛) 蕪の葉っぱは虫食いだらけの穴だらけ。 55 00:05:25,595 --> 00:05:28,431 けったいな絵やけど…。 56 00:05:28,431 --> 00:05:36,039 寒い寒い冬の蕪畑に ポツンと立ってる気ぃにさせられる。 57 00:05:36,039 --> 00:05:38,375 (勘兵衛) これも写生いうやつか? 58 00:05:38,375 --> 00:05:42,712 ちゃいます。 多分 想像で描いた絵空事ですわ。 59 00:05:42,712 --> 00:05:44,648 想像で これを…。 60 00:05:44,648 --> 00:05:47,584 鶏は こんな首の曲げ方せえしません! 61 00:05:47,584 --> 00:05:51,221 体全体が妙な折れ方してて不自然やし➡ 62 00:05:51,221 --> 00:05:53,156 枯れた葉っぱも嘘。 63 00:05:53,156 --> 00:05:55,091 茎の右と左で枯れ方が違う。 64 00:05:55,091 --> 00:05:59,563 それに 畑の土 何ですか? これは。 65 00:05:59,563 --> 00:06:02,599 中国の山水画の雲か! みたいな。 66 00:06:02,599 --> 00:06:05,735 こんな現実と空想が ごちゃ混ぜになった絵➡ 67 00:06:05,735 --> 00:06:08,738 知らんわ。 誰の作です? 68 00:06:08,738 --> 00:06:13,243 春卜先生のお弟子さんで 桝屋源左衛門。 69 00:06:13,243 --> 00:06:18,882 桝屋いうたら 錦市場の…。 うん 青物問屋の四代目や。 70 00:06:18,882 --> 00:06:23,753 それでか… こんな高い絵の具 ぎょうさん使うて。 71 00:06:23,753 --> 00:06:27,090 一度 お会いしてみたいものです。 え? 72 00:06:27,090 --> 00:06:30,427 それは無理な話ですな。 何故? 73 00:06:30,427 --> 00:06:33,029 失踪中ですわ。 ええ~。 74 00:06:33,029 --> 00:06:38,535 丹波の山へ隠遁して 絵師になる言うて 家出たきり かれこれ2年。 75 00:06:38,535 --> 00:06:40,470 行方知れずいうことですか? 76 00:06:40,470 --> 00:06:43,373 もう死んでるいう噂もある。 77 00:06:43,373 --> 00:06:46,409 尾張屋さん。 (勘兵衛)へえ。 78 00:06:46,409 --> 00:06:52,048 この絵 拙僧に譲ってはいただけまいか? 79 00:06:52,048 --> 00:06:57,387 (悲鳴) 80 00:06:57,387 --> 00:07:09,399 ♬~ 81 00:07:09,399 --> 00:07:12,302 桝屋源左衛門が弟 宗次郎と申します。 82 00:07:12,302 --> 00:07:19,075 (山師)ほう 今度は弟が出てきよったか… おい もう3日目やで。 83 00:07:19,075 --> 00:07:21,011 ええかげん話つけようやないか。 84 00:07:21,011 --> 00:07:24,748 ただいま市場の株仲間の皆様方にも おはかりしたところ➡ 85 00:07:24,748 --> 00:07:28,585 やはり 兄から直接話を聞かんことには 決め難いと…。 86 00:07:28,585 --> 00:07:32,022 (笑い声) 87 00:07:32,022 --> 00:07:36,526 し… 死んだ人間に どないして話聞くっちゅうねん? 88 00:07:36,526 --> 00:07:40,397 今 店の者らを丹波に送り 手分けして 兄を捜しておるところでございます。 89 00:07:40,397 --> 00:07:42,897 でかいな もう。 おおきに。 90 00:07:44,701 --> 00:07:47,704 (勘兵衛)そうか 弟はんが店をな。 91 00:07:47,704 --> 00:07:49,839 (与兵衛) 変わった兄貴持つと難儀なことで。 92 00:07:49,839 --> 00:07:53,209 その源左衛門はん そないに変人なんか? 93 00:07:53,209 --> 00:07:56,046 むしろ 評判のええお人ですねん。 94 00:07:56,046 --> 00:07:58,715 真面目で酒も博打もやらん。 95 00:07:58,715 --> 00:08:03,553 俳句や義太夫みたいな道楽もなし。 着物の趣味も地味。➡ 96 00:08:03,553 --> 00:08:08,725 大店の主にしたら 今どき珍しい堅物いう評判です。 97 00:08:08,725 --> 00:08:12,395 (勘兵衛)女道楽は どうや? (与兵衛)ところが大の女嫌いで➡ 98 00:08:12,395 --> 00:08:15,732 縁談話から逃げまくって 三十路も半ばやいうのに➡ 99 00:08:15,732 --> 00:08:20,070 まだ独り身らしいですわ。 何や おもろない男やな。 100 00:08:20,070 --> 00:08:24,574 ええ年になってから始めた絵に すっかり はまってしもて…➡ 101 00:08:24,574 --> 00:08:29,245 根が真面目な男ほど はまると始末が悪い。 102 00:08:29,245 --> 00:08:34,017 要するに 金持ちの趣味が高じた いうことですやん。 103 00:08:34,017 --> 00:08:37,053 金に困ってへんから純粋に打ち込めるとも 言えるで。 104 00:08:37,053 --> 00:08:39,189 わしは絵で食えるようになりたいし➡ 105 00:08:39,189 --> 00:08:43,360 どうせやったら 京で一番の絵師になりたい! 106 00:08:43,360 --> 00:08:49,032 うん お前は それでええ。 ハハハハッ。 (太兵衛)ただいま戻りました。 107 00:08:49,032 --> 00:08:50,967 (与兵衛)遅かったやないか 太兵衛どん。 108 00:08:50,967 --> 00:08:53,903 薬味のミョウガもネギもあらへんがな。 はよ刻んでんか。 109 00:08:53,903 --> 00:08:58,041 五条の市場まで行ってまして。 (与兵衛)錦市場で買うたらええやん。 110 00:08:58,041 --> 00:09:02,712 錦はおろか この界隈の八百屋は ぜ~んぶ閉まってます。 111 00:09:02,712 --> 00:09:06,583 何でや? (太兵衛)何日か前から 青物問屋の前に➡ 112 00:09:06,583 --> 00:09:10,854 山師どもが居座って えらい騒ぎになってるらしいんですわ。 113 00:09:10,854 --> 00:09:15,692 青物問屋て 桝屋のことかいな? (太兵衛)へえ。 114 00:09:15,692 --> 00:09:18,061 見てきます! 115 00:09:18,061 --> 00:09:20,096 すんまへん すんまへん。 (山師)仏の顔も三度まで!➡ 116 00:09:20,096 --> 00:09:23,233 わしらの我慢にも限度があるで。 117 00:09:23,233 --> 00:09:27,570 桝屋源左衛門は もう死んどる! (どよめき) 118 00:09:27,570 --> 00:09:30,073 わしらは死ぬ間際に➡ 119 00:09:30,073 --> 00:09:35,812 この店を頼む言われて この証文 渡されたんやで? 120 00:09:35,812 --> 00:09:38,348 よう見とけ! 何ですか? あの証文。 121 00:09:38,348 --> 00:09:40,683 桝屋の問屋株の譲り状やて。 122 00:09:40,683 --> 00:09:43,353 手前どもの商いが これ以上 滞りますと➡ 123 00:09:43,353 --> 00:09:46,823 市場の者はもちろん ぎょうさんの町衆に 迷惑がかかりますゆえ…。 124 00:09:46,823 --> 00:09:53,196 そやから… 早う話つけよ言うてるんやないの。 125 00:09:53,196 --> 00:09:56,699 証文どおり株を譲るか➡ 126 00:09:56,699 --> 00:10:01,538 さもなければ いっぺん金で買い戻すか どっちや! 127 00:10:01,538 --> 00:10:04,207 どないすんじゃ こら! 完全に ゆすられとる。 128 00:10:04,207 --> 00:10:06,709 どないするんじゃ! 何や こら! 129 00:10:06,709 --> 00:10:14,217 あの世に逝った桝屋源左衛門 出せるもんなら…。 130 00:10:14,217 --> 00:10:17,720 兄貴! あっ 出してみんかい! 131 00:10:17,720 --> 00:10:23,860 いよっ! 日本一! (どよめき) 132 00:10:23,860 --> 00:10:28,565 (宗次郎)小助どん! (小助)ああ… えらい お待たせしました! 133 00:10:28,565 --> 00:10:32,435 何や お前ら? うちの番頭どす。 134 00:10:32,435 --> 00:10:35,071 誰や お前は! 135 00:10:35,071 --> 00:10:37,407 (源左衛門)お初にお目にかかります。 136 00:10:37,407 --> 00:10:40,877 私が その 死んだはずの➡ 137 00:10:40,877 --> 00:10:44,414 桝屋源左衛門にございます。 138 00:10:44,414 --> 00:10:46,349 (どよめき) え? 139 00:10:46,349 --> 00:10:48,751 兄さ~ん! ええ~! 140 00:10:48,751 --> 00:10:51,654 (宗次郎の泣き声) 141 00:10:51,654 --> 00:10:55,625 何や知らんけど えらい苦労かけたみたいやな。 142 00:10:55,625 --> 00:10:59,095 いよっ 四代目! (笑い声) 143 00:10:59,095 --> 00:11:02,966 お前が 桝屋源左衛門っちゅう証拠が ど… どこにある! 144 00:11:02,966 --> 00:11:04,966 (騒ぐ声) 145 00:11:15,545 --> 00:11:18,481 あの~。 146 00:11:18,481 --> 00:11:23,119 もう 御用はお済みどすやろか? 147 00:11:23,119 --> 00:11:33,119 ♬~ 148 00:11:45,241 --> 00:11:49,579 改心しよったか。 149 00:11:49,579 --> 00:11:51,514 おいでやす! ああ こんにちは。 150 00:11:51,514 --> 00:11:55,451 どうどすか? 大原で捕れた鶉の雛ですわ。 151 00:11:55,451 --> 00:11:58,288 やわらこうて うまおまっせ。 152 00:11:58,288 --> 00:12:01,591 これで 焼き鳥 何本分になるんやろ? 153 00:12:01,591 --> 00:12:05,461 そうどすなあ… 1羽から3本分の身ぃ取れるとして➡ 154 00:12:05,461 --> 00:12:08,765 まっ ざっと100本。 ん。 155 00:12:08,765 --> 00:12:11,768 ほな 100本分もらうわ。 ええ? 156 00:12:11,768 --> 00:12:14,904 籠ごともらいます。 ええ!? 釣りは要らんさかい。 157 00:12:14,904 --> 00:12:17,774 はあ! おおきに。 158 00:12:17,774 --> 00:12:19,974 おおきに! 159 00:12:23,913 --> 00:12:26,783 ≪焼き鳥にならんで済んだなあ。➡ 160 00:12:26,783 --> 00:12:29,783 ほら お逃げ。 161 00:12:32,589 --> 00:12:35,224 おいおいおい…。 162 00:12:35,224 --> 00:12:37,860 ほら お食べ。 163 00:12:37,860 --> 00:13:33,082 ♬~ 164 00:13:33,082 --> 00:13:35,882 <ふ… 筆が速い!> 165 00:13:42,558 --> 00:13:48,058 <速いが 雑やで。 写生は正確さこそ命> 166 00:13:56,072 --> 00:14:00,272 <その顔が あんたの正体やな> 167 00:14:06,249 --> 00:14:08,885 兄さん。 168 00:14:08,885 --> 00:14:15,425 あ… 堪忍。 つい絵心が動いた。 169 00:14:15,425 --> 00:14:21,230 無理してへんか? 何のことや。 170 00:14:21,230 --> 00:14:25,601 私は 兄さんほど上手に商いができん。 171 00:14:25,601 --> 00:14:30,106 学問も足らんし 人徳もない。 172 00:14:30,106 --> 00:14:35,912 何 言うんや。 私は ええ弟を持った。 173 00:14:35,912 --> 00:14:40,216 <何や このええ感じの兄弟愛は> 174 00:14:40,216 --> 00:14:44,387 そやけどな 私に この絵は描けへん。 175 00:14:44,387 --> 00:14:49,559 この才を 青物問屋に縛りつけとくんは 罪や。 176 00:14:49,559 --> 00:14:52,228 <あの絵 見てみたい> 177 00:14:52,228 --> 00:15:00,403 どうも私の中には 風神さんと 雷神さんがいてはるみたいでな。 178 00:15:00,403 --> 00:15:06,743 年中 雷 光らせて 激しい風を吹かさはる。 179 00:15:06,743 --> 00:15:15,251 その胸の内の嵐を 筆を使うて吐き出さんことには➡ 180 00:15:15,251 --> 00:15:20,089 苦しゅうて苦しゅうてかなん。 181 00:15:20,089 --> 00:15:24,961 死んでしまうんやないかて 思う時もある。 182 00:15:24,961 --> 00:15:29,265 これは何やろな? 183 00:15:29,265 --> 00:15:34,237 私の中にある煩悩やろか? 184 00:15:34,237 --> 00:15:37,974 ≪願いみたいなもんやろか? 185 00:15:37,974 --> 00:15:40,974 <見たい! あの絵が> 186 00:15:44,213 --> 00:15:49,913 そやったら それが分かるまで とことん描いたらええ。 187 00:15:51,721 --> 00:15:57,521 家業は私がやりますよって 絵に生きておくれやす。 188 00:16:01,230 --> 00:16:08,871 (鐘の音) 189 00:16:08,871 --> 00:16:23,886 ♬~ 190 00:16:23,886 --> 00:16:27,086 桝屋源左衛門…。 191 00:16:35,364 --> 00:16:40,536 何か 変なもんが見えとるな。 192 00:16:40,536 --> 00:16:54,236 ♬~ 193 00:17:00,857 --> 00:17:04,357 どく らく か。 194 00:17:09,398 --> 00:17:21,878 ♬~ 195 00:17:21,878 --> 00:17:26,749 平安錦街居士… もっさい名前。 196 00:17:26,749 --> 00:17:29,585 (戸が開く音) うわっ! 197 00:17:29,585 --> 00:17:31,554 ど… どちらさんですやろ? 198 00:17:31,554 --> 00:17:35,191 て… 手前は星聚館と申す➡ 199 00:17:35,191 --> 00:17:37,526 駆け出しの絵師にございます。 200 00:17:37,526 --> 00:17:39,562 せい… しゅ? あっ この前➡ 201 00:17:39,562 --> 00:17:45,701 あっちのお庭で鶉描いたはりましたやろ? あ… ああ はい 確かに。 202 00:17:45,701 --> 00:17:51,001 興をそそられましたもので つい筆が動きました。 203 00:17:53,843 --> 00:17:55,912 あっ あっ。 204 00:17:55,912 --> 00:17:58,214 これは私ですか? 205 00:17:58,214 --> 00:18:00,149 唐の文人画みたいや。 206 00:18:00,149 --> 00:18:05,554 あの時 描いてはった手控えの鶉 拝見しとうございます。 207 00:18:05,554 --> 00:18:10,226 手控え… いうより 絵のつもりで描いたもんどすけど。 208 00:18:10,226 --> 00:18:12,561 いやいやいや…。 209 00:18:12,561 --> 00:18:15,064 <アホなこと言うな。➡ 210 00:18:15,064 --> 00:18:18,401 あれが手控えやのうて何やねん> 211 00:18:18,401 --> 00:18:22,071 見事な筆の速さ。 是非にも拝見したく。 212 00:18:22,071 --> 00:18:24,573 よろしおす。 213 00:18:24,573 --> 00:18:27,410 おおきに。 214 00:18:27,410 --> 00:18:29,410 これどすけど。 215 00:18:32,014 --> 00:18:34,917 <ひえぇぇぇ!➡ 216 00:18:34,917 --> 00:18:38,788 あんな短い間に これ描いたいうんか> 217 00:18:38,788 --> 00:18:43,359 まあ 手慰みみたいなもんどすわ。 218 00:18:43,359 --> 00:18:45,559 おおきに…。 219 00:18:48,698 --> 00:18:53,369 あの 青春館さん。 星聚館です。 220 00:18:53,369 --> 00:18:57,569 よかったら お茶でも…。 失礼します。 221 00:19:05,381 --> 00:19:07,850 <負けた…> 222 00:19:07,850 --> 00:19:18,350 ♬~ 223 00:19:31,073 --> 00:19:33,573 鶴なあ…。 224 00:19:36,345 --> 00:19:41,045 そういうたら 実物見たことないわ。 225 00:19:56,699 --> 00:20:00,202 鷺と比べてもしゃあないか…。 226 00:20:00,202 --> 00:20:11,814 (鈴の音) 227 00:20:11,814 --> 00:20:14,717 何やろ? 228 00:20:14,717 --> 00:20:34,103 ♬~ 229 00:20:34,103 --> 00:20:38,903 茶道具か… 野点でもしはんのやろか。 230 00:20:45,414 --> 00:20:48,884 (売茶翁)物陰の御仁。 231 00:20:48,884 --> 00:20:51,420 え? 232 00:20:51,420 --> 00:20:55,891 通仙亭 ただいま開店しました。 どうぞ。 233 00:20:55,891 --> 00:20:58,091 はあ…。 234 00:21:00,763 --> 00:21:03,766 茶店… なんですか? 235 00:21:03,766 --> 00:21:10,272 さよう。 煎茶を一杯いくらで出すゆえ 茶店やな。 236 00:21:10,272 --> 00:21:13,609 いつも ここにお店を出したはるので? 237 00:21:13,609 --> 00:21:16,645 決まっておらん。 その日の気分次第や。 238 00:21:16,645 --> 00:21:21,117 それでお商売にならはるんでしょうか? 239 00:21:21,117 --> 00:21:24,920 それが不思議と繁盛しとるんよ。 240 00:21:24,920 --> 00:21:30,459 あんたみたいに物珍しさで立ち寄る 一見さんもおれば➡ 241 00:21:30,459 --> 00:21:36,565 わざわざ わしの居場所を探して来よる 常連客もおってな。 242 00:21:36,565 --> 00:21:40,870 わざわざ来はる客を持つのは 一流の店です。 243 00:21:40,870 --> 00:21:45,708 (売茶翁)商人さんかね? はい。 錦市場で青物を扱うております。 244 00:21:45,708 --> 00:21:48,077 高遊外と申す。 245 00:21:48,077 --> 00:21:52,248 人は勝手に売茶翁などと呼んどるがな。 246 00:21:52,248 --> 00:21:58,053 ばいさおう? 茶を売るジジイという意味よ。 247 00:21:58,053 --> 00:22:01,957 何とお呼びすればええ? 先頃 隠居を決めまして➡ 248 00:22:01,957 --> 00:22:05,427 今は一介の絵描きなれば➡ 249 00:22:05,427 --> 00:22:09,598 平安錦街居士と名乗っております。 250 00:22:09,598 --> 00:22:12,101 分かりやすい号やな。 251 00:22:12,101 --> 00:22:19,842 あっ! あんた ひょっとして 錦の桝屋の四代目? 252 00:22:19,842 --> 00:22:25,281 へえ おっしゃるとおりで…。 ほう~ あんたがなあ…。 253 00:22:25,281 --> 00:22:28,117 何で 私のことを? 254 00:22:28,117 --> 00:22:33,617 我が友が あんたの噂をしとったよって…。 255 00:22:41,230 --> 00:22:47,036 (売茶翁)ここにある十二の茶道具は➡ 256 00:22:47,036 --> 00:22:52,741 いろいろなことに気付かせてくれる 師匠みたいなもんでな。 257 00:22:52,741 --> 00:23:01,417 自分では 十二先生と呼んどるが それぞれに名前は付いとる。 258 00:23:01,417 --> 00:23:04,917 さっ どうぞ。 頂戴いたします。 259 00:23:10,125 --> 00:23:20,436 例えば この水差しの名は 若冲先生。 じゃくちゅう? 260 00:23:20,436 --> 00:23:23,472 「大盈ハ冲シキガ若キモ➡ 261 00:23:23,472 --> 00:23:27,776 其ノ用ハ窮マラズ」という 老子の一説じゃ。➡ 262 00:23:27,776 --> 00:23:32,381 大きな器は一見空っぽで無駄に思えるが。 263 00:23:32,381 --> 00:23:38,554 何に使うても役立つ万能さがある。 人も また同じ。 264 00:23:38,554 --> 00:23:45,060 若冲… 「冲シキガ若シ」。 ええ名前やろ? 265 00:23:45,060 --> 00:23:48,564 その名前 譲ってもらうことはできませんやろか? 266 00:23:48,564 --> 00:23:51,233 若冲を? はい。 あんたに? はい! 267 00:23:51,233 --> 00:23:53,168 えぇぇ~。 268 00:23:53,168 --> 00:23:55,404 是非に! 269 00:23:55,404 --> 00:23:59,875 (小声で) 先生 あんなこと言うとりますが➡ 270 00:23:59,875 --> 00:24:04,413 ん? えっ? マジっすか。 271 00:24:04,413 --> 00:24:07,883 あの…。 じゃくちゅう! 272 00:24:07,883 --> 00:24:09,818 呼んだら答えなさい。 はい。 273 00:24:09,818 --> 00:24:14,256 若冲~! 274 00:24:14,256 --> 00:24:16,292 …はい。 275 00:24:16,292 --> 00:24:19,895 ええ響きじゃ。 276 00:24:19,895 --> 00:24:26,268 今日から そう名乗るとよかろう。 あ… ありがとうございます! 277 00:24:26,268 --> 00:24:28,904 ところで 若冲殿。 はい。 278 00:24:28,904 --> 00:24:36,712 さっき橋の上から川原の白鷺を見つめて どんよりしておったな? 279 00:24:36,712 --> 00:24:40,849 鷺と比べてもしゃあないか…。 280 00:24:40,849 --> 00:24:43,552 鶴の絵を描こうとして➡ 281 00:24:43,552 --> 00:24:46,855 実物見たことないのに 改めて気付きまして。 282 00:24:46,855 --> 00:24:51,060 ありゃ渡り鳥じゃから 今の季節 日本におらんし➡ 283 00:24:51,060 --> 00:24:55,230 季節になっても 人の多い京や大坂には飛んでこんな。 284 00:24:55,230 --> 00:24:59,401 どないしたらよろしいですやろ? 何のために京に住んどんのか? 285 00:24:59,401 --> 00:25:03,238 鶴を見たいなら寺へ行け 寺へ。 寺? 286 00:25:03,238 --> 00:25:11,580 宋 元 明代の渡来物 本朝なら雪舟に狩野一門➡ 287 00:25:11,580 --> 00:25:17,386 最高のお手本が 襖絵や掛け軸になって 掃いて捨てるほどある。 288 00:25:17,386 --> 00:25:25,094 模写しまくって その中から まことの姿を導き出すべし。 289 00:25:25,094 --> 00:25:27,129 なるほど! 290 00:25:27,129 --> 00:25:29,898 紹介状を書いて進ぜよう。➡ 291 00:25:29,898 --> 00:25:32,701 若冲さん あんた 本姓はあるかね? 292 00:25:32,701 --> 00:25:35,604 はい 伊藤を名乗っております。 293 00:25:35,604 --> 00:25:38,574 伊藤若冲。 はい。 294 00:25:38,574 --> 00:25:41,410 (売茶翁) これを持って相国寺に行かれよ。➡ 295 00:25:41,410 --> 00:25:44,046 あそこは絵の宝庫や。 296 00:25:44,046 --> 00:25:48,046 いとう じゃくちゅう…。 297 00:25:51,553 --> 00:25:53,753 失礼いたします。 298 00:25:56,425 --> 00:26:04,125 (鐘の音) 299 00:26:12,941 --> 00:26:14,941 もし。 300 00:26:20,416 --> 00:26:22,885 ご住職にお会いしたいのですが。 301 00:26:22,885 --> 00:26:26,422 添え状はお持ちか? はい。 ここに…。 302 00:26:26,422 --> 00:26:28,922 どうぞ。 303 00:26:31,093 --> 00:26:36,064 あ… 売茶翁の字ですね。 はい。 304 00:26:36,064 --> 00:26:38,264 あの…。 305 00:26:40,769 --> 00:26:43,038 あなたが? はい? 306 00:26:43,038 --> 00:26:46,842 若冲と名乗られたか? 307 00:26:46,842 --> 00:26:52,381 売茶翁にお願いして 水差しの名を譲っていただきました。 308 00:26:52,381 --> 00:26:57,719 「大盈ハ冲シキガ若キモ 其ノ用ハ窮マラズ」。 そのとおり。 309 00:26:57,719 --> 00:27:02,558 あの水差しに その名を付けたのは私です。 では…。 310 00:27:02,558 --> 00:27:07,396 この塔頭の住職 大典顕常と申す。 311 00:27:07,396 --> 00:27:10,596 あなたが ご住職? 312 00:27:14,069 --> 00:27:19,875 これは 昔描いた私の絵ですが…。 313 00:27:19,875 --> 00:27:23,245 こんなに冷徹で厳しいて不安定やのに➡ 314 00:27:23,245 --> 00:27:27,583 不思議なぬくもりを感じさせる絵は 見たことがない。 315 00:27:27,583 --> 00:27:30,419 つまり 得体が知れへん。 316 00:27:30,419 --> 00:27:34,389 書も絵も作者の人格や心の内を 表さずにはおかへんが➡ 317 00:27:34,389 --> 00:27:38,026 この絵から それを推し量るのは難しい。 318 00:27:38,026 --> 00:27:40,062 訳が分からん。 319 00:27:40,062 --> 00:27:44,900 それは 私の技量が足らんだけです。 ハハッ。 320 00:27:44,900 --> 00:27:47,703 技だけあって心がない絵は 何千枚と見てきた。 321 00:27:47,703 --> 00:27:52,040 しかし この絵の奥には➡ 322 00:27:52,040 --> 00:27:57,546 描こうとしている正体不明のものがある。 323 00:27:57,546 --> 00:28:04,720 混沌として まるで宇宙の正体のような…。 324 00:28:04,720 --> 00:28:09,558 いや そんな大層なもんと違います。 325 00:28:09,558 --> 00:28:18,267 私の心の中に吹く風 降る雨➡ 326 00:28:18,267 --> 00:28:25,107 雲を割って射す陽 稲妻の光みたいなもんを➡ 327 00:28:25,107 --> 00:28:29,244 絵に込めようと思うんですけど➡ 328 00:28:29,244 --> 00:28:33,682 なかなか うまいこといかしません。 329 00:28:33,682 --> 00:28:38,820 それこそ 禅の境地です! 我々は 何十年もの修行の果てに➡ 330 00:28:38,820 --> 00:28:43,020 一瞬でもかいま見たいと思う ひらめきが あなたの中にはある。 331 00:28:46,695 --> 00:28:51,700 あなたには 描いてもらいたいものが たくさんある。 332 00:28:51,700 --> 00:28:55,704 この世の森羅万象 そして 仏。 333 00:28:55,704 --> 00:28:57,839 御仏を… この私が? 334 00:28:57,839 --> 00:29:01,043 それを見た時 私の悟りも開けるやもしれません。 335 00:29:01,043 --> 00:29:05,543 そのためなら 何でもお手伝いします。 336 00:29:09,384 --> 00:29:13,684 あっ… これは失礼を。 337 00:29:15,257 --> 00:29:21,096 御坊は 見た目によらず 力が強うおすな。 338 00:29:21,096 --> 00:29:23,932 申し訳ない。 つい力が入り申した。 339 00:29:23,932 --> 00:29:29,071 こんな 強う手ぇ握られたんは➡ 340 00:29:29,071 --> 00:29:31,871 生まれて初めてです。 341 00:29:36,812 --> 00:29:40,682 そうそう 鶴でしたね? はい。 342 00:29:40,682 --> 00:29:46,355 相国寺をはじめ 京の五山には 名作と呼ばれる鶴が何百羽もいる。 343 00:29:46,355 --> 00:29:50,692 仲介の労をとりますゆえ。 心行くまで模写されよ。 344 00:29:50,692 --> 00:31:09,192 ♬~ 345 00:31:15,777 --> 00:31:34,062 ♬~ 346 00:31:34,062 --> 00:31:38,734 どないしはりました? 347 00:31:38,734 --> 00:31:44,539 これ以上 模写続けても 無駄やと思います。 348 00:31:44,539 --> 00:31:48,744 ハハッ えろう きっぱり言いますね。 349 00:31:48,744 --> 00:31:51,580 もう千枚近う模写した思いますけど➡ 350 00:31:51,580 --> 00:31:56,084 鶴も虎も描いた作者が見たもので➡ 351 00:31:56,084 --> 00:32:00,084 私が見ているのは実物やない。 352 00:32:03,959 --> 00:32:07,429 私に言わせれば 若冲さんの模写の方が➡ 353 00:32:07,429 --> 00:32:13,101 細かい虎の毛並みといい より本物の虎に近い気がしますがね。 354 00:32:13,101 --> 00:32:18,607 よう出来てても 私の描いた虎は生きていません。 355 00:32:18,607 --> 00:32:24,279 死んでます。 絵の中の虎に魂がないんです。 356 00:32:24,279 --> 00:32:29,779 私の模写は よう出来た偽物です。 357 00:32:36,391 --> 00:32:40,228 一滴ずつ滴る雫も いつの間にか大きな盥を満たす。 358 00:32:40,228 --> 00:32:42,864 千枚描いて ようやく単純なことに 気付くこともある。 359 00:32:42,864 --> 00:32:49,571 私は つくづく 頭の悪い男なんですなあ。 作麼生! 360 00:32:49,571 --> 00:32:57,271 ならば 伊藤若冲は 何を描くべきか? 361 00:33:06,888 --> 00:33:09,424 あ~ おった おった。 毎回毎回➡ 362 00:33:09,424 --> 00:33:12,460 気まぐれに店広げる場所が よう分かりますねえ。 363 00:33:12,460 --> 00:33:16,898 長年の勘で。 おっ あら大雅やな。 たいが? 364 00:33:16,898 --> 00:33:21,269 池 大雅。 あんたとは また違う種類の天才です。 365 00:33:21,269 --> 00:33:24,906 絵師ですか? 絵も天才やが 書も天才。 366 00:33:24,906 --> 00:33:27,442 7歳の時 萬福寺で書を揮毫し➡ 367 00:33:27,442 --> 00:33:30,478 長老たちをうならせた神童です。 368 00:33:30,478 --> 00:33:32,714 はあ~。 369 00:33:32,714 --> 00:33:36,718 おお そろっとんな。 ハッハッハッ。 370 00:33:36,718 --> 00:33:40,856 (大雅)おお~! 大典兄貴! 371 00:33:40,856 --> 00:33:43,225 酒臭っ! 茶やのうて酒飲んどるな? 372 00:33:43,225 --> 00:33:45,861 久しぶりやんか~! ハハッ! 離せ。 373 00:33:45,861 --> 00:33:49,564 会いたかったで~。 頬ずりすな! 374 00:33:49,564 --> 00:33:52,234 ひどいやないの もう~。 375 00:33:52,234 --> 00:33:56,872 若冲は 大雅が初めてやったな? はい。 376 00:33:56,872 --> 00:33:59,774 ほう~。 377 00:33:59,774 --> 00:34:03,411 あんたが噂の伊藤若冲か。 378 00:34:03,411 --> 00:34:07,082 う… 噂て そんな。 私みたいな無名の者を…。 379 00:34:07,082 --> 00:34:09,584 この都に絵師は 掃いて捨てるほどおるけど➡ 380 00:34:09,584 --> 00:34:14,456 天下の売茶翁と大典禅師が認める絵師は 数えるほどや。 381 00:34:14,456 --> 00:34:17,259 あんたとわしは そのうちの2人。 382 00:34:17,259 --> 00:34:19,294 相変わらず自信満々やな。 383 00:34:19,294 --> 00:34:22,597 ハハハッ まっ 金がないさけな。 384 00:34:22,597 --> 00:34:25,433 自信ぐらいは売るほど持っとかんと。 ほら。 385 00:34:25,433 --> 00:34:27,733 ああ すんまへん。 386 00:34:32,207 --> 00:34:34,142 えらい日に焼けてはりますね? 387 00:34:34,142 --> 00:34:39,080 ああ 山焼けですわ。 江戸からの戻りがてら ちょっと富士山に。 388 00:34:39,080 --> 00:34:42,384 まさか… 登ったんですか? ええ。 389 00:34:42,384 --> 00:34:47,884 ほんで そのまま甲斐から信濃を ぐる~っと回って 立山にも。 はあ~。 390 00:34:52,861 --> 00:34:55,397 こんな上等な般若湯 どこで手に入れた? 391 00:34:55,397 --> 00:35:00,268 やましい酒とちゃいまっせ。 祇園で絵ぇ描いた謝礼や。 392 00:35:00,268 --> 00:35:02,570 また酒と交換したんか。 393 00:35:02,570 --> 00:35:06,741 絵の代金をもらわへんのですか? そらまあ もらう時は もらいます。 394 00:35:06,741 --> 00:35:11,246 そやけど 「お~い 提灯に なんぞ 絵ぇ描いてくれ」いう そば屋からは➡ 395 00:35:11,246 --> 00:35:13,181 かけそば一杯。 396 00:35:13,181 --> 00:35:18,019 「お扇子に絵ぇ描いてくれはります?」いう 芸妓はんからは酒を5合。 397 00:35:18,019 --> 00:35:21,423 そんなんやから お前ほどの才が いつまでも貧乏なんや。 398 00:35:21,423 --> 00:35:24,326 ヘッヘッヘッヘッ。 貧乏すぎて絵師のくせに➡ 399 00:35:24,326 --> 00:35:28,596 筆も持っとらん。 筆は質屋に入っとります。 ヘヘッ。 400 00:35:28,596 --> 00:35:33,368 筆もなしに どうやって描くんですか? これで。 401 00:35:33,368 --> 00:35:43,378 ♬~ 402 00:35:43,378 --> 00:35:46,414 知りませんか? 指墨いう唐の技法です。 403 00:35:46,414 --> 00:35:48,550 初めて見ました。 404 00:35:48,550 --> 00:35:51,350 ほい 一丁上がりや。 405 00:35:53,722 --> 00:35:56,057 (大雅)この前 登った立山の風景です。 406 00:35:56,057 --> 00:36:02,397 はあ~ いやもう 雪が積もって これ大変でしたわ。 407 00:36:02,397 --> 00:36:06,735 そこまでして探さんと 理想の画題に巡り会えませんか? 408 00:36:06,735 --> 00:36:10,535 あ~ 何て答えたらええか…。 409 00:36:15,243 --> 00:36:20,081 常に心を開き感じ取っていれば 見えてくるということ。 410 00:36:20,081 --> 00:36:23,752 無理やり探そうとすると 大概 道に迷う。 411 00:36:23,752 --> 00:36:29,090 高遊外先生~! ヘヘッ。 412 00:36:29,090 --> 00:36:34,529 その見本みたいなやつが来よった。 413 00:36:34,529 --> 00:36:36,464 あ…。 414 00:36:36,464 --> 00:36:41,202 これこれは 平安錦街居士さん。 415 00:36:41,202 --> 00:36:45,540 今は 若冲と名乗っております。 じゃくちゅう? 416 00:36:45,540 --> 00:36:49,044 星聚館さん どしたな? あ~ それは古い。 417 00:36:49,044 --> 00:36:54,215 今は 鴨水漁史ですわ。 また雅号変えたんか? 418 00:36:54,215 --> 00:36:59,215 それはなんぞや? あっ ここをのぞいてみてください。 419 00:37:03,391 --> 00:37:07,062 (大雅)おお~ こら ごっつい奥行きのある絵やで。 420 00:37:07,062 --> 00:37:08,997 のぞき眼鏡いいますねん。 421 00:37:08,997 --> 00:37:12,734 中の絵は西洋の遠近法で描いてます。 422 00:37:12,734 --> 00:37:16,571 こうやって絵を変えたら…。 423 00:37:16,571 --> 00:37:19,607 (大雅)おお 四条の南座や。 ヘッヘッヘッ。 424 00:37:19,607 --> 00:37:23,745 今 開発中の新商品ですわ。 425 00:37:23,745 --> 00:37:29,617 ああ~ 確かに… 本物の風景みたいや。 でっしゃろ? 426 00:37:29,617 --> 00:37:34,355 う~ん 奥行きのある浮世絵… どすな。 427 00:37:34,355 --> 00:37:38,226 そやな。 浮世絵っぽい。 428 00:37:38,226 --> 00:37:42,831 人が気にしてることを…。 429 00:37:42,831 --> 00:37:47,035 わしは 何を描くべきか? 430 00:37:47,035 --> 00:37:51,539 野に出て 虚心坦懐に写生でもしたら➡ 431 00:37:51,539 --> 00:37:55,410 描くべきものが 見つかるかもしれまへんな。 432 00:37:55,410 --> 00:38:00,715 おもろい! ほな これから3人で 写生に行きまへんか? 433 00:38:00,715 --> 00:38:06,221 写生? わしの土俵で勝負する気ですか? 434 00:38:06,221 --> 00:38:11,059 何の勝負やねんな。 おのおの 心惹かれるもんを見つけて描くの。 435 00:38:11,059 --> 00:38:14,929 自分の描くべきものを やね? (大雅)そのとおりや。 436 00:38:14,929 --> 00:38:18,629 行くのはええが 酒は置いてけ。 437 00:38:24,739 --> 00:38:29,244 あの3人 今は無名やが➡ 438 00:38:29,244 --> 00:38:36,351 遠からず 天下を三分する 絵師になる逸物やと思うが➡ 439 00:38:36,351 --> 00:38:39,687 どうや? 同感です。 440 00:38:39,687 --> 00:38:43,987 (売茶翁) 呼びもせんのに よう集まりよった。 441 00:40:08,209 --> 00:40:12,714 <魂が… 見えた> 442 00:40:12,714 --> 00:41:00,595 ♬~ 443 00:41:00,595 --> 00:41:04,899 (鶏の鳴き声) 444 00:41:04,899 --> 00:41:09,771 養鶏でも始めるつもりか? かしわ肉は苦手や。 445 00:41:09,771 --> 00:41:15,109 これは食う鶏とは違う。 鑑賞用やがな。 446 00:41:15,109 --> 00:41:22,850 身近な動物の中で 鶏が群を抜いて美しいと私は思う。 447 00:41:22,850 --> 00:41:28,790 うん… 古来中国では 鶏は5つの徳を持つ鳥やといわれてきた。 448 00:41:28,790 --> 00:41:36,064 画題としては気高さがあってええな。 あんたも そう思うか? 449 00:41:36,064 --> 00:41:43,571 もう10日も こうして眺めてるけど 一向に飽きん。 10日も? 450 00:41:43,571 --> 00:41:48,743 もう さんざん見尽くした と思うた時➡ 451 00:41:48,743 --> 00:41:51,245 神気が見える。 452 00:41:51,245 --> 00:41:55,083 神気とは 霊のようなものか? 453 00:41:55,083 --> 00:42:01,589 そんな不確かなもんと違うて 躍動する魂の力みたいなもんや。 454 00:42:01,589 --> 00:42:06,894 物言わん動物と人間が 通じ合えると思うか? 455 00:42:06,894 --> 00:42:12,700 う~ん… 犬や猫 馬や牛とはできるかもしれんが➡ 456 00:42:12,700 --> 00:42:19,440 鳥や蛙 魚や虫と心を通わせるんは なかなかに難しい。 457 00:42:19,440 --> 00:42:22,777 何でやと思う? ハハッ。 458 00:42:22,777 --> 00:42:25,780 相手が何を考えているかが分からない。 459 00:42:25,780 --> 00:42:30,651 鳥や虫 カエルや蛇には表情がないからや。 460 00:42:30,651 --> 00:42:36,724 そやから喜怒哀楽がないと 人間が勝手に思うてる。 461 00:42:36,724 --> 00:42:42,864 しかし 生き物である以上 欲も愛もある。 462 00:42:42,864 --> 00:42:47,735 それを外界に 気として放っとる。 463 00:42:47,735 --> 00:42:50,738 それが あんたの言う 神気か。 464 00:42:50,738 --> 00:42:57,879 それを感じることができたら 絵に命を与えられる。 465 00:42:57,879 --> 00:44:11,886 ♬~ 466 00:44:11,886 --> 00:44:15,756 不思議やな。 あかんか? 467 00:44:15,756 --> 00:44:21,262 あんたにしか見えんと思うてた鶏の神気が こうして絵になると 私にも見える。 468 00:44:21,262 --> 00:44:27,068 草花や木 虫の中にも神気が見える。 469 00:44:27,068 --> 00:44:33,908 そやから今は この世のどんな生き物でも 自在に描ける気ぃがする。 470 00:44:33,908 --> 00:44:40,548 神気を感じて 注意深く描けば➡ 471 00:44:40,548 --> 00:44:45,548 死んだものにも命を与えることができる。 472 00:44:55,096 --> 00:44:57,796 誤解せんといてほしい。 473 00:44:59,934 --> 00:45:03,738 傲慢な物言いやな。 ハハハハッ。 474 00:45:03,738 --> 00:45:07,742 大言壮語などせん あんたがそう言うなら ホンマのことやろ。 475 00:45:07,742 --> 00:45:15,349 おかしいか? いや… 私は すごい人間を友に持った。 476 00:45:15,349 --> 00:45:17,649 それが うれしい。 477 00:45:20,888 --> 00:45:22,823 大典さん。 478 00:45:22,823 --> 00:45:28,095 私は もう 絵のことだけ考えて生きていきたい。 479 00:45:28,095 --> 00:45:34,295 そやから きっぱりと世俗を捨てて 禅僧になりたい。 480 00:45:39,206 --> 00:45:41,206 喝! 481 00:46:03,731 --> 00:46:05,666 こんにちは。 482 00:46:05,666 --> 00:46:09,236 若冲さんやないの。 何やえらい珍しい。 483 00:46:09,236 --> 00:46:11,572 昼餉の最中やったら出直します。 484 00:46:11,572 --> 00:46:15,409 何を言うてますのや。 よかったら食べていきよし。 なっ。 485 00:46:15,409 --> 00:46:17,345 (玉瀾)何をお出しするつもりどす? 486 00:46:17,345 --> 00:46:20,581 あんたの茶碗の中のごはんで うちの米はおしまい。 487 00:46:20,581 --> 00:46:23,618 気ぃ遣わんといて。 昼は食べへんよって。 488 00:46:23,618 --> 00:46:25,818 そうですか。 489 00:46:29,590 --> 00:46:33,828 伊藤若冲と申します。 490 00:46:33,828 --> 00:46:36,530 大雅の妻の玉瀾です。 491 00:46:36,530 --> 00:46:40,201 何もあらしませんけど 井戸だけは ええ水が出ますさかい➡ 492 00:46:40,201 --> 00:46:43,901 お白湯でもどうどす? 頂戴いたします。 493 00:46:45,840 --> 00:46:49,210 これは 絵や道具を干してるんですか? 494 00:46:49,210 --> 00:46:52,847 いやいや ここが わしとカミさんの仕事場。 495 00:46:52,847 --> 00:46:56,050 えっ! 奥の3畳間で寝起きして➡ 496 00:46:56,050 --> 00:46:59,854 この6畳間で飯食うたり 客泊めたり。 497 00:46:59,854 --> 00:47:01,922 ほんで残ってんのが庭だけ。 498 00:47:01,922 --> 00:47:06,627 はあ… 玉瀾さんも 絵を? 499 00:47:06,627 --> 00:47:09,327 へえ。 修業中どすけど。 500 00:47:11,065 --> 00:47:13,734 この白砂にね 日の光がはね返って➡ 501 00:47:13,734 --> 00:47:17,405 これ ええ具合に 手元を明るうしてくれるんですわ。 502 00:47:17,405 --> 00:47:22,905 はあ~ なるほど…。 503 00:47:24,879 --> 00:47:28,082 見事な絵や。 おおきに。 504 00:47:28,082 --> 00:47:31,585 え? それ カミさんの描いた絵。 505 00:47:31,585 --> 00:47:36,023 ええっ! てっきり 大雅さんのもんやと。 506 00:47:36,023 --> 00:47:38,059 (玉瀾)似てますか? うちの人の絵に。 507 00:47:38,059 --> 00:47:41,896 夫婦いうのは 絵も似るもんなんですか? 508 00:47:41,896 --> 00:47:45,700 私がうちの人のこと好きやから 似るんやと思います。 509 00:47:45,700 --> 00:47:49,203 これは 野暮なこと聞きました。 510 00:47:49,203 --> 00:47:53,703 それはそうと なんぞ話があって 来たんと違いますの? 511 00:47:55,710 --> 00:48:03,451 実は… 大典さんに叱られまして。 512 00:48:03,451 --> 00:48:09,857 はあ~ そら 珍しな。 仲のええ あんたらが。 513 00:48:09,857 --> 00:48:15,563 出家したい言うたら 「甘い!」て。 514 00:48:15,563 --> 00:48:19,433 はあ~。 515 00:48:19,433 --> 00:48:25,740 そりゃ あんたに対する 大典の嫉妬やな。 516 00:48:25,740 --> 00:48:28,409 嫉妬? 517 00:48:28,409 --> 00:48:37,017 若冲の才に嫉妬しとるんやない。 生き方に嫉妬しとる。 518 00:48:37,017 --> 00:48:40,717 大典は五山の星や。 519 00:48:42,523 --> 00:48:51,232 (売茶翁)あのくらい優れた男やと 宗派の期待を一身に背負わなあかん。➡ 520 00:48:51,232 --> 00:49:00,908 あれだけの詩文の才を持ちながら 自由な文人生活など許されん。➡ 521 00:49:00,908 --> 00:49:05,212 二足の草鞋を履く余裕など皆無。➡ 522 00:49:05,212 --> 00:49:13,721 ひたすら 禅を極め 僧として生きる道を選ばざるをえん。➡ 523 00:49:13,721 --> 00:49:16,724 おぬしを深く知れば知るほど➡ 524 00:49:16,724 --> 00:49:24,865 芸術家としての欲が むくむくと頭をもたげてきよったのよ。➡ 525 00:49:24,865 --> 00:49:32,565 何者にも囚われず 詩のためだけに生きてみたいとな。 526 00:49:36,544 --> 00:49:41,816 (無聞)お前の気持ちは よう分かった。 527 00:49:41,816 --> 00:49:46,687 これは わしが預かっておく。 528 00:49:46,687 --> 00:49:48,687 禅師…。 529 00:49:51,025 --> 00:49:56,363 よう考えるのや。 もう一度。 530 00:49:56,363 --> 00:50:02,703 (売茶翁) 大典の心に火ぃつけたのは あんたや。 531 00:50:02,703 --> 00:50:08,375 気付きませんでした。 そら 今更消すのも野暮な話やな。 532 00:50:08,375 --> 00:50:11,278 消せるもんか。 533 00:50:11,278 --> 00:50:14,849 ところで 両先生。 (2人)はい。 534 00:50:14,849 --> 00:50:19,720 記念に わしの肖像画を描いてはくれんか? 535 00:50:19,720 --> 00:50:24,859 何の記念ですの? 茶店をやめる 引退記念。 536 00:50:24,859 --> 00:50:27,359 え…。 (2人)そんな! 537 00:50:35,502 --> 00:51:08,769 ♬~ 538 00:51:08,769 --> 00:51:15,910 わしが80年 生き長らえることができたのも➡ 539 00:51:15,910 --> 00:51:19,113 お前たちのおかげや。 540 00:51:19,113 --> 00:51:27,821 しかし もう老いてしもうて お前たちを担ぐ力もない。 541 00:51:27,821 --> 00:51:38,465 あとは ひっそりと世の片隅で 死を待つのみ。 542 00:51:38,465 --> 00:51:47,574 わしが死んで お前たちが俗物の手に渡り 辱められたら➡ 543 00:51:47,574 --> 00:51:53,080 お前たちは わしを恨むやろう? 544 00:51:53,080 --> 00:51:59,080 そやから こうして荼毘に付してやるのよ。 545 00:52:01,255 --> 00:52:11,555 輪廻転生 人間にでも花にでもおなり。 546 00:52:24,912 --> 00:52:27,212 さらばじゃ。 547 00:52:36,523 --> 00:52:43,230 わしは また旅に出ます。 そうか… 今度は どこへ行く? 548 00:52:43,230 --> 00:52:45,733 山陰路を宍道湖まで。 549 00:52:45,733 --> 00:52:49,236 たまには玉瀾の絵も見てやってください。 随分と腕を上げとる。 550 00:52:49,236 --> 00:52:52,873 ああ 分かった。 道中 気ぃ付けて。 551 00:52:52,873 --> 00:52:54,873 うん。 552 00:52:57,411 --> 00:52:59,611 岩次郎。 553 00:53:09,123 --> 00:53:12,423 どうした 鴨水漁史先生。 554 00:53:14,261 --> 00:53:16,597 今は攘雲です。 555 00:53:16,597 --> 00:53:22,102 ならば じょううん先生 そう しょげるな。 556 00:53:22,102 --> 00:53:29,777 高遊外先生も隠居しはるし 京を離れよう思てます。 557 00:53:29,777 --> 00:53:35,716 どこへ行く? さあ… 大坂か 奈良か 大津か。 558 00:53:35,716 --> 00:53:40,721 そんな 岩次郎さんまで おらんようになったら 寂しい。 559 00:53:40,721 --> 00:53:49,063 高遊外先生は わしを高みに導いてくれる ただ一人の師匠やった。 560 00:53:49,063 --> 00:53:53,233 師匠もなしに 明日から どないせえいうんです。 561 00:53:53,233 --> 00:53:56,733 それは私も おんなじや。 違う! 562 00:54:00,407 --> 00:54:04,278 わしとは全っ然違う! 563 00:54:04,278 --> 00:54:11,752 あんたには まだ 大典さんがいてはるやないの! 564 00:54:11,752 --> 00:54:15,589 わしは それが羨ましい。 565 00:54:15,589 --> 00:54:19,093 私は若冲さんの師やない。 ただの友や。 566 00:54:19,093 --> 00:54:22,593 師でも友でも どっちゃでもええねん! 567 00:54:26,767 --> 00:54:32,706 自分が美しいと思うものに たどりつく道は険しい。 568 00:54:32,706 --> 00:54:36,443 孤独でつらい。 569 00:54:36,443 --> 00:54:42,716 闇夜に提灯なしで歩くようなもんですわ。 570 00:54:42,716 --> 00:54:49,389 大典さんは 若冲さんの足元を 煌々と照らしてくれる光や。 571 00:54:49,389 --> 00:54:54,061 わしも 足元を照らしてくれる人を見つけます。 572 00:54:54,061 --> 00:54:58,732 それまで勝負はお預けや。 し… 勝負? 573 00:54:58,732 --> 00:55:03,070 わしは いつか あんたに勝ちたい! 574 00:55:03,070 --> 00:55:05,973 それまで せいぜい➡ 575 00:55:05,973 --> 00:55:09,943 筆を洗て待っといてんか! 576 00:55:09,943 --> 00:55:12,243 岩次郎さん…。 577 00:55:20,621 --> 00:55:28,896 大典さん 私は あんたの重荷になってないか? 578 00:55:28,896 --> 00:55:33,734 重荷? 重荷どころか助けになってる。 579 00:55:33,734 --> 00:55:39,206 私は あんたに助けられはしたが 助けた覚えはない。 580 00:55:39,206 --> 00:55:41,542 確かに私は いっとき➡ 581 00:55:41,542 --> 00:55:45,045 あんたの足元を照らす 光やったのかもしれん。 582 00:55:45,045 --> 00:55:51,552 けど今は あんたの方が私の光なんや。 アホなこと言わんといてくれ。 583 00:55:51,552 --> 00:55:56,423 ただし 足元を照らす光やない。 584 00:55:56,423 --> 00:56:01,862 私が歩く道のずっと先にある 道標になる光や。 585 00:56:01,862 --> 00:56:05,732 それを目指して 暗い道を懸命に歩いていかな➡ 586 00:56:05,732 --> 00:56:08,735 あんたに置いていかれる。 587 00:56:08,735 --> 00:56:14,074 あんた… そんなふうに思うてたんか? 588 00:56:14,074 --> 00:56:17,074 私は相国寺に暇乞いをした。 589 00:56:19,580 --> 00:56:24,885 どこの寺の僧でもない 一介の雲水になるつもりや。 590 00:56:24,885 --> 00:56:29,256 そんな…。 ハハハハハハハハハハッ! 591 00:56:29,256 --> 00:56:32,526 金なく名もなくや! ハハハッ。 592 00:56:32,526 --> 00:56:40,526 ああ 貧なる哉! 自由なる哉! ハッハッハッ。 593 00:56:51,378 --> 00:56:57,078 私は旅に出る。 詩を詠むためだけに。 594 00:56:59,853 --> 00:57:02,353 …そうか。 595 00:57:05,559 --> 00:57:10,063 ほな 行ったらええ。 596 00:57:10,063 --> 00:57:15,863 けど 必ず帰ってきてくれ。 597 00:57:17,571 --> 00:57:25,245 私は ここで あんたとの約束を➡ 598 00:57:25,245 --> 00:57:27,745 果たしながら待ってる。 599 00:57:29,416 --> 00:57:33,020 あなたには 描いてもらいたいものが たくさんある。 600 00:57:33,020 --> 00:57:37,524 この世の森羅万象 そして 仏。 601 00:57:37,524 --> 00:57:40,360 今でも見たいと思うてる。 602 00:57:40,360 --> 00:57:43,697 伊藤若冲が描いた宇宙の姿。 603 00:57:43,697 --> 00:57:46,199 描くよ。 604 00:57:46,199 --> 00:57:51,705 御仏が中心にいる美しい世界を。 605 00:57:51,705 --> 00:57:56,376 どんな絵になるやら 想像もつかんわ。 606 00:57:56,376 --> 00:58:01,048 釈迦三尊像が三幅➡ 607 00:58:01,048 --> 00:58:05,385 草や花や木 虫や鳥や魚➡ 608 00:58:05,385 --> 00:58:12,885 この世にあふれる森羅万象の絵が 三十幅。 609 00:58:14,861 --> 00:58:21,561 そんな大作… 残りの人生かけて描くつもりか? 610 00:58:23,236 --> 00:58:29,409 あんたが帰ってくるまでに描き上げる。 611 00:58:29,409 --> 00:58:33,680 命を削ることになるぞ。 612 00:58:33,680 --> 00:58:38,180 今の私にやったら できる。 613 00:58:47,227 --> 00:58:54,835 全三十三幅 あんたに見せるまでは➡ 614 00:58:54,835 --> 00:58:57,535 死んだりせえへん。 615 00:59:02,209 --> 00:59:05,245 そやから あんたは➡ 616 00:59:05,245 --> 00:59:10,545 自分のやりたいことを思いっきりやり。 617 00:59:12,919 --> 00:59:20,594 あんたは もう随分先で 輝く光になってしもうたが…➡ 618 00:59:20,594 --> 00:59:29,294 再会する時には また あんたの足元を照らす光になりたい。 619 00:59:33,006 --> 00:59:35,909 当たり前や。 620 00:59:35,909 --> 00:59:42,709 一生 私のそばで 足元を照らしてほしい。 621 00:59:50,190 --> 00:59:55,529 私がここで賛と共に見送る。 622 00:59:55,529 --> 00:59:58,029 先に行け。 623 01:00:58,258 --> 01:01:00,458 若冲さん。 624 01:01:02,128 --> 01:01:04,598 あんたは 私の…。 625 01:01:04,598 --> 01:01:12,098 (風の音) 626 01:01:33,059 --> 01:02:29,559 ♬~ 627 01:02:47,601 --> 01:02:54,341 これが 噂に聞く「動植綵絵」かね。 628 01:02:54,341 --> 01:02:59,079 まだ半分ほどしか出来ておりませんが➡ 629 01:02:59,079 --> 01:03:03,079 先生に見ていただきとうて。 630 01:03:05,418 --> 01:03:08,218 (売茶翁)なんと…。 631 01:03:10,890 --> 01:03:14,427 (売茶翁)こういう絵は➡ 632 01:03:14,427 --> 01:03:18,598 仏のためにこそ描かれるべきや。➡ 633 01:03:18,598 --> 01:03:23,903 一切妥協しない美しさいうのは➡ 634 01:03:23,903 --> 01:03:30,403 人間の手には 余るものや。 635 01:03:44,724 --> 01:03:46,724 (せきこみ) 636 01:04:05,745 --> 01:04:13,420 あんたの絵の腕は もはや神の領域や。 637 01:04:13,420 --> 01:04:18,892 先生…➡ 638 01:04:18,892 --> 01:04:24,264 まだまだ至らん私に教えてください。 639 01:04:24,264 --> 01:04:28,902 もう わしの教えることなどない。 640 01:04:28,902 --> 01:04:34,402 ただ 感じ入るばかりや。 641 01:04:36,376 --> 01:04:58,176 ♬~ 642 01:05:05,238 --> 01:05:15,038 ♬~ 643 01:05:28,428 --> 01:05:30,363 フフッ。 644 01:05:30,363 --> 01:05:33,399 いかがされました? 645 01:05:33,399 --> 01:05:38,538 いや… このような刻限に 御住持様に呼び出されるとは➡ 646 01:05:38,538 --> 01:05:43,038 よい話ではなかろう。 ちと気が重い。 647 01:05:46,045 --> 01:05:48,045 こちらです。 648 01:06:03,863 --> 01:06:07,734 若冲さん。 649 01:06:07,734 --> 01:06:10,234 どういう趣向だ? 650 01:06:12,605 --> 01:06:15,105 何を企んでいる。 651 01:06:21,748 --> 01:06:46,840 ♬~ 652 01:06:46,840 --> 01:06:49,140 おお…。 653 01:06:51,711 --> 01:06:54,011 無聞禅師様…。 654 01:06:58,384 --> 01:07:00,420 もったいなくも若冲殿は➡ 655 01:07:00,420 --> 01:07:09,395 「動植綵絵」三十幅と 釈迦三尊像三幅を 相国寺にご寄進になられた。 656 01:07:09,395 --> 01:07:14,567 実に前代未聞 未曽有の快挙。 657 01:07:14,567 --> 01:07:18,367 永く我が寺の宝となさん。 658 01:07:20,240 --> 01:07:24,077 これひとえに汝の功なり。 659 01:07:24,077 --> 01:07:27,947 おぬし 禅師に何を言うた? 660 01:07:27,947 --> 01:07:31,885 今しばらくの間 遊行を許す。 661 01:07:31,885 --> 01:07:34,185 禅師 お待ちを…。 喝~っ! 662 01:07:36,189 --> 01:07:42,362 お前の顔を見とると小言言いたなるよって わしは退散する。➡ 663 01:07:42,362 --> 01:07:46,362 心行くまで堪能せい。 664 01:07:56,542 --> 01:08:00,413 おのれ若冲 謀ったな。 665 01:08:00,413 --> 01:08:04,413 まずは とくとご覧あれ。 666 01:08:06,552 --> 01:08:08,488 うん。 667 01:08:08,488 --> 01:09:25,932 ♬~ 668 01:09:25,932 --> 01:09:29,769 どうや? 大典さん。 669 01:09:29,769 --> 01:09:38,011 伊藤若冲 ここに名を遂げん。 事終われり。 670 01:09:38,011 --> 01:09:42,815 御仏に捧げた全三十三幅。 671 01:09:42,815 --> 01:09:46,686 圧倒されて言葉もない。 672 01:09:46,686 --> 01:09:52,558 御仏に捧げたのは 三十一幅や。 673 01:09:52,558 --> 01:09:57,330 あとの二幅は➡ 674 01:09:57,330 --> 01:10:04,037 我が導師 大典顕常に捧げる。 675 01:10:04,037 --> 01:10:05,972 何やて? 676 01:10:05,972 --> 01:10:15,214 最後の二篇 「老松白鳳図」と「芦雁図」は 一対になってる。 677 01:10:15,214 --> 01:10:21,554 空から降りてくる雁を 鳳凰が迎え入れてる。 678 01:10:21,554 --> 01:10:28,728 互いに呼び交わし 求め合う姿や。 679 01:10:28,728 --> 01:10:33,866 なるほど… そう見えるな。 680 01:10:33,866 --> 01:10:44,510 雁は黒衣を着たあんたで 鳳凰は…➡ 681 01:10:44,510 --> 01:10:46,810 私や。 682 01:10:56,422 --> 01:11:01,622 死ぬまで 私のそばにいてほしい。 683 01:11:11,904 --> 01:11:14,404 友としてか? 684 01:11:19,278 --> 01:11:25,778 そうや。 生涯の友として。 685 01:11:27,620 --> 01:11:33,426 死が 2人を分かつまで。 686 01:11:33,426 --> 01:11:35,626 うん…。 687 01:11:53,412 --> 01:11:57,583 気持ちええなあ…。 気に入ったか? 688 01:11:57,583 --> 01:12:01,754 貸し切りやなんて 金のない雲水にしたら随分奮発したな。 689 01:12:01,754 --> 01:12:06,092 ハハッ まあ 心の洗濯や。 690 01:12:06,092 --> 01:12:18,671 ♬~ 691 01:12:18,671 --> 01:12:24,911 何や 岩次郎のこと思い出すな…。 692 01:12:24,911 --> 01:12:27,813 あっ そや。 ん? 693 01:12:27,813 --> 01:12:34,053 「上方萬番付」いう 年に一回出る本でな。 694 01:12:34,053 --> 01:12:39,392 京 大坂の腕のええ料理人や職人 人気の歌舞伎役者なんかを番付にしてる。 695 01:12:39,392 --> 01:12:45,565 歌舞伎… 私には縁のないもんや。 そうでもないで。 696 01:12:45,565 --> 01:12:50,069 上方人気絵師番付。 絵師の番付もあるんか? 697 01:12:50,069 --> 01:12:57,243 三番人気 池 大雅。 おお~。 698 01:12:57,243 --> 01:13:03,583 二番人気 伊藤若冲。 699 01:13:03,583 --> 01:13:06,083 う~ん…。 700 01:13:08,087 --> 01:13:10,022 で? 気になるやろ? 701 01:13:10,022 --> 01:13:15,022 私や大雅より上 言われるとなあ…。 一番人気…。 702 01:13:18,731 --> 01:13:22,101 やった! やった! 703 01:13:22,101 --> 01:13:25,905 ついにやったで~! (芦雪)何ですか? 先生。 704 01:13:25,905 --> 01:13:33,045 ついに わしが 「上方萬番付」絵師番付の➡ 705 01:13:33,045 --> 01:13:35,381 一番や! (一同)え!? 706 01:13:35,381 --> 01:13:38,217 ホンマですか! 707 01:13:38,217 --> 01:13:40,720 ホンマや! (一同)おお~! 708 01:13:40,720 --> 01:13:44,590 先生 おめでとうございます! (一同)おめでとうございます! 709 01:13:44,590 --> 01:13:51,230 伊藤若冲にぃ…➡ 710 01:13:51,230 --> 01:13:56,068 あっ 勝ったでぇ! 711 01:13:56,068 --> 01:14:49,221 ♬~ 712 01:14:49,221 --> 01:15:09,608 ♬~ 713 01:15:09,608 --> 01:15:13,412 ♬~ 714 01:15:13,412 --> 01:15:23,412 ♬~ 715 01:15:32,732 --> 01:15:37,603 伊藤若冲畢生の大作「動植綵絵」は➡ 716 01:15:37,603 --> 01:15:39,605 まさに圧巻であった。 717 01:15:39,605 --> 01:15:44,076 当の本人も 「1, 000年後に 理解されればいい」と言うたが➡ 718 01:15:44,076 --> 01:15:48,948 それを見た当時の人々も 圧倒されたに違いない。 719 01:15:48,948 --> 01:15:51,417 あっ 失礼…。 720 01:15:51,417 --> 01:15:57,289 私は若冲の理解者の一人 売茶翁と申す しがない路上茶人。 721 01:15:57,289 --> 01:16:00,126 これは若冲が描いてくれた 私だが➡ 722 01:16:00,126 --> 01:16:03,896 若冲が人間を描くのは 大変珍しいことじゃった。 723 01:16:03,896 --> 01:16:08,100 これ 軽い自慢である。 その礼というては何だが➡ 724 01:16:08,100 --> 01:16:13,800 若冲のその後の人生を 皆さんにお伝えしよう。 725 01:16:17,777 --> 01:16:23,582 若冲が絵に専念し始めたのは 四十というから 遅咲きも遅咲きだが➡ 726 01:16:23,582 --> 01:16:30,289 その後 八十五歳で世を去る間際まで 絵を描き続けた体力と精神力は➡ 727 01:16:30,289 --> 01:16:34,260 驚異的と言うしかあるまい。 728 01:16:34,260 --> 01:16:39,732 大作「動植綵絵」は 京都を代表する臨済禅の寺➡ 729 01:16:39,732 --> 01:16:42,568 相国寺に奉納するために描かれた。 730 01:16:42,568 --> 01:16:47,239 つまり 若冲は 仏に捧げるために描いた と言うておるが➡ 731 01:16:47,239 --> 01:16:53,112 それだけではないだろう? というのは わしの見立て。 732 01:16:53,112 --> 01:16:57,249 若冲の最大の理解者である大典顕常は➡ 733 01:16:57,249 --> 01:17:03,422 後に相国寺第113世住持になるほどの 若き名僧。 734 01:17:03,422 --> 01:17:05,891 名プロデューサーと言っていい大典が➡ 735 01:17:05,891 --> 01:17:12,097 若冲の才能を世に知らしめるために 描くことを勧めた… と➡ 736 01:17:12,097 --> 01:17:16,097 2人をよく知る私などは思うのだが。 737 01:17:18,604 --> 01:17:25,478 着手から およそ10年 若冲は「動植綵絵」全三十幅と➡ 738 01:17:25,478 --> 01:17:32,852 釈迦三尊像 三幅を完成させ 相国寺に寄進した。 739 01:17:32,852 --> 01:17:40,593 その構図の大胆さ 描写の精密さ 色彩表現のこまやかさ➡ 740 01:17:40,593 --> 01:17:46,593 二百数十年後の今でも 見る人を引き付けてやまない。 741 01:17:51,070 --> 01:17:55,875 しかし明治に入り 廃仏毀釈の煽りを受けて➡ 742 01:17:55,875 --> 01:18:01,080 経済的に困窮した相国寺は 泣く泣く寺の宝であった➡ 743 01:18:01,080 --> 01:18:04,950 この「動植綵絵」を皇室に献上。 744 01:18:04,950 --> 01:18:07,853 その御下賜金で窮地を救われ➡ 745 01:18:07,853 --> 01:18:11,757 廃寺になるのを危うく免れたという。 746 01:18:11,757 --> 01:18:18,430 若冲がこの世に送り出した大作が 100年後に相国寺を救うことになるとは➡ 747 01:18:18,430 --> 01:18:21,267 芸術の力も捨てたものではない。 748 01:18:21,267 --> 01:18:29,775 今この絵は 皇居の三の丸尚蔵館で 静かな余生を送っておる。 749 01:18:29,775 --> 01:18:36,048 これは 昔描いた私の絵ですが…。 750 01:18:36,048 --> 01:18:42,721 劇中冒頭 若冲と大典が出会う きっかけになった作品として登場する➡ 751 01:18:42,721 --> 01:18:44,657 「蕪に双鶏図」。 752 01:18:44,657 --> 01:18:50,462 実はこれ ごく最近発見された 珍しい若冲初期の作品。 753 01:18:50,462 --> 01:18:53,732 美術界を大いに沸かせた大発見だが➡ 754 01:18:53,732 --> 01:19:00,406 それをすぐさまドラマに使うなど NHKも目端の利くことよ。 755 01:19:00,406 --> 01:19:04,877 若冲30代半ば頃の作と見られる この絵。 756 01:19:04,877 --> 01:19:09,715 このころから鶏の美しさに 魅せられていることが分かるが➡ 757 01:19:09,715 --> 01:19:15,888 後年のように美しい花ではなく 枯れた蕪の葉と一緒に描いているのが➡ 758 01:19:15,888 --> 01:19:20,259 なんとも ほほ笑ましい。 759 01:19:20,259 --> 01:19:25,898 死ぬまで 私のそばにいてほしい。 760 01:19:25,898 --> 01:19:29,768 死が 2人を分かつまで。 761 01:19:29,768 --> 01:19:38,377 「動植綵絵」を相国寺に寄進した時 若冲は五十歳 大典は四十七歳。 762 01:19:38,377 --> 01:19:43,716 その後 若冲は 相国寺に生前墓を建立した。 763 01:19:43,716 --> 01:19:47,586 墓石には 大典の碑文が刻まれている。 764 01:19:47,586 --> 01:19:52,725 若冲の人柄や才能 「動植綵絵」三十幅の快挙を➡ 765 01:19:52,725 --> 01:19:55,227 熱くたたえている。 766 01:19:55,227 --> 01:19:57,162 これは友への賛辞か➡ 767 01:19:57,162 --> 01:19:59,565 はたまた 恋文か…。 768 01:19:59,565 --> 01:20:02,401 いやいやいや いらぬ詮索は やめておこう。 769 01:20:02,401 --> 01:20:06,401 諸氏のご想像に お任せする。 770 01:20:09,074 --> 01:20:12,411 その相国寺にある美術館には➡ 771 01:20:12,411 --> 01:20:16,749 いつでも見られる 若冲の作品があるのをご存じか? 772 01:20:16,749 --> 01:20:23,088 これは相国寺の塔頭でもある 金閣寺の書院に描かれた障壁画。 773 01:20:23,088 --> 01:20:27,760 この大仕事に まだ無名に近い若冲を抜擢したのも➡ 774 01:20:27,760 --> 01:20:30,560 大典だっただろう。 775 01:20:33,198 --> 01:20:36,835 当時 格式の高い寺の襖を飾るのは➡ 776 01:20:36,835 --> 01:20:41,040 豪華な花鳥画や山水画が 一般的じゃったが➡ 777 01:20:41,040 --> 01:20:44,376 若冲は 野生の山葡萄や実芭蕉➡ 778 01:20:44,376 --> 01:20:48,547 つまり バナナの木を 生き生きと描いてみせた。 779 01:20:48,547 --> 01:20:53,385 描いた若冲も若冲なら 任せた大典も大典。 780 01:20:53,385 --> 01:20:58,257 う~ん いいコンビじゃ。 781 01:20:58,257 --> 01:21:02,757 ええ川風やな。 ホンマに。 782 01:21:06,098 --> 01:21:08,233 大仕事を終え 舟旅で➡ 783 01:21:08,233 --> 01:21:13,739 更なる友情を深めた2人の その後はというと…。 784 01:21:13,739 --> 01:21:16,241 この舟旅で 2人の合作➡ 785 01:21:16,241 --> 01:21:20,746 まあ 今風に言えば コラボレーション作品を作った。 786 01:21:20,746 --> 01:21:24,616 極彩色の「動植綵絵」を完成させた後➡ 787 01:21:24,616 --> 01:21:30,456 若冲が挑戦したのは 白と黒の美 版画巻じゃった。 788 01:21:30,456 --> 01:21:35,194 全長11メートルの 昼の気ままな淀川下り。 789 01:21:35,194 --> 01:21:39,832 京都・伏見を出発し 大坂・天満橋へ向かう道中➡ 790 01:21:39,832 --> 01:21:43,202 目の前に広がる のんびりした光景を➡ 791 01:21:43,202 --> 01:21:48,402 若冲が描いた絵に大典が漢詩を合わせた。 792 01:21:51,076 --> 01:21:55,380 巻末には 若冲と大典2人の落款が➡ 793 01:21:55,380 --> 01:21:58,717 仲よく並んでいる。 794 01:21:58,717 --> 01:22:04,223 人間 長く生きていれば つらい目にも遭う。 795 01:22:04,223 --> 01:22:12,097 1788年 天明の大火が京の都を焼き尽くした。 796 01:22:12,097 --> 01:22:15,734 実家が裕福な青物問屋だった若冲も➡ 797 01:22:15,734 --> 01:22:21,540 自宅や画材 多くの作品を失ってしまう。 798 01:22:21,540 --> 01:22:25,840 その後 若冲が描いたのは こんな絵だ。 799 01:22:30,582 --> 01:22:34,553 7人の布袋様が ニコニコ ほほ笑みながら➡ 800 01:22:34,553 --> 01:22:39,024 歩み寄ってくる。 801 01:22:39,024 --> 01:22:44,897 今は苦しく悲しいが 幸せは ついそこまで来ている。 802 01:22:44,897 --> 01:22:48,700 そのメッセージは自分を励ますものか➡ 803 01:22:48,700 --> 01:22:55,000 はたまた 罹災した 京の民衆に向けたものだったのか…。 804 01:22:59,044 --> 01:23:03,849 その後も精力的に創作し続けた若冲。 805 01:23:03,849 --> 01:23:08,049 しかし 最後の作品となるのが…。 806 01:23:10,055 --> 01:23:15,055 この荒々しい水墨画「鷲図」じゃ。 807 01:23:17,396 --> 01:23:24,169 落款には 数え年で 「若冲八十五歳」とある。 808 01:23:24,169 --> 01:23:29,469 不思議な波頭の上に 雪に覆われた岩壁。 809 01:23:31,810 --> 01:23:37,015 爪を立て 落ちないように佇む鷲が 向こう側へ➡ 810 01:23:37,015 --> 01:23:40,515 今にも飛び立とうとしておる。 811 01:23:46,358 --> 01:23:54,358 1800年 八十五歳の若冲は あの世へと飛び立った。 812 01:23:57,369 --> 01:24:02,040 その5か月後 亡き若冲の誕生日の日。 813 01:24:02,040 --> 01:24:10,340 生涯の盟友 大典顕常も 若冲のあとを追って飛び立った。 814 01:24:16,221 --> 01:24:20,058 若冲の死から今年で221年。 815 01:24:20,058 --> 01:24:22,961 彼が生まれ育った錦市場は➡ 816 01:24:22,961 --> 01:24:25,931 今なお にぎわいを 見せている。 817 01:24:25,931 --> 01:24:30,235 錦市場有数の青物問屋の主人から➡ 818 01:24:30,235 --> 01:24:35,007 天才絵師へと覚醒していった伊藤若冲。 819 01:24:35,007 --> 01:24:37,809 多くの人でにぎわう この雑踏が➡ 820 01:24:37,809 --> 01:24:44,109 案外 あの男の息吹を 一番感じられる場所かもしれん。 821 01:24:52,024 --> 01:24:55,527 閉店後 延々と続くシャッターには➡ 822 01:24:55,527 --> 01:25:00,832 若冲に思いを寄せる NPOや美術館の協力の下➡ 823 01:25:00,832 --> 01:25:05,537 若冲の作品が印刷されておる。 824 01:25:05,537 --> 01:25:11,209 さながら 入場無料のナイトミュージアムよ。 825 01:25:11,209 --> 01:25:15,009 一度 足を運んでみては いかがかな? 826 01:25:40,155 --> 01:25:42,240 ≫こんばんは。 827 01:25:42,240 --> 01:25:44,326 8時45分になりました。 828 01:25:44,326 --> 01:25:46,361 ニュースをお伝えします。 829 01:25:46,361 --> 01:25:48,397 新型コロナウイルス、 830 01:25:55,454 --> 01:25:59,358 東京都内では新たに814人の 74022

Can't find what you're looking for?
Get subtitles in any language from opensubtitles.com, and translate them here.